グループ通算制度の開始・加入・離脱|時価評価・欠損金切捨て・みなし事業年度で失敗しない判断軸

グループ通算制度を検討するとき、多くの経営者の方がまず気にされるのは、「黒字会社と赤字会社を通算できるのか」「結局、税負担は下がるのか」といった点ではないでしょうか。

もっとも、実務でつまずきやすいのは、制度を適用したあとの損益通算の計算だけではありません。むしろ注意が必要なのは、次の3つの局面です。

局面典型的な場面実務上のリスク
開始既存の100%グループで通算制度を導入する承認申請、対象法人の漏れ、時価評価、欠損金切捨て
加入M&A、追加取得、株式交換等により新たな100%子会社が入る加入日、みなし事業年度、時価評価、過年度欠損金の持込み制限
離脱子会社株式の売却、合併、清算、完全支配関係の消滅離脱日の判定、離脱前後の申告、時価評価、投資簿価修正、地方税

グループ通算制度は、完全支配関係にある企業グループ内の各法人を納税単位とし、それぞれが個別に法人税額を計算・申告したうえで、その中で損益通算などの調整を行う制度です。開始時・加入時の時価評価課税や欠損金の持込みなどについては、組織再編税制と整合のとれた仕組みとして設計されています。
出典:国税庁|No.5900 グループ通算制度の概要

言い換えれば、この制度は「赤字と黒字を相殺できる便利な仕組み」というだけのものではありません。グループの入口と出口の双方で、資産の時価評価、繰越欠損金、申告期間、地方税、会計処理にまで大きく影響が及ぶ制度なのです。

本記事では、グループ通算制度の開始・加入・離脱について、申告ソフト上の細かな操作ではなく、経営判断・税務判断として何を確認すべきかという観点から整理していきます。

目次

グループ通算制度は「入り方」と「出方」で税務影響が変わる

グループ通算制度では、制度を開始する時点、新たな法人が加入する時点、そして法人が離脱する時点で、それぞれ税務上の境界線が引かれます。

この境界線の引き方を誤ると、次のような問題が生じます。

誤りやすい判断起こり得る影響
承認申請の期限を過ぎる希望する事業年度から制度を適用できない
通算対象法人を選別できると考える100%子会社の申請漏れ・対象法人の誤認が生じる
加入日を株式譲渡契約日と混同するみなし事業年度、単体申告期間、通算申告期間を誤る
時価評価の有無を見落とす含み益課税、含み損認識、税効果会計を誤る
繰越欠損金が当然に持ち込めると考える欠損金切捨て・特定欠損金化を見落とす
離脱時に申告期間を切らない離脱前後の法人税・地方税申告を誤る
法人税だけで有利不利を判断する地方税、通算税効果額、会計上の影響を見落とす

開始・加入・離脱は、単なる届出や手続の問題ではありません。グループ経営の形を、税務上どのように切り取るかという判断そのものだとお考えください。

開始・加入・離脱の全体像

まず、3つの局面の違いを整理しておきます。

区分何が起きるか主な確認事項
開始既存の完全支配グループが通算制度を適用し始める承認申請、対象法人、開始日、決算期、時価評価、欠損金
加入既に通算制度を適用しているグループに新法人が入る完全支配関係発生日、加入日、加入時期特例、時価評価、欠損金
離脱通算子法人が通算グループから外れる完全支配関係消滅日、離脱日、離脱前後の申告、時価評価、地方税

開始は、制度を選ぶかどうかという問題です。加入は、M&Aや追加取得など、グループ構成が変化する場面の問題です。そして離脱は、売却・再編・清算といった出口戦略の問題として現れます。

いずれの局面も、法人税申告だけで完結するものではありません。株式取得契約、組織再編契約、取締役会決議、事業計画、税効果会計、通算税効果額の社内精算と、幅広く結び付いてきます。

グループ通算制度の開始|承認申請は「全法人連名」が基本

グループ通算制度を開始するには、親法人と、その親法人との間に完全支配関係がある子法人のすべてが、国税庁長官の承認を受ける必要があります。

承認申請書は、原則として、通算親法人が制度の適用を受けようとする最初の事業年度開始の日の3月前の日までに提出しなければなりません。提出にあたっては、親法人および子法人すべての連名で、通算親法人の納税地の所轄税務署長を経由して、国税庁長官宛てに提出します。
出典:国税庁|No.5900 グループ通算制度の概要 出典:国税庁|通算制度の承認の申請書の提出期限

