在庫が重い会社の資金調達と資金繰り管理|棚卸資産・在庫回転・ABLまで

在庫を多く抱える会社では、売上が伸びていても資金繰りが苦しくなることがあります。

商品はあり、倉庫にも在庫がある。帳簿上も、棚卸資産としてきちんと資産に計上されている。それでも、仕入代金や外注費、人件費、家賃、借入返済、税金を支払うための現金が足りない。こうした状況は、決して珍しいものではありません。

卸売業、小売業、製造業、EC事業、食品関連、アパレル、資材販売、部品販売、工事関連、あるいは医療・介護関連の物品販売など、在庫を持つことが前提の事業では、むしろよく見られる悩みだといえます。

在庫は、会計の上では確かに資産です。けれども資金繰りの観点から見ると、「現金が商品・原材料・仕掛品に姿を変えて、そこで止まっている状態」にほかなりません。

ですから、在庫が重い会社の資金調達では、ただ「運転資金を借りたい」と説明するだけでは足りません。大切なのは、その在庫がどういう性質のものなのかを見極めることです。売上拡大のために必要な在庫なのか、季節要因による一時的な在庫なのか、仕入条件の都合でやむを得ず抱えている在庫なのか。それとも、売れ残りや滞留、陳腐化によって資金を固定化してしまっている在庫なのか。

金融機関が見たいのも、まさにそこです。

在庫が増えた理由をきちんと説明できるか。その在庫はいつ売れるのか。売れた後、いつ入金されるのか。売上総利益は確保できるのか。在庫のうち、滞留・不良・評価損のリスクがある部分はどれだけあるのか。そして、借りた資金は、どのキャッシュで返済していくのか。

この記事では、こうした問いに答えていくために、棚卸資産、在庫回転、滞留在庫、仕入資金、在庫評価、ABL、資金繰り表、そして金融機関への説明という観点から、在庫が重い会社の資金調達と資金繰り管理を順番に整理していきます。

目次

在庫は「資産」だが、資金繰りの上では「現金が寝ている状態」

はじめに、在庫を会計と資金繰りの両面から分けて理解しておきたいと思います。

会計の世界では、在庫は棚卸資産として扱われます。具体的には、商品や製品、半製品、原材料、仕掛品などがこれにあたり、いずれも事業の目的を果たすために保有し、いずれ売却することを予定している資産です。

出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第9号 棚卸資産の評価に関する会計基準

この意味では、在庫はまぎれもなく会社の資産です。

ところが資金繰りの観点に立つと、在庫はまだ現金ではありません。販売され、請求され、代金が回収されて、そこではじめて資金として手元に戻ってきます。

そのため、在庫の多い会社では、次のようなズレが生じます。仕入代金は先に出ていく。商品や原材料は倉庫に残る。売上になるまでに時間がかかる。売上になっても、入金はさらに後になる。その間も、借入返済や人件費、税金の支払いは待ってはくれません。

つまり、在庫が重い会社の資金繰り管理では、「利益が出るかどうか」だけでなく、「いつ現金に戻るのか」を見ていく必要があるのです。

棚卸資産は、いずれ販売によって短期的に資金へと転化するまで、企業が保有しているものだと捉えられます。在庫を金額で把握したものが棚卸資産ですから、実際の品物や数量の管理と、会計上の金額の把握とを、きちんと結びつけておくことが何より大切になります。

在庫が重い会社で資金不足が起きる、典型的な流れ

在庫が重い会社の資金不足は、単純な赤字とは違う形で表れます。

典型的には、次のような流れをたどります。仕入を増やす。在庫が増える。販売までに時間がかかる。売上は立つものの、入金は後になる。その間に、仕入代金や固定費の支払いが先に来る。手元資金が減る。不足分を借入で補う。そして在庫がさらに増えれば、追加の運転資金が必要になる――という具合です。

ここで気をつけたいのは、「売上が伸びている会社」でも、まったく同じ問題が起きるということです。

売上の増加に合わせて必要な在庫が増えると、その在庫を仕入れるための資金が、売上に先立って必要になります。売上が増えたからといって、すぐに現金が増えるわけではないのです。

一方で、売上が増えていないのに在庫だけが増えている場合は、いっそう注意が必要です。販売に結びつかない在庫が、資金を固定化してしまっている可能性があるからです。

金融機関は、この二つを分けて見ています。売上増加に伴う前向きな増加運転資金なのか、それとも在庫増加による資金繰り体質の悪化なのか。売上が増えていて、売掛金や在庫の回転月数が大きく変わっていなければ、前向きな増加運転資金として説明しやすくなります。反対に、売上が変わらないのに棚卸資産の回転期間が長くなっている場合は、過剰在庫による資金繰り悪化と受け止められやすくなります。

