移転価格税制の全体像|海外子会社・国外関連者との取引価格をどう考えるか

海外子会社や海外関連会社、海外拠点との取引がある会社にとって、法人税の申告で見落とされやすい論点のひとつが「移転価格税制」です。

移転価格税制と聞くと、大企業や多国籍企業だけの話のように感じられるかもしれません。ですが実務では、決してそうではありません。

たとえば、海外子会社に製品を販売している。海外関連会社から部品を仕入れている。海外子会社へ経営支援を行っている。ロイヤリティを受け取っている。海外関連会社へ資金を貸し付けている。あるいは債務保証をしている。こうした取引があれば、中小・中堅企業であっても十分に問題になり得ます。

この制度は、単に「海外子会社との取引価格が高いか安いか」を見るためのものではありません。国外関連者との取引を通じて、本来であれば日本法人に残るはずの利益が、海外へ移転していないかを検証する制度です。

国税庁は移転価格税制について、次のように整理しています。国外関連者との取引価格が、第三者間で成立する価格である独立企業間価格と異なり、その結果として日本の課税所得が減少している場合、その取引が独立企業間価格で行われたものとみなして所得を計算する制度である、というものです。出典:国税庁|移転価格税制に関する事前確認の申出及び事前相談について

本稿では、細かな経済分析や個別の算定方法に立ち入る前に、そもそも移転価格税制が何を問題にする制度なのか、そして法人税申告・税務調査・経営管理という三つの観点からどのように捉えておくべきかを整理していきます。

目次

移転価格税制とは何か

移転価格税制とは、内国法人が国外関連者との間で行う取引について、その取引価格が独立企業間価格と異なる場合に、法人税の所得計算上、独立企業間価格で取引したものとして所得を計算する制度です。

ここで押さえておきたいのは、この制度が契約上の取引価格そのものを民事上無効にしたり、実際の請求額や支払額を直接書き換えたりするものではない、という点です。あくまで法人税の所得計算の場面で、税務上あるべき価格に引き直して課税所得を計算する仕組みにとどまります。

たとえば、海外子会社に100で販売した取引について、独立した第三者であれば本来150で販売すべきだったと判断されたとします。この場合、税務上は150で販売したものとして日本法人の所得を計算する、という考え方をとるわけです。

もっとも、これによって会計上の売上が自動的に増えるわけではありません。実際に海外子会社から差額を回収していない限り、決算書上の売上や売掛金と、法人税申告上の所得調整との間には差が生じます。

だからこそ移転価格税制は、単なる国際税務の論点にとどまりません。会計処理、別表調整、利益計画、資金移動、さらには税務調査への対応にまで波及していきます。移転価格更正額は、税務上の所得計算では加算されるものの、現実の取引価格や市場メカニズムそのものに介入するわけではない。この整理を最初に持っておくことが大切です。

なぜ移転価格税制が必要になるのか

独立した第三者同士であれば、売り手はできるだけ高く売りたい、買い手はできるだけ安く買いたいと考えます。利害が正面から対立するため、価格交渉を通じて、通常は市場に近い価格が形成されます。

ところが、親会社と海外子会社、あるいは兄弟会社や海外関連会社といったグループ会社間では、事情が異なります。会社同士は別法人であっても、グループ全体としては同じ経済的利害の中にあるからです。その結果、取引価格を通じて、利益をどの国の法人に残すかを調整できてしまいます。

具体的に考えてみましょう。日本法人が海外子会社へ製品を安く販売すれば、日本法人の利益は減り、海外子会社の利益は増えます。逆に、日本法人が海外子会社から高く仕入れれば、やはり日本法人の利益は減り、海外子会社の利益は増えます。この海外子会社が日本より税率の低い国にあれば、グループ全体の税負担は下がる可能性があるわけです。

移転価格税制は、こうした国外関連者との取引価格を通じた所得移転に対応するために設けられています。昭和61年度の税制改正で導入された背景にも、国外関連者との取引を通じた海外への所得移転に対処し、適正な国際課税を実現するという狙いがありました。出典:国税庁|移転価格税制に関する事前確認の申出及び事前相談について

ここで注意したいのは、この制度が「租税回避の意図があったかどうか」だけで判断するものではない、ということです。グループとして悪意がなかったとしても、結果として国外関連取引の価格が独立企業間価格と異なり、日本法人の課税所得が減少していれば、移転価格税制上の問題になり得ます。移転価格の問題は、脱税や租税回避と混同して捉えるべきものではありません。あくまで、取引価格が独立企業間価格と整合しているかという問題として理解しておく必要があります。

