既存借入・対象会社借入・買収借入をどう整理するか|M&A後の借入総額と返済負担を見誤らないための実務視点

M&Aの資金計画では、どうしても買収代金そのものに目が向きがちです。

しかし、買収後の資金繰りを左右するのは、買収代金だけではありません。買主がすでに抱えている借入、対象会社が抱えている借入、そして買収のために新たに調達する借入が、買収後にどのように重なり合うのか。ここを見ておくことが欠かせません。

買収前の段階では、「買収資金をいくら借りられるか」が論点になりがちです。ところが、買収後の実務に入ると、むしろ次のような問いのほうが重くのしかかってきます。

  • 買主の既存借入は、買収後も予定どおり返済できるのか
  • 対象会社の既存借入は、そのまま残るのか、借換えるのか、それとも返済が必要なのか
  • 買収借入の返済原資は、買主のキャッシュ・フローなのか、対象会社のキャッシュ・フローなのか
  • 既存借入と買収借入を合算したとき、返済負担は過大にならないか
  • 担保・保証・コベナンツ・金融機関との関係は、買収後も維持できるのか

M&Aファイナンスでは、「新たにいくら借りるか」だけを考えていては足りません。「買収後にグループ全体でどれだけの借入を背負い、いつ、どの資金で返済していくのか」を整理しておく必要があります。

目次

M&A後の借入は三層で見る

買収後の借入構造は、大きく三つの層に分けて整理すると見通しが立てやすくなります。

第一に、買主の既存借入です。これは買収前から買主が負っている借入であり、運転資金、設備資金、過去の投資資金、既存の金融機関取引などが含まれます。

第二に、対象会社の既存借入です。株式譲渡で会社ごと買収する場合、対象会社の借入は原則として対象会社に残ります。買収代金を売主に支払えば終わり、という話ではありません。対象会社がすでに抱えている借入、保証、担保、当座貸越、リース、未払債務なども、買収後の財務構造に影響していきます。

第三に、買収借入です。買収代金、対象会社既存借入の返済・借換え、関連費用、買収後の運転資金などを賄うために、新たに調達する借入を指します。

この三層を別々に見てしまうと、買収判断を誤りかねません。

買収借入だけを取り出せば返済できそうに見えても、買主の既存借入と対象会社の既存借入を合算すると、グループ全体では返済負担が重すぎる、ということが起こります。反対に、対象会社に借入があるというだけで悲観する必要もありません。既存借入の返済原資、金利、返済期間、担保・保証、金融機関との関係をていねいに整理すれば、買収後の資金計画に無理なく織り込める場合もあります。

大切なのは、誰が借りているのか、誰が返すのか、どのキャッシュ・フローを返済原資にするのか。この三つを混同しないことです。

買主の既存借入を最初に整理する

買収資金を検討する前に、まずは買主自身の既存借入を整理しておく必要があります。

買主に既存借入がある場合、買収後もその返済は続いていきます。買収借入を追加するということは、既存借入の上に、新たな返済負担を重ねるということにほかなりません。

確認しておきたい主な項目は、次のとおりです。

  • 借入先ごとの残高
  • 金利
  • 返済期間
  • 毎月または毎期の返済額
  • 元金返済の開始時期
  • 最終返済期限
  • 担保の有無
  • 経営者保証・第三者保証の有無
  • 当座貸越・短期借入枠の利用状況
  • 財務制限条項や報告義務の有無
  • 他行との取引状況
  • 借入目的と現在の資金使途

ここで気をつけたいのは、借入残高だけを見て判断しないことです。

借入残高が大きくても、返済期間が長く、金利が低ければ、返済負担そのものは軽いことがあります。逆に、残高はそれほど大きくなくても、返済期間が短く、毎月の元金返済が重ければ、買収後の資金繰りを圧迫することになります。

金融機関の融資審査では、債務者評価、融資案件事情、資金使途・融資形態・返済原資、保全面、他行状況、資金調達余力などが確認されます。買収融資を相談する前提として、買主自身の既存金融取引を整理しておくことは、やはり欠かせません。

