保険・共済・保証金など社内資産から資金を生む方法|外部借入の前に確認すべき貸借対照表の見直し

資金が必要になったとき、多くの経営者がまず思い浮かべるのは銀行融資ではないでしょうか。

たしかに、銀行融資は中小企業にとって欠かせない資金調達手段です。ただ、追加の借入を申し込む前に、一度立ち止まって確かめておきたいものがあります。

それは、自社の貸借対照表の中に眠っている「まだ資金化できる資産」です。

保険積立金。経営セーフティ共済の掛金。差入保証金や敷金。遊休資産。有価証券や出資金。過大な在庫。長期化した売掛金。役員や関係会社への貸付金。使途のはっきりしない仮払金や長期前払費用。

こうした資産は、日々の資金繰りに追われていると、つい見落とされがちです。けれども、貸借対照表を一つひとつ丁寧にたどっていくと、外部から新たに借りる前に、会社の内部から資金を生み出せる余地が見つかることがあります。

もっとも、社内資産の資金化は「隠れた貯金を見つける」というだけの単純な話ではありません。保障を失う、将来の選択肢が狭まる、税金が発生する、金融機関からの見え方が変わる、契約関係に影響する——こうした副作用も、あわせて考えておく必要があります。

本稿では、保険積立金、契約者貸付、経営セーフティ共済、差入保証金を中心に、社内資産から資金を生む方法を、資金繰り・税務・会計・金融機関対応という複数の視点から整理してみます。

目次

社内資産から資金を生むとはどういうことか

社内資産から資金を生むとは、貸借対照表に計上されている資産を、現金預金に近づけていく作業です。

広い意味では、これはアセットファイナンスにあたります。外部から新しい負債を増やすのではなく、すでに会社が抱えている資産を見直し、その中から資金化できるものを探していく、という考え方です。

代表的な方法を整理すると、次のようになります。

資産の種類資金化の方法注意点
保険積立金解約、減額、払済、契約者貸付保障喪失、税務影響、解約返戻金の確認
経営セーフティ共済一時貸付、共済金貸付、解約手当金取引先倒産要件、解約時課税、再加入時の税務制限
差入保証金・敷金減額交渉、返還交渉、賃料見直し契約条件、貸主との関係、退去時精算
有価証券・出資金売却、解約、持分払戻し時価、売却損益、取引関係への影響
遊休資産売却、賃貸、リースバック売却損益、事業への影響、担保設定
売掛金・貸付金回収促進、返済計画、債権譲渡回収可能性、取引先関係、金融機関評価
在庫処分、値引販売、在庫圧縮粗利低下、評価損、販売戦略との整合性

社内に眠る休眠資金を掘り起こす作業は、当面の資金不足への対策であると同時に、総資産の使い方そのものを見直す経営資源の活性化策でもあります。売掛・未収債権の圧縮、在庫の処分、有価証券や固定資産の売却、保険積立金や差入保証金の見直し。これらはいずれも、資産を資金化していくための基本的な手段として位置づけられます。

ここで大切なのは、資金化できるものを片端から探すことではありません。むしろ、「資金化してよいもの」と「残すべきもの」をきちんと分けることです。

資金繰りが苦しいからといって、会社にとって本当に必要な保障や事業基盤まで削ってしまえば、目の前の資金は増えても、中長期的には財務の安全性を損なってしまいます。

外部借入の前に社内資産を確認すべき理由

外部から借入を行えば、将来の返済義務がそのぶん増えます。

一方で、社内資産の資金化は、必ずしも借入残高を膨らませません。既存の資産を組み替えることで、手元の資金を確保できる可能性があるからです。

とはいえ、社内資産の資金化にもコストはつきまといます。

保険を解約すれば、保障がなくなります。共済を解約すれば、将来への備えが減ります。保証金を返してもらえば、貸主との関係に影響することもあります。有価証券を売れば、含み損益が表に出てきます。資産を売却すれば、将来の選択肢を一つ手放すことになります。

