不動産賃貸の消費税は、「住宅家賃は非課税、事務所家賃は課税」と説明されることが多いものです。この整理そのものは、決して間違いではありません。
ただ、実務に入ると、この一言だけでは判断しきれない取引が数多く出てきます。
法人に社宅として貸している場合はどう考えるのか。契約書には「住居」とあるのに、実際には事務所として使われている場合はどうか。店舗併設住宅を一括で貸しているとき、全額を非課税としてよいのか。民泊、ウィークリーマンション、マンスリーマンション、シェアハウス、サービス付き住宅、有料老人ホーム、社宅代行会社への一括貸しは、それぞれどう区分するのか。共益費、駐車場代、水道光熱費、更新料、礼金は、家賃と同じ扱いでよいのか。
住宅賃貸と事務所賃貸の課税区分は、単なる勘定科目の問題ではありません。契約書の用途、実際の使用状況、請求書の表示、インボイスの要否、課税売上割合、仕入税額控除、居住用賃貸建物の取得時の控除制限、用途変更後の調整、そして税務調査での説明まで、幅広くつながっていく論点です。
この記事では、住宅賃貸・事務所賃貸の消費税について、課税・非課税の結論だけでなく、判断に必要となる事実、残しておくべき証憑、社内で継続的に管理すべきポイントまで整理していきます。
なお、ここでは賃貸収入そのものの課税区分を中心に扱います。居住用賃貸建物の取得・建築時の仕入税額控除制限は、関連する論点として必要な範囲で触れますが、詳細は「14-8. 居住用賃貸建物の取得・建築と控除制限」で扱う領域です。敷金・保証金・礼金・更新料・原状回復費の個別判断は「14-6」、共益費・管理料・水道光熱費は「14-5」で、それぞれさらに掘り下げていきます。
まず押さえるべき結論
住宅賃貸・事務所賃貸の消費税は、次の順序で判断していきます。
はじめに、その建物の貸付けが「住宅の貸付け」に該当するかどうかを確認します。住宅の貸付けは、原則として消費税の非課税取引です。ここでいう住宅には、一戸建て住宅だけでなく、マンション、アパート、社宅、寮、貸間など、人の居住の用に供する家屋、あるいは家屋のうち人の居住の用に供する部分が含まれます。
出典:国税庁|No.6226 住宅の貸付け
続いて、契約上または使用状況上、その貸付けが住宅用であることが明らかかどうかを確認します。住宅の貸付けとして非課税になるのは、契約において住宅用に供することが明らかにされているもの、または契約上は用途が明らかでなくても貸付け等の状況から住宅用に供されていることが明らかなものに限られます。
出典:国税庁|No.6226 住宅の貸付け
そのうえで、非課税から除外されるものに当たらないかを確認します。貸付期間が1か月未満の場合や、旅館業法上の旅館業に係る施設の貸付けに該当する場合は、住宅のような形態であっても、非課税となる住宅の貸付けからは除かれます。旅館、ホテル、貸別荘、リゾートマンション、ウィークリーマンションなどは、利用期間が1か月以上であっても非課税とならない場合があります。住宅宿泊事業、いわゆる民泊も、非課税の対象にはなりません。
出典:国税庁|No.6226 住宅の貸付け
一方で、事務所、店舗、倉庫、工場など、事業用施設として建物を貸し付ける場合の家賃は、課税取引です。事務所などの建物を貸し付ける場合の家賃は課税の対象となり、家賃を土地部分と建物部分とに区分しているときでも、その総額が建物の貸付けの対価として取り扱われます。
出典:国税庁|No.6225 地代、家賃や権利金、敷金など
つまり、賃貸不動産の課税区分は、「物件名」や「勘定科目」だけで決めるものではありません。契約用途、実際用途、貸付期間、旅館業・民泊への該当性、付随設備、別料金の有無、用途変更の有無を一つひとつ確認したうえで判断していくものです。
住宅の貸付けが非課税とされる理由
消費税は、国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡、資産の貸付け、役務の提供を、広く課税対象とする税です。
ですから、建物を貸し付けて家賃を受け取る行為も、本来であれば消費税の課税対象に入り得ます。
それでも、消費税法は、一定の取引について、税の性格や社会政策的な配慮から非課税取引としています。住宅の貸付けは、その非課税取引の一つです。
ここで見落としてはならないのは、住宅の貸付けは「課税対象外」ではなく「非課税」だという点です。
非課税取引は、いったん消費税の課税対象となる取引の範囲に入ったうえで、政策的に課税しないこととされている取引です。そのため、住宅家賃そのものに消費税は課されませんが、課税売上割合の計算や、賃貸建物を取得した際の仕入税額控除には影響が及びます。
