経営の承継と支配の承継を分けて考える|事業承継で後継者・株式・議決権をどう整理するか

事業承継には、よくある誤解があります。「後継者を社長にすれば、それで事業承継は終わる」という考え方です。

たしかに、代表取締役を交代し、後継者が日々の経営判断を担うようになれば、外から見れば会社は承継されたように映ります。金融機関や取引先、従業員の目にも、後継者が前面に立つ姿が見えるでしょう。

しかし、株式会社である以上、代表者の交代と株式・議決権の承継は、本来別の問題です。

後継者が代表取締役に就いていても、株式を十分に持っていなければ、いざという重要な意思決定の場面で思うように動けないことがあります。逆に、後継者が株式を握っていても、経営の力量や社内の信頼、金融機関への対応力、月次の数字を読む力が伴っていなければ、会社を実際に動かすことはできません。

事業承継を狭くとらえれば「代表者交代」と「株式承継」です。けれども実務では、人・資産・知的資産を含めた経営資源全体を引き継ぐ営みであり、なかでも「経営を誰が担うのか」と「会社を誰が支配するのか」を切り分けて設計することが欠かせません。

中小企業庁の事業承継ガイドラインでも、円滑な承継を通じて事業価値を次世代へ引き継ぎ、事業活動の活性化につなげることの重要性が示されています。承継の形も、親族内承継にとどまらず、従業員承継や第三者承継、すなわちM&Aが増えていると整理されています。

出典:中小企業庁|事業承継ガイドライン(第3版)

本稿では、事業承継の基本構造として、「経営の承継」と「支配の承継」を分けて考える視点を整理していきます。

目次

事業承継でまず分けるべき二つの承継

事業承継には、大きく分けて二つの側面があります。一つは経営の承継、もう一つは支配の承継です。

この二つを混同してしまうと、承継したあとに問題が起きやすくなります。

経営の承継とは、会社の日々の経営判断を誰が担うのか、という問題です。代表取締役の交代に加え、取締役や幹部の役割、社内の権限、金融機関や取引先への対応、従業員への指示、経営計画の実行といったものが、ここに含まれます。

支配の承継とは、会社の重要事項を最終的に決める力を誰が持つのか、という問題です。株式会社では、株式、とりわけ議決権の保有割合が中心になります。役員の選任・解任、定款変更、組織再編、自己株式の取得、種類株式の発行など、会社の将来を左右する重要事項は、株主総会の決議と深く結びついています。

経営の承継は「会社を動かす力」であり、支配の承継は「会社の方向を最終的に決める力」です。

この二つは重なることもありますが、いつも一致するとは限りません。

経営の承継とは何か

経営の承継とは、単に肩書きを移すことではありません。

代表取締役として登記されること自体は大切です。ただ、それだけで経営者として会社を動かせるわけではありません。中小・中堅企業では、現経営者の経験や判断力、人脈、金融機関との信頼関係、取引先とのつながり、従業員への影響力が、会社の実務運営を支えていることが少なくないからです。

ですから、経営の承継で確かめるべきは、代表者を交代したかどうかではなく、後継者が会社の実態を理解し、自分で判断できる状態になっているかどうかです。

たとえば、次のような問いを立ててみると、現状が見えてきます。

  • 後継者は、月次決算を見て利益構造を説明できるか
  • 資金繰り表をもとに、借入返済や投資余力を判断できるか
  • 金融機関に対して、会社の現状と今後の方針を説明できるか
  • 主要な取引先との関係を引き継げているか
  • 幹部や従業員が、後継者の指示を受け入れる状態になっているか
  • 現経営者の頭の中にある判断基準が、会議体・資料・ルールに落とし込まれているか

経営の承継で本当に重要なのは、後継者を「形だけの社長」にすることではありません。後継者が、数字と事実をもとに経営判断を下せる状態をつくることです。

ここで効いてくるのが、月次決算、資金繰り、経営計画、予実管理、部門別採算、そして金融機関への説明です。これらは、承継後の管理を重くするためのものではありません。現経営者の経験や勘に頼っていた判断を、後継者が再現できる形に変えるための道具なのです。

支配の承継とは何か

支配の承継とは、株式・議決権を通じて、会社の重要事項を決める力を誰に移すのか、という問題です。

会社法上、株主は、剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利、株主総会における議決権などを有します。つまり株式は、単なる財産ではなく、会社の意思決定に関与する権利を伴うものなのです。

