損害賠償金・違約金・解約金・和解金の消費税|不課税でよい場合と課税売上・課税仕入れになる場合

損害賠償金、違約金、解約金、キャンセル料、和解金。これらは、消費税の実務でとりわけ誤りの起きやすい取引です。

理由は、それほど複雑なものではありません。請求書や合意書に書かれた名称だけを見れば、いずれも「損害の補填」のように映ります。ところが実態をたどると、商品の引渡し、権利の使用、役務の提供、賃料相当額、解約手続の対価、あるいは売上代金の一部であることが少なくないのです。

消費税では、金銭を受け取ったという事実だけを見るのではありません。その金銭が何の反対給付として支払われたのかを、一つひとつ確かめていきます。

こうした前提を踏まえると、次のような処理には注意が必要です。

  • 勘定科目が「雑収入」だから不課税にする
  • 合意書に「損害賠償金」と書いてあるから消費税を外す
  • 「違約金」「解約金」はすべて課税対象外とする
  • 和解金を一括で処理し、内訳を検討しない
  • 請求書に消費税額を記載しているから課税売上とする
  • 支払った相手からインボイスを受け取ったから課税仕入れにする

本記事では、2026年6月26日現在の制度を前提に、損害賠償金・違約金・解約金・和解金について、消費税上の判断軸から、契約・請求・証憑保存・会計処理・税務調査への対応までを整理していきます。

目次

まず結論|名称ではなく「対価性」で判断する

消費税の課税対象は、原則として、国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡等です。ここでいう資産の譲渡等には、資産の譲渡、資産の貸付け、そして役務の提供が含まれます。出典:国税庁|No.6105 課税の対象

ですから、損害賠償金等を受け取ったときは、まず次の二つに分けて考えます。

区分消費税上の基本的な取扱い
損害の補填、逸失利益の補償、慰謝料的な金銭原則として資産の譲渡等の対価ではなく、不課税
商品、資産、権利、賃貸、役務提供、解約手続等の対価課税売上又は課税仕入れになり得る

この点については、心身又は資産に対して加えられた損害の発生に伴って受ける損害賠償金は、通常は資産の譲渡等の対価には当たらないとされています。ただし、判定はその名称によるのではなく、あくまで実質によって行うべきものとされています。出典:国税庁|No.6257 損害賠償金

つまり、判断の中心にあるのは、次の一点です。

その金銭を支払うことによって、支払者は何かを取得し、又は何らかの役務・権利・使用利益を受けているのか。

これがある場合には、損害賠償金、違約金、解約金、和解金という名称であっても、消費税の課税対象となる可能性があります。

損害賠償金が不課税となる典型例

損害賠償金が不課税となる典型例は、損害の発生に伴い、被害者の損失を補填するために支払われる金銭です。

具体的には、次のようなものが挙げられます。

  • 事業用車両を破損されたことに伴う修理代相当額の賠償金
  • 商品を滅失・毀損されたことに伴う損害補填金
  • 取引先の契約違反により生じた逸失利益の補償金
  • 事故に伴う休業損害の補償金
  • 物損事故に係る保険金・共済金
  • 売買や役務提供とは別個に支払われる純粋な損害賠償金

たとえば、破損した事業用資産を自己で修理した場合、その修理費用は課税仕入れに該当し、仕入税額控除の対象になります。これに対して、加害者から受け入れた損害賠償金や、損害に係る保険金収入については、課税関係が生じません。出典:国税庁|損害を被った場合の修理の費用

ここで大切なのは、修理費用の支払と損害賠償金の受取を混同しないことです。

たとえば、自社の事業用設備が破損し、修理業者に110万円を支払ったとします。この場合、その修理業者から適格請求書を受け取り、その他の要件を満たしていれば、修理費用に係る仕入税額控除を検討できます。一方で、加害者から同額の損害賠償金を受け取ったとしても、その受取額は通常、消費税の課税売上にはなりません。