対象会社の既存借入は「買収代金とは別」に見る

株式譲渡によるM&Aでは、買主は売主に株式取得代金を支払います。

このとき誤解しやすいのが、「買収代金を支払えば、対象会社の借入も含めて買ったことになるのだから、別に考えなくてよい」という発想です。

しかし財務の観点からは、対象会社の借入は非常に重要です。

対象会社の既存借入は、買収後も対象会社が返済を続けていくのが基本です。したがって、買主グループ全体で見れば、買収後には「買主の既存借入」「対象会社の既存借入」「買収借入」が併存することになります。

対象会社の借入については、次の点を確認しておきます。

  • 金融機関別の借入残高
  • 短期借入と長期借入の内訳
  • 当座貸越・手形貸付・証書貸付の別
  • 返済予定表
  • 金利・返済期間
  • 担保提供資産
  • 代表者保証・第三者保証
  • 旧経営者の保証
  • 財務制限条項
  • 期限前弁済の可否
  • 期限の利益喪失事由
  • チェンジ・オブ・コントロール条項
  • 借換え・一括返済の必要性
  • 運転資金枠の継続可否

対象会社の既存借入は、残高だけを見ればよいというものではありません。買収によって株主や経営者が変わることで、金融機関の同意、保証の差替え、担保の見直し、借換え、一括返済が必要になることがあるからです。

とくに中小M&Aでは、旧経営者の個人保証が残っているケースが少なくありません。譲渡後に旧経営者保証をどう解除・移行するかは、売主・買主・金融機関の三者にとって重要な論点になります。中小企業庁の中小M&Aガイドライン第3版でも、最終契約後に譲り渡し側の経営者保証が想定どおり移行しないといったトラブルが指摘され、契約上のリスクと対応策の整理が追記されています。

出典:中小企業庁|中小M&Aガイドライン

買収借入は「何に使う借入か」を分ける

買収借入を、単に「買収するための借入」と一括りにしてしまうのは避けたいところです。

買収借入の資金使途は、少なくとも次のように分けて整理しておきます。

  • 株式取得代金または事業譲受代金
  • 対象会社既存借入の返済・借換え資金
  • 買収関連費用
  • 買収後の運転資金
  • 買収後の追加投資資金
  • 既存担保・保証解除に伴う費用
  • 期限前弁済手数料・清算金等

買収ファイナンスの実務では、資金調達と資金使途を対応させて設計していきます。たとえば、エクイティ、シニアローン、ブリッジローン、タームローン、劣後ローンなどを組み合わせ、株式取得代金、既存ローン返済、取引関連費用に充てる、といった形で整理されます。

資金使途を分けないまま「買収資金」としてまとめて融資を申し込むと、金融機関の側から見て、返済原資や保全の説明が曖昧になってしまいます。

特に、対象会社の既存借入を返済するための借入なのか、売主に支払う株式取得代金なのか、買収後の運転資金なのか。この違いは、金融機関にとって大きな意味を持ちます。

資金使途が異なれば、返済原資、返済期間、担保・保証、融資形態も変わり得るのです。

「誰が借りるか」を明確にする

買収借入では、借入人が誰になるのかも重要です。

買主本体が借りる場合もあれば、買収用のSPCが借りる場合もあります。対象会社が借りられる場合もありますが、買収代金を対象会社自身が直接借りて売主に支払うような構造は、法務・税務・会社法上の論点を慎重に確認しておく必要があります。

借入人が買主本体であれば、返済原資は、買主の既存事業キャッシュ・フローと、買収後に対象会社から得られる配当・グループ内資金移動などになります。

一方、借入人がSPCであれば、SPC自体には通常、事業キャッシュ・フローがありません。そのため、対象会社のキャッシュ・フローをどのようにSPCへ上げて返済するかが問題になります。買収ファイナンスでは、SPCと対象会社の間に構造的劣後関係が生じるため、貸付人は対象会社との合併、対象会社グループによる保証・担保提供、完全子会社化などを求めてくることがあります。

ここで注意したいのは、「対象会社が利益を出しているのだから買収借入を返せる」と、単純には言えないことです。

対象会社に利益があっても、その資金を買主やSPCの返済に使うには、配当、貸付、経営指導料、合併、グループ内資金移動などの形を取る必要があります。そして、それぞれについて、会社法、税務、契約、金融機関との関係を確認しなければなりません。

