創業融資を受けたあと、金融機関との関係は「返済さえしていればよい」で終わるものではありません。
開業後に売上が伸びていく局面では、追加の運転資金が必要になることがあります。設備投資、採用、広告投資、在庫の増加、店舗の増設、システム開発。成長のために、資金が先に出ていく場面は少なくありません。
反対に、売上が計画を下回ったとき、あるいは資金繰りが当初の想定より厳しくなったときには、返済条件や追加資金の相談が必要になることもあります。
そうした場面で金融機関が見ているのは、単に「黒字か赤字か」だけではありません。見られているのは、次のような点です。
- 計画に対して、事業がどう進んでいるのか
- 売上未達の原因は、一時的なものか、それとも構造的なものか
- 利益は出ているのに資金が足りないのは、なぜか
- 借入金を、今後どう返済していくのか
- 追加資金が必要な場合、その使途と返済原資を説明できるか
- 経営者自身が数字を理解し、手を打っているか
これらの問いに答えるために欠かせないのが、金融機関に説明できる月次資料です。
月次資料は、金融機関に提出するためだけのものではありません。経営者が自社の状態を把握し、資金繰りを先読みし、必要な打ち手を判断するための資料です。そうして自社の数字を掴んでいるからこそ、結果として金融機関にも説明しやすくなります。
本記事では、創業初期から整えておきたい月次試算表、資金繰り表、借入一覧、計画差異、事業状況、非財務情報について、その考え方を整理します。
金融機関は「決算書」だけでなく「足元の動き」を見たい
金融機関にとって、決算書はもちろん重要な資料です。
ただし、決算書はあくまで過去1年間の結果にすぎません。創業初期や成長初期の会社では、わずか数か月で事業状況が大きく変わることがあります。
決算時点では赤字でも、直近3か月で売上が伸びている会社があります。逆に、前期の決算は黒字でも、直近では主要取引先の失注、広告費の増加、在庫の膨張、入金の遅れなどによって、資金繰りが悪化している会社もあります。
だからこそ、金融機関に対しては、決算書だけでなく、足元の月次資料で状況を説明できることが大切になります。
銀行の融資審査では、債務者評価、融資案件の事情、資金使途、返済原資、保全面、他行の状況といった段階を追って検討が進みます。その出発点では、事業内容、業績、そして今後の業績見通しを掴むことが重視されます。
ここで見落としたくないのは、金融機関の担当者が、必ずしも自社の事業内容や業界構造を深く理解しているとは限らない、という点です。
事業の中身を十分に理解されないまま数字だけを見られてしまうと、説明の前提そのものがずれてしまいます。だからこそ月次資料では、数字を並べるだけでなく、事業の状況と数字とのつながりを整理して伝える必要があるのです。
金融庁も、地域金融機関に対して、担保や保証に過度に依存せず、企業の事業性評価に基づいて融資を行うこと、そして経営改善や生産性向上といった支援に取り組むことを期待しています。金融機関側に事業性評価の姿勢が求められる一方で、借り手の側も、自社の事業内容、成長可能性、課題、資金使途を説明できる資料を整えておくことが重要になります。
出典:金融庁|地域金融機関に期待される役割
月次資料は「数字の束」ではなく「説明の順番」で整える
金融機関に提出する資料は、多ければよいというものではありません。
月次試算表、総勘定元帳、資金繰り表、借入返済予定表、請求書、売掛金一覧、在庫一覧、契約書、事業計画書。これらをまとめて渡したところで、相手がすぐに状況を理解できるとは限らないのです。
大切なのは、説明の順番です。
- まず、会社全体の損益を見る
- 次に、現金の動きを見る
- そのうえで、借入金と返済予定を見る
- 計画との差異を確認する
- その差異が生じた理由を、事業の実態に照らして説明する
- 今後の見通しと、必要な資金を示す
- 最後に、経営者としてどう対応するかを伝える
この順番で資料を整えていくと、金融機関は「この会社は状況を把握している」「資金が必要な理由が整理されている」「返済原資の説明にも筋が通っている」と受け止めやすくなります。
創業期の金融機関対応では、創業計画書や資金使途の説明が重視されます。これが開業後になると、計画に対する実績と、その差異にどう対応しているかが問われるようになります。銀行や金融機関の融資審査では、直近の試算表、資金繰り表、銀行取引一覧表、事業計画書、納税証明書などが求められることがあります。
