利益と資金繰りはなぜズレるのか|黒字なのにお金が足りない理由と資金調達前に見るべき数字

「決算書では黒字なのに、なぜか手元資金が増えない」 「売上も利益も出ているはずなのに、月末の支払いになると資金繰りが苦しくなる」 「金融機関には黒字決算を説明しているのに、追加融資の相談では資金不足の理由をうまく説明できない」

こうしたお悩みは、決して珍しいものではありません。

会社の経営において、利益が出ていることと、資金が残っていることは、同じではありません。利益は会計上の収益と費用の差額であり、資金繰りは実際の入金と支払いの流れです。

この違いを意識しないまま資金調達を進めてしまうと、借入の必要額や返済期間、返済原資、投資判断を、どこかで見誤りやすくなります。

資金調達で本当に大切なのは、「利益が出ているのだから返せるはずだ」と考えることではありません。その利益が、いつ、どのように現金へと姿を変え、借入返済や投資資金に充てられていくのか。そこを確認することです。

掛取引では、売上を計上するタイミングと、実際に入金されるタイミングがずれます。利益は資金の出入りとは切り離して、収益と費用の差額で計算されます。ですから、利益が計上されていても資金の回収が間に合わなければ、いわゆる黒字倒産も起こり得ます。利益計画だけでなく資金計画が欠かせない理由は、まさにここにあります。

この記事では、利益と資金繰りがなぜズレるのかを、資金調達・月次決算・金融機関への説明にそのまま使える形で整理していきます。

目次

利益と資金繰りは、見ているものが違う

まず押さえておきたいのは、利益と資金繰りは、そもそも見ている対象そのものが違う、という点です。

利益は、損益計算書で把握します。資金繰りは、現預金の入出金で把握します。

損益計算書は、一定期間の経営成績を示す資料です。売上高などの収益から、仕入、人件費、経費といった費用を差し引いて、利益を導き出します。売上総利益、営業利益、経常利益と、段階ごとの利益をたどることで、本業や経常的な経営活動の状態が見えてきます。

一方、資金繰りで見るのは、会社のお金がいつ入り、いつ出ていくか、です。

売上が発生したかどうかではなく、入金されたか。仕入を計上したかどうかではなく、支払ったか。利益が出たかどうかではなく、借入返済を終えたあとに現金が残っているか。

この違いを整理すると、次のようになります。

区分利益資金繰り
見る資料損益計算書、月次試算表資金繰り表、現預金残高、入出金予定
見る対象収益と費用入金と支払い
判断すること採算性、収益力支払能力、手元資金、資金不足時期
ズレの原因発生主義、減価償却、在庫、未収未払など回収サイト、支払サイト、借入返済、投資支出など
資金調達上の意味返済原資の基礎実際に返済できるタイミングと余力

会社が資金調達を検討する際には、利益と資金繰りの両方に目を向ける必要があります。

利益が出ていなければ、返済原資は弱くなります。けれども、利益が出ていても、それが資金になっていなければ、返済はできません。

この両面をつなげて考えることが、資金調達における財務設計の出発点になります。

利益は「発生」で見て、資金繰りは「入出金」で見る

利益と資金繰りがズレる最大の理由は、会計が発生主義を基本にしていることにあります。

発生主義とは、現金の入出金があった時点ではなく、取引が発生した時点で収益や費用を認識する考え方です。

たとえば、商品を販売して請求書を発行すれば、入金が翌月や翌々月であっても、会計上はその時点で売上を計上します。反対に、仕入や外注費についても、支払いがまだであっても、費用として認識することがあります。

この仕組みがあるおかげで、損益計算書は会社の経営成績を適切に表しやすくなります。ただ、資金繰りを見るときには、少し注意が必要です。

売上を計上していても、まだ入金されていなければ、現金は増えていません。費用を計上していなくても、先に支払いが出ていれば、現金は減ります。利益が出ていても、入金が遅れれば、支払いに回せる資金は足りなくなります。

ですから月次決算では、損益計算書だけでなく、売掛金、在庫、買掛金、借入金、現預金残高をあわせて見ていくことが欠かせません。

中小企業が会計を経営に活かしていくうえでも、資金繰りを安定させる出発点は、現預金出納帳や債権管理、債務管理、在庫管理、3か月資金繰り表といった基本を整えることにあります。そのうえで、発生主義への移行、月次実地棚卸、翌月10日までの月次決算、資金計画管理へと段階的に進んでいく。これが実務上の一つの型といえます。

