グループ通算制度の基本構造|個別申告方式・損益通算・遮断措置・地方税との違いを実務目線で整理

グループ会社を複数抱える会社にとって、法人税は必ずしも「各社ごとの申告」だけで完結するわけではありません。

親会社は黒字だが、子会社は先行投資でまだ赤字が続いている。ある子会社は安定して利益を出しているのに、別の子会社は新規事業で欠損を抱えている。グループ全体で見ればそれほど利益が出ていないのに、黒字会社だけが法人税を負担している。あるいは、将来に向けて子会社の売却や再編、承継を見据えてグループ構造を整えようとしている。

こうした場面で検討の対象になるのが、グループ通算制度です。

ただし、この制度を「黒字会社と赤字会社を合算して税金を安くする仕組み」と単純に理解してしまうと、思わぬ落とし穴があります。制度の中心には、各法人が個別に申告する仕組み、損益通算、欠損金の通算、修正・更正時の遮断措置、開始・加入・離脱時の時価評価や欠損金制限、そして地方税との違いがあります。

本記事では、プロラタ計算や欠損金配賦といった細かな技術論には深入りせず、グループ通算制度を検討する前に押さえておきたい基本構造を整理していきます。

目次

グループ通算制度は「グループ全体で1つの申告書を作る制度」ではない

はじめに、ひとつ誤解を解いておく必要があります。

グループ通算制度は、企業グループをまとめて1つの納税者として申告する制度ではありません。現在の制度は、通算グループ内の各法人をそれぞれ納税単位とし、各法人が個別に法人税額を計算し、個別に申告・納付することを前提としています。そのうえで、損益通算などの調整を行う制度です。

国税庁も、グループ通算制度を、完全支配関係にある企業グループ内の各法人を納税単位として、各法人が個別に法人税額の計算および申告を行い、そのなかで損益通算等の調整を行う制度と説明しています。もともとの連結納税制度は令和2年改正で見直され、グループ通算制度は令和4年4月1日以後に開始する事業年度から適用されています。(出典:国税庁|No.5900 グループ通算制度の概要出典:国税庁|グループ通算制度に関するQ&A

この点が、旧連結納税制度との大きな違いです。

旧連結納税制度では、連結グループ全体をひとつの納税単位として捉える色彩が強く、連結所得や連結税額を一体として計算する仕組みでした。これに対してグループ通算制度では、各法人の申告単位を残したまま、グループ内の所得・欠損について一定の調整を行います。

つまり、グループ通算制度の実際の姿は、次のように整理できます。

誤解されやすい理解実際の基本構造
グループ全体で1つの申告書を出す制度各法人が個別に申告・納付する制度
赤字と黒字を単純に合算する制度所得法人・欠損法人の間で一定の損益通算を行う制度
親会社だけが申告すればよい制度通算親法人・通算子法人それぞれに申告義務がある制度
法人税も地方税も同じように通算される制度地方税では取扱いが異なる制度
税負担を軽くするためだけの制度将来の再編、M&A、欠損金、税効果会計にも影響する制度

「各法人は個別申告を続けるが、一定の通算調整を行う」というこの構造を理解しないまま制度を検討すると、申告実務、地方税、会計処理、子会社売却時の税務影響を、いずれも見誤ることになります。

グループ法人税制とグループ通算制度は別の制度である

前回の記事で整理したグループ法人税制と、今回のグループ通算制度は、名前こそ似ていますが、担っている役割が異なります。

グループ法人税制は、完全支配関係にある法人間で資産譲渡、寄附、配当、現物分配などを行った場合に、譲渡損益調整、寄附金・受贈益、受取配当等の取扱いが問題になる制度です。グループ通算制度を採用しているかどうかにかかわらず、100%グループ内の取引があれば、検討が必要になります。