移転価格税制が問題になる典型的な取引

移転価格税制の対象になるのは、国外関連者との「資産の販売、資産の購入、役務提供その他の取引」です。つまり、物の売買に限らず、さまざまな取引が対象に含まれます。

代表的なものを挙げると、次のとおりです。

  • 海外子会社への製品・商品・部品の販売
  • 海外関連会社からの原材料・商品・部品の仕入れ
  • 海外子会社への製造委託、販売委託、研究開発委託
  • 経営支援、管理支援、技術支援、営業支援などの役務提供
  • 商標、特許、ノウハウ、ソフトウェアなどの無形資産の使用許諾
  • ロイヤリティ、ライセンス料、ブランド使用料
  • 海外関連会社への貸付、借入、保証、キャッシュ・プーリング
  • 海外出向者を通じた役務提供や人件費負担
  • 事業再編、機能移転、無形資産移転、商流変更

とりわけ中小・中堅企業で見落とされやすいのが、「海外子会社を支援しているだけ」「グループ内の費用精算にすぎない」「現地法人を立ち上げたばかりで利益が出ていないから、価格は後で考える」といった整理です。

しかし、国外関連者との取引である以上、それが無償であれ、低額であれ、高額であれ、独立した第三者間であればどのような条件になったかを検討する必要があります。国内の寄附金課税では対応しきれない国外関連者との取引価格の問題に対応するため、移転価格税制は「取引を通じた所得移転」を独立企業間価格で検証する制度として設けられているのです。

「国外関連者」は、単に海外子会社だけを指すわけではない

移転価格税制を考えるうえで、最初に確認しておきたいのは、取引相手が「国外関連者」に該当するかどうかです。

国外関連者というと海外子会社をイメージしがちですが、実務ではそれだけにとどまりません。資本関係だけでなく、実質的な支配関係、役員関係、取引依存関係などを通じて、特殊の関係が認められる場合もあるからです。

そのため、「持株比率が低いから関係ない」と形式的に判断してしまうのは危険です。海外合弁会社、海外販売代理店、海外製造会社、海外ライセンス先などについても、資本関係と実質支配関係の両面から確認しておく必要があります。

もっとも、本稿は移転価格税制の全体像を扱う記事です。国外関連者の判定そのものは、次稿以降で詳しく整理していく領域になります。ここではまず、「海外の関連先との取引がある場合には、国外関連者に該当するかどうかを確認する」という入口の意識を持っていただければと思います。

独立企業間価格とは何か

移転価格税制の中心にあるのは「独立企業間価格」という概念です。

これは平たくいえば、特殊な関係のない独立した第三者同士であれば成立したと考えられる価格のことです。英語では arm’s length price と呼ばれます。

ただし、独立企業間価格は、市場価格表を探せばすぐに分かるという類のものではありません。同じ製品であっても、誰が開発したのか、誰が在庫リスクを負うのか、誰が販売リスクを負うのか、誰が保証責任を負うのか、どの市場で売るのか、どのような無形資産を使っているのか。こうした要素によって、適正な利益配分は変わってきます。

国税庁の移転価格事務運営要領でも、独立企業間価格を検討する際には、国外関連取引の内容を的確に把握し、比較対象取引の有無等を検討したうえで、最も適切な方法を選定することが示されています。出典:国税庁|移転価格事務運営要領 第4章 独立企業間価格の算定等における留意点

つまり、移転価格税制で問われるのは「価格がいくらか」だけではありません。

どの法人が、どの機能を果たし、どのリスクを負い、どの資産を使い、どの無形資産の価値創造に貢献しているのか。その実態に応じて、利益がどの法人に配分されるべきかを説明できるかどうか。ここが問われているのです。

移転価格税制は「利益率」だけを見る制度ではない

移転価格調査では、利益率が重要な入口になることがあります。日本法人の利益率が同業他社と比べて低い、海外子会社だけが高い利益を得ている、特定の海外関連会社との取引だけ赤字になっている。こうした状況は、検討のきっかけになり得ます。

