経営計画を立てるとき、多くの会社は売上目標や利益目標から考え始めます。
「来期は売上を伸ばしたい」 「利益率を改善したい」 「借入を減らしたい」 「新規事業を進めたい」 「設備投資や採用に踏み切りたい」
こうした目標そのものは、もちろん大切です。ただ、自社の現在地を正しくつかまないまま目標だけを掲げてしまうと、計画は次第に希望や掛け声に近いものになっていきます。
経営計画の出発点は、将来の数字ではありません。まず、自社の現状を正しく見ることです。
ここでいう現状分析とは、会社の粗探しをする作業ではありません。収益力、資金余力、財務体質、商流、顧客構造、業務フロー、組織、人材、外部環境、そしてリスク。これらを丁寧に整理し、「何が強みで、何が弱みで、どこに経営課題があるのか」を見える化していく作業です。
この現状分析が浅いままだと、経営計画の数値も、主要施策も、行動計画も、金融機関への説明も、どうしても弱くなってしまいます。逆に、現状分析がしっかりできていれば、計画は単なる目標表ではなく、経営判断を支える前提として機能します。
なお、本記事が想定しているのは、一般的な中小・中堅企業です。医療機関や医療法人に固有の制度、税務、規制、経営管理上の論点については、ここでは扱いません。
現状分析は「何が悪いか」を探す作業ではない
現状分析というと、問題点を洗い出す作業だと受け取られがちです。
たしかに、赤字や不採算取引、資金繰りの悪化、在庫過多、借入過多、経理の遅れ、業務の属人化、内部統制の不備など、改善すべき課題を明らかにすることは欠かせません。
ただ、それだけでは現状分析として十分とはいえません。
経営判断に使う現状分析では、問題点と同じくらい、これから会社が使える強みも整理していきます。どの顧客に選ばれているのか。どの商品・サービスが利益を生んでいるのか。どの社員や部門が会社の価値を支えているのか。どの取引先との関係が競争力につながっているのか。どの資産やノウハウが、将来の成長に活かせるのか。
課題ばかりに目を向ければ、経営はどうしても縮小均衡に向かいやすくなります。反対に、強みばかりを見ていると、足元のリスクを見落としかねません。
大切なのは、会社の状態を良い面と悪い面の両方から見たうえで、次の判断に使える形へ整理することです。
経営計画では、経営理念、経営ビジョン、外部環境分析、内部環境分析、経営目標、経営方針、目標利益計画、主要施策、行動計画が、一本の線でつながっている必要があります。なかでも外部環境と内部環境は、経営目標を支える前提となる項目です。
現状分析をしない経営計画が危うい理由
現状分析を欠いた経営計画は、見た目がどれだけ整っていても、実行の段階で崩れやすくなります。
売上目標はあるが、どの顧客層で伸ばすのかが見えていない。 利益目標はあるが、粗利率が下がっている原因をつかんでいない。 資金計画はあるが、売掛金・在庫・借入返済の負担を見ていない。 設備投資計画はあるが、投資後の固定費や回収の見込みを検証していない。 採用計画はあるが、組織の役割分担や管理体制が整っていない。 金融機関向けの計画はあるが、自社の事業内容や改善策を説明できない。
こうした計画は、数字だけを先に置いて、実態が後からついてくることを期待している状態だといえます。
経営計画は、いわば会社運営の設計図です。社長一人が理解していればよいものではなく、社員にも、金融機関にも、取引先にも、経営の意思が伝わってこそ意味を持ちます。経営計画には、自社を取り巻く外部環境と内部環境のなかで、なぜその計画が必要なのかを整理する役割もあります。
だからこそ、計画を作る前に、まず次の問いに答えておく必要があります。
自社はいま、どこで稼いでいるのか。 どこで資金を使っているのか。 どの事業・顧客・商品が利益に貢献しているのか。 どの固定費が、将来の負担になりそうなのか。 どの業務が属人化しているのか。 外部環境のどの変化が、自社に機会あるいは脅威をもたらすのか。 どの課題から着手すれば、利益・資金・成長可能性に最も効くのか。
これらの問いに答えていく作業こそが、現状分析です。
現状分析で見るべき全体像
現状分析は、財務指標を眺めるだけでは足りません。
