中小・中堅企業が国際税務で専門家に相談すべきタイミング

海外との取引が始まると、法人税務は「国内の決算と申告だけ」を見ていればよい世界ではなくなります。

海外子会社を設立する。海外企業へロイヤリティを支払う。海外から技術者を招く。海外子会社へ経営支援料を請求する。海外へ出向者を送り出す。海外で源泉税を差し引かれる。海外代理店に販売を委託する。

これらは、事業としてはどれもごく自然な取引です。ところが税務の世界では、源泉所得税、租税条約、PE、外国税額控除、移転価格、外国子会社合算税制、現地税務、消費税・VAT、そして為替換算まで、次々と論点が連動していきます。

国際税務で最も避けたいのは、申告の直前になって次のような事実に気づくことです。「実は源泉徴収が必要だった」「租税条約の届出が間に合っていなかった」「海外子会社との価格設定を説明できない」「海外で税金を払ったのに、日本で控除するための資料がそろっていない」。

こうした論点は、申告書を作る段階だけで確認できるものではありません。むしろ、取引開始前、契約前、送金前、出向開始前、配当決議前、そして申告前と、それぞれの局面で確認すべき中身が異なります。

本稿では、中小・中堅企業が国際税務で専門家に相談すべきタイミングを、実務判断の流れに沿って整理していきます。

目次

国際税務は「申告時」ではなく「取引設計時」に勝負が決まる

国内取引であれば、決算のときに資料を集め、会計処理を確認し、法人税の申告で税務調整を行う、という流れで対応できる場面も少なくありません。

しかし国際税務には、申告時に初めて確認したのでは取り返しがつきにくい論点があります。

たとえば源泉徴収です。非居住者や外国法人に対し、日本国内で源泉徴収の対象となる国内源泉所得を支払う者は、その支払の際に、原則として所得税および復興特別所得税を源泉徴収しなければなりません。国内源泉所得を国外で支払う場合であっても、支払者が国内に事務所等を有するときは、国内で支払ったものとみなして源泉徴収が必要になることがあります。
出典:国税庁|No.2884 非居住者等に対する源泉徴収・源泉徴収の税率

さらに、租税条約による軽減や免除を受けるには、「租税条約に関する届出書」を、原則としてその所得の支払を受ける日の前日までに、支払者を経由して税務署長へ提出する必要があります。提出していなければ、国内法の税率で源泉徴収を行うことになります。
出典:国税庁|No.2888 租税条約に関する届出書の提出(源泉徴収関係)

つまり、海外送金を終えてから相談しても、「本来は支払う前に確認しておくべきだった」という場面が出てきてしまうのです。

移転価格も同じです。海外子会社との取引価格は、申告の直前に都合よく作れるものではありません。契約、役割分担、機能、リスク、使用資産、価格設定の方針、そして実績資料。これらが一本の線でつながっていなければ、後から筋道立てて説明することは難しくなります。国外関連者との棚卸資産取引、無形資産の使用許諾、役務提供、資金の貸付などは移転価格税制の対象になり得るため、取引を始める段階から、価格設定の考え方を整理しておく必要があります。

国際税務においては、「後で専門家に見てもらえばよい」では間に合わないことがある。この点を、まず押さえておきたいところです。

相談すべきタイミングの全体像

中小・中堅企業が国際税務で専門家に相談すべきタイミングは、大きく分けると次の8つになります。

タイミング相談すべき主な論点
1. 海外取引を始める前課税国、源泉税、PE、消費税・VAT、契約条件
2. 海外契約を締結する前使用料、役務提供、税負担条項、グロスアップ、租税条約
3. 海外送金を行う前源泉徴収、租税条約届出、支払調書、為替換算
4. 海外子会社を設立する前設立国、持株割合、資金供与、移転価格、CFC、配当設計
5. 海外子会社と継続取引を始める前ロイヤリティ、経営支援料、役務提供料、貸付利率、保証料
6. 海外出向・駐在を始める前給与負担、源泉、PE、移転価格、出向契約
7. 海外で税金が発生したとき外国税額控除、源泉税証明、租税条約、二重課税
8. 決算・申告前海外取引一覧、配当、為替、移転価格、CFC、別表、保存資料