ですから、社内資産の見直しは「銀行から借りずに済ませる方法」ではありません。「借入、内部資金、資産売却、契約見直しを、どの順番で使っていくか」を判断するための作業だと考えていただくのがよいと思います。

資金計画の上では、銀行借入や保有有価証券の売却によって資金の「入」は生まれます。ただ、借入は将来の返済を伴いますし、資産売却は次に資金を得るための選択肢を一つ狭めてしまう面があります。利益計画だけでなく資金計画も持っておく必要があるのは、利益と入出金のタイミングがずれるために、黒字であっても資金不足は起こり得るからです。

社内資産の見直しは、必ず資金繰り表とセットで行ってください。いくら資金化できるかという金額だけでなく、その後の月次の資金繰りが本当に改善するのかまで、見ておく必要があります。

まず作るべき「社内資産棚卸表」

社内資産から資金を生もうとするとき、いきなり保険会社や貸主に連絡するのは得策ではありません。まずは、手元で一覧表を作ることから始めます。

最低限、次の項目は整理しておきたいところです。

項目確認内容
資産名保険契約、共済、保証金、有価証券、貸付金、固定資産など
帳簿価額決算書・試算表に計上されている金額
実際の換金見込額解約返戻金、売却見込額、返還可能額など
資金化までの期間即日、数日、数週間、数か月など
資金化コスト手数料、違約金、税金、解約控除、評価損など
将来影響保障喪失、契約条件変更、信用低下、事業継続への影響
税務影響益金、損金、消費税、源泉、給与認定など
金融機関への説明資金使途、改善効果、担保設定、既存借入との関係
実行優先度すぐ実行、条件確認後に実行、実行しない

とりわけ保険、共済、保証金については、帳簿価額と実際の換金額が一致しないことがよくあります。

たとえば、保険積立金が1,000万円計上されていても、いま解約したときの返戻金は800万円かもしれません。反対に、帳簿価額より解約返戻金のほうが大きく、解約すると益金が生じるというケースもあります。

差入保証金も同様です。契約書の上では返還の対象であっても、退去時の原状回復費、未払賃料、償却条項、敷引き、契約期間中に返還できるかどうかといった条件によって、実際に返ってくる金額と時期は変わってきます。

資産の部に保険積立金、敷金、差入保証金、出資金、有価証券、貸付金などが並んでいる場合、金融機関はその回収可能性や実態としての価値も確認します。返済の予定がはっきりしない貸付金や、時価の下がった遊休資産などは、実態貸借対照表の上では厳しく評価されることがあると、心得ておきたいところです。

保険積立金は「解約返戻金」と「保障目的」を分けて見る

法人契約の生命保険は、資金化の候補としてよく検討の俎上にのぼります。

ただ、保険積立金を見直すときには、次の二つをきちんと切り分ける必要があります。

一つは、保険契約としての目的です。もう一つは、資金化できる資産としての価値です。

保険は、もともと保障のために加入するものです。経営者が亡くなったときの事業保障、借入返済の原資、役員退職慰労金、弔慰金、事業承継、従業員の福利厚生など、それぞれに加入の目的があります。

その一方で、解約返戻金のある保険は、貸借対照表上の資産としての性質もあわせ持っています。

ですから、保険積立金を見直す際には、次の項目を一つずつ確認していきます。

確認項目見るべきこと
契約者法人か、経営者個人か
被保険者経営者、役員、従業員の誰か
保険金受取人法人、遺族、本人のいずれか
加入目的事業保障、退職金、福利厚生、節税、付き合いなど
保険種類定期、長期平準定期、逓増定期、養老、終身、医療、がん保険など
加入時期税務上の取扱いが変わる可能性がある
帳簿価額保険積立金、前払保険料、長期前払費用など
現在の解約返戻金実際に受け取れる見込額
契約者貸付可能額借入可能額、利率、返済条件
解約時の税務影響益金・損金、給与認定、源泉など
解約後の保障不足借入残高、家族、従業員、事業継続への影響