発生主義で利益を把握し、資金繰り表で入出金を把握する。この両方がそろって初めて、資金調達に必要な数字が見えてきます。

売掛金が増えると、利益は出てもお金は残らない

利益と資金繰りがズレる代表的な原因が、売掛金です。

売掛金とは、売上は計上しているものの、まだ入金されていない債権のことです。

売上が増えること自体は、通常は望ましいことでしょう。しかし、売上が増えた分だけ売掛金も増えているとすれば、その分の現金はまだ会社に入ってきていません。

たとえば、売上が増え、損益計算書上は黒字になっている。けれども入金は数か月先で、それまでに仕入代金、外注費、人件費、家賃、税金を支払わなければならない。このとき、会社は黒字でも資金不足に陥ります。

資金調達の場面では、金融機関に「売上が増えているので大丈夫です」と説明するだけでは、十分とはいえません。

売上のうち、どのくらいが売掛金として残っているのか。回収サイトは何日か。回収の遅れは出ていないか。売掛金の増加は一時的なものか、それとも構造的なものか。売掛金が資金繰りに与えている影響はいくらか。

ここまで説明できることが求められます。

貸借対照表では、売掛金などの売上債権は流動資産に含まれます。流動資産は、近い将来に現金へ変わるはずの資産です。ただ、現金預金の多寡だけで会社を判断するのは危うく、受取手形や売掛金が多い会社には、やはり注意が必要です。

売掛金は、将来現金になる可能性のある資産です。けれども、今すぐ支払いに使える現金ではありません。

この違いを取り違えると、売上が伸びている局面ほど、資金繰りを読み誤ることになります。

在庫が増えると、資金は商品や材料に固定される

在庫もまた、利益と資金繰りをズラす大きな要因です。

在庫は、会計上は棚卸資産として貸借対照表に計上されます。仕入れた商品や材料がまだ販売されていない場合、その支出はすぐに費用とはならず、資産として残ります。そのため損益計算書だけを眺めていると、仕入れに使った資金の負担が見えにくくなることがあります。

在庫が増えている会社では、次のようなことが起きています。

商品を仕入れる。仕入代金を支払う。しかし、商品はまだ売れていない。売れたとしても、入金はさらに先になる。会計上は在庫として残るため、費用にはならず、利益は悪化しにくい。その一方で、現金はすでに出ている。

この結果、利益は出ているのに資金が足りない、という状態が生まれます。

棚卸資産とは、将来の販売を通じて短期的に資金へと姿を変えるまで、企業が手元に保有している資産です。在庫は、実際の品物や数量を指すことが多く、それを金額として会計上把握したものが棚卸資産だと考えると、イメージしやすいかもしれません。

ここで大切なのは、在庫は「売れれば資金になる」けれども、「売れるまでは資金を寝かせている」という点です。

さらに、在庫には次のようなリスクが伴います。

  • 売れ残る
  • 値引き販売になる
  • 陳腐化する
  • 保管コストがかかる
  • 資金化まで時間がかかる
  • 評価損の計上が必要になることがある

売上を増やそうと在庫を積み増したつもりでも、販売計画や回収計画と噛み合っていなければ、かえって資金繰りを圧迫してしまいます。

金融機関に対しても、在庫の増加については説明が必要になります。

なぜ在庫が増えたのか。販売の見込みはあるのか。滞留在庫はないのか。仕入資金として短期借入が必要なのか。それとも、恒常的な在庫水準として正常運転資金に含めるべきものなのか。在庫の削減によって、資金繰りを改善できる余地はないのか。

在庫は、利益だけを見ていてはなかなか気づけない、資金の滞留です。資金調達を検討する前に、在庫の中身と回転状況を確認しておく必要があります。

買掛金・未払金は、利益と資金繰りを一時的に支えることがある

売掛金や在庫とは逆に、買掛金や未払金は、一時的に資金繰りを支えてくれることがあります。

買掛金とは、仕入や外注などの費用は発生しているものの、まだ支払っていない債務です。未払金や未払費用も、すでに発生しているけれど、支払いが後になる債務を指します。

支払いが後になるということは、その分だけ手元資金が一時的に残るということです。ただ、これは利益が増えているわけではありません。単に、支払いを後ろにずらしているだけです。

