リバースチャージ方式と特定課税仕入れ|国外事業者から受けるBtoBサービスの消費税実務

国外事業者に支払うネット広告料、海外SaaSの利用料、海外予約サイトへの掲載手数料、海外プラットフォームが提供する事業者向けサービス、そして国外の芸能人・スポーツ選手などを国内イベントへ招く費用。

こうした支払いは、請求書に日本の消費税が記載されていないことが多く、会計ソフト上でも「対象外」「不課税」「海外取引」として処理されがちです。

しかし消費税には、国外事業者から受ける一定の役務について、サービスを受けた国内事業者の側が申告・納税を行う「リバースチャージ方式」という仕組みが設けられています。

これは、単なる仕訳の問題にとどまりません。

自社は原則課税なのか、それとも簡易課税なのか。課税売上割合は95%未満なのか。受けたサービスは事業者向け電気通信利用役務にあたるのか。国外事業者は表示義務を果たしているか。帳簿に特定課税仕入れとして記録できているか。仕入税額控除は全額できるのか、それとも一部が税負担として残るのか。

こうした判断を誤ると、納付税額や資金繰り、申告書の内容、税務調査での説明、さらには海外サービス導入時の社内承認にまで影響が及びます。

本記事では、2026年6月26日を基準日として、リバースチャージ方式と特定課税仕入れを、国外取引の消費税実務という観点から整理します。

目次

まず結論|問題になるのは「国外事業者から受ける一定のBtoB役務」

リバースチャージ方式は、国外事業者から何かを購入すれば必ず適用される制度ではありません。次のように、対象となる取引と対象となる事業者を分けて確認していきます。

確認項目実務上の結論
国外事業者から受けた役務か国内事業者からの役務なら、通常の国内課税仕入れとして確認する
事業者向け電気通信利用役務又は特定役務か該当すれば特定課税仕入れの検討対象になる
国内において受けた特定仕入れか国内取引に該当する場合に特定課税仕入れとなる
自社が免税事業者か免税事業者である課税期間は、特定課税仕入れについても申告不要
原則課税か簡易課税か簡易課税の課税期間は、当分の間、特定課税仕入れはなかったものとされる
原則課税で課税売上割合95%未満か原則としてリバースチャージ方式による申告が必要
原則課税で課税売上割合95%以上か当分の間、特定課税仕入れはなかったものとされ、申告にも控除にも含めない
2割特例の課税期間か国税庁の整理では、当分の間、特定課税仕入れはなかったものとされる対象に含まれる
仕入税額控除の要件リバースチャージ対象となる場合、適格請求書ではなく一定事項を記載した帳簿が中心となる

国外事業者が行う「事業者向け電気通信利用役務の提供」については、通常の消費税とは異なる扱いが定められています。売手である国外事業者ではなく、役務提供を受けた国内事業者が「特定課税仕入れ」として申告・納税を行う、という整理です。
出典:国税庁|No.6118 国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税関係

同じ考え方は、国外事業者が国内で行う一定の芸能・スポーツ等の役務提供にも及びます。これらは「特定役務の提供」として、役務提供を受けた事業者側が特定課税仕入れとしてリバースチャージ方式により申告・納税することとされています。
出典:国税庁|国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税関係について

リバースチャージ方式とは何か

通常の消費税では、売手が課税資産の譲渡等を行い、売手側で売上税額を計算して申告・納税します。買手側は、課税仕入れに該当し、インボイスや帳簿等の要件を満たす場合に、仕入税額控除を受けます。

これに対してリバースチャージ方式では、一定の国外事業者による役務提供について、売手である国外事業者ではなく、役務提供を受けた国内事業者の側に申告・納税義務を負わせます。

つまり買手側の申告書の中で、同じ一つの取引が次の二つの顔を持つことになります。

側面申告上の意味
売上税額側特定課税仕入れに係る支払対価の額を課税標準として、消費税額を計算する
仕入税額控除側その特定課税仕入れが課税仕入れとして控除対象になるかを、用途区分・課税売上割合等により計算する

ですから、リバースチャージ方式は「海外ベンダーが消費税を請求していないから不課税」と処理するための制度ではありません。むしろ、海外ベンダーが日本の消費税を請求も納付もしないからこそ、一定のBtoB取引では国内の買手側に課税関係を移す仕組みだと理解してください。

