役員給与は、法人税の調査でとりわけ確認されやすい論点です。
理由はシンプルです。役員給与は会社の利益を直接押し下げる支出でありながら、その支払い先が、会社の意思決定権限を握る役員自身だからです。
通常の仕入や外注費であれば、取引先との契約、納品、請求、支払という外部取引の流れがあり、その実態を追うことができます。ところが役員給与は、会社内部の意思決定だけで金額や支給時期が決まってしまいます。
そのため税務調査では、「実際に支払ったかどうか」にとどまらず、次のような点まで確認されます。
- 誰に対する支給か
- その人は法人税法上の役員に該当するか
- 株主総会・取締役会・社員総会等で、どのように決議したか
- 定款や議事録と、実際の支給額が整合しているか
- 定期同額給与として、毎月同額に支給されているか
- 期中改定、遡及増額、減額改定に合理的な理由があるか
- 事前確定届出給与について、届出期限・支給日・支給額が一致しているか
- 役員賞与、決算賞与、臨時支給を損金処理していないか
- 会社が負担した役員の私的支出が、認定賞与とされる余地はないか
- 役員貸付金、仮払金、未払金、立替金などの処理に実態があるか
- 源泉所得税、社会保険、年末調整、法定調書と整合しているか
このように、役員給与の調査対応では、法人税法、会社法、会計処理、源泉所得税、そして社内の意思決定の記録を、それぞれ分けて整理しておく必要があります。
本稿では、法人税調査で問題になりやすい定期同額給与、事前確定届出給与、認定賞与を中心に整理します。役員退職給与の損金算入や源泉徴収計算そのものは、別の機会に扱うべき論点ですので、ここでは必要な接点に絞って触れることにします。
役員給与は「支払ったから損金」ではない
法人が役員に給与を支給すれば、会計上は通常、費用として処理されます。しかし法人税法上は、役員給与にだけ特別な損金算入ルールが設けられています。
国税庁の整理によれば、法人が役員に支給する給与のうち、定期同額給与・事前確定届出給与・一定の業績連動給与のいずれにも該当しないものは、損金の額に算入されません。
また、これらに該当する給与であっても、不相当に高額な部分は損金算入できません。さらに、事実を隠蔽し、または仮装して経理することにより支給するものは、その全額が損金不算入となります。
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
ここが、一般の従業員給与との大きな違いです。
従業員給与であれば、勤務実態、支給基準、金額の相当性、源泉徴収といった点が主な確認対象になります。これに対して役員給与では、それらに加えて、法人税法上の損金算入類型に該当するか、支給決定の手続が適切か、会社の利益調整に使われていないか、という観点まで問われます。
ですから、調査の場で「毎月支払っています」「給与台帳に載っています」「源泉徴収もしています」と述べるだけでは足りません。
会社として、いつ、誰が、どの権限に基づいて、どの金額を、どの期間の職務執行の対価として決めたのか。役員給与については、ここまで説明できることが求められます。
まず確認すべきは「誰が役員か」
役員給与の調査対応では、最初に「その人が税務上の役員に該当するか」を確認することから始めます。
法人税法上の役員は、登記上の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事、清算人だけにとどまりません。これら以外であっても、法人の使用人以外の者で、その法人の経営に従事している者は役員に含まれる、と国税庁は説明しています。
相談役や顧問といった肩書であっても、法人内の地位や職務内容からみて、実質的に経営に従事していると認められる場合には、法人税法上の役員に該当し得るわけです。
出典:国税庁|No.5200 役員の範囲
この点は、税務調査で大きな意味を持ちます。
たとえば、登記上は役員でない親族、相談役、顧問、実質的に経営判断を行う株主、前代表者などへの支払いがあるとします。それが一般の給与、外注費、顧問料、業務委託料として処理されていても、実態によっては役員給与として確認される可能性があるのです。
逆のケースもあります。登記上は役員であっても、使用人兼務役員として、使用人分給与が問題になることがあります。ただし、代表取締役、専務、常務など一定の役員は、そもそも使用人兼務役員になれない場合があります。