法人契約の生命保険は、加入の時期、保険商品、契約形態によって経理処理が変わってきます。解約返戻金や配当などを資金として活用するには、資産計上額と解約返戻金の推移を確認したうえで判断することが欠かせません。

ここで特に気をつけたいのは、「節税目的で入った保険だから、解約しても大きな問題はないだろう」と安易に考えてしまうことです。

法人保険の税務処理は、令和元年の通達改正を境に、最高解約返戻率や契約内容に応じて、資産計上・損金算入の取扱いが細かく整理されました。たとえば、令和元年7月8日以後の契約分について、定期付養老保険等の保険料は、受取人や保険料の区分に応じて、資産計上、給与、期間経過に応じた損金算入などに分かれます。

出典:国税庁|No.5365 定期付養老保険等の保険料の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)

また、保険期間が3年以上の定期保険または第三分野保険で、最高解約返戻率が50%を超えるものについては、原則として、支払保険料のうち一定額を一定期間にわたって資産に計上し、その後取り崩して損金に算入する取扱いが示されています。

出典:国税庁|No.5364-2 定期保険及び第三分野保険の保険料(保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合)の取扱い

つまり、保険を資金化するかどうかを判断するときには、解約返戻金の額だけを見ていては足りません。会計処理と税務処理の確認が、どうしても欠かせないのです。

保険を資金化する4つの選択肢

保険から資金を生む方法は、大きく分けて4つあります。

1. 解約する

もっとも分かりやすいのは、保険契約を解約して解約返戻金を受け取る方法です。

ただし、解約すれば保障は消えてなくなります。もう一度加入しようとしても、年齢が上がっていたり、健康状態が変わっていたりすることで、保険料が高くなる、あるいは加入そのものが難しくなる、ということが起こり得ます。

また、解約返戻金が帳簿価額を上回る場合には、その差額が益金となる可能性があります。逆に帳簿価額を下回るときには、損失が生じることもあります。

解約は、「いくら資金化できるか」だけでなく、「何を失うのか」「税務上どう扱われるのか」をセットで見たうえで判断したい選択肢です。

2. 一部解約・減額する

保障をすべて失いたくない場合には、保険金額を減額し、その減額した部分について解約返戻金を受け取るという方法があります。

これは、必要保障額を改めて計算し直したうえで行うのが基本です。

たとえば、創業期には大きな借入があって、経営者の死亡時に事業を守るための保障が必要だったとします。その後、借入残高が順調に減っているのであれば、いまや過大になっている保障を、一部減額できる余地があるかもしれません。

3. 払済保険に変更する

払済保険とは、その時点の解約返戻金等をもとに、以後の保険料の支払いを止めながら、保障を縮小して契約を続けていく方法です。

これは、資金を直接増やす方法ではありません。けれども、毎月あるいは毎年の保険料の支出を止めることで、将来の資金繰りを改善する効果が期待できます。

ただし、法人税の上では、払済保険への変更時に、解約返戻金相当額と資産計上額との差額について、益金または損金を認識する取扱いが問題になる場合があります。

出典:国税庁|8 保険料等(払済保険へ変更した場合)

4. 契約者貸付を使う

契約者貸付とは、保険契約を解約せずに、解約返戻金の一定範囲内で保険会社から貸付を受ける方法です。

契約者貸付を受けている間も、保障は原則として継続します。ただし、貸付金には所定の利息がつきます。返済しないままでいると、その利息が元金に組み入れられ、元利金は次第に膨らんでいきます。未返済のまま満期や死亡保険金の支払時期を迎えると、保険金から元金と利息が差し引かれます。さらに、元利金が解約返戻金を超えてしまうと、通知のあと所定の額を払い込まない限り、保険契約そのものが失効してしまう場合があります。

出典:公益財団法人 生命保険文化センター|配当金の引出し・契約者貸付

契約者貸付は、保険を解約せずに資金を確保できるという点で、有効な手段です。ただ、その実質は借入にほかなりません。資金繰り表には、利息、返済の予定、将来の保険金控除のリスクまで、きちんと反映しておく必要があります。