買掛金や未払金が増えている会社では、次の点を確認しておきたいところです。

  • 通常の支払サイトによる増加か
  • 売上増加に伴う自然な増加か
  • 支払いを先送りしているだけか
  • 税金や社会保険料の未払いが含まれていないか
  • 資金繰り悪化の兆候ではないか
  • 取引先の信用に影響しないか

資金繰り表では、買掛金や未払金の支払予定を、必ず反映しておく必要があります。損益計算書上ではすでに費用として計上されていても、実際の支払いはこれからだからです。その支払時期を見誤ると、資金ショートにつながりかねません。

資金繰り管理においては、債権管理だけでなく、債務管理も同じくらい大切です。資金繰りを安定させるための柱として、債権管理、債務管理、在庫管理、そして3か月資金繰り表が並ぶのは、こうした理由からです。

買掛金や未払金は、資金繰りの上で猶予を生んでくれます。けれども、返済原資そのものを生み出すわけではありません。ですから、買掛金や未払金の増加によって一時的に資金が残っているときほど、「本当に資金繰りが安定しているのか」を、慎重に見極める必要があります。

減価償却費は費用だが、その月にお金は出ていない

減価償却費も、利益と資金繰りを理解するうえで大切なポイントです。

設備や建物、車両、機械装置などを購入したとき、その取得価額を一度に費用とするのではなく、使用期間に応じて費用へ配分していくのが減価償却です。

減価償却費は、損益計算書上の費用です。しかし、減価償却費を計上する月に、同じ金額の現金支出があるわけではありません。現金が出ていくのは、設備を購入した時点や、借入を返済する時点です。減価償却費は、そのあとに会計上で行われる費用配分にすぎません。

このため、利益と資金繰りには、次のようなズレが生じます。

設備を取得した時点では、多額の資金が出ていくが、費用は一度には出ない。その後、減価償却費は毎月計上されるが、その時点で同額の現金支出があるわけではない。一方で、設備資金を借入で調達した場合、元金の返済は損益計算書の費用にはならない。

ここを混同してしまうと、返済できるかどうかの判断を誤ってしまいます。

設備投資の資金調達では、減価償却費を念頭に置きながら、営業利益、税金、借入返済、設備の投資効果をあわせて見ていく必要があります。

固定資産には、有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産などがあり、いずれもビジネスの基盤となる資産です。ただ、固定資産は短期的に現金化しにくいため、資金繰りや財務の安全性を考えるうえでは、流動資産とは別の見方が求められます。

減価償却費は、会計上の利益を減らします。けれども、その月の資金支出ではありません。だからこそ金融機関は、返済原資を見るときに、利益だけでなく、減価償却費やキャッシュ・フローもあわせて確認するのです。

借入返済は、利益計算には出てこない

利益と資金繰りのズレのなかで、経営者の方に特に注意していただきたいのが、借入返済です。

借入金を返済すれば、現金は減ります。しかし、元金の返済は損益計算書の費用ではありません。利息は費用になります。けれども元金の返済は費用ではなく、貸借対照表上の負債が減る取引です。

つまり、損益計算書で黒字であっても、借入返済を終えたあとに資金が残るとは限らないのです。

たとえば、月次で営業利益は出ている。しかし、その利益額を上回る元金返済が毎月ある。さらに、税金や設備投資、人件費の増加も重なる。このとき、会計上は黒字でも、資金繰りは苦しくなります。

資金調達の判断では、「利益が出ているか」だけでなく、「借入返済後に資金が残るか」を確認しなければなりません。

銀行融資の審査では、債務者の評価、融資案件の事情、資金使途・融資形態・返済原資、保全、他行の状況や資金調達の余力といった点が確認されていきます。なかでも返済原資は審査の中心となる論点であり、単に黒字かどうかだけで判断されるものではありません。

借入返済を資金繰り表に反映していないと、返済できるかどうかを、実態より楽観的に見てしまいます。資金調達を考える際には、既存借入の返済予定を一覧にし、新規借入も含めた返済後の資金残高を確認しておくことが欠かせません。