出典:国税庁|No.5205 役員のうち使用人兼務役員になれない人
調査対応では、肩書だけを見るのではなく、実際の職務、決裁権限、出勤状況、経営会議への参加、稟議承認、銀行対応、採用権限、主要取引先との交渉といった、経営への関与の実態を整理しておくことが重要です。
会社法上の決議と法人税上の損金算入は別の問題
役員給与を考えるとき、会社法上の報酬決定と、法人税上の損金算入とを混同しないよう注意が必要です。
会社法では、取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益について、定款に定めがないときは株主総会の決議によって定める、とされています。
出典:e-Gov法令検索|会社法
つまり取締役報酬には、会社法上、定款または株主総会決議による裏付けが必要だということです。実務上は、株主総会で役員報酬総額の限度額を決議し、個別配分を取締役会や代表取締役に一任している会社も少なくありません。
しかし、会社法上の決議があるからといって、法人税上ただちに損金算入できるわけではありません。
税務調査では、次の二段階で見られると考えてください。
まず、会社法上・社内手続上、その役員給与を支給する根拠があるか。
次に、法人税法上、その支給が定期同額給与・事前確定届出給与・一定の業績連動給与などに該当し、かつ不相当に高額でなく、隠蔽・仮装を伴わないものか。
この二つは重なり合う部分はありますが、同じではありません。
株主総会議事録があっても、期中に恣意的な増額をしていれば、定期同額給与として問題になります。事前確定届出給与の届出をしていても、届出と異なる日や金額で支給していれば、損金算入が問題になります。逆に、支払いが継続していても、議事録や届出、給与台帳、源泉納付が整っていなければ、説明はどうしても弱くなります。
定期同額給与で確認されること
中小企業の役員報酬で、最も基本となるのが定期同額給与です。
国税庁は、定期同額給与を、支給時期が1か月以下の一定の期間ごとで、その事業年度の各支給時期における支給額、または源泉税等控除後の金額が同額であるものなどと説明しています。加えて、一定の定時改定、臨時改定事由による改定、業績悪化改定事由による減額改定があっても、要件を満たせば定期同額給与として扱われる余地があります。
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
税務調査では、役員給与の月次推移が確認されます。
調査官は、総勘定元帳、給与台帳、預金通帳、源泉所得税の納付書、年末調整資料、役員別支給明細などを突き合わせながら、月ごとの支給額が同額か、途中で増減がないかを見ていきます。
特に確認されやすいのは、次のような処理です。
- 期首から数か月後に役員報酬を増額している
- 決算前に利益を見て役員報酬を増額している
- 過去に遡って増額し、未払役員給与を計上している
- 毎月の支給額に、歩合給・成果報酬・利益連動部分が含まれている
- 資金繰りの都合で、支給した月としない月がある
- 役員借入金や未払金に振り替えているだけで、支給実態が曖昧である
- 一部の月だけ、現金支給や仮払精算として処理されている
- 役員の家族や実質経営者への支払いが、給与台帳に反映されていない
「毎月おおむね同じ金額です」という感覚的な説明では、定期同額給与を説明したことにはなりません。これは法人税法上、かなり形式性の強い制度です。金額に変動がある場合には、その変動が定時改定、臨時改定事由、業績悪化改定事由などに基づくものかどうかを、きちんと整理しておく必要があります。
なお、国税庁の質疑応答事例では、役員に支給する歩合給について、一定の算定基準に基づき規則的・継続的に支給されていても、支給額が同額でない給与は定期同額給与に該当しないとされています。ただし、固定給部分が明らかで、その部分が定期同額給与の要件を満たす場合には、固定給部分は損金算入の対象となり得ます。
出典:国税庁|役員に対する歩合給(定期同額給与)
期中改定・遡及増額が問題になりやすい
役員給与のなかでも、特に問題になりやすいのが期中改定と遡及増額です。
たとえば、事業年度の途中で役員報酬を増額し、その増額分を過去に遡って未払計上する。こうした処理は、税務調査で確認されやすい論点です。会社としては、「前から増額するつもりだった」「資金繰りの都合で支払いが遅れただけだ」と説明したい場面もあるでしょう。
