在庫は、会社にとって欠かせないものです。
在庫がなければ、注文が入ってもすぐには販売できません。材料が手元になければ製造を始められず、部品が不足すれば、納期の遅れや機会損失につながります。ですから、在庫を「とにかく減らせばよい」と単純に考えるのは、かえって危険だといえます。
一方で、在庫はそのまま現金というわけではありません。
仕入れた商品や材料、部品、仕掛品、製品は、販売され、代金が回収されて初めて現金に戻ります。倉庫や工場に在庫として残っている間、その取得や製造に投じた資金は固定化されたままです。在庫は、販売機会を支える資産であると同時に、資金繰りを圧迫する資産でもある。この両面を、まず押さえておきたいところです。
資金繰りを考えるうえでは、売掛金だけでなく、在庫と仕入債務、つまり買掛金・支払手形・未払金などを一体で見ていく必要があります。運転資金は、営業循環のなかで「現金預金 → 棚卸資産の取得・仕入 → 在庫保有 → 売上債権 → 現金預金」という流れに沿って必要となり、貸借対照表上は、おおむね「売上債権+棚卸資産−仕入債務」の差額として捉えられます。
つまり、在庫を持ちすぎれば資金は重くなり、支払条件が短すぎれば現金の流出は早まります。そのうえ販売・回収が遅れれば、資金はさらに詰まっていきます。
こうして見ると、在庫・仕入・支払条件の管理は、現場任せの業務管理ではありません。会社の資金繰り、利益、取引先からの信用、金融機関への説明までを左右する、れっきとした経営管理なのです。
在庫は「利益機会」と「資金固定化」の両面を持つ
在庫には、会社を支える側面があります。
- 欠品を防ぐ
- 短納期に対応する
- 仕入単価を抑える
- 生産を安定させる
- 販売機会を逃さない
- 顧客からの信用を維持する
この意味で、在庫は売上と利益を生むために必要な経営資源だといえます。
しかし、在庫を持つことには負担も伴います。
- 仕入代金や製造原価を先に支払う必要がある
- 倉庫や保管スペースが必要になる
- 棚卸や管理に人手がかかる
- 陳腐化、劣化、破損、盗難、廃棄のリスクがある
- 売れない在庫が残れば、資金を回収できない
- 金融機関からも、資金が固定化している資産として見られる
在庫は、多すぎれば資金の過剰な負担や陳腐化を招き、少なすぎれば安定した生産や販売に支障が出ます。材料在庫についても、発注のタイミングや発注量によって仕入価格が変わるため、安定供給・適正在庫・仕入価格のバランスを、計画的に考えていく必要があります。
ですから、在庫管理の本質は、単なる在庫削減ではありません。「どの在庫を、どれだけ、どのタイミングで、どの条件で持つべきか」を、利益と資金の両面から判断すること。ここに尽きると考えています。
在庫が資金繰りを圧迫する仕組み
在庫が資金繰りを圧迫するのは、支払いが先行しやすいからです。
- 商品を仕入れる
- 材料を購入する
- 外注加工を依頼する
- 製造人件費を負担する
- 保管費や物流費を支払う
これらはいずれも、販売前、あるいは販売代金の回収前に、資金の流出を伴います。
一方で、販売代金がすぐに現金化されるとは限りません。掛け取引であれば、販売後にいったん売掛金となり、さらに一定期間を経て入金されます。つまり、在庫を持つ事業では、仕入・製造・保管・販売・回収にいたるまでの時間差が、そのまま資金需要を生むのです。
たとえば、次のような会社を考えてみます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 仕入条件 | 月末締め翌月末払い |
| 在庫保有期間 | 平均2か月 |
| 売上条件 | 月末締め翌月末入金 |
| 実際の資金回収 | 仕入から約3か月後 |
