低額譲渡・高額譲渡・無償取引の否認リスク|同族会社・関係会社間取引で時価との差額が課税問題になる場面

同族会社やグループ会社、オーナー一族、役員、後継者、関係会社。こうした間柄では、第三者どうしの取引ではまず見られないような価格設定が行われることがあります。

たとえば、次のような取引です。

取引例一見すると自然に見える理由税務上の問題
社長が会社へ不動産を安く売る会社の資金負担を抑えたい社長側のみなし譲渡、会社側の受贈益、株主へのみなし贈与
会社が役員へ資産を安く譲る長年の功労への配慮役員給与、消費税、源泉徴収、損金不算入
親会社が子会社へ無償で資産を移すグループ内だから問題ないと思う譲渡益、寄附金、受贈益、グループ法人税制
後継者だけが安い価額で株式を取得する承継しやすくしたい既存株主から後継者への価値移転、みなし贈与
債権放棄により会社の債務を消す財務改善のため会社の債務免除益、株価上昇、既存株主へのみなし贈与
債務超過子会社へ高額増資する子会社救済のため寄附金、行為計算否認、株式譲渡損否認

こうした取引で押さえておきたいのは、「当事者が合意しているのだから、その価額でよい」とは限らない、ということです。税務の世界では、形式的な契約金額だけを見るわけではありません。時価との差額が誰に移転したのか、そしてその差額は経済的利益の供与なのか、寄附なのか、給与なのか、贈与なのか——その中身が問われます。

とりわけ同族関係者の間の取引では、売主・買主・発行会社・既存株主・後継者・役員の課税関係が、いわば連動して動きます。単年度の法人税だけを見て判断してしまうと、後になって所得税、贈与税、源泉所得税、消費税、さらには税務調査や株主間のトラブルへと波及することがあります。

本記事では、低額譲渡・高額譲渡・無償取引について、法人税務を中心に据えつつ、所得税・贈与税・消費税・株価移転まで視野に入れながら、実務上どう整理すべきかを解説します。

目次

低額譲渡・高額譲渡・無償取引とは何か

はじめに、言葉を整理しておきます。

区分内容典型例
低額譲渡時価より低い価額で資産・株式・権利を譲渡する取引時価1億円の土地を4,000万円で会社へ売る
高額譲渡時価より高い価額で資産・株式・権利を譲渡する取引時価3,000万円の株式を1億円で関係会社が買う
無償譲渡対価を受けずに資産・権利を移転する取引会社が関係会社へ機械を無償で移す
無償役務提供対価を受けずに役務を提供する取引親会社が子会社の管理業務を無償で行う
債務免除・債権放棄債権者が債務者の返済義務を免除する取引社長が会社への貸付金を放棄する
低額増資・高額払込み株式の払込価額が時価と大きく異なる資本取引後継者だけが安く新株を引き受ける

税務上の問題は、単に「安い」「高い」という感覚だけで決まるものではありません。誰から誰へ、何を、どの価額で、どの目的で移したのか。その組み合わせによって、課税関係は変わってきます。

なぜ時価との差額が課税問題になるのか

税務上、法人の所得は、会計上の利益を出発点としながらも、最終的には法人税法上の益金・損金のルールに従って計算されます。

法人税法22条2項は、益金の額について、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償または無償による資産の譲渡・役務提供、無償による資産の譲受けその他の取引で、資本等取引以外のものに係る収益の額とする旨を定めています。つまり法人税では、無償取引であっても、一定の場面では収益認識の問題が生じるということです。
出典:国税庁 税務大学校|益金が生ずる無償取引について

また、法人税法上の寄附金は、金銭その他の資産または経済的利益の贈与・無償の供与をいい、低額譲渡等でその差額が実質的な贈与等と認められる場合には、その差額をもって計算することとされています。
出典:国税庁|No.5281 寄附金の範囲と損金不算入額の計算

ここから見えてくるのは、法人税では「実際に受け取った金額だけで収益を計上すればよい」とは限らない、ということです。

たとえば、法人が時価1億円の資産を関係会社へ3,000万円で譲渡したとしましょう。この場合、税務上は3,000万円の譲渡対価だけを見るのではなく、時価1億円で譲渡したものとして譲渡損益を把握し、そのうえで時価との差額7,000万円について寄附金等の問題を検討する必要が生じます。