金融機関に説明できる月次資料の基本セット
創業初期に、最低限そろえておきたい月次資料は次の6点です。
| 資料 | 役割 | 金融機関が見たいポイント |
|---|---|---|
| 月次試算表 | 損益と財政状態を示す | 売上、粗利、営業利益、経常利益、現預金、売掛金、買掛金、借入金 |
| 資金繰り表 | 入金・支払の見通しを示す | いつ資金が不足するか、なぜ不足するか、返済に耐えられるか |
| 借入一覧表 | 借入条件と返済負担を示す | 金融機関別残高、返済額、利率、保証、担保、返済期限 |
| 計画差異表 | 事業計画と実績の差を示す | 売上、粗利、固定費、利益、資金繰りの未達・超過理由 |
| 事業状況メモ | 数字の背景を説明する | 受注、顧客、商品、店舗、採用、広告、開発、許認可、契約の進捗 |
| 非財務情報 | 数字に表れにくい変化を示す | 主要顧客、商談件数、解約率、在庫回転、採用状況、KPI |
この6点が毎月きちんと更新されていれば、金融機関への説明はもちろん、日々の経営判断にも活きてきます。
逆に、試算表だけ、資金繰り表だけ、事業計画だけがそれぞれバラバラに存在している状態では、説明にどうしても一貫性が出ません。
月次試算表は「早く・正確に・比較できる形」で出す
金融機関に説明する月次資料の中心となるのが、月次試算表です。
ただし、月次試算表は、ただ作成すればそれでよいというものではありません。金融機関への説明に使うのであれば、少なくとも次の条件を満たしておきたいところです。
- 月次で、継続して作成されていること
- 売上、仕入、外注費、在庫、売掛金、買掛金が発生主義で反映されていること
- 預金残高、借入金残高、売掛金残高、買掛金残高が実態と合っていること
- 役員報酬、給与、社会保険料、源泉所得税、消費税、法人税等の未払が反映されていること
- 前月、前年同月、計画との比較ができること
- 大きな増減について、その理由を説明できること
月次決算は、本来、会社の最新の業績をいち早く掴みたい、経営に活かしたいという思いに応えるものです。とはいえ実際には、「月次決算書の作り方が分からない」「どう読みこなせばよいのか分からない」という壁にぶつかりやすいのも事実です。
金融機関に提出する月次試算表では、特に次の項目が重視されます。
売上高
売上高は、単なる金額ではなく、「何によって増減したのか」まで説明できることが大切です。
- 新規顧客が増えたのか
- 既存顧客の単価が上がったのか
- 一時的な大型案件によるものか
- 継続的な売上なのか
- 値引きによってつくった売上なのか
- 請求は済んでいるが、入金は先なのか
創業初期は売上の変動が大きいものです。月次の推移だけでなく、受注状況、契約状況、請求状況、入金予定を合わせて説明すると、金融機関にも状況が伝わりやすくなります。
粗利
金融機関は、売上だけでなく粗利を見ています。
売上が伸びても、原価や外注費がそれ以上に増え、粗利率が下がっていれば、返済原資は増えません。粗利率が低下した場合は、その原因を切り分けて説明します。
- 仕入価格が上がった
- 外注比率が上がった
- 値引きを行った
- 低粗利の商品・サービスの比率が上がった
- 在庫評価や棚卸の影響がある
- 一時的な立ち上げ費用が売上原価に含まれている
営業利益・経常利益
金融機関にとって、返済原資の基本は、本業から生まれる利益です。
銀行は、融資した資金が返ってくることを最低条件として見ています。その返済原資となるのが利益であり、金融機関は事業計画の利益推移を確認しながら、返済の可能性を判断します。
ただし、返済能力を測るうえでは、営業利益だけでなく、減価償却費を加味した簡易的な営業キャッシュ・フローも重要です。減価償却費は現金の支出を伴わない費用ですから、営業利益に減価償却費を足し戻すことで、本業から生まれる返済原資をおおよそ見積もることができます。
貸借対照表
月次試算表では、損益計算書だけでなく貸借対照表も欠かせません。
特に金融機関が目を向けるのは、次の項目です。
- 現預金
- 売掛金
- 棚卸資産
- 前払費用
- 固定資産
- 買掛金
- 未払金
- 未払税金
- 借入金
- 資本金・利益剰余金
損益が正しく計算されていても、貸借対照表が実態とずれていると、資金繰りの説明がとたんに難しくなります。次のような点を、あらためて確認しておきましょう。
- 売掛金が滞留していないか