ここで押さえておきたいのは、「有利な会社だけを選んで通算制度に入れる」ことはできないという点です。

完全支配関係にある対象法人を整理しないまま申請すると、申請漏れや対象外法人の混入が起こります。実際、申請を行っていない通算予定法人がある場合や、通算予定法人以外の法人が含まれている場合などは、承認申請の却下事由になり得るとされています。
出典:国税庁|No.5900 グループ通算制度の概要

開始前に確認しておきたい事項は、少なくとも次のとおりです。

確認項目実務上の確認内容
親法人になれるか清算中でないか、他法人の100%子法人でないか、通算除外法人でないか
子法人になれるか親法人との完全支配関係があるか、除外法人に該当しないか
外国法人・通算除外法人の介在完全支配関係の判定上、制度対象となる関係か
決算期親法人と子法人の決算期が異なる場合の事業年度処理
過年度欠損金開始前欠損金が切り捨てられるか、特定欠損金として残るか
含み損益資産時価評価資産の有無、評価益課税・評価損の発生可能性
会計影響繰延税金資産、通算税効果額、グループ内精算規程

グループ通算制度は、開始後の税額だけを見て導入を決めてよい制度ではありません。開始前の段階で、グループ内の法人構成、過年度欠損金、含み損益、決算期、さらには今後の再編予定まで見渡しておく必要があります。

開始時のみなし事業年度|決算期が違う子会社は特に注意

通算制度を開始する際には、通算親法人の事業年度に合わせて、通算子法人の事業年度が区切られます。

承認申請について、最初の事業年度開始日の前日までに承認または却下の処分がなかった場合には、通算親法人となる法人および通算子法人となる法人のすべてにつき、その開始日に承認があったものとみなされ、同日から効力が生じます。これに伴い、通算子法人となる法人の事業年度は、承認の効力が生ずることで、その前日に終了する取扱いとなります。
出典:国税庁|通算親法人となる法人と決算期が異なる通算子法人となる法人の通算制度の規定の適用時期と事業年度の特例

たとえば、親会社が3月決算、子会社が9月決算で、4月1日から通算制度を開始するとします。この場合、子会社は通常の9月決算とは別に、開始日前日までの期間について単体申告を行う必要が出てきます。

この「みなし事業年度」は、税務担当者だけの問題にとどまりません。

影響領域注意点
月次決算途中期間で、税務申告に使える精度の損益を締める必要がある
消費税・地方税法人税以外の申告期間・課税標準も確認する必要がある
税額控除適用年度、月数按分、申告書添付を確認する必要がある
資金繰り通常と異なるタイミングで納税・還付が発生する可能性がある
金融機関説明変則決算・短期事業年度の利益を説明できるようにしておく必要がある

制度開始を「期首からだからシンプルだ」と捉えてしまうと、決算期の異なる子会社で申告漏れや資料不足が起こりやすくなります。ここは特に丁寧に確認しておきたいところです。

グループ通算制度への加入|M&A・追加取得では「加入日」が税務の分岐点になる

既にグループ通算制度を適用している親法人が、他の法人との間に完全支配関係を有することとなった場合、その法人は原則として通算グループに加入します。

内国法人が通算親法人との間に完全支配関係を有することとなったときは、原則として、その完全支配関係を有することとなった日に通算制度の承認があったものとみなされ、加入日から効力が生じます。そして、その法人の事業年度は、加入日の前日に終了します。
出典:国税庁|通算制度に加入する場合の事業年度の特例

たとえば、3月決算のP社が、10月1日にS社の発行済株式のすべてを取得したとします。この場合、S社の申告期間は次のように分かれます。

期間申告の考え方
4月1日〜9月30日通算制度を適用しない単体申告
10月1日〜翌3月31日P社の通算子法人として通算制度を適用して申告

ここで注意したいのは、加入日はM&A契約上の「契約締結日」とは限らないという点です。通常は、株式譲渡の実行日、すなわち完全支配関係が実際に成立した日が問題になります。