契約者貸付は「資産活用」だが、実質は負債である

契約者貸付は、保険積立金という社内資産を活用した資金調達です。

しかし、受け取った資金は、いずれ返すべき借入金です。形の上では銀行借入とは異なりますが、将来の返済か、あるいは保険金との相殺が、あらかじめ予定されています。

ですから、次の点を確認しないまま使うのは、避けたいところです。

確認項目内容
貸付可能額解約返戻金の何割まで借りられるか
貸付利率契約時期、予定利率、保険種類で変わる
利息計算複利か、元金繰入れがあるか
返済方法随時返済か、期限管理が必要か
保障継続保障は継続するか、条件変更はないか
失効リスク元利金が解約返戻金を超えた場合どうなるか
金融機関説明銀行借入以外の負債として説明できるか
資金使途一時的な資金不足か、慢性的赤字補填か

契約者貸付は、短期的な資金繰りの不足には有効に働くことがあります。一方で、毎月の赤字を埋めるために使い続けてしまうと、保険という将来への備えを削りながら、赤字を先送りすることになってしまいます。

そうした状況にあるなら、保険の見直しだけでは足りません。損益の改善、固定費の削減、借入条件の見直し、そして経営改善計画の検討まで、あわせて考える必要があります。

経営セーフティ共済は「節税商品」ではなく資金繰り防衛策である

経営セーフティ共済は、中小企業倒産防止共済制度の愛称です。

これは、取引先の倒産によって売掛金等の回収が難しくなったときに、連鎖倒産を防ぐための制度です。納めた掛金を原資として、共済金の貸付を受けられる仕組みになっています。

出典:中小機構|加入をご検討中の方へ 経営セーフティ共済とは

この経営セーフティ共済は、しばしば「掛金が損金になる制度」として語られます。たしかに、法人の場合、掛金は一定の手続のもとで損金に算入できます。掛金の月額は5,000円から20万円までの範囲で5,000円単位、掛金残高は800万円まで積み立てることができます。

出典:中小機構|経営セーフティ共済の掛金

しかし、資金繰りの観点から見ると、経営セーフティ共済は節税手段というより、外部留保に近い備えだととらえたほうが実態に合っています。

資金化する方法は、主に3つあります。

方法概要注意点
共済金貸付取引先倒産により売掛金等が回収困難になった場合の貸付取引先倒産などの要件が必要
一時貸付金取引先倒産がなくても臨時の事業資金として借入可能解約手当金の範囲内、返済期限・利息あり
解約手当金共済契約を解約して手当金を受け取る解約後の備え喪失、益金算入、再加入制限に注意

共済金貸付は、無担保・無保証人で利用できます。その上限は、回収が困難となった売掛金債権等の額か、納付された掛金総額の10倍(最高8,000万円)のいずれか少ない金額とされています。

出典:中小機構|加入をご検討中の方へ 経営セーフティ共済とは

一時貸付金は、取引先が倒産していなくても、共済契約者が臨時に事業資金を必要とする場面で利用できます。解約時に支払われる解約手当金の95%を上限として借り入れることができ、借入期間は1年、返済は期限一括償還、利率は金融情勢等によって変動するとされています。

出典:中小機構|一時貸付金制度

解約手当金については、掛金の納付月数に応じて支給率が変わります。任意解約の場合、12か月未満は0%、12か月以上23か月以下は80%、40か月以上で100%とされています。

出典:中小機構|共済契約の解約

さらに、令和6年10月1日以降に共済契約を解約し、改めて契約を結び直す場合には、その解約日から2年を経過する日までの間に支出した掛金は、必要経費または損金の額に算入できないこととされました。