- 在庫が過大になっていないか
- 買掛金や未払金を見落としていないか
- 税金や社会保険料の未払が残っていないか
- 借入金残高が返済予定表と一致しているか
こうした確認を経て、はじめて金融機関に説明できる月次試算表になります。
資金繰り表は「過去実績」と「将来予定」を分けて作る
月次試算表だけでは、資金繰りを説明することはできません。
利益が出ていても、入金が遅れれば資金は不足します。在庫が増えれば、その分だけ資金は固定化されます。借入の返済や税金の支払いは、損益計算書からは見えにくい資金の流出です。
利益計画だけでは、資金繰りは掴みきれません。掛け取引では、売上を計上してから入金までに時間差があります。利益は出ていても資金の回収が間に合わず、いわゆる黒字倒産が起こり得るのです。
金融機関に説明する資金繰り表では、少なくとも次のような構成にしておきたいところです。
- 過去3か月から6か月の実績
- 今月以降、3か月から6か月の予定
- できれば12か月の見通し
- 月初現預金、入金、支払、借入、返済、月末現預金の流れ
- 売上の入金と、売上計上とのズレ
- 仕入・外注費の支払予定
- 税金、社会保険料、源泉所得税、消費税の支払予定
- 設備投資、補助金、借入実行、借入返済の予定
月次でキャッシュ・フローを作るとき、直接法は入金と出金を直接とらえるため、資金の流れが分かりやすく、金融機関が求める資金繰り表とも構造が近くなります。一方、間接法は貸借対照表の変動から作成するため、売上債権、棚卸資産、仕入債務の増減処理でミスが起きやすい点には注意が必要です。
資金繰り表で必ず説明したいこと
金融機関が資金繰り表を見るとき、知りたいのは次のような点です。
- 資金不足がいつ起きるのか
- 不足額はいくらか
- 不足の原因は、売上未達か、売掛金の増加か、在庫の増加か、設備投資か、税金の支払いか、借入の返済か
- 追加資金を入れた場合、それを何に使うのか
- その資金は、いつ回収されるのか
- 返済原資は、本業の利益から生まれるのか
- 資金繰りを改善する対策を、経営者が持っているか
「資金が足りないので貸してください」ではなく、「売上の増加に伴って売掛金と在庫が増え、入金まで2か月の資金ギャップが生じているため、運転資金として○○万円が必要です。その回収は○月以降の入金で見込んでいます」——ここまで説明できる状態が望ましいといえます。
借入一覧表は金融機関別・条件別に整理する
複数の借入がある場合、借入一覧表は欠かせません。
金融機関は、自行の貸出だけでなく、会社全体の借入状況を見ています。
借入一覧表には、次の項目を入れておきます。
- 金融機関名
- 融資制度名
- 当初借入額
- 借入日
- 最終返済日
- 現在残高
- 月次返済額
- 返済方法
- 利率
- 保証協会の有無
- 担保の有無
- 経営者保証の有無
- 資金使途
- 返済原資
- 次回の条件変更・更新時期
- 備考
借入金は、月初残高、借入実行、返済、月末残高という形で管理しておくと、試算表、資金繰り表、返済予定表との整合性が取りやすくなります。利率は年利で設定されるため、月次で見るときは12か月で割って支払利息を見積もる必要があります。
借入一覧表で気をつけたいのは、返済負担を月次で見えるようにしておくことです。
年額の返済額しか把握していないと、資金繰り表に反映しづらくなります。毎月の元本返済、利息の支払い、ボーナス返済の有無を確認したうえで、資金繰り表に組み込んでいきます。
借入一覧表で説明すべきポイント
金融機関に対しては、単に残高を示すだけでなく、次の点を説明できるようにしておきます。
- 借入金を、何に使ったか
- 当初の資金使途どおりに使われているか
- 返済は予定どおり進んでいるか
- 返済負担は、営業キャッシュ・フローに対して過大になっていないか
- 追加借入を行う場合、既存の借入と合わせて返済していけるか
- 他行の借入との関係で、資金調達の余力はあるか
借入金の一覧が整理されていない会社は、金融機関から見て、資金管理の面で不安を持たれやすくなります。
計画差異表は「未達の言い訳」ではなく「経営管理の証拠」
創業時につくった事業計画は、実績とずれてくるものです。
むしろ、創業初期に計画どおりぴったり進むことのほうが珍しいかもしれません。
問題は、ずれたこと自体ではありません。大切なのは、次の点です。
- 計画との差異を把握しているか
- その差異の原因を説明できるか
- 対応策を打っているか