とはいえ、利益率が低いからといって、ただちに移転価格課税を受けるわけではありません。反対に、利益率が一定水準にあるから必ず安全だ、ともいえないのです。

国税庁の移転価格事務運営要領では、調査に当たり、確定申告書や調査等で収集した書類等を基に、個々の取引実態に即した多面的な検討を行うことが示されています。あわせて、比較対象取引の候補と考えられる取引の利益率等の範囲内にあるか、複数年度の情報を基礎とすべきか、価格交渉の過程等をどう見るかといった点にも触れられています。出典:国税庁|移転価格事務運営要領 第3章 調査

さらに、価格交渉が厳しく行われた、第三者が交渉に関与していた、契約上の当事者に第三者が含まれていた。こうした事実だけでは、非関連者間取引と同様の条件で行われた根拠にはならない点にも留意が必要です。出典:国税庁|移転価格事務運営要領 第3章 調査

実務では、「現地法人との価格は毎年話し合って決めている」「海外子会社も赤字なので問題ない」「親会社が支援しているだけで利益移転ではない」といった説明がなされることがあります。しかし、それだけでは十分とはいえません。

なぜその価格になったのか。第三者間であれば同じ条件で取引したのか。価格を決めた時点で、どの資料を見て、どのような利益水準を想定していたのか。実際の結果が想定と違った場合、価格改定や補償調整をどのように行う設計だったのか。ここまで整理しておかなければ、後から説明することは難しくなります。

移転価格税制と法人税申告の関係

移転価格税制は、税務調査で指摘されて初めて考えればよいものではありません。法人税は申告納税制度を前提としているため、本来は会社自身が、国外関連取引について独立企業間価格で行われているかを確認し、必要に応じて申告調整を行うべきものだからです。

この点は、通常の国内取引とは感覚が少し異なります。国内取引であれば、請求書、契約書、会計処理に基づいて売上・仕入・費用が計上され、その処理がそのまま法人税申告に反映されます。ところが移転価格税制では、会計上の取引価格が存在していても、それが税務上の独立企業間価格と異なる場合には、税務上は別の所得計算が求められます。

そのため、国外関連取引については、次の二段階で考える必要があります。

第一に、会計上・契約上、実際にどのような取引が行われたか。 第二に、その取引価格が、税務上の独立企業間価格として説明できるか。

この二つを分けずに、「契約書があるから大丈夫」「請求書どおりに処理しているから大丈夫」と考えてしまうと、移転価格税制上の検討がすっぽり抜け落ちてしまいます。

価格設定は、取引開始前から設計する

移転価格税制で最も避けたいのは、税務調査で指摘を受けてから、過去の価格設定の理由を後付けで探すことです。

もちろん、過去の資料を整理して合理性を説明できる場合もあります。しかし本来は、国外関連取引を開始する時点で、取引の目的、価格設定方針、契約条件、利益配分の考え方を整理しておくべきものです。

とりわけ、次のような局面では、移転価格税制を事前に検討する必要性が高くなります。

  • 海外子会社を設立する
  • 海外子会社へ販売機能や製造機能を移す
  • 海外関連会社へ技術、商標、ノウハウを使用させる
  • 海外子会社へ経営支援、人材派遣、技術支援を行う
  • 海外関連会社へ資金を貸し付ける
  • 海外関連会社の債務を保証する
  • 既存の商流を変更する
  • 海外子会社の赤字が続いている
  • 日本法人の利益率が低下している
  • 海外子会社に利益が偏っている
  • 海外税務当局から移転価格に関する照会を受けている

こうした場面では、契約書を作るだけでは足りません。契約書の内容と、実際の機能・リスク・利益配分とが一致しているかを、あわせて確認する必要があります。

文書化は「大企業だけの義務」と考えない

移転価格税制では、一定規模以上の国外関連取引について、ローカルファイルの同時文書化義務があります。国税庁の例示集では、一の国外関連者との前事業年度の国外関連取引の合計金額が50億円以上、または無形資産取引の合計金額が3億円以上である法人について、確定申告書の提出期限までにローカルファイルを作成または取得し、保存する義務があるとされています。出典:国税庁|独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類のうち同時文書化が義務付けられる書類(解説)

ここで誤解してはならないのは、同時文書化義務の対象外であれば、移転価格の説明資料が不要になるわけではない、ということです。

同時文書化義務は、あくまで一定規模以上の取引について、確定申告書の提出期限までにローカルファイルを作成または取得し保存する義務を定めるものです。一方で、移転価格税制そのものは、国外関連取引があれば問題になり得ます。規模が小さくても、税務調査で取引実態、価格設定、利益配分、契約書、損益資料の提出を求められる可能性は残ります。