したがって、M&Aの税務デューデリジェンスや契約交渉の段階で、次の点を事前に確認しておく必要があります。

確認項目実務上の意味
株式取得割合100%取得か、一部少数株主が残るか
クロージング日完全支配関係が成立する日が加入日になるか
決算期加入日前後で短期事業年度が発生するか
繰越欠損金加入前欠損金が切り捨てられるか
含み損益資産時価評価課税が生じるか
税務調査履歴過去申告の修正が加入後の管理に影響しないか
取得後の売却予定短期離脱・投資簿価修正・時価評価の問題がないか

とりわけ、赤字会社や含み損資産を持つ会社を買収する場面では、「通算グループに入れれば欠損金や損失を活用できる」と単純に考えてしまうのは危険です。グループ通算制度では、開始・加入前の繰越欠損金や含み損の取扱いについて、組織再編税制と整合する形で制限が設けられているためです。

加入時期の特例|事務負担は軽くできるが、税効果の発生時期は変わる

会計期間の中途で100%子会社化した場合、原則どおり加入日に事業年度を区切ると、短期事業年度が発生します。

この負担を軽減するために、一定の場合には、会計期間の末日の翌日を加入日とする「加入時期の特例」が用意されています。会計期間の中途で通算制度に加入する法人がこの特例を適用したときは、その会計期間については通算制度を適用しないで申告し、翌事業年度から通算制度の規定を適用して申告する、という取扱いになります。なお、この特例を受けるには、一定の期限までに通算親法人が所定の書類を納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。
出典:国税庁|会計期間の中途で通算制度に加入する法人の加入時期の特例

この特例は、事務負担の面では確かに有効です。短期事業年度の申告、会計処理、税効果計算、地方税申告を、まとめて簡素化できる可能性があります。

ただし、この特例を使うかどうかは、税額だけでなく、次の観点からも検討する必要があります。

観点確認すべきこと
損益通算のタイミング加入を翌期扱いにすることで、当期の損益通算効果が遅れる
欠損金の取扱い加入前欠損金の判定時期、切捨ての有無を確認する
時価評価時価評価の基準時点・対象資産を確認する
会計処理連結上の取得日、みなし取得日、税務上の加入日がズレる可能性がある
契約条項株式譲渡契約上の価格調整、税務補償、未払税金条項と整合するか

加入時期の特例は、「使えるなら使う」というものではありません。税務・会計・M&A契約・資金繰りを合わせて判断すべき制度だとお考えください。

離脱|完全支配関係がなくなる日は、申告期間の境界になる

通算子法人の株式を外部へ譲渡した場合、合併・清算・破産等があった場合、あるいは通算親法人との完全支配関係がなくなった場合には、通算制度からの離脱が問題になります。

通算子法人が通算親法人との間に通算完全支配関係を有しなくなったときは、その通算子法人について、有しなくなった日から通算制度の承認の効力が失われます。そして、その通算子法人の事業年度は、有しなくなった日の前日に終了します。
出典:国税庁|通算制度から離脱する場合の事業年度の特例

たとえば、P社が10月1日にS社株式の50%を外部へ譲渡し、S社が通算グループから離脱したとします。この場合、S社の申告は次のように分かれます。

期間税務上の位置づけ
P社事業年度開始日〜離脱日の前日通算法人として申告。ただし、一定の場合には損益通算等は適用されない
離脱日〜S社本来の事業年度終了日通算制度を適用しない単体申告

ここで見落とされやすいのが、離脱前の期間の扱いです。通算親法人の事業年度開始日から離脱日の前日までの期間については、通算法人として申告するものの、その事業年度が通算親法人の事業年度終了日に終了しないため、損益通算の規定等の適用はないとされています。
出典:国税庁|通算制度から離脱する場合の事業年度の特例

この点は、実務で非常に間違えやすいところです。

「離脱日までは通算法人なのだから、当然に損益通算できるはずだ」と考えるのではなく、その事業年度が通算親法人の事業年度終了日に終了するのか、損益通算等の適用要件を満たすのかを、丁寧に確認する必要があります。

