M&Aの買収資金を検討していくと、銀行融資だけでは買収代金や関連費用をまかないきれない場面に行き当たることがあります。
このときに選択肢として浮かび上がってくるのが、自己資金の追加投入、外部株主からの出資、売主との支払条件の調整、そしてメザニンです。
ただ、メザニンは「銀行融資で足りない部分を埋める便利な資金」ではありません。シニアローンとメザニンを組み合わせるというのは、買収後のキャッシュ・フローを、どの資金提供者に、どの順番で、どの条件で分配していくのかを設計する作業にほかなりません。
シニアローン、劣後ローン、優先株式、新株予約権、普通株式は、単に名前が違うだけの存在ではありません。返済順位、リスク負担、利回り、担保、コベナンツ、経営への関与、そして将来の株主構成への影響まで、それぞれ性格が異なります。
この記事では、LBO・買収ファイナンスにおいて、シニアローンとメザニンをどう組み合わせて考えるべきかを整理していきます。個別の証券評価や契約条項の逐条解説には踏み込みません。あくまで、買収判断に必要な「資金階層の見方」と「組み合わせの判断軸」に絞ってお話しします。
シニアローンとメザニンは「上下関係」で見る
買収ファイナンスでは、資金調達を横並びで眺めてしまうと、判断を誤ります。
銀行融資、劣後ローン、優先株式、普通株式を、単なる「資金調達手段の候補」として並べるのではなく、返済順位とリスク負担の階層として捉える。この視点が出発点になります。
一般に、買収ファイナンスの資金階層は、次のように整理できます。
| 資金の種類 | 位置づけ | 主な特徴 |
|---|---|---|
| シニアローン | 最も優先されるデット | 返済順位が高く、担保・保証・コベナンツによる保全が強い |
| メザニン | シニアと普通株式の中間 | 劣後ローン、優先株式、新株予約権などで設計される |
| 普通株式・スポンサー出資 | 最も劣後する資本 | 損失を最初に負担する一方、企業価値上昇の利益を享受する |
シニアローンは、回収可能性を最も重視する資金です。そのため金利は相対的に低くなりやすい一方、担保、保証、財務コベナンツ、情報提供義務、追加借入制限、配当制限などによって、貸付人の保全が厚く設計されます。
メザニンは、その下に位置します。シニアローンより返済順位が劣後する分、より高いリターンを求めます。一方で、普通株式よりは優先的に回収したい、という性格もあわせ持ちます。
つまりメザニンは、「借入と出資の中間にある資金」と捉えるよりも、「シニアローンでは負えないリスクを、普通株式ほど完全には劣後しない形で引き受ける資金」と捉えたほうが、実務の感覚に近いと考えています。
実際の買収ファイナンスでは、シニアローン、劣後ローン、エクイティなどが組み合わされ、資金調達側と資金使途側を対応させながらストラクチャーが組まれていきます。
シニアローンの役割は「返済の土台」を作ること
シニアローンは、買収ファイナンスの中心に据えられるデットです。
買収価格、対象会社のキャッシュ・フロー、買主グループの返済能力、担保・保証、既存借入、事業計画──こうした要素を踏まえ、金融機関が優先的に回収できる範囲で貸付を行います。
ここで意識しておきたいのは、シニアローンは「最大限借りるもの」ではなく、「優先返済に耐える範囲で組むもの」だということです。
シニアローンが厚くなりすぎると、買収後のキャッシュ・フローの大部分が元利返済に吸い取られてしまいます。その結果、対象会社の運転資金、設備投資、人材投資、システム投資、予備資金が不足するおそれが出てきます。
シニアローンは、返済順位が高いから安全、という資金ではありません。むしろ返済順位が高いからこそ、他の資金より先にキャッシュを使います。買収後の会社から見れば、最も早く、最も確実に支払わなければならない資金なのです。
また、買収ファイナンスのローン契約では、前提条件、期限前弁済、表明保証、コベナンツ、期限の利益喪失事由などが相互に結びつき、通常のコーポレートローンよりも借入人の活動を細かく制約する構造になりやすい点も見落とせません。
したがって、シニアローンを検討する際は、次の視点が欠かせません。
| 確認すべき視点 | 内容 |
|---|---|
| 返済原資 | 対象会社または買主グループのキャッシュ・フローで無理なく返済できるか |
| 担保・保証 | 株式、債権、不動産、動産、保証などの保全をどこまで求められるか |