対象会社借入の借換えが必要になる場面

対象会社の既存借入は、そのまま継続できる場合もあります。

しかし、次のような場面では、借換えや返済が必要になることがあります。

  • 株主変更や経営者変更により、金融機関の同意が必要な場合
  • 旧経営者の個人保証を解除する必要がある場合
  • 既存担保を新たな金融機関に差し替える必要がある場合
  • 既存借入にチェンジ・オブ・コントロール条項がある場合
  • 買収ファイナンスの貸付人が、対象会社既存借入の返済を求める場合
  • 当座貸越やコミットメントラインを解消する必要がある場合
  • 複数金融機関の担保順位や保全関係を整理する必要がある場合

買収ファイナンスでは、対象会社グループが生み出すキャッシュ・フローを返済原資として把握するため、対象会社グループ会社の既存借入金の返済や、既存借入枠の解消が条件とされることがあります。もっとも、運転資金調達の実務を考えると、すべての既存借入枠を機械的に解消してしまうと、かえって資金繰りが悪化する場合もあります。代替の運転資金枠をどう確保するかも、あわせて検討しておく必要があります。

対象会社の既存借入を返済すれば、財務構造はたしかにきれいになります。しかし、その返済資金を新たな買収借入で賄うのであれば、グループ全体の借入が減るとは限りません。むしろ、返済期間や金利、担保・保証の条件によっては、返済負担がかえって重くなることもあります。

「借換えるべきか」という判断は、単に既存借入を消すかどうかではありません。買収後の返済負担、運転資金枠、保証解除、担保順位、金融機関への説明までを含めて考えるべきものです。

一括返済条項・期限前弁済を確認する

対象会社の既存借入を整理するうえで、必ず確認しておきたいのが、期限前弁済の扱いです。

買収にともなって既存借入を返済する場合、その多くは期限前弁済になります。期限前弁済には、金融機関の承諾、所定の通知期間、手数料、清算金、担保解除手続が必要となる場合があります。

買収ファイナンスの実務でも、対象会社グループ会社の既存借入金の返済は、多くの場合、期限前弁済となります。相手方金融機関の承諾が必要なことが多く、関連する保証・担保の解除にも手続が求められます。さらに、期限前弁済には清算金等の費用負担が生じることもあります。

この論点を見落とすと、買収資金計画に漏れが生じます。

たとえば、対象会社の借入残高だけを見て返済資金を用意していたところ、実際には期限前弁済手数料、担保解除費用、抵当権抹消費用、新担保設定費用、保証解除・差替えの調整が必要になる、というケースです。

また、既存金融機関の承諾が遅れれば、クロージングスケジュールにも影響します。既存借入の返済、新規融資の実行、担保解除、新担保設定は、同じ日に連続して処理しなければならないことも少なくありません。

買収実行日に資金が動けばよい、という単純な話ではないのです。返済・解除・設定の順番が崩れると、新規金融機関が想定していた保全を確保できないことがあります。

担保・保証は借入残高以上に重要である

借入を整理するときは、残高と返済額だけを見ていては不十分です。

担保と保証は、買収後の経営自由度に大きく影響します。

買主の既存借入に、すでに不動産担保が入っている場合、新たな買収借入のために追加で担保提供できる余地は限られます。対象会社の資産に既存金融機関の担保が付いていれば、新規金融機関が第一順位の担保を取れないこともあります。

旧経営者の個人保証をどう扱うかも重要です。売主の側から見れば、株式を譲渡した後も保証が残ることは大きなリスクです。買主の側から見れば、金融機関が新経営者の保証や追加担保を求めてくる可能性があります。

金融庁が公表している、事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則は、事業承継時の経営者保証の取扱いについて、具体的な着眼点や対応手法を定めています。経営者保証に依存しない融資慣行の定着を促すものといえます。

出典:金融庁|事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則の公表について

ただし、ガイドラインがあるからといって、すべての保証が自動的に解除されるわけではありません。対象会社の財務内容、返済能力、担保状況、旧経営者の関与、新経営者の信用力、金融機関との協議状況を踏まえて判断されます。

M&Aでは、保証解除を契約上の努力義務にとどめるだけでは不十分なことがあります。解除期限、解除できなかった場合の対応、金融機関協議の進め方、買主の協力義務、売主への報告、代替担保・代替保証の可能性まで、整理しておくべきです。