税金の支払いも、利益と資金繰りをズラす

利益が出れば、その分、税金の支払いが発生します。

法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税、消費税、固定資産税、源泉所得税、社会保険料など、会社にはさまざまな納付があります。損益計算書上の利益を見ていても、納税資金を別に確保していなければ、資金繰りは苦しくなります。

特に注意したいのは、次のような場面です。

  • 利益は出ているが、売掛金が回収されていない
  • 消費税の納税時期に資金が不足する
  • 中間納付や予定納税を見込んでいない
  • 賞与、納税、借入返済が同じ時期に重なる
  • 設備投資のあとで手元資金が薄くなっている
  • 補助金の入金前に、自己資金で支払いを済ませている

税金は、利益が出たあとに支払うものが多いため、資金繰り上は遅れて、大きな支出として表れます。だからこそ、月次決算で利益を把握するだけでなく、決算の見込みと納税の見込みを資金繰り表に反映しておく必要があります。

正確な月次決算を毎月積み重ねていくと、決算の数か月前から着地点を予想できるようになり、赤字や黒字の見込みに応じた対策を立てやすくなります。月次決算は、経営者が数字から会社の現状をつかみ、予算との対比をとおして次の一手を打つための仕組みでもあります。

税金の支払いは、利益と資金繰りをつなげて見ておかないと、見落としやすい支出です。

設備投資は、利益より先に資金が出ていく

設備投資もまた、利益と資金繰りのズレを大きくします。

設備投資では、まず資金が出ていきます。そのあとに設備が稼働し、売上の増加やコストの削減という効果が出て、ようやく利益やキャッシュ・フローに反映されます。つまり、投資の効果が表れる前に、資金支出や借入返済が始まることがあるのです。

設備投資で起きやすいズレは、次のとおりです。

  • 取得時に多額の資金支出がある
  • 損益計算書では減価償却費として少しずつ費用化される
  • 借入返済は損益計算書に費用として出ない
  • 投資効果が出るまで時間がかかる
  • 稼働率が計画を下回ると返済原資が不足する
  • 補助金が後払いの場合、入金まで立替資金が必要になる

設備投資を行うときには、「投資によって利益が出る見込みがあるか」だけでは足りません。

いつ資金が出るのか。いつ売上やコスト削減の効果が出るのか。借入返済はいつから始まるのか。減価償却費と返済額の関係はどうなっているか。投資効果が遅れた場合に、手元資金は持ちこたえられるのか。設備資金は短期ではなく、長期資金で調達すべきではないか。

こうした論点を、資金繰り表と投資計画にきちんと織り込んでおく必要があります。

企業金融においては、企業活動に必要な資金を、その資金使途の性格や、短期か長期か、リスクの大きさなどに応じて、どこから、どのような手段で調達するかが重要な課題になります。設備投資は多額の資金を必要とするだけに、資金使途と調達方法の整合性が、とりわけ問われます。

設備投資は、損益計算書だけでは判断できません。資金繰り、返済原資、投資回収を、一体として見ていく必要があります。

売上増加は、資金繰りを楽にするとは限らない

売上が増えれば、資金繰りも楽になる。そう考えたくなりますが、必ずしもそうとは限りません。

売上の増加は、むしろ資金繰りを苦しくすることがあります。売上が伸びるのに先立って、仕入、外注費、人件費、在庫、広告費といった支出が増えるからです。

特に掛取引の会社では、次のような流れになります。

受注が増える。仕入や外注、人件費が先に増える。在庫や仕掛品が増える。そして売上を計上する。入金は後日になる。その間、支払いだけが先行する。

この結果、売上は増えているのに資金繰りが苦しくなる、いわゆる「増加運転資金」の問題が生じます。

このとき、資金調達は成長のために必要なものになります。ただし、必要額や返済期間を見誤ると、成長のための投資が、かえって資金繰りを圧迫してしまいます。

実務の感覚として申し上げると、売上はもちろん、利益もそのまま現金として存在しているわけではありません。不良債権や過剰在庫が、黒字倒産の引き金になることもあります。売上至上主義に傾くことや、売掛債権・固定費の増加には、やはり注意が必要です。

売上が増えているときには、次の点を確認しておきたいところです。

  • 売上増加に伴い、売掛金はいくら増えるか
  • 在庫や仕掛品はいくら増えるか
  • 仕入や外注費の支払サイトはどう変わるか
  • 人件費や固定費は増えるか
  • 増加運転資金はいくら必要か
  • 短期借入で足りるのか、長期借入が必要か
  • 売上が計画未達になった場合、返済は可能か