「著しく低い価額」の基準は税目ごとに違う

低額譲渡でよく誤解されるのが、「時価の2分の1以上なら絶対に安全」という理解です。

これは危うい考え方です。時価の2分の1という基準が明確に登場する場面はたしかにありますが、すべての税目に共通する万能基準ではありません。

税目・場面代表的な考え方
所得税:個人が法人へ資産を低額譲渡時価の2分の1未満なら、原則として時価で譲渡したものとみなされる
所得税:時価の2分の1以上の法人譲渡所得税法59条の適用はないが、同族会社等の行為計算否認が問題になる場合がある
贈与税:個人間の低額譲受け「著しく低い価額」かどうかは個別事情で判定され、2分の1基準とは異なる
消費税:法人が役員へ資産を低額譲渡おおむね時価の50%未満なら、時価を対価として課税される場面がある
法人税:法人間の低額譲渡時価との差額が受贈益・寄附金・経済的利益供与として問題になる

国税庁は、土地や建物を法人に売却し、その売却価額が時価の2分の1を下回る場合には、売った土地や建物の時価を収入金額として譲渡所得を計算する、と説明しています。
出典:国税庁|No.3217 時価より低い価額で売ったとき

一方、贈与税では、個人から著しく低い価額で財産を譲り受けた場合に、時価と支払対価との差額が贈与により取得したものとみなされます。ただし、この「著しく低い価額」に当たるかどうかは個別具体的な事案に基づいて判定されるものであり、所得税の時価2分の1基準とは異なるとされています。
出典:国税庁|No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき

つまり実務では、「2分の1以上だからよい」と一括りにするのではなく、どの税目の、どの規定の、どの当事者についての判定なのかを、分けて考える必要があるのです。

取引当事者別に見る課税関係

低額譲渡・高額譲渡・無償取引では、当事者の組み合わせによって課税関係が大きく変わります。

個人から個人への低額譲渡

個人どうしで財産を著しく低い価額で売買した場合、買主側で贈与税が問題になります。

たとえば、親が子に時価5,000万円の土地を1,000万円で売却したとしましょう。この場合、子は4,000万円の経済的利益を受けたと見られる可能性があります。売買契約がきちんと存在していても、時価と対価との差額について贈与税が問われるわけです。

もっとも、贈与税の「著しく低い価額」は、機械的に2分の1で線引きするものではありません。財産の種類、時価の算定方法、当事者の関係、取引の事情、支払能力、売買に至った経緯——こうした要素を総合して判断します。

個人から法人への低額譲渡

個人が法人へ資産を低額で譲渡する場合は、売主である個人、買主である法人、そして法人の株主という3者を、同時に見ておく必要があります。

当事者主な課税論点
売主個人所得税のみなし譲渡課税
買主法人時価との差額について受贈益
法人株主法人の株価上昇によるみなし贈与

たとえば、社長が同族会社へ時価1億円の土地を4,000万円で譲渡したとします。社長個人は所得税上、時価1億円で譲渡したものとして譲渡所得を計算する可能性があります。会社側では、時価1億円の資産を4,000万円で取得したことによる6,000万円の受贈益が問題になります。さらに、その会社の株式価値が上昇すれば、他の株主——たとえば後継者や親族株主——が経済的利益を受けたとして、みなし贈与が問題になることもあります。

これは、会社が直接贈与を受けただけで終わる話ではありません。会社の純資産が増えれば、会社の株式価値も上がります。その株価上昇が、誰の負担で、誰に利益を移したものなのか。そこまで確認しておく必要があります。

法人から個人への低額譲渡・無償譲渡

法人が個人へ資産を低額または無償で譲渡する場合は、相手が役員なのか、従業員なのか、株主なのか、あるいは第三者なのかによって、処理が変わってきます。

特に相手が役員である場合、時価との差額は役員給与として扱われる可能性があります。役員給与とされれば、法人側では損金算入要件、源泉所得税、消費税、社会保険、そして株主への説明まで含めて問題になります。

消費税でも注意が必要です。国税庁は、法人が役員に資産を贈与した場合には時価に相当する金額を課税標準として消費税が課税されること、また、法人が役員へ時価に比べて著しく低い金額で資産を譲渡した場合には、実際に受領した金額ではなく時価に相当する金額を課税標準とすることを説明しています。
出典:国税庁|No.6321 法人の役員に対する贈与・低額譲渡の取扱い