実務の整理としても、不動産賃貸料や権利金、礼金、更新料などは、土地の貸付けや住宅の貸付けに係るものを除いて課税売上となります。住宅家賃そのものは原則として課税売上にはならず、貸付期間が1か月未満の場合などに課税売上となる、という位置づけです。
「住宅だから消費税を考えなくてよい」わけではありません。
住宅賃貸は、売上税額こそ発生させないものの、仕入税額控除の制限や課税売上割合の低下を通じて、申告税額に影響を及ぼす可能性があるのです。
住宅に該当するかは「人の居住の用に供する部分」で判断する
住宅の貸付けに該当するかどうかは、建物の名称ではなく、人の居住の用に供する家屋または部分かどうかで判断します。
住宅には、一戸建て住宅のほか、マンション、アパート、社宅、寮、貸間などが含まれます。あわせて、通常、住宅に付随して、または住宅と一体となって貸し付けられる庭、塀、給排水施設、家具、照明設備、冷暖房設備なども、住宅の貸付けに含まれます。
出典:国税庁|No.6226 住宅の貸付け
このため、マンション、アパート、社宅、寮といった名称であれば、通常はまず住宅としての検討対象になります。
ただし、住宅に付随する設備であっても、住宅とは別の賃貸借の目的物として、家賃とは別に使用料などを収受している場合には、その使用料などは非課税にはなりません。住宅の附属設備や、通常住宅に付随する施設などであっても、当事者間で住宅とは別の賃貸借の目的物とし、住宅の貸付けの対価とは別に使用料を収受しているときは、その設備または施設の使用料は非課税とならない、とされています。
出典:国税庁|消費税法基本通達6-13-1
この点は、実務で誤りの生じやすいところです。
たとえば、住宅にエアコンや照明設備を備え付け、家賃に含めて一体で貸している場合には、住宅の貸付けに含まれます。一方、住宅とは別に設備使用料を設定し、別料金として請求している場合には、その設備使用料は、住宅家賃とは切り離して課税関係を検討しなければなりません。
実務上も、庭、塀、住宅の附属設備として一体で貸し付けられる家具、照明、冷暖房設備などは、住宅の貸付けに含めて考えます。反対に、家賃とは別に使用料を収受している場合には、住宅の貸付けとして非課税にはならない、という整理になります。
事務所・店舗の賃貸は課税取引になる
事務所、店舗、倉庫、工場など、事業用施設として建物を貸し付ける場合の家賃は、原則として課税取引です。
このとき、建物賃貸借契約書に「家賃」と書かれているか「使用料」と書かれているかは、本質ではありません。実際に貸し付けているものが事業用建物の使用権であり、その対価として賃料を収受しているのであれば、課税売上として処理します。
また、事務所や店舗の貸付けでは、建物の賃料に敷地利用の要素が含まれていることがあります。たとえば、ビルの1室を事務所として貸し付ける場合、賃料には建物部分だけでなく、敷地利用の経済価値も含まれています。
もっとも、事務所などの建物を貸し付ける場合の家賃については、家賃を土地部分と建物部分に区分しているときでも、その総額が建物の貸付けの対価として取り扱われます。
出典:国税庁|No.6225 地代、家賃や権利金、敷金など
したがって、事務所・店舗賃貸では、賃貸借契約書上の総賃料、共益費、更新料、権利金などのうち返還しないものについて、課税対象となる部分を正しく把握しておく必要があります。
不動産管理会社やオーナーの実務では、店舗・事務所などの家賃や駐車場使用料は課税、地代や住宅家賃は非課税、という区分が基本になります。ただし、貸付期間や施設性、契約用途によって、この基本から外れる例外が生じます。
契約書に「住宅用」と明記されているかが重要になる
住宅の貸付けとして非課税になるためには、貸付けに係る契約において、住宅用に供することが明らかにされていることが重要です。
住宅の貸付けとして非課税となるのは、契約において住宅用に供することが明らかにされているもの、あるいは契約上は用途が明らかでなくても、貸付け等の状況から住宅用に供されていることが明らかなものに限られます。
出典:国税庁|No.6226 住宅の貸付け
そこで、契約書に次のような記載があるかどうかを確認します。
- 賃貸借の目的が居住用であること
- 事務所、店舗、営業所、倉庫、民泊、宿泊施設として使用しないこと
- 法人が借りる場合には、社宅、寮、従業員住居として使用すること
- 転貸する場合には、転借人が居住用に使用すること
一方、契約書に「居住用または事業用のいずれにも使用できる」と記載されている場合や、用途が明確に定められていない場合には、契約書だけで判断することはできません。このときは、賃借人の属性、入居者の実際の使用状況、郵便物、表札、営業許可、看板、ホームページ、登記、電気・水道の使用状況などから、住宅用に供されていることが明らかかどうかを確認します。