このなかでも、とりわけ重要なのが「契約前」と「送金前」です。

契約書に税負担条項がないまま海外送金を始めてしまうと、源泉税を誰が負担するのか、税込みの契約なのか税引後の手取りを保証する契約なのか、租税条約の手続を誰が行うのかが、いずれも曖昧になります。送金後に相手先へ追加請求できなければ、会社が源泉税相当額を実質的に負担することになり、資金繰りや利益率にまで影響が及びます。

タイミング1:海外取引を始める前

海外取引を始める前に相談すべきなのは、単に「税率が何%か」を知るためではありません。

ここで確認したいのは、どの国で、誰に、何の所得として課税される可能性があるのかという点です。

取引開始前に確認することなぜ重要か
取引相手が海外法人か、海外個人か源泉税、支払調書、租税条約の入口になる
相手先が関連会社か第三者か移転価格、寄附金、価格妥当性に影響する
物品売買か、役務提供か、使用料か国内源泉所得、源泉徴収、消費税が変わる
役務提供地が国内か国外か国内源泉所得やPEリスクに影響する
成果物が何か使用料か、役務提供か、売買かの判断に影響する
日本側に海外拠点・代理店・出張者がいるかPE認定リスクに関係する
海外で源泉税が課される可能性があるか手取り額、外国税額控除、契約条件に影響する

非居住者および外国法人については、日本国内で稼得した国内源泉所得のみが、日本の課税対象となります。国内源泉所得には、国内で行う人的役務提供の対価、内国法人から受ける配当、国内業務に係る貸付金の利子、国内業務に係る工業所有権・著作権等の使用料などが含まれます。
出典:国税庁|No.2878 国内源泉所得の範囲

海外取引を始める段階で、「これは国内源泉所得に当たるのか」「源泉徴収が必要か」「租税条約で軽減できるか」を確認しておかないと、支払の時点で誤った処理をしてしまいかねません。

とくに、次のような取引は、開始前の相談をおすすめします。

取引相談すべき理由
海外企業への技術支援料役務提供か使用料かで源泉税が変わる
海外SaaS・ソフトウェア利用料単なるサービス利用か、著作権等の使用料かを確認する必要がある
海外広告・マーケティング費役務提供地、消費税、源泉税の確認が必要
海外代理店手数料代理店PE、源泉税、契約権限の整理が必要
海外展示会・現地販売活動PE、現地税務、VATの確認が必要
海外研究開発委託成果物、知的財産権、移転価格、源泉税が絡む
海外子会社への経営支援移転価格、寄附金、役務提供実態の説明が必要

タイミング2:海外契約を締結する前

国際税務では、契約書の文言が税務判断を大きく左右します。

もちろん、契約書だけで税務上の結論が決まるわけではありません。あくまで実態が伴っていることが前提です。とはいえ、契約書が曖昧なままだと、源泉税、租税条約、移転価格、PE、消費税・VATの判断が、いずれも難しくなってしまいます。

契約前に確認しておきたい条項は、次のとおりです。

契約条項税務上の確認ポイント
取引内容物品売買、役務提供、使用料、ライセンス、立替精算の区分
成果物レポート、ソフトウェア、ノウハウ、設計図、データの帰属
知的財産権使用許諾か、譲渡か、単なるサービス利用か
役務提供地日本国内か国外か、オンライン提供か、出張を伴うか
支払条件グロス金額か、源泉税控除後のネット金額か
税負担条項源泉税、VAT、GST、印紙税等を誰が負担するか
グロスアップ条項相手方の手取り保証があるか
租税条約手続届出書、居住者証明書、税務フォームの提出責任
価格改定条項移転価格調整、料率改定、利益率調整の可否
契約締結権限海外代理店や出向者が契約締結権限を持つか
準拠法・紛争解決税務そのものではないが、回収・補償に影響する