返済スケジュールを一枚に統合する

既存借入・対象会社借入・買収借入を整理する、もっとも実務的な方法は、返済スケジュールを一枚に統合してしまうことです。

買主単体の返済予定表、対象会社の返済予定表、買収借入の返済予定表。これらを別々に眺めていても、買収後の資金繰りは見えてきません。

最低限、次の項目を横並びで整理します。

  • 借入主体
  • 金融機関
  • 借入残高
  • 借入目的
  • 金利
  • 返済開始時期
  • 毎月または毎期の元金返済額
  • 最終返済期限
  • 担保
  • 保証
  • 財務制限条項
  • 期限前弁済の可否
  • 借換え予定
  • 返済原資
  • 買収後の取扱い

そのうえで、月次または四半期ごとの返済予定を合算します。

ここで見るべきなのは、年間返済額だけではありません。月次の資金繰りのうえで、返済が集中するタイミングはないか。税金や賞与、運転資金、設備投資と重なる月はないか。こうした点まで確認します。

買収後の返済計画では、売上や利益を銀行向けに整えるだけでは足りません。売上計画を楽観的に置き、債務償還年数を形式的に整えたとしても、計画未達のときに資金繰りが回らなければ意味がないからです。実際、売上計画を銀行目線から逆算して作成し、計画未達で資金繰りが崩れてしまう事例は、資金繰り管理のうえで重要な警鐘になっています。

借入総額ではなく、返済可能額を見る

借入の整理で陥りやすいのが、借入総額だけで判断してしまうことです。

もちろん、借入総額は重要です。しかし、買収後に本当に問題になるのは、返済可能額のほうです。

返済可能額は、次の要素によって変わってきます。

  • 買主既存事業の営業キャッシュ・フロー
  • 対象会社の営業キャッシュ・フロー
  • 対象会社から買主への資金移動可能性
  • 税金支払
  • 運転資金増加
  • 設備投資
  • 既存借入返済
  • 買収借入返済
  • 追加投資余力
  • 予備資金
  • 下振れ時の耐久力

買収後の返済原資は、会計上の利益ではなく、現金です。

対象会社が利益を出していても、売掛金や在庫に資金が固定化されれば、返済に使える現金は減ります。買主が利益を出していても、既存借入返済や設備投資で現金が出ていけば、買収借入の返済余力は限られてきます。

そこで、借入整理では、次のような順番で考えていきます。

まず、買主と対象会社の既存返済負担を確認する。次に、買収後に発生する新規返済負担を加える。そのうえで、買収後のキャッシュ・フローから税金、運転資金、設備投資を差し引く。そして最後に、残った現金で借入返済に耐えられるかを見る。

ここまで確認して初めて、「どこまで借りてよいか」を判断できるようになります。

買主借入と対象会社借入を混ぜて考えない

買収後は、買主と対象会社を一体で経営していくことになります。

しかし法的には、買主と対象会社が別法人であることが多く、借入人も異なります。買主の借入を、対象会社が当然に返済できるわけではありません。対象会社の資金を買主側に移すには、配当、貸付、グループ内取引、合併などの設計が必要になります。

この点を曖昧にしたままにすると、返済計画が実態よりも強く見えてしまいます。

たとえば、対象会社には十分なキャッシュ・フローがあるものの、買主側には返済原資が乏しい場合、買主が借りた買収借入をどう返済するかが問題になります。対象会社からの配当を前提にするなら、配当可能額、税務、少数株主の有無、金融機関との契約制限を確認しておく必要があります。

対象会社からの貸付を前提にするなら、会社法上・税務上・金融機関契約上の妥当性を確認しなければなりません。買収後に合併する前提なら、合併手続、債権者保護、税務、会計、既存借入契約への影響を確認する必要があります。

「グループ全体では返済できる」という説明は、資金移動のルートまで明確でなければ、金融機関に対する説明としては弱いものになってしまいます。

対象会社の借入を見て価格交渉に戻ることもある

対象会社の既存借入を確認した結果、買収価格や条件の見直しが必要になることもあります。

たとえば、対象会社に想定より多額の有利子負債があれば、株式価値は下がります。一括返済が必要な借入があれば、買収時に必要な資金総額は増えます。旧経営者保証の解除に追加担保や借換えが必要であれば、買主側の資金調達条件にも影響してきます。