一方、グループ通算制度は、一定の完全支配関係にある法人グループが、国税庁長官の承認を受けて、各法人を納税単位としながら損益通算などを行う制度です。

したがって、グループ通算制度を適用しているからといって、グループ法人税制の確認が不要になるわけではありません。たとえば、通算グループ内で不動産や子会社株式を移すような場合には、損益通算とはまた別に、完全支配関係法人間の譲渡損益調整や寄附金・受贈益の論点を確認しておく必要があります。

グループ通算制度は、グループ法人税制を上書きする制度ではありません。むしろ、グループ税務をさらに複雑にする制度だと考えておいたほうが、実務上は安全です。実際の運用でも、個別申告方式、プロラタ計算、遮断措置、開始・加入時の時価評価、地方税への非適用を、それぞれ分けて管理する整理が重要になります。

通算親法人・通算子法人とは何か

グループ通算制度では、グループの中心となる法人を通算親法人といい、その通算親法人との間に一定の完全支配関係がある法人を通算子法人といいます。

国税庁の説明によれば、適用対象となるのは、親法人と、その親法人による完全支配関係がある子法人に限られます。親法人になれるのは、内国法人である普通法人または協同組合等のうち、清算中の法人、他の普通法人等に完全支配されている法人、一定期間内に通算制度の取りやめ承認を受けた法人、青色申告取消し後一定期間内の法人、投資法人・特定目的会社等に該当しない法人など、一定の要件を満たす法人に限定されています。子法人についても、親法人による完全支配関係がある他の内国法人のうち、一定の除外法人以外の法人とされています。(出典:国税庁|No.5900 グループ通算制度の概要

ここで実務上とりわけ重要なのは、これが「使いたい会社だけを選んで通算する」制度ではない、という点です。

親法人との間に完全支配関係がある子法人のうち、制度上除外される法人を除いて、原則として対象法人を一体として制度に乗せる必要があります。黒字会社だけ、赤字会社だけ、都合のよい会社だけを選べる制度ではありません。

そのため、制度検討の入口では、次の確認が欠かせません。

確認項目実務上の意味
親法人になれる法人か他法人に100%支配されていないか、清算中でないか、青色申告の状態に問題がないか
子法人に該当する法人はどこまでか直接保有だけでなく、間接保有を含めた100%関係を確認する
除外法人がないか外国法人、一定の投資法人、清算中法人、一定期間内の再加入制限法人などを確認する
決算期は揃っているか通算親法人と子法人の事業年度管理に影響する
将来売却・再編予定の子会社がないか加入後の離脱、投資簿価修正、時価評価等に影響する
過去の青色申告・届出・税務調査履歴に問題がないか承認申請や制度運用に影響する

とりわけ、M&Aで取得した子会社、事業承継対策で設立した持株会社、過去に清算・再編を予定していた会社などがある場合には、形式的な資本関係図だけでは判断しきれないことがあります。

グループ通算制度を開始するには承認申請が必要

グループ通算制度は、完全支配関係があれば自動的に適用される制度ではありません。

適用を受けようとする場合には、親法人と、その親法人との間に完全支配関係があるすべての子法人が、国税庁長官の承認を受ける必要があります。原則として、制度の適用を受けようとする最初の事業年度開始の日の3か月前の日までに、親法人および子法人のすべての連名で承認申請書を作成し、親法人の納税地の所轄税務署長を経由して国税庁長官に提出しなければなりません。(出典:国税庁|No.5900 グループ通算制度の概要

この期限管理は、単なる事務手続にとどまりません。

制度適用を予定していながら申請期限を過ぎてしまえば、その事業年度から制度は使えません。逆に、十分な検討をしないまま申請すると、後から「やはりやめたい」と思っても、単に税負担が軽減される、あるいは重くなるという理由だけで任意に取りやめられる制度ではありません。

国税庁も、通算制度の取りやめについては、やむを得ない事情があるときに国税庁長官の承認を受けて適用をやめられるとしており、単に税負担が軽減されるといった理由で適用を受けないこととする場合はこれに該当しない、と説明しています。(出典:国税庁|No.5900 グループ通算制度の概要