たとえば、海外企業へ「サービス料」を支払う契約になっていても、実態としてノウハウの使用許諾や技術情報の提供にあたるのであれば、使用料として源泉徴収が問題になることがあります。

逆に、契約書に「ロイヤリティ」と記されていても、実態としてどの権利を使用しているのか、料率の根拠はあるのか、海外子会社にとっての便益はあるのかを説明できなければ、移転価格上の問題が残ります。

海外契約は、法務部門や営業部門だけで進めるのではなく、税務の観点からもレビューしておきたいところです。

タイミング3:海外送金を行う前

海外送金の前は、国際税務で最も重要な確認タイミングです。

源泉徴収は、原則として支払の時点で行うものです。支払を終えてから「源泉徴収すべきだった」と判明すれば、会社が追加で負担することになったり、相手先との精算交渉が必要になったりします。

送金の前には、次の点を確認します。

送金前チェック確認内容
支払内容利子、配当、使用料、役務提供、給与、立替精算のどれか
国内源泉所得該当性日本で源泉徴収対象となる所得か
国内法税率国内法上の源泉税率
租税条約軽減・免除の可否
届出書支払日前日までに提出できるか
居住者証明書相手先から取得できているか
グロスアップ源泉税控除後の手取り保証があるか
送金通貨円換算、為替差損益、源泉税額
支払調書提出対象となる支払か
会計処理費用、未払、源泉税預り、租税公課の処理

国内源泉所得のうち、利子、配当、貸付金の利子、工業所有権・著作権等の使用料、給与その他人的役務提供に対する報酬などには、国内法上の源泉税率が定められています。租税条約によって免除や軽減を受けられる場合もありますが、その際にも届出書を提出するタイミングが重要になります。
出典:国税庁|No.2884 非居住者等に対する源泉徴収・源泉徴収の税率

とりわけ注意したいのは、次のような送金です。

送金内容見落としやすい点
海外親会社への管理手数料役務提供か、株主活動か、源泉税の要否
海外子会社への業務委託料役務提供地、成果物、移転価格
海外法人へのソフトウェア利用料使用料かサービス料か
海外個人への報酬国内での人的役務提供の有無
海外金融機関への利子租税条約、源泉税率
海外子会社への立替精算実費精算か、役務対価か
海外代理店への手数料PE、源泉税、契約権限
海外出向者関連の給与精算給与か役務提供か、出向契約との整合性

「請求書が来たから支払う」の前に、税務上の支払内容を一度確認しておきたいところです。

タイミング4:海外子会社を設立する前

海外子会社の設立は、国際税務における入口にあたります。

設立国の法人税率だけで判断してはいけません。日本の親会社側でも、設立の時点から次のような論点が生じます。

設立前に確認すべき論点内容
持株割合外国子会社配当益金不算入、CFC、連結範囲に影響
資本金・貸付金配当、利子、為替、源泉税、移転価格に影響
事業実体事務所、人員、管理支配、CFC判定に影響
取引内容販売、製造、研究開発、ライセンス、地域統括
価格設定棚卸資産、役務提供、ロイヤリティ、貸付利率
配当方針益金不算入、外国源泉税、資金還流
現地税務法人税、源泉税、VAT、移転価格文書
日本側資料組織図、契約書、取締役会資料、出資資料
将来の撤退清算、株式譲渡、債権放棄、損失計上

海外子会社から配当を受ける場合には、外国子会社配当益金不算入制度の対象となるかどうかを確認します。内国法人が、保有割合25%以上の状態を配当等の支払義務確定日前6月以上にわたって継続している外国法人から受ける配当等については、一定額を益金不算入とする制度が設けられています。
出典:国税庁|第1 法人税基本通達関係/外国子会社から受ける配当等