この場合、仕入代金は1か月後に支払う一方、商品は在庫として2か月保有し、販売後さらに1か月後に入金されます。仕入から入金までの間、会社はその資金を立て替え続けることになります。
そして、売上が拡大すると、この立替額もふくらんでいきます。
売上が伸びること自体は喜ばしいことです。しかし、在庫と売掛金が同時に増え、買掛金の支払いが先行すれば、現金はむしろ減ってしまうことがあります。これが、成長局面でかえって資金繰りが苦しくなる、典型的な構造です。
「在庫があるから安心」ではなく「在庫が現金化されるか」を見る
現場では、在庫が多いことを安心材料として受け止める場面があります。
- 「欠品しないから安心」
- 「急な注文に対応できるから安心」
- 「値上がり前にまとめて買ったから有利」
- 「いつか売れるから問題ない」
これらが、すべて間違いというわけではありません。事業の内容によっては、一定の在庫を持つこと自体が競争力になります。
ただ、経営者としては、もう一段踏み込んで見ておきたいところです。
- その在庫は、いつ売れるのか
- いくらで売れるのか
- 粗利は確保できるのか
- 保管費や管理の負担を含めても、合理的といえるか
- 資金繰り表のうえで、いつ現金に戻る見込みなのか
- 滞留・陳腐化・値下げ・廃棄のリスクはないか
- 金融機関にきちんと説明できる在庫か
在庫は、貸借対照表上はたしかに資産です。しかし、売れない在庫、価値が下がった在庫、数量が合わない在庫は、資金繰りのうえでは現金に変わりにくい資産です。
試算表上の棚卸資産の残高が大きいからといって、それがそのまま資金の余力を意味するわけではない。この点は、押さえておきたいと思います。
適正在庫とは何か
適正在庫とは、販売機会や生産活動を維持するために必要な在庫量であり、過剰でも不足でもない水準を指します。
製品在庫については、販売活動において欠品が起こらない必要最小限の在庫量を、適正在庫量として考えます。ただし、生産効率やロットの関係で、理論上の適正在庫と実際の在庫水準が完全に一致するとは限りません。
適正在庫を考えるうえでは、少なくとも次の視点を持っておきたいところです。
| 視点 | 確認する内容 |
|---|---|
| 需要 | どの程度売れる見込みがあるか |
| リードタイム | 発注・製造・納品まで何日かかるか |
| 安全在庫 | 需要変動や納期遅延に備えて、どれだけ余裕を持つか |
| 仕入単位 | 最小発注数量、ロット、まとめ買い条件はどうか |
| 粗利 | 在庫を持つことで、十分な利益が見込めるか |
| 保管コスト | 倉庫費、管理人件費、保険、劣化リスクはどうか |
| 資金負担 | 在庫に固定化される金額はいくらか |
| 陳腐化リスク | 型落ち、品質劣化、期限切れ、仕様変更の可能性はどうか |
在庫量は、過去の経験だけで決めることもできます。たとえば、過去の販売データや欠品率を見ながら在庫水準を調整していく方法です。ただし、より積極的に在庫を適正化していくには、販売量だけでなく、生産・調達のリードタイムを踏まえた管理が必要になります。
適正在庫を「日数」で見る
中小企業の実務で使いやすいのは、在庫を金額だけでなく、日数で捉える方法です。
たとえば、次のような指標があります。
在庫回転期間 = 棚卸資産 ÷ 1日あたり売上原価
あるいは、
在庫回転期間 = 棚卸資産 ÷ 月間売上原価 × 30日
これは、いま抱えている在庫が、何日分の売上原価に相当するかを見る指標です。
たとえば、棚卸資産が3,000万円、月間売上原価が1,500万円であれば、在庫回転期間はおおむね60日となります。つまり、現在の在庫は売上原価ベースで約2か月分ある、ということです。
もっとも、この数字だけで良し悪しを判断することはできません。業種、商材、季節性、納期、仕入条件によって、適正な水準は変わってきます。