出典:e-Gov法令検索|会社法 第105条

また株主は、原則として株主総会で1株につき1個の議決権を持ち、自己株式には議決権がありません。株主総会の普通決議は、原則として、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を持つ株主が出席し、その出席株主の議決権の過半数で決まります。一定の重要事項については、これより重い特別決議が必要になります。

出典:e-Gov法令検索|会社法 第308条・第309条

取締役・会計参与・監査役といった役員は、株主総会の決議によって選任されます。役員の選任・解任についても、会社法上の決議要件が定められています。

出典:e-Gov法令検索|会社法 第329条・第341条

このため、後継者が代表取締役であっても、議決権を十分に持たない場合には、将来の役員選任、定款変更、組織再編、自己株式の取得、株式の集約、M&Aといった場面で、意思決定が滞ってしまう可能性があります。

実務上は、全株式を安定的に保有できるのがいちばん単純です。少なくとも過半数、重要事項まで見据えるなら3分の2超の議決権を意識する場面が多くなります。もっとも、必要な議決権割合は、会社の機関設計、定款、株主構成、種類株式の有無、想定する決議事項によって変わってきます。「何%あれば絶対に安全」と機械的に考えるのではなく、承継後にどのような意思決定が必要になるかから逆算して整理していくべきです。

「社長にすること」と「株式を渡すこと」は同じではない

事業承継でもっとも注意したいのは、社長にすることと株式を渡すことを、同じものとして扱わないことです。

後継者に社長を任せても、株式が現経営者や他の親族、少数株主に分散している場合、後継者は経営の現場で責任を負う一方、会社の重要事項を自分だけでは決められない、という状態になります。

逆に、後継者に株式を移しても、経営の経験や社内の信頼、金融機関への対応力、数字を読む力が不十分であれば、株主としての支配権はあっても、実際の経営が安定しないことがあります。

たとえば、現経営者が株式を持ち続けたまま、後継者を代表取締役にするケースがあります。この方法は、後継者の成長を見ながら段階的に権限を移していける反面、現経営者が実質的な決定権を握り続けると、後継者が社内外から「真の経営者」として見られにくくなることがあります。

反対に、株式を早く移しすぎる場合にも注意が必要です。後継者の経営能力や社内体制が整っていない段階で支配権まで移してしまうと、現経営者が適切に関与しづらくなり、会社の方向を修正することが難しくなりかねません。

ですから事業承継では、次の二つを別々に設計する必要があります。

  • 誰が、いつから、どの範囲の経営判断を担うのか
  • 誰が、どの時点で、どの程度の議決権を持つのか

この設計を曖昧にしたまま承継を進めると、承継後に「責任は後継者、決定権は別の人」という不安定な状態が生まれてしまいます。

所有と経営を一致させるべきか、分離させるべきか

中小・中堅企業では、所有と経営が一致していることがよくあります。経営者が大株主を兼ね、会社の意思決定を一体で行っている状態です。

この状態には、意思決定が早い、経営責任が明確である、金融機関や取引先への説明がしやすい、といった利点があります。その一方で、経営者個人への依存が強まりやすく、相続や病気、急な退任といった場面で会社が不安定になるリスクも抱えています。

承継後も所有と経営を一致させる場合は、後継者が代表者となり、同時に議決権も十分に保有する形を目指します。後継者が経営責任をはっきりと負い、重要事項を迅速に判断できるという点で、分かりやすい設計です。

ただし実務では、株式評価、贈与税・相続税、株式の買取資金、他の相続人との公平、金融機関の理解といった点が問題になります。後継者に株式を集中させることが経営上望ましいとしても、そのための資金や税務、家族間の調整が欠かせません。

一方で、所有と経営を分離させる設計もあります。

たとえば、後継者が代表取締役として経営を担い、現経営者や持株会社、親族、従業員持株会などが株式を保有する形です。あるいは、後継者に議決権のある株式を集中させ、他の相続人や関係者には無議決権株式や配当優先株式を持たせる方法も考えられます。

所有と経営を分離すれば、資金負担や家族間の公平を調整しやすくなることがあります。ただし、意思決定の仕組みを丁寧に設計しなければ、後継者の経営権が不安定になってしまいます。

所有と経営を一致させるか、分離させるかに、絶対の正解はありません。大切なのは、会社の実情に照らして、承継後の意思決定が止まらない形をつくることです。

株式を分散させることの危険性

事業承継で避けたいのが、安易な株式分散です。

とくに親族内承継では、「相続人間の公平」を意識して、株式を複数の相続人に分けようとする発想が出やすくなります。財産として見れば、公平に分けたいという考え方は自然なものでしょう。