消費税は、多段階の取引に課税しながら、事業者間取引では仕入税額控除によって税の累積を排除する制度です。国際的なサービス取引では、国内の課税権が及ぶ範囲と、その徴収方法をはっきりさせる必要があります。そのために、内外判定、納税義務者、仕入税額控除に関する特例が設けられているわけです。

用語を分ける|特定仕入れ、特定課税仕入れ、特定資産の譲渡等

リバースチャージ方式では、よく似た用語が並びます。まずは、それぞれの言葉を丁寧に切り分けておくことが大切です。

用語意味実務上の確認
特定資産の譲渡等事業者向け電気通信利用役務の提供、特定役務の提供など役務の種類・提供者・提供方法を確認する
特定仕入れ事業として他の者から受けた特定資産の譲渡等自社が事業として受けたかを確認する
特定課税仕入れ国内において行った特定仕入れに該当する課税仕入れ国内取引か、課税対象かを確認する
リバースチャージ方式特定課税仕入れについて、役務提供を受けた事業者が申告・納税する方式課税方式、課税売上割合、申告反映を確認する

ここで押さえておきたいのは、「特定仕入れ」と「特定課税仕入れ」は同じではないという点です。特定仕入れであっても、それが国内において行われたものとして課税対象になる場合に、はじめてリバースチャージ方式の対象となる特定課税仕入れになります。

なお、国外事業者が課税事業者か免税事業者かという事情は、買手側の納税義務を左右しません。特定資産の譲渡等については、それを行う国外事業者が課税事業者であるかどうかにかかわらず、受けた事業者が特定課税仕入れの納税義務者となる、という整理です。
出典:国税庁|消費税法基本通達 第5章第8節

対象1|事業者向け電気通信利用役務の提供

事業者向け電気通信利用役務の提供とは、国外事業者が行う電気通信利用役務の提供のうち、その役務の性質や取引条件などから、役務提供を受ける者が通常は事業者に限られるものをいいます。

その典型が、国外事業者によるインターネット広告の配信です。基本通達でも、ウェブサイト上への広告掲載のように、役務の性質から通常は事業者向けであることが客観的に明らかなものが例示されています。
出典:国税庁|消費税法基本通達 第5章第8節

取引例リバースチャージ検討の方向性
国外事業者の検索広告・SNS広告・リスティング広告事業者向け電気通信利用役務として検討する
国外予約サイトへの宿泊施設・店舗掲載料事業者向け電気通信利用役務として検討する
国外ECモールへの出店料・掲載料事業者向け電気通信利用役務として検討する
国外事業者の法人向けSaaSで個別契約があるもの契約条件から事業者向けか確認する
消費者も自由に申込みできる電子書籍・音楽・動画・汎用アプリ原則として消費者向け電気通信利用役務側の検討になる
個別のソフトウェア制作を国外事業者へ委託し、成果物をネット納品そもそも電気通信利用役務でない可能性がある
国外現地調査の結果をメールで受領通常の役務提供として検討する

前記事「電気通信利用役務のBtoB・BtoC判定」でも整理したとおり、会社が利用しているという事実だけで、直ちに事業者向けになるわけではありません。役務の性質、契約条件、消費者からの申込みを事実上制限できるかどうか、個別契約で事業利用が明らかかどうか。こうした点を一つずつ確認していきます。

対象2|特定役務の提供

リバースチャージ方式は、デジタルサービスに限られた制度ではありません。国外事業者が国内で行う一定の芸能・スポーツ等の役務提供も、「特定役務の提供」として対象に含まれます。

特定役務の提供とは、国外事業者が行う映画・演劇の俳優、音楽家その他の芸能人、あるいは職業運動家の役務提供を主たる内容とする事業として行う役務提供のうち、国外事業者が他の事業者に対して行うものをいいます。ただし、不特定かつ多数の者に対して行うものは除かれます。
出典:国税庁|国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税関係について

取引例検討事項
海外アーティストを国内イベントに出演させる特定役務の提供に該当するか
海外スポーツ選手を国内興行に招聘する職業運動家の役務提供か
海外俳優の国内撮影出演特定役務の提供に該当するか
海外アーティスト自身が一般客向けに国内公演を主催不特定多数向けとして除外される可能性
出演者との契約仲介料特定役務そのものではなく仲介等として別途検討