売上の増加は、資金繰り改善の保証ではありません。むしろ成長の局面ほど、資金繰り表が重要になります。

黒字倒産は「利益がないから」ではなく「資金が尽きるから」起きる

黒字倒産という言葉があります。

黒字倒産とは、利益が出ているにもかかわらず、支払いに必要な資金が不足して倒産してしまう状態を指します。これは、利益と資金繰りのズレを理解するうえで、非常に大切な事実です。

会社は、赤字だから必ず倒産する、というわけではありません。短期的には赤字でも、手元資金や支援があれば、事業を続けられる場合があります。その一方で、黒字であっても支払いができなければ、事業は続けられません。

資金不足は、次のような要因から起こります。

  • 売掛金の回収が遅れる
  • 在庫が増えすぎる
  • 設備投資で資金が固定化される
  • 借入返済が重い
  • 税金や社会保険料の支払いが重なる
  • 買掛金の支払いが先行する
  • 売上増加に伴う運転資金が不足する
  • 赤字ではないが、キャッシュ・フローが弱い

資金調達において大切なのは、「黒字だから大丈夫です」と説明することではありません。

なぜ資金が不足するのか。その不足は一時的なものか、構造的なものか。不足額はいくらか。いつまでに必要か。返済原資はどこから生まれるのか。内部の改善でどこまで対応できるのか。そもそも借入が本当に必要なのか。

ここまで整理しておく必要があります。

資金は、企業が事業を続けていくための絶対的な条件です。資金不足の原因を突き止め、債権債務の改善や資金運用の見直しを行っていくこと。これが、資金調達を考えるうえでの基本的な姿勢になります。

黒字倒産を防ぐためには、利益だけでなく、資金繰りを見ることが欠かせません。

利益と資金繰りのズレは、貸借対照表に表れる

利益と資金繰りのズレは、損益計算書だけでは十分に見えてきません。多くの場合、そのズレは貸借対照表に表れます。

貸借対照表を見れば、資金がどこに使われ、どこから調達されているかが分かります。

売掛金が増えている。在庫が増えている。固定資産が増えている。短期借入金が増えている。長期借入金の返済が進んでいる。現預金が減っている。買掛金や未払金が増えている。自己資本が薄くなっている。

こうした変化は、利益と資金繰りのズレがどこから来ているのかを教えてくれます。

貸借対照表は、いわば会社の資金構造を可視化するための資料です。資本の調達元である負債と資本、そして資本の運用先である資産を押さえることで、会社の資金がどこから来て、どこに使われているのかを理解できます。

資金調達の前には、損益計算書だけでなく、貸借対照表も確認しておきたいところです。特に見ておきたい項目は、次のとおりです。

貸借対照表の項目資金繰り上の意味
現預金支払いに使える手元資金
売掛金まだ入金されていない売上
棚卸資産商品・材料・仕掛として固定された資金
前払費用・仮払金本業資金以外に流れている可能性
固定資産長期的に回収する投資資金
買掛金・未払金これから支払う債務
短期借入金短期で返済・更新が必要な資金
長期借入金長期返済が必要な資金
純資産財務安全性と損失吸収力

利益と資金繰りのズレを説明するには、損益計算書、貸借対照表、資金繰り表を、つなげて見ていくことが大切です。

キャッシュ・フローで見ると、ズレの構造が分かる

利益と資金繰りのズレを整理するうえでは、キャッシュ・フローの考え方も役に立ちます。

キャッシュ・フローは、大きく次の3つに分けて考えます。

区分内容資金調達上の意味
営業キャッシュ・フロー本業から生まれる資金借入返済の基本的な原資
投資キャッシュ・フロー設備投資、資産取得・売却など成長投資や固定資産取得による資金支出
財務キャッシュ・フロー借入、返済、出資、配当など外部資金調達と返済の動き

利益が出ていても、営業キャッシュ・フローが弱い会社は注意が必要です。売掛金や在庫が増えていれば、利益は出ていても営業キャッシュ・フローは悪化します。設備投資が大きければ、投資キャッシュ・フローはマイナスになります。借入返済が重ければ、財務キャッシュ・フローで資金が流出していきます。