会計上は、修理費、雑収入、保険差益といった損益が生じることがあります。しかし、法人税・所得税上の収益・費用処理と、消費税の課税対象かどうかは、あくまで別の問題として切り分けて考える必要があります。

損害賠償金でも課税対象となる場合

損害賠償金という名称であっても、その実質が資産の譲渡等の対価に該当するのであれば、消費税の課税対象になります。

この考え方は、消費税法基本通達5-2-5にも表れています。損害賠償金のうち、心身又は資産につき加えられた損害の発生に伴い受けるものは資産の譲渡等の対価に該当しない一方、実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認められるものは、資産の譲渡等の対価に該当する、という整理です。出典:国税庁|消費税法基本通達 5-2-5 損害賠償金

とりわけ注意しておきたいのは、次の三つの場面です。

1. 損害を受けた棚卸資産等を加害者に引き渡す場合

たとえば、商品が損傷したものの、軽微な修理で使用できる状態にあり、その商品を加害者に引き渡して、加害者から金銭を受け取る場合です。

このケースでは、単に損害を補填してもらっただけとはいえません。実質的には、その商品を加害者へ引き渡していると見ることができます。

そうであれば、受け取った金銭は、商品の譲渡対価として課税対象となる可能性があります。

判断にあたっては、次の点を確認します。

  • 損傷した資産を加害者に引き渡したか
  • その資産がそのまま又は軽微な修理で使用可能か
  • 所有権又は処分権が加害者へ移転したか
  • 金額が資産の価額相当として算定されているか
  • 請求書・合意書に資産引渡しの記載があるか

「損害賠償金」という名称であっても、資産の移転を伴う場合には、売上取引として再構成される可能性があるわけです。

2. 特許権・商標権・著作権等の侵害に係る金銭

特許権、商標権、著作権、ソフトウェア、ノウハウといった無体財産権を無断で使用された場合、権利者が相手方から金銭を受け取ることがあります。

この金銭は、名称上は「損害賠償金」や「和解金」とされることがあります。しかし、その実質が権利使用料に相当するのであれば、権利の使用又は許諾の対価として課税対象となる可能性があります。

無体財産権の侵害を受けたために受け取る損害賠償金であっても、それが権利の使用料に相当する場合には、課税対象となる例として整理されています。出典:国税庁|No.6157 課税の対象とならないもの(不課税)の具体例

この論点では、合意書の文言が非常に重要になります。

たとえば、和解条項に「過去の無断使用に係る損害賠償金」とだけ記されていたとしても、その算定方法が「通常ライセンス料×使用期間×数量」であれば、使用料相当額として課税対象と見られる可能性があります。

逆に、営業上の信用毀損、調査費用、訴訟対応費用、逸失利益の補償など、権利使用の対価とはいえない部分が含まれている場合には、その内訳を明確にしておく必要があります。

私の実務経験からも、特許侵害に係る損害賠償金は、消費税上は個別に検討すべき論点であり、損害賠償という名称だけで一律に処理できるものではありません。

3. 不動産等の明渡し遅滞に係る金銭

事務所や店舗の賃借人が、契約終了後も明渡しをしないため、賃貸人が賃料相当額、あるいは割増賃料相当額の金銭を受け取る場合があります。

この金銭は「損害賠償金」や「違約金」とされることがあります。ただし、その実質は、明渡しまでの使用利益に対応する賃貸料相当額と見ることができます。

たとえば、事務所の賃貸借契約に基づき、契約違反等の場合に規定賃貸料の3倍相当額を受け取るときは、その全額が事務所の貸付けの対価に該当するとされています。出典:国税庁|違約入居者から受け取る割増賃貸料

また、建物賃貸借契約の違約金等については、店舗・事務所等の賃貸人が契約期間終了後も立ち退かない入居者から受け取る割増賃借料は、貸付けの対価として課税対象になります。一方で、住宅用であることが明らかな場合の割増賃借料は、住宅貸付けの対価として非課税になるとされています。出典:国税庁|No.6261 建物賃貸借契約の違約金など