それでも、次のような変化には目を向けておきたいところです。
- 在庫回転期間が長くなってきている
- 売上は横ばいなのに、在庫だけが増えている
- 特定の商品だけ、在庫日数が極端に長い
- 季節商品が、シーズンを過ぎても残っている
- 新製品の投入後に、旧製品が残っている
- 仕掛品が、工程間に滞留している
- 原材料が、使用予定を超えて積み上がっている
在庫日数を見ていくことで、資金がどこに滞っているのかが、しだいに見えてきます。
滞留在庫は、利益より先に資金を傷める
滞留在庫とは、長期間動いていない在庫のことです。
ここでは、販売予定のある在庫と、売れる見込みが曖昧な在庫を、分けて考える必要があります。
在庫が滞留すると、次のような問題が起こります。
- 資金が固定化される
- 保管スペースを圧迫する
- 管理の工数が増える
- 劣化・破損・陳腐化のリスクが高まる
- 値引き販売が必要になる
- 廃棄損が発生する
- 月次決算や金融機関への説明のうえで、在庫の実在性・評価が問題になる
棚卸資産は売上と深く連動するため、売上数量、在庫回転期間、月次の推移を合わせて分析していく必要があります。同じ在庫の増減でも、販売不振による不良在庫の増加なのか、売上拡大に伴う正常な在庫増加なのか、供給不足による在庫減少なのかで、その意味はまったく異なります。
注意したいのは、滞留在庫が損益計算書にすぐには表れないことがある点です。帳簿上は取得価額のまま残っていても、実際には売れにくくなっている、ということが起こり得ます。
ですから、経営者は「在庫残高」だけでなく、「在庫の年齢」を見ておく必要があります。
たとえば、次のように区分してみます。
| 区分 | 管理上の意味 |
|---|---|
| 1か月以内 | 通常販売・通常使用の範囲 |
| 1〜3か月 | 販売計画・使用予定の確認が必要 |
| 3〜6か月 | 滞留の兆候。値引き・転用・発注停止を検討 |
| 6〜12か月 | 滞留在庫。処分方針や評価の見直しが必要 |
| 12か月超 | デッドストックの可能性。廃棄・評価損・税務処理の検討対象 |
この区分は、あくまで一例です。業種や商品の特性によって変える必要がありますが、大切なのは、古い在庫を見える化しておくことです。
在庫処分は「損を出す判断」ではなく「資金を戻す判断」でもある
滞留在庫を処分すると、会計上の損失が出ることがあります。そのため、経営者や現場が、処分をためらってしまう場面は少なくありません。
- 「まだ売れるかもしれない」
- 「損失を出したくない」
- 「仕入れた責任を問われたくない」
- 「廃棄すると、利益が悪く見える」
その心情は理解できます。しかし、売れない在庫を持ち続けても、資金は戻ってきません。
むしろ、保管費、管理工数、棚卸作業、倉庫スペース、品質管理、陳腐化リスクといった負担が続いていきます。処分や値引きによって一部でも現金化できるのであれば、資金繰りのうえではむしろ前向きな判断になることがあります。
在庫処分を判断するときは、次の観点で整理してみてください。
- 通常価格で販売できる可能性はあるか
- 値引きすれば、販売できるか
- 他の商品・案件に転用できるか
- 仕入先へ返品できるか
- 他社へ売却できるか
- 廃棄コストはいくらか
- 保管し続けるコストはいくらか
- 処分による損失を、月次・年次の利益計画に織り込めるか
- 金融機関に、処分方針を説明できるか
在庫処分は、単なる損失処理ではありません。資金を戻し、管理の負担を減らし、将来の意思決定を誤らせないための、れっきとした経営判断です。
棚卸管理は、在庫の信頼性を支える
在庫管理の前提は、帳簿上の在庫と実際の在庫が一致していることです。
ここが崩れていると、在庫金額も、売上原価も、利益も、そして資金繰りも、信用できなくなってしまいます。