| 財務コベナンツ | レバレッジ、DSCR、純資産、利益水準などを買収後も守れるか |
| 情報提供義務 | 月次・四半期・年次の資料提出体制を整えられるか |
| 経営自由度 | 追加借入、配当、投資、資産売却、追加買収にどの程度の制限がかかるか |
シニアローンは安い資金に見えます。しかしその分だけ、契約上の制約と優先返済の圧力がついてまわる資金でもあります。
メザニンを使うのはどのような場面か
メザニンは、シニアローンだけでは買収資金をまかないきれない場合に検討されます。
ただ、「足りないからメザニンを入れる」という発想だけでは不十分です。大切なのは、なぜシニアローンでは足りないのか、その理由を見極めることです。
シニアローンが足りない背景には、大きく分けて次のようなものがあります。
| シニアローンが足りない理由 | メザニン検討の意味 |
|---|---|
| 買収価格が高い | 価格水準そのものを再検証すべき可能性がある |
| 対象会社CFが限定的 | 返済原資不足をメザニンで隠していないか確認する |
| 担保・保証が不足している | 保全不足を誰がどこまで負担するか整理する |
| 自己資金を残したい | 買収後の手元流動性を残す合理性があるか検討する |
| 普通株式の希薄化を避けたい | 経営権を維持しながら資本性資金を入れる設計が必要 |
| 将来の企業価値上昇を投資家と分けたい | エクイティ・キッカーや優先株式の設計が論点になる |
メザニンは、シニアローンよりリスクを取り、普通株式よりは回収を優先したい資金です。だからこそ、利息、優先配当、繰延利息、償還プレミアム、新株予約権などを組み合わせ、そのリスクに見合うリターンを設計します。
実際の買収ファイナンスでも、メザニン投資には、劣後ローン、優先株式、新株予約権など複数の手法があり、それぞれ関連契約やシニア貸付人との調整が必要になります。
ここで強調しておきたいのは、メザニンは調達可能額を増やす道具ではあっても、返済能力を増やす道具ではない、ということです。
対象会社のキャッシュ・フローが不足している案件にメザニンを重ねても、資本構成が複雑になり、資金繰りの負担が重くなるだけです。メザニンを入れる前に、まずは買収価格、返済原資、シニアローンの水準、自己資金、買収後の投資余力を、もう一度確かめておく必要があります。
劣後ローンとしてのメザニン
メザニンの代表的な形が、劣後ローンです。
劣後ローンは、法的にはあくまで借入です。利息が発生し、返済期日があり、契約違反があれば期限の利益喪失の問題も生じます。
ところがシニアローンとの関係では、その返済順位が劣後します。シニア貸付人が優先的に回収できるよう、劣後ローンの元利金支払、期限前弁済、担保実行、相殺、契約変更、債権譲渡などに制約が設けられるのです。
こうした調整のために用いられるのが、債権者間協定書や担保権者間協定書です。
劣後ローンを入れる場合に肝心なのは、「借入だから返済すればよい」という見方をしないことです。
劣後ローンは、返済義務がありながらも、シニアローンとの関係では自由に返済できないことがあります。シニアローンが残っている間は、メザニン貸付人への元本返済や期限前弁済、追加担保提供、契約変更が制限される場合があるからです。
劣後ローンでは、次のような論点を確認していきます。
| 論点 | 確認すべき内容 |
|---|---|
| 劣後性 | シニアローンに対して、どの範囲で元利金支払が劣後するか |
| 利息 | 現金利息か、繰延利息か、PIKか |
| 元本返済 | シニアローン完済前に返済できるか |
| 期限前弁済 | 買主側から早期返済できるか、違約金があるか |
| 担保・保証 | 劣後担保・劣後保証を設定するか |
| 契約違反時対応 | シニアとメザニンの権利行使をどう調整するか |
| 債権譲渡 | メザニン貸付人の地位を第三者へ譲渡できるか |
劣後ローンは、普通株式より回収を優先したい投資家にとっては使いやすい資金です。とはいえ買主側から見れば、将来に返済負担が残る資金でもあります。
買収後のキャッシュ・フローが予想より下振れすれば、シニアローンだけでなく、劣後ローンの利息・元本も重くのしかかってきます。とりわけ繰延利息やPIKが積み上がる設計では、当面の資金繰りは軽く見えても、将来の返済負担が静かに膨らんでいく可能性があります。
優先株式としてのメザニン
メザニンは、優先株式の形で設計されることもあります。
