役員給与の税務判断|定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与と損金算入要件

役員給与は、中小・中堅企業の法人税務のなかでも、とりわけ頻繁に問題となる論点のひとつです。

経営者にとっての役員報酬は、単なる給与ではありません。ご自身の生活資金であり、会社の利益調整に関わり、社会保険料や資金繰り、金融機関への決算説明にもつながっています。さらに、将来の役員退職金や、事業承継時の株価、オーナー貸付金の整理といった論点とも、密接に結びついています。

ところが法人税の世界では、役員給与は通常の従業員給与や外注費のように「支払ったのだから当然に損金になる」とは扱われません。役員は会社の意思決定に関与する立場にあるため、支給額や支給時期を意のままに動かせば、会社の課税所得をいくらでも調整できてしまう。この点が、他の経費とは決定的に異なります。

そこで法人税法は、役員給与について損金算入できる類型をあらかじめ限定したうえで、不相当に高額な部分や、隠蔽・仮装経理による支給を損金不算入とする仕組みを設けています。国税庁の整理でも、平成29年4月1日以後の支給決議分について、役員給与のうち定期同額給与・事前確定届出給与・一定の業績連動給与のいずれにも該当しないものは損金に算入されず、これらに該当する場合であっても、不相当に高額な部分は損金に算入されないとされています。
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)

本稿では、役員給与の税務判断について、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与という支給類型に加え、改定時期、議事録・届出管理、過大役員給与といった観点から、実務に即して整理していきます。

目次

1. 役員給与は「事前に決め、決めたとおりに払う」ことが基本になる

法人税上の役員給与を理解するうえで、まず押さえておきたいのが、「事後的な利益調整を排除する」という考え方です。

役員給与は、経営者側が自ら決めやすい支出です。期末に利益が出そうだから役員賞与を支給する、赤字になりそうだから報酬を下げる、資金繰りの都合で一部だけ支払う――こうした処理を自由に認めてしまえば、法人税の課税所得は会社側で容易に操作できてしまいます。

そのため法人税法は、役員給与について、主に次の3つの類型に該当する場合に損金算入を認める構造を採っています。

  • 定期同額給与:毎月同額で支給する役員報酬
  • 事前確定届出給与:所定の時期に確定額を支給することを事前に定め、原則として税務署へ届け出るもの
  • 業績連動給与:一定の客観的な業績指標に連動し、適正な手続や開示等の要件を満たすもの

このうち、中小・中堅企業の実務で中心となるのは、定期同額給与と事前確定届出給与です。業績連動給与も制度としては存在しますが、同族会社では適用範囲が限定され、適正手続・開示・損金経理といった要件も重いため、一般的なオーナー企業では慎重な検討が求められます。

役員給与の税務判断は、「いくら払うか」だけの問題ではありません。いつ決めたか、誰が決めたか、どの職務に対する給与か、どの期間の職務執行に対応するのか。そして、支給額や支給時期が事前に確定しているか、実際の支給がその定めどおりか、議事録や届出できちんと説明できるか。こうした点を、ひとつずつ確認していく必要があります。

2. 役員給与の損金算入判断の全体像

役員給与を損金算入できるかどうかは、次の順序で確認していくと整理しやすくなります。

はじめに、その支給が法人税法上の「役員給与」に該当するかを確認します。ここでは、会社法上の取締役・監査役にとどまらず、法人税法上の役員、みなし役員、使用人兼務役員といった区分が問題になります。

続いて、その役員給与が、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれかに該当するかを見ていきます。

そのうえで、形式上はいずれかに該当していても、不相当に高額な部分がないか、隠蔽・仮装経理によって支給されたものではないかを確認します。法人税法34条は、不相当に高額な部分の金額や、事実を隠蔽・仮装して経理することにより役員へ支給する給与を、損金不算入とする構造を採っています。
出典:e-Gov法令検索|法人税法 出典:税務研究会|法人税法 第34条 役員給与の損金不算入