したがって、制度開始前には、少なくとも3か月前の段階で「申請するかどうか」を決めるのでは遅く、そのさらに前の段階で、次のような検討を終えておく必要があります。

  • どの法人が通算グループに入るか
  • 過年度欠損金の扱いはどうなるか
  • 開始時・加入時に時価評価が必要な法人があるか
  • 地方税ではどの程度の効果差が出るか
  • 通算税効果額の社内精算をどう行うか
  • 子会社売却や再編の予定がないか
  • 会計上の税効果会計にどう影響するか
  • 申告体制、レビュー体制、資料収集体制を維持できるか

問われるのは「申請期限に間に合うか」ではなく、「申請するに足る判断材料が揃っているか」です。

個別申告方式とは何か

グループ通算制度の実務を理解するうえで、個別申告方式は中核をなす考え方です。

通算制度では、各通算法人がそれぞれ確定申告を行います。国税庁のQ&Aでも、通算制度においては、適用を受ける通算グループ内の各通算法人を納税単位として、通算制度を適用しない法人と同様に、各通算法人が法人税額の計算および申告を行う必要があるとされています。また、資本金の額等にかかわらず、通算法人はe-Taxによって納税申告書を提出しなければなりません。(出典:国税庁|各通算法人の確定申告

つまり、通算制度を使っても、子会社の申告責任がなくなるわけではないのです。

もっとも、通算親法人が、通算子法人の法人税の申告に関する事項の処理として、一定の電子署名を用いて申告書記載事項等をe-Taxで提供した場合には、その通算子法人がe-Taxにより申告を行ったものとみなされる仕組みがあります。これは申告作業を集約できる面を持ちますが、だからといって、子法人の申告内容の正確性、資料の網羅性、承認手続、電子委任状、担当範囲の明確化までが不要になるわけではありません。(出典:国税庁|通算子法人の法人税の申告書記載事項等の提供を行う者について

実務上は、次のような役割分担を、あらかじめ明確にしておく必要があります。

役割実務上決めるべきこと
通算親法人グループ全体の計算方針、スケジュール、通算税効果額、申告取りまとめ
通算子法人自社の決算数値、税務調整、別表情報、資料提出、照会対応
顧問税理士・専門家制度適用判定、申告レビュー、通算計算、税務リスク整理
経理部門各社の月次・決算数値の締め、申告資料の収集、内部精算管理
経営陣制度採用、グループ再編、子会社売却、資金移動に関する意思決定

「親会社の経理部がまとめてやればよい」という感覚だけでは、実務は回りません。各社の申告はそれぞれ個別に成立し、しかも各社の数値がグループ全体の通算計算に影響します。

損益通算の基本構造

グループ通算制度の大きな効果は、通算グループ内に所得法人と欠損法人がある場合に、一定の損益通算ができる点にあります。

国税庁は、損益通算について、通算グループ内の欠損法人の欠損金額の合計額が、所得法人の所得金額の比で配分され、その配分された通算対象欠損金額が所得法人の損金の額に算入されると説明しています。あわせて、所得法人で損金算入された金額と同額の所得金額が、欠損法人の欠損金額の比で配分され、欠損法人の益金の額に算入されます。(出典:国税庁|No.5900 グループ通算制度の概要出典:国税庁|通算制度の当初申告における損益通算の計算

少し噛み砕くと、次のような構造です。

たとえば、通算前の所得・欠損が次のようになっていたとします。

法人通算前所得・欠損
親会社P社800
子会社A社400
子会社B社▲600
合計600

この場合、グループ全体では600の所得があります。B社の欠損600は、P社とA社の所得に一定の比率で配分され、P社・A社では損金算入、B社では益金算入という調整が行われます。

この処理によって、P社とA社だけを見た場合の課税所得は減少します。一方で、B社側では欠損金がそのまま残るわけではありません。欠損法人側でも通算対象所得金額が益金算入されるため、グループ全体として整合するように設計されています。