棚卸管理では、次の点を確認します。
- 実地棚卸を定期的に行っているか
- 帳簿在庫と実在庫の差異を確認しているか
- 差異の理由を分析しているか
- 廃棄・返品・サンプル出庫・社内使用が記録されているか
- 入庫・出庫のタイミングが適切か
- 保管場所ごとに在庫が把握されているか
- 担当者任せになっていないか
- 棚卸差異が、売上原価や利益に反映されているか
棚卸差異が大きい会社では、在庫が資金繰りをどの程度圧迫しているのかを、正しく判断できません。
また、棚卸資産の評価については、会計・税務上の論点もかかわってきます。滞留、陳腐化、廃棄、評価損、原価計算、期末棚卸の処理などは、個別の事情に応じて確認が必要です。本稿では詳細な税務処理や評価損計上の要件までは扱いませんが、在庫の実在性と評価の妥当性は、月次決算と年次決算の信頼性に、そのまま直結します。
仕入条件は、粗利だけでなく資金繰りで見る
仕入条件を考えるとき、どうしても単価ばかりに目が向きがちです。
- 「安く仕入れられるか」
- 「まとめ買いで割引が取れるか」
- 「値上げ前に確保できるか」
もちろん、仕入単価は重要です。粗利率に直結します。
ただ、資金繰りの視点で見ると、それだけでは十分とはいえません。
仕入条件では、次の項目をあわせて確認しておきたいところです。
- 仕入単価
- 発注ロット
- 最低発注数量
- 納品リードタイム
- 支払サイト
- 支払方法
- 返品条件
- 値引き条件
- 価格改定条件
- 在庫保管リスク
- 仕入先への依存度
- 品質・納期の安定性
たとえば、単価が5%安くなる代わりに、通常の3倍の数量を仕入れなければならない、という場合があります。粗利率だけを見れば、たしかに有利に見えます。
しかし、過剰在庫になれば、資金の固定化、保管費、陳腐化リスクが発生します。結果として値引き販売や廃棄が必要になれば、かえって損をしてしまうこともあるのです。
仕入の判断では、単価の差益だけでなく、在庫の保有期間、資金負担、販売の確度を、合わせて見ていく必要があります。
支払サイトは、資金繰りに直接影響する
支払サイトとは、仕入や外注費の支払いまでの期間のことです。
月末締め翌月末払い、翌々月末払い、現金払い、手形払い、前払い、分割払いなど、取引条件によって資金繰りへの影響は大きく変わります。
資金繰りのうえでは、支払サイトが長いほど、手元の資金には余裕が生まれます。仕入債務が増えることで、必要な運転資金が小さくなるからです。運転資金を短期的に減らすには、売上債権や棚卸資産を圧縮するだけでなく、仕入債務の条件を見直すことも、選択肢のひとつになります。
ただし、支払サイトは長くすれば常に良い、というものでもありません。
支払サイトの延長は、仕入先の資金繰りに負担をかけます。場合によっては、自社の信用力が低下していると見られかねません。無理な支払条件の変更は、取引停止、単価の引き上げ、納期の後回し、品質の低下、仕入先との関係悪化につながることがあります。
反対に、仕入先のほうから支払サイトの短縮を求められることもあります。その理由が、自社の信用不安によるものなのか、仕入先側の資金事情なのか、あるいは業界全体の商慣習の変化なのかによって、とるべき対応は変わってきます。M&Aや財務調査の実務でも、仕入債務の回転期間や支払条件の変更は、運転資本の水準や信用状態を判断する重要な要素として扱われます。
支払条件は、単なる経理処理ではありません。仕入先との信用関係、資金繰り、原価、供給の安定性を左右する、経営条件そのものなのです。
仕入先・外注先との交渉は「お願い」ではなく数字で行う
資金繰りが苦しいとき、仕入先や外注先に、支払条件の変更を相談することがあります。
このとき、「資金が苦しいので、支払いを延ばしてください」とだけ伝えるのは、望ましいやり方とはいえません。相手方に不安を与え、かえって信用低下につながりかねないからです。