実務では、次の3つの軸で見ていくと判断しやすくなります。

  • 支給方法の要件:定期同額給与か、事前確定届出給与か、業績連動給与か、という類型の問題
  • 手続・期限の要件:株主総会・取締役会の決議、議事録、届出書、提出期限、変更届出、職務執行期間など
  • 金額の相当性:会社の規模、収益、職務内容、同業同規模法人の支給状況、役員の実際の関与度などから、不相当に高額でないかを確認する

この3つのうち、どれか一つでも弱いところがあると、税務調査の場面で損金算入が問題となってきます。

3. 定期同額給与の基本

定期同額給与とは、一般に、毎月同額で支給される役員報酬を指します。

国税庁は、定期同額給与について、支給時期が1か月以下の一定期間ごとで、その事業年度の各支給時期における支給額、または源泉税等控除後の金額が同額であるものと説明しています。また、定期給与の額を一定の時期や一定の事由により改定した場合には、改定前後のそれぞれの期間で同額であることが求められます。
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)

ここで気をつけたいのは、毎月同じ金額を払っていれば常に問題がない、という意味ではないという点です。

定期同額給与として認められるためには、あらかじめ定められた支給基準に基づいて、規則的・継続的に支給されていることが必要です。法人税基本通達9-2-12でも、「1月以下の一定の期間ごと」とは、あらかじめ定められた支給基準に基づき、毎日・毎週・毎月のように月以下の期間を単位として規則的に反復または継続して支給されるものとされています。
出典:国税庁|法人税基本通達 第3款 定期同額給与

たとえば、非常勤役員に対して年1回、あるいは年2回まとめて支給する給与は、仮に年額を月割りにすれば一定額に見えたとしても、定期同額給与には該当しません。こうした支給を行いたい場合は、事前確定届出給与としての検討が必要になる場面があります。

定期同額給与は、「毎月同じ金額を支払う制度」というより、「職務執行期間に対応する報酬を、事前に決めた支給基準に従って継続的に支払う制度」と理解しておいたほうが、実務にはよく馴染みます。

4. 役員給与の改定は原則として事業年度開始後3か月以内に行う

役員給与でもっとも多い実務上のつまずきが、事業年度途中の増額・減額です。

定期同額給与は、原則として、事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日までに、通常改定を行う必要があります。なお、申告期限延長の特例に係る税務署長の指定を受けている場合には、その指定月数に応じた取扱いがあります。
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)

中小企業では、決算後に定時株主総会を開き、その場で役員報酬を改定するのが一般的です。たとえば3月決算法人であれば、6月末までに定時株主総会を開催し、そこで役員報酬を決定するという流れが多くなります。

ここで注意しておきたいのは、「利益が出そうだから途中で上げる」「資金繰りが苦しいから途中で下げる」といった任意の改定は、原則として定期同額給与の要件を満たさない、という点です。

事業年度途中の改定が認められるのは、主に次のような場合に限られます。

① 通常改定
事業年度開始後3か月以内など、法令上認められた時期に行う改定です。

② 臨時改定事由による改定
役員の職制上の地位の変更、職務内容の重大な変更、その他これらに類するやむを得ない事情がある場合です。国税庁の通達では、社長退任に伴って副社長が社長に就任する場合や、合併に伴い役員の職務内容が大幅に変わる場合などが例示されています。
出典:国税庁|法人税基本通達 第3款 定期同額給与

③ 業績悪化改定事由による減額改定
経営状況が著しく悪化したこと、その他これに類する理由により、やむを得ず役員給与を減額せざるを得ない場合です。単なる一時的な資金繰りの都合や、業績目標値に達しなかったというだけの事情は、これに含まれないとされています。
出典:国税庁|法人税基本通達 第3款 定期同額給与

この区分を誤ると、増額部分や、改定後の一部が損金不算入となることがあります。国税庁の質疑応答事例でも、法令上認められる改定以外の増額改定があった場合には、一定の増額部分が損金不算入となる考え方が示されています。
出典:国税庁|定期給与の額を改定した場合の損金不算入額(定期同額給与)