国税庁の移転価格事務運営要領でも、調査においては、法人および国外関連者ごとの資本関係・事業内容、取引関係、主要品目、販売市場、事業別業績、ローカルファイルに相当する書類などから、国外関連取引の実態を的確に把握し、移転価格税制上の問題の有無を判断するとされています。出典:国税庁|移転価格事務運営要領 第3章 調査

したがって、中小・中堅企業であっても、少なくとも自社の国外関連取引を説明できる資料は整えておくべきだといえます。

ローカルファイルで問われる情報の本質

ローカルファイルという言葉だけを見ると、専門家が作る分厚い文書を思い浮かべるかもしれません。しかし、その本質は、国外関連取引について「誰が、何を、どの条件で、どの価格で、なぜその価格で取引したのか」を説明するための資料にあります。

国税庁の例示集では、国外関連取引の対象となる資産や役務の内容を説明するために、取引の当事者や取引の流れ等を明らかにする必要があるとされています。あわせて、契約書、取引フロー図、商品資料、価格表などが、既存資料の例として挙げられています。出典:国税庁|独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類のうち同時文書化が義務付けられる書類(解説)

さらに、機能・リスクの分析も重要です。同じ例示集では、法人および国外関連者が果たす機能、負担するリスク、そして事業再編によって機能やリスクに変更があった場合の内容を記載する書類が示されています。出典:国税庁|独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類のうち同時文書化が義務付けられる書類(解説)

実務上、特に重要になるのは次のような情報です。

  • 資本関係、組織図、グループ内の役割
  • 国外関連取引の種類、金額、契約条件
  • 取引フロー、商流、物流、決済条件
  • 日本法人と海外関連者が果たす機能
  • 在庫リスク、信用リスク、為替リスク、市場リスク、製品保証リスク
  • 無形資産の所有者、開発者、使用者、管理者
  • 価格設定方針、改定ルール、利益率の検証方法
  • セグメント損益、取引別損益、国外関連者の財務情報
  • 比較対象取引や比較対象企業の選定理由
  • 価格改定や補償調整を行う場合の契約上・実務上の根拠

ローカルファイルは、単なる税務書類ではありません。会社が海外関連者との取引をどのように設計し、どのように利益を配分し、その合理性をどう説明するかを示す資料です。BEPS行動13に基づく移転価格文書化でも、マスターファイル、ローカルファイル、国別報告書という三層構造で、多国籍企業グループ全体の事業概要と個別取引の詳細を整理する発想がとられています。

税務調査で問題になりやすいポイント

移転価格調査で問題になりやすいのは、単に「価格が低い」「利益率が低い」という点だけではありません。むしろ、価格設定の根拠が残っていない、契約内容と実態が一致していない、国外関連者の役割に比べて利益が過大または過小である。こうした点こそが問題になります。

たとえば、海外子会社が単なる販売支援機能しか持たないにもかかわらず、大きな利益を得ている場合。あるいは、日本法人が製品開発、製造、品質保証、ブランド管理、在庫リスクを負っているにもかかわらず、利益がほとんど残っていない場合。こうしたケースでは、利益配分の合理性が問われることになります。

また、海外子会社へ経営支援料を請求していない、ロイヤリティを受け取っていない、親会社が海外子会社のために保証をしているのに保証料を取っていない。こうした場合には、無償の役務提供や無形資産の使用許諾、あるいは金融取引の問題として検討が必要になります。

2022年の国税庁による移転価格事務運営要領の一部改正では、金融取引および費用分担契約に係る取扱い等について、所要の整備が行われています。出典:国税庁|『移転価格事務運営要領』の一部改正について

金融取引についても、グループ内だから無利息・低利・高利でよい、というわけではありません。貸付金の通貨、期間、信用力、担保、保証、返済可能性、市場金利等を踏まえて検討する必要があります。国税庁の移転価格事務運営要領でも、金融取引について、比較対象取引を現実の取引から見いだすことが困難な場合には、市場金利等を用いて想定した取引を比較対象取引とすることができること、そして信用格付等を用いることができることが示されています。出典:国税庁|移転価格事務運営要領 第3章 調査

移転価格課税を受けると何が起きるか

移転価格課税を受けると、日本法人の課税所得が増加します。その結果、法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税等の追加負担が生じる可能性があります。さらに、過年度に遡って更正される場合には、延滞税や加算税の問題も生じます。