財務DDは、対象会社の過去の損益・キャッシュ・フロー実績、現在の財務状況、リスク、将来計画の基礎情報を把握するための、重要な機会です。

ただし、本記事で扱うのは財務DDの詳細手続ではありません。ここで押さえておきたいのは、対象会社借入の確認結果が、買収価格、資金調達額、借換え要否、返済計画、金融機関説明に直接影響するという点です。

対象会社の借入を見た結果、買収を進めること自体は可能でも、買収価格を見直すべき場合があります。あるいは、価格は維持しつつ、売主保証、分割払い、クロージング条件、保証解除条件、借換え条件を調整すべき場合もあります。

金融機関には「借入一覧」ではなく「買収後財務構造」を説明する

金融機関に説明する際、借入一覧を提出するだけでは不十分です。

金融機関が知りたいのは、借入がいくらあるかだけではありません。買収後に、その借入をどう管理し、どう返済していくのかです。

説明すべき主な内容は、次のとおりです。

  • 買収前の買主借入の状況
  • 対象会社借入の状況
  • 買収借入の資金使途
  • 対象会社既存借入を残すのか、借換えるのか
  • 旧経営者保証をどう扱うのか
  • 担保をどう整理するのか
  • 買収後の返済スケジュール
  • 返済原資
  • 下振れ時の対応
  • 追加投資・運転資金の確保
  • 他行との調整状況
  • クロージング時の資金決済・担保解除・担保設定の流れ

買収ファイナンスでは、買収関連契約、スポンサー出資、メザニンファイナンス、担保契約、保証契約などが相互に関係し合います。これらの関連契約が有効かつ適法に締結され、貸付人が合理的に満足する内容であることが、融資実行の前提条件とされることもあります。

中小企業の銀行融資であっても、考え方は同じです。金融機関対応とは、交渉テクニックではなく、第三者に説明できる財務構造を整えていく作業にほかなりません。

買収後に借入を整理し直す余地も見る

買収時点で最適な借入構造が、買収後もずっと最適であり続けるとは限りません。

買収直後は、金融機関から見て不確実性が高いため、担保・保証・返済条件が重くなりがちです。その後、対象会社の業績が安定し、買収後の管理体制が整い、返済実績が積み上がっていけば、リファイナンスや条件変更を検討できる場合もあります。

買収ファイナンスでは、実行後の展開として、リファイナンス、任意期限前弁済、新規担保設定、既存担保解除、コーポレートファイナンス化、リキャピタリゼーションなどが論点になります。

ただし、買収時点から「後で借換えればよい」と楽観的に構えるのは危険です。

リファイナンスは、買収後の実績、金融機関の評価、担保状況、返済実績、事業計画の達成状況に左右されます。買収直後に過大な借入を背負い、計画未達が続けば、借換えどころか、追加融資や条件変更の説明すら難しくなってしまいます。