優先株式は、普通株式より優先して配当や残余財産の分配を受けられる株式です。劣後ローンと違って、形式上は株式であり、負債ではありません。そのため返済義務というより、優先配当、取得請求権、取得条項、普通株式への転換、議決権、拒否権などを組み合わせて投資回収を設計します。
会社法上、株式会社は内容の異なる種類株式を発行することができ、新株予約権についても、その内容を定めて発行する制度が用意されています。もっとも、種類株式や新株予約権の発行、剰余金の配当、自己株式取得などには、会社法上の手続や分配可能額規制などが関わってきます。個別の設計にあたっては、現行法と定款を確認しておく必要があります。
優先株式は、買収後の財務指標を負債として悪化させにくい、という面があります。一方で、配当や取得対価の支払には、会社法上の分配可能額や、実際の現金の制約が関係してきます。
買収ファイナンスの実務では、優先配当は劣後ローンの現金利息に近い性格を持ちます。ただし優先配当は、発行会社に分配可能額が存在しない限り行えません。そのため、未払分を累積させる設計が使われることがあります。
優先株式では、次のような論点を確認していきます。
| 論点 | 確認すべき内容 |
|---|---|
| 優先配当 | 配当率、累積型か非累積型か、参加型か非参加型か |
| 取得請求権 | 投資家が金銭を対価として取得請求できるか |
| 取得条項 | 発行会社側から買い戻せるか |
| 普通株式転換 | どの条件で普通株式に転換されるか |
| 議決権 | 議決権の有無、拒否権、種類株主総会の要否 |
| 分配可能額 | 配当・取得対価の支払が可能か |
| シニアローンとの関係 | 優先配当や取得請求がシニアローンに劣後するか |
| 株主間契約 | イグジット時の共同売却・売却参加をどう調整するか |
優先株式は「返済しなくてよい資金」ではありません。投資家から見れば、優先配当、取得請求、転換、売却などを通じて、一定の回収を期待して投資しているからです。
買主側から見ると、優先株式は、普通株式より希薄化を抑えながら資本性資金を入れられる可能性があります。しかし優先株主の権利を強く設計すると、買収後の経営判断、追加資金調達、配当、売却、再編、リファイナンスに制約が生じてきます。
新株予約権・エクイティ・キッカーの意味
メザニン投資家は、劣後ローンや優先株式に加えて、新株予約権を求めることがあります。
これは、エクイティ・キッカーと呼ばれることがあります。
エクイティ・キッカーとは、利息や優先配当に加えて、対象会社の企業価値が上昇した場合に、その利益の一部をメザニン投資家が受け取れるようにする仕組みです。買収ファイナンスでは、劣後ローンや優先株式によるメザニン投資とあわせて、新株予約権が発行されることがあります。
新株予約権は、将来、一定の条件で株式を取得できる権利です。発行会社にとっては、当初の現金流出を抑えながら投資家にアップサイドを付与できる一方で、将来の株主構成や希薄化に影響します。
ここで注意したいのは、エクイティ・キッカーは「おまけ」ではない、ということです。
これは、メザニン投資家が高いリスクを取る代わりに、企業価値上昇時の利益を受け取るための経済条件です。言い換えれば、現金利息を抑えられる代わりに、将来の株式価値の一部を渡している、と理解しておくべきものです。
実務では、シニアローン完済前に新株予約権が行使されると、シニア貸付人が担保に取っている株式が希薄化するおそれがあります。そのため、シニアローン完済を新株予約権の行使条件とする調整が行われることがあります。
エクイティ・キッカーを検討するときは、次の点を確認します。
| 論点 | 確認すべき内容 |
|---|---|
| 行使条件 | いつ、どの条件で行使できるか |
| 行使価額 | 低額行使による希薄化がどの程度生じるか |
| シニアローンとの関係 | シニアローン完済前の行使が制限されるか |
| 株主間契約 | 行使後の株式の売却、譲渡、共同売却をどう扱うか |
| 経営権への影響 | 将来の議決権比率、拒否権、支配権に影響しないか |
| 税務・会計 | 発行時・行使時・売却時の取扱いを確認しているか |
資金調達の時点では目立たなくても、新株予約権は将来の株主構成を変える可能性を秘めています。買収後に追加出資や売却を検討する段階で、想定外の制約として顔を出すこともあります。
シニアとメザニンの組み合わせで本当に見るべきこと