しかし、移転価格税制の怖さは、それだけではありません。

日本で所得が増額されたとしても、相手国で海外関連会社の所得が自動的に減額されるとは限らないのです。相手国で対応的調整が認められなければ、同じ所得に対して日本と相手国の双方で課税される、いわゆる国際的二重課税が生じてしまいます。

この二重課税を解消する手段としては、租税条約に基づく相互協議や、将来年度について事前に独立企業間価格の算定方法を確認する事前確認、いわゆるAPAがあります。

国税庁は事前確認について、納税者の申出に基づき、国外関連取引に係る独立企業間価格の算定方法等を税務署長等が事前に確認する手続と説明しています。出典:国税庁|移転価格税制に関する事前確認の申出及び事前相談について

また、事前確認の申出は、事前確認を受けようとする事業年度のうち最初の事業年度開始の日までに、確認対象事業年度、国外関連者、対象となる国外関連取引、独立企業間価格の算定方法等を記載した申出書を提出する必要があります。出典:国税庁|移転価格税制に関する事前確認の申出について

大切なのは、APAや相互協議は、税務調査で指摘された後に慌てて考えるものではない、ということです。重要性の高い国外関連取引については、将来の課税リスクや二重課税リスクを下げるための選択肢として、事前に検討しておくべきものだといえます。

経営管理としての移転価格

移転価格税制は、税務部門だけの論点ではありません。

海外子会社との価格設定は、グループ全体の利益管理、海外子会社の業績評価、現地経営者のインセンティブ、金融機関への説明、M&A時の企業価値、事業承継時の海外子会社評価にも影響します。

たとえば、日本本社が研究開発、製造、品質保証、ブランド管理を担っているにもかかわらず、海外販売子会社に大きな利益が残っている場合。このときは、税務上の移転価格リスクだけでなく、経営管理の面でも「どこで価値が生まれ、どこに利益が残っているのか」が不透明になってしまいます。

逆に、海外子会社が市場開拓、販売網構築、在庫リスク、信用リスクを負っているにもかかわらず、単なる販売代理店のような低い利益しか得ていない場合には、現地税務当局から指摘を受ける可能性もあります。

移転価格は、日本の税務当局だけを見ていればよい論点ではありません。相手国の税務当局も、同じ取引を反対側から見ているからです。そのため、日本側で「日本法人に利益を残す」ことだけを考えて価格設定を行うと、相手国で問題になる可能性があります。

移転価格税制は、日本法人の法人税申告だけで完結するものではありません。グループ全体の利益配分、海外子会社の事業実態、相手国課税、二重課税、資金回収、契約管理まで含めて考える必要があります。

中小・中堅企業がまず確認すべきこと

移転価格税制について、はじめから詳細なベンチマーク分析や複雑な経済分析に入る必要はありません。まず重要なのは、自社に国外関連取引があるかを洗い出し、それを説明できる状態にしておくことです。

実務では、次の順番で確認していくと整理しやすくなります。

  1. 海外関係会社の一覧を作る。 株主関係、役員関係、実質的な支配関係、取引依存関係を含めて整理します。
  2. 国外関連取引を取引種類ごとに洗い出す。 売上、仕入、役務提供、ロイヤリティ、貸付、保証、出向、費用配賦、研究開発、商流変更を一覧にします。
  3. 取引ごとの金額、契約、価格設定方法、改定ルールを整理する。 契約書がない場合や、契約と実態が違う場合には、その時点でリスクが高まります。
  4. 日本法人と海外関連者の機能・リスクを整理する。 誰が何をしているのか、誰がリスクを負っているのか、誰が重要な無形資産を持っているのかを確認します。
  5. 取引別・法人別の損益を確認する。 全社利益だけでなく、国外関連取引に関する損益を切り出せるかが重要です。
  6. 価格設定が第三者間取引として説明できるかを検討する。 内部比較対象取引があるか、外部比較対象企業を探す必要があるか、どの算定方法が適しているかを検討します。
  7. 毎期の申告前に、価格設定と実績利益をレビューする。 為替、原材料価格、市場環境、機能変更、商流変更があれば、前年踏襲では足りません。
  8. 重要性が高い取引について、事前確認や専門家によるレビューを検討する。