消費税基本通達でも、法人の役員に対する資産譲渡について、「著しく低い価額」とは、おおむね時価の50%に満たない場合をいうものとされています。
出典:国税庁|消費税法基本通達10-1-2

法人から法人への低額譲渡・無償譲渡

法人間の取引では、売主法人と買主法人の双方について、課税関係を整理します。

取引売主法人買主法人
時価売買通常の譲渡損益通常の取得価額
低額譲渡時価譲渡を前提とした譲渡損益、差額は寄附金等時価との差額について受贈益
無償譲渡時価譲渡を前提とした譲渡損益、寄附金等受贈益
高額譲渡受領額の性質確認過大部分について寄附金・役員給与・取得価額の検討

たとえば、親会社が子会社へ時価1億円の資産を無償譲渡した場合、親会社側では時価譲渡益と寄附金が問題になり、子会社側では受贈益が問題になります。

ただし、完全支配関係のある内国法人間では、グループ法人税制により、寄附金・受贈益の取扱いが通常の法人間取引とは異なることがあります。そのためグループ内の取引では、まず資本関係、完全支配関係、譲渡損益調整資産、グループ通算制度の有無を確認するところから始めます。

法人が役員・株主から高額で買い取る場合

高額譲渡は、低額譲渡に比べて見落とされがちです。

たとえば、会社が役員から時価3,000万円の資産を1億円で買い取ったとしましょう。役員側では多額の譲渡収入が生じますが、会社側では、過大部分の7,000万円が本当に資産取得の対価なのか、それとも役員給与、賞与、寄附金、利益供与なのかが問われます。

このような取引は、会社から特定の個人へ資金を移す効果を持ちます。税務上はもちろんのこと、会社法、株主への説明、金融機関への説明、役員報酬規制、利益相反取引の承認まで、あわせて確認しておくべきです。

受贈益・寄附金・役員給与・みなし贈与の切り分け

時価との差額がある場合、税務上どの科目・どの税目で処理されるかは、その差額の性質によって異なります。

差額の性質主な取扱い
法人が利益を受けた受贈益
法人が相手へ利益を与えた寄附金
役員へ利益を与えた役員給与・役員賞与
従業員へ利益を与えた給与・福利厚生費等
個人が個人から利益を受けたみなし贈与
会社価値上昇により株主が利益を受けたみなし贈与・株価移転
国外関連者との価格差移転価格税制・国外関連者寄附金

ここで大切なのは、勘定科目をどう付けるかではありません。経済的利益が、誰から誰へ移ったのかを捉えることです。

帳簿上は「売買」と表示されていても、時価との差額があれば、その差額部分は売買ではなく、寄附、給与、贈与、資本取引、あるいは配当に類する利益移転として扱われる可能性があるのです。

株価上昇によるみなし贈与に注意する

低額譲渡・無償取引で最も見落とされやすいのが、株価上昇によるみなし贈与です。

会社が直接利益を受けると、会社の純資産が増えます。その結果として、会社の株式価値が上昇します。そしてこの株式価値の上昇によって、既存株主が利益を受けたと見られる場合があるのです。

典型例は、次のとおりです。

取引株価上昇の原因利益を受ける可能性がある者
社長が会社へ債権放棄する会社の債務が消滅し純資産が増える後継者・親族株主
社長が会社へ不動産を低額譲渡する会社が時価より安く資産を取得する既存株主
第三者が会社へ高額払込みをする会社に過大な資金が入る既存株主
会社が特定株主から低額で自己株式を取得する残存株主の持分価値が増える残存株主

相続税法基本通達9-2では、同族会社の株式価額が、会社に対する無償の財産提供、時価より著しく低い価額での現物出資、債務免除、時価より著しく低い価額での財産譲渡などによって増加した場合に、株主がその価額増加部分を一定の者から贈与により取得したものとして取り扱う旨が整理されています。

この論点は、オーナー会社の承継対策において特に重要です。会社に利益を入れるだけなら法人税の問題に見えますが、株価上昇を通じて後継者へ財産が移転していると見られれば、それは贈与税の問題へと姿を変えます。

債権放棄・債務免除は「会社を助けるだけ」では終わらない

オーナー社長の貸付金を整理する場面では、社長が会社に対して債権放棄を行うことがあります。

この場合、会社側では債務免除益が生じます。繰越欠損金があれば課税所得を相殺できることもありますが、それだけで判断してはいけません。

債権放棄によって会社の純資産が増えれば、会社の株価は上昇します。その株式を後継者や親族が保有していれば、債権放棄者から既存株主へのみなし贈与が問題になります。オーナー貸付金を消去する実務においても、債権放棄により会社で債務免除益が計上されること、株価評価の上昇を通じて相続税法9条の問題が生じることを、あわせて押さえておく必要があります。