しかし、会社の株式は、預金や不動産のような単なる財産ではありません。議決権を伴うため、株式を分けることは、会社の意思決定権を分けることでもあるのです。

経営に関与しない相続人が一定の株式を持つと、後継者が経営上必要な意思決定をしようとしたとき、株主間の意見調整が要ることになります。関係が良好なうちは問題が表面化しないかもしれません。けれども、配当方針、役員報酬、株式の買取価格、M&A、会社分割、廃業、第三者割当増資といった場面で利害が対立すると、株式分散は一気に経営リスクへと変わります。

株主管理の実務では、株主名簿、名義株、所在不明株主、株券発行会社かどうか、譲渡承認、少数株主権といった論点が重要になります。株主管理の不備は、事業承継やM&Aの場面で重大な支障になりかねません。

中小企業では、古くからの共同創業者や親族、元従業員、取引先などが、少数株主として残っていることがあります。過去の相続を経て、株主がさらに増えている場合もあります。業歴の長い会社ほど、株式が分散している可能性は高くなります。

株式分散の問題は、承継の直前に気づいても、すぐには解決できません。株主との交渉、買取資金、税務、会社法上の手続、場合によっては弁護士の関与が必要になります。

だからこそ、経営の承継を考える段階で、必ず支配の承継もあわせて確認しておく必要があるのです。

議決権割合は、何を判断するために見るのか

議決権割合を考えるとき大切なのは、「何%持っているか」だけを見ることではありません。その議決権で何ができて、何ができないのかを見ることです。

過半数の議決権があれば、通常の株主総会の普通決議に関わる意思決定を進めやすくなります。役員の選任・解任も、会社法上の要件に従って株主総会の決議で行われます。

一方、定款変更、一定の自己株式の取得、組織再編、資本金の額の減少など、重要事項には特別決議が必要になる場面があります。特別決議では、原則として、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を持つ株主が出席し、その出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が求められます。

出典:e-Gov法令検索|会社法 第309条

そのため、承継後にどんな意思決定が想定されるかによって、必要な議決権の水準は変わってきます。

  • 単に現状を維持するだけなのか
  • 将来、定款変更や種類株式の発行が必要になるのか
  • 株式の集約や自己株式の取得を行う可能性があるのか
  • M&Aや会社分割、持株会社化を検討する可能性があるのか
  • 外部株主や投資家を入れる可能性があるのか

こうした将来の選択肢まで見据えなければ、議決権の設計はできません。

事業承継で議決権を見る目的は、単に後継者を強くすることではありません。承継後の会社が、必要な意思決定を、適切なタイミングで行える状態にすることです。

後継者以外の株主をどう扱うか

支配権を後継者に集中させる場合でも、後継者以外の株主への配慮は欠かせません。

後継者以外の相続人や親族、従業員、少数株主に対して、「経営に関与しないなら株式を持つべきではない」と一方的に決めつけてしまうと、感情的な対立を招きやすくなります。

その一方で、会社の経営を安定させるには、議決権を分散させすぎないことも大切です。

このバランスを取るために、実務ではいくつかの方法が検討されます。

  • 後継者に議決権のある株式を集中させる
  • 後継者以外には配当優先・無議決権株式を持たせる
  • 会社または後継者が少数株式を買い取る
  • 生命保険や代償金で、株式以外の財産配分を調整する
  • 従業員持株会を使い、経済的参加と議決権管理を分ける
  • 信託や株主間契約を使い、議決権の行使や承継順位を整理する
  • 相続人等に対する売渡請求制度を定款に整備する

会社法上、株式会社は、剰余金の配当、残余財産の分配、議決権を行使できる事項、譲渡制限、取得請求権、取得条項、拒否権、役員の選解任権などについて、内容の異なる種類株式を発行できる枠組みを持っています。

出典:e-Gov法令検索|会社法 第108条

ただし、種類株式や信託、持株会社、自己株式の取得は、便利な道具である反面、会社法や税務、会計、相続、資金繰り、そして将来のM&Aへの影響を伴います。制度を使えば解決するのではなく、承継後の意思決定と資金負担をどう設計するかが先なのです。

現経営者が株式を持ち続ける場合の注意点

事業承継では、現経営者が一定期間、株式を持ち続けることがあります。

これは、必ずしも悪いことではありません。後継者の経営を見守る、金融機関や取引先への信用を維持する、税務や資金の都合で段階的に株式を移す、後継者の暴走を防ぐ、といった目的があるからです。