離脱時に承認の効力を失う場合

通算制度の承認の効力が失われる場面は、子会社株式の売却だけにとどまりません。

青色申告承認の取消処分を受けた場合、通算親法人が解散した場合、通算子法人が通算親法人との間に通算完全支配関係を有しなくなった場合、通算法人が通算親法人のみとなった場合など、一定の事実が生じたときに、通算制度の承認の効力が失われるとされています。
出典:国税庁|通算制度の承認の効力を失う場合

実務で特に注意しておきたい離脱事由は、次のとおりです。

離脱・効力喪失の原因実務上の注意点
子会社株式の一部売却100%支配が崩れた日が離脱日になる
子会社の合併消滅合併日、適格性、欠損金、投資簿価修正を確認
子会社の清算・残余財産確定清算中申告、残余財産分配、みなし配当も確認
親法人の解散グループ全体の通算制度が終了する可能性
親法人が他法人の100%子会社になる通算親法人としての地位喪失を確認
青色申告承認取消し申告品質・帳簿保存・期限管理に重大な影響

離脱は、単に「来期から単体申告に戻る」という話ではありません。離脱日の前後で短期事業年度が発生し、時価評価、投資簿価修正、税務調査リスク、地方税、会計処理が同時に動き出します。

開始・加入時の時価評価|含み益課税が先に発生することがある

グループ通算制度の開始・加入で、とりわけ重い論点となるのが時価評価です。

開始・加入の時点で一定の法人が時価評価対象法人に該当すると、その法人が有する一定の資産について時価評価を行い、評価益または評価損を、開始直前事業年度・加入直前事業年度の益金または損金として認識することになります。

時価評価の対象となる資産としては、固定資産、棚卸資産たる土地、土地の上に存する権利、有価証券、金銭債権、繰延資産が挙げられます。ただし、帳簿価額が1,000万円に満たない資産など、一定の資産は対象から除かれます。
出典:国税庁|時価評価資産の範囲

時価評価の対象になり得る主な資産を整理すると、次のとおりです。

資産区分実務上の確認例
固定資産不動産、建物附属設備、機械装置、ソフトウェア等
棚卸資産たる土地等販売用不動産、開発用土地等
有価証券子会社株式、投資有価証券、非上場株式等
金銭債権貸付金、売掛金、長期未収入金等
繰延資産開発費、社債発行費等

時価評価が必要になると、実際には資産を売却していなくても、含み益に対する法人税負担が発生する可能性があります。逆に、含み損を認識できる場合であっても、その後の損益通算や欠損金利用には別の制限がかかることがあります。

そのため、開始・加入の前には、固定資産台帳、土地評価資料、有価証券明細、貸付金明細、過去の評価損益資料を確認し、「時価評価が必要か」「必要な場合の税額影響はいくらか」を試算しておく必要があります。開始・加入時の時価評価は、開始直前・加入直前の最後の単体納税期間で処理されるものです。したがって、税務上の境界時点を誤ると、申告期間そのものを誤ることにつながります。

時価評価を要しない法人でも、安心とは限らない

開始・加入時には、時価評価を要しない法人もあります。

通算制度の開始に伴う時価評価を要しない法人としては、通算親法人となる法人と通算子法人となる法人との間に完全支配関係が継続することが見込まれている場合の、通算親法人・通算子法人が挙げられています。
出典:国税庁|通算制度の開始に伴う時価評価を要しない法人

加入時についても、通算法人が完全支配関係のある法人を設立した場合のその法人、適格株式交換等に係る株式交換等完全子法人、加入直前に支配関係があり一定の従業者継続要件・事業継続要件を満たす法人などが、時価評価を要しない法人として整理されています。
出典:国税庁|通算制度への加入に伴う時価評価を要しない法人

ただし、「時価評価をしない=税務リスクがない」というわけではありません。

時価評価除外法人であっても、支配関係の継続要件や共同事業性を満たさず、支配関係発生日後に新たな事業を開始した場合などには、開始・加入前の繰越欠損金の切捨てや、開始・加入後の含み損等の損金算入制限が問題になります。