ここで押さえておきたいのは、損益通算は「赤字会社の欠損金を自由に黒字会社へ移せる制度」ではない、という点です。

どの法人にどれだけの金額が配分されるかは、一定の計算ルールに従って決まります。経営者が任意に「今年は親会社に多く使う」「この子会社には残しておく」と決められるものではありません。

そのため、制度の効果を試算するときは、単にグループ全体の黒字・赤字を眺めるだけでは足りません。各社の所得見込み、欠損見込み、繰越欠損金、将来利益、税額控除、地方税、内部精算まで含めて試算する必要があります。

遮断措置は「他社に影響させない」ための仕組みだが、申告ミスを軽くする制度ではない

グループ通算制度の特徴のひとつに、遮断措置があります。

旧連結納税制度では、グループ内の1社に修正・更正の事由が生じると、その影響がグループ全体の計算に波及し、他社の税額まで再計算が必要になることがありました。これに対しグループ通算制度では、後発的に修正・更正の事由が生じても、原則として他の法人の税額計算には反映させない仕組みが採用されています。

国税庁も、グループ通算制度では、後発的に修更正事由が生じた場合、原則として他の法人の税額計算に反映させない遮断措置の仕組みがあると説明しています。損益通算についても、通算前所得金額および通算前欠損金額を当初申告額に固定することで、原則として修更正事由が生じた通算法人以外への影響を遮断し、その通算法人の申告のみが是正されるとされています。(出典:国税庁|No.5900 グループ通算制度の概要

ただし、この遮断措置を「間違えても他社に迷惑をかけない制度」と受け止めてしまうのは危険です。

まず、一定の場合には遮断措置が適用されず、通算グループ全体で再計算されることがあります。また、遮断措置があるとしても、誤りが生じた法人自身には、修正申告、更正、追加納税、延滞税、加算税、税務調査対応が生じ得ます。

さらに、税務上の修正が他社に波及しないとしても、経営管理上の影響は残ります。

たとえば、通算税効果額の社内精算を行っていた場合、過年度の社内精算をどう扱うかが問題になります。子会社の利益見通しや、繰延税金資産の回収可能性に影響することもあります。M&Aのデューデリジェンスでは、遮断措置の有無とは別に、過去申告の誤りそのものが税務リスクとして確認されます。

遮断措置は、制度運用上の事務負担を軽くするための仕組みであって、申告品質の低下を許すための仕組みではありません。

地方法人税には影響するが、法人住民税・法人事業税は別管理が必要

グループ通算制度を検討するうえで、非常に重要になるのが地方税との違いです。

法人税だけを見れば損益通算による効果があるように見えても、法人住民税や法人事業税では、同じ効果がそのまま出るとは限りません。

東京都主税局の資料では、グループ通算制度を、完全支配関係にある企業グループ内の各法人を納税単位として、各法人が個別に法人税額を計算・申告しつつ、グループ企業内で損益通算等の調整ができる制度と説明しています。一方、法人事業税・法人都民税については、地域における受益と負担の関係等に配慮し、従前と同様に個々の法人を納税単位とし、法人税のグループ通算制度の影響を遮断して、実質的な負担を通算法人以外の法人と同様にするための制度になっているとされています。(出典:東京都主税局|通算法人の法人事業税 法人都民税の概要

つまり、法人税上は損益通算できても、地方税では次のような違いが生じます。

税目グループ通算制度との関係実務上の注意点
法人税グループ通算制度の中心損益通算、欠損金通算、遮断措置、開始・加入・離脱時の調整が問題になる
地方法人税法人税額を基礎にするため通算制度の影響を受ける法人税と合わせて管理する
法人住民税法人税額を基礎にするが、地方税上の調整が必要通算制度の影響をそのまま反映しない調整が必要
法人事業税個々の法人を納税単位として計算損益通算前の所得、外形標準課税、各社ごとの繰越欠損金管理が重要