ですから、在庫が重い会社の資金調達では、まずこの区別をはっきりさせておくことが出発点になります。

「良い在庫」と「悪い在庫」を分けて考える

在庫は、少なければよいというものではありません。

減らしすぎれば、欠品が起きます。欠品が起きれば、販売機会を失います。販売機会を失えば、売上も粗利も減ります。その結果、かえって資金繰りが悪化することもあるのです。

ですから、在庫管理の目的は、単純に在庫を削ることではありません。売上の機会を守りながら、資金を過度に固定化しない水準に整えること。ここに本当の狙いがあります。

そのうえで、在庫は大きく次のように分けて考える必要があります。

在庫の種類資金繰り上の見方
通常販売に必要な在庫事業継続に必要な正常在庫
売上増加に伴う在庫増加運転資金の対象になり得る在庫
季節変動に備える在庫一時的な季節資金の対象になり得る在庫
受注・契約に対応する在庫販売予定が比較的説明しやすい在庫
安全在庫欠品防止に必要だが、過大化に注意すべき在庫
滞留在庫販売時期・販売可能性の説明が必要な在庫
不良在庫・陳腐化在庫評価損・処分損・資金固定化リスクが高い在庫
帳簿上はあるが実在しない在庫棚卸差異・減耗として早急な確認が必要な在庫

資金調達の対象として説明しやすいのは、販売計画や受注見込み、過去の販売実績と結びつく在庫です。逆に説明が難しいのは、売れ残りや滞留、陳腐化、そして実在のはっきりしない在庫です。

「在庫があるから資産がある」と説明しても、金融機関は納得しません。金融機関が本当に知りたいのは、その在庫が資金化できるのかどうか、その一点なのです。

在庫回転期間を見れば、資金が寝ている長さがわかる

在庫が重い会社では、在庫の金額そのものよりも、在庫回転を確認することが大切です。

在庫回転期間とは、在庫がどれくらいの期間で販売されるかを見る指標です。実務では、次のような見方をします。

  • 在庫回転期間 = 棚卸資産 ÷ 月商
  • または、在庫回転期間 = 棚卸資産 ÷ 月間売上原価

金融機関の簡易的な分析では、棚卸資産を平均月商で割って回転月数を見ることがあります。一方、管理会計の観点からは、売上高ではなく売上原価や仕入高を基準にしたほうが、実態に近い場合もあります。いずれにしても、同じ基準で継続的に推移を追うことが肝心です。

在庫回転期間が短いほど、在庫が早く販売され、資金化されていることを示します。反対に長いほど、資金が在庫に長く固定化されていることを示します。

ただし、在庫回転期間は業種や商品の特性によって大きく異なります。日用品のように回転の速い商品もあれば、部品や資材、機械、特殊商材のように、一定期間保有することがそもそも前提の商品もあります。

ですから、見るべきなのは単年度の数値だけではありません。たとえば、次のような視点が必要になります。

  • 前年と比べて、長期化していないか
  • 売上増加に見合った在庫増加か
  • 粗利率の高い在庫か、値引きしないと売れない在庫か
  • 品目別に偏りがないか
  • 保管場所別に滞留していないか
  • 仕入時期から長期間が経過した在庫が増えていないか
  • 販売計画と在庫量が整合しているか

金融機関は、業種ごとの平均的な棚卸資産回転期間や、自社の過年度の推移を見ながら、過剰在庫の有無を推し量ることがあります。だからこそ、説明にあたっては、在庫を品目別・保管場所別・経過期間別に分け、滞留や減耗の有無を示せる資料を用意しておくと有効です。

在庫が増えた理由を「売上増加」とだけ説明してはいけない

在庫が増えた理由を尋ねると、経営者の方は「今後売れるから」「売上を伸ばすため」と説明されがちです。

けれども、金融機関への説明としては、それだけでは足りません。

売上増加に備えた在庫であれば、本来は次のような点まで説明できる必要があります。

  • どの商品が増えているのか
  • どの販売先・販売チャネルで売る予定なのか
  • 過去の販売実績から見て、妥当な数量なのか
  • 受注、内示、商談状況、販売計画との関係はあるか
  • 粗利率は確保できるか
  • 販売までの期間はどの程度か
  • 販売後の入金時期はいつになるか
  • 仕入代金の支払時期と入金時期の差はどれくらいか
  • 売れ残った場合の処分方法はあるか