ただ、現経営者が議決権を持ち続ける場合には、経営権と支配権の関係をはっきりさせておく必要があります。次のような状態は、要注意です。

  • 後継者が社長であるにもかかわらず、重要事項はすべて現経営者が決めている
  • 金融機関や従業員が、実質的な決定権者を現経営者だと見ている
  • 後継者が、現経営者の承認なしには投資や採用を判断できない
  • 現経営者と後継者の意見が食い違ったときのルールがない

こうした状態では、後継者の経営者としての成長が遅れ、社内の求心力も弱まってしまいます。現経営者が支援のつもりで関与していても、結果として後継者の権限が曖昧になってしまうのです。

現経営者が株式を持ち続けるのであれば、どの事項は後継者が決めるのか、どの事項は現経営者の同意を要するのか、そしていつまでその状態を続けるのかを、あらかじめ整理しておくべきです。

「見守る」ことと「支配し続ける」ことは違います。事業承継では、この違いを言葉にしておくことが大切です。

従業員承継・MBOでは、経営能力と株式取得資金を分けて考える

親族以外の役員・従業員に承継する場合、経営の承継と支配の承継のズレは、いっそう大きくなります。

社内の役員や従業員は、事業内容や現場、取引先、従業員の状況をよく理解していることがあります。その意味では、経営の承継先として有力です。

しかし、株式を取得するための資金を十分に持っているとは限りません。非上場株式の評価額が高い場合、後継者個人が株式を買い取るのは容易ではありません。金融機関からの借入、持株会社、分割取得、役員報酬・配当原資、自己株式の取得、投資育成会社、PEファンドなどを組み合わせて検討することもあります。

ここで意識しておきたいのは、「経営者として適任であること」と「株式を買えること」は別だ、という点です。

経営能力のある後継者に過大な株式買取の負担を背負わせれば、承継後の投資余力や生活面のリスクが大きくなります。逆に、資金を出せる人が、必ずしも経営者として適任とは限りません。

従業員承継やMBOでは、経営の承継、支配の承継、資金調達、金融機関対応、保証、税務、そして既存株主の理解を、一体で整理していく必要があります。

M&Aを選択肢に入れる場合も、経営と支配の整理が必要

後継者がいない場合、第三者承継としてM&Aを検討することがあります。

M&Aでは、買い手は事業内容や利益だけを見るわけではありません。誰が株主なのか、株式は有効に移転できるのか、少数株主はいるのか、名義株の疑いはないか、株券発行会社ではないか、代表者の権限は整理されているか、重要な契約や金融機関の保証に問題はないか――こうした点を確認していきます。

中小M&Aガイドライン(第3版)でも、中小M&Aに先立つ事前準備として、見える化・磨き上げ、株式や事業用資産等の整理・集約が、重要な論点として示されています。

出典:中小企業庁|中小M&Aガイドライン(第3版)

後継者不在でM&Aを考える場合にも、経営の承継と支配の承継は分けて整理する必要があります。

経営の承継では、買い手が事業を引き継げるように、業務フロー、従業員、取引先、ノウハウ、管理資料を整えます。支配の承継では、株式を確実に移転できるように、株主構成、株主名簿、譲渡制限、少数株主、名義株、自己株式、契約上の制限を整理します。

M&Aは、支配権の移転を伴うことの多い取引です。経営の実態が見えず、株式の支配関係も不明確な会社は、買い手から見てリスクの高い相手になってしまいます。

事業承継税制を考える前にも、経営と支配の整理が必要

事業承継税制は、非上場株式の承継に伴う贈与税・相続税の負担を軽減する、重要な制度です。

法人版事業承継税制の特例措置では、後継者が取得した、議決権を行使できる株式等に係る贈与税・相続税について、一定の要件のもとで100%納税猶予の対象となる旨が、中小企業庁により案内されています。また、特例承継計画は、平成30年4月1日から令和9年9月30日までに都道府県庁へ提出し、確認を受ける必要があります。

出典:中小企業庁|法人版事業承継税制(特例措置)

ただし、税制の検討は、経営と支配の設計を終えたあとに行うべきものです。

税制を使うために株式を動かすのではありません。会社を安定して承継するために、必要であれば税制を活用する――この順番が大切です。

事業承継税制では、代表者要件、株式保有、事業継続、届出・報告などの要件が関わってきます。制度を適用できるかどうか、その効果がどれほどかは、会社、後継者、先代経営者、株主構成、承継の時期、そして税制改正によって変わります。実際に検討するときは、必ず最新の公式情報と個別の事情を確認する必要があります。