ここでも見るべきは、「違約金」という名称ではなく、実際には何の対価なのか、という点です。

  • 契約終了後の使用継続に対する金銭か
  • 通常賃料を基礎として算定されているか
  • 物件が事務所・店舗か、それとも住宅か
  • 使用期間に応じて発生しているか
  • 明渡しまでの使用利益を補填するものか

こうした事実関係によって、課税・不課税・非課税の判断が分かれてきます。

キャンセル料・解約金は「事務手数料」と「逸失利益」を分ける

キャンセル料や解約金は、実務のなかでもとりわけ誤りの多い分野です。

キャンセル料には、解約に伴う事務手数料としての性格を持つものと、解約に伴い生じる逸失利益に対する損害賠償金としての性格を持つものがあります。出典:国税庁|No.6253 キャンセル料

事務手数料としてのキャンセル料は課税対象

解約手続、取消処理、払戻処理といった事務を行う対価として受け取る金銭は、役務提供の対価にあたります。

たとえば、航空運賃のキャンセル料のうち、解約時期にかかわらず一定額を受け取る部分は、解約等に伴う事務手数料に該当し、課税対象になるとされています。出典:国税庁|No.6253 キャンセル料

この場合、売手側では課税売上となり、買手側では課税仕入れとなる可能性があります。買手が仕入税額控除を受けるには、原則としてインボイス等の保存が必要です。

逸失利益の補償としてのキャンセル料は不課税

これに対して、予約が取り消されたことにより、本来得られたであろう利益が失われた、その損失を補填する金銭は、資産の譲渡等の対価ではなく、不課税です。

たとえば、航空運賃のキャンセル料で、搭乗区間や解約時期によって金額が異なるものは、逸失利益等に対する損害賠償金に該当し、課税対象にはならないとされています。出典:国税庁|No.6253 キャンセル料

事務手数料部分と損害賠償部分を一括している場合

さらに、事務手数料部分と損害賠償部分の双方が含まれていながら、これらを区分せず一括して受領している場合には、その全体を不課税として取り扱うこととされています。出典:国税庁|消費税法基本通達 5-5-2 解約手数料、払戻手数料等

とはいえ、この取扱いを安易に頼るべきではありません。

実務では、次の点を確認しておく必要があります。

  • 約款や契約書でキャンセル料の性格が明確になっているか
  • 一定額の事務手数料部分があるか
  • 解約時期や残期間に応じて金額が変動するか
  • 返金処理や変更処理という具体的な役務があるか
  • 損害賠償部分と事務手数料部分を社内で区分管理しているか
  • 相手方に交付する請求書・領収書・インボイスの表示と整合しているか

実務上も、キャンセル料や解約損害金は、逸失利益等に対する損害賠償金として不課税となります。一方で、解約手数料・取消手数料・払戻手数料等を対価とする役務提供は、課税仕入れ又は課税売上になり得ます。両者は分けて検討する必要がある、ということです。

建物賃貸借契約の違約金は三つに分ける

不動産賃貸では、「違約金」と書かれていても、消費税上の処理が分かれます。

とりわけ建物賃貸借契約では、次の三つを区別して考えます。

金銭の内容消費税上の考え方
中途解約に伴う違約金逸失利益の補填であれば不課税
保証金等から差し引く原状回復工事費用賃貸人が賃借人に対して原状回復役務を提供する場合は課税対象
契約終了後の明渡し遅滞に伴う割増賃料店舗・事務所等の貸付けの対価であれば課税対象。住宅貸付けであれば非課税となる場合あり

たとえば、建物の賃貸借契約期間が終了する前に、入居者から中途解約の違約金として数か月分の家賃相当額を受け取る場合があります。この違約金は逸失利益を補填するために受け取るものであり、損害賠償金として課税対象にはならないとされています。出典:国税庁|No.6261 建物賃貸借契約の違約金など