契約において用途が明らかにされていない場合には、たとえば、居住用または事業用のどちらでも使用できることとされている場合が含まれます。そのうえで、人の居住の用に供されていることが明らかな場合の例としては、賃借人が個人で、その住宅が人の居住の用に供されていないことを賃貸人が把握していない場合などが挙げられています。
出典:国税庁|消費税法基本通達6-13-10・6-13-11
実務では、契約書の用途欄を軽視しないことが何より大切です。
「居住用」と明記すべき契約で用途欄が空欄になっている。法人契約で、実際は社宅なのに契約書上は用途が不明確である。テナント契約なのに、旧契約書のひな型を流用して「居住用」と記載されている。こうした状態は、税区分の判断をそのまま不安定にしてしまいます。
法人に貸していても、社宅・寮であれば非課税になり得る
住宅の貸付けが非課税になるかどうかは、賃借人が個人か法人かだけで決まるものではありません。
法人が借主であっても、その法人が従業員社宅や役員社宅、寮として住宅を使用することが契約上明らかであれば、住宅の貸付けとして非課税になり得ます。
住宅用の建物を賃貸する場合において、賃借人が自ら使用しないときであっても、賃貸人と賃借人との間の契約で、賃借人が住宅として転貸することが明らかなときは、住宅の貸付けとして非課税とされます。
出典:国税庁|No.6226 住宅の貸付け
この考え方は通達でも示されており、住宅用の建物を賃貸する場合に、賃借人が自ら使用しないときでも、契約書その他により住宅として転貸することが明らかなときは、住宅の貸付けに含まれるとされています。
出典:国税庁|消費税法基本通達6-13-7
ですから、法人契約だから課税、個人契約だから非課税、といった単純な線引きはできません。
法人契約であっても、契約書に「社宅として使用する」「従業員の居住用に供する」「事務所、店舗その他事業用には使用しない」などの記載があり、実際にも居住用として使用されていれば、非課税と判断する根拠になります。
一方、法人が借主で、そこを営業所、研修施設、ショールーム、作業場、倉庫、従業員の一時滞在施設、民泊用施設として使用する場合には、住宅の貸付けに該当するかどうかを、慎重に確認する必要があります。
社宅契約では、契約書、入居者台帳、社宅規程、従業員への貸与契約、会社負担額、本人負担額、実際の居住状況を、一体として保存しておくことが重要です。
店舗併設住宅・事務所併用住宅は合理的な区分が必要になる
店舗併設住宅や事務所併用住宅を一括して貸し付ける場合には、全額を非課税や課税とするのではなく、住宅部分と事業用部分を合理的に区分します。
店舗等併設住宅については、住宅部分のみが非課税とされるため、その家賃を住宅部分と店舗部分とに合理的に区分することになります。
出典:国税庁|No.6226 住宅の貸付け
通達でも、住宅と店舗または事務所などの事業用施設が併設されている建物を一括して貸し付ける場合には、住宅として貸し付けた部分のみが非課税となり、対価の額を住宅の貸付けに係る対価と事業用施設の貸付けに係る対価とに合理的に区分するとされています。
出典:国税庁|消費税法基本通達6-13-5
この合理的区分では、床面積、専有面積、使用状況、契約書上の区分、設備の利用状況、賃料相場、共用部分の扱いなどを確認します。
たとえば、1階を店舗、2階を住居として一括貸ししている場合、店舗部分は課税、住居部分は非課税となります。賃料が一括で定められているときは、面積比や市場賃料、契約実態に基づいて、合理的に按分する必要があります。
ここで気をつけたいのは、面積比だけが常に正しいとは限らない、ということです。
店舗部分が道路に面していて収益性が高い場合には、住宅部分より単価が高いこともあります。反対に、店舗部分が小さく、ほとんど住宅利用が中心という場合もあります。税務上は、採用した区分方法が取引実態に照らして合理的であると説明できることが大切です。
土地建物一括売買の価額区分と同じように、不動産の区分判断では、税額ありきではなく、契約内容、利用実態、評価根拠を残していくことが求められます。
1か月未満の貸付けは住宅でも課税になる
住宅のような建物であっても、貸付期間が1か月未満の場合には、非課税となる住宅の貸付けから除かれます。
貸付期間が1か月未満の場合は、非課税となる住宅の貸付けから除かれることとされています。
出典:国税庁|No.6226 住宅の貸付け
ここで問題になりやすいのが、ウィークリーマンション、短期滞在型マンション、マンスリー契約、仮住まい、研修用宿泊施設などです。