ここまで整理できて、はじめて「売上増加に伴う前向きな運転資金」として説明できるようになります。

反対に、次のような状態であれば、注意が必要です。

  • 売上は横ばいなのに、在庫だけが増えている
  • 在庫が増えた理由を、品目別に説明できない
  • 仕入先からの条件や営業上の都合で、仕入れすぎている
  • 販売計画が粗い
  • 過去に売れ残った商品を、そのまま持ち続けている
  • 値引きしないと売れない商品が増えている
  • 実地棚卸をしておらず、帳簿在庫の実在性が弱い
  • 在庫評価損を認識していない可能性がある

こうした在庫は、資金調達で解決を図る前に、在庫管理と販売計画そのものを見直すべき在庫だといえます。

在庫が重い会社の運転資金は、売掛金・買掛金とセットで見る

在庫だけを眺めていても、資金繰りの全体像はつかめません。

運転資金は、ふつう次の関係でとらえます。

売上債権 + 棚卸資産 - 仕入債務

売上債権は、売掛金や受取手形など、まだ入金されていない売上です。棚卸資産は、まだ販売されていない商品・製品・原材料・仕掛品です。そして仕入債務は、買掛金や支払手形など、まだ支払っていない仕入代金です。

在庫が重い会社では、この三つのバランスが資金繰りを大きく左右します。在庫を仕入れ、買掛金として支払いを猶予してもらい、商品を販売し、売掛金が立ち、それを回収して、ようやく現金が戻ってくる。このサイクルが長い会社ほど、多くの運転資金が必要になります。

とくに気をつけたいのは、次のような場合です。

  • 仕入先への支払サイトが短い
  • 販売先からの回収サイトが長い
  • 在庫期間が長い
  • 売掛金の回収が遅れている
  • 支払手形の期日が集中する
  • 在庫を増やした月と、入金月が大きくズレる

このような場合は、在庫だけでなく、売掛金と買掛金を含めたキャッシュ・コンバージョン・サイクルまで確認しておく必要があります。

資金繰り表では、売上代金の入金、仕入代金の支払い、人件費、諸経費、税金、借入返済などを、それぞれ分けて管理します。なかでも経常収支は本業の資金収支であり、資金繰りを回していくための基本的な動力源です。

在庫が重い会社では、資金繰り表に次の要素を必ず反映させたいところです。

  • 仕入予定
  • 在庫増加予定
  • 販売予定
  • 売掛金回収予定
  • 買掛金支払予定
  • 在庫処分による入金予定
  • 借入返済予定
  • 税金支払予定
  • 季節要因による在庫の積み増し
  • 売上が遅れた場合の資金不足額

これらを資金繰り表に織り込んでおかないと、在庫が増えたことの影響を正しく判断できません。

その在庫増加は「前向きな増加運転資金」か、「資金繰り悪化」か

在庫が増えること自体は、悪いことではありません。

売上拡大に必要な在庫であれば、成長のための資金需要です。季節需要に備える在庫であれば、一時的な資金需要です。受注済みの商品・原材料であれば、販売と回収の見通しが比較的立てやすい資金需要だといえます。

ただ、在庫の増加がすべて前向きとは限りません。金融機関への説明では、在庫増加を次のように分けて考えることが重要になります。

1. 売上増加に伴う在庫増加

売上が増え、在庫も増えてはいるものの、在庫回転期間は大きく変わっていない状態です。

この場合、在庫の増加は、売上規模の拡大に伴う運転資金需要として説明しやすくなります。ただし、返済原資は将来の売上・粗利・入金になりますから、販売計画と回収予定の説明が欠かせません。

2. 季節要因による在庫増加

繁忙期を前に、商品や原材料を積み増しておく状態です。

この場合、資金需要は一時的であることが多く、繁忙期に販売した後の入金で返済する設計が考えられます。年間の資金繰り表で、仕入時期、販売時期、入金時期、返済時期を示しておく必要があります。

3. 仕入条件・供給制約による在庫増加

最低発注ロット、納期遅延のリスク、原材料の高騰、為替、供給不安などにより、通常よりも多めに仕入れる状態です。

この場合、必要性は説明できても、販売時期が曖昧なままだと資金繰りのリスクが高まります。「なぜ今、仕入れる必要があるのか」と「いつ資金化するのか」を、セットで説明することが求められます。

4. 売れ残り・滞留による在庫増加

販売が計画どおりに進まず、在庫が積み上がっている状態です。

この場合、追加融資で仕入資金を補う前に、販売計画の見直し、値引き販売、返品交渉、処分、評価損の検討が必要になります。資金調達で時間を稼ぐだけでは、問題が先送りになるだけです。