5. 業績悪化改定事由は「都合のよい減額理由」ではない

役員報酬を減額する際に、「赤字になったから」「資金繰りが不安だから」という理由だけで、すぐに業績悪化改定事由に当てはまると考えてしまうのは、危険です。

業績悪化改定事由は、経営状況が著しく悪化するなど、やむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情がある場合を想定したものです。国税庁の通達でも、法人の一時的な資金繰りの都合や、単なる業績目標の未達は含まれないと明記されています。
出典:国税庁|法人税基本通達 第3款 定期同額給与

したがって、業績悪化改定事由による減額を行う場合には、次のような資料を残しておく必要があります。

  • 売上・利益・資金繰りの悪化を示す月次資料
  • 金融機関との協議資料
  • 取引先や株主への説明資料
  • 役員給与の減額が必要となった経営判断の記録
  • 減額前後の役員給与額と支給時期を示す議事録
  • 減額が一時的な利益調整ではなく、経営上やむを得ない判断であることを示す資料

役員給与の減額は、税務上は損金算入の問題ですが、経営の側から見れば、金融機関、従業員、後継者、株主に対する説明の問題でもあります。

「税務上認められるか」だけでなく、「なぜその時点で、その金額まで下げる必要があったのか」を、後からきちんと説明できる状態にしておく。ここが、実務では何よりも大切になります。

6. 事前確定届出給与は「賞与を払える制度」ではなく「事前に固定した制度」

役員に賞与を支給したいという場面で検討されるのが、事前確定届出給与です。

事前確定届出給与とは、役員の職務について、所定の時期に確定した額の金銭等を交付する旨の定めに基づいて支給される給与で、定期同額給与および業績連動給与のいずれにも該当しないものをいいます。多くの中小企業では、役員賞与を損金算入するための制度として理解されています。
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)

ただし、事前確定届出給与は、利益が出たときに後から賞与を払う制度ではありません。

誰に、いつ、いくら支給するかを事前に決め、その内容を原則として期限までに税務署へ届け出て、定めたとおりに支給する。これが、この制度の本質です。

金額や支給時期が届出と異なれば、損金算入に大きな影響が生じます。国税庁の質疑応答事例でも、届出書を期限内に提出していたとしても、特定の役員に届出額と異なる金額を支給した場合の取扱いが、問題として取り上げられています。
出典:国税庁|「事前確定届出給与に関する届出書」を提出している法人が特定の役員に当該届出書の記載額と異なる支給をした場合の取扱い

事前確定届出給与は、届出書を出しさえすればよい、というものではありません。決議、届出、実際の支給、会計処理、源泉徴収、資金繰りまでを、ひとつの流れとして一体で管理していく必要があります。

7. 事前確定届出給与の届出期限は厳格に管理する

事前確定届出給与でもっとも重要なのは、届出期限の管理です。

原則として、株主総会等の決議により定めをした場合には、その決議をした日から1か月を経過する日と、会計期間開始の日から4か月を経過する日などのいずれか早い日までに、所定の届出書を提出する必要があります。新設法人の場合や、臨時改定事由がある場合などには、別の取扱いが用意されています。
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分) 出典:国税庁|C1-23 事前確定届出給与に関する届出

国税庁の手続案内では、e-Taxソフトで届出書を作成・提出する方法や、書面提出の場合の提出部数も示されています。
出典:国税庁|C1-23 事前確定届出給与に関する届出

実務では、次のようなミスが起こりがちです。

  • 届出書を作成したものの、提出していなかった
  • e-Tax送信前の状態で止まっていた
  • 届出額と議事録の金額が一致していなかった
  • 支給日が届出と1日ずれていた
  • 資金繰りの都合で一部しか支給しなかった
  • 役員ごとの金額を誤って記載した
  • 前期に提出したから今期も有効だと誤解していた
  • 変更届出が必要な場面で対応していなかった

事前確定届出給与に係る届出書の提出失念や記載誤り、e-Tax送信の失念は、税賠事故としても繰り返し問題になってきた領域です。期限管理と提出確認を徹底することの重要性は、いくら強調してもし過ぎることはありません。