「税負担を抑えられるか」だけでなく、「後継者がどの議決権を持ち、どの経営責任を負うのか」を先に整理しておくこと。これが何より重要です。

経営の承継と支配の承継を整理する実務手順

経営の承継と支配の承継を分けて考えるには、次の順番で整理していくと、実務に落とし込みやすくなります。

1. 承継後の経営体制を描く

まず、承継後に誰が経営を担うのかを整理します。

  • 代表取締役は誰か
  • 取締役会や幹部会議はどうするか
  • 現経営者はいつまで、どの立場で関与するか
  • 後継者が単独で判断する事項と、相談・承認を要する事項は何か
  • 金融機関、主要取引先、従業員への説明は誰が行うか

ここで確認したいのは、肩書きではなく、実際の意思決定の流れです。

2. 現在の株主構成と議決権を確認する

次に、現時点の株主構成を確認します。

  • 株主名簿は整っているか
  • 実際の株主と名義上の株主にズレはないか
  • 所在不明株主はいないか
  • 株券発行会社かどうか
  • 議決権割合はどうなっているか
  • 自己株式や種類株式はあるか
  • 株式の譲渡制限や、相続人等への売渡請求の定款規定はあるか

株式の状況が分からないまま承継スキームを考えると、あとになって前提が崩れてしまいます。

3. 必要な支配権水準を決める

後継者にどの程度の議決権を持たせるべきかは、承継後に必要となる意思決定から逆算して考えます。

  • 日常的な経営判断だけで足りるのか
  • 役員選任を安定させる必要があるのか
  • 定款変更や組織再編まで見据えるのか
  • 少数株主への対応が必要か
  • 将来のM&Aや外部資本の導入を想定するのか

必要な議決権を明確にしたうえで、株式の移転、買取り、種類株式、持株会社、信託、株主間契約といった手段を検討していきます。

4. 経済的公平と経営の安定を分ける

相続人や関係者への公平を考えることは大切です。ただし、公平を理由に議決権を安易に分散させると、経営の安定が損なわれてしまいます。

経済的な公平は、株式以外の財産、生命保険、代償金、配当優先株式、無議決権株式、自己株式の取得などで調整できることがあります。議決権を誰に集中させるかと、経済的な利益をどう配分するかは、分けて設計すべきです。

5. 承継後の管理体制を整える

経営と支配の設計ができても、承継後の管理体制がなければ安定しません。

  • 後継者が数字を見て判断できる月次決算
  • 資金繰り表と借入一覧
  • 経営計画と予実管理
  • 株主総会・取締役会の議事録
  • 契約書・許認可・重要資料の管理
  • 金融機関への定期的な説明資料

これらは、承継後の会社を守る仕組みです。管理体制を整えることは、後継者を縛ることではありません。後継者が安心して攻めの判断をするための土台になるものです。

やってはいけない事業承継の進め方

経営の承継と支配の承継を分けて考えないと、次のような進め方に陥りがちです。

代表者交代だけを先に進める

社内外への見え方を優先して、先に代表者だけを交代する方法です。後継者の対外的な立場を早くつくれる一方で、株式・議決権の整理が遅れると、後継者が重要事項を決められない状態になってしまいます。

相続対策だけで株式を動かす

税負担や相続対策だけを意識して株式を動かす方法です。税務上は有利に見えても、議決権が分散したり、後継者以外の株主が増えたりすると、承継後の経営が不安定になることがあります。

株式を公平に分けすぎる

相続人間の公平を重視して、株式を均等に分ける方法です。経営に関与しない株主が議決権を持つと、後継者の経営判断に影響が出ることがあります。公平は重要ですが、会社の意思決定を止めない設計が必要です。

現経営者が権限を曖昧に残す

現経営者が株式を持ち続け、後継者に代表権を渡しながら、実質的な意思決定も続ける状態です。短期的には安心に見えますが、後継者の権限や責任、社内外の信頼が曖昧になってしまいます。

種類株式や信託を安易に使う

種類株式、信託、持株会社、株主間契約などは、有効な手段になり得ます。しかし、制度だけを先に選んでしまうと、税務、会社法、将来のM&A、株主間の関係、運用負荷に問題が生じることがあります。手段は、設計思想があって初めて機能します。