5. 帳簿在庫と実在庫のズレによる在庫増加

帳簿の上では在庫があるのに、実地棚卸をすると数量差異や減耗が見つかる状態です。

この場合、資金調達の前提となる在庫金額そのものが不確かになってしまいます。金融機関への説明以前に、まず月次棚卸や在庫管理体制の整備が必要です。

在庫管理とは、「販売機会」と「資金固定化」のバランスを取る経営管理

在庫管理は、倉庫の管理や棚卸作業だけを指すものではありません。

在庫管理とは、必要な商品を必要なタイミングで持ちながら、過剰な資金固定化を避けていく経営管理です。在庫コストを抑えつつ売上の最大化を図り、事業を継続していくために欠かせない管理活動だといえます。

在庫が重い会社では、とくに次のような管理が重要になります。

  • 品目別の在庫残高
  • 保管場所別の在庫残高
  • 仕入時期別の在庫年齢
  • 販売実績との対応
  • 受注見込みとの対応
  • 滞留在庫の区分
  • 不良在庫の区分
  • 棚卸差異、減耗、紛失、廃棄の把握
  • 返品可能性
  • 値引き販売の可否
  • 在庫処分による資金化の見込み
  • 仕入ロットと販売数量のバランス
  • 在庫の保管コスト
  • 保険、倉庫費、物流費

在庫は、販売部門、購買部門、倉庫部門、経理部門、そして経営者の、そのすべてに関わってきます。営業は売るために在庫を持ちたがり、購買は単価を下げるためにまとめ買いをする。倉庫はそれを保管し続け、経理は帳簿に計上し、経営者は資金繰りに頭を悩ませる。

この分断があると、在庫はあっという間に増えていきます。

資金繰りを安定させるには、在庫を「誰かの責任」にしてしまうのではなく、販売計画、仕入計画、資金計画をつないで管理していくことが必要です。

月次の実地棚卸ができていない会社は、在庫を資金調達の根拠にしにくい

在庫を金融機関に説明するには、在庫の実在性が前提になります。帳簿上の在庫金額だけでは、どうしても不十分なのです。

実際に存在するのか。どこに保管されているのか。販売できる状態なのか。数量に差異はないか。破損や劣化、陳腐化はないか。評価を見直す必要はないか。これらを確認するのが、実地棚卸です。

中小企業庁では、中小企業の会計を、自社の経営分析力、資金調達力、受注拡大力を高めるものとして位置づけています。あわせて「経営力向上」の手引きでは、資金繰りを安定させるための在庫管理、3か月資金繰り表、月次の実地棚卸、翌月10日までの月次決算などが整理されています。

出典:中小企業庁|会計

在庫が重い会社では、月次決算と月次棚卸の精度が、そのまま資金調達力に直結します。というのも、金融機関に対しては、次のような説明が求められるからです。

  • 棚卸資産残高は正確か
  • 実地棚卸を行っているか
  • 帳簿数量と実在数量に差異はないか
  • 滞留在庫を区分しているか
  • 評価損リスクを把握しているか
  • 在庫増加の原因を説明できるか
  • 在庫処分計画を持っているか

実地棚卸をしていない会社では、帳簿上の在庫が本当に資金化できる資産なのかどうか、金融機関の側からも判断しづらくなってしまいます。

棚卸資産の決算処理では、評価方法の選択、実地棚卸による在庫数量の確定、原価差異の把握、収益性の低下による簿価切下げの把握などが必要になります。期中の在庫管理と期末の在庫確定は、貸借対照表、損益計算書、注記にまで影響します。

滞留在庫は「いつか売れる」ではなく、資金化計画で判断する

在庫が重い会社で、もっとも注意してほしいのが滞留在庫です。

滞留在庫とは、通常の販売サイクルから外れ、長期間にわたって売れ残っている在庫を指します。

経営者の方は、「いずれ売れる」「捨てるのはもったいない」「仕入れた価格を考えると、値引きはしたくない」と考えがちです。お気持ちはよくわかります。けれども資金繰りの観点では、滞留在庫はとても重い存在です。

資金が戻らない。保管コストがかかる。倉庫スペースを圧迫する。劣化・陳腐化が進む。販売管理の手間が増える。実態よりも資産が大きく見える。そして、金融機関から過剰在庫と見られる。こうした負担が積み重なっていきます。