- 今後の見通しを更新しているか
事業計画の進捗を説明するときには、前回記載した事項の達成状況、経営指標や利益計画の達成状況、更新した内容を示し、計画値・目標値と実績値を丁寧に比較することが求められます。事業環境が変わり、当初想定していた成長が見込めなくなった場合には、戦略をどう変えるかまで説明できることが望まれます。
金融機関向けの計画差異表では、次のように項目を整理していきます。
| 項目 | 計画 | 実績 | 差異 | 主な原因 | 対応策 | 今後の見通し |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,000万円 | 820万円 | △180万円 | 主要案件の検収が翌月へずれた | 検収条件を再確認し、請求タイミングを前倒し | 翌月に120万円計上予定 |
| 粗利率 | 55% | 48% | △7pt | 外注比率の上昇 | 内製化範囲を見直し、外注単価を再交渉 | 3か月後に52%へ改善見込み |
| 固定費 | 500万円 | 560万円 | △60万円 | 採用費・広告費が先行 | 採用チャネルを見直し、広告費を成果連動に変更 | 来月以降は月520万円へ抑制 |
| 営業利益 | 80万円 | △20万円 | △100万円 | 売上未達と粗利率低下 | 高粗利案件を優先、低粗利案件の条件見直し | 2か月後に黒字回復見込み |
| 月末資金 | 700万円 | 430万円 | △270万円 | 入金遅延と在庫増加 | 回収管理、在庫発注基準の見直し | 追加資金需要200万円 |
計画差異表は、金融機関への説明資料であると同時に、経営者自身の管理資料でもあります。
「計画未達でした」で止めるのではなく、「未達の原因は何か」「それは一時的か、構造的か」「何を変えるのか」まで整理しておく。ここまで踏み込めると、資料の意味が大きく変わってきます。
事業状況メモは、数字の背景を伝えるために必要
月次試算表や資金繰り表は、あくまで数字の資料です。
しかし、金融機関が本当に知りたいのは、その数字の背景にあるものです。
たとえば売上が増えている場合でも、その理由が新規顧客の獲得なのか、既存顧客からの一時的な大型発注なのか、あるいは値引きによる受注なのかで、評価は変わってきます。
売上が減っている場合も同じです。主要案件の検収が遅れているのか、競合に奪われたのか、顧客の需要そのものが減ったのか、それとも経営者が意図的に低粗利案件を減らしたのか。理由によって、説明はまったく違うものになります。
事業状況メモには、次のような内容を簡潔に整理しておきます。
- 主要な受注・失注
- 主要顧客の動き
- 新規商談の件数
- 契約の更新状況
- 解約・クレームの状況
- 商品・サービス別の動き
- 店舗・部門別の動き
- 採用・退職・人員体制
- 広告・マーケティング施策
- 開発・設備投資の進捗
- 許認可・行政手続の進捗
- 補助金・助成金の申請状況
- 仕入・外注先の変化
- リスクとその対応策
事業状況メモは、長文である必要はありません。
むしろ、A4で1ページ程度にまとめ、数字とのつながりが見える形にしておくことが大切です。
非財務情報は、創業初期ほど説明価値が高い
創業初期の会社では、決算書や月次試算表だけでは、事業の将来性を十分に示しきれないことがあります。
まだ利益が出ていなくても、受注残、商談件数、継続率、利用者数、問い合わせ件数、店舗の来客数、稼働率、採用状況、開発の進捗などに、改善の兆しが表れていることがあります。
こうした情報を、非財務情報として整理していきます。たとえば、次のような指標です。
- BtoBサービスであれば、商談件数、受注率、平均単価、契約継続率、解約率
- ECであれば、アクセス数、購入率、平均購入単価、リピート率、返品率、在庫回転
- 店舗型事業であれば、来店客数、客単価、予約率、稼働率、曜日別売上
- SaaSであれば、MRR、ARR、チャーンレート、顧客獲得単価、LTV
- 製造・卸売であれば、受注残、出荷数量、納期遅延、在庫回転、主要取引先別売上
- 士業・コンサルティング業であれば、問い合わせ件数、面談件数、成約率、継続契約数、稼働時間
非財務情報は、数字の良い面だけを見せるための資料ではありません。