財務の数字を見ることはもちろん重要です。ただ、数字には必ず背景があります。売上が落ちている原因は、営業力だけにあるとは限りません。市場の縮小、価格競争、顧客構成の変化、納期の遅れ、品質の問題、在庫不足、採用難、設備の老朽化など、さまざまな要因が考えられます。
逆に、社内から見れば好調に思える事業でも、数字をたどると利益率が下がっていたり、売掛金が膨らんでいたり、運転資金を圧迫していたりすることがあります。
そこで現状分析では、少なくとも次の4つを一体として見ていきます。
| 分析領域 | 主な確認事項 |
|---|---|
| 財務 | 売上、粗利、営業利益、固定費、借入、自己資本、運転資金、資金繰り |
| 事業 | 商流、顧客構成、商品・サービス、取引条件、価格、原価、競争優位 |
| 組織・業務 | 人材、役割分担、経理体制、業務フロー、内部管理、属人化、情報共有 |
| 外部環境 | 市場、顧客ニーズ、競合、仕入先、金融環境、制度変更、技術変化 |
経済産業省が提供するローカルベンチマークは、企業の経営状態をつかむための「企業の健康診断」と位置づけられ、財務面と非財務面の両方から現状把握や経営分析に活用できる公的ツールです。企業にとっては自社の経営の現状把握や経営分析に、支援機関にとっては事業性評価・事業計画策定・事業承継・補助金申請などに役立てられるとされています。
ここで大切なのは、こうしたフレームワークを形式的に埋めることではありません。数字と事実を結びつけ、経営課題を自分の言葉で説明できる状態にすることです。
財務分析では「利益が出ているか」だけを見ない
現状分析の中心にあるのは、やはり財務分析です。
ただし、財務分析を「利益が出ているかどうか」だけで終わらせるのは禁物です。中小・中堅企業の経営判断では、損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー、資金繰りを合わせて見る必要があります。
損益計算書では、本業できちんと利益を出せているかを確認します。 貸借対照表では、資産・負債・自己資本の状態を確認します。 キャッシュフローや資金繰りでは、その利益が現金として手元に残っているかを確認します。
財務諸表は、企業の経営成績や財政状態、資金の流れをつかむための大切な資料です。とはいえ、制度会計上の数字だけで、経営判断に必要な実態がすべて見えるわけではありません。実際、財務デューデリジェンスの現場でも、制度会計上の数字をそのまま受け取るのではなく、正常収益力や貸借対照表の実態にまで踏み込んで分析していきます。
経営課題を見える化するには、次のように分解して見ていくことが欠かせません。
売上は「増減」ではなく「中身」を見る
売上が増えているのか、減っているのか。これはもちろん重要な情報です。けれども、増減を追うだけでは経営課題までは見えてきません。
売上を見るときは、どの顧客に、どの商品・サービスを、どの地域で、どのチャネルから、どの担当者を通じて、どの取引条件で売っているのかまで確認します。
たとえば売上が増えていても、その中身が利益率の低い取引ばかりということもあります。特定の顧客への依存が強まっているかもしれません。回収条件が悪く、資金繰りを圧迫しているかもしれません。目先の売上増の裏で、将来の値下げ圧力や品質リスクを抱え込んでいることさえあります。
売上の分析では、少なくとも次の点を押さえておきたいところです。
| 確認項目 | 見える化したい論点 |
|---|---|
| 顧客別売上 | 特定顧客依存、優良顧客、不採算顧客 |
| 商品・サービス別売上 | 伸ばすべき領域、見直すべき領域 |
| 単価・数量 | 売上増減の本当の要因 |
| 取引条件 | 回収サイト、値引き、返品、契約条件 |
| 季節性 | 月次推移、繁忙期・閑散期、資金繰りへの影響 |
売上は、会社の活動量を映し出す数字です。ただ、経営課題までたどり着くには、その中身まで見ていく必要があります。
利益は「最終利益」ではなく「構造」を見る
利益分析では、最終利益だけを追うのではなく、利益がどの段階で生まれ、どこで失われているのかを確認します。