つまり債権放棄は、「貸付金を消せる」「会社の財務が改善する」という側面だけで見るものではありません。法人税、贈与税、株価、承継計画を同時に検討すべき取引なのです。

自己株式取得と低額・高額取引

自己株式の取得でも、時価との差額が問題になります。

発行会社が自己株式を取得する場合、売主株主側では、みなし配当と株式譲渡損益の整理が必要です。取得価額が時価と大きく異なると、売主株主だけでなく、残存株主への価値移転も問題になります。

たとえば、会社が時価2億円の自己株式を1億5,000万円で取得したとしましょう。売主株主は、時価より安く株式を手放したことになります。その結果、残存株主の持分価値が上がる場合があります。実務上も、自己株式を時価より安い価額で取得した場合には、売主側のみなし譲渡益、発行会社側の資本等の額・利益積立金額、そして残存株主への贈与税リスクを、それぞれ区別して検討すべきとされています。

逆に、会社が特定株主から時価を超える高額で自己株式を取得した場合には、会社財産が特定株主へ過大に流出します。この場合は、みなし配当、譲渡所得、源泉徴収、法人側の資本項目処理、そして他の株主への説明責任を確認する必要があります。

事業承継の場面で少数株主の整理や相続人からの自己株式取得を行うとき、自己株式取得は便利な手法です。しかし価格を誤ると、株主構成を整えるはずの取引が、贈与税・みなし配当・株主間の不公平を生む火種になりかねません。

低額増資・高額払込みは株式を売買していなくても価値移転が起こる

株式そのものを譲渡していなくても、増資によって株主間で価値移転が起こることがあります。

低額増資

後継者だけが時価より低い払込価額で新株を引き受けると、既存株主の持分価値が薄まり、後継者へ価値が移転します。

形式上は会社への出資ですが、実質的には既存株主から後継者への財産移転が生じている可能性があるのです。

高額払込み

一方、特定の者が時価を大きく超える金額で増資を引き受けると、会社に過大な資金が入り、既存株主の株式価値が上昇します。

同族会社の第三者割当増資については、高額引受けにより既存株主の株価が上昇した場合に、既存株主に対して贈与税が問題になることが整理されています。

また、債務超過会社への高額増資後に株式譲渡損を作り出すようなスキームについては、過去の裁判例で寄附金課税や同族会社の行為計算否認が問題となっています。実務上は、その高額払込みが真に事業再生・資本増強のためのものなのか、それとも税務上の損失作出を目的としたものではないのかを、きちんと説明できる必要があります。

国外関連者との低額・高額取引は移転価格税制の領域になる

相手が海外子会社や海外親会社である場合には、国内の寄附金・受贈益だけでなく、移転価格税制を確認します。

国内の関係会社間であれば、低額譲渡・高額譲渡は法人税法22条、37条、132条などで整理することが多いものです。しかし国外関連者との取引では、独立企業間価格が問題になります。

移転価格税制は、国外関連者との資産の販売、購入、役務提供その他の取引について、独立企業間価格で行われたものとして所得を計算する制度です。国外関連者との取引価格を通じた所得移転に対し、従来の法人税法22条、寄附金規定、同族会社の行為計算否認等だけでは十分に対応できない——そうした背景から整備されてきた経緯があります。

したがって、海外子会社へ無償で経営支援を行う、ロイヤリティを取らない、貸付金利を低く設定する、保証料を取らないといった取引では、単なる「グループ支援」として捉えるのではなく、移転価格・国外関連者寄附金・源泉税・租税条約まで確認する必要があります。

低額譲渡・高額譲渡で誤りやすい判断

実務で特に多い誤りを整理すると、次のとおりです。

誤った理解なぜ危険か
契約書に書いた価額が税務上の価額になる税務上は時価との差額を別途認識することがある
2分の1以上なら常に安全贈与税・法人税・同族会社行為計算否認では別の判断がある
グループ内だから自由な価格でよいグループ法人税制、寄附金、受贈益、移転価格の問題がある
赤字会社だから株価ゼロでよい含み益、貸付金、保険、不動産、将来性を確認する必要がある
会社に利益を入れるだけだから贈与税は関係ない株価上昇により株主へのみなし贈与が起こることがある
自己株式取得は会社と売主だけの問題残存株主への価値移転が問題になる
高額払込みは資金を入れるだけだから問題ない既存株主への価値移転、寄附金、否認リスクがある
税務上不利なら後で修正すればよい取引実行後では資金移動・株主構成・申告済み事実を戻せないことが多い