なお、源泉所得税、租税条約、入国・興行ビザ、契約法務、著作隣接権などは、それぞれ別の論点です。本記事では、消費税のリバースチャージ方式に絞って整理しています。

国外事業者の表示義務と、買手側の判断責任

国外事業者が事業者向け電気通信利用役務の提供などを行う場合には、その取引がリバースチャージ方式の対象であり、役務提供を受ける事業者に納税義務がある旨を表示する義務があります。

もっとも、表示がないからといって、買手側の納税義務が消えるわけではありません。この表示義務を履行したかどうかは、特定資産の譲渡等を受ける事業者の納税義務には影響しない、という整理になっています。
出典:国税庁|消費税法基本通達 第5章第8節

この点は、実務のうえで非常に重要です。

よくある状態正しい考え方
海外ベンダーの請求書に日本の消費税がないそれだけでは不課税とは判断できない
請求書にリバースチャージ対象の表示がない表示がないだけで買手側の納税義務は消えない
請求書が英語で、Tax欄が0又は空欄サービス内容と取引条件から別途判断する
クレジットカード明細しかない請求明細、利用規約、管理画面、契約書を確認する
会計ソフトが自動で対象外処理した税区分マスターとサービス分類を見直す必要がある

海外ベンダーの請求書や管理画面を眺めて終わりにするのではなく、自社の側で「このサービスは何か」「相手は国外事業者か」「事業者向けか」「自社の申告方式は何か」を確認する。この一手間が欠かせません。

リバースチャージ方式による申告が必要な事業者

国外事業者から特定課税仕入れを受けたとしても、その都度、必ず申告書へ反映するわけではありません。リバースチャージ方式による申告が求められるのは、一般課税により申告を行う事業者のうち、その課税期間の課税売上割合が95%未満の事業者に限られます。
出典:国税庁|リバースチャージ方式による申告を要する者

自社の課税方式・状況特定課税仕入れの扱い
免税事業者消費税の確定申告を行う必要がないため、リバースチャージ申告不要
原則課税・課税売上割合95%未満リバースチャージ方式による申告が必要
原則課税・課税売上割合95%以上当分の間、特定課税仕入れはなかったものとされ、申告にも控除にも含めない
簡易課税当分の間、特定課税仕入れはなかったものとされ、申告にも控除にも含めない
2割特例適用課税期間国税庁の整理では、小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置として、当分の間、特定課税仕入れはなかったものとされる
令和9年分・令和10年分の3割特例を検討する個人事業者令和8年度改正で創設された制度であり、適用時の申告書・通達・Q&Aにより、特定課税仕入れの取扱いを確認する

令和8年度税制改正では、個人事業者である適格請求書発行事業者について、令和9年分・令和10年分の消費税申告で、納付税額を売上税額の3割とすることができる3割特例が創設されています。
出典:国税庁|令和8年度税制改正特集

ここで大切なのは、「海外サービスを使っているかどうか」だけでは結論が出ない、ということです。自社の課税方式と課税売上割合を確認してはじめて、申告に含めるべきかどうかが見えてきます。

課税売上割合95%以上の場合は「申告不要」だが「控除だけする」こともできない

原則課税で課税売上割合が95%以上の事業者は、経過措置により、当分の間、特定課税仕入れはなかったものとして扱われます。

この場合、リバースチャージ方式による申告をしなくてよい一方で、その特定課税仕入れに係る仕入税額控除だけを行うこともできません。

処理課税売上割合95%以上の場合
特定課税仕入れを課税標準に含める含めない
特定課税仕入れに係る売上税額を計算する計算しない
特定課税仕入れに係る仕入税額控除を行う行わない
申告上、なかったものとして扱うそのとおり
税区分マスターで完全に無視してよい取引実態の管理上は、分類・判定記録を残すべき

タックスアンサーでも、リバースチャージ方式の適用を受ける場合は帳簿のみで仕入税額控除ができる一方、その適用を受けない場合には仕入税額控除ができない、と説明されています。
出典:国税庁|No.6497 仕入税額控除のために保存する帳簿および請求書等の記載事項

課税売上割合95%以上の事業者が、誤って「仮受消費税を計上せず、仮払消費税だけを控除する」処理をしてしまえば、仕入税額控除が過大になります。逆に、95%未満の事業者が「どうせネット広告だから対象外」と処理すれば、今度は売上税額側の申告漏れにつながりかねません。

特定課税仕入れは、納税義務判定や簡易課税判定の「課税売上高」には含めない

リバースチャージ方式では、特定課税仕入れに係る支払対価の額を課税標準として申告します。そうなると、「翌々期の納税義務判定や、簡易課税の5,000万円判定に、この金額を課税売上高として含めるのか」という疑問が生じます。