出典:中小機構|経営セーフティ共済の掛金

この改正によって、「いったん解約して、また入り直せばよい」という発想は、以前のようには取りにくくなっています。

経営セーフティ共済を資金化するかどうかは、次の順番で考えていくと、判断がつきやすくなります。

  1. 資金不足の原因は、一時的なものか、それとも構造的なものか。
  2. 取引先の倒産による売掛金の回収不能なのか、それ以外の資金需要なのか。
  3. 一時貸付で足りるのか、それとも解約まで必要なのか。
  4. 解約した場合、益金算入による税負担はどの程度になるのか。
  5. 将来の取引先倒産リスクへの備えを、いま失ってしまってよいのか。
  6. 解約後、2年間にわたる再加入掛金の損金不算入の影響を、どう見積もるか。
  7. 金融機関に対して、資金使途と改善効果を説明できるか。

経営セーフティ共済は、使い方によっては資金繰りの安全弁になってくれます。しかし、慢性的な赤字を埋めるために解約してしまえば、いざというときの防波堤を失うことになります。

小規模企業共済は「会社の資産」ではない点に注意する

共済と聞くと、小規模企業共済も候補に入ってくることがあります。

小規模企業共済は、個人事業主や会社役員等の退職金づくりを目的とした制度です。契約者貸付には一般貸付や特別貸付があり、納付した掛金から算定される貸付限度額の範囲内で借り入れることができます。一般貸付では、掛金の範囲内で、納付月数に応じて掛金の7〜9割、10万円以上2,000万円以内の範囲で借入れができるとされています。

出典:中小機構|契約者貸付の概要(小規模企業共済)

ただし、ここで注意したいのは、小規模企業共済は通常、会社の貸借対照表に計上される法人資産ではない、という点です。これは、あくまで経営者個人の共済です。

そのため、会社の資金繰りに使おうとすれば、経営者個人が借り入れた資金を会社へ貸し付ける、あるいは増資するといった、法人と個人のあいだの資金移動が必要になります。

その際には、次のような点に気をつけてください。

会社と個人の資金を、混同しないこと。金銭消費貸借契約書をきちんと作ること。利息、返済条件、返済原資を整理しておくこと。役員借入金として正しく会計処理すること。将来の相続・事業承継への影響を確認しておくこと。そして、金融機関に説明できる形に整えておくこと。

中小企業では、会社と経営者個人の資金関係が曖昧になりやすく、役員貸付金や役員借入金が、資金調達や金融機関の評価に影響を及ぼすことがあります。保険を使った複雑なプランニングや代物弁済については、税務上の疑義が生じる論点も少なくありません。だからこそ、慎重な整理が求められます。

小規模企業共済は、経営者個人の生活設計や退職金設計と密接に結びついています。会社の資金繰りのために、安易に手をつけるべきものではないと考えています。

差入保証金・敷金は「すぐ返る資金」ではない

事務所、店舗、工場、倉庫、社宅などを借りている会社では、差入保証金や敷金が貸借対照表に計上されていることがあります。

これらも、資金化の候補にはなります。ただし、現金預金のように自由に使える資産ではない、という点には注意が必要です。

差入保証金や敷金は、一般に、賃貸借契約や取引契約にもとづいて、賃料債務や原状回復、取引債務を担保する目的で差し入れられるものです。

金融商品会計の上でも、将来返還される建設協力金等の差入預託保証金は、金融商品会計基準の対象に含まれるものとして整理されています。

民法上の敷金については、賃貸借が終了して賃貸物の返還を受けたときなどに、賃貸借にもとづいて生じた金銭債務を控除した残額を返還することが定められています。また、賃貸人は債務不履行があったときに敷金を弁済に充てることができますが、賃借人の側から敷金を弁済に充てるよう請求することはできないとされています。

出典:e-Gov法令検索|民法 第622条の2

つまり、敷金・保証金は、契約期間の途中で当然に返還を請求できる性質の資金ではないのです。

それでも、次のような場合には、見直しの余地があります。

長年同じ場所に入居していて、いまの相場と比べると保証金が過大になっている。賃料が高止まりしている。空室率が上がっていて、貸主の側にも契約を続けるメリットがある。複数拠点の統廃合を検討している。使っていない倉庫や社宅がある。契約の更新時期が近づいている。保証金の償却条項や敷引きの内容が、実態に合わなくなっている。過去の契約書が古く、現状の賃貸条件とずれている。