粗利が下がっているのか。 人件費が増えているのか。 固定費が膨らみすぎているのか。 値引きや原価の高騰が響いているのか。 不採算の取引が、全体の利益を押し下げているのか。 本業以外の営業外損益に振り回されているのか。
経営課題を見える化するには、利益を売上、粗利、固定費、営業利益、経常利益へと分けて確認していきます。必要に応じて、費用を変動費と固定費に分ける変動損益の考え方を取り入れるのも有効です。
月次決算では、すべての費用を、売上の増減に応じて動く変動費と、売上にかかわらず発生する固定費とに分けて表示する変動損益計算書が、経営者が業績をつかむうえで役立ちます。なかでも限界利益率は、売上が増えたときにどれだけ利益が増えやすいかを見るための、大切な視点になります。
売上が増えても利益が残らない会社では、売上を拡大すること自体が経営課題の解決にはつながらないこともあります。むしろ、粗利率、価格、原価、固定費、部門別採算を見直すほうが先決という場合も少なくありません。
利益分析の目的は、「黒字か赤字か」を確認することではありません。会社がどこで稼ぎ、どこで利益を失っているのかを、はっきりさせることにあります。
資金は「残高」ではなく「流れ」を見る
現金が手元にあるから安心、少ないから危険――資金はそう単純には判断できません。
資金を見るときは、入金予定、支払予定、借入返済、税金、賞与、設備投資、在庫、売掛金、買掛金まで含めた「流れ」を確認します。
利益計画だけでは、資金の動きまでは見えません。信用取引では、売上を計上する時期と入金される時期にズレが生じます。そのため、利益は出ていても資金の回収が間に合わず、いわゆる黒字倒産が起こり得ます。だからこそ、利益計画とあわせて資金計画が必要になるのです。
キャッシュフローを見るうえでは、運転資本や設備投資が資金に及ぼす影響も確認しておきたいところです。利益が順調でも、運転資本が増えていたり、多額の設備投資が必要だったりすると、フリーキャッシュフローを生み出す力が弱まることがあります。
資金面の現状分析では、次の点を確認します。
| 確認項目 | 見える化したい論点 |
|---|---|
| 手元資金 | どれだけの資金余力があるか |
| 売掛金 | 回収遅延、取引先別の滞留、資金固定化 |
| 在庫 | 過剰在庫、滞留在庫、資金の寝かせすぎ |
| 買掛金・未払金 | 支払サイト、支払が集中する月、信用リスク |
| 借入返済 | 返済原資、返済負担、追加借入の必要性 |
| 税金・社会保険 | 納付資金の見通し、滞納リスク |
| 設備投資 | 投資時期、回収期間、借入返済との整合性 |
資金分析では、過去の実績だけでなく、今後どのタイミングで資金不足が起こり得るのかを見ておくことが大切です。資金繰り表は、いわば資金ショートを防ぐための警報装置といえます。
事業分析では「なぜ儲かるのか」を説明できるようにする
財務分析だけでは、事業の強みや課題を十分に説明することはできません。
経営課題を見える化するには、自社がどのような商流のなかで、どのように価値を提供し、どこで利益と資金を生んでいるのかを整理する必要があります。
金融機関や外部の関係者に対しても、決算書を差し出すだけでは足りません。自社のビジネスモデル、商流、特殊な事情といった非財務情報をあわせて伝えることで、会社への理解は格段に深まります。月次決算資料に加えて、商流や定性要因、課題と対応策を整理した資料は、金融機関に自社を理解してもらううえでも役立ちます。
事業分析では、次のような問いを整理していきます。
自社は、誰に選ばれているのか。 顧客は、なぜ自社から買ってくれているのか。 競合との違いは、どこにあるのか。 どの商品・サービスが、利益を生んでいるのか。 価格を自社で決められる力はあるのか。 仕入先や外注先に、過度に頼りすぎていないか。 商流のどこに、リスクが潜んでいるのか。 販売から回収までの期間が、長くなりすぎていないか。 受注から納品までの業務フローに、詰まりはないか。
経済産業省のローカルベンチマークでも、財務情報だけでなく、業務フロー、商流、経営者・事業・企業を取り巻く環境・内部管理体制といった非財務面を整理することが重視されています。財務と非財務を合わせて見ることで、経営課題を具体的な対応策へとつなげやすくなります。