この点について、特定課税仕入れはあくまでその事業者の仕入れであって、課税資産の譲渡等ではありません。したがって、納税義務判定や簡易課税制度の適用判定における課税売上高には含めない、と整理されています。
出典:国税庁|特定課税仕入れがある場合の納税義務の判定

項目特定課税仕入れの支払対価を含めるか
リバースチャージ方式の課税標準含める
翌々課税期間の納税義務判定における課税売上高含めない
簡易課税制度の基準期間課税売上高判定含めない
課税売上割合の分子・分母取引の性質に応じて別途確認。特定課税仕入れそのものを課税売上として扱うわけではない

申告書上で課税標準に出てくるからといって、売上高判定でいう「課税売上高」と同じ概念だと考えてはいけません。ここは、制度の建て付けを理解していないと取り違えやすいところです。

課税標準|110分の100で割り戻さない

リバースチャージ方式の課税標準は、特定課税仕入れに係る「支払対価の額」です。

通常の国内税込取引では、税込金額から消費税を抜くために110分の100を乗じる場面があります。しかし特定課税仕入れでは、国外事業者に支払う金額に日本の消費税等相当額は含まれていません。ですから、支払った金額、あるいは支払うべき金額が、そのまま課税標準額になります。
出典:国税庁|No.6301 課税標準

支払内容課税標準の考え方
国外事業者へのネット広告料100万円100万円が課税標準
国外事業者への予約サイト掲載手数料100万円100万円が課税標準
国内事業者から税込110万円でサービスを受けた場合税抜計算が必要となる通常取引
特定役務で源泉所得税を控除して支払った場合源泉徴収前の金額を支払対価として確認する

基本通達でも、特定課税仕入れに係る支払対価の額は当事者間で授受することとした対価の額であり、特定役務について源泉所得税相当額を控除して支払うときでも、支払対価は源泉徴収前の金額になる、と整理されています。
出典:国税庁|消費税法基本通達 第10章第2節

計算例|全額控除できる場合と、税負担が残る場合

国外事業者へインターネット広告料100万円を支払い、その取引が事業者向け電気通信利用役務として特定課税仕入れに該当するとします。自社は原則課税で、課税売上割合が95%未満のため、リバースチャージ方式による申告が必要です。

単純化のため、消費税率10%相当で説明します。

1. 課税売上対応として全額控除できる場合

項目金額
特定課税仕入れに係る支払対価1,000,000円
リバースチャージに係る売上税額側の消費税等100,000円
仕入税額控除できる消費税等100,000円
差引影響額0円

広告費が課税売上にのみ対応し、個別対応方式のうえでも課税売上対応として全額控除できる場合、売上税額側と仕入税額控除側が同額になります。その結果、差引納付額への影響はゼロです。

ただし、「差引ゼロだから何もしなくてよい」という意味ではありません。原則課税で課税売上割合95%未満の課税期間であれば、申告書上は売上税額側と仕入控除側の両方に、きちんと反映する必要があります。

2. 共通対応で課税売上割合70%の場合

項目金額
特定課税仕入れに係る支払対価1,000,000円
リバースチャージに係る売上税額側の消費税等100,000円
課税売上割合70%により控除できる消費税等70,000円
控除できない部分30,000円
差引税負担30,000円

このように、課税売上割合が低い事業者では、リバースチャージ方式によって実際の納税負担が生じることがあります。

とりわけ、医療、介護、金融、保険、住宅賃貸、公益法人、補助金収入の多い法人、非課税売上の大きい法人などでは注意が必要です。海外広告、海外SaaS、海外デジタルサービスの導入が、そのまま消費税負担に直結する場合があるからです。

たとえば保険診療を行う医療業などでは、売上の多くが非課税となり、課税売上割合が95%未満となることが少なくありません。この場合、課税仕入れ等に係る消費税額の全額を控除できるわけではなく、課税売上に対応する部分だけを控除する場面が出てきます。

個別対応方式・一括比例配分方式との関係

リバースチャージ方式では、売上税額側に計上した特定課税仕入れに係る消費税額について、仕入税額控除側でどこまで控除できるかを、あらためて判断します。

このとき、原則課税で全額控除できない事業者は、個別対応方式または一括比例配分方式によって控除額を計算します。

計算方式特定課税仕入れの扱い
個別対応方式課税売上対応、非課税売上対応、共通対応に用途区分する
一括比例配分方式課税仕入れ等に係る税額全体に課税売上割合を乗じる
課税売上対応全額控除の可能性
非課税売上対応控除できない
共通対応課税売上割合等に応じて一部控除
一括比例配分方式個別用途にかかわらず課税売上割合で控除