つまり、開始・加入時には、次の順番で確認していく必要があります。

順番確認内容
1時価評価対象法人に該当するか
2時価評価資産を有しているか
3時価評価除外法人に該当する場合でも、欠損金切捨てや含み損制限がないか
4支配関係発生日、5年要件、共同事業性、新規事業開始の有無を確認する
5将来の損益通算・欠損金通算・税効果会計への影響を確認する

時価評価の有無だけで判断してしまうと、欠損金や含み損の制限を見落とすことになります。

開始・加入時の繰越欠損金切捨て|「赤字会社を入れれば使える」とは限らない

グループ通算制度で最も誤解されやすいのが、繰越欠損金の持込みです。

通算法人が時価評価除外法人に該当しない場合には、通算制度の承認の効力が生じた日以後に開始する各事業年度について、同日前に開始した各事業年度に生じた欠損金額はないものとされます。また、時価評価除外法人に該当する場合であっても、支配関係発生日後に新たな事業を開始するなど一定の要件に該当するときは、所定の過年度欠損金額が切り捨てられます。
出典:国税庁|通算制度の開始・加入の際の過年度の欠損金額の切捨て

実務上のポイントは、次のとおりです。

欠損金の種類・状況確認すべきこと
開始前の親法人の欠損金自社所得を限度に使う特定欠損金か、切捨て対象か
開始前の子法人の欠損金時価評価対象法人に該当するか、持込み可能か
M&A対象会社の欠損金取得後に通算グループで使えると考えてよいか
支配関係発生前からある資産の損失特定資産譲渡等損失として制限されないか
事業内容の変更支配関係発生日後に新たな事業を開始したか
将来所得欠損金が残っても、実際に控除できる所得があるか

赤字会社を買収して通算グループに入れる際には、買収価格の前提として「繰越欠損金の価値」を織り込んでいることがあります。しかし、欠損金が切り捨てられる、あるいは特定欠損金として自社所得を限度にしか使えないとなれば、その価値は大きく変わってきます。

M&Aやグループ再編では、欠損金残高だけを見るのでは足りません。発生年度、青色申告要件、支配関係発生日、共同事業性、事業変更、含み損資産、将来所得を、一体として確認しておく必要があります。

損益通算対象外欠損金と特定資産譲渡等損失にも注意する

開始・加入後であっても、一定の欠損金は損益通算の対象外となることがあります。

たとえば、時価評価除外法人であっても、5年前の日または設立日からの支配関係継続要件や共同事業性の要件を満たさない場合には、注意が必要です。一定期間内に生じた欠損金のうち、減価償却費割合が高い場合の欠損金や、支配関係発生前から有する資産の実現損から成る欠損金については、損益通算の対象外となることがあります。これらは、その後、特定欠損金として扱われることがあります。

こうした制限には、赤字会社や含み損資産を持つ会社をグループに入れ、その損失を黒字会社の所得と通算することを防ぐという趣旨があります。

実務上は、次のような場面で必ず確認しておきたいところです。

場面確認すべき論点
含み損不動産を持つ会社を買収する取得後に売却損を通算できるか
減価償却費が大きい会社を加入させる償却費由来の欠損が損益通算対象外にならないか
休眠会社・赤字会社を再稼働する新たな事業開始と見られないか
事業内容を大きく変更する共同事業性・支配関係継続要件を満たすか
グループ再編後に資産売却を予定する特定資産譲渡等損失の損金不算入がないか

この論点は、組織再編税制における繰越欠損金制限・特定資産譲渡等損失制限とも、発想が近いものです。本シリーズでは、組織再編側の詳細を「9-7. 組織再編における繰越欠損金と特定資産譲渡等損失」で扱いますが、グループ通算制度の開始・加入時にも、同じ視点が求められます。

離脱時の時価評価|含み損の二重利用を防ぐための出口規制

時価評価は、離脱時にも問題となります。

通算制度からの離脱等に当たり、次の通算法人が時価評価を要する法人として挙げられています。

時価評価を要する法人実務上の意味
離脱前に行う主要な事業が離脱後に引き続き行われることが見込まれていない法人事業を継続しない会社の含み損益を外へ持ち出す場合に注意
その通算法人の株式を有する他の通算法人において、離脱後にその株式の譲渡等による損失の計上が見込まれる場合のその通算法人株式譲渡損と資産含み損の二重利用を防ぐ趣旨