契約期間が1か月未満であれば、居住用のように見えても課税取引になります。反対に、契約期間が1か月以上であっても、旅館業法上の旅館業に係る施設の貸付けに該当する場合には、非課税とはなりません。
そのため、短期賃貸では、契約期間だけでなく、営業許可、宿泊サービスの有無、清掃・リネン交換、フロント機能、利用規約、料金体系、広告表示、予約方法まで確認する必要があります。
月単位のマンスリーマンションであっても、実態が宿泊サービスに近い場合には、住宅の貸付けとして非課税にできるかどうか、慎重な検討が要ります。反対に、一定期間以上、生活の本拠として居住する契約であり、旅館業・民泊に該当しない形態であれば、住宅の貸付けとして非課税となる可能性があります。
「マンションだから非課税」「1か月以上だから必ず非課税」と決めつけないことが大切です。
旅館・ホテル・民泊は、住宅に見えても非課税にならない
旅館、ホテル、貸別荘、リゾートマンション、ウィークリーマンション、民泊などは、住宅のような部屋を提供していても、消費税上は住宅の貸付けとして非課税にならない場合があります。
旅館業法第2条第1項に規定する旅館業に係る施設の貸付けは、非課税となる住宅の貸付けから除かれます。また、住宅宿泊事業法に規定する住宅宿泊事業、いわゆる民泊も、旅館業法に規定する旅館業に該当するため、非課税の対象にはなりません。
出典:国税庁|No.6226 住宅の貸付け
通達でも、旅館業法に規定する旅館業には旅館・ホテル営業、簡易宿所営業、下宿営業が該当し、ホテルや旅館のほか、同法の適用を受けるリゾートマンションや貸別荘などは、利用期間が1か月以上であっても非課税とならないとされています。さらに、住宅宿泊事業法上の住宅宿泊事業も旅館業法に規定する旅館業に該当することから、非課税とはならないとされています。
出典:国税庁|消費税法基本通達6-13-4
民泊や短期宿泊サービスは、近年、とりわけ判断ミスの生じやすい領域です。
住宅として建築された建物であっても、事業者が宿泊サービスとして利用者に提供する場合には、住宅の貸付けではなく、施設の貸付けまたは宿泊サービスとして課税取引になります。これは、賃貸物件の名称、外観、間取りだけでは判断できません。
確認すべきは、実際に何を提供しているか、です。
利用者が生活の本拠として借りているのか。それとも、宿泊場所として利用しているのか。宿泊料として料金が設定されているのか。清掃、リネン、鍵の受け渡し、予約管理、宿泊者名簿、許認可、プラットフォーム掲載があるのか。こうした点を確認して、課税区分を決めていきます。
用途変更があった場合は、変更後の課税区分を切り替える
住宅として貸し付けていた建物について、契約当事者間で住宅以外の用途に変更した場合には、契約変更後の貸付けは課税取引になります。
住宅として貸し付けられた建物について、契約当事者間で住宅以外の用途に契約変更したときは、契約変更後のその建物の貸付けは課税の対象となります。
通達でも、住宅として貸し付けられた建物について、契約当事者間で住宅以外の用途に変更する契約変更をした場合には、契約変更後の貸付けは課税資産の譲渡等に該当するとされています。
出典:国税庁|消費税法基本通達6-13-8
ここで重要になるのは、「契約変更」があるかどうかです。
たとえば、賃貸人と賃借人が合意して、住居用物件を事務所利用に変更した場合、変更後の賃料は課税売上になります。請求書、賃貸管理システム、会計ソフトの税区分、インボイス対応も、あわせて切り替える必要があります。
一方、契約書上は住宅として貸し付けており、賃貸人との契約変更を行わないまま、賃借人が勝手に事業用に使っている場合には、その建物の借受けは賃借人の課税仕入れに該当しないとされています。
出典:国税庁|消費税法基本通達6-13-8
この点は、売手側と買手側で判断がずれやすいところです。
賃貸人側は、住宅として契約し、非課税家賃として請求している。賃借人側は、実際には事務所として使っているから課税仕入れにしたい。こうした処理は、契約と請求書が整合していないため、仕入税額控除の面で問題になります。
用途変更があるときは、口頭の合意で済ませず、変更契約書、覚書、使用開始日、変更後賃料、消費税額、インボイス発行の有無を、明確にしておくべきです。
住宅から事務所、事務所から住宅への変更は「税区分マスター」の更新が必要
用途変更は、契約書だけで完結するものではありません。
実務では、賃貸管理システム、請求書発行システム、会計ソフト、税区分マスター、取引先マスター、インボイス発行設定まで、あわせて更新する必要があります。
住宅から事務所へ変更した場合、変更後は課税売上になります。賃貸人がインボイス発行事業者であれば、買手である賃借人から求められたときに、インボイスを交付する実務が必要になります。