滞留在庫は、ただ「売れるかもしれない」と考えるのではなく、次のように分類して判断することをおすすめします。

区分判断の観点
通常販売可能通常価格・通常チャネルで販売できるか
値引き販売可能粗利は下がるが、資金化できるか
セット販売・代替販売可能別商品と組み合わせて販売できるか
返品・交換可能仕入先との交渉余地があるか
加工・転用可能別用途で販売・使用できるか
処分・廃棄対象保有し続けるより、損失を確定したほうがよいか
評価損検討対象帳簿価額で回収できる見込みがあるか

ここで大切なのは、販売の可能性ではなく、資金化の可能性です。

売れる可能性があったとしても、販売までに長い時間がかかるのなら、その間の資金繰りをどう支えていくのかを、あわせて考えておく必要があります。

在庫評価は、資金繰りにも金融機関対応にも影響する

在庫が重い会社では、在庫評価の問題も避けて通れません。

会計上、通常の販売目的で保有する棚卸資産は、原則として取得原価をもって貸借対照表価額とします。ただし、期末における正味売却価額が取得原価を下回っている場合には、正味売却価額を貸借対照表価額とし、その差額を当期の費用として処理します。また、営業循環過程から外れた滞留在庫や処分見込みの在庫については、処分見込価額まで切り下げる方法や、一定の回転期間を超えた場合に規則的に帳簿価額を切り下げる方法が示されています。

出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第9号 棚卸資産の評価に関する会計基準

これは、資金繰りにも影響してきます。

在庫評価損を計上すると、利益は減ります。利益が減れば、金融機関から見た返済能力や財務の安全性にも影響します。その一方で、売れない在庫を帳簿価額のまま放置していると、貸借対照表が実態より良く見えてしまう可能性があります。

資金調達の場面では、ここを曖昧にしないことが大切です。

金融機関にとって、在庫は「金額が大きいから安心」という資産ではありません。むしろ金額が大きいほど、その中身を確認したくなる資産なのです。

在庫評価については、会計基準、税務上の取扱い、採用している会計方針、会社の規模、開示の必要性などによって、検討すべき事項が変わってきます。とくに、会計上の評価損と税務上の損金算入の時期が一致しないこともあるため、具体的な処理は顧問の税理士・公認会計士などと確認しておく必要があります。棚卸資産の評価損は、会計と法人税法とで認識のタイミングが異なる場合があり、税務上の損金処理にあたっては慎重な確認が欠かせません。

在庫を担保にするABLは、在庫管理の精度が前提になる

在庫が重い会社では、ABL、すなわち動産・債権担保融資を検討することがあります。

ABLは、在庫、売掛債権、機械設備といった事業資産を担保として活用する資金調達の手法です。日本政策投資銀行は、ABLを、流動資産(集合動産、在庫、売掛債権など)を担保として活用する金融手法と説明しており、資金調達手段の多様化、機動的な資金調達、負債の組み替え、内部管理態勢の強化といったメリットを挙げています。

出典:日本政策投資銀行|ABL

在庫を担保にできるのであれば、在庫が重い会社にとっては有効な選択肢に見えます。実際、成長局面や季節変動、原材料の仕入、在庫を伴う事業などでは、ABLが候補になることがあります。

ただし、ABLは「在庫さえあれば借りられる制度」ではありません。金融機関や専門機関が確認したいのは、次のような点です。

  • 在庫の実在性
  • 在庫の所有権
  • 保管場所
  • 管理体制
  • 販売可能性
  • 市場性
  • 処分可能性
  • 評価額
  • 劣化・陳腐化リスク
  • 担保管理の継続性
  • 売掛債権との連動
  • 定期的な報告体制

つまり、ABLを活用するには、在庫管理ができていることが前提になります。

在庫台帳がない。月次棚卸をしていない。滞留在庫を区分していない。帳簿残高と実在庫が合わない。販売計画が曖昧。在庫の評価額を説明できない。こうした状態では、ABLを検討しても、実行までこぎつけるのは難しくなります。

また、ABLは便利な資金調達手段である一方で、金融機関への定期的な情報開示や、在庫・売掛金のモニタリングを求められることがあります。これは確かに負担ではありますが、見方を変えれば、社内の在庫管理体制を強化する機会にもなります。