出典:国税庁|通算制度からの離脱等に伴う時価評価を要する法人

グループ通算制度では、離脱法人が含み損資産を持ったまま外部へ出ていき、その株式譲渡損と資産処分損を二重に利用する、といった事態を防ぐため、一定の場合に離脱時の時価評価が行われます。

そのため、子会社売却を検討する際には、売却価格、株式簿価、対象会社の簿価純資産、含み損益資産、離脱後の事業継続見込みを確認しておく必要があります。

とりわけ、売却対象会社に不動産、投資有価証券、貸付金、繰延資産、評価損リスクのある債権がある場合には、離脱時の税額影響を早めに試算しておくのが賢明です。

離脱初年度の欠損金|最初の事業年度終了前に離脱する場合の例外

通算制度の適用を受けようとする最初の事業年度の途中で、通算子法人が離脱することもあります。

この点、通算制度の適用を受けようとする最初の事業年度終了前に通算子法人が離脱した場合には、その通算子法人の通算制度開始前の欠損金額は、離脱後も引き続きその法人の欠損金額となるとされています。しかも、この取扱いは、その法人が時価評価除外法人に該当しない場合であっても同様とされています。
出典:国税庁|通算制度の適用を受けようとする最初の事業年度終了前に離脱した通算子法人の過年度の欠損金額の取扱い

この取扱いは、短期間で加入・離脱が発生するM&Aや再編において重要な意味を持ちます。

ただし、「初年度に離脱すれば欠損金が必ず有利に残る」と、安易に理解すべきではありません。離脱までの期間に損益通算等が適用されるのか、時価評価や投資簿価修正が生じるのか、地方税でどう扱われるのか、さらには売買契約上の税務補償をどう設計するのか。こうした点を合わせて検討する必要があります。

地方税|法人税と同じ通算効果が出るとは限らない

グループ通算制度は、法人税を中心とする制度です。対象税目も法人税とされています。
出典:国税庁|No.5900 グループ通算制度の概要

一方、地方税については、法人税と同じように単純に損益通算・欠損金通算が行われるわけではありません。法人事業税・法人都民税については、地域における受益と負担の関係等に配慮し、従前同様、個々の法人を納税単位とすることとされています。また、法人税のグループ通算制度の影響を遮断し、実質的な負担を通算法人以外の法人と同様とするための制度として整理されています。
出典:東京都主税局|通算法人の法人事業税 法人都民税の概要

実務上は、法人税で欠損金が切り捨てられても、地方税では同じように切り捨てられない場合があります。反対に、法人税で損益通算が行われても、法人事業税や法人住民税では、制度の影響を遮断するための調整が必要になります。

そのため、グループ通算制度の開始・加入・離脱を検討するときは、税目を分けて試算しておくことが欠かせません。

税目確認すべきこと
法人税損益通算、欠損金通算、時価評価、欠損金切捨て
地方法人税法人税額に連動するため、通算計算の影響を受ける
法人住民税法人税割の課税標準調整、欠損調整額等
法人事業税個々の法人を納税単位とする取扱い、所得割・外形標準
特別法人事業税法人事業税との関係

法人税だけを見て「税負担が下がる」と判断してしまうと、地方税や外形標準課税を含めた実際の資金流出を見誤ることになります。

通算税効果額・会計処理|社内精算ルールがないと、後から揉める

グループ通算制度では、損益通算や欠損金通算により、ある法人の欠損金が他法人の税負担軽減に寄与することがあります。

この税負担軽減効果を、グループ内でどのように精算するか。これが通算税効果額の論点です。

実務対応報告第42号は、グループ通算制度を適用する場合における法人税・地方法人税、ならびに税効果会計の会計処理および開示の取扱いを明らかにするものです。この実務対応報告は、通算税効果額の授受を行うことを前提としており、授受を行わない場合の会計処理および開示については取り扱っていません。
出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第42号 グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い

通算税効果額の授受を行うかどうか、行う場合にはどの範囲を対象とし、どの税率で計算し、いつ精算するのか。これらは、グループ内規程や契約であらかじめ明確にしておく必要があります。実務上も、通算税効果額については授受が任意であり、計算対象・計算方法・精算方法が法令で細かく定められていません。だからこそ、社内規程や契約で明文化しておくことが望まれます。