金融機関からの信頼を得るには、課題も含めて説明することが大切です。たとえば、商談件数は増えているが受注率は下がっている。利用者数は増えているが解約率も上がっている。来客数は増えているが客単価は下がっている。こうした課題をきちんと把握し、改善策を持っていること。それ自体が、経営管理能力の何よりの説明になります。
金融機関に提出する資料は「整合性」が重要
金融機関への説明で、最も避けたいのは、資料同士の数字が合っていないことです。
- 月次試算表の現預金残高と、資金繰り表の月末残高が合わない
- 借入一覧表の借入残高と、試算表の借入金残高が合わない
- 売掛金一覧の合計と、試算表の売掛金残高が合わない
- 資金繰り表の売上入金と、請求書・入金明細がつながらない
- 事業計画の売上と、月次試算表の売上分類が違っている
- 消費税・源泉所得税・社会保険料の支払予定が、資金繰り表に入っていない
こうした不整合は、一見すると単なる表計算上のミスに見えるかもしれません。しかし金融機関から見ると、「資金管理ができていない」「経営者が数字を把握していない」と受け止められかねないのです。
月次資料は、次のように突き合わせて整合させていきます。
| 照合対象 | 合わせるべき資料 |
|---|---|
| 現預金残高 | 月次試算表、通帳残高、資金繰り表 |
| 売掛金残高 | 月次試算表、売掛金一覧、請求書一覧 |
| 買掛金残高 | 月次試算表、買掛金一覧、請求書・支払予定 |
| 在庫残高 | 月次試算表、在庫表、棚卸資料 |
| 借入金残高 | 月次試算表、借入一覧表、返済予定表 |
| 売上高 | 月次試算表、請求書、販売管理資料、計画差異表 |
| 税金・社会保険料 | 未払計上、納付書、資金繰り表 |
| 設備投資 | 固定資産台帳、請求書、資金繰り表、借入使途 |
資料の整合性は、専門家が関与する価値の出やすい領域です。
試算表を作るだけでなく、金融機関に説明できる形に整えるには、会計処理、資金繰り、税務、融資実務——それぞれの視点をつなぎ合わせる必要があります。
税務・証憑保存との関係も切り離せない
金融機関向けの月次資料は、税務資料や証憑管理ともつながっています。
月次試算表の根拠となるのは、請求書、領収書、契約書、注文書、納品書、検収書、通帳、カード明細、給与台帳、借入契約書、返済予定表といった書類です。
法人は、帳簿を備え付けて取引を記録し、その帳簿と、取引に関して作成または受領した書類を、原則として確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存する必要があります。青色繰越欠損金が生じた事業年度などでは、10年間の保存となる場合があります。
出典:国税庁|No.5930 帳簿書類等の保存期間
また、電子帳簿保存法は、税務関係の帳簿書類をデータで保存できるようにする制度であると同時に、取引情報を含む電子データをやり取りした場合の保存義務や保存方法を定めています。
出典:国税庁|電子帳簿等保存制度特設サイト
金融機関向けの月次資料も、根拠となる資料を後からたどれる状態でなければ、信頼性は下がってしまいます。
たとえば「売上が伸びています」と説明しても、契約書、注文書、請求書、入金予定表が整理されていなければ、資金繰りの見通しとしては弱くなります。
「在庫を増やしたので資金が必要です」と説明する場合も同じです。在庫表、仕入請求書、販売見込、在庫回転の資料がなければ、金融機関は、それが過剰在庫なのか、それとも成長のための投資なのかを判断しにくくなります。
月次資料は、証憑と結びついてはじめて、説明する力を持つのです。
中小企業の会計は、外部への説明にも使われる
中小企業の会計は、上場企業の開示会計とは異なります。
とはいえ、外部に説明する必要がないわけではありません。
中小企業庁は、中小会計要領について、経理の人員が少なく、高度な会計処理に対応できる十分な能力や体制を持っていない中小企業の実態を踏まえた会計ルールである、と説明しています。あわせて、中小企業であっても会計情報の開示を求められる相手として、取引先、金融機関、同族株主、税務当局などを挙げています。
出典:中小企業庁|中小会計要領について
この点は、創業初期においても大切になります。
「まだ小さい会社だから、会計は申告のときにまとめればいい」と考えていると、いざ金融機関に説明すべきタイミングで、資料が整っていないという事態になりかねません。
- 創業後に、追加融資を受けたい
- 設備投資をしたい
- 店舗を増やしたい
- 採用を進めたい
- 資金繰りの相談をしたい
- 主要取引先に信用を示したい