交渉に入る前に、次の点を整理しておきます。
- どの取引先に、いくら支払予定があるか
- 支払条件を何日延ばすと、資金繰りにどれだけの効果があるか
- 一時的な対応なのか、継続的な条件変更なのか
- 代わりに、発注量、取引継続、単価、分割払いなどで説明できる要素はあるか
- 相手先の資金繰りに、過度な負担をかけないか
- 他の支払先との公平性に、問題はないか
- 金融機関からの借入や資金調達と、組み合わせるべきか
仕入先との関係は、会社の事業継続に直結します。短期的な資金繰りの改善だけを優先して、重要な仕入先との信頼を失えば、将来の供給リスクはかえって高まってしまいます。支払条件の見直しは、資金繰り表、仕入先別の支払予定、事業上の重要度を整理したうえで、慎重に判断したいところです。
在庫と仕入を資金繰り表に反映する
在庫管理と資金繰り管理が、社内で分断されている会社は少なくありません。
- 現場では、在庫を見ている
- 経理では、仕入請求書と買掛金を見ている
- 経営者は、預金残高を見ている
- 資金繰り表は、過去の支払実績をもとに作っている
この状態では、在庫が将来の資金繰りに与える影響が、まったく見えてきません。
資金繰り表では、収入だけでなく、仕入現金支出、支払手形の決済、外注加工費、人件費、諸経費などを支出として整理し、売上回収と仕入支払いのバランスを確認していく必要があります。
在庫・仕入・支払条件を資金繰り表に反映するには、次の情報が必要です。
- 発注予定
- 入庫予定
- 仕入請求予定
- 支払予定日
- 支払方法
- 販売予定
- 出荷予定
- 売上回収予定
- 在庫処分予定
- 返品・値引き・廃棄予定
在庫は、仕入れた時点では資金の流出に、販売した時点では売上に、回収した時点で資金の流入に関係します。資金繰り表は、この時間差を見える化するための資料なのです。
在庫予算を作る意味
在庫予算とは、将来の在庫数量・在庫金額を計画するものです。
予算管理というと、売上予算や費用予算ばかりが注目されがちです。しかし、在庫を扱う会社では、在庫予算こそが資金繰りに直結します。
製品在庫予算では、製造数量、販売数量、月末在庫数量、月末在庫金額を整理します。入りと出を差し引くことで月末の在庫数量を計算し、そこに単価を乗じて在庫額を把握します。
材料在庫予算では、仕入数量、消費数量、月末在庫数量、月末在庫金額を整理します。ここで重要になるのは、どの量を、どのタイミングで発注するか、という点です。発注の方法には、一定の間隔で必要量を発注する定期発注方式や、在庫が一定量を下回ったときに一定量を発注する定量発注方式などがあります。
中小企業で、いきなり精緻な在庫予算を作るのは、負担が重いかもしれません。
それでも、少なくとも次の管理は始めておきたいところです。
- 主要商品別の月末在庫金額
- 滞留在庫の金額
- 翌月以降の大口仕入予定
- 大口の支払予定
- 売上・回収予定との対応
- 在庫削減の目標
- 処分予定
- 在庫回転期間
在庫予算は、在庫を減らすためだけのものではありません。資金繰りに耐えられる範囲で、必要な在庫を確保するための計画でもあるのです。
在庫削減で注意すべきこと
在庫削減は、資金繰りの改善に有効です。
ただし、やり方を誤ると、売上の機会を失ってしまいます。
在庫を減らしすぎると、次のような問題が起こります。
- 欠品が増える
- 納期が遅れる
- 顧客満足度が下がる
- 緊急仕入で単価が上がる
- 小口発注が増えて、物流費が上がる
- 生産ラインが止まる
- 営業現場が、受注を取りにくくなる
ですから、在庫削減では「全部減らす」のではなく、在庫を分類することが欠かせません。
たとえば、次のように分けて考えます。
| 在庫分類 | 管理方針 |