しかし調査では、いつ決議したのか、いつから職務内容が変わったのか、いつ支給額が確定したのか、そして実際に給与台帳や源泉徴収へ反映していたのかが確認されます。
期中改定が認められるかどうかは、議事録さえ作ればよい、という話ではありません。
確認すべき観点は、主に次のとおりです。
- 事業年度開始後3か月以内など、定時改定として説明できる時期か
- 役員の職制上の地位や職務内容に、重大な変更があったか
- 経営状況の著しい悪化による減額改定として説明できるか
- 資金繰りや利益見込みだけを理由にしていないか
- 株主総会・取締役会等の決議日と、実際の改定時期が整合しているか
- 給与台帳、源泉所得税、社会保険、会計仕訳が、同じ処理になっているか
- 過年度や過去月に遡って、帳簿だけを修正していないか
税務調査では、「後から説明できるか」が問われます。役員給与は、会社の利益を見ながら自由に調整できる支出ではありません。期首、あるいは職務執行期間の開始時点で、役員の職責、会社の業績見通し、資金繰りを踏まえて決め、その後は原則として継続して支給するもの——そう捉えて管理しておくべきものです。
事前確定届出給与は「役員賞与を自由に損金にする制度」ではない
役員に賞与を支給したい場合、事前確定届出給与を検討することがあります。
事前確定届出給与とは、役員の職務につき、所定の時期に確定した額の金銭等を交付する旨の定めに基づいて支給される給与で、定期同額給与や業績連動給与に該当しないもののうち、原則として所定の届出をしているものを指します。
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
中小企業では、実務上、役員賞与を損金算入するための制度として理解されることが多いと思います。
ただし、これは「利益が出たら役員賞与を出して損金にできる制度」ではありません。
事前確定届出給与で重要なのは、次の三つです。
- 事前に、支給対象者・支給時期・支給額を確定していること
- 届出期限までに、所轄税務署長へ届出をしていること
- 実際にも、届出どおりの時期・金額で支給していること
この三つのうち、どれか一つでも崩れると、損金算入が問題になります。
税務調査では、事前確定届出給与について、届出書だけでなく、株主総会議事録、取締役会議事録、職務執行期間、支給予定日、実際の振込日、給与台帳、源泉所得税の納付、会計仕訳まで確認されます。
事前確定届出給与の届出期限
事前確定届出給与では、届出期限の管理が非常に重要です。
国税庁の手続案内によれば、通常、株主総会等の決議により所定の時期に確定した額の金銭等を交付する旨の定めをした場合、株主総会等の決議をした日から1か月を経過する日と、会計期間開始の日から4か月を経過する日等のうち、一定の期限までに提出する必要があります。新設法人、臨時改定事由がある場合、変更届出が必要な場合には、それぞれ別途の期限が定められています。
出典:国税庁|C1-23 事前確定届出給与に関する届出
実務上は、次のようなミスが特に危険です。
- 株主総会決議後の期限を誤る
- 職務執行開始日との関係を確認していない
- 新設法人の提出期限を見落とす
- 役員の途中就任時の届出期限を誤る
- 変更届出が必要な場面で、当初届出のままにしている
- 郵送・e-Tax・税務署収受日を確認していない
- 届出書は作成したが、提出控えを保存していない
事前確定届出給与は、金額の多寡だけでなく、期限と形式が結果を左右します。調査の場で「届出したはずです」と述べても、提出控え、e-Tax受信通知、受付印、送付記録がなければ、説明は弱くなってしまいます。
届出と異なる金額を支給した場合
事前確定届出給与で最も注意すべきは、届出内容と実際の支給とが一致しているかどうかです。
法人税基本通達では、事前確定届出給与について、所轄税務署長へ届け出た支給額と実際の支給額が異なる場合には、原則として、その支給額の全額が損金不算入となることに留意する、とされています。
出典:国税庁|第4款 事前確定届出給与
これは、実務上きわめて厳しい取扱いです。