差入保証金の見直しは、ただ「返してください」と交渉すればよいというものではありません。

現在の賃料相場、入居年数、契約更新の時期、空室の状況、移転の可能性、貸主との関係——こうした要素を踏まえながら、保証金の減額、賃料の減額、契約期間の延長、原状回復条件の見直しなどを組み合わせて、交渉を進めていきます。

保証金の見直しは、人口減少や不動産需給の変化を背景に、借り手の側から適正な保証金や賃料を整理して交渉できる場面が出てきています。保証金の減額交渉は、賃料交渉や不採算店舗の整理とも一体で検討するのが現実的です。

保証金の資金化で見るべき数字

差入保証金を見直す場合には、次の数字を確認します。

確認項目内容
帳簿価額貸借対照表上の差入保証金・敷金の金額
契約書上の金額差入額、償却、敷引き、返還時期
現在の賃料月額賃料、共益費、管理費
現在の相場周辺類似物件の賃料・保証金水準
残存契約期間解約・更新・再交渉の時期
返還可能額償却後、控除後に返還され得る金額
原状回復見込額退去時に差し引かれる可能性のある額
移転コスト引越し、内装、営業停止、顧客影響
交渉余地貸主側の空室リスク、長期入居実績
資金繰り効果返還額と賃料削減額の合計効果

保証金の見直しは、まとまった資金を得るだけにとどまりません。固定費の削減につながることがある、という点も見逃せません。

たとえば、保証金を300万円返してもらうだけなら、それは一時的な資金確保にすぎません。けれども、あわせて賃料を月10万円下げられれば、年間で120万円の資金繰り改善になります。

資金繰りの改善という観点では、一回きりの入金よりも、継続的な固定費の削減のほうが、大きな価値を持つことがあるのです。

社内資産の資金化は金融機関にどう見られるか

金融機関は、社内資産の資金化を、一律に良いとも悪いとも評価しません。

前向きに受け止められやすいのは、次のようなケースです。

遊休資産を処分して、手元資金を厚くする。保険を加入目的に照らして見直し、過大になっていた保険料の支出を減らす。保証金や賃料を見直して、固定費を下げる。経営セーフティ共済の一時貸付を、短期的な資金需要に充てる。資金化して得た資金を、借入返済や納税、運転資金の安定化に使う。そして、それらをきちんと資金繰り表に反映し、改善効果を説明できる。

反対に、慎重に見られやすいのは、次のようなケースです。

赤字を埋めるために、保険や共済を解約している。将来の事業保障や倒産防止の備えを失っている。資金使途が曖昧である。経営者個人の共済や保険から会社へ資金を入れているのに、契約書や返済条件が整っていない。保証金の返還交渉が、取引関係を悪化させている。一時的に資金化したあとも、資金繰りが改善していない。

銀行融資の審査は、担保があるかどうかから始まるわけではありません。まずは債務者の評価、事業の内容、業績、今後の見通しを見たうえで、資金使途、融資の形態、返済原資、保全面、他行の状況、資金調達の余力などを確認していきます。

社内資産を資金化する場合も、金融機関に対しては「なぜ資金化するのか」「何に使うのか」「その後、どう改善していくのか」を、自分の言葉で説明できるようにしておく必要があります。

社内資産の資金化で避けたい判断

社内資産の見直しは有効な手段ですが、次のような判断は避けたいところです。

赤字補填のためだけに保険を解約する

赤字が続いている会社が、保険を解約していったん資金を確保しても、収益構造そのものが変わらなければ、ほどなく再び資金不足に陥ります。

この場合、保険解約は「時間を買う」手段にすぎません。買った時間を使って、粗利の改善、固定費の削減、不採算事業の見直し、借入条件の整理を進めていく必要があります。

税金を考えずに共済を解約する

経営セーフティ共済は、掛金を損金算入している場合、解約手当金が益金になる点に注意が必要です。解約して資金が入ってきても、決算では利益が増え、法人税等が発生する可能性があります。