|---|---|
| 高回転・高粗利商品 | 欠品防止を重視しつつ、適正在庫を維持 |
| 高回転・低粗利商品 | 取扱継続、価格改定、仕入条件の見直し |
| 低回転・高粗利商品 | 販売計画、保管期間、資金負担を確認 |
| 低回転・低粗利商品 | 処分、取扱縮小、発注停止を検討 |
| 季節商品 | シーズン前後の在庫計画と処分方針を、事前に決める |
| 旧型・陳腐化商品 | 値引き販売、転用、廃棄を検討 |
| 重要部品・代替困難材料 | 欠品リスクを踏まえ、安全在庫を確保 |
在庫削減は、現場に「減らせ」と指示するだけでは進みません。売上、粗利、納期、顧客対応、仕入条件、資金繰りを見ながら、どの在庫を減らし、どの在庫を維持するのかを、一つずつ決めていく必要があります。
仕掛品・工程間在庫も資金を固定化する
製造業では、完成品や原材料だけでなく、仕掛品も重要です。
仕掛品は、まだ完成していない製品です。材料費、外注費、労務費、製造経費が投入されているにもかかわらず、まだ販売できない状態にあります。
工程が多いほど、工程間に仕掛品が溜まりやすくなります。仕掛品や部品の共通化、工程の簡素化は、全体の在庫削減につながることがあります。在庫を見る際には、製品・原材料・仕掛品を個別に見るだけでなく、在庫全体を俯瞰することが大切です。
仕掛品が増えている場合には、次の点を確認します。
- 特定の工程で滞留していないか
- 外注先で止まっていないか
- 検査待ちが増えていないか
- 不良品や手直し品が含まれていないか
- 受注見込みのない先行生産がないか
- 完成品にしても、販売できる見込みがあるか
- 仕掛品の評価が適切か
仕掛品は、現場では作業途中のものとして扱われます。しかし財務上は、すでに資金が投入された資産です。現場の工程管理と資金管理を、つなげて見ていく必要があります。
仕入債務を増やせばよい、とは限らない
必要運転資金の計算上、買掛金などの仕入債務が増えると、資金繰りにはプラスに見えます。
しかし、これは「支払いを先延ばしできている」という意味でもあります。
仕入債務が増えているときは、次のどちらなのかを確認しなければなりません。
- 正常な取引拡大に伴う増加
- 支払遅延や資金繰り悪化による増加
前者であれば、成長に伴う運転資金の構造として説明できます。後者であれば、資金ショートの兆候です。
買掛金や未払金が増えている場合、経営者は次の項目を確認しておきたいところです。
- 支払期日を過ぎたものはないか
- 仕入先別の残高はどうか
- 大口の支払が近づいていないか
- 支払条件の変更はないか
- 手形・電子記録債務の決済予定はどうか
- 支払遅延が、仕入先との関係に影響していないか
- 資金繰り表に反映されているか
仕入債務には、資金調達のように見える側面があります。しかし、それが取引先に対する支払義務であることを、忘れてはいけません。
金融機関は在庫・仕入債務の中身を見る
金融機関に運転資金の融資を相談する場合、在庫や仕入債務の内容は、重要な説明項目になります。
「在庫が増えたから運転資金が必要です」という説明だけでは、金融機関も判断しにくいでしょう。
融資審査では、債務者の事業内容、業績、今後の見通し、資金使途、返済原資、保全、他行の状況などが、総合的に確認されます。担保の有無よりも前に、そもそも貸せる先かどうか、事業と数字の整合性が見られます。
在庫について金融機関に説明する場合は、次の資料を整えておくとよいでしょう。
- 在庫残高の月次推移
- 商品別・材料別・部門別の在庫一覧
- 在庫回転期間
- 滞留在庫一覧
- 在庫処分方針
- 仕入先別買掛金一覧
- 支払予定表
- 売上・回収予定との対応
- 資金繰り表
- 運転資金の必要額と使途
在庫が増えている場合でも、その理由が明確であれば、説明はしやすくなります。