これに対して、賃貸人が賃借人に代わって原状回復工事を行い、保証金等から工事費相当額を差し引いて受け取る場合は、賃貸人の賃借人に対する役務提供の対価として課税対象になります。出典:国税庁|No.6261 建物賃貸借契約の違約金など

ここでの実務上のポイントは、保証金から控除する金額を、一括で「違約金」「修繕費」「原状回復費」とまとめて処理してしまわないことです。

次の内訳を確認します。

  • 未払賃料
  • 原状回復工事費
  • 中途解約違約金
  • 明渡し遅延損害金
  • 鍵交換費用
  • クリーニング費用
  • 償却保証金
  • 礼金・更新料
  • 敷金返還額

これらが、すべて同じ消費税区分になるわけではありません。賃貸借契約書、退去精算書、工事見積書、合意書、請求書を、それぞれ分けて確認していく必要があります。

和解金は「何を解決するための金銭か」を合意書から読む

和解金は、名称だけではほとんど判断できません。

和解では、当事者間の紛争を解決するために、複数の請求原因や法律関係をまとめて清算することがあります。そのため、和解金のなかに、次のような性格の金額が混在することがあります。

  • 損害賠償金
  • 未払代金
  • 追加報酬
  • 値引き・返金
  • 権利使用料
  • 営業補償
  • 移転補償
  • 解約金
  • 遅延損害金
  • 訴訟費用相当額
  • 今後の契約解除又は権利放棄の対価

消費税上は、和解金の名称ではなく、合意書の内容、請求原因、算定根拠、当事者の給付内容から判断していきます。

たとえば、次のような和解金は、不課税となる方向で検討します。

  • 事故により生じた損害を補填する和解金
  • 契約不履行による逸失利益を補償する和解金
  • 事業停止による損害を補填する和解金
  • 訴訟上の紛争を解決するため、損害額相当として支払う和解金

一方で、次のような和解金は、課税対象となる可能性があります。

  • 未払商品代金を和解金として支払うもの
  • 既に提供済みの役務の対価を和解金として支払うもの
  • 特許権・商標権・著作権等の使用料相当額を支払うもの
  • 資産又は権利を譲渡することの対価として支払うもの
  • 賃貸物件の使用継続に対応する賃料相当額を支払うもの
  • 解約手続、払戻手続、変更手続の対価を含むもの

和解金でもっとも危ういのは、複数の内容を「本件解決金として金○○円を支払う」とだけ記載してしまうことです。

この書き方では、後日、税務調査の場面で、次の点を説明しづらくなります。

  • その和解金は損害補填なのか
  • 未払代金の支払なのか
  • 権利使用料相当なのか
  • 解約手数料を含むのか
  • 消費税額を含む金額なのか
  • インボイスを発行すべき取引なのか
  • 買手側で仕入税額控除できるのか

和解合意書では、少なくとも「請求原因」「支払金額の内訳」「消費税の取扱い」「インボイス交付の要否」「相殺や返金の有無」を明確にしておくべきです。

支払側では「課税仕入れになるか」を別に判断する

損害賠償金等を支払う側では、その支払額について仕入税額控除ができるかどうかが問題になります。

ここでも、判断の基準は変わりません。

相手方から資産の譲渡、資産の貸付け、役務の提供を受けた対価かどうか。

純粋な損害賠償金、逸失利益補償、違約罰的な金銭は、課税仕入れには該当しません。したがって、消費税額を含むものとして処理したり、仕入税額控除を行ったりすることはできません。

これに対して、次のような支払は、課税仕入れとなる可能性があります。

  • 解約手続に係る事務手数料
  • 原状回復工事を賃貸人に代行してもらった対価
  • 権利使用料相当の和解金
  • 未払役務提供代金の支払
  • 割増賃料相当額の支払
  • 資産引渡しを受ける対価としての支払