そのため、事前確定届出給与を使う場合には、単に「届出書を出す」だけでなく、次の項目をまとめて管理していく必要があります。

  • 株主総会・取締役会の決議日
  • 職務執行期間の開始日
  • 届出期限
  • 届出書の提出日
  • e-Tax送信完了の確認
  • 支給予定日
  • 支給予定額
  • 実際の支給日
  • 実際の支給額
  • 源泉所得税の処理
  • 法人税申告書上の確認

こうした管理が難しい場合には、事前確定届出給与にこだわらず、定期同額給与として年間報酬を設計するほうが、実務上は安定することもあります。

8. 業績連動給与は中小企業では慎重に考える

業績連動給与とは、利益・株価・売上高など、一定の業績指標を基礎として算定される役員給与です。

制度としては、業績に応じたインセンティブ報酬を損金算入できる余地を認めるものですが、その要件はかなり重くなっています。国税庁は、損金算入となる業績連動給与について、同族会社の場合には同族会社以外の法人との完全支配関係があるものに限られること、業務執行役員に対する給与であること、客観的な算定方法、適正な手続、開示、一定期限内の交付、損金経理といった要件を満たす必要があることを示しています。
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)

中小・中堅の非上場同族会社では、業績連動給与を気軽に使える場面は限られます。むしろ実務では、定期同額給与か事前確定届出給与のどちらで設計すべきかを検討する場面のほうが、はるかに多くなります。

「利益が出たら役員賞与を払う」という発想そのものは、ごく自然なものです。しかし、それを法人税上損金算入したいのであれば、事前確定届出給与として事前に金額・時期を固定するか、業績連動給与として厳格な要件を満たすか、いずれかの道を通る必要があります。

後から利益を見て支給額を決める――そうした処理は、法人税上、原則として損金算入が難しいと考えておくべきです。

9. 使用人兼務役員の給与は区分が重要になる

役員でありながら、部長・工場長・支店長など、使用人としての職務にも常時従事している方については、使用人兼務役員という論点が生じます。

法人税法上、使用人兼務役員に支給する使用人としての職務に対する給与は、役員給与の損金不算入規制から除かれます。ただし、誰もが使用人兼務役員になれるわけではありません。

国税庁は、使用人兼務役員になれない役員として、代表取締役、代表執行役、代表理事、清算人、副社長・専務・常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員、合同会社等の業務執行社員、監査役等、一定の同族会社の役員などを挙げています。
出典:国税庁|No.5205 役員のうち使用人兼務役員になれない人

また、法人税基本通達では、「使用人としての職制上の地位」とは、支店長・工場長・営業所長・支配人・主任等、法人の機構上定められている使用人たる職務上の地位をいうとされています。単に「総務担当」「経理担当」といった、部門統括に近い名称だけでは、使用人としての職制上の地位とは認められない場合があります。
出典:国税庁|法人税基本通達 第1款 役員等の範囲

使用人兼務役員については、役員部分と使用人部分を、明確に分けて整理しておく必要があります。

  • 役員としての職務に対する給与
  • 使用人としての職務に対する給与
  • それぞれの金額の決定根拠
  • 職務分掌
  • 社内規程
  • 他の従業員との給与水準の比較
  • 賞与の支給基準
  • 議事録や人事資料

こうした整理を怠ると、使用人部分として処理していた給与が、実質的には役員給与だとして問題になる可能性があります。

10. 株主総会議事録・取締役会議事録は税務上の証拠になる

役員給与は、会社法上の報酬決定手続と、法人税上の損金算入要件とが交差する論点です。

会社法上、取締役の報酬等は、定款に定めがないときは株主総会の決議によって定める必要があります。法人税上も、役員給与がいつ、誰に、いくら、どのような根拠で決定されたのかを示す資料として、株主総会議事録や取締役会議事録が極めて重要な役割を果たします。

とりわけ中小企業では、家族間や社内の口頭合意だけで役員報酬を決めている、というケースも少なくありません。しかし、税務調査や金融機関への説明、後継者への引継ぎ、M&Aの税務デューデリジェンスといった場面では、口頭説明だけではとうてい足りません。

株主総会議事録・取締役会議事録は、役員給与や役員退職給与の支給根拠、金額の確定日、意思決定の事実を示す、重要な証拠です。議事録がないからといって直ちにすべてが否認されるとは限りませんが、調査の場面での説明負担は、確実に大きくなります。