事務所から住宅へ変更した場合には、変更後は非課税売上になります。消費税を請求し続けていないか、会計ソフトで課税売上として計上し続けていないか、課税売上割合に影響が出ていないかを確認します。
月次監査の観点でも、新規契約、更新、解約、設備投資、資産売却・除却の有無を事前に確認し、発注から請求、代金回収までのプロセスや証憑書類を把握しておくことが重要です。とりわけ賃貸用途の変更は、会計データに反映される前に契約条件が変わるため、月次のヒアリングで早めに把握しておく必要があります。
用途変更でよくあるのは、契約変更は済んでいるのに、会計処理だけ旧税区分のまま残ってしまう、というミスです。
賃貸借契約書、賃貸管理台帳、請求データ、入金データ、会計仕訳が、同じ前提で動いているか。ここを確認しておくことが、税務調査でもきちんと説明できる処理につながります。
共益費・駐車場・水道光熱費は「家賃に含まれるか」で変わる
住宅賃貸では、家賃のほかに、共益費、管理費、駐車場代、水道光熱費、設備使用料などを収受することがあります。
これらは、住宅家賃と同じく非課税になるものと、別個の課税取引として扱うものとに分かれます。
共同住宅における共用部分に係る費用、たとえばエレベーターの運行費用、廊下などの光熱費、集会所の維持費などを入居者が応分に負担する、いわゆる共益費は、家賃に含まれます。一方、入居者から家賃とは別に収受する専有部分の電気、ガス、水道などの利用料は、非課税とされる家賃には含まれません。
出典:国税庁|No.6226 住宅の貸付け
通達でも、家賃には、月決めなどの家賃のほか、返還しない敷金、保証金、一時金など、そして共同住宅の共用部分に係る費用を入居者が応分に負担する、いわゆる共益費も含まれるとされています。
出典:国税庁|消費税法基本通達6-13-9
駐車場についても、住宅と一体として非課税になる場合と、独立した駐車場貸付けとして課税になる場合とがあります。
住宅の駐車場については、一戸当たり1台分以上の駐車スペースが確保され、自動車の保有の有無にかかわらず割り当てられているなどの場合で、かつ家賃とは別に駐車場使用料などを収受していないときには、非課税になります。
出典:国税庁|No.6226 住宅の貸付け
一方、駐車場使用料を家賃とは別に収受している場合や、区画整備された駐車場を独立して貸している場合には、課税取引として検討する必要があります。駐車場として地面の整備、フェンス、区画、建物の設置などを行っている場合には、土地の貸付けではなく、施設の貸付けとして課税される、という整理になります。
大切なのは、名目ではなく、請求の仕方と取引実態です。
共益費と書かれていても、専有部分の水道光熱費の実費精算であれば、非課税家賃とは別に検討する必要があります。駐車場代と書かれていなくても、家賃と別に車庫使用料を収受していれば、課税取引となる可能性があります。
礼金・更新料・保証金の返還不要部分は用途に連動する
賃貸借契約の締結や更新に伴い、礼金、更新料、権利金、保証金、敷金の償却部分などを収受することがあります。
これらは、返還されるかどうか、そして何の対価か、によって課税関係が変わります。
事業用建物の賃貸借契約の締結や更新に伴う保証金、権利金、敷金、更新料などのうち、返還しないものは、権利の設定の対価として課税の対象となります。一方、住宅に係る賃貸借契約の締結や更新に伴う保証金、権利金、敷金、更新料などのうち、返還しないものは非課税となります。
出典:国税庁|No.6225 地代、家賃や権利金、敷金など
つまり、礼金や更新料だけを単独で見るのではなく、その賃貸借契約が住宅の貸付けなのか、事業用建物の貸付けなのかに連動させて判断するわけです。
住宅賃貸に係る返還不要の礼金や更新料は、非課税です。事務所・店舗賃貸に係る返還不要の礼金や更新料は、課税です。返還される敷金・保証金は、原則として資産の譲渡等の対価ではないため、課税対象になりません。
実務では、会計ソフト上、礼金、更新料、保証金償却などを、すべて同じ税区分にしてしまうことがあります。しかし、住宅用か事業用か、返還義務があるか、契約終了時に充当されるのかを確認しなければ、正しい税区分にはたどり着けません。
住宅賃貸は仕入税額控除にも影響する
住宅賃貸の非課税判断は、売上側だけで完結するものではありません。
賃貸建物を取得・建築・修繕したときの、仕入税額控除にも影響します。
非課税売上である住宅家賃に対応する課税仕入れは、原則課税で個別対応方式を採用する場合、非課税売上対応課税仕入れとして扱われ、仕入税額控除の対象になりません。あわせて、課税売上割合が低下することにより、共通対応課税仕入れの控除額にも影響が及びます。