事業承継で専門家に相談すべきタイミング

専門家に相談すべきタイミングは、株式を移す直前ではありません。むしろ、次のような段階で相談することにこそ意味があります。

  • 後継者候補はいるが、株式をどこまで渡すべきか分からない
  • 代表者交代を先にするか、株式承継を先にするか迷っている
  • 親族間で株式をどう分けるべきか判断できない
  • 従業員承継を考えているが、株式取得資金が問題になっている
  • 現経営者がどこまで権限を残すべきか整理できない
  • 少数株主や名義株があり、承継やM&Aに支障がないか不安がある
  • 事業承継税制を使う前提でよいのか判断できない
  • M&Aも含めて、親族内承継以外の選択肢を比較したい

この段階で必要なのは、すぐにスキームを決めることではありません。まずは、経営の承継と支配の承継を分けて、現状を見える化することです。そのうえで、税務、会社法、資金繰り、金融機関対応、株主関係、後継者育成をつなげて考えていく必要があります。

事業承継は、税理士だけ、弁護士だけ、金融機関だけ、M&A専門業者だけでは完結しにくいテーマです。会計・税務・財務・会社法・経営管理が交差する領域だからです。

まとめ|後継者に経営を任せることと、会社を支配できる状態にすることは別である

事業承継では、後継者を決めるだけでは足りません。

  • 後継者が経営できる状態をつくること
  • 後継者または承継後の体制が、必要な議決権を持つこと
  • 経済的公平と経営の安定を分けて設計すること
  • 現経営者の関与範囲を明確にすること
  • 株主構成、税務、資金、金融機関対応、管理体制を一体で整えること

これらを整理して初めて、事業承継は現実的な経営判断になります。

経営の承継は、会社を動かす人の問題です。支配の承継は、会社の重要事項を決める権利の問題です。

この二つを混同すると、承継後に「社長なのに決められない」「株主なのに経営できない」「親族間で議決権が割れる」「金融機関や取引先に説明できない」といった状態になりかねません。

事業承継を成功させるためには、誰を後継者にするかだけでなく、その後継者が、どのような数字、権限、株式、支配関係、管理体制のもとで会社を引き継ぐのかを設計する必要があるのです。

経営の承継と支配の承継を整理したい方へ

「後継者に経営を任せたいが、株式をいつ・どこまで移すべきか分からない」「親族内承継、従業員承継、M&Aのどれが現実的なのか比較したい」「株主構成や議決権割合に不安があり、承継後の意思決定が止まらないか確認したい」「事業承継税制や種類株式を検討する前に、会社全体の設計を整理したい」――。

このような場合には、早い段階で「経営の承継」と「支配の承継」を分けて整理しておくことが重要です。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、事業承継を、単なる株式移転や税務対策としてではなく、月次決算、資金繰り、株主構成、金融機関対応、承継後の管理体制までを含めた経営判断として整理します。

まずは、現在の株主構成、後継者候補、会社の数字、資金繰り、承継後の経営体制を見える化するところから、ご相談ください。

詳しくは、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご連絡ください。

振り返り

論点内容実務上の確認ポイント
経営の承継後継者が会社を実際に動かす力を引き継ぐこと代表者交代、社内権限、金融機関対応、月次数字の理解
支配の承継株式・議決権を通じて重要事項を決める力を引き継ぐこと株主構成、議決権割合、定款、種類株式、少数株主
代表者交代経営の承継の一部であり、支配権の承継とは別社長になっても議決権が不足すると重要決定が難しい
株式承継支配の承継の中心論点誰に何株・何%の議決権を持たせるか
所有と経営の一致後継者が経営と議決権を一体で持つ設計意思決定は安定しやすいが、税務・資金・公平性に注意
所有と経営の分離経営者と株主を分ける設計権限・責任・同意事項を明確にしないと混乱しやすい
株式分散複数の親族・少数株主に議決権が分かれる状態相続対策だけで分散させると承継後の意思決定リスクになる
議決権割合会社の重要事項を決めるための基礎過半数、3分の2超、100%などを想定決議から逆算する
後継者以外の株主対応経済的公平と経営の安定を両立する設計無議決権株式、配当優先株式、買取り、生命保険、代償金
現経営者の関与段階的承継では有効だが、権限が曖昧になりやすい何を後継者が決め、何に現経営者が関与するかを明確にする
専門家相談スキーム決定後ではなく、設計段階で行うべき会計・税務・財務・会社法・金融機関対応を一体で整理する
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