大切なのは、ABLを「在庫を担保にして借りる手段」とだけ見るのではなく、「在庫管理を金融機関に説明できる状態に整えるための仕組み」として捉えることです。

資金調達の手段は、在庫の性質によって変わる

在庫資金を調達する方法は、一つではありません。そして、どの方法が適しているかは、在庫の性質によって変わってきます。

1. 通常運転資金としての借入

日常的に一定水準の在庫を保有する必要がある会社では、正常な運転資金として借入を検討します。

この場合、在庫が通常の営業循環のなかで販売され、売掛金となり、入金されていく流れを説明する必要があります。返済原資は、通常の営業から生じるキャッシュです。

2. 増加運転資金としての借入

売上の拡大、取引先の増加、商品ラインの拡充などによって在庫が増える場合は、増加運転資金として借入を検討します。

この場合は、売上計画、仕入計画、在庫計画、入金予定をつなげて説明することが重要です。売上増加の見込みが弱いと、単なる過剰在庫と見られてしまう可能性があります。

3. 季節資金としての借入

繁忙期前の在庫の積み増しなど、一時的な資金需要であれば、季節資金として短期借入を検討します。

この場合は、在庫仕入の時期、販売時期、入金時期、返済時期を、年間の資金繰り表で説明します。返済原資は、繁忙期後の売上代金の回収です。

4. 仕入先との支払条件の見直し

資金調達は、金融機関からの借入だけではありません。

仕入先との支払サイト、分割払い、前渡金の有無、返品条件、発注ロット、仕入のタイミングを見直すことで、資金繰りが改善する場合があります。ただし、無理な支払延長は仕入先との信用を損ないかねないため、交渉には慎重さが求められます。

5. 在庫処分による資金化

滞留在庫や過剰在庫がある場合は、借入よりも先に、在庫処分を検討すべきことがあります。

値引き販売、セット販売、返品交渉、転用、廃棄などによって、資金化または損失の確定を進めていきます。在庫処分は利益率を下げる可能性がありますが、資金繰りの改善には有効です。

6. ABL・動産担保融資

在庫や売掛金に一定の市場性・管理可能性がある場合は、ABLを検討できます。

ただし、在庫の実在性、評価、管理、販売可能性を説明できることが前提です。不良在庫や滞留在庫を担保にして資金調達ができると考えるのは、危険だといえます。

7. 売掛金の資金化

在庫が販売され、売掛金になった後であれば、売掛債権の早期資金化も選択肢になります。

ただし、これは在庫そのものの資金化ではありません。在庫が売れなければ、そもそも売掛金は発生しないからです。

借入で在庫問題を覆い隠すと、資金繰りはさらに重くなる

在庫が重い会社で、もっとも避けたいのは、在庫の問題を借入で覆い隠してしまうことです。

在庫が増えた。資金が足りない。借入で補う。けれども、在庫は売れない。売上も入金も増えない。それでも借入返済だけは始まる。そして、資金繰りはさらに苦しくなる――。

この流れに入ると、在庫と借入が同時に膨らんでいきます。貸借対照表の上では、棚卸資産と借入金が増える。損益計算書の上では、在庫が残っているかぎり売上原価にはならないため、一見すると利益が大きく見えることもあります。ところが資金繰り表では、現金がどんどん減っていくのです。

ですから、在庫が重い会社では、利益計画だけでなく、資金計画が必要になります。掛け取引では売上の計上と入金のタイミングがずれるため、利益が計上されていても資金の回収が間に合わず、いわゆる黒字倒産が起こり得ます。

在庫資金の借入を検討するときは、次の問いを必ず確認してください。

  • その在庫は、本当に売れるのか
  • いつ売れるのか
  • いくらで売れるのか
  • 売れた後、いつ入金されるのか
  • 粗利は残るのか
  • 借入返済は、そのキャッシュで可能か
  • 売れなかった場合、どの程度の資金不足が残るのか
  • 追加借入に頼らずに回るのか

これらを確かめないまま借入を増やすと、資金調達は解決策ではなく、問題の先送りになってしまいます。

金融機関に在庫資金を説明するための資料

在庫が重い会社が金融機関に相談する場合、ただ決算書を提出するだけでは不十分です。

金融機関に伝えるべきことは、「在庫が多い」ということではありません。「なぜ在庫が必要で、どう資金化され、どう返済されるのか」です。

そのためには、次のような資料を整えておく必要があります。

資料説明すべき内容
月次試算表売上、粗利、営業利益、在庫増減の推移
貸借対照表棚卸資産、売掛金、買掛金、借入金、手元資金の状況
資金繰り表仕入支払、売上入金、返済、税金支払、資金不足の時期
在庫一覧表品目別、数量、金額、保管場所、仕入時期
在庫年齢表仕入後の経過期間、滞留在庫・不良在庫の区分
販売計画在庫がいつ、どのチャネルで売れるか
仕入計画今後の追加仕入、発注ロット、仕入条件
回収予定表売上後の入金時期、売掛金の回収条件
在庫処分計画滞留在庫の販売、値引き、返品、廃棄の方針
借入返済計画調達後の返済原資と返済スケジュール