さらに、令和2年度税制改正により、一定の居住用賃貸建物については、取得等に係る仕入税額控除そのものが制限されています。居住用賃貸建物とは、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物をいい、その「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物」とは、建物の構造・設備その他の状況により、住宅の貸付けの用に供しないことが客観的に明らかなものをいうとされています。
出典:国税庁|消費税法基本通達11-7-1
すべてが店舗などの事業用施設である建物、旅館・ホテルなど旅館業に係る施設の貸付けに供することが明らかな建物、所有している間に住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな棚卸資産として取得した建物などは、この「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物」の例として挙げられています。
出典:国税庁|消費税法基本通達11-7-1
たとえば、販売目的で取得したマンションであっても、取得と同時に住宅として賃貸している状態であれば、「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物」には該当しません。この場合は、居住用賃貸建物として仕入税額控除制限の対象になります。
このように、住宅賃貸・事務所賃貸の課税区分は、毎月の家賃処理だけでなく、建物取得時の消費税還付、原則課税・簡易課税の選択、課税事業者選択届出、設備投資計画にまで影響していきます。
事務所賃貸への転用・民泊転用では、取得時の控除制限の調整が関係することがある
居住用賃貸建物について、取得時に仕入税額控除が制限された後、その建物を事務所や店舗など、課税賃貸用に転用する場合があります。
このとき、一定の調整制度が関係してくることがあります。
居住用賃貸建物に係る仕入税額控除の制限により控除対象とならなかった課税仕入れなどの税額について、一定期間内にその居住用賃貸建物を、非課税となる住宅の貸付け以外の貸付けの用、すなわち課税賃貸用に供した場合、または譲渡した場合には、仕入控除税額の調整を行うことになります。
出典:国税庁|居住用賃貸建物を取得後一定期間内に民泊サービスの用に供した場合
この質疑応答事例では、民泊サービスは非課税となる住宅の貸付け以外の貸付けである「施設の貸付け」に当たるため、居住用賃貸建物の一部を民泊サービスの用に供した場合は、居住用賃貸建物を課税賃貸用に供した場合に該当するとされています。
出典:国税庁|居住用賃貸建物を取得後一定期間内に民泊サービスの用に供した場合
取得時に仕入税額控除が制限された居住用賃貸建物であっても、調整期間中に課税賃貸用に供した場合や譲渡した場合には、一定の調整によって仕入控除税額に加算する仕組みが設けられています。
ここで気をつけたいのは、用途変更があったからといって、過去の申告を単純に修正するわけではない、という点です。一定の要件を満たす場合に、所定の課税期間の仕入控除税額に加算する調整を行う、という制度です。
ですから、住宅賃貸から事務所賃貸や民泊へ転用するときは、単に今後の家賃を課税に変えるだけでなく、取得時の仕入税額控除制限、調整期間、保有状況、課税賃貸割合、譲渡予定まで、あわせて確認しておく必要があります。
住宅部分と店舗部分がある建物を取得する場合の仕入税額控除
賃貸用建物の中に、住宅部分と店舗・事務所部分が混在している場合には、取得時の仕入税額控除でも合理的区分が必要になります。
質疑応答事例では、建物の一部が店舗用など、居住用賃貸以外の部分がある居住用賃貸建物について、構造・設備その他の状況により、居住用賃貸以外の部分と居住用賃貸部分とに合理的に区分しているときは、居住用賃貸部分に係る課税仕入れなどの税額についてのみ、仕入税額控除が制限されるとされています。ここでいう合理的区分とは、使用面積割合や、使用面積に対する建設原価の割合など、建物の実態に応じた合理的な基準による区分をいいます。
出典:国税庁|建物の一部が店舗用となっている居住用賃貸建物の取得に係る仕入税額控除の制限
これは、賃貸収入の区分とも密接に関係しています。
住宅部分の賃料は非課税、店舗・事務所部分の賃料は課税です。取得時の仕入税額控除でも、住宅貸付けに対応する部分と、課税賃貸に対応する部分とを、合理的に区分する必要があります。居住用賃貸建物について、住宅の貸付けの用に供しないことが客観的に明らかな部分がある場合には、居住用部分とそれ以外の部分を合理的に区分して考えます。
このため、賃貸物件を取得・建築する前に、将来の用途まで設計しておくことが大切です。