決算書は、損益計算書、キャッシュフロー計算書、貸借対照表からなる「財務3表」として捉えることができます。損益計算書は経営成績を、キャッシュフロー計算書は資金の流れを、貸借対照表は財政状態を示します。これらをあわせて見ることで、会社の安全性を判断しやすくなります。

中小企業では、正式なキャッシュ・フロー計算書を毎月作成していないことも多いかと思います。その場合でも、資金繰り表と月次決算を使えば、営業収支、投資支出、財務収支を分けて見ることはできます。

資金不足が起きたときに、次のどれが原因なのかを切り分けることが大切です。

  • 本業で資金を生めていない
  • 売掛金や在庫に資金が滞留している
  • 設備投資が先行している
  • 借入返済が重すぎる
  • 納税や賞与など、一時的な支出が重なっている
  • 成長投資の立ち上がり資金が不足している

原因が違えば、調達すべき資金の性質も変わってきます。

金融機関に説明すべきなのは「利益」だけではなく「資金化の道筋」

金融機関に資金調達を相談するとき、黒字決算であることは、たしかに重要です。けれども、金融機関が知りたいのは、それだけではありません。

金融機関は、融資した資金が何に使われ、どのように返済されていくのかを見ています。つまり、資金使途と返済原資の整合性が問われるのです。

利益が出ている場合でも、次のような説明が必要になります。

  • 利益は本業から出ているのか
  • 一時的な利益ではないか
  • 売掛金や在庫の増加で、資金化が遅れていないか
  • 借入返済後に資金が残るか
  • 今後の設備投資や納税を織り込んでいるか
  • 資金不足は一時的か、恒常的か
  • 追加借入後の返済計画は現実的か

融資審査では、担保の有無より前に、そもそも貸せる相手なのかという「債務者評価」が行われます。事業の内容、業績、今後の業績見通しを確認したうえで、資金使途、融資形態、返済原資、保全、他行の状況などが見られていきます。

「黒字です」という説明だけでは、返済できるかどうかの説明としては、十分とはいえません。

「黒字ですが、売掛金の回収がこの月に集中しており、資金不足はこの期間に発生します」 「在庫の積み増しによる増加運転資金であり、販売計画と回収予定を踏まえると、この時期に資金化されます」 「設備投資により一時的に資金支出が先行しますが、投資後の営業キャッシュ・フローと返済計画は、このように整合します」

このように、利益が資金へと変わっていく道筋まで説明できることが大切です。

利益と資金繰りのズレを整理するために見るべき資料

利益と資金繰りのズレを把握するためには、複数の資料をつなげて見ていく必要があります。

資料役割確認すべきこと
月次試算表損益と貸借の把握売上、利益、売掛金、在庫、借入金、現預金
資金繰り表入出金の把握資金不足時期、必要額、入金予定、支払予定
売掛金一覧回収状況の把握回収サイト、滞留債権、入金予定
在庫一覧資金滞留の把握在庫回転、滞留在庫、評価減リスク
買掛金・未払金一覧支払予定の把握支払サイト、支払遅延、未払税金
借入金一覧返済負担の把握金融機関別残高、返済額、返済期間、金利
投資計画投資支出の把握設備投資、成長投資、補助金、回収時期
事業計画将来収支の把握売上計画、利益計画、資金計画、返済原資

月次決算は、毎月の営業成績や財政状態を明らかにするための仕組みです。これがあると、経営者は経験と勘だけでなく、生きた数字を判断材料として使えるようになります。月次予算との対比をとおして、目標の達成状況や、その原因、次に打つべき手も見えやすくなります。

資金繰りのズレは、単独の資料ではなかなか見えてきません。

損益計算書だけを見ても、資金が不足する時期までは分かりません。資金繰り表だけを見ても、その資金不足の原因が、収益性なのか、運転資本なのか、投資なのかは見えにくいものです。貸借対照表だけを見ても、入出金のタイミングまでは分かりません。