あわせて、海外子会社がある場合には、外国子会社合算税制も確認しておく必要があります。外国関係会社に該当するか、経済活動基準を満たすか、特定外国関係会社・対象外国関係会社・部分対象外国関係会社のいずれに該当するか。これらは、設立国、事業内容、実体、管理支配、取引先の構成によって変わってきます。

令和8年度税制改正関係の国税庁資料では、外国子会社合算制度について、経済活動基準、特定外国関係会社、対象外国関係会社、部分対象外国関係会社等の全体像と見直しが示されており、外国関係会社の令和8年4月1日以後開始事業年度に係る課税対象金額等に適用される改正項目も明らかにされています。
出典:国税庁|令和8年度 法人税関係法令の改正の概要/その他主な改正項目

海外子会社は、作った後で「税務上まずかった」と気づいても、資本関係、契約、現地申告、資金移動を簡単には巻き戻せません。だからこそ、設立前の相談が重要になります。

タイミング5:海外子会社との価格設定を始める前

海外子会社との取引では、移転価格税制を避けて通ることができません。

中小・中堅企業では、「うちは大企業ではないから移転価格は関係ない」と考えてしまうことがあります。しかし、国外関連者との取引がある以上、取引の規模にかかわらず、価格設定の妥当性は問題になり得ます。

とくに相談しておきたい取引は、次のとおりです。

取引相談すべきポイント
商品・部品の輸出入利益配分、販売機能、製造機能、在庫リスク
ロイヤリティ無形資産の内容、料率、便益、比較可能性
経営支援料実際の役務提供、株主活動との区分、工数資料
技術支援料技術移転か、単なる支援か、使用料源泉
ITシステム利用料コスト配賦、利用実績、無形資産該当性
貸付金利子利率、通貨、期間、信用リスク
債務保証料保証による便益、保証料率、金融取引資料
費用分担配賦基準、契約、便益、実績資料

国税庁の移転価格文書化FAQでは、同時文書化義務について次のように示されています。一の国外関連者との前事業年度の国外関連取引の対価の額の合計額が50億円以上、または無形資産取引の対価の額の合計額が3億円以上である法人は、確定申告書の提出期限までにローカルファイルを作成または取得し、原則として7年間保存することとされています。
出典:国税庁|移転価格税制に係る文書化制度(FAQ)

ただし、同時文書化義務の基準に満たないからといって、説明資料が不要になるわけではありません。調査で提示や提出を求められる書類の範囲は、同時文書化義務の有無によって完全に切り離されるものではないからです。むしろ中小・中堅企業では、契約書、請求明細、価格設定メモ、役務提供の実績、工数表、現地子会社の決算資料を、どこまで残しているかが重要になってきます。

移転価格では、税務調査で誤解を招かないよう、契約書や稟議書といった提出資料を早めに整えておくことが大切です。

タイミング6:海外出向・駐在を始める前

海外出向は、一見すると人事の問題に見えます。しかし実際には、法人税・源泉税・移転価格・PEが同時に絡む論点です。

海外子会社へ社員を出向させる場合には、次の点を出向開始の前に確認します。

確認項目税務上の意味
出向目的親会社の業務か、子会社の業務か
出向契約給与負担、職務内容、指揮命令、期間
給与支払者日本親会社か、海外子会社か、双方か
給与較差補填日本親会社負担の合理性
留守宅手当給与課税、損金算入、源泉
賞与・退職金負担すべき法人、期間対応
出張・駐在日数現地課税、PE、居住者判定
契約締結権限代理人PEリスク
精算方法立替精算か、役務提供対価か

海外出向者について、給与条件の較差補填として出向元法人が負担する金額は、合理的な範囲にとどまる限り、通常は出向元法人の損金として説明しやすいものです。一方で、本来は出向先法人が負担すべき賞与等を出向元法人が肩代わりしている場合には、較差補填とは認められにくい場面が出てきます。