シニアローンとメザニンを組み合わせる際、最初に考えるべきは「いくら調達できるか」ではありません。
本当に見るべきなのは、次の順序です。
1. まず買収後の返済可能キャッシュ・フローを見る
シニアローンとメザニンの合計額は、買収後のキャッシュ・フローで支えられなければなりません。
営業利益やEBITDAだけでなく、税金、運転資金、設備投資、既存借入返済、追加投資、最低限必要な手元資金を差し引いたうえで、どれだけの返済余力が残るかを確認します。
ここで過大な事業計画を置けば、シニアローンもメザニンも、一見成立しているように見えてしまいます。しかし買収後に計画未達となれば、まずシニアローンのコベナンツや返済に影響が及び、続いてメザニンの利息・配当・回収条件が問題として表面化します。
2. シニアローンは「安全に返せる範囲」に抑える
シニアローンは安い資金であるため、つい多く使いたくなります。
しかしシニアローンを過大にすると、対象会社グループのキャッシュ・フローがシニア返済に吸収され、メザニンや普通株主へのリターン以前に、事業運営そのものが苦しくなっていきます。
シニアローンの水準は、ベースケースだけでなく、ダウンサイドでも返済とコベナンツ維持が可能な範囲で考える必要があります。買収ファイナンスでは、財務コベナンツとしてレバレッジ・レシオ、DSCR、インタレスト・カバレッジ、最低純資産、最低EBITDAなどが用いられることがあります。
3. メザニンは「不足額」ではなく「リスク負担」として考える
メザニンを入れる理由は、単にシニアローンで足りないから、ではありません。
買収後のリスクを、誰が、どの順位で、どのリターンと引き換えに負担するのか。それを設計するために入れるものです。
メザニン投資家は、シニア貸付人より高いリスクを取り、普通株主よりは優先的に回収したい立場にあります。そのため、利息、優先配当、取得請求権、新株予約権、モニタリング権、契約上の拒否権などを求めてきます。
買主側は、その条件を受け入れることで何を得て、何を失うのかを、はっきりと確認しておかなければなりません。
4. 普通株式のクッションを残す
シニアローンとメザニンを厚くしすぎると、普通株式のクッションが薄くなります。
普通株式は、損失を最初に負担する資本です。このクッションが薄いと、わずかな業績の下振れでも、シニアローンやメザニンに影響が及んでしまいます。
買収ファイナンスでレバレッジを活用するほど、エクイティのクッションは小さくなり、借入人の経営自由度も狭まっていく構造があります。
普通株式のクッションは、単なる自己資金割合ではありません。買収後の下振れ、追加投資、想定外の支出を吸収する余力そのものです。
5. 契約間の整合性を確認する
シニアローン、劣後ローン、優先株式、新株予約権、株主間契約、買収契約は、それぞれが独立して存在しているわけではありません。
シニアローンでは禁止されている支払が、優先株式の取得請求権では想定されている。劣後ローンの期限前弁済をしたいのに、債権者間協定で制限されている。新株予約権の行使が、シニア貸付人の担保権や株主構成に影響する。株主間契約の共同売却条項が、金融機関の担保実行やスポンサーのイグジットと衝突する。
こうした不整合があると、買収後の資本政策やリファイナンスの局面で問題になります。
メザニン投資では、シニア貸付人、メザニン投資家、発行会社、スポンサーの間で、関係者間合意書、債権者間協定書、株主間契約などを用いて、権利義務を調整しておく必要があります。
利回りは「高い・低い」ではなく、何のリスクの対価かを見る
メザニンの利回りは、シニアローンより高くなります。
ここで、「高い資金だから避ける」と考えるのも、「銀行融資より柔軟だから使う」と考えるのも、どちらも不十分です。
利回りは、リスクの対価だからです。
メザニン投資家は、シニアローンよりも後順位で、回収可能性が低く、場合によっては無担保または劣後担保で、しかも買収後の事業リスクを一定程度負担しています。だからこそ、現金利息、繰延利息、優先配当、償還プレミアム、新株予約権、普通株式転換などを通じて、リスクに見合うリターンを求めるのです。
買主側から見れば、メザニンの利回りは資本コストの一部です。単なる金利負担として見るのではなく、買収後の企業価値向上によって吸収できるコストなのか、返済原資を過度に圧迫しないか、将来の株主価値をどの程度渡すことになるのかを、あわせて確認する必要があります。