特に、次のような会社では、通算税効果額のルールが重要になります。

会社の状況なぜ重要か
少数株主がいる子会社欠損金の税効果が親会社に移ると、少数株主への説明が必要になる
M&Aで売却予定の子会社過去の通算税効果額の精算が、買収価格・表明保証に影響する
金融機関に個社財務を説明する会社税金費用・未収未払の説明が必要になる
赤字子会社を多く抱えるグループ欠損金の発生法人と税効果の享受法人がズレる
将来再編を予定しているグループ離脱時・合併時の処理に影響する

通算制度を導入する前に、税務申告だけでなく、会計処理と内部精算のルールまで整えておくことが大切です。

開始・加入・離脱で判断を誤りやすい具体例

1. 赤字子会社を持つので、通算制度を始めれば有利だと考える

赤字子会社がある場合、損益通算によって法人税負担が軽減される可能性は確かにあります。

しかし、開始前欠損金が切り捨てられる、特定欠損金として自己所得を限度にしか使えない、地方税では同じ効果が出ない、通算税効果額の精算が必要になる、といった影響も伴います。

見るべきは、単年度の法人税額だけではありません。開始時の時価評価、欠損金残高、将来所得、地方税、会計処理まで、あわせて確認する必要があります。

2. M&Aで赤字会社を100%取得すれば、欠損金を使えると考える

買収対象会社に繰越欠損金があっても、加入時に切り捨てられる可能性があります。切り捨てられない場合であっても、特定欠損金として、対象会社自身の所得からしか控除できないことがあります。

買収価格に欠損金の価値を織り込むのであれば、加入時の欠損金制限を必ず検討しておくべきです。

3. 子会社を売却するだけなので、通算制度の申告は関係ないと考える

子会社株式を一部でも外部へ譲渡し、完全支配関係がなくなれば、離脱日が発生します。離脱日の前後で事業年度が分かれ、離脱前の期間は通算法人として申告する一方、損益通算等が適用されない場合もあります。

さらに、離脱時の時価評価、投資簿価修正、地方税、通算税効果額の精算についても確認しておく必要があります。

4. 時価評価除外法人だから問題ないと考える

時価評価をしない法人であっても、開始・加入前の繰越欠損金、支配関係発生前から有する資産の含み損、事業変更、共同事業性によって、欠損金切捨てや損益通算制限が生じることがあります。

時価評価の有無だけでなく、欠損金・含み損・事業継続性を一体で確認することが欠かせません。

5. 法人税の試算だけで制度選択を判断する

法人税では損益通算や欠損金通算による効果が出ても、地方税では別の調整が必要になります。法人事業税、法人住民税、外形標準課税を含めた資金流出を見なければ、実際のメリットを見誤ってしまいます。

開始・加入・離脱の前に整理すべき資料

グループ通算制度の開始・加入・離脱を検討する際には、少なくとも次の資料を整理しておく必要があります。

資料確認目的
グループ資本関係図完全支配関係、通算親法人・子法人の範囲
株主名簿・登記事項証明書株式保有割合、異動日、完全支配関係の成立・消滅
過去の法人税申告書欠損金、別表七、別表四・五(一)、税額控除
地方税申告書法人住民税・法人事業税の欠損金・課税標準
固定資産台帳時価評価資産、減価償却、含み損益
不動産・有価証券評価資料時価評価の要否、評価根拠
貸付金・債権明細金銭債権の時価評価、貸倒リスク
M&A契約書・株式譲渡契約書クロージング日、税務補償、価格調整
組織再編契約書・計画書合併・株式交換等の適格性、加入・離脱日
事業計画将来所得、欠損金回収可能性、税効果会計
取締役会議事録・稟議書制度選択・加入・離脱の意思決定過程
通算税効果額規程グループ内精算、未収未払、会計処理