1階店舗、2階以上住宅という建物を取得するのか。全室住宅として貸すのか。将来、一部を事務所に転用する予定があるのか。民泊や短期貸しを行うのか。こうした判断は、取得時の仕入税額控除、還付見込み、資金繰り、課税方式の選択にまで影響します。
インボイス制度下では、事務所賃貸の請求書が重要になる
住宅賃貸が非課税である場合、住宅家賃について消費税額は発生せず、インボイスの交付対象となる課税売上ではありません。
一方、事務所・店舗賃貸は課税取引です。賃借人が課税事業者で原則課税を適用し、仕入税額控除を受ける場合には、貸主がインボイス発行事業者であるか、インボイス記載事項を満たす請求書などを受領できるかが重要になります。
事務所賃貸では、毎月の請求書を発行せず、賃貸借契約書と通帳引落しだけで処理しているケースがあります。このような場合でも、契約書、口座振替通知、賃料明細、登録番号通知、支払予定表など、複数の書類でインボイス記載事項を満たせるかどうかを確認しておく必要があります。
インボイス制度のもとでは、仕入税額控除を受けるためにインボイスの保存が必要となり、そのインボイスを発行できるのは、登録を受けた課税事業者に限られます。
事務所賃貸では、貸主側は、登録番号、課税対象額、消費税額、税率、取引内容、賃借人名などの記載を整えておく必要があります。借主側は、契約書や支払資料だけで仕入税額控除の要件を満たせるかを確認しておく必要があります。
住宅賃貸については、消費税が非課税ですから、貸主が誤って消費税を請求していないか、借主が誤って仕入税額控除を行っていないかを確認しておくことが重要です。
税務調査で確認されやすいポイント
住宅賃貸・事務所賃貸の課税区分は、税務調査で確認されやすい論点です。
調査で見られるのは、単なる会計ソフト上の税区分ではありません。
賃貸借契約書の用途欄。重要事項説明書。入居申込書。法人契約の場合の社宅使用実態。転貸契約。請求書・領収書の消費税表示。賃貸管理台帳。物件一覧。用途変更の覚書。民泊・旅館業の許認可。ホームページや予約サイト。共益費、駐車場代、水道光熱費の請求方法。インボイスの交付状況。こうした資料を通じて、税区分が取引実態と整合しているかどうかが確認されます。
税務調査では、課税要件に該当する事実を証拠資料から認定する、という視点が重要になります。調査実務でも、課税要件、要件事実、そしてその認定のための証拠資料が重視されます。
住宅家賃として非課税処理しているが、契約書上は用途が明確でない。事務所利用を認める覚書があるのに、会計処理は非課税のままである。法人契約で社宅としているが、実際の入居者資料がない。住宅家賃とは別に駐車場代や設備使用料を収受しているのに、全額を非課税にしている。こうした状態では、税務調査での説明が難しくなります。
書類管理の観点でも、必要な資料をすぐに取り出せる状態にしておくことが大切です。重要書類の紛失や整理不足は、そのまま税務上の説明力を低下させます。申告書・届出書の控えを関与税理士任せにせず、社内でも保存・管理しておくことが、コンプライアンスの強化につながります。
実務で使える判断フロー
住宅賃貸・事務所賃貸の課税区分は、次の順序で確認していくと整理しやすくなります。
はじめに、貸付対象を確認します。建物全体なのか、一部区画なのか。住宅、店舗、事務所、倉庫、駐車場、共用施設、設備使用料が含まれているのかを切り分けます。
次に、契約用途を確認します。契約書に、居住用、事務所用、店舗用、社宅用、転貸用、宿泊用などの用途が明記されているかを見ます。
次に、実際用途を確認します。契約書と実際の使用状況が一致しているか。個人居住、法人社宅、営業所、店舗、宿泊施設、民泊、倉庫、短期滞在など、実際にどう使われているかを把握します。
次に、非課税除外に該当しないかを確認します。貸付期間が1か月未満ではないか。旅館業や民泊に該当しないか。ウィークリーマンション、貸別荘、リゾートマンションなどの実態がないかを確かめます。
次に、付随収入を確認します。共益費、管理料、駐車場代、水道光熱費、設備使用料、更新料、礼金、保証金償却が、家賃に含まれるものか、別個の課税取引かを見極めます。
次に、用途変更を確認します。契約期間中に、住宅から事務所、事務所から住宅、住宅から民泊などへ変更していないかを確認し、変更日以後の税区分を切り替えます。
最後に、仕入税額控除への影響を確認します。住宅賃貸がある場合、課税売上割合、個別対応方式の用途区分、居住用賃貸建物の取得時の控除制限、用途変更後の調整、インボイス保存の要否まで確認します。
このフローを社内で定型化しておくと、担当者ごとの判断のばらつきを減らすことができます。
契約・請求・会計処理を一体で管理する