「少し少なく支給しただけ」「資金繰りが厳しかったので一部だけ支給した」「本人が辞退した」「届出額より多く払ったが、増額分だけ否認されればよい」——こうした感覚で処理すると、想定以上に大きな否認につながることがあります。
もっとも、国税庁の質疑応答事例では、特定の役員について届出書の記載額と異なる金額を支給した場合でも、届出書の記載額と同額を支給した他の役員に係る役員給与については、法人税法第34条第1項第2号に該当し、損金算入できるとされています。
出典:国税庁|「事前確定届出給与に関する届出書」を提出している法人が特定の役員に当該届出書の記載額と異なる支給をした場合の取扱い
つまり、届出と異なる支給があった場合には、どの役員について、どの支給日に、どの金額が、どのように届出と異なったのかを、個別に整理しておく必要があるということです。
調査対応では、銀行振込額だけを見るのではなく、給与台帳上の総支給額、源泉所得税、社会保険料控除、差引支給額、会計仕訳、届出書記載額を、ていねいに突合することが大切です。
支給時期も説明できる必要がある
事前確定届出給与では、金額だけでなく、支給時期も重要です。
役員賞与を職務執行期間の途中で支給すること自体が、ただちに問題になるわけではありません。国税庁の質疑応答事例では、役員への賞与の支給時期を使用人への盆暮れの賞与と同じ時期とし、毎期継続して同時期に支給を行っているなど、支給時期が一般的に合理的に定められている場合には、一定の要件を満たす限り、職務執行期間の途中で支給する形態であっても損金算入できるとされています。
出典:国税庁|職務執行期間の中途で支給した事前確定届出給与
この点からも、税務調査では「なぜその支給日にしたのか」が確認されます。
「資金に余裕がある時期だったから」「決算前に支払いたかったから」という説明だけでは、弱い場合があります。使用人賞与と同時期であること、役員の職務執行期間、社内の報酬方針、毎期の継続性、資金計画——こうした事情から、支給時期に合理性があることを説明できるようにしておくべきです。
事前確定届出給与で整えるべき資料
事前確定届出給与について、調査前に確認しておきたい資料は次のとおりです。
- 定款
- 株主総会議事録
- 取締役会議事録、または個別配分決定資料
- 役員別の職務執行期間
- 事前確定届出給与に関する届出書
- 付表、添付書類、提出控え
- e-Tax受信通知、または税務署受付印
- 支給予定日・支給予定額の一覧
- 給与台帳
- 源泉所得税の計算・納付資料
- 銀行振込明細
- 会計仕訳
- 未払計上がある場合の、未払理由と支払予定
- 変更届出がある場合の、変更理由・決議・提出控え
事前確定届出給与は、制度の本質として「事前に確定していること」が問われます。調査対応でも、事後的な説明ではなく、事前に決議され、期限内に届け出られ、そのとおりに支給されたことを、資料で示せるかどうかが鍵になります。
認定賞与とは何か
認定賞与とは、法律上の厳密な用語というより、税務調査の実務で使われる表現です。会社が費用、貸付金、仮払金、福利厚生費、交際費、旅費交通費、保険料などとして処理した支出が、実質的には役員に対する給与または賞与に当たると認定される——そうした場面で用いられます。
たとえば、次のような支出は、調査で役員への経済的利益として確認されることがあります。
- 役員の私的飲食費、旅行費、家族費用を会社が負担している
- 役員個人の車両、住宅、保険料、会費等を会社が負担している
- 会社資産を、役員に無償または低額で利用させている
- 役員への貸付金について、返済実態がない
- 役員に対する債権を免除している
- 役員から資産を時価より高く買い取っている
- 役員に資産を時価より低く譲渡している
- 機密費、交際費、雑費などの名目で、使途が不明確な支出がある
- 仮払金や立替金が、長期間精算されていない
国税庁は、役員等に支給する給与には、金銭によるもののほか、債務免除その他の経済的利益も含まれるとしています。役員等に資産を贈与した場合の時価、時価より低額で譲渡した場合の差額、役員に対する債権を放棄・免除した場合の債権額、役員等の個人的費用の負担額などが、その例として挙げられています。
出典:国税庁|No.5202 役員等に対する経済的利益
税務調査では、勘定科目の名称ではなく、実質が見られます。