このため、制度導入の試算では、法人税だけでなく、地方法人税、法人住民税、法人事業税、外形標準課税、均等割まで含めて見ておく必要があります。

「法人税が減るから導入する」という判断だけでは、資金繰り上の実感とズレてしまうことがあります。法人税では効果が出ても、地方税では想定ほど負担が減らない、あるいは各社ごとの納付資金の管理がかえって複雑になる、といったことが起こり得るためです。

税額控除や中小企業税制にも影響する

グループ通算制度では、損益通算だけでなく、税額控除や中小企業向け特例の適用にも注意が必要です。

国税庁は、通算法人が外国税額控除制度や研究開発税制などの各個別制度の適用を受ける場合には、所要の調整が必要であると説明しています。(出典:国税庁|No.5900 グループ通算制度の概要

とくに、研究開発税制や外国税額控除は、グループ全体で計算する項目があるため、単体法人の申告とは異なる管理が求められます。どの法人で試験研究費が発生しているか、どの法人で外国税額控除が生じているか、どの法人に所得があるか——これらによって、控除可能額や実効税負担が変わってきます。

また、令和7年度税制改正では、中小法人等の軽減税率の特例について、適用期限を令和8年度末まで2年延長する一方で、所得10億円超の中小法人等には17%の税率を適用し、グループ通算制度の適用を受けている法人を特例税率の対象法人から除く、という見直しが示されています。(出典:財務省|令和7年度税制改正

このように、グループ通算制度は、税率、税額控除、中小企業向け特例の適用判定にも影響します。

中小企業グループの場合、「うちは中小法人だから」と単体時代の感覚で判断するのではなく、通算グループ全体で見た判定、他の通算法人の状況、適用除外事業者や通算適用除外事業者の有無まで確認しておく必要があります。

開始・加入・離脱時に見えにくいリスクがある

グループ通算制度は、制度を開始する年度だけでなく、その後の加入・離脱の際にも、大きな税務影響があります。

国税庁は、グループ通算制度の所得計算において、損益通算や欠損金の通算のほか、時価評価課税、欠損金の切捨て、外国税額控除、研究開発税制などの調整が必要であると説明しています。(出典:国税庁|No.5900 グループ通算制度の概要

このうち、開始・加入・離脱時の論点は、制度検討の段階で見落とされやすい部分です。

たとえば、グループ通算制度を開始するとき、一定の法人では時価評価課税が問題になります。含み益のある資産を持つ法人があれば、制度開始時に思わぬ課税が生じる可能性があります。反対に、繰越欠損金を持つ法人がある場合には、その欠損金をどこまで持ち込めるのか、どこで切り捨てられるのか、特定欠損金として自社所得にしか使えないのかを、あらかじめ確認しておく必要があります。

さらに、制度開始後に子会社を売却する、清算する、合併する、持株会社体制を変更するといった場合には、離脱時の時価評価、投資簿価修正、みなし事業年度、欠損金、過去の通算税効果額の精算が、いずれも問題になります。

つまり、グループ通算制度は「今年の税金を減らすかどうか」だけで選ぶ制度ではないということです。今後数年の事業計画、子会社再編、M&A、事業承継、撤退予定まで含めて判断する必要があります。

通算税効果額の社内精算をどう扱うか

グループ通算制度では、損益通算などによって、ある法人の税負担が減り、別の法人の欠損が利用されるような効果が生じます。そこで実務上問題になるのが、通算税効果額の社内精算です。

たとえば、赤字子会社の欠損を利用して親会社の法人税が減った場合、親会社はその税負担軽減額に相当する金額を子会社に支払うのか。それとも、グループ全体の資金管理として精算しないのか。精算するのであれば、どの法人を通じて、いつ、どの計算方法で、どの勘定科目で処理するのか。