低額・高額・無償取引は、税務上の結論だけでなく、後からその取引そのものを説明できるかどうかが重要になります。

どのように検討すべきか|実務判断の手順

低額譲渡・高額譲渡・無償取引を検討する場合は、次の順番で整理していきます。

1. 取引目的を確認する

まず、なぜその取引を行うのかを明確にします。

資金繰り支援なのか、事業承継なのか、グループ再編なのか、少数株主の整理なのか、役員退職金の代替なのか、あるいは債務超過会社の再建なのか。

目的が曖昧な取引ほど、税務調査で「なぜその価格なのか」を説明しにくくなります。

2. 当事者関係を整理する

同族関係者、役員、親族、法人株主、完全支配関係、国外関連者、少数株主の有無を整理します。

同じ低額譲渡であっても、個人間、個人法人間、法人間、役員向け、国外関連者向けでは、適用される税務ルールが変わってきます。

3. 時価を算定する

時価の算定では、対象となる資産に応じて確認する資料を変えます。

対象資産主な確認資料
不動産鑑定評価、路線価、固定資産税評価額、近隣取引事例、収益価格
非上場株式財産評価基本通達、法人税・所得税上の評価、M&A算定資料
有価証券市場価格、売買実例、純資産、類似会社
機械・車両査定書、中古市場価格、帳簿価額、使用状況
債権回収可能性、債務者の財務状態、担保、保証
役務提供原価、同種業務の外部委託価格、作業時間、契約内容

非上場株式については、法人税基本通達9-1-13で、売買実例、公開途上株式、類似法人比準、純資産価額等を参酌する考え方が示されています。
出典:国税庁|法人税基本通達9-1-13・9-1-14

4. 時価との差額を誰が負担し、誰が利益を受けるかを見る

価格差の分析では、次のように整理します。

確認事項内容
時価税務上説明可能な価額
契約価額実際に授受する金額
差額時価との差
利益を受ける者買主、売主、役員、株主、後継者、関係会社
負担する者会社、オーナー、既存株主、親会社、子会社
税務上の性質受贈益、寄附金、給与、贈与、配当、資本取引
資金流出実際に会社から資金が出るか
将来影響株価、欠損金、M&A、金融機関説明

この整理をしておかないと、法人税だけを処理して終わったつもりでも、後から贈与税や源泉所得税が問題になってしまいます。

5. 税目別に課税関係を確認する

少なくとも、次の税目を確認します。

税目確認内容
法人税譲渡損益、受贈益、寄附金、役員給与、グループ法人税制
所得税みなし譲渡、譲渡所得、給与課税、みなし配当、源泉徴収
贈与税低額譲受け、株価上昇、株主間価値移転
消費税役員への贈与・低額譲渡、課税資産の譲渡、課税標準
地方税法人住民税、法人事業税、外形標準課税
国際税務移転価格、国外関連者寄附金、源泉、租税条約

6. 会計処理・申告調整・別表処理を整理する

低額・高額・無償取引では、会計処理と税務処理が一致しないことがあります。

会計上は契約価額で売上・固定資産売却益・譲渡損益を処理していても、税務上は時価との差額について、加算・減算、寄附金限度額計算、受贈益、役員給与、源泉徴収を確認しなければなりません。

法人税申告では、別表四、別表五(一)、別表十四(二)、そして有価証券・固定資産・寄附金関連資料との整合性が必要になります。

7. 意思決定資料を残す

税務調査で確認されるのは、最終的な申告書だけではありません。

なぜその取引を行ったのか。なぜその価格にしたのか。他の価格案を検討したのか。誰が承認したのか。税務上のリスクを誰が説明したのか。会計処理と申告調整は整合しているか。資金移動は契約どおりか。