役員給与については、少なくとも次の事項を、議事録や関連資料に残しておくべきです。

  • 役員ごとの月額報酬
  • 改定前後の金額
  • 改定日と支給開始月
  • 改定理由
  • 職務内容・役職
  • 事前確定届出給与を支給する場合の支給日・支給額
  • 支給対象となる職務執行期間
  • 役員報酬総額の限度額
  • 取締役会に一任する場合の範囲
  • 資金繰りや業績悪化を理由に減額する場合の背景資料

議事録は、形式的に作りさえすればよい、というものではありません。実際の意思決定と整合していることが前提です。議事録、届出書、給与台帳、総勘定元帳、源泉所得税の処理、法人税申告書――これらが一本の線でつながっていることが、何より重要になります。

11. 過大役員給与は形式要件を満たしても損金にならない

役員給与が定期同額給与や事前確定届出給与に該当していても、不相当に高額な部分は、損金に算入されません。

この点は、実務でも見落とされがちです。毎月同額で支給している、期限内に届出をしている、議事録もある――それだけでは十分とはいえません。金額そのものが、役員の職務内容、会社の収益、使用人給与、同業同規模法人の支給状況などに照らして不相当に高額であれば、その部分は損金不算入となります。

過大役員給与の判断では、次のような観点が問われます。

  • 会社の規模や収益水準に比べて高額すぎないか
  • 役員の実際の職務内容に見合っているか
  • 親族役員が実際に勤務しているか
  • 他の役員や従業員とのバランスはどうか
  • 同業同規模法人と比較して著しく高くないか
  • 利益調整目的で不自然に増額されていないか
  • 役員退職金の算定基礎となる最終報酬月額を、不自然に引き上げていないか

とりわけ、役員退職金の支給を予定している場合には注意が必要です。最終報酬月額は、功績倍率法などの計算基礎になることがあります。そのため、退職直前に役員報酬を増額する処理は、役員給与自体の相当性だけでなく、将来の役員退職給与の相当性にまで影響を及ぼします。

役員給与の金額設計は、単年度の法人税だけでなく、将来の退職金、株価、承継、金融機関対応まで見据えて行う必要があります。

12. 隠蔽・仮装経理による役員給与は全額損金不算入になる

法人税法34条は、事実を隠蔽し、または仮装して経理することにより役員に支給する給与について、その全額を損金不算入としています。
出典:e-Gov法令検索|法人税法 出典:税務研究会|法人税法 第34条 役員給与の損金不算入

これは、定期同額給与や事前確定届出給与の要件を検討する以前の問題です。

たとえば、架空外注費、架空仕入、簿外資金、親族名義の給与、実態のない顧問料、個人的支出の会社負担などを通じて、実質的に役員へ経済的利益を移転している場合。こうしたケースでは、役員給与として損金算入が問題になるだけにとどまらず、重加算税や源泉所得税、さらには役員個人側の所得税にまで波及する可能性があります。

役員給与の税務判断では、「毎月同額だから大丈夫」という表面的な見方ではなく、実際に誰がどの職務を行い、何の対価として支給され、会社の帳簿上どのように処理されているのかを、丁寧に確認していく必要があります。

13. 役員給与は源泉所得税・社会保険・資金繰りにも影響する

本稿では法人税上の損金算入を中心に扱っていますが、役員給与の判断は、法人税だけで完結するものではありません。

役員給与を支給すれば、原則として所得税・復興特別所得税の源泉徴収が必要になります。加えて、住民税の特別徴収、社会保険料、年末調整、役員個人の所得税負担にも影響が及びます。

役員報酬を増額すれば、法人税の課税所得は減る可能性がありますが、その分、個人側の所得税・住民税・社会保険料は増えます。反対に減額すれば、法人税は増える可能性がある一方で、個人側の負担は下がり、会社の資金繰りにも影響します。