だからこそ、月次決算、資金繰り表、借入一覧、事業計画を、つなげて見る必要があるのです。

資金調達前に確認すべき「利益と資金繰りのズレ」

資金調達を検討する前に、少なくとも次の問いを確認していただきたいと思います。

1. 利益は本業から出ているか

営業利益が出ているのか、それとも特別利益や一時的な要因で黒字になっているのかを確認します。返済原資として重視されるのは、継続的に生まれる本業の利益です。

2. 売掛金は増えすぎていないか

売上の増加に対して、売掛金が過大に増えていないかを見ます。回収遅延や滞留債権がある場合、利益が資金化されないリスクがあります。

3. 在庫は資金を圧迫していないか

在庫が増えている場合は、その理由を確認します。販売の見込みがある在庫なのか、それとも滞留在庫なのかで、資金繰りへの意味は大きく変わってきます。

4. 買掛金や未払金で資金繰りを一時的に支えていないか

支払いを先送りして、資金が残っているだけではないかを確認します。特に、税金、社会保険料、外注費などの未払いには注意が必要です。

5. 借入返済後に資金が残るか

利益が出ていても、元金返済が重ければ、手元資金は減っていきます。既存借入と新規借入を含めた返済予定を、資金繰り表に反映しておく必要があります。

6. 設備投資や成長投資の資金支出を織り込んでいるか

投資は、利益よりも先に資金が出ていきます。投資回収の時期、返済開始の時期、補助金入金の時期、そして追加資金の必要性を確認します。

7. 資金不足は一時的か、構造的か

一時的な資金不足であれば、短期資金やつなぎ資金で対応できる場合があります。一方、赤字、過剰在庫、回収遅延、過大な返済といった構造的な資金不足であれば、資金調達だけでは解決しません。

「黒字だから借りられる」ではなく「黒字をどう資金化するか」

資金調達では、黒字であることは重要です。けれども、黒字であることだけで安心してはいけません。大切なのは、その黒字をどう資金化し、どう返済に充てていくか、です。

売上が売掛金として残っているなら、回収予定を確認する。在庫に資金が滞留しているなら、販売計画と在庫削減策を見る。借入返済が重いなら、返済後のキャッシュを確認する。設備投資を行うなら、投資回収と返済期間を合わせる。成長投資を行うなら、立ち上がり期間の資金不足を見込んでおく。

利益を資金繰りに変換していくには、損益、貸借、キャッシュ・フローを、つなげて見る必要があります。

事業計画とは、事業を通じて達成したい定性的・定量的な目標に対して、必要な経営資源や事業施策の仮説を定め、その目標達成と仮説検証の方法・手順・指標を描いていくものです。投入した資金よりも多くの資金を回収する、という視点もまた、事業を支える重要な要素になります。

資金調達は、資金不足を埋めるだけの作業ではありません。会社の利益構造、資金化のタイミング、投資回収、返済可能性を設計していく作業なのです。

利益と資金繰りのズレを放置すると、資金調達判断を誤る

利益と資金繰りのズレを理解しないまま資金調達を進めると、次のような判断ミスが起こりがちです。

  • 本当は売掛金の回収や在庫削減で改善できるのに、借入を増やしてしまう
  • 一時的な資金不足なのに、長期借入で対応してしまう
  • 長期の投資なのに、短期借入で対応してしまう
  • 利益計画だけで返済可能と判断してしまう
  • 借入返済を資金繰り表に入れていない
  • 設備投資の回収前に、返済負担が重くなる
  • 売上増加に伴う増加運転資金を見落とす
  • 黒字決算を理由に、追加借入を過大に行う
  • 赤字ではないのに、資金ショートの兆候を見落とす

特に気をつけたいのは、「資金調達できたこと」を、そのまま成功だと考えてしまうことです。

借入ができても、そのあとに返済できなければ、資金調達はかえって会社を苦しめます。補助金が採択されても、入金までの資金繰りが回らなければ、実行の段階で苦しくなります。設備投資を実行できても、投資の回収が遅れれば、返済の負担だけが先に来ます。

資金調達の判断は、調達した時点ではなく、調達したあとの資金繰りまで見据えて行う必要があります。

安易な売上計画や、金融機関を意識した楽観的な計画は、実績が未達となったときに、資金繰りを大きく狂わせます。黒字の予定が赤字になれば、返済をリスケジュールしていても、資金繰りが回らなくなることがあります。

利益と資金繰りのズレを放置しないこと。これが、資金調達の失敗を防ぐための基本です。

利益と資金繰りをつなげる会社は、金融機関から説明しやすい

金融機関との信頼関係は、単に黒字決算を出すことだけで築かれるものではありません。会社の数字を継続的に把握し、必要なときに自分の言葉で説明できること。それが大切です。