事業分析の目的は、立派な事業紹介資料を作ることではありません。利益と資金を生み出す仕組みを、自分の言葉で説明できるようにすることです。
組織・業務分析では「続けられる仕組みか」を見る
中小・中堅企業では、経営課題が必ずしも数字だけに表れるとは限りません。
月次決算が遅い。 請求や入金確認が、特定の人に頼りきりになっている。 在庫管理が、現場任せになっている。 経理担当者にしか分からない処理が多い。 幹部のあいだで、数字の見方がそろっていない。 経営会議が、報告だけで終わっている。 重要な資料が、整理されていない。 事業方針が、経営者の頭の中にしかない。
こうした問題は、短期的には決算書に大きくは表れないかもしれません。しかし、会社が成長するほど、組織や業務の未整備は、経営判断の遅れ、資料の不備、金融機関対応の弱さ、内部不正、そして承継やM&Aの場面でのリスクとなって表面化していきます。
業務フローを把握しておく意義は、内部統制を整えること、全体を最適化すること、専門的・指導的な立場から業務を見直すこと、そして業務フローそのものを構築し直すことにあります。業務全体を俯瞰すると、リスク、重複、非効率、統制の不足といった点が見つけやすくなります。
組織・業務分析では、次の点を確認します。
| 確認項目 | 見える化したい論点 |
|---|---|
| 経理体制 | 月次決算の早さ・正確性、資料回収、チェック体制 |
| 業務フロー | 販売、購買、在庫、経費、給与、固定資産、決算の流れ |
| 権限・承認 | 支払、契約、発注、値引き、与信、投資判断の承認 |
| 人材・組織 | キーパーソン、後継者候補、属人化、幹部育成 |
| 会議体 | 月次レビュー、予実確認、課題管理、意思決定の場 |
| 資料管理 | 契約書、請求書、議事録、申告書控え、金融機関提出資料 |
| 内部統制 | 不正・ミス・情報漏えい・資産流出を防ぐ仕組み |
組織や業務を見ないまま数値計画だけを作ると、計画は実行の段階で止まってしまいます。売上目標を掲げても、営業体制が整っていなければ動きません。資金繰り表を作っても、入金予定や支払予定が集まらなければ更新できません。部門別採算を見ようとしても、会計データの設計が粗ければ、そもそも分析できません。
経営計画は、社長の意思だけでは実行できません。それを実行できるだけの、組織と業務の状態まで見ておく必要があります。
外部環境分析では「一般論」ではなく「自社への影響」を見る
外部環境分析でありがちなのが、市場動向や景気の説明だけで終わってしまうことです。
原材料の価格が上がっている。 人手不足が続いている。 金利が動いている。 競争が激しくなっている。 顧客のニーズが変わってきている。 デジタル化が進んでいる。 制度改正がある。
いずれも外部環境として重要な変化です。ただ、経営計画に活かすには、「それが自社にどう影響するのか」まで落とし込まなければなりません。
原価が上がるなら、価格に転嫁できるのか。 人手不足なら、採用計画だけでなく、生産性や業務フローの見直しも要るのではないか。 金利が上がるなら、借入返済や投資判断にどう響くのか。 競争が激しくなるなら、どの顧客や商品が影響を受けるのか。 制度が変わるなら、経理実務や資料保存、取引条件にどう影響するのか。
外部環境分析は、ニュースを整理する作業ではありません。その変化が、自社の売上、利益、資金、人材、投資、リスクにどう作用するのかを見極める作業です。
経営計画では、外部環境の機会と脅威、内部環境の強みと弱みを整理し、それをもとに経営目標や経営方針を組み立てていきます。外部環境や内部環境が変われば、当然、経営計画の修正も検討することになります。
SWOT分析は「埋めること」より「つなげること」が重要
現状分析の代表的な手法に、SWOT分析があります。外部環境を「機会」と「脅威」に、内部環境を「強み」と「弱み」に分けて整理する方法です。
ただし、SWOT分析は、4つの箱を埋めるだけでは意味をなしません。