たとえば、国外広告配信サービスが課税商品の販売促進だけに使われているのであれば、課税売上対応として整理できる可能性があります。一方で、課税売上と非課税売上の双方に関係するブランド広告、法人全体で使うクラウドシステム、全社共通の予約・顧客管理システムなどは、共通対応になる可能性が出てきます。

個別対応方式では、課税仕入れ等を、課税資産の譲渡等にのみ要するもの、非課税資産の譲渡等にのみ要するもの、そして共通して要するものに区分します。合理的な基準によって実態に即した区分ができるものは、その区分に基づいて個別対応方式を適用する、という考え方も示されています。

インボイスは必要か|リバースチャージ対象は「帳簿のみ」が中心

インボイス制度のもとでは、仕入税額控除を受けるために適格請求書の保存が必要、という意識が強まっています。しかし、リバースチャージ方式の対象となる特定課税仕入れについては、適格請求書の保存は要件とされていません。

リバースチャージ方式により申告・納税を行う消費税額は、仕入税額控除の対象にはなるものの、その適用要件として適格請求書の保存は求められず、一定事項を記載した帳簿のみの保存で控除ができる、という整理です。
出典:国税庁|電気通信利用役務の提供と適格請求書の保存

取引仕入税額控除の保存要件
国外事業者から受ける事業者向け電気通信利用役務で、リバースチャージ対象一定事項を記載した帳簿。適格請求書は不要
国外事業者から受ける消費者向け電気通信利用役務原則として適格請求書等と帳簿の保存が必要
国内事業者から受ける通常の課税仕入れ原則として適格請求書等と帳簿の保存が必要
簡易課税・2割特例・3割特例納付税額計算上は実際の仕入インボイス保存を前提としないが、所得税・法人税等の証憑保存は必要

ここで取り違えやすいのが、「海外ベンダーのインボイス番号がないから仕入税額控除できない」という判断です。リバースチャージ対象取引では、適格請求書の有無ではなく、特定課税仕入れに該当するか、帳簿記載があるか、課税方式・課税売上割合の要件を満たすか、という点を確認します。

反対に、国外事業者から受ける消費者向け電気通信利用役務では、リバースチャージではなく、適格請求書等の保存が論点になります。この二つを混同しないことが、実務では欠かせません。

帳簿に何を残すべきか

リバースチャージ対象の特定課税仕入れは、帳簿のみで仕入税額控除ができるとされています。ただし「帳簿のみ」とは、判断の根拠となる資料が不要という意味ではありません。

実務では、帳簿に加えて、取引の実態を説明できる資料をあわせて保存しておく必要があります。

保存・記録項目目的
取引先名・所在地国外事業者かどうかを確認する
取引年月日・利用期間課税期間への帰属を確認する
サービス内容電気通信利用役務又は特定役務かを確認する
事業者向けである理由BtoB判定の根拠を残す
支払対価の額課税標準の基礎を確認する
外貨建ての場合の円換算資料申告額との整合性を確認する
課税方式原則課税・簡易課税・特例の確認
課税売上割合95%未満か、控除割合はいくらか
用途区分課税売上対応・非課税売上対応・共通対応
管理画面・請求明細請求書だけでは不足するサービス内容を補完する
契約書・利用規約事業者向けか、個別契約かを確認する
税区分判定メモ後日、処理理由を説明する

電子取引については、メールでの請求書データのやり取りなど、はじめから紙を用いない取引のデータ保存が義務づけられています。海外SaaSや広告配信の請求書は、管理画面からダウンロードする形式が多いため、後日閲覧できなくなる前に保存しておく運用が求められます。