海外出向でとりわけ注意したいのが、PEです。

非居住者や外国法人に対する日本の課税では、国内源泉所得がPEに帰せられるかどうかで課税関係が異なります。PEには、支店・事務所等の固定的施設、1年を超える建設工事現場等のほか、反復して契約を締結する権限を有する者や、契約締結のために主要な役割を果たす代理人等が含まれます。
出典:国税庁|No.2883 恒久的施設(PE)(令和元年分以後)

日本企業が海外に出向者や駐在員を置く場合も、相手国で日本親会社のPEが認定される可能性があります。海外で契約交渉、価格決定、受注活動、主要な営業活動を行うのであれば、出向契約や職務権限を事前に整理しておく必要があります。

タイミング7:海外で源泉税や法人税が発生したとき

海外で税金が差し引かれた場合に、「外国で税金を払ったのだから、日本ではもう問題ない」と考えるのは危険です。

日本の法人税申告では、その税金が外国税額控除の対象になるのか、損金として処理するのか、益金不算入との関係で控除対象から外れるのかを確認します。

海外で発生する税金日本側で確認すること
ロイヤリティ源泉税租税条約税率、外国税額控除、源泉税証明
利子源泉税契約、税率、控除限度
配当源泉税外国子会社配当益金不算入との関係
海外支店法人税PE帰属所得、外国税額控除
役務提供に係る現地税所得区分、租税条約、証明書
VAT・GST法人税とは別に処理、仕入税額控除や還付可能性
ペナルティ外国税額控除対象か、損金性の確認

法人税の申告書確認表では、外国税額控除について次のように示されています。原則として外国法人税を納付することとなる日の属する事業年度に適用すること、租税条約等の限度税率を超える部分は外国税額控除の対象にならず損金算入されること、そして条約および相手国法令の根拠規定を記載することなどです。
出典:国税庁|令和7年4月1日以後開始事業年度等分 申告書確認表(内国法人用)

外国子会社からの配当については、益金不算入制度の適用を受ける部分に対応する外国源泉税が、外国税額控除の対象にならない場面があります。また、外国子会社合算税制で合算課税された後に配当を受ける場合にも、二重課税の調整を確認しておく必要があります。

外国税額控除は、証明書がなければ検討そのものが進みません。海外で源泉税が引かれた時点で、源泉徴収票、納税証明書、支払通知、契約書、請求書、入金明細を確保しておきましょう。

タイミング8:申告前に海外取引を棚卸しするとき

申告の前には、海外取引を一覧にして整理します。

この段階で専門家に相談する目的は、過去の取引を一つずつ確認することだけではありません。今後も同じ処理を続けてよいのか、契約や資料を見直すべきか、翌期以降に前もって手を打っておくべき論点はないか。こうした点をあわせて整理することにあります。

申告前に整理する資料確認する論点
海外取引一覧売上、仕入、役務、使用料、利子、配当
海外送金一覧源泉税、租税条約、支払調書
契約書取引内容、税負担、価格設定
海外子会社決算書CFC、移転価格、配当
現地税務申告書外国税額控除、租税負担割合
配当資料持株割合、保有期間、源泉税
出向契約給与負担、PE、源泉
為替資料円換算、外貨建債権債務
移転価格資料価格設定、機能リスク、比較資料
税務判断メモ翌期以降の改善点

令和8年度改正関係の国税庁資料では、関連者間取引に係る書類の整理保存の特例が創設されています。一定の関連者間取引について、契約書等に対価の算定に必要な事項の記載がない場合には、その事項を明らかにする書類を申告書の提出期限までに取得または作成し、一定期間保存する、という内容です。
出典:国税庁|令和8年度 法人税関係法令の改正の概要/その他主な改正項目

この改正は、海外取引だけを対象とするものではありません。とはいえ、海外関連者との取引を行う会社にとっては、契約書、請求書、配賦計算、役務提供明細、対価算定資料を早めに整えておくことの重要性を、あらためて示すものといえます。