ですから買収時点では、リファイナンスを期待しすぎず、現行条件のままでも耐えられる返済計画を作っておくことが大切です。

既存借入・対象会社借入・買収借入を整理する実務手順

実務上は、次の順番で整理していくと判断しやすくなります。

1. 借入主体ごとに一覧化する

まず、買主、対象会社、対象会社子会社、SPC、経営者個人など、誰が借入人なのかを分けます。

同じ金融機関からの借入であっても、借入主体が異なれば、返済原資、担保、保証、契約条件は変わってきます。

2. 返済予定を月次で統合する

次に、すべての借入について返済予定表を作成し、買収後の月次資金繰りに反映します。

年間合計ではなく、資金が不足する月がないかを見ることが重要です。

3. 担保・保証を整理する

担保物件、担保順位、根抵当権の極度額、保証人、旧経営者保証、新経営者保証、第三者保証を整理します。

担保・保証は、金融機関の保全だけでなく、売主・買主・経営者個人のリスクにも直結します。

4. 期限前弁済・一括返済の要否を確認する

既存借入契約に、株主変更、代表者変更、組織再編、担保変更、財務悪化などに関する条項がないかを確認します。

期限前弁済には、承諾、通知期間、手数料、清算金、担保解除手続がともなう場合があります。

5. 借換え後の運転資金枠を確認する

対象会社の既存借入枠を解消する場合は、それに代わる運転資金枠を確保できるかを確認します。

既存借入を返済して財務構造をきれいにしても、日常の資金繰りが回らなくなっては意味がありません。

6. 返済原資を保守的に見る

返済原資は、買主と対象会社のキャッシュ・フローから、税金、運転資金増加、設備投資、既存返済を差し引いた後に残る現金で見ます。

シナジーや成長を前提にしすぎると、借入余力を過大に見積もってしまいます。

7. 金融機関説明用に再構成する

最後に、借入一覧をそのまま出すのではなく、金融機関が判断できる形に再構成します。

資金使途、必要額、返済原資、担保・保証、他行状況、買収後事業計画、下振れ時対応を、一体として説明します。

借入整理が不十分なM&Aは、買収後に苦しくなる

M&Aでは、どうしても買収契約の締結やクロージングに意識が集中しがちです。

しかし、買収後に残るのは、取得した事業と、返済すべき借入です。

買収時点で既存借入、対象会社借入、買収借入を整理しておかなければ、買収後に次のような問題が起こります。

  • 想定以上に返済負担が重い
  • 対象会社の既存借入の借換えが必要だった
  • 旧経営者保証が解除できない
  • 既存担保の解除が間に合わない
  • 買収借入の担保設定が予定どおりできない
  • 当座貸越枠がなくなり、運転資金が不足する
  • 金融機関への説明が後手に回る
  • 追加投資余力がなくなる
  • 返済計画が買収後すぐに崩れる

これらは、買収後に初めて考えればよい論点ではありません。買収前の資金計画に、あらかじめ織り込んでおくべき論点です。

借入の整理に不安がある場合

既存借入・対象会社借入・買収借入の整理は、買収資金調達のなかでも特に実務的で、見落としがそのまま買収後の資金繰りに直結する論点です。

次のような状況にある場合は、金融機関への相談や買収条件の最終化に進む前に、借入構造を整理しておくことをおすすめします。

  • 買主に既存借入があり、追加で買収借入をどこまで増やしてよいか分からない
  • 対象会社の既存借入をそのまま残してよいか判断できない
  • 旧経営者保証をどう解除・移行するか整理できていない
  • 対象会社の当座貸越や短期借入枠が、買収後も使えるか不安がある
  • 買収借入と対象会社既存借入の返済スケジュールを統合できていない
  • 担保・保証・借換え・期限前弁済の費用や手続を、資金計画に織り込めていない
  • 金融機関に、買収後の借入総額と返済原資を説明できる状態になっていない

犬飼公認会計士・税理士事務所では、買収代金だけでなく、買主既存借入、対象会社借入、買収借入、返済スケジュール、担保・保証、金融機関説明、買収後キャッシュ・フローまで含めて、買収判断に耐える資金計画の整理をご支援しています。

M&Aを前向きに進めていくためには、「買収資金を借りられるか」だけでなく、「買収後に全体の借入を返していけるか」を確認しておくことが欠かせません。既存借入や対象会社借入の整理に不安をお持ちの方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページから、お気軽にご相談ください。

振り返り|既存借入・対象会社借入・買収借入を整理するポイント

確認項目見るべき内容注意点
買主の既存借入残高、返済予定、金利、担保、保証、他行状況買収後も既存返済は続く
対象会社の既存借入借入先、短期・長期、当座貸越、担保、保証、契約条項株式取得後も対象会社に借入は残る
買収借入資金使途、借入人、返済期間、返済原資、担保・保証「買収資金」と一括りにしない
借換えの要否既存借入の継続可否、保証解除、担保差替え、一括返済借換えで運転資金枠を失う場合がある
期限前弁済承諾、通知期間、手数料、清算金、担保解除借入残高以外の費用と手続を見込む
担保・保証担保順位、根抵当権、旧経営者保証、新保証、第三者保証経営者個人のリスクにも関わる
返済スケジュール買主・対象会社・買収借入の返済予定を統合年間合計ではなく月次の資金繰りで見る
返済原資営業CF、税金、運転資金、設備投資、既存返済後の現金利益ではなく返済に使える現金を見る
金融機関説明資金使途、必要額、返済原資、保全、他行状況、下振れ対応借入一覧ではなく買収後財務構造を説明する
最終判断買収後も返済・運転資金・追加投資に耐えられるか借入整理は買収判断そのものである
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