- 共同創業者や株主に、状況を共有したい
- 将来の法人成り、承継、M&Aを見据えたい
こうした場面では、月次で説明できる会計資料があるかどうかが、意思決定の質そのものに直結します。
金融機関へ報告するタイミング
金融機関への月次報告は、必ず毎月提出しなければならないというものではありません。金融機関との関係、借入の状況、業況、資金需要によって変わってきます。
ただし、次のような場面では、月次資料を整えておく必要性が高まります。
- 創業融資を受けたあと、計画の進捗を説明したいとき
- 追加融資を検討しているとき
- 設備投資を予定しているとき
- 売上が急増し、運転資金が必要になったとき
- 主要得意先の入金サイトが長くなったとき
- 売上が計画未達となったとき
- 資金繰りが、予想より厳しくなったとき
- 税金・社会保険料・借入返済が重なるとき
- 金融機関から試算表の提出を求められたとき
- 保証協会付き融資や制度融資を検討するとき
金融機関との信頼関係は、資金が足りなくなってから急にできあがるものではありません。
平時から月次資料を整え、必要なタイミングで説明できる状態にしておく。この積み重ねが、いざというときの支えになります。
月次資料の提出時に添えるべき説明
金融機関へ資料を提出するときは、資料だけを送るのではなく、要点を短く整理した説明を添えると効果的です。
たとえば、次のような構成が考えられます。
- 当月の全体状況
- 売上・粗利・利益の計画差異
- 資金繰りの状況
- 借入返済の状況
- 主要な事業トピック
- 今後3か月の見通し
- 相談したい事項
金融機関の担当者は、社内で稟議や報告を行う立場でもあります。経営者があらかじめ整理した説明は、担当者が社内で会社の状況を伝える際にも役立ちます。
説明例
今月の売上は、計画1,200万円に対して実績1,050万円となり、150万円の未達でした。主な原因は、A社向け案件の検収が翌月にずれたことによるもので、当該案件は翌月の売上として計上する予定です。一方で粗利率は、計画52%に対して実績54%となり、低粗利案件を抑制した効果が表れています。
資金繰りについては、売掛金の入金が翌月へずれた影響から、月末の現預金残高は計画600万円に対して実績420万円となりました。翌月にはA社からの入金250万円を見込んでいますが、同時に広告費、社会保険料、借入返済が重なるため、3か月の資金繰り表では、一時的に200万円程度の運転資金不足が見込まれます。
追加資金が必要となる場合、その主因は受注増加に伴う売掛金の増加と、広告投資の前倒しであり、赤字の補填ではありません。今後3か月の受注見込と入金予定を添付いたしますので、あわせてご確認いただけますと幸いです。
このように、数字、原因、今後の見通し、相談事項をひとまとまりにして伝えることが大切です。
金融機関に説明できない月次資料の典型例
次のような月次資料は、金融機関への説明には使いにくくなります。
- 試算表の作成が、数か月遅れている
- 預金残高が、通帳と合っていない
- 売掛金残高の内訳が分からない
- 買掛金や未払金が計上されていない
- 在庫が、実地棚卸と合っていない
- 借入金残高が、返済予定表と合っていない
- 役員貸付金・役員借入金の内容を説明できない
- 税金や社会保険料の未払が、資金繰り表に入っていない
- 消費税の納税見込が考慮されていない
- 資金繰り表が、現預金残高とつながっていない
- 事業計画と実績の比較がない
- 売上未達の原因説明が、感覚的である
- 追加融資の資金使途が曖昧である
これらは、単なる資料作成の問題ではありません。
経営管理、税務、資金繰り、金融機関対応が、うまくつながっていない状態を映し出しています。創業初期の段階でこの状態を放置してしまうと、追加融資や設備投資を相談する場面で、説明に苦労することになります。
月次資料を整える実務フロー
金融機関に説明できる月次資料をつくるには、毎月の流れをあらかじめ決めておくことが大切です。
月初から5営業日程度
前月の請求書発行状況、入金状況、支払状況、通帳・カード明細、給与資料、現金精算、領収書・請求書を集めます。
そのうえで、売上計上、仕入・外注費、給与、社会保険料、未払金、前払費用、固定資産、借入金返済を、会計ソフトへ反映していきます。
月初から10営業日程度
月次試算表を作成し、預金残高、売掛金、買掛金、在庫、借入金、未払税金を確認します。