なかでも重要なのは、在庫一覧表と資金繰り表をつなげることです。

在庫一覧表だけでは、「在庫がある」ことしかわかりません。資金繰り表だけでは、「資金が足りない」ことしかわかりません。両者をつなげて、「この在庫が、この時期に販売され、この時期に入金され、そのキャッシュで返済する」という一連の流れを示すことが大切です。

融資審査では、債務者の評価、融資案件の事情、資金使途・融資形態・返済原資、保全面、他行の状況、資金調達余力などが確認されます。担保があるかどうか以前に、そもそも貸せる先なのか、事業の内容や業績の見通しはどうかが見られるのです。

在庫資金の説明においても、これは同じです。在庫が担保になるかどうか以前に、その事業が在庫を資金化し、返済していける構造になっているかが問われます。

在庫が重い会社が、毎月確認しておきたい数字

在庫資金を継続的に管理していくには、毎月確認する数字をあらかじめ決めておく必要があります。

少なくとも、次の項目は毎月見ておきたいところです。

  • 売上高
  • 売上総利益率
  • 営業利益
  • 棚卸資産残高
  • 商品別・製品別・原材料別の在庫残高
  • 在庫回転期間
  • 滞留在庫残高
  • 不良在庫・処分予定在庫
  • 売掛金残高
  • 買掛金残高
  • 仕入高
  • 仕入支払予定
  • 売上入金予定
  • 借入残高
  • 月次返済額
  • 手元資金
  • 今後3か月から12か月の資金繰り予測

月次決算を毎月行うことで、経営者は数字から会社の現状をつかみ、月次予算との対比から次に打つべき手を考えやすくなります。また、銀行融資の場面では、過去の決算書とあわせて直近の月次決算書の提出を求められることがあり、一定の精度を備えた月次決算書は、金融機関対応にも影響します。

在庫が重い会社では、損益計算書だけを見ていても不十分です。売上と粗利が良くても、在庫と売掛金が増えていれば、現金は減ります。営業利益が出ていても、借入返済や仕入支払が先行すれば、資金は不足します。在庫評価を見直せば、利益や自己資本に影響することもあります。

ですから、毎月の経営会議では、損益だけでなく、在庫、売掛金、買掛金、資金繰りを同時に確認していくことが必要です。

在庫削減は、販売戦略とセットで進める

在庫が重い会社では、「在庫を減らしましょう」という助言がよく行われます。

けれども、在庫削減そのものを目的にしてしまうと、かえって事業を弱くすることがあります。

売れ筋商品まで減らしてしまう。欠品が増える。お客様への対応が遅れる。販売機会を逃す。粗利が落ちる。その結果、資金繰りが悪化する――こうした逆効果が起こりうるのです。

ですから、在庫削減は、販売戦略とセットで進める必要があります。見ておきたい観点は、次のとおりです。

  • 売れ筋商品を、十分に確保できているか
  • 粗利率の高い商品を優先できているか
  • 低回転・低粗利の商品が、資金を圧迫していないか
  • 欠品による機会損失と、過剰在庫による資金固定化のバランスは取れているか
  • 仕入ロットを見直せないか
  • 販売予測の精度を上げられないか
  • 返品条件や委託販売の余地はないか
  • 在庫処分によって現金化すべき商品はないか
  • 倉庫費、物流費、保険料などの在庫保有コストを把握しているか

在庫削減の目的は、数字の上で棚卸資産を減らすことではありません。資金効率を改善し、販売機会を守り、金融機関に説明できる在庫水準へと整えていくこと。ここに本当の狙いがあります。