資金繰り表には、解約による入金だけでなく、税金を支払う時期まで反映しておきましょう。

契約者貸付を返済計画なしに使う

契約者貸付は、保険を解約せずに資金を得られる、便利な方法です。しかし、利息が積み上がっていけば、将来の保険金や解約返戻金を圧迫していきます。

返済計画のない契約者貸付は、結局のところ、保険という資産を担保にした借入と変わりません。

保証金返還だけを目的に貸主との関係を悪化させる

保証金や賃料の交渉では、そのあとも相手との関係が続いていきます。

とくに店舗、工場、倉庫など、事業の継続に欠かせない拠点については、短期的な資金化だけを見るのではなく、事業継続のリスクまで確認しておく必要があります。

経営者個人の資産を会社に入れる際の整理を怠る

経営者個人の保険、小規模企業共済、個人預金を会社に入れる場合には、会計上、役員借入金や増資などの処理が必要になります。

ここを曖昧なまま進めてしまうと、会社と個人の区分がはっきりしなくなり、金融機関の評価、税務、相続、事業承継のそれぞれで問題を引き起こしかねません。

実務ではこの順番で検討する

社内資産から資金を生もうとするときは、次の順番で進めると、判断がつきやすくなります。

1. 資金不足の時期と金額を特定する

まずは資金繰り表を使って、「いつ」「いくら」不足するのかを確かめます。

今月末に500万円足りないのか。3か月後に1,000万円足りないのか。設備投資の自己資金として2,000万円が必要なのか。あるいは、借入返済の負担が重く、毎月100万円ずつ資金が目減りしているのか。

資金不足の原因と期間がはっきりしないままでは、保険解約、共済貸付、保証金交渉のどれが適切なのか、判断のしようがありません。

2. 貸借対照表から資金化候補を洗い出す

直近の試算表、決算書、勘定科目内訳明細、固定資産台帳、保険証券、共済の加入状況、賃貸借契約書を確認します。

とりわけ「その他資産」「投資その他の資産」「長期前払費用」「保険積立金」「敷金」「差入保証金」「出資金」「貸付金」については、中身を一つずつ分解していきます。

3. 換金額ではなくネットキャッシュで見る

保険の解約返戻金が1,000万円あったとしても、税金や保障喪失のことを考える必要があります。

保証金の返還が500万円あっても、原状回復費や契約条件が問題になることがあります。共済の解約手当金が800万円あっても、益金算入によって税負担が生じる可能性があります。

ですから、資金化の額そのものではなく、税金・費用・将来支出を差し引いたあとのネットキャッシュで判断します。

4. 資金化後の月次資金繰りを作る

社内資産の資金化は、あくまで一時的な入金です。

そのあと、保険料の支出は減るのか。契約者貸付の利息は増えるのか。賃料は下がるのか。共済の掛金は止まるのか。借入返済を減らせるのか。税金の支払いは増えるのか。

売却・解約・貸付の前と後とで、月次の資金繰り表を並べて比較してみましょう。

5. 金融機関への説明資料に落とし込む

金融機関に説明する場合は、次の形に整理しておきます。

資金不足の原因。社内資産の見直し対象。資金化の予定額。資金の使途。税務影響。資金化後の手元資金の残高。月次資金繰りの改善効果。残る借入返済の計画。そして、今後の保険・共済・保証金の方針。

ここまで整理できれば、社内資産の資金化は、場当たり的な資金繰り対策ではなく、一つの財務改善策として説明できるようになります。

社内資産を資金化するかどうかの判断軸

最後に、判断の軸を整理しておきます。

社内資産の資金化では、次の6つを必ず確認してください。

判断軸確認すべきこと
必要性その資金は何のために必要か
緊急性いつまでに資金化する必要があるか
換金性いくら、いつ、確実に資金化できるか
コスト税金、利息、解約損、手数料、将来負担はどうか
事業影響保障、契約関係、事業基盤に悪影響はないか
説明可能性金融機関・株主・社内に説明できるか