大きな増減や異常値、未処理の項目がないかを見て、必要に応じて修正します。
月中
資金繰り表を更新し、今後3か月から6か月の入金・支払予定を確認します。
売掛金の回収予定、買掛金・未払金の支払予定、税金・社会保険料、借入返済、設備投資予定を反映していきます。
月次レビュー
経営者、経理担当者、税理士・会計士が、月次試算表、資金繰り表、計画差異、事業状況を確認します。
この段階で、金融機関へ説明すべき事項があるかどうかを判断します。
金融機関報告
必要に応じて、月次試算表、資金繰り表、借入一覧、計画差異表、事業状況メモを提出します。
単に資料を送るだけでなく、要点を整理したコメントを添えることを忘れないようにします。
相談前に整理しておきたい事項
金融機関向けの月次資料の整備について専門家に相談する際は、次の情報を整理しておくと、具体的な設計がしやすくなります。
- 現在の借入先
- 借入残高、返済予定、利率、保証協会の有無
- 創業融資時に提出した創業計画書
- 直近の月次試算表
- 直近の資金繰り表
- 売掛金一覧
- 買掛金・未払金一覧
- 在庫一覧
- 固定資産・設備投資予定
- 主要取引先と入金サイト
- 主要仕入先・外注先と支払サイト
- 今後3か月から6か月の資金需要
- 追加融資や設備投資の予定
- 金融機関へ相談したい内容
- 経営者が毎月確認したい指標
- 会計ソフト、請求書発行システム、販売管理システムの利用状況
これらが整理されていれば、月次資料を「会計事務所が作る資料」ではなく、「経営者が金融機関に説明できる資料」へと近づけていくことができます。
犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について
金融機関に説明できる月次資料は、資金が必要になってから急いで作るものではありません。
月次試算表、資金繰り表、借入一覧、計画差異表、事業状況メモ、非財務情報を毎月整えておくことで、経営者自身が早い段階で異常に気づけるようになり、必要なタイミングで金融機関に相談しやすくなります。
- 創業融資後、金融機関へどのような資料を出せばよいか分からない
- 試算表はあるが、資金繰りや借入返済とつながっていない
- 追加融資を検討しているが、資金使途と返済原資の説明に不安がある
- 計画と実績の差異を、どう説明すべきか整理したい
- 会計ソフトの数字を、金融機関向けの月次資料に落とし込みたい
こうした場合には、単なる記帳や申告だけでなく、月次決算と金融機関への説明を一体で設計していく必要があります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、創業・開業・法人化の初期段階から、月次決算、資金繰り表、借入一覧、計画差異、そして金融機関向けの説明資料の整備までを支援しています。
創業後の数字を、金融機関に説明できる状態に整えていきたい方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。
この記事の振り返り
| 重要項目 | 整える資料 | 確認すべきポイント |
|---|---|---|
| 月次試算表 | 損益計算書・貸借対照表 | 売上、粗利、利益、現預金、売掛金、買掛金、借入金が実態と合っているか |
| 資金繰り表 | 実績資金繰り・予定資金繰り | いつ、なぜ、いくら資金が不足するかを説明できるか |
| 借入一覧表 | 金融機関別借入一覧 | 残高、返済額、利率、保証、担保、資金使途、返済原資を整理しているか |
| 計画差異表 | 計画対実績比較 | 売上、粗利、固定費、利益、資金の差異理由と対応策を示せるか |
| 事業状況メモ | 月次トピック整理 | 受注、失注、商談、採用、広告、開発、設備投資など数字の背景を説明できるか |
| 非財務情報 | KPI・事業指標 | 利用者数、商談件数、解約率、稼働率、在庫回転など、事業の先行指標を示せるか |
| 資料の整合性 | 試算表・資金繰り表・借入一覧・売掛金一覧 | 資料間で残高や入出金が一致しているか |
| 証憑管理 | 請求書・契約書・通帳・領収書等 | 月次資料の根拠を後から確認できるか |
| 金融機関への説明 | 要点メモ・報告コメント | 数字、原因、見通し、対応策、相談事項を簡潔に伝えられるか |
| 専門家相談 | 月次決算・資金繰り・金融機関対応の設計 | 記帳だけでなく、経営判断と対外説明に使える資料設計になっているか |