仕入税額控除の観点から見ても、損害賠償金のうち、心身又は資産につき加えられた損害の発生に伴い支払うものは課税仕入れに該当しません。一方で、その実質が受領者側における資産の譲渡等の対価に該当すると認められるものの支出は、課税仕入れに該当します。この切り分けが重要になります。

支払側の実務では、次のように分けて処理します。

支払内容支払側の消費税処理
純粋な損害賠償金課税仕入れではない
逸失利益補償としての解約金課税仕入れではない
解約事務手数料課税仕入れとなる可能性あり
原状回復役務の対価課税仕入れとなる可能性あり
権利使用料相当の和解金課税仕入れとなる可能性あり
未払代金の清算元の取引区分に従う
割増賃料貸付けの対価として課税又は非課税を判断

「相手方から請求書を受け取った」「消費税相当額が記載されている」という事実だけでは、仕入税額控除は成立しません。取引そのものが課税仕入れであること、インボイス等の保存要件を満たすこと、用途区分が適切であること。この三つを確認する必要があります。

インボイスを発行すべきかどうか

損害賠償金等を受け取る側では、インボイスを発行すべきかどうかも問題になります。

整理すると、次のとおりです。

受取金の性格インボイス対応
純粋な損害賠償金資産の譲渡等の対価ではないため、通常はインボイス発行対象ではない
逸失利益補償としての解約金通常はインボイス発行対象ではない
解約事務手数料課税資産の譲渡等の対価であればインボイス発行対象
原状回復役務の対価課税資産の譲渡等の対価であればインボイス発行対象
権利使用料相当額課税資産の譲渡等の対価であればインボイス発行対象
未払代金の清算元の課税取引に係るインボイス対応が必要
賃料相当・割増賃料事務所・店舗等なら課税、住宅なら非課税となる場合がある

実務では、非課税・不課税の金銭について、相手方から「インボイスを出してほしい」と求められることがあります。

しかし、インボイスは、課税資産の譲渡等に係る取引情報を伝達するための制度です。純粋な損害賠償金について、課税取引であるかのように消費税額を記載してインボイスを交付してしまうと、売手側・買手側の双方で処理が崩れてしまいます。

反対に、実質は役務提供の対価であるにもかかわらず、「損害賠償金」と表示してインボイスを発行しなかった場合はどうでしょうか。買手側では仕入税額控除ができず、取引先とのトラブルにつながる可能性があります。

そこで、請求書を発行する前に、次の判断を行っておく必要があります。

  1. 金銭の性格は損害補填か、対価か
  2. 課税取引、非課税取引、不課税取引のどれか
  3. 税率は標準税率か、軽減税率か、非課税か
  4. インボイスの交付義務があるか
  5. 相手方が仕入税額控除を予定しているか
  6. 合意書・請求書・会計処理の表示が一致しているか

「消費税相当額」を上乗せする合意には注意する

損害賠償金や違約金の交渉では、「消費税相当額を加算する」「税込で支払う」「本件和解金には消費税を含む」といった文言が使われることがあります。

しかし、消費税法上の課税対象ではない金銭について、当事者間で「消費税相当額」と呼んだところで、それだけで消費税の課税取引になるわけではありません。

たとえば、純粋な損害賠償金100万円について、当事者が「消費税相当額10万円を加算して110万円支払う」と合意したとします。それでも、その110万円全体が損害賠償金であれば、消費税の課税売上になるとは限りません。

このような場合、実務では次の点に注意します。

  • 「消費税」ではなく「消費税相当額」として、補償額の算定要素にすぎないのか
  • その金銭が本当に損害補填なのか
  • 実質的には役務提供や資産譲渡の対価ではないか
  • 請求書に税率・消費税額を記載してよい取引か
  • 相手方が仕入税額控除を行う前提で処理していないか