相談が遅れると何が経営上のリスクになるか

国際税務の相談が遅れると、単に税額が増えるだけでは済みません。

相談遅れによるリスク経営への影響
源泉徴収漏れ追加納税、附帯税、相手先との精算困難
租税条約届出漏れ軽減税率を適時に使えず、資金負担が増える
税負担条項の不備源泉税を自社負担せざるを得ない
移転価格資料不足税務調査で価格の合理性を説明しにくい
役務提供実績不足海外子会社への請求が否認・調整される可能性
PEリスクの未検討海外で法人税申告義務が生じる可能性
外国税額控除資料不足二重課税を排除できない可能性
CFC判定漏れ日本親会社で合算課税漏れが発生する可能性
為替処理の不統一利益・税額・金融機関説明に影響
海外子会社管理不足配当、貸付、保証、撤退時の判断が難しくなる

中小・中堅企業では、海外取引の担当者が営業部門と経理部門に分かれ、税務判断に必要な情報が一箇所に集まっていない、ということがしばしば起こります。

税務調査では、海外取引や国際課税を専担する部署が関与することもあります。海外取引については、契約、送金、役務提供、価格設定、現地資料を、後からきちんと説明できる状態にしておくことが大切です。

「この段階で相談すべき」実務上のサイン

次のいずれかに当てはまる場合には、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

サイン相談すべき理由
海外企業へ初めて送金する源泉税・租税条約・支払調書を確認する必要がある
海外企業との契約書に税金条項がない源泉税負担やグロスアップが不明確になる
請求書に「service fee」「royalty」「license fee」とある所得区分により源泉税が変わる
海外子会社を設立するCFC、移転価格、配当、資金供与を設計する必要がある
海外子会社へ貸付をする利率、源泉税、為替、移転価格を確認する必要がある
海外子会社に無償で支援している寄附金・移転価格の問題が生じる可能性がある
海外子会社から配当を受ける益金不算入、源泉税、CFC課税済所得を確認する必要がある
海外出向者を出す給与負担、PE、源泉税、出向契約を整理する必要がある
海外代理店に営業を任せる代理人PE、契約締結権限、手数料を確認する必要がある
海外で源泉税を差し引かれた外国税額控除や証明書保存を確認する必要がある
海外子会社が赤字または高利益になっている移転価格・事業実態・機能リスクを確認する必要がある
低税率国に会社がある外国子会社合算税制を確認する必要がある
海外取引を前年踏襲で処理している契約更新、税制改正、価格設定を見直す必要がある

国際税務は、「金額が大きくなってから」ではなく、「取引が反復・継続する前」に整理しておくことが大切です。

相談前に整理しておくとよい資料

専門家へ相談する前に、すべての資料が完璧にそろっている必要はありません。

ただし、次のような資料があると、論点の整理がぐっと早くなります。

資料用途
海外取引一覧取引の全体像を把握する
契約書・ドラフト税負担条項、取引内容、権利関係を確認する
請求書支払内容、通貨、税額、相手先を確認する
送金明細支払日、源泉税、為替を確認する
海外子会社の決算書CFC、移転価格、配当を確認する
現地税務申告書租税負担割合、外国税額控除を確認する
配当通知・株主総会資料配当の支払義務確定日、源泉税を確認する
出向契約書給与負担、業務内容、指揮命令を確認する
組織図・資本関係図関連者、国外関連者、CFCを確認する
価格設定資料移転価格、料率、利率、配賦基準を確認する
作業報告・工数表役務提供の実在性を確認する
税務判断メモ過去の処理、前提、判断理由を確認する

相談の際には、次の5点を最初にお伝えいただくと、専門家との対話が具体的なものになります。

伝える事項具体例
何をしたいのか海外子会社設立、送金、契約、配当、出向
誰と取引するのか海外子会社、海外親会社、第三者、個人
いつ実行するのか契約予定日、送金予定日、配当決議日、申告期限
いくらの取引か年間取引額、1回あたり金額、通貨
何が不安か源泉税、租税条約、移転価格、PE、CFC、外国税額控除