つまり、役員給与の設計は、法人税だけを見て判断してはいけない、ということです。

  • 法人税
  • 所得税・住民税
  • 社会保険料
  • 会社の資金繰り
  • 金融機関に提出する決算書
  • 役員退職金の将来設計
  • 事業承継時の株価
  • オーナー貸付金や役員借入金の整理
  • グループ会社間の出向負担金
  • M&A時の正常収益調整

これらを、一体のものとして考えていく必要があります。

とりわけオーナー企業では、会社と経営者個人との資金移動が近接しているため、役員報酬、役員退職金、貸付金・借入金、債権放棄、DES、自己株式取得などが互いに連動します。役員給与の減額分でオーナー借入金を返済する、役員退職金と貸付金を相殺する――こうした整理を検討する場合には、法人税だけでなく、所得税、相続税、株価、資金繰りまでを見渡して確認する必要があります。

14. 役員給与の決定前に確認すべき実務論点

役員給与を決定する前には、少なくとも次の事項を確認しておくことが望まれます。

まず、前期の役員給与、当期の利益見通し、資金繰り、納税予測を確認します。役員給与は、一度決めてしまうと、原則として事業年度の途中で自由に変更することができません。ですから、決算が終わってから考えるのではなく、事業計画と月次決算を踏まえたうえで、あらかじめ検討しておく必要があります。

次に、役員ごとの職務内容を確認します。代表者、専務、常務、非常勤役員、親族役員、使用人兼務役員では、求められる説明の内容がそれぞれ異なるためです。

さらに、支給方法を決めます。毎月同額で支給するのか、賞与的に支給したいのか、業績連動型の報酬を検討するのか。選ぶ方法によって、必要となる手続が変わってきます。

そのうえで、株主総会・取締役会の決議、議事録、事前確定届出給与の届出書、給与台帳、源泉処理、資金繰り予定を、互いに整合させていきます。

役員給与については、「決める前」に税務判断を行うことが、何より重要です。決算直前や申告時になって初めて相談しても、すでに改定時期や届出期限を過ぎてしまっている、ということが少なくありません。

15. 税務調査で確認されやすい役員給与のポイント

税務調査では、役員給与について、次のような点が確認されます。

  • 役員報酬の決定議事録があるか
  • 役員ごとの支給額が、議事録と給与台帳で一致しているか
  • 事業年度途中の増減がないか
  • 増減がある場合、その理由が通常改定・臨時改定事由・業績悪化改定事由に該当するか
  • 事前確定届出給与について、届出期限を守っているか
  • 届出額・届出日・支給日・支給額が一致しているか
  • 親族役員が実際に勤務しているか
  • 非常勤役員への支給額が、職務に見合っているか
  • 使用人兼務役員の役員部分と使用人部分が、区分されているか
  • 役員退職金の算定基礎となる報酬額に、不自然な増額がないか
  • 法人税申告書の別表調整が適切か
  • 源泉所得税の処理が適切か

役員給与は、調査官の目から見ると、会社の意思決定、同族関係、資金移動、利益調整の有無が現れやすい科目です。だからこそ、金額そのものだけでなく、その決定過程と、それを裏づける資料化が重要になります。

16. 役員給与の設計は経営判断である

役員給与は、税務上の要件さえ満たせばよい、という論点ではありません。

役員報酬を高くすれば、会社の利益は下がり、法人税負担は減る可能性があります。しかしその一方で、個人側の所得税・住民税・社会保険料は増えます。金融機関から見た営業利益や経常利益も下がりますし、将来のM&Aでは、役員報酬が正常収益の調整項目として見られることもあります。

反対に役員報酬を低くすれば、会社の利益は増え、金融機関への見え方はよくなることがあります。けれども、経営者個人の生活資金、社会保険、退職金設計、相続対策には影響が及びます。報酬を低く抑えすぎた状態で役員退職金を計算すれば、退職金の相当額の判断にも響いてきます。

したがって、役員給与は、次のような視点から設計していく必要があります。

  • 会社に利益を残すのか
  • 経営者個人に所得を移すのか
  • 法人税と個人税・社会保険を、どうバランスさせるのか
  • 金融機関に、どのような決算書を見せるのか
  • 将来の退職金を、どう設計するのか
  • 事業承継時の株価に、どう影響するのか
  • M&Aや組織再編時に、説明できる報酬水準か
  • 税務調査で、支給根拠を説明できるか