資本戦略は、会社の成長期や衰退期において将来を左右する重要な戦略です。増資、種類株式、新株予約権などは、成長期の資金需要に応える手段として活用されることがあります。
そのうえで、メザニンの利回りを見るときは、次のように分解して捉えます。
| リターン要素 | 買主側から見た意味 |
|---|---|
| 現金利息 | 買収後キャッシュ・フローを直接圧迫する |
| 繰延利息・PIK | 当面の資金繰りは軽いが、将来の返済負担が増える |
| 優先配当 | 分配可能額や現金の制約を受ける |
| 償還プレミアム | 早期返済・リファイナンス時のコストになる |
| 新株予約権 | 将来の希薄化・株主構成に影響する |
| 取得請求権 | 将来の資金流出や交渉圧力になる |
| 拒否権・同意権 | 経営の自由度に影響する |
安い資金かどうかではなく、どのリスクを、どの条件で引き受けてもらっているのか。そこを確認することが大切です。
メザニンを入れることで金融機関説明は楽になるのか
メザニンを入れると、シニアローンの金額を抑えられるため、金融機関から見たシニアローンの安全性が高まる場合があります。
たとえば、買収資金のすべてをシニアローンで賄おうとすると、レバレッジが高すぎる、返済期間が長すぎる、コベナンツ余裕が乏しい、担保余力が不足する、といった問題が出てくることがあります。
その一部をメザニンやエクイティで補えば、シニア貸付人にとっては回収可能性が高まり、融資検討が前に進みやすくなる可能性があります。
ただし、メザニンを入れれば必ず金融機関説明が楽になる、というわけではありません。
むしろ資本構成が複雑になれば、金融機関は次の点を確認してきます。
| 金融機関が確認する事項 | 理由 |
|---|---|
| シニアローンの優先性 | メザニンに先にキャッシュが流れないか |
| 劣後契約の有効性 | 劣後ローンの返済・担保実行が制限されているか |
| 優先株式の回収条件 | 取得請求権や優先配当がシニアローンを圧迫しないか |
| 新株予約権の行使条件 | 株式担保や支配権に影響しないか |
| 情報提供体制 | 複数の資金提供者に説明できる月次管理があるか |
| 下振れ時対応 | シニアとメザニンの利害調整が可能か |
金融機関の融資審査では、債務者評価、案件事情、資金使途、返済原資、保全、他行状況・資金調達余力などが、順に確認されていきます。
メザニンは、金融機関から見れば、シニアローンの下に厚いクッションを作る資金にもなります。一方で条件次第では、シニアローンの回収を妨げる複雑な権利者になることもあります。
ですから金融機関説明では、「メザニンを入れました」というだけでは足りません。
シニアローンの優先性がどう守られているか。メザニンの元利金・配当・取得請求がどの範囲で制限されるか。買収後のキャッシュ・フローで、シニア、メザニン、事業投資をどの順番でまかなうか。下振れ時に、誰がどの損失を負担するか。
ここまで説明できる必要があります。
中小M&Aでメザニンを考えるときの現実感
中小M&Aでは、投資銀行型の複雑なメザニンをそのまま使うことは、それほど多くありません。
案件規模、契約コスト、投資家層、管理体制、資料整備、法務・税務対応の負担が大きいからです。
それでも、中小M&Aにおいても、メザニン的な発想そのものは重要です。
銀行融資だけでは足りない。自己資金を使い切ると、買収後の資金繰りが不安になる。売主に分割払いを依頼したい。外部株主を入れると経営権が心もとない。対象会社の既存借入・個人保証の整理が必要になる。買収後の追加投資資金も残しておきたい。
こうした場面では、劣後性のある資金、売主ローン、分割払い、優先株式的な出資、種類株式、新株予約権、外部投資家との共同投資などを、広い意味での資金階層として捉えていく必要があります。
ただし中小M&Aでは、過度に複雑なストラクチャーを作ると、契約コストや説明コストが取引規模に見合わなくなることがあります。
大切なのは、複雑なメザニンを使うことではありません。
誰が最初に損失を負担し、誰が優先的に回収し、買収後のキャッシュ・フローをどの順番で使うのか。それを明確にしておくことです。
シニアローンとメザニンを組み合わせる前に確認すべき論点
シニアローンとメザニンを組み合わせる前に、少なくとも次の論点は整理しておきたいところです。
買収価格は返済可能性から見ても許容できるか