この点は、税務上の計算だけでなく、会計処理、資金移動、少数株主がいる場合の説明、金融機関への説明、グループ内契約にまで関わってきます。

ASBJの実務対応報告第42号は、グループ通算制度を適用する場合における法人税および地方法人税、ならびに税効果会計の会計処理・開示の取扱いを明らかにすることを目的とし、通算税効果額の授受を行うことを前提としています。(出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第42号 グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い

実務上も、通算税効果額の授受、計算対象、計算方法、精算方法、通知方法、精算時期を、社内規定や契約であらかじめ明文化しておくことが重要です。とくに、通算親法人が計算し、通算子法人に通知し、確定申告書の提出期限までに精算するような運用を採る場合には、規程・覚書・取締役会承認・会計処理の整合性が求められます。

ここを曖昧なままにしておくと、次のような問題が起きます。

  • 子会社側で、税効果額を受け取れるのかどうか分からない
  • 親会社側で、支払義務があるのかどうか分からない
  • 会計上、未収入金・未払金を計上すべきか判断できない
  • 税務調査で、グループ内の資金移動の根拠を説明できない
  • M&A時に、過年度の内部精算未了が発見される
  • 少数株主や金融機関に対して、税負担配分の説明が難しくなる

グループ通算制度を導入するのであれば、法人税申告書だけでなく、グループ内の税金精算ルールまで整備しておく必要があります。

グループ通算制度の導入効果は「税額」だけで判断しない

グループ通算制度の導入を検討するとき、多くの会社が最初に目を向けるのは税額効果です。

もちろん、黒字会社と赤字会社が混在しているグループでは、損益通算による法人税・地方法人税の負担軽減効果が生じる可能性があります。とくに、新規事業会社、研究開発会社、投資先行型の子会社があるグループでは、単体申告のままでは欠損金が眠ってしまうことがあります。

しかし、制度採用の判断は、税額だけでは足りません。

見るべきなのは、少なくとも次の5つです。

第一に、資金繰りです。
法人税の支払時期、各社の税負担、通算税効果額の内部精算、子会社への資金移動を、あわせて確認する必要があります。

第二に、将来利益です。
いま赤字の子会社が、将来黒字化する見込みがあるのか。欠損金を単体で使える可能性があるのか。いま使うことが本当に合理的なのかを検討します。

第三に、グループ再編です。
子会社売却、合併、分割、清算、持株会社化の予定がある場合、制度開始・加入・離脱時の時価評価や欠損金制限が、将来の選択肢に影響します。

第四に、会計・税効果会計です。
繰延税金資産の回収可能性は、単体の将来所得だけでなく、通算グループ全体の所得や、特定欠損金・非特定欠損金の区分にも影響を受けます。税効果会計では、税金の種類ごとに回収可能性の判断が異なるため、単体納税よりも複雑になります。

第五に、申告体制です。
各社の決算が遅れる、税務調整が未整理、資料提出が不十分、子会社側に税務担当者がいない——こうした状態では、通算制度の申告品質を維持することが難しくなります。

制度導入の判断は、税額試算というよりも、グループ経営管理の設計そのものだと言えます。

導入前に整理すべき資料

グループ通算制度を検討する際には、制度適用の可否や有利不利を判断する前に、まず資料の整理が必要です。

少なくとも、次の資料は早い段階で揃えておくべきです。

  • グループ資本関係図
  • 各社の株主名簿
  • 各社の定款、登記事項証明書
  • 各社の直近3〜5期分の決算書
  • 各社の法人税申告書、別表四・五(一)・七・六・八等
  • 繰越欠損金の明細
  • 税額控除の適用履歴
  • 固定資産台帳、有価証券明細、含み損益資料
  • 関係会社間取引の一覧
  • 配当、寄附、債権放棄、資産移転の履歴
  • 税務調査履歴
  • 今後の事業計画、利益計画、資金繰り計画
  • 子会社売却、清算、再編、承継の予定
  • 通算税効果額の精算方針案
  • 地方税申告の管理状況