これらを説明できる資料が必要です。

残すべき資料

低額譲渡・高額譲渡・無償取引では、次の資料を残しておきます。

分類資料
取引内容契約書、覚書、請求書、領収書、資金移動資料
価格根拠鑑定評価書、株価算定書、査定書、取引事例、見積書
当事者関係株主名簿、親族関係図、グループ組織図、役員一覧
意思決定取締役会議事録、株主総会議事録、稟議書、価格決定メモ
税務検討課税関係整理表、税額試算、別表処理メモ
会計処理仕訳、固定資産台帳、有価証券台帳、勘定科目内訳明細書
承継・株価贈与前後の株価、純資産資料、後継者持株割合
グループ取引グループ間契約、役務提供資料、費用配賦資料
国際取引ローカルファイル、契約書、価格設定方針、機能リスク分析

価格根拠は、税務上の結論を支えるためだけのものではありません。金融機関、後継者、少数株主、そしてM&Aの買い手に対する説明資料としても役立ちます。

専門家に相談すべきタイミング

低額譲渡・高額譲渡・無償取引は、実行してから相談しても、修正が難しい論点です。

特に次のような場合は、契約締結前、議事録作成前、資金移動前の段階で相談すべきです。

相談すべき場面理由
オーナーと会社間で不動産・株式を売買する所得税・法人税・贈与税が連動する
会社が役員へ資産を譲渡する役員給与・消費税・源泉徴収が問題になる
親会社が子会社を支援する寄附金・受贈益・グループ法人税制を確認する
債権放棄・債務免除を行う債務免除益と株価上昇を確認する
自己株式取得を行うみなし配当・譲渡所得・株主間価値移転を確認する
後継者だけが株式を取得・増資するみなし贈与・株価移転を確認する
海外子会社へ無償支援する移転価格・国外関連者寄附金を確認する
債務超過会社へ高額増資する寄附金・否認リスク・株式評価損を確認する

税務上の時価が問題になる取引は、単に「いくらなら税務署に否認されないか」を聞くだけのものではありません。目的、代替案、価格根拠、資金繰り、株主構成、そして将来のM&A・承継への影響まで整理したうえで、相談することが大切です。

低額・高額・無償取引では「価格」より先に「価値移転」を見る

低額譲渡・高額譲渡・無償取引の判断で最も重要なのは、取引価格そのものではありません。

本質は、時価との差額によって、誰から誰へ価値が移ったのか、という点にあります。

会社から役員へ価値が移ったのか。オーナーから会社へ価値が移ったのか。会社を経由して後継者へ価値が移ったのか。親会社から子会社へ利益が移ったのか。国内から海外へ所得が移ったのか。既存株主から新株主へ価値が移ったのか。

この価値移転を見える化しておかなければ、法人税の処理だけを整えても、贈与税、所得税、源泉徴収、消費税、そして株主間のトラブルが後に残ってしまいます。

ご相談を検討される方へ

低額譲渡・高額譲渡・無償取引は、同族会社やオーナー企業では日常的に起こり得るものです。その一方で、税務上は非常に複合的な論点でもあります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、同族会社・グループ会社・オーナー一族・後継者・役員間の取引について、単に申告処理を確認するだけにとどまりません。時価算定、法人税・所得税・贈与税・消費税への波及、株価上昇、株主間の価値移転、そして議事録・契約書・価格根拠資料の整備まで含めて検討します。

資産や株式を通常と異なる価格で移転する予定がある場合、あるいは債権放棄、自己株式取得、増資、グループ内支援、役員への資産譲渡を検討している場合は、実行前の段階で、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。契約締結前に論点を整理しておくことで、税務調査だけでなく、将来の承継・M&A・金融機関説明にも耐えられる判断資料を残しやすくなります。

本記事の振り返り

重要ポイント実務上の意味
契約価額がそのまま税務上の価額になるとは限らない時価との差額が別途課税問題になる
「時価の2分の1」は万能基準ではない所得税・贈与税・法人税・消費税で基準が異なる
法人間の低額譲渡では受贈益・寄附金を確認する売主・買主双方の処理が必要
個人から法人への低額譲渡は3者を見る個人、法人、法人株主の課税関係が連動する
法人から役員への低額譲渡は役員給与に注意する損金算入、源泉徴収、消費税が問題になる
債権放棄は株価上昇を伴う会社の債務免除益だけでなく、株主へのみなし贈与を確認する
自己株式取得は残存株主への価値移転を確認する売主だけでなく他株主の課税関係も整理する
低額増資・高額払込みでも価値移転が起こる株式を売買していなくても贈与税・寄附金リスクがある
国外関連者との取引は移転価格税制を確認する国内寄附金だけでは整理できない場合がある
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