消費税額を記載するかどうかは、あくまで取引の性格に従って判断します。交渉上の便宜や金額調整のために「消費税相当額」という言葉を使うのであれば、その意味を合意書のなかで明確にしておく必要があります。

税務調査で確認される事項

損害賠償金・違約金・解約金・和解金は、税務調査で確認されやすい論点です。

というのも、これらは雑収入、雑損失、支払手数料、修繕費、賃貸料、売上値引き、仕入値引き、営業外収益など、さまざまな勘定科目に散らばりやすく、取引の実態を帳簿だけからつかむのが難しいからです。

税務調査では、次のような資料が確認されます。

  • 原契約書
  • 解除通知書
  • 請求書
  • 合意書・和解契約書
  • 裁判上の和解調書
  • 示談書
  • 損害額の計算資料
  • 事故報告書
  • 修理見積書・修理請求書
  • 保険金支払通知書
  • メール・議事録・交渉記録
  • 物件明渡し日や使用期間を示す資料
  • 知的財産権の使用期間・使用数量・算定根拠
  • インボイスの発行・受領状況
  • 会計仕訳と税区分

税務調査への対応では、ただ「損害賠償金なので不課税です」と説明するだけでは足りません。

少なくとも、次の点を説明できる状態にしておく必要があります。

  • 何により損害が発生したのか
  • その金銭はどの損害を補填するものか
  • 資産、権利、役務、使用利益の提供があったか
  • 金額はどのように算定したか
  • 課税対象となる部分と不課税部分を区分したか
  • インボイスを発行しなかった理由は何か
  • 支払側が仕入税額控除をしない前提で処理しているか
  • 合意書と請求書と会計処理が一致しているか

税務調査では、証拠の収集・保全と、的確な事実認定が重視されます。調査の場で説明できるようにするためには、取引が発生したその時点で、契約書、合意書、請求書、証憑、判断メモを残しておくことが欠かせません。

契約書・合意書で整備すべき事項

損害賠償金等の消費税判断は、問題が起きてから経理部門だけで処理しようとしても、どうしても限界があります。

契約締結時、解約時、和解時のそれぞれの段階で、次の事項を明確にしておくことが重要です。

原契約で定める事項

  • 中途解約が可能か
  • 解約金の算定方法
  • キャンセル料の内訳
  • 事務手数料部分の有無
  • 逸失利益補償部分の有無
  • 遅延損害金の取扱い
  • 原状回復費の負担方法
  • 権利侵害時の損害算定方法
  • 消費税の表示方法
  • インボイス交付の要否

契約書では、単に「違約金を支払う」と書くのではなく、その違約金が何を補填するものなのか、役務提供の対価を含むのかまで、明確にしておきます。

解約・キャンセル時に確認する事項

  • 解約理由
  • 解約申入日
  • 解約対象となるサービス又は資産
  • 解約時点で提供済みの役務
  • 未提供部分の返金
  • 事務手数料
  • 損害賠償部分
  • 税率
  • インボイス発行の要否

解約時の金銭は、未提供サービスの返金、解約手数料、損害賠償金、違約金が混ざり合いやすいため、内訳を分けておきます。

和解合意書で定める事項

  • 紛争の原因
  • 解決対象となる請求
  • 支払金額の内訳
  • 損害賠償部分
  • 未払代金部分
  • 権利使用料部分
  • 手数料部分
  • 消費税の取扱い
  • インボイス交付の有無
  • 相殺・返金・債権放棄の有無
  • 清算条項

和解金を一括で記載する場合であっても、社内の判断メモとして、内訳と消費税判断を残しておくべきです。

実務で使う判断フロー

損害賠償金等の消費税判断では、次の順序で確認していきます。

Step 1 金銭の発生原因を確認する

まず、なぜその金銭が発生したのかを確認します。

事故、契約違反、キャンセル、解約、明渡し遅延、権利侵害、未払代金、原状回復、和解。発生原因によって、判断の入口が変わってきます。

Step 2 相手方に何かを提供しているかを確認する

次に、金銭を受け取る側が、相手方に何かを提供しているかどうかを確認します。

資産を引き渡している、権利を使わせている、事務手続をしている、建物を使わせている、原状回復工事を行っている、未払の役務を提供済みである。こうした事情があれば、課税対象となる可能性があります。