役員給与は、毎月の給与設定であると同時に、会社の利益計画・資金計画・承継計画に関わる、重要な意思決定です。

17. 役員給与を決める前に整えておくべき資料

役員給与について、後からきちんと説明できる状態を作るには、次の資料を整えておくことが重要です。

  • 定款
  • 株主名簿
  • 株主総会議事録
  • 取締役会議事録
  • 役員報酬規程
  • 役員退職慰労金規程
  • 役員ごとの職務分掌
  • 前期・当期の月次試算表
  • 事業計画・資金繰り表
  • 給与台帳
  • 源泉所得税納付資料
  • 事前確定届出給与に関する届出書
  • e-Tax送信完了記録
  • 役員報酬改定の理由を示す資料
  • 業績悪化時の金融機関・株主・取引先への説明資料
  • 同業他社や社内給与水準との比較資料

これらを整えておくことで、税務調査はもちろん、金融機関対応、後継者への引継ぎ、M&Aの税務デューデリジェンスにも、落ち着いて対応しやすくなります。

18. まとめ:役員給与は「金額」より先に「設計」と「記録」が重要

役員給与の税務判断では、いくら支払うかだけを考えていたのでは、不十分です。

  • 定期同額給与として毎月同額で支給するのか
  • 事前確定届出給与として賞与的に支給するのか
  • 業績連動給与を検討できる会社なのか
  • 改定時期は適切か
  • 改定理由は説明できるか
  • 株主総会・取締役会の決議はあるか
  • 議事録と給与台帳は一致しているか
  • 届出期限を守っているか
  • 支給額・支給日が届出どおりか
  • 金額は、職務内容や会社規模に照らして相当か
  • 将来の退職金、承継、M&A、金融機関対応にどう影響するか

こうした点を事前に確認しておくことで、役員給与は単なる節税手段ではなく、会社の数字を整え、経営判断を支える制度へと変わっていきます。

反対に、前年踏襲や口頭決定、期限管理の不備、利益を見てからの後出し判断は、税務上の否認リスクを高めるだけです。

役員給与は、決算後や申告直前になって処理するものではありません。事業年度開始前後の早い段階で、月次決算、資金繰り、納税予測、役員の職務、将来の承継方針を踏まえながら設計すべき論点です。

重要事項の振り返り

確認項目実務上の意味判断を誤った場合の主なリスク
定期同額給与毎月同額で継続支給する役員給与の基本類型途中改定により一部損金不算入
通常改定原則として事業年度開始後3か月以内などに行う改定改定時期を誤ると増額部分等が否認される可能性
臨時改定事由職制上の地位変更や職務内容の重大変更に伴う改定単なる任意改定と見られるリスク
業績悪化改定事由やむを得ず減額せざるを得ない客観的事情による改定一時的資金繰りや目標未達では認められない可能性
事前確定届出給与支給日・支給額を事前に確定し届出する給与届出失念、金額誤り、支給日ずれで損金不算入
業績連動給与客観的指標・適正手続・開示等を満たす給与中小同族会社では適用範囲が限定的
使用人兼務役員役員部分と使用人部分の区分が必要使用人部分が役員給与と判断される可能性
議事録・届出管理決定日、金額、支給時期、職務執行期間を証明する資料税務調査で説明困難になる
過大役員給与金額の相当性を確認する必要形式要件を満たしても不相当に高額な部分が損金不算入
隠蔽・仮装経理実態を偽って役員へ利益移転する処理全額損金不算入、重加算税、源泉・個人課税への波及

役員給与について、定期同額給与の改定時期、事前確定届出給与の届出期限、役員ごとの支給額の相当性、議事録・届出書・給与台帳の整合性に不安がある場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所へご相談ください。決算・申告にとどまらず、月次の利益計画、資金繰り、役員退職金、事業承継、金融機関対応まで見据えて、後からきちんと説明できる役員給与の設計を、ご一緒に整理してまいります。

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