「福利厚生費」と処理していても、特定の役員だけが利益を受けていれば、役員給与として扱われることがあります。「役員貸付金」として処理していても、返済期限、利息、契約書、返済実績、回収意思がなければ、実質的には給与または賞与と評価される可能性があります。
認定賞与は法人税だけで終わらない
認定賞与が問題になると、法人税だけでなく、源泉所得税にも波及します。
給与所得とは、使用人や役員に支払う俸給、給料、賃金、賞与のほか、これらの性質を有する給与に係る所得をいいます。
出典:国税庁|No.2508 給与所得となるもの
また賞与とは、定期の給与とは別に支払われる給与等で、賞与、ボーナス、夏期手当、年末手当、期末手当などの名目で支給されるもの、その他これらに類するものをいいます。支給額や支給基準の定めのないものなども、賞与に該当する場合があります。
出典:国税庁|No.2523 賞与に対する源泉徴収
したがって、役員の私的支出を会社が負担し、それが認定賞与とされた場合には、会社側では法人税上の損金不算入が、役員側では給与所得としての課税が、そして会社には源泉徴収漏れが、それぞれ問題になることがあります。
さらに源泉所得税については、不納付加算税や延滞税が問題になる場合もあります。認定賞与の調査対応では、法人税の修正だけでなく、源泉所得税、年末調整、個人側の所得税、役員貸付金処理の是正まで、視野に入れておく必要があります。
認定賞与と役員貸付金の分岐点
役員が会社資金を使った場合、それを認定賞与と見るのか、役員貸付金と見るのか。実務上、重要な判断になります。
役員貸付金として説明するためには、少なくとも次のような事情が必要です。
- 会社と役員の間で、貸付けとして認識している
- 貸付契約書、取締役会承認、稟議等がある
- 返済期限、利率、返済方法が明確である
- 実際に返済が行われている
- 利息を収受している、または合理的に処理している
- 決算書、内訳書、勘定明細で、継続して管理している
- 役員本人も、債務として認識している
- 会社に回収意思がある
反対に、次のような事情がある場合には、貸付金処理の説明は弱くなります。
- 支出時点では、貸付けとして決議されていない
- 私的費用を、後から貸付金に振り替えている
- 返済期限がない
- 返済実績がない
- 利息を取っていない
- 長期間、残高が増え続けている
- 役員本人が、返済義務を認識していない
- 決算時だけ、形式的に役員貸付金へ振替処理している
税務調査で問われるのは、会社側の勘定科目ではなく、取引当時の意思と、その後の実態です。
「認定賞与ではなく貸付金です」と主張するのであれば、その主張を支える契約、返済、利息、承認、残高管理が必要になります。逆に、そうした資料が乏しい場合には、認定賞与として修正する可能性も検討せざるを得ません。
認定賞与と重加算税は同じではない
認定賞与を指摘されると、「認定賞与になると必ず重加算税になるのではないか」と不安に思われる方もいます。
しかし、認定賞与と重加算税は別の問題です。
認定賞与は、会社が負担した支出や供与した経済的利益について、役員への給与・賞与として課税関係を整理する問題です。一方の重加算税は、過少申告等について、隠蔽または仮装があったかどうかの問題です。
ですから、役員の私的費用を会社が負担していたとしても、その全てがただちに重加算税になるわけではありません。単なる経費性の誤認、資料整理の不備、役員貸付金との判断誤り、社内ルールの未整備にとどまる場合もあります。
ただし、次のような事情があると、重加算税のリスクは高まります。
- 領収書の内容を、意図的に書き換えている
- 私的支出を業務上の支出に見せるため、虚偽の摘要を付している
- 架空の参加者、架空の取引先、架空の会議内容を記録している
- 調査時に、資料を隠す、破棄する、虚偽説明をする
- 二重帳簿や、別管理の支出リストがある
- 役員本人が私的支出と認識しながら、会社費用にしている
- 税理士や経理担当者に、事実と異なる説明をして申告させている
税務調査対応では、認定賞与の可否、源泉所得税の処理、加算税の種類、重加算税の要件を、それぞれ分けて検討する必要があります。
不利な事実があったとしても、すぐに「全部認める」「とにかく修正申告する」と判断するのは得策ではありません。何が事実で、何が評価の問題で、どこに隠蔽・仮装と評価され得る事情があるのか。まずはここを整理することが大切です。
税務調査で確認される資料