この6つを満たさない資金化は、目の前の資金繰りこそ改善しても、財務の基盤をかえって弱めてしまう可能性があります。

まとめ

保険積立金、契約者貸付、経営セーフティ共済、差入保証金などは、外部から借りる前に確認しておきたい、重要な社内資産です。

ただし、これらは決して「使っていないお金」ではありません。

保険には、保障と税務が絡みます。共済は、将来の取引先倒産リスクに対する備えです。保証金は、契約関係のなかで差し入れている資金です。契約者貸付は、実質的には借入です。そして、経営者個人の共済や保険は、会社の資産ではありません。

ですから、社内資産の資金化は、次のように考えていただくのがよいと思います。

借入を増やす前に、まず貸借対照表の中身を確認する。帳簿価額ではなく、実際の換金額を見る。税務・会計・契約・金融機関の評価を確認する。一時的な入金と、継続的な資金繰り改善とを切り分ける。資金化後の月次資金繰りを作る。そして、資金使途と改善効果を、いつでも説明できる状態にしておく。

資金調達とは、外から資金を集めることだけを指すのではありません。会社の中に眠る資産を見直し、必要な資金を生み出し、不要な支出を抑え、財務体質を整えていくことも、また立派な資金調達なのです。

保険・共済・保証金の見直しを検討している方へ

保険積立金を解約すべきか、契約者貸付で対応すべきか、経営セーフティ共済を一時貸付で使うべきか、差入保証金の返還交渉を行うべきか。その判断は、会社の資金繰り、税務処理、借入の状況、保障の設計、契約の条件によって、一社ごとに変わってきます。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、月次試算表、資金繰り表、保険証券、共済の加入状況、賃貸借契約書、借入一覧をもとに、社内資産の資金化が本当に財務改善につながるのかを整理いたします。

「借りる前に、社内で資金化できるものを確認したい」「保険解約や契約者貸付の税務影響を知りたい」「経営セーフティ共済を解約すべきか迷っている」「保証金や固定費の見直しを資金繰り表に反映したい」——こうしたお悩みがありましたら、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページより、お気軽にご相談ください。

重要事項の振り返り

論点要点注意点
社内資産の資金化貸借対照表の資産を現金化・資金繰り改善に活用する新たな借入を増やさない一方、将来の選択肢を狭める場合がある
保険積立金解約返戻金、契約者貸付、減額、払済などを検討する保障喪失、税務影響、契約形態の確認が必要
契約者貸付保険を解約せず解約返戻金の範囲内で借入れできる利息が複利で増え、未返済なら保険金から控除される場合がある
経営セーフティ共済取引先倒産時の共済金貸付、一時貸付、解約手当金を検討できる解約時の益金算入、再加入時の損金不算入制限に注意
小規模企業共済経営者個人の退職金制度であり、契約者貸付もある原則として会社の資産ではなく、法人個人間の資金移動整理が必要
差入保証金・敷金減額交渉、返還交渉、賃料見直しの余地がある契約期間中に当然返還される資金ではない
保証金交渉現在相場、空室状況、賃料、契約更新時期を確認する貸主との関係や事業拠点への影響を考慮する
税務影響保険解約、共済解約、有価証券売却には益金・損金が生じ得る資金入金と税金支払いの時期を資金繰り表に反映する
金融機関対応資金使途、資金化額、改善効果を説明する赤字補填だけの資金化は慎重に見られやすい
資金繰り表資金化前後の月次資金繰りを比較する一時的な入金だけでなく、固定費削減効果も見る
実行順序まず資金不足の原因を特定し、社内資産棚卸表を作るいきなり解約・売却・交渉を進めない
専門家相談会計・税務・金融機関対応・契約条件を横断して確認する契約実行後では修正できない論点も多い
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