- 新規受注に対応するための仕入
- 季節需要に備えた在庫
- 原材料不足に備えた安全在庫
- 価格改定前の、計画的な仕入
- 新製品の投入に伴う在庫
- 支払条件の変更に伴う、一時的な資金需要
一方で、滞留在庫や不良在庫が増えている場合には、処分方針や改善策を示す必要があります。
金融機関に対しては、良い情報だけでなく、課題も含めて説明できる状態を整えておくこと。これが、信頼につながります。
在庫・仕入・支払条件を月次で確認する仕組み
在庫管理は、年1回の決算棚卸だけでは不十分です。
資金繰りに活かすためには、月次で確認できる仕組みが欠かせません。
月次で確認すべき項目は、次のとおりです。
| 月次確認項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 棚卸資産残高 | 前月・前年同月と比べて、増減は妥当か |
| 在庫回転期間 | 在庫日数が長期化していないか |
| 滞留在庫 | 古い在庫、不動在庫、処分対象在庫はないか |
| 仕入高 | 売上・生産計画に対して、過大ではないか |
| 買掛金残高 | 支払予定と整合しているか |
| 支払予定 | 翌月以降の大口支払を把握しているか |
| 支払条件 | 仕入先から条件変更を求められていないか |
| 在庫処分 | 処分予定と実績は管理されているか |
| 棚卸差異 | 帳簿と実在庫の差異は説明できるか |
| 資金繰り表 | 在庫・仕入・支払予定が反映されているか |
大切なのは、これを経理だけで完結させないことです。
在庫は、現場にあります。仕入条件は、購買・営業・製造が把握しています。支払予定は、経理が管理します。そして資金繰りは、経営者が判断します。
これらをつなぐ、月次のレビューが必要なのです。
実務で使いやすい管理資料
中小・中堅企業では、最初から高度な在庫管理システムを導入するよりも、まずは経営判断に使える管理資料を整えるほうが、実務的です。
最低限、次の資料は準備しておきたいところです。
1. 在庫一覧表
商品・材料・製品ごとに、数量、単価、金額、保管場所、最終入庫日、最終出庫日を管理します。
2. 滞留在庫一覧
一定期間動いていない在庫を抽出します。期間区分、金額、処分方針、担当者、処理期限を記載します。
3. 仕入先別買掛金一覧
仕入先別に、残高、支払予定日、支払条件、支払方法を管理します。
4. 支払予定表
翌月、翌々月、3か月先までの大口支払を一覧化します。仕入、外注、人件費、税金、借入返済、設備投資を含めて確認します。
5. 資金繰り表
入金予定、支払予定、借入返済、税金、賞与、設備投資、在庫処分による入金などを反映します。
6. 在庫回転期間表
在庫金額を売上原価や出荷数量と比較し、在庫が何日分・何か月分あるかを見ます。
複雑な資料を増やすことが目的ではありません。経営者が、資金繰りに影響する在庫と支払を判断できる状態にすること。それが目的です。
専門家に相談すべきタイミング
在庫・仕入・支払条件の管理には、自社で改善できる部分も多くあります。
ただ、次のような状況がある場合には、早めに専門家と整理しておく価値があります。
- 在庫が増えている理由を、説明できない
- 売上は伸びているのに、預金が増えない
- 滞留在庫や不良在庫の金額を、把握できていない
- 棚卸差異が大きい
- 仕入先への支払が重く、資金繰りが苦しい
- 支払サイトの短縮を求められている
- 仕入条件や発注ロットが、資金を圧迫している
- 在庫処分による利益・税務・資金への影響を、整理したい
- 金融機関に運転資金を説明する資料を、整えたい
- 新規受注や大型案件の前に、在庫・仕入・資金負担を確認したい
在庫は、現場、会計、税務、資金、金融機関対応が交差する領域です。