資金調達の判断は、4つに分けて考える

在庫が重い会社が資金調達を検討するときは、状況を4つに分けて整理すると、判断しやすくなります。

1. 正常在庫が多く、売上・粗利・回収の見込みがある状態

この場合は、通常運転資金または増加運転資金として、銀行融資を検討しやすい状態です。

ただし、必要額は在庫金額そのものではなく、売掛金、買掛金、手元資金、入金予定を含めて計算します。

2. 季節在庫が多く、一時的な資金需要がある状態

この場合は、季節資金として短期借入を検討する余地があります。

年間の資金繰り表で、仕入、販売、入金、返済の流れを説明することが重要です。

3. 滞留在庫が多く、資金が固定化している状態

この場合は、借入よりも先に、在庫処分・販売計画・評価見直しを検討する必要があります。

借入で一時的に資金を確保しても、滞留在庫が資金化されなければ、返済原資が弱いままになってしまいます。

4. 在庫管理が不十分で、実在性や評価が不明確な状態

この場合は、資金調達の前に、在庫管理体制の整備が必要です。

在庫台帳、実地棚卸、品目別管理、滞留在庫の区分、月次決算を整えなければ、金融機関への説明力は高まりません。

「在庫を持つ理由」と「在庫を減らす基準」を、両方持つ

在庫が重い会社に必要なのは、在庫を持つ理由と、在庫を減らす基準の両方です。

在庫を持つ理由がなければ、仕入は惰性になります。在庫を減らす基準がなければ、滞留在庫はいつまでも残り続けます。

ですから、経営者は次のような基準を持っておきたいところです。

  • どの商品は、必ず持つのか
  • どの商品は、受注後の仕入にするのか
  • どの在庫水準を超えたら、仕入を止めるのか
  • 何か月売れなければ、滞留在庫とするのか
  • どの粗利率を下回れば、値引きや処分を検討するのか
  • どの在庫は、金融機関に説明できる正常在庫なのか
  • どの在庫は、評価損や処分損を検討すべきなのか
  • どの在庫は、ABLの対象になり得るのか
  • どの在庫は、資金調達の根拠にしてはいけないのか

在庫管理は、現場だけの仕事ではありません。資金調達、金融機関対応、利益管理、税務、会計、事業計画にまで関わる、立派な経営判断なのです。

まとめ:在庫資金の借入は、「売れる在庫」と「返せる資金繰り」が前提

在庫が重い会社にとって、在庫は事業を続けていくために必要なものです。しかし同時に、在庫は資金を固定化します。

資金調達を検討する際には、在庫金額の大きさではなく、在庫の中身、回転、販売可能性、評価、資金化の時期を確認することが大切です。

金融機関に説明すべきことは、結局のところ、次の一点に集約されます。

この在庫は、いつ、どのように販売され、どのキャッシュで返済されるのか。

この説明ができる会社は、在庫が重くても、資金需要を前向きに説明しやすくなります。反対に、在庫の中身を説明できない会社は、在庫を資産として持っていても、金融機関からは資金繰りリスクとして見られやすくなります。

在庫が重い会社にとって、資金調達力を高める第一歩は、融資制度を探すことではありません。在庫を見える化し、月次で管理し、資金繰り表に反映し、金融機関に説明できる状態にしておくこと。そこから始まります。

振り返り:在庫が重い会社の資金調達で確認すべき事項

確認項目見るべきポイント資金調達上の意味
在庫の種類商品、製品、原材料、仕掛品、貯蔵品などどの資金使途に該当するかを整理する
在庫増加の理由売上増加、季節要因、仕入条件、滞留など前向きな運転資金か、資金繰り悪化かを分ける
在庫回転期間棚卸資産が何か月分あるか資金が在庫に寝ている期間を把握する
滞留在庫仕入後の経過期間、販売見込み、処分方針評価損・処分損・過剰在庫リスクを把握する
実地棚卸帳簿在庫と実在庫の一致、減耗、差異在庫を金融機関に説明する前提になる
資金繰り表仕入支払、販売入金、返済、税金支払借入必要額と返済可能性を検証する
売掛金・買掛金回収サイト、支払サイト、取引条件運転資金全体の必要額を判断する
在庫評価正味売却価額、簿価切下げ、処分見込決算書・利益・自己資本に影響する
ABL在庫・売掛金等の担保価値、管理体制不動産担保に依存しない調達余地を検討する
金融機関説明在庫がいつ売れ、いつ入金され、どう返済するか融資判断の納得性を高める

在庫が資金繰りを圧迫していると感じたら

在庫が多い会社では、資金不足の原因が見えにくくなりがちです。

売上はある。粗利も出ている。帳簿上は資産もある。それでも、なぜか現金が残らない。

このようなときは、融資を申し込む前に、在庫の中身、在庫回転、滞留在庫、仕入条件、売掛金の回収、資金繰り表を、まず整理してみることが大切です。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、会計・税務・資金繰り・金融機関対応の視点から、在庫が重い会社の資金需要、借入額、返済原資、在庫管理体制、そして金融機関への説明資料の整理を支援しています。

在庫が増えている理由を金融機関にうまく説明できない、売上はあるのに資金が残らない、在庫処分と追加借入のどちらを優先すべきか判断したい、在庫を含めた月次管理と資金繰り表を整えたい――こうしたお悩みがありましたら、まずは現在の数字と在庫の状況を整理するところから、お気軽にご相談ください。

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