会計処理|支払時の金銭授受と申告上の税額を分ける

特定課税仕入れでは、国外事業者に日本の消費税を支払うわけではありません。海外ベンダーへ支払う金額は、原則として役務提供の対価そのものです。

一方で申告書では、買手側がその対価を課税標準として売上税額側に計上し、同時に、仕入税額控除側で控除可能額を計算します。

そのため、会計処理では次のような整理が必要になります。

項目実務上の考え方
海外ベンダーへの支払通常の費用又は資産取得として処理
日本の消費税相当額支払時に海外ベンダーへ払うものではない
申告上の売上税額側特定課税仕入れに係る課税標準から計算
申告上の仕入税額控除側用途区分・課税売上割合により計算
税抜経理仮受・仮払の管理方法を会計方針に合わせて整理
控除対象外消費税額等非課税売上対応・共通対応等で税負担が残る場合に決算処理を確認
月次試算表差引ゼロになる取引でも、申告上の集計から漏れないよう管理

リバースチャージ方式では、差引税額がゼロになるケースもあります。しかし、ゼロだから記録が不要というわけではありません。原則課税で課税売上割合95%未満の事業者は、申告上の集計対象として、きちんと管理しておく必要があります。

税務調査で着目されやすい取引

国外事業者へのネット広告料は、税務調査でも確認されやすい取引です。業種別の調査事例でも、国外事業者へ支払ったリスティング広告料が事業者向け電気通信利用役務の提供に該当し、役務提供を受けた国内事業者が納税義務を負う点に着目されています。

調査の場面では、たとえば次のような観点から確認が入ります。

調査上の確認事項説明すべき内容
支払先が国外事業者か契約相手、請求書、所在地
サービス内容広告配信、掲載、SaaS、予約サイト、特定役務等
電気通信利用役務かインターネットを介した役務の本体か、単なる納品・連絡か
事業者向けか役務の性質、取引条件、個別契約、消費者利用制限
特定課税仕入れか国内において受けた特定仕入れか
課税売上割合95%未満か、95%以上か
課税方式原則課税か、簡易課税か、2割特例等か
申告反映課税標準と仕入控除の双方に正しく反映されているか
帳簿記載特定課税仕入れとして記録されているか
用途区分課税売上対応・非課税売上対応・共通対応の根拠
電子証憑管理画面、請求明細、契約、利用規約の保存
仕入税額控除控除過大又は控除漏れがないか

税務調査では、課税要件に該当する事実の認定と、その認定を支える証拠資料の収集・保全が要になります。海外取引や国際課税は専担部署が関与し得る領域であり、契約・商流・資金流・証憑の整合性が丁寧に確認されます。

よくある判断ミス

判断ミス何が問題か
海外ベンダーだからすべて不課税処理事業者向け電気通信利用役務は国内事業者側でリバースチャージ対象となる可能性がある
広告費を通常の課税仕入れとして仮払消費税控除海外ベンダーへ日本の消費税を支払っていないため、通常のインボイス仕入れとは異なる
請求書に日本の消費税がないため控除不可と判断リバースチャージ対象なら適格請求書ではなく帳簿保存で控除を検討する
課税売上割合95%以上なのに仕入税額控除だけ行う経過措置では特定課税仕入れはなかったものとされ、控除だけはできない
簡易課税なのに特定課税仕入れを申告に含める当分の間、簡易課税の課税期間では特定課税仕入れはなかったものとされる
課税売上割合95%未満なのに申告から漏れる売上税額側の計上漏れとなる可能性がある
差引ゼロになるため管理しない用途区分が変わると税負担が生じるため、判断記録が必要
電子取引データを保存していない請求書・管理画面・契約情報を後日説明できない
国外支店で利用したサービスを一律国内取引にする国外事業所等で受け、国外取引にのみ要する場合は国外取引となる例外がある
源泉所得税控除後の支払額だけを課税標準にする特定役務では源泉徴収前の金額を支払対価として確認する場面がある

リバースチャージ方式は、税区分を一つ選べば済む、という話ではありません。取引内容、契約、課税方式、課税売上割合、用途区分、証憑保存。これらを一体として管理していく必要があります。

国外事業所・恒久的施設が関係する場合

国内法人が国外支店で国外事業者のサービスを利用する場合、あるいは、国外事業者が日本国内の恒久的施設でサービスを受ける場合には、本店の所在地だけで単純に割り切れないことがあります。

平成29年1月1日以後、国内事業者が国外事業所等で受ける事業者向け電気通信利用役務のうち、国内以外の地域において行う資産の譲渡等にのみ要するものは国外取引とされ、課税対象とはなりません。反対に、国外事業者が恒久的施設で受ける一定の事業者向け電気通信利用役務については、国内取引となる場合があります。
出典:国税庁|リバースチャージ方式による申告を要する者