単に「在庫を減らす」「支払いを延ばす」という対応だけでは、事業に必要な供給力や取引先からの信用を、損なってしまうことがあります。反対に、現場任せにして在庫を持ち続ければ、資金繰りはますます見えにくくなります。
専門家に相談する理由は、在庫管理そのものを丸投げするためではありません。在庫、仕入、支払条件、資金繰り、利益、金融機関への説明を、同じ数字で整理し、経営者が納得して判断できる状態にするためです。
在庫管理は、守りであり、攻めの前提である
在庫・仕入・支払条件の管理は、会社を縛るためのものではありません。
むしろ、守りを仕組みにしておくことで、攻めの判断が強くなります。
- どの商品を伸ばすべきか
- どの在庫を減らすべきか
- どの仕入条件なら、大口受注を受けられるか
- どの支払条件なら、資金繰りが回るか
- どの仕入先を、重要な取引先として維持すべきか
- どこまで在庫を持てば、販売機会を逃さないか
- 売上拡大に伴う運転資金は、いくら必要か
- 金融機関に、どう説明するか
在庫は、利益の機会です。しかし、現金ではありません。
だからこそ、在庫を「持つか、減らすか」ではなく、「どの在庫を、どの条件で、どれだけ持つか」を、数字で判断していく必要があるのです。
まとめ
在庫・仕入・支払条件は、資金繰りに大きく影響します。
在庫は、販売機会を支える一方で、資金を固定化します。仕入条件は、粗利だけでなく、発注ロット、支払サイト、保管コスト、陳腐化リスクまで含めて判断する必要があります。支払条件は、手元資金に直接影響しますが、仕入先との信用関係も同時に考えなければなりません。
重要なのは、在庫、仕入、支払予定、売上回収を、別々に管理しないことです。
月次決算、在庫一覧、滞留在庫表、買掛金一覧、支払予定表、資金繰り表をつなげることで、会社の資金がいまどこに滞っているのかが、はっきりと見えてきます。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、月次決算、在庫・仕入・支払条件の整理、資金繰り表、運転資金、金融機関への説明を切り離さず、経営判断に使える数字として整える支援を行っています。
在庫が増えて資金繰りが重い、仕入先への支払が先行している、滞留在庫を処分すべきか判断できない、金融機関に運転資金を説明できる資料を整えたい——そうした場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページより、ご相談ください。
在庫と仕入を資金繰りで管理することは、会社を守るだけでなく、次の成長判断を強くするための土台になります。
振り返り
| 論点 | 重要な確認事項 |
|---|---|
| 在庫の性質 | 利益機会である一方、販売・回収まで資金を固定化する |
| 運転資金 | 売上債権+棚卸資産−仕入債務で資金需要を捉える |
| 適正在庫 | 欠品を防ぎつつ、過剰在庫を避ける必要最小限の在庫水準 |
| 在庫回転期間 | 在庫が何日分・何か月分あるかを見て、資金の滞留を把握する |
| 滞留在庫 | 長期間動いていない在庫は、資金固定化・評価損・廃棄リスクを伴う |
| 在庫処分 | 損失処理だけでなく、資金を戻し管理負担を減らす判断でもある |
| 棚卸管理 | 帳簿在庫と実在庫の一致が、利益・資金判断の前提になる |
| 仕入条件 | 単価だけでなく、発注ロット、納期、支払条件、保管リスクを確認する |
| 支払サイト | 長短が、資金繰りと仕入先信用に影響する |
| 仕入債務 | 正常な取引拡大か、支払遅延による増加かを分けて見る |
| 資金繰り表 | 在庫、仕入予定、支払予定、売上回収予定を反映する |
| 金融機関説明 | 在庫増加の理由、滞留在庫、支払予定、運転資金需要を説明できる資料を整える |