これらの資料がないまま制度の有利不利を判断すると、後から重要な前提が変わってしまうことがあります。

たとえば、単純な税額試算では有利に見えても、開始時に時価評価課税が生じる、持ち込めない欠損金がある、地方税では効果が限定される、子会社売却時に投資簿価修正が問題になる——こうした事情が後から判明することがあります。

専門家に相談すべきタイミング

グループ通算制度は、決算後に「今年から使えますか」と相談するような制度ではありません。

実務上は、次のような場面で、早めに相談しておく必要があります。

  • 黒字会社と赤字会社がグループ内に混在している
  • 新規事業子会社、研究開発子会社、投資先行子会社がある
  • 親会社に繰越欠損金がある
  • 子会社に多額の繰越欠損金がある
  • 持株会社化を検討している
  • 子会社売却やM&Aを数年以内に検討している
  • 不採算子会社の整理、清算、合併を考えている
  • グループ内で大きな設備投資や税額控除を予定している
  • 地方税や外形標準課税まで含めた税負担を把握したい
  • 税効果会計や繰延税金資産の回収可能性が問題になっている
  • 親会社経理部が子会社の申告資料を十分に管理できていない

相談のタイミングは、承認申請期限の直前では遅いことがあります。制度開始年度の前期中、少なくとも事業計画や決算見込みが固まり始める段階で、制度適用の可否、税額効果、地方税への影響、開始・加入・離脱のリスク、社内精算の方法までを検討しておくことが望まれます。

グループ通算制度の検討をご相談ください

グループ通算制度は、法人税負担を最適化する可能性を持つ一方で、制度開始後の申告体制、地方税、欠損金、時価評価、税額控除、内部精算、そして将来のM&A・組織再編にまで影響する制度です。

「黒字会社と赤字会社があるから有利」といった単純な判断ではなく、各社の所得構造、欠損金、資産内容、税額控除、地方税、将来のグループ戦略まで含めて検討する必要があります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、グループ会社を有する中小・中堅企業について、グループ法人税制、グループ通算制度、関係会社間取引、税効果会計、そしてM&A・組織再編を見据えた法人税務の整理を支援しています。

グループ通算制度の導入可否を検討したい場合、すでに通算制度を適用しているものの申告体制や内部精算に不安がある場合、あるいは将来の再編・M&Aに備えてグループ税務を見直したい場合は、お問い合わせページよりご相談ください。

振り返り:グループ通算制度の基本構造

論点重要ポイント実務上の確認事項
制度の性格各法人を納税単位とし、個別申告を行いながら損益通算等を行う制度旧連結納税制度のようにグループ全体で1つの申告書を作る制度ではない
通算親法人通算グループの中心となる法人親法人になれる法人か、他法人に完全支配されていないか
通算子法人通算親法人に完全支配される一定の内国法人対象法人を任意に選べるわけではない
承認申請適用開始には国税庁長官の承認が必要原則として適用開始事業年度の3か月前までに申請
個別申告方式各通算法人が個別に法人税額を計算・申告するe-Tax、電子署名、親法人による申告情報提供の体制を確認
損益通算欠損法人の欠損金額を所得法人に一定割合で配分任意配分ではなく、計算ルールに従う
遮断措置修正・更正事由が生じても、原則として他法人に影響させない例外や自社の修正申告・附帯税リスクは残る
地方税法人住民税・法人事業税では国税と異なる取扱い法人税だけでなく地方税・外形標準課税まで試算
税額控除研究開発税制・外国税額控除などで調整が必要グループ全体計算と個社計算を区別
開始・加入・離脱時価評価、欠損金切捨て、みなし事業年度が問題になる将来の子会社売却・清算・再編予定を確認
通算税効果額税負担軽減効果を社内でどう精算するかが問題規程、契約、会計処理、精算時期を整備
導入判断税額だけでなく経営・会計・将来戦略まで見る事業計画、資金繰り、M&A、承継への影響を含めて判断
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