役員給与・事前確定届出給与・認定賞与の調査対応では、次の資料を確認しておく必要があります。
- 登記簿謄本
- 定款
- 株主名簿
- 組織図、職務分掌表
- 株主総会議事録
- 取締役会議事録
- 社員総会議事録、理事会議事録
- 役員報酬規程
- 役員別の報酬決定資料
- 給与台帳
- 賃金台帳
- 源泉所得税の納付書
- 年末調整資料
- 法定調書
- 総勘定元帳
- 預金通帳、振込明細
- 役員貸付金、役員借入金、仮払金、未払金の内訳
- 交際費、福利厚生費、旅費交通費、会議費、保険料、社宅関連費の明細
- 事前確定届出給与に関する届出書、付表、提出控え
- 変更届出書がある場合の届出控え
- 役員個人との貸付契約書、返済予定表、利息計算資料
- 社宅、車両、保険、会員権等の利用ルール
ただし、資料は単に揃えるだけでは足りません。
税務調査では、「議事録では月額いくらと決まっているのに、実際の支給額が違う」「給与台帳では支給されているのに、銀行振込がない」「役員貸付金と説明しているが、返済実績がない」「事前確定届出給与の届出額と給与台帳の金額が違う」といった、資料間の不整合が見られます。
調査前には、資料を時系列で並べ、決議、届出、会計処理、支払、源泉徴収が一本につながっているかを確認しておくことが重要です。
役員給与を指摘されたときの整理手順
役員給与について調査官から指摘を受けたら、まず論点を分けることから始めます。
最初に確認するのは、その支払いが役員給与に該当するかどうかです。登記上の役員、みなし役員、使用人兼務役員、実質経営者など、対象者の属性を整理します。
次に、それが定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与、使用人分給与、退職給与、経済的利益のいずれに該当するのかを整理します。
そのうえで、会社法上の決議、法人税上の損金算入要件、源泉所得税、会計処理、加算税の有無を、それぞれ分けて検討していきます。
特に、修正申告に応じるかどうかを判断する前に、次の点を整理しておくべきです。
- 指摘されている支給は、どの役員に対するものか
- 支給時期、支給額、支給方法はどうなっているか
- 株主総会・取締役会等で、どのように決議されているか
- 議事録の日付、職務執行期間、支給開始日が整合しているか
- 定期同額給与の要件を満たすか
- 事前確定届出給与の届出期限と支給実態が一致するか
- 経済的利益として認定される支出か
- 役員貸付金として説明できる資料があるか
- 源泉所得税の納付漏れがあるか
- 単なる処理誤りか、隠蔽・仮装と評価され得る事情があるか
- 過年度から、同じ処理が継続しているか
- 今後の役員報酬設計を、どう見直すべきか
調査官の指摘に対して、その場で断定的に回答する必要はありません。資料確認が必要であれば、「確認して回答します」と伝え、議事録、届出書、給与台帳、通帳、会計データを確認したうえで説明する方が、安全です。
役員給与の調査対応で専門家に相談すべき場面
役員給与は、金額が大きくなりやすく、複数の税目に波及しやすい論点です。
特に、次のような場合には、早めに税理士・会計士へ相談しておくことをおすすめします。
- 期中に役員報酬を増減している
- 過去に遡って、役員給与を未払計上している
- 事前確定届出給与の支給額、または支給日が届出と異なる
- 届出期限を過ぎている可能性がある
- 役員賞与を損金処理している
- 役員の私的費用を、会社が負担している
- 役員貸付金、仮払金、立替金が長期間残っている
- 税務署から、認定賞与を示唆されている
- 源泉所得税の納付漏れがある
- 重加算税の可能性を示唆されている
- 議事録、届出書、給与台帳、実際の支給額が一致しない
- 親族役員、非常勤役員、相談役、顧問への支払いがある
役員給与の調査対応では、法人税の損金算入だけを見ていては不十分です。会社法上の決議、源泉所得税、個人所得税、社会保険、役員貸付金、役員退職給与、さらにはM&Aや金融機関への説明にまで、影響が広がることがあります。
専門家に相談する意味は、「税務署と争うため」だけにあるのではありません。事実と資料を整理し、どの論点は認めるべきか、どの論点は説明・反論すべきか、どの処理は将来に向けて改善すべきかを、冷静に判断するためです。
調査後に見直すべき役員報酬管理