バリュエーション上の妥当価格と、買収後に返済できる価格は、必ずしも一致しません。
シニアローンとメザニンを重ねて買える価格にするのではなく、返済原資から見て耐えられる価格なのかを確認します。
シニアローンの水準は保守的か
シニアローンは、最も優先して返済する資金です。
ベースケースで返せるだけでなく、売上減少、粗利率悪化、運転資金増加、設備投資の前倒し、シナジー遅延が起きても耐えられるかを確認します。
メザニンの支払条件は事業資金を圧迫しないか
現金利息、優先配当、取得請求、繰延利息、償還プレミアムが、買収後の資金繰りに与える影響を確認します。
当面の支払を抑える設計であっても、将来の返済負担が膨らむ場合があります。
普通株式のクッションは十分か
自己資金や普通株式出資が薄すぎると、対象会社の業績下振れを吸収できません。
メザニンを増やせば、普通株式の投資効率は高まるように見えます。しかし同時に、財務の耐久力は下がっていきます。
契約上の優先劣後は整理されているか
シニアローン、劣後ローン、優先株式、新株予約権、株主間契約、買収契約の間で、不整合がないかを確認します。
とりわけ、配当、取得請求、期限前弁済、担保実行、株式売却、追加借入、リファイナンスに関する制限は重要です。
買収後の管理体制はあるか
メザニンを入れると、説明すべき相手が増えます。
金融機関、メザニン投資家、株主、経営陣に対して、月次試算表、資金繰り表、予算実績、コベナンツ計算、投資計画を説明できる体制が必要です。
まとめ|シニアとメザニンの組み合わせは、資金不足を埋める作業ではない
シニアローンとメザニンを組み合わせることは、単なる資金調達の工夫ではありません。
それは、買収後のキャッシュ・フローを、シニア貸付人、メザニン投資家、普通株主、そして対象会社の事業運営の間で、どう配分するかを決める資本構成の設計です。
シニアローンは、優先的に返済される資金です。メザニンは、シニアよりリスクを取り、普通株式より回収を優先したい資金です。普通株式は、損失を最初に負担し、企業価値向上の最終的な利益を受ける資金です。
この階層を理解しないまま、買収資金の不足分をメザニンで埋めてしまうと、買収後の返済負担、契約制約、希薄化、投資余力の不足、金融機関説明の難しさが、一気に表面化してきます。
メザニンを使うべきかどうかは、調達可能性だけでは判断できません。
買収価格は妥当か。対象会社のキャッシュ・フローは、保守的に見ても返済に耐えるか。シニアローンをどこまでに抑えるべきか。普通株式のクッションは十分か。メザニンのリターン条件は、将来の資金繰りを圧迫しないか。新株予約権や優先株式が、株主構成にどう影響するか。金融機関、投資家、株主に説明できる契約関係になっているか。
ここまで整理して初めて、シニアローンとメザニンの組み合わせは、買収を成立させるだけでなく、買収後も耐えられる資本構成になります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、M&Aを検討する段階から、買収価格、必要資金、返済原資、シニアローン、メザニン、自己資金、株主構成、金融機関説明を一体で整理する支援を行っています。銀行融資だけでは買収資金が不足する一方で、自己資金の使い切りや外部株主の受入れにも不安がある場合は、お問い合わせページからご相談ください。
振り返り
| 論点 | 確認すべきこと |
|---|---|
| シニアローン | 最優先で返済される資金であり、担保・保証・コベナンツによる制約が強い |
| メザニン | シニアローンと普通株式の中間に位置し、高いリスクに見合うリターンを求める |
| 劣後ローン | 借入ではあるが、シニアローンとの関係で元利金支払や担保実行が制限される |
| 優先株式 | 配当・取得請求・転換・拒否権などにより投資回収を設計するが、分配可能額等の制約がある |
| 新株予約権 | メザニン投資家に企業価値上昇の利益を付与する一方、将来の希薄化を生じさせる |
| 返済順位 | シニア、メザニン、普通株式の順に回収可能性とリスク負担が異なる |
| 利回り | 高い・低いではなく、どのリスクの対価かを確認する |
| 契約調整 | 債権者間協定、関係者間合意、株主間契約で優先劣後と権利行使を整理する |
| 金融機関説明 | メザニンを入れる理由、シニアの優先性、下振れ時対応を説明できる必要がある |
| 最終判断 | 資金不足を埋めるのではなく、買収後も耐えられる資本構成かを見る |