移転価格税制では、「申告時に何とかする」のではなく、取引開始時、契約変更時、決算前、申告前の各段階で確認していくことが重要です。

専門家に相談すべきタイミング

次のような状況にある場合には、早めに専門家へ相談されることをおすすめします。

  • 海外子会社を設立する予定がある
  • 海外子会社との取引金額が増えている
  • 海外子会社との契約書が整備されていない
  • 日本法人の利益率が低下している
  • 海外子会社に利益が偏っている
  • 海外子会社が継続的に赤字である
  • ロイヤリティや経営支援料を設定していない
  • 海外子会社へ無利息・低利で貸付をしている
  • 海外子会社の債務保証をしている
  • 海外出向者の人件費負担が曖昧である
  • 商流変更、製造移管、販売機能移転を予定している
  • 海外税務当局から照会を受けている
  • 税務調査で国外関連取引に関する資料提出を求められた
  • 同時文書化義務の対象になる可能性がある

特に、取引開始から数年経ってから資料を作る場合には、当時の価格設定理由、交渉過程、事業計画、利益見通し、契約条件の意図を再現することが難しくなります。

移転価格税制は、過去の処理を説明する税務でもありますが、本来は将来の取引をどう設計するかという経営管理の論点です。海外取引が増えている段階で、契約、価格設定、資料管理、申告調整の仕組みを整えておくこと。これが、将来の税務調査リスクや二重課税リスクを抑えることにつながります。

まとめ:移転価格税制は、海外取引の「価格」ではなく「利益配分」を問う制度

移転価格税制は、海外子会社との取引価格が第三者間価格と比べて高いか安いかだけを見る制度ではありません。より本質的には、グループ内で行われている取引について、価値を生み出している法人に適切な利益が配分されているかを問う制度です。

そのため、この制度を理解するには、税法の条文だけでなく、事業の流れ、契約、商流、機能、リスク、無形資産、損益管理、資料保存を一体で見ていく必要があります。

「海外子会社との取引だから、グループ内で自由に決めてよい」 「現地法人を支援しているだけだから、対価を取らなくてもよい」 「契約書があるから問題ない」 「前年と同じ価格だから問題ない」

こうした考え方では、移転価格税制上のリスクを見落としてしまう可能性があります。

重要なのは、独立した第三者同士であれば同じ条件で取引したと説明できるかどうか。そして、その価格設定を、契約書、損益資料、機能・リスク分析、比較資料、意思決定記録によって、後から説明できるかどうかです。

海外子会社・国外関連者との取引がある会社は、法人税申告の前だけでなく、取引設計、契約締結、価格改定、決算、税務調査対応まで含めて、移転価格を継続的に管理していく必要があります。

犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について

海外子会社や国外関連者との取引価格は、税務上の結論だけでなく、グループ全体の利益管理、資金移動、契約関係、税務調査対応、さらには将来のM&A・事業承継にも影響します。

自社の国外関連取引について、どの取引が移転価格税制の対象になり得るのか、価格設定の根拠をどこまで整理すべきか、申告前にどの資料を確認すべきか。こうした点を整理したい場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所のお問い合わせページよりご相談ください。

単に制度を説明するだけでなく、取引実態、契約、会計処理、税務調整、資料管理、そして将来の税務調査対応まで踏まえて、専門家と対話できる状態に整えておくことが大切です。

振り返り:本稿の重要ポイント

論点押さえるべきポイント
移転価格税制の目的国外関連者との取引を通じた海外への所得移転を防ぎ、日本の課税所得を適正に計算する制度
判断の中心取引価格が独立企業間価格と整合しているか
対象となる取引売買、役務提供、ロイヤリティ、貸付、保証、無形資産取引、事業再編など
誤解しやすい点悪意や租税回避目的がなくても、独立企業間価格と異なれば問題になり得る
会計との関係実際の取引価格を変更する制度ではなく、法人税の所得計算上、独立企業間価格に引き直す制度
税務調査で見られる点取引実態、機能・リスク、契約条件、利益率、比較対象、価格設定過程、資料の有無
文書化の考え方同時文書化義務の対象外でも、国外関連取引を説明できる資料は必要
経営上の影響税負担だけでなく、海外子会社管理、利益計画、資金繰り、M&A、承継にも影響する
相談すべき場面海外子会社設立、商流変更、ロイヤリティ設定、貸付・保証、海外子会社の赤字・高利益、税務調査前
実務上の基本姿勢取引開始前から、契約・価格設定・損益管理・資料保存を一体で整える
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