状況実務上の注意
国内法人の国外支店が国外広告を利用国外で行う取引にのみ要するものか確認
国内本社と国外支店が共通でSaaSを利用利用部門・用途・契約主体を確認
国外法人の日本支店が国外SaaSを利用国内PEで国内取引に要するものか確認
グループ会社が一括契約し費用配賦契約当事者、受益者、立替・再請求の整理が必要
多国籍企業の共通IT費法人税・移転価格・源泉税とは別に消費税の内外判定を確認

この領域では、消費税だけでなく、法人税、移転価格、源泉所得税、契約法務、グループ内配賦の設計までが関係してきます。ですから、経理部門だけで抱え込まず、契約・IT・海外拠点・税務の担当者が同じ資料を見ながら確認することが望まれます。

7・5・3割控除との関係|リバースチャージ対象取引とは混同しない

令和8年度税制改正では、免税事業者などインボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れに係る経過措置について、控除可能割合が70%、50%、30%へ段階的に見直され、一定の仕入先別限度額も改められています。
出典:国税庁|令和8年度税制改正特集

ただし、リバースチャージ対象の特定課税仕入れは、通常の「免税事業者等からインボイスなしで受けた課税仕入れ」と同じ整理ではありません。

論点主な対象
7・5・3割控除インボイス発行事業者以外の者からの通常の課税仕入れ
リバースチャージ方式国外事業者から受ける事業者向け電気通信利用役務・特定役務
消費者向け電気通信利用役務国外事業者又は特定プラットフォーム事業者のインボイス保存が問題になる
簡易課税・2割特例・3割特例実際の仕入税額を用いない納付税額計算方式として別途確認

「海外事業者の登録番号がないから7・5・3割控除で処理する」という発想は危険です。まずは、その取引がリバースチャージ対象なのか、消費者向け電気通信利用役務なのか、それとも通常の国外取引なのかを、丁寧に区分するところから始めます。

社内運用|海外サービス導入時に経理が後追いしない仕組みを作る

リバースチャージ方式のミスは、決算のときに突然生まれるわけではありません。その多くは、海外SaaSや広告サービスを現場部門がカード決済で導入し、経理部門が月末にカード明細だけを見て税区分を選ぶ、その段階で生じます。

月次監査では、新規契約、更新、解約、設備投資、資産の売却・除却、業務システムから会計システムへの仕訳連携、電子取引の有無などを、あらかじめ確認しておくことが重要とされています。

海外サービスについては、次のような社内フローを整えておくとよいでしょう。

タイミング確認内容
導入前提供者の所在地、サービス内容、契約主体、利用部門
契約時事業者向けか、消費者向けか、利用規約、個別契約
支払開始時請求書・管理画面・カード明細の取得方法
月次処理税区分、特定課税仕入れ、用途区分、課税売上割合
四半期・決算前原則課税・簡易課税・特例適用の確認
申告時課税標準・仕入控除・控除対象外税額の整合
更新時サービス内容、契約先、請求主体、税区分の再確認
税務調査前判断メモ、証憑、申告書との突合

とりわけ、広告宣伝費、支払手数料、通信費、販売促進費、システム利用料、業務委託費といった勘定科目は要注意です。国内課税仕入れ、国外不課税支出、リバースチャージ対象、消費者向け電気通信利用役務が、同じ科目の中に混在しやすいからです。

税区分マスターに入れるべきコード

海外サービスが一定数ある会社では、会計ソフトの標準税区分だけでは管理が追いつかないことがあります。少なくとも、次のような区分を検討しておきたいところです。

税区分例使う場面
国外不課税支出国外で完結する通常役務、国外取引
国内課税仕入れ・インボイスあり国内事業者からの通常仕入れ
消費者向け電気通信利用役務・インボイスあり国外事業者又は特定プラットフォーム事業者のインボイス保存対象
消費者向け電気通信利用役務・インボイスなし原則控除不可の管理対象
特定課税仕入れ・リバースチャージ対象原則課税・課税売上割合95%未満の課税期間
特定課税仕入れ・経過措置により申告除外課税売上割合95%以上、簡易課税、2割特例等
特定役務の提供芸能・スポーツ等の国外事業者役務
要確認新規サービス、契約不明、利用規約未確認

税区分コードは、細かくしすぎると運用が回りません。とはいえ、「海外支払=対象外」の一本だけでは、リバースチャージの漏れを防げません。取引量、担当者の習熟度、会計システム、月次レビュー体制。これらに応じて、実行可能な粒度を設計することが大切です。