役員給与について税務調査で指摘を受けたなら、その年の修正だけで終わらせるべきではありません。
役員給与は毎期発生します。同じ管理不備を放置すれば、次回以降の調査でも、同じ問題が繰り返されてしまいます。
調査後に見直しておきたいポイントは、次のとおりです。
- 毎期の役員報酬決定スケジュールを、明確にする
- 定時株主総会、取締役会、社員総会等の議事録を整備する
- 役員別の月額報酬、賞与、退職金を、分けて管理する
- 事前確定届出給与の届出期限を、カレンダー化する
- 届出書、付表、提出控え、e-Tax受信通知を保存する
- 給与台帳と会計仕訳、通帳、源泉納付を、毎月照合する
- 役員貸付金、仮払金、立替金を、月次で確認する
- 私的支出と会社経費の境界を、明確にする
- 社宅、車両、保険、会員権などの経済的利益を、定期的に確認する
- 役員報酬の変更時には、税務上の要件を事前に確認する
役員給与は、節税のために場当たり的に動かすものではありません。会社の経営方針、資金繰り、役員の職責、株主への説明、税務上の損金算入要件を踏まえて、あらかじめ設計し、資料として残しておく。そうした性格のものだと捉えていただくのがよいと思います。
役員給与・事前確定届出給与・認定賞与に不安がある場合は、早めに整理を
役員給与は、法人税調査で頻出する論点です。
なかでも、定期同額給与の期中改定、事前確定届出給与の届出・支給の不一致、役員の私的支出、役員貸付金、経済的利益、認定賞与は、法人税だけでなく源泉所得税や加算税にも波及します。
税務調査の通知を受けてから慌てて議事録や届出書を探すのではなく、役員別に、決議、届出、支給、会計処理、源泉徴収、通帳の流れを整理しておくことが大切です。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、税務調査対応を単なる税務署対応として捉えるのではなく、事実関係、証憑、会計処理、税務判断、今後の管理体制を整理する機会として受け止めています。
役員報酬の期中変更に不安がある、事前確定届出給与の支給内容が届出と合っているか確認したい、役員貸付金や私的支出について認定賞与リスクを整理したい、あるいは税務調査で役員給与を指摘されている——そうした場合は、お問い合わせページからご相談ください。
振り返り|役員給与・事前確定届出給与・認定賞与の調査対応で押さえるべきポイント
| 確認項目 | 税務調査で見られること | 実務上の対応 |
|---|---|---|
| 役員の範囲 | 登記上の役員だけでなく、実質的に経営に従事する者がいないか | 登記簿、組織図、職務内容、決裁権限を整理する |
| 会社法上の決議 | 定款または株主総会決議等に基づいて報酬が決定されているか | 株主総会議事録、取締役会議事録、報酬決定資料を保存する |
| 定期同額給与 | 毎月同額に支給され、期中改定に合理的理由があるか | 役員別の月次支給額、改定時期、改定理由を確認する |
| 期中改定 | 定時改定、臨時改定事由、業績悪化改定事由に該当するか | 決議日、職務変更、経営状況、給与台帳を突合する |
| 遡及増額 | 過去月に遡って役員給与を増額していないか | 後付け議事録や未払計上になっていないか確認する |
| 事前確定届出給与 | 支給対象者・支給時期・支給額が事前に確定し、期限内に届出されているか | 届出書、付表、受付控え、議事録をセットで保存する |
| 届出と実支給の一致 | 届出額・支給日と実際の支給が一致しているか | 給与台帳、振込明細、源泉納付書を突合する |
| 認定賞与 | 会社負担の私的支出や経済的利益が、役員給与と認定されないか | 交際費、福利厚生費、旅費、保険、社宅、貸付金を確認する |
| 役員貸付金 | 貸付けとしての契約・返済・利息・回収意思があるか | 貸付契約書、返済予定表、入金実績を整備する |
| 源泉所得税 | 認定賞与や役員賞与に係る源泉徴収漏れがないか | 法人税修正だけでなく、源泉所得税への波及も確認する |
| 重加算税リスク | 隠蔽・仮装、虚偽記載、資料隠しがないか | 認定賞与と重加算税を分け、事実関係を丁寧に整理する |
| 再発防止 | 毎期同じ不備を繰り返さない体制があるか | 役員報酬決定スケジュール、届出期限管理、月次確認を仕組み化する |