Step 3 金額の算定根拠を確認する

金額の算定根拠は重要です。

  • 実損額
  • 修理費
  • 逸失利益
  • 契約残期間の利益
  • 通常使用料
  • 通常賃料
  • 原状回復工事費
  • 事務手数料
  • 未払代金
  • 一定率の違約金

算定根拠が通常料金、使用料、賃料、工事費、事務手数料に近いほど、対価性の検討が必要になります。

Step 4 契約書・合意書の文言と実態を照合する

合意書に「損害賠償金」と書いてあっても、実態が対価であれば課税対象となります。

逆に、「キャンセル料」と書いてあっても、実態が逸失利益補償であれば、不課税となる場合があります。

文言と実態がずれていると、税務調査での説明が難しくなります。

Step 5 売手側・買手側の処理を一致させる

受取側が不課税としているのに、支払側が課税仕入れとして仕入税額控除をしていれば、双方の処理が食い違ってしまいます。

売手側と買手側の処理が必ずしも完全に対称になるとは限りません。それでも、少なくとも、インボイス、請求書、合意書、会計処理の前提は共有しておくべきです。

よくある誤り

「損害賠償金」と書けば不課税になると考える

名称だけでは判断できません。商品引渡し、権利使用、賃料相当、役務提供の対価であれば、課税対象となる可能性があります。

キャンセル料を一律に課税売上にする

キャンセル料には、事務手数料部分と逸失利益補償部分があります。全額が課税とは限りません。

支払った違約金を課税仕入れにする

純粋な損害賠償金や逸失利益補償は、課税仕入れではありません。支払側で仕入税額控除を行うには、相手方から資産・役務の提供を受けた対価であることが必要です。

和解金を一括で処理する

和解金には、課税部分、不課税部分、非課税部分、売上返還部分、債権放棄部分が混在することがあります。内訳を確認しない一括処理には、リスクが伴います。

保険金と損害賠償金を売上に含める

保険事故の発生に伴い受ける保険金・共済金は、資産の譲渡等の対価には該当しないとされています。出典:国税庁|消費税法基本通達 5-2-4 保険金、共済金等

原状回復費をすべて不課税にする

賃貸人が賃借人に代わって原状回復工事を行い、工事費相当額を受け取る場合は、役務提供の対価として課税対象となる場合があります。出典:国税庁|No.6261 建物賃貸借契約の違約金など

社内運用に落とし込むためのチェックリスト

損害賠償金等の処理を属人的にしないために、次のチェック項目を社内で標準化しておきます。

確認項目確認内容
発生原因事故、契約違反、解約、権利侵害、明渡し遅延、和解など
金銭の性格損害補填、逸失利益補償、手数料、使用料、賃料、未払代金など
反対給付相手方に資産、権利、役務、使用利益を提供しているか
算定根拠実損額、通常料金、残期間利益、使用料、工事費、固定手数料など
契約書解約金・違約金・損害賠償条項の内容
合意書和解金の内訳、清算条項、消費税の取扱い
請求書課税部分と不課税部分を区分しているか
インボイス課税取引部分について発行・受領しているか
会計処理雑収入・雑損失だけでなく税区分を確認しているか
相手方処理支払側が仕入税額控除を予定しているか
保存資料交渉記録、損害計算書、修理見積書、保険通知、明渡し記録など
承認税務判断を経理・法務・事業部で共有しているか

大切なのは、発生した時点で判断メモを残しておくことです。

決算のときに「これは不課税だったはず」と記憶を頼りに処理するのではなく、合意書の作成時、請求書の発行時、入金処理の時点で、課税関係を確認する運用を組み込んでおく必要があります。