資料がそろわないまま「通算制度を使うかどうか」だけを判断してしまうと、後になって税務調査、M&A、金融機関説明、株主説明といった場面で困ることになります。

専門家に相談すべきタイミング

次のような場面では、決算後ではなく、意思決定の前に専門家へ相談されることをおすすめします。

相談すべき場面理由
グループ通算制度の導入を検討している承認申請期限、対象法人、開始時の不利益を事前確認する必要がある
グループ内に赤字会社・欠損金会社がある欠損金が使えるとは限らず、切捨て・特定欠損金化を確認する必要がある
M&Aで100%子会社化する加入日、時価評価、欠損金、税務補償条項を確認する必要がある
子会社売却を検討している離脱日、みなし事業年度、時価評価、投資簿価修正を確認する必要がある
子会社の合併・清算を予定している離脱・効力喪失、欠損金、みなし配当、地方税を確認する必要がある
通算税効果額の精算ルールがない会計処理、少数株主、M&A時の説明に影響する
決算期が異なる子会社があるみなし事業年度、短期申告、税額控除、地方税に影響する
含み損益の大きい資産がある時価評価課税、含み損制限、税効果会計に影響する

グループ通算制度は、申告書の作成段階で初めて検討する制度ではありません。M&A、子会社設立、追加取得、再編、売却、清算といった意思決定の前に、税務・会計・契約・資金繰りを横断して確認しておく必要があります。

グループ通算制度の開始・加入・離脱をご相談ください

グループ通算制度の開始・加入・離脱は、単年度の節税効果だけで判断できるものではありません。

制度を開始することで、時価評価課税や欠損金切捨てが生じる可能性があります。M&Aで子会社を加入させる場合には、加入日や加入時期の特例によって、申告期間や税額効果が変わってきます。子会社を離脱させる場合には、離脱日前後の申告、時価評価、投資簿価修正、地方税、通算税効果額の精算を、あわせて整理する必要があります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、グループ会社を有する中小・中堅企業について、グループ通算制度、グループ法人税制、組織再編、M&A、税効果会計を踏まえた法人税務の整理を支援しています。

通算制度の導入を検討されている場合、M&Aによる子会社加入を予定されている場合、あるいは子会社売却・清算・合併による離脱を検討されている場合は、早い段階でお問い合わせページよりご相談ください。制度を使うかどうかだけでなく、開始・加入・離脱の後に、会社の数字をどう説明できる状態にしておくか。そこまで整理しておくことが重要です。

振り返り:グループ通算制度の開始・加入・離脱で確認すべきこと

論点重要ポイント確認すべき資料・判断
制度開始親法人・子法人すべての連名で承認申請が必要資本関係図、対象法人一覧、承認申請期限
承認申請期限原則として最初の事業年度開始日の3月前の日まで事業年度、決算期、申請スケジュール
みなし承認開始日前日までに承認・却下がなければ、開始日に承認があったものとみなされる国税庁への申請状況、却下事由の有無
開始時のみなし事業年度決算期が異なる子会社は短期事業年度が生じることがある決算期、短期決算資料、申告期限
加入日完全支配関係を有することとなった日が原則株式譲渡実行日、取得割合、株主名簿
加入時期の特例会計期間末日の翌日から加入できる場合がある特例適用の可否、提出書類、税額効果
離脱日通算完全支配関係を有しなくなった日株式譲渡日、合併日、清算・残余財産確定日
離脱前後の申告離脱日前後で申告期間が分かれるみなし事業年度、単体申告期間、通算申告期間
時価評価開始・加入・離脱時に一定資産の時価評価が必要になる場合がある固定資産台帳、不動産評価、有価証券明細
時価評価除外法人時価評価が不要でも欠損金・含み損制限が残ることがある支配関係継続、共同事業性、事業変更
欠損金切捨て開始・加入前の繰越欠損金が使えなくなる場合がある別表七、発生年度、青色申告、支配関係発生日
損益通算対象外欠損金一定の欠損金は損益通算できず、特定欠損金となることがある減価償却費割合、特定資産譲渡等損失
地方税法人税と同じ通算効果が出るとは限らない法人住民税、法人事業税、外形標準課税
通算税効果額税負担軽減効果の社内精算ルールが必要精算規程、覚書、会計処理、未収未払
会計・税効果繰延税金資産や税金費用に影響する将来所得計画、税効果資料、監査対応資料
相談タイミング決算後ではなく、制度選択・M&A・再編前に検討する事業計画、契約書、議事録、税額試算
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