「強み:技術力がある」 「弱み:営業力が弱い」 「機会:市場が伸びている」 「脅威:競合が増えている」
このように書き出すだけでは、経営課題にはつながりません。
大切なのは、強み・弱み・機会・脅威を組み合わせ、どの経営判断につなげるかを考えることです。
強みを活かして、どの市場機会を取りにいくのか。 弱みのせいで、どの機会を逃しているのか。 外部の脅威に対して、どの内部の弱点を先に補うべきか。 いま手にしている強みで、防げるリスクは何か。 投資すべき領域と、見直すべき領域はどこか。
SWOT分析は、単なる分類表ではありません。経営課題を抽出するための材料です。
「外部環境分析・内部環境分析」が経営目標のもとになり、それが「人、物、金、情報」をどう活かすかという経営方針へとつながっていきます。
経営課題は「症状」と「原因」を分けて整理する
現状分析を進めると、さまざまな問題が浮かび上がってきます。
売上が伸びない。 利益が残らない。 資金繰りが苦しい。 在庫が多い。 借入返済が重い。 経理が遅い。 人が育たない。 金融機関に説明できない。
ただ、これらの多くは「症状」にすぎません。経営課題として整理するには、その原因まで掘り下げる必要があります。
たとえば「利益が残らない」という症状があったとします。原因は、決して一つではありません。
売上単価が低いのか。 値引きが多いのか。 原価が上がっているのか。 外注費が膨らんでいるのか。 固定費が過大なのか。 不採算の顧客が多いのか。 部門別の採算が見えていないのか。 そもそも会計データが粗く、原因を分析できないのか。
原因が違えば、打つべき手も変わります。値上げ、原価改善、固定費の見直し、不採算取引の整理、部門別管理、会計データ設計の見直し――それぞれでやるべきことはまったく異なります。
経営課題を見える化するとは、症状を並べることではありません。症状の背後にある原因を、数字と事実で説明できる状態にすることです。
経営課題には優先順位をつける
現状分析を丁寧に進めるほど、課題は数多く見つかります。
とはいえ、すべての課題に同時に取り組むことはできません。中小・中堅企業には、人員、時間、資金、管理体制という制約があるからです。だからこそ、現状分析の最後には、必ず優先順位をつけておく必要があります。
優先順位を考えるときは、次の観点が手がかりになります。
| 判断軸 | 確認すること |
|---|---|
| 影響度 | 利益、資金、信用、成長可能性への影響は大きいか |
| 緊急度 | 放置すると資金ショート、信用低下、損失拡大につながるか |
| 実行可能性 | 自社の人員・資金・時間で着手できるか |
| 再現性 | 一度きりでなく、継続的な改善につながるか |
| 説明可能性 | 金融機関、社員、後継者、外部関係者に説明できるか |
| 将来性 | 成長、承継、M&A、外部資本活用の選択肢を広げるか |
たとえば、売上拡大の施策が魅力的に映っても、資金繰りがすでに逼迫しているなら、まずは資金管理と固定費の見直しを優先すべきかもしれません。新規事業に投資したくても、既存事業の部門別採算が見えていないなら、先に利益構造を把握するほうが順序として適切な場合もあります。金融機関に資金の相談をしたくても、月次資料や資金繰り表が整っていなければ、まず説明体制を整えることが先になることもあります。
経営課題の優先順位は、経営者の好みで決めるものではありません。利益、資金、リスク、実行可能性、外部への説明――これらを踏まえて決めていくものです。
現状分析は金融機関対応にも直結する
現状分析は、社内向けの作業にとどまりません。金融機関への対応にも、そのまま直結します。
金融機関は、融資審査においてまず債務者の評価を行い、事業内容、業績、今後の見通しなど、会社そのものの状態を見ます。担保があるかどうか以前に、そもそも貸せる先かどうかを見極めるという考え方です。
ですから、金融機関に対して決算書や試算表を渡すだけでは十分とはいえません。
自社の事業内容。 収益構造。 資金繰りの状況。 足元の課題。 改善の方針。 今後の見通し。 借入の資金使途。 返済の原資。 モニタリングの方法。