判断メモの作り方

リバースチャージ方式の判断では、結論だけでなく、その結論にたどり着いた事実と根拠まで残しておきます。

項目記載内容
サービス名例:海外広告配信、予約サイト掲載、SaaS
提供者法人名、所在地、国内事業者・国外事業者
契約主体自社本社、支店、グループ会社、海外拠点
サービス内容電気通信利用役務、特定役務、通常役務等
事業者向け判定役務の性質、取引条件、個別契約、消費者申込制限
内外判定国内取引か、国外取引か
課税方式原則課税、簡易課税、2割特例等
課税売上割合95%未満か、95%以上か
申告処理リバースチャージ対象、経過措置により申告除外等
用途区分課税売上対応、非課税売上対応、共通対応
保存資料契約書、利用規約、請求書、管理画面、カード明細
再確認時期契約更新、課税方式変更、課税売上割合変動、制度改正

判断メモは、税務調査のためだけのものではありません。担当者の交代、サービスの更新、組織再編、課税方式の変更、課税売上割合の低下。こうした変化があったときに、過去の処理を再現できる状態にしておくためのものです。

主な出典・確認先

本記事は、2026年6月26日を基準日として、国税庁の公表情報と実務上の取扱いを踏まえて作成しています。個別の取引にあたっては、契約書、利用規約、請求書、管理画面、支払資料、そして自社の課税方式、課税売上割合、用途区分をご確認ください。

リバースチャージ方式は、海外サービス導入前から確認する

リバースチャージ方式は、申告書を作るときだけの論点ではありません。

海外広告を始める。海外SaaSを導入する。海外予約サイトへ掲載する。国外事業者を国内イベントに招く。その一歩を踏み出した時点で、消費税の判断はもう始まっています。

まず、サービスの内容を確認します。次に、それが国外事業者から受ける事業者向け電気通信利用役務、または特定役務に該当するかを判断します。そのうえで、自社の課税方式、課税売上割合、用途区分を確かめ、申告に含めるのか、経過措置により除外するのか、帳簿や証憑をどう保存するのかを決めていきます。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、消費税を単なる申告計算としてではなく、取引設計、契約、請求、証憑保存、会計処理、資金繰り、税務調査対応までを含めた経営管理の一部として整理することを重視しています。

国外事業者への広告費、SaaS利用料、予約サイト掲載料、特定役務、海外拠点で利用するクラウド費用などについて、自社の契約・請求・税区分・申告処理を確認したいときは、サービス一覧、契約書、請求書、管理画面、現在の税区分マスター、課税売上割合の試算を整理したうえで、犬飼公認会計士・税理士事務所のお問い合わせページからご相談ください。

この記事の振り返り

重要事項実務上のポイント
リバースチャージ方式国外事業者から受ける一定の役務について、国内の買手側が申告・納税する方式
特定課税仕入れ国内において国外事業者から受けた事業者向け電気通信利用役務や特定役務
事業者向け電気通信利用役務広告配信、予約サイト掲載、事業者向けSaaSなどが代表例
消費者向け電気通信利用役務電子書籍、音楽、動画、汎用アプリなどは別処理になりやすい
特定役務国外事業者が国内で行う一定の芸能・スポーツ等の役務提供
国外事業者の表示義務表示がなくても買手側の納税義務が消えるわけではない
申告が必要な事業者原則課税で課税売上割合95%未満の事業者
課税売上割合95%以上当分の間、特定課税仕入れはなかったものとされ、申告にも控除にも含めない
簡易課税当分の間、特定課税仕入れはなかったものとされる
免税事業者特定課税仕入れについても申告不要
課税標準支払対価の額。110分の100で割り戻さない
仕入税額控除リバースチャージ対象なら帳簿のみで控除可能
適格請求書リバースチャージ対象では保存要件ではない
用途区分課税売上対応、非課税売上対応、共通対応で控除額が変わる
差引ゼロ全額控除なら税負担はゼロでも申告反映は必要
税負担が残る場合非課税売上対応や共通対応では控除対象外が生じる
納税義務判定特定課税仕入れの支払対価は課税売上高に含めない
税務調査海外広告費、SaaS、予約サイト掲載料は確認されやすい
社内運用導入前確認、税区分マスター、帳簿、電子証憑、判断メモが重要
専門家相談のタイミング海外サービス導入前、課税方式変更前、課税売上割合が95%を下回りそうなとき
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