月次の監査や月次経理では、新規契約、更新、解約、設備投資、資産売却、特殊な販売形態など、会計データだけでは見えにくい取引をヒアリングし、契約から請求、代金回収に至るプロセスと証憑を確認しておくことが重要です。

まとめ

損害賠償金・違約金・解約金・和解金の消費税判断では、名称ではなく実質を確認します。

純粋な損害補填や逸失利益補償であれば、原則として不課税です。一方で、商品、資産、権利、賃貸、役務提供、解約手続、原状回復工事、未払代金の対価であれば、課税対象となる可能性があります。

とりわけ注意しておきたいのは、次の取引です。

  • 損傷した棚卸資産を加害者に引き渡す場合
  • 特許権・商標権・著作権等の侵害に係る使用料相当額
  • 店舗・事務所等の明渡し遅延に伴う割増賃料
  • 解約手数料・払戻手数料
  • 原状回復工事費用相当額
  • 複数の性格が混在する和解金

消費税の判断は、申告のときに勘定科目を眺めて決めるものではありません。契約書、合意書、請求書、インボイス、損害計算資料、交渉記録をもとに、取引を始める前、あるいは合意の時点で整理しておくべきものです。

損害賠償金等は、金額が大きくなりやすく、税務調査でも説明を求められやすい項目です。後から第三者に説明できるよう、判断の過程と証拠を残しておくこと。これが、実務上の品質基準になります。

損害賠償金・違約金・解約金・和解金の消費税判断でお困りの場合

損害賠償金、違約金、解約金、和解金は、契約書や合意書の文言だけでは判断できません。

とくに、和解金に未払代金、権利使用料、解約手数料、損害賠償、原状回復費が混在している場合や、不動産賃貸・知的財産・システム開発・業務委託・販売契約の解除が関係する場合には、消費税の課税区分、インボイス発行、仕入税額控除、会計処理を一体で確認する必要があります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、消費税を単なる申告計算としてではなく、契約・請求・証憑・会計処理・税務調査対応まで含めた経営管理の項目として整理します。

自社の損害賠償金・違約金・解約金・和解金が不課税でよいのか、それとも課税売上又は課税仕入れとして処理すべきか、インボイスを発行・保存すべきかを確認したい場合は、契約書、合意書、請求書、精算書、損害計算資料を整理したうえで、お問い合わせページからご相談ください。

重要ポイントの振り返り

論点判断のポイント
損害賠償金心身又は資産の損害補填であれば原則不課税。実質が資産・役務の対価なら課税対象
名称「損害賠償金」「違約金」「和解金」という名称だけでは判断しない
棚卸資産の損害損傷資産を加害者へ引き渡し、使用可能な資産の対価として受け取る場合は課税対象となる可能性
知的財産権特許権・商標権・著作権等の使用料相当額は課税対象となる可能性
明渡し遅延店舗・事務所等の割増賃料は貸付けの対価として課税対象となる場合がある
中途解約違約金逸失利益補填であれば不課税
キャンセル料事務手数料部分は課税、逸失利益補償部分は不課税
一括キャンセル料手数料部分と損害賠償部分を区分せず一括受領している場合、全体を不課税として取り扱う場合がある
原状回復費賃貸人が賃借人に代わって工事を行う場合は役務提供対価として課税対象となる可能性
和解金請求原因、算定根拠、合意内容から、課税部分と不課税部分を分ける
支払側純粋な損害賠償金は課税仕入れではない。対価性がある部分のみ仕入税額控除を検討
インボイス課税取引部分はインボイス対応が必要。不課税部分について課税取引のようなインボイスを発行しない
証拠保存契約書、合意書、請求書、損害計算書、交渉記録、保険通知、修理見積書を保存する
税務調査勘定科目ではなく、取引実態と証拠に基づいて説明できる状態にする
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次