こうした点を、自分の言葉で説明できることが重要です。
中小企業庁の早期経営改善計画策定支援では、ビジネスモデル俯瞰図によって収益の仕組みや商流を見える化し、現状分析を踏まえた経営課題と解決策、アクションプラン、損益計画、資金繰表を作成していく流れが示されています。
また、金融支援を伴う本格的な経営改善計画策定支援においても、DD・計画策定支援として、現状を分析し、課題を明確にし、対応策やアクションプランを検討する流れが示されています。
金融機関に評価される現状分析とは、楽観的な将来計画を見せることではありません。会社が自らの状態を正しく把握し、課題と対応策をきちんと説明できることです。
現状分析から経営課題を整理する手順
実務では、現状分析を次の流れで進めると整理しやすくなります。
1. まず数字を整える
最初に確認すべきは、分析に使う数字そのものが信頼できるかどうかです。
月次決算が遅い。発生主義で処理されていない。在庫や未払が反映されていない。部門別に分かれていない。勘定科目が粗い。取引先別の補助管理がない。こうした状態では、いくら分析を重ねても、経営判断には使いにくいままです。
現状分析の前提として、少なくとも試算表、決算書、資金繰り表、借入一覧、売掛金・買掛金・在庫の明細、固定費の内訳、主要取引先別の売上・粗利などは整えておきたいところです。
数字の精度が低いときは、「何が問題か」を分析する前に、「なぜ数字が経営に使える状態になっていないのか」を、まず一つの課題として捉えるべきです。
2. 財務の状態を分解する
次に、財務の状態を分解していきます。
売上、粗利、固定費、営業利益、経常利益、借入、自己資本、運転資金、資金繰り。これらを確認しますが、単年度だけでなく、複数期間の推移を見ることが大切です。
ここで見ているのは、過去の成績そのものではありません。今後の経営判断に影響する「構造」です。
売上は伸びているが、粗利率は下がっていないか。 固定費は、将来の売上に見合った水準か。 借入返済は、営業キャッシュフローで賄えるか。 売掛金や在庫が増え、資金を圧迫していないか。 設備投資のあと、回収の見込みを検証しているか。
財務分析では、収益力、資金繰り、安全性、効率性を、それぞれ分けて見ていく必要があります。
3. 事業の仕組みを整理する
財務分析で異常や傾向が見えてきたら、その背景にある事業の仕組みを確認します。
どの顧客に、何を、どの条件で売っているのか。 どこで原価が発生しているのか。 どの業務が、利益や資金を生んでいるのか。 どの取引条件が、資金繰りを圧迫しているのか。 どの仕入先・外注先に、依存しているのか。
ここでは、商流と業務フローを合わせて見ることが欠かせません。
商流は、売上と資金回収の構造を示します。 業務フローは、価値提供と内部管理の構造を示します。
この両方を見なければ、財務数値の本当の原因はつかめません。
4. 組織と管理体制を確認する
続いて、現状の組織と管理体制を確認します。
経営者だけが意思決定していないか。 幹部が数字を理解しているか。 経理が、単なる処理部門にとどまっていないか。 月次レビューの場があるか。 行動計画の進捗を確認しているか。 不正やミスを防ぐ承認・照合・分掌があるか。 重要な資料を、いつでも取り出せるか。
経理は、数字を計算するだけの部署ではありません。経営戦略を数字へ落とし込む役割を担っています。経営戦略そのものは自由に描けても、それを数字に落とし込むには、売上、利益、資金、外部への説明、そして社員が「達成できそうだ」と感じられる現実性など、さまざまな制約が伴います。
組織と管理体制の分析は、会社を縛るためのものではありません。経営者が一人で抱え込んでいる判断を、会社として継続的に回せる状態へ近づけるためのものです。
5. 外部環境を自社への影響で整理する
外部環境は、一般論としてではなく、自社の経営への影響という視点で整理します。
市場の伸び縮み。 顧客ニーズの変化。 競合の動き。 仕入価格や外注費の変動。 採用環境。 金利や金融機関の姿勢。 制度改正や取引慣行の変化。 技術革新やデジタル化。
これらが、自社の売上、粗利、固定費、資金繰り、投資判断、採用、業務フローにどう響くのかを確認していきます。