住宅賃貸・事務所賃貸の課税区分は、会計入力の段階だけで直すものではありません。
正しい処理を継続していくには、契約、請求、入金、会計処理、証憑保存を、一体として管理していく必要があります。
新規契約時には、用途を契約書に明記する。更新時には、実際の用途が変わっていないかを確認する。用途変更時には、変更契約書や覚書を作成する。請求書には、課税・非課税の区分を正しく反映する。会計ソフトでは、物件別・契約別に税区分を設定する。そして税務調査に備え、契約書、賃貸管理台帳、請求書、入居者情報、用途変更記録を保存しておく。この積み重ねが、継続して説明できる処理を支えます。
不動産賃貸では、前任者から引き継いだ税区分を、そのまま使い続けてしまうことがあります。しかし消費税では、契約内容を確認しないまま過去の処理を踏襲すると、誤りがそのまま継続しやすくなります。委託販売のような別の論点でも、契約内容を確認せずに前任者の処理をそのまま踏襲した結果、消費税処理の誤りが生じることがあります。
住宅賃貸・事務所賃貸でも、同じことがいえます。
税区分は、物件名や勘定科目ではなく、契約と実態から決めるものです。管理システム上の分類、会計ソフト上の税区分、契約書上の用途、実際の使用状況が一致しているかを、定期的に点検していくことが重要です。
まとめ
住宅賃貸・事務所賃貸の消費税は、「住宅は非課税、事務所は課税」という基本だけでは足りません。
住宅として非課税になるには、契約上または状況上、人の居住の用に供されていることが明らかである必要があります。貸付期間が1か月未満の場合や、旅館業・民泊に該当する場合には、住宅のような形態であっても非課税にはなりません。
事務所、店舗、倉庫など事業用建物の貸付けは、課税取引です。店舗併設住宅や事務所併用住宅では、住宅部分と事業用部分を合理的に区分します。法人契約であっても、社宅として貸すことが契約上明らかであれば、非課税になり得ます。一方、住宅契約のまま賃借人が事業用に使っている場合には、契約変更の有無が重要になります。
さらに住宅賃貸は、賃貸収入の非課税判断だけでなく、課税売上割合、仕入税額控除、居住用賃貸建物の控除制限、用途変更後の調整、インボイス、税務調査対応にまで影響していきます。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、不動産賃貸に係る消費税を、単なる税区分の入力ではなく、契約書、請求書、賃貸管理台帳、会計処理、インボイス、仕入税額控除、税務調査での説明可能性まで含めて整理しています。
住宅・事務所・店舗・社宅・民泊・短期貸し・用途変更が混在している場合や、賃貸管理システムと会計ソフトの税区分に不安がある場合には、契約書と請求データを確認できる段階でご相談ください。申告直前に税区分だけを直すのではなく、契約と実態に基づいて、継続して説明できる処理を整えていくことが大切です。
振り返り
| 論点 | 基本的な考え方 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 住宅の貸付け | 原則として非課税 | 契約上または状況上、居住用であることが明らかか確認する |
| 事務所・店舗賃貸 | 原則として課税 | 家賃を土地部分と建物部分に分けていても、総額が建物貸付けの対価となる |
| 法人社宅 | 法人契約でも非課税になり得る | 契約書に社宅・従業員居住用であることを明記する |
| 店舗併設住宅 | 住宅部分のみ非課税 | 住宅部分と事業用部分を合理的に区分する |
| 1か月未満の貸付け | 住宅でも非課税から除外 | 短期滞在、ウィークリー、仮住まい等は契約期間を確認する |
| 旅館・ホテル・民泊 | 非課税の住宅貸付けに該当しない | 旅館業、住宅宿泊事業、予約サイト掲載、宿泊サービスの実態を確認する |
| 用途変更 | 変更後の用途に応じて税区分を切り替える | 変更契約書、覚書、変更日、請求書、会計税区分を整合させる |
| 共益費 | 住宅共用部分の費用は家賃に含まれる | 専有部分の水道光熱費や別料金の設備使用料は別途判断する |
| 駐車場 | 住宅と一体なら非課税となる場合がある | 家賃とは別に駐車場使用料を収受している場合は課税を検討する |
| 礼金・更新料 | 住宅契約なら非課税、事業用契約なら課税 | 返還不要部分か、返還される敷金・保証金かを区別する |
| 居住用賃貸建物 | 取得時の仕入税額控除が制限される場合がある | 用途、取得時期、金額、課税賃貸転用、譲渡時の調整を確認する |
| 税務調査対応 | 契約・用途・請求・会計処理の整合性が確認される | 契約書、台帳、請求書、用途変更記録、入居者資料を保存する |