利益と資金繰りをつなげて説明できる会社は、次のような説明ができます。

  • 売上増加に伴って売掛金と在庫が増えているため、増加運転資金が必要である
  • 資金不足は一時的であり、入金予定と返済計画は、このように整合している
  • 設備投資による資金支出が先行するが、投資後の営業キャッシュ・フローで返済していく計画である
  • 借入返済後の資金残高を、月次で確認している
  • 計画が未達となった場合の資金繰りへの影響も見込んでいる
  • 必要資金の使途、金額、時期、返済原資が整理されている

これは、金融機関に対する説明力であると同時に、経営者ご自身の判断力でもあります。

会計を経営課題の可視化に活かし、中小企業会計要領に沿った正しい決算と企業情報を発信していくことは、金融機関や取引先からの信頼にもつながっていきます。

資金調達に強い会社は、必要なときだけ資料を作る会社ではありません。日頃から、利益と資金繰りのズレを管理している会社です。

まとめ:利益は重要だが、返済するのは現金である

利益は重要です。利益がなければ、会社は継続的に資金を生み出すことができません。金融機関にとっても、収益力は重要な判断材料です。

しかし、借入を返済するのは、利益ではなく現金です。

売掛金が回収されなければ、利益は資金になりません。在庫が売れなければ、仕入資金は回収されません。設備投資の効果が出なければ、返済原資は生まれません。元金返済は、損益計算書に費用として出てきません。税金や社会保険料の支払いは、資金繰りに直接響きます。

ですから、資金調達を考えるときには、利益と資金繰りを切り離して見るのではなく、つなげて見る必要があります。

月次決算で利益を確認する。貸借対照表で売掛金、在庫、借入金、現預金を見る。資金繰り表で入金、支払い、返済、投資支出を見る。事業計画で将来の利益と資金回収を確認する。そして、金融機関に資金使途と返済原資を説明できる形へ整える。

この流れが、無理のない資金調達と財務設計につながっていきます。

黒字なのに資金が足りないと感じたときは、「利益があるから大丈夫」と考えるのではなく、「利益がどこで資金に変わらず止まっているのか」を確認すること。それが大切です。

利益と資金繰りのズレを整理したい方へ

利益は出ているはずなのに、資金が残らない。売上が増えているのに、月末の資金が苦しい。金融機関に、資金不足の理由をうまく説明できない。借入返済後の資金繰りに不安がある。設備投資や成長投資の前に、返済の可能性を確認しておきたい。

このような場合は、損益計算書だけでなく、月次決算、貸借対照表、資金繰り表、借入一覧、投資計画を、つなげて整理していく必要があります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、資金調達を単なる融資手続としてではなく、利益構造、運転資本、資金繰り、返済原資、そして金融機関への説明可能性までを一体として整理する支援を行っています。

資金調達を検討している段階でも、すでに資金繰りに不安が出ている段階でも、まずは「利益と資金繰りがどこでズレているのか」を把握することが大切です。

お問い合わせページより、現在の月次試算表、資金繰り表、借入状況、今後の投資予定について、お気軽にご相談ください。

この記事の振り返り

論点押さえるべきポイント
利益と資金繰りの違い利益は収益と費用の差額、資金繰りは実際の入金と支払いの流れ
発生主義売上や費用は入出金と別のタイミングで認識されるため、利益と現金はズレる
売掛金売上計上済みでも未回収なら現金は増えない
在庫仕入資金が商品や材料として固定され、販売・回収まで資金化されない
買掛金・未払金支払いを後にして一時的に資金が残るが、将来の支払い負担になる
減価償却費会計上の費用だが、その月に同額の現金支出があるわけではない
借入返済元金返済は損益計算書の費用ではないが、現金は減る
税金利益発生後に納税資金が必要になり、資金繰りに大きく影響する
設備投資投資効果より先に資金支出や返済が始まることがある
売上増加売掛金、在庫、仕入、人件費が先行し、増加運転資金が必要になることがある
黒字倒産利益があっても、支払いに必要な資金が尽きれば事業継続は難しい
金融機関説明黒字かどうかだけでなく、資金使途と返済原資、資金化の道筋を説明することが重要
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