外部環境の整理は、未来を言い当てるためのものではありません。変化が起きたとき、何を見直すべきかをあらかじめ考えておくためのものです。
6. 課題を分類し、優先順位をつける
最後に、見えてきた課題を分類します。
すぐに資金へ影響する課題。 利益率を改善する課題。 成長投資に向けて整える課題。 金融機関に説明するために整える課題。 承継やM&Aに備えて整える課題。 内部統制や資料管理として整える課題。
分類したうえで、優先順位を決めていきます。
経営改善計画や経営計画では、現状認識、課題抽出、改善策、計画策定、モニタリングが一本の流れとしてつながっている必要があります。認定支援機関による経営計画策定の支援においても、「見える化」による現状認識と課題抽出、「磨き上げ」による経営改善、そして計画策定後のモニタリングが、重要な流れとして位置づけられています。
現状分析で準備しておきたい資料
現状分析を実務で進めるうえでは、資料の整理が欠かせません。
必要な資料は会社の状況によって変わりますが、一般的には次のような資料がそろっていると、財務・事業・組織・外部説明を整理しやすくなります。
| 資料 | 確認する目的 |
|---|---|
| 過去数期の決算書 | 長期的な収益力・財務体質・借入推移を見る |
| 直近の月次試算表 | 足元の業績と計画との差異を見る |
| 資金繰り表 | 将来の資金不足、返済負担、投資余力を見る |
| 借入金一覧 | 金融機関別、返済条件、金利、担保・保証を整理する |
| 売掛金・買掛金明細 | 回収遅延、支払条件、取引先別の資金影響を見る |
| 在庫明細 | 過剰在庫、滞留在庫、評価損、資金固定化を見る |
| 部門別・商品別・顧客別損益 | 儲かる領域と見直す領域を把握する |
| 固定費明細 | 人件費、家賃、外注費、広告費、システム費等の構造を見る |
| 主要契約書 | 取引条件、更新、解約、保証、許認可、リスクを確認する |
| 組織図・業務分担表 | 役割分担、属人化、承認権限を把握する |
| 業務フロー・社内規程 | 販売、購買、在庫、経費、資金管理の流れを見る |
| 経営会議資料 | 数字が意思決定に使われているかを見る |
そして、資料がそろわないこと自体も、実は重要な現状分析の結果です。
書類の管理は、業務効率のためだけではありません。情報漏えい、改ざん、紛失を防ぐためにも大切です。重要書類、申告書・届出書の控え、議事録などを適切に保存・管理しておくことは、外部への説明やコンプライアンス強化の土台になります。
現状分析を経営計画につなげる
現状分析は、分析しただけで終わらせてはいけません。経営計画、利益計画、資金計画、行動計画へとつないで初めて、意味を持ちます。
現状分析で見えた課題は、次のように計画へ落とし込んでいきます。
| 現状分析で見えたこと | 経営計画への落とし込み |
|---|---|
| 粗利率が低下している | 価格改定、原価改善、商品構成の見直し |
| 固定費が重い | 固定費削減、業務効率化、外注範囲の見直し |
| 売掛金が増えている | 回収条件の見直し、与信管理、請求・入金管理の強化 |
| 在庫が多い | 適正在庫、棚卸精度、滞留在庫の処分 |
| 借入返済が重い | 資金繰り表、返済計画、金融機関への説明 |
| 部門別採算が見えない | 会計データ設計、部門別損益管理 |
| 月次決算が遅い | 締めスケジュール、資料回収、経理体制の整備 |
| 幹部が数字を見ていない | 経営会議、予実管理、KPI、行動計画 |
| 外部説明が弱い | 月次資料、経営計画、資金繰り、事業説明資料の整備 |
予算管理の目的は、分業化された組織のなかで、各部門が足並みをそろえて全社目標を達成することにあります。企業の規模が大きくなるほど、社長の目や口頭だけでは管理しきれなくなり、数値による管理が必要になっていきます。
経営計画でも、これは同じです。現状分析で見えた課題を、主要施策、担当、期限、確認指標にまで落とし込まなければ、計画は実行されません。
専門家に相談すべき現状分析のポイント