専門家へ相談しても「丸投げ」では足りない

国際税務では、専門家に相談すれば何もかもが自動的に片づく、というわけではありません。

というのも、税務判断の前提となる事実は、会社側にしか分からないからです。

たとえば、次のような事実です。

会社側で整理すべき事実理由
実際に誰が役務を提供しているか役務提供実態、移転価格、源泉税に影響する
海外子会社がどの機能を担っているか利益配分、移転価格に影響する
海外出向者が誰の指揮命令を受けているか給与負担、PEに影響する
契約交渉を誰が行っているか代理人PEに影響する
ロイヤリティ料率をどう決めたか移転価格、説明責任に影響する
海外子会社に事務所・従業員があるかCFC、事業実体に影響する
海外源泉税の証明書を取得しているか外国税額控除に影響する

専門家との相談を実りあるものにするには、会社側が事実を整理し、専門家が制度・税務判断・資料化の観点から検討する、という役割分担が欠かせません。

まとめ:国際税務は「取引前」「送金前」「申告前」で相談する

中小・中堅企業が国際税務で専門家に相談すべきタイミングは、申告の直前だけではありません。

海外取引は、契約、送金、人の移動、価格設定、配当、現地課税といった各段階で、税務上の結論が大きく変わっていきます。

最後に、重要な点を振り返っておきます。

タイミング相談すべき主な内容
海外取引開始前国内源泉所得、源泉税、PE、消費税・VAT、現地税務
契約締結前役務内容、使用料、税負担条項、グロスアップ、租税条約
海外送金前源泉徴収、租税条約届出、居住者証明書、支払調書
海外子会社設立前持株割合、資金供与、配当、CFC、移転価格
海外子会社との継続取引前ロイヤリティ、役務提供料、貸付利率、保証料、価格設定
海外出向前給与負担、出向契約、PE、源泉税、移転価格
海外で課税された時外国税額控除、源泉税証明、租税条約、二重課税
決算・申告前海外取引一覧、為替、配当、移転価格、CFC、保存資料
税制改正時関連者間取引資料、CFC、グローバル・ミニマム課税等の影響
税務調査前契約書、送金資料、役務提供実績、価格設定根拠の整理

国際税務で重要なのは、税負担を軽くすることだけではありません。後からきちんと説明できる契約、送金、価格設定、資料保存を整え、二重課税や調査のリスクを抑えながら、海外展開を続けていける数字を作ること。ここにこそ、本当の意味があります。

国際税務の相談タイミングに迷ったら

海外取引は、事業判断のスピードが速い一方で、税務上の確認が後回しになりやすい領域です。

次のような状況に心当たりがある場合には、申告の前ではなく、取引や送金を実行する前に論点を整理しておくことをおすすめします。

状況早めに確認したいこと
海外企業へ送金する予定がある源泉税、租税条約、税負担条項
海外契約書を締結する予定がある使用料、役務提供、グロスアップ、PE
海外子会社を設立する予定があるCFC、移転価格、配当、資金供与
海外子会社との取引が増えている価格設定、契約書、役務提供実績
海外出向者を出す予定がある給与負担、源泉、PE、出向契約
海外で源泉税を差し引かれた外国税額控除、証明書、租税条約
海外取引を前年踏襲で処理している契約更新、税制改正、資料保存

犬飼公認会計士・税理士事務所では、法人税申告を単なる申告書の作成にとどめず、契約、会計処理、税務調整、根拠資料、税務調査対応、そして将来の経営判断までを含めた判断の領域として支援しています。

海外送金、ロイヤリティ、役務提供、海外子会社設立、海外出向、PE、租税条約、移転価格、外国税額控除、外国子会社合算税制について、どの段階で相談すべきか迷っている場合は、当事務所ホームページのお問い合わせページより、どうぞお気軽にご相談ください。

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