現状分析は、本来、経営者自身が主体的に行うべきものです。自社の事業、顧客、現場、組織を最もよく知っているのは、ほかならぬ経営者だからです。
その一方で、次のような場面では、会計・税務・財務の専門家が関わる意義があります。
月次の数字の正確性に、不安がある。 決算書や試算表を見ても、経営課題に変換できない。 利益と資金のズレを、うまく説明できない。 部門別・顧客別・商品別の採算が見えない。 金融機関に説明する資料を整えたい。 資金繰りや借入返済の見通しを整理したい。 設備投資や採用に踏み切る前に、資金余力を確認したい。 経理や管理体制の属人化を解消したい。 承継、M&A、外部資本活用を見据えて、会社を見える化したい。
ただし、専門家の役割は、経営者に代わって結論を出すことではありません。
数字の信頼性を確認する。 財務・資金・税務・会計の論点を整理する。 経営者の感覚を、説明できる数字と資料へ落とし込む。 課題の優先順位を、一緒に整理する。 金融機関や外部関係者に説明できる形へ整える。 計画策定後のモニタリング体制を作る。
こうした関わりを通じて、経営者が自ら納得して判断できる状態をつくること。そこに、専門家が関わる意味があります。
犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について
現状分析は、経営計画を作るための前作業ではありません。会社を前に進めるための、判断の土台です。
売上や利益は見ているつもりでも、本当の収益力、資金余力、借入負担、部門別採算、成長余地、経営リスクまでは見えていない――そういうことは、決して珍しくありません。現状が見えないまま、投資、採用、借入、値上げ、不採算事業の見直し、承継、M&Aを進めてしまうと、判断の前提そのものが曖昧になってしまいます。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、月次決算、財務分析、資金繰り、利益計画、経営計画、金融機関への説明、管理体制の整備を、会社の成長判断に使える形へ整理することを大切にしています。
自社の課題は感覚では分かっているが、数字と資料で説明できていない。 経営計画を作る前に、現状分析から整理したい。 金融機関や後継者に説明できる会社にしておきたい。 月次の数字を、経営判断に使える状態にしたい。 利益・資金・管理体制を整えながら、次の成長判断へ進みたい。
このようなお悩みがある場合は、まず現在の月次資料、決算書、資金繰り、借入、管理体制を確認し、どこから整えていくべきかを整理するところから始められます。
現状分析を通じて自社の経営課題を見える化し、次の経営判断に使える数字と資料を整えたい方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。
この記事の振り返り
| 論点 | 重要なポイント |
|---|---|
| 現状分析の目的 | 問題点探しではなく、強み・弱み・課題・優先順位を経営判断に使える形へ整理すること |
| 経営計画との関係 | 現状分析が浅いと、数値計画や行動計画が希望や掛け声になりやすい |
| 財務分析 | 売上、粗利、固定費、利益、借入、自己資本、運転資金、資金繰りを一体で見る |
| 事業分析 | 商流、顧客構成、商品・サービス、価格、原価、取引条件から、利益と資金を生む仕組みを確認する |
| 組織・業務分析 | 経理体制、業務フロー、承認、資料管理、属人化、会議体を確認し、続けられる仕組みかを見る |
| 外部環境分析 | 市場や競合の一般論ではなく、自社の売上・利益・資金・人材・投資への影響で整理する |
| SWOT分析 | 4つの枠を埋めることではなく、強み・弱み・機会・脅威を経営課題と施策につなげることが重要 |
| 課題の優先順位 | 影響度、緊急度、実行可能性、資金影響、説明可能性、将来性で判断する |
| 金融機関対応 | 現状分析は、事業内容、課題、改善策、返済原資、モニタリングを説明する前提になる |
| 専門家活用 | 経営判断を丸投げするのではなく、数字と事実を整理し、経営者が納得して判断するために活用する |