税務調査の前にすべき準備|資料整理と想定論点の洗い出し

税務調査の通知を受けて、まず手をつけるべきなのは「とりあえず資料を集めること」ではありません。

もちろん、申告書、総勘定元帳、請求書、領収書、契約書、通帳、議事録といった書類を揃えることは欠かせません。ただ、調査前の準備で本当に大切なのは、資料を山積みにすることではないと、実務のなかで何度も感じてきました。申告内容と事実関係を一つひとつ照らし合わせ、どこは説明できて、どこが弱いのかを自分の側で把握しておくこと。これこそが準備の核心だと考えています。

調査官は、領収書があるかないかだけを見ているわけではありません。売上の計上時期、経費の事業関連性、消費税の仕入税額控除、源泉徴収、役員給与、外注費、関係会社取引、家事関連費、名義財産、生前贈与、財産評価。こうした論点について、帳簿、証憑、契約、資金移動、意思決定の経緯、そして過去の処理との整合性まで確認していきます。

ですから、調査前準備の目的は、税務署に見せるための“きれいな資料”をつくることではありません。実際に存在する資料と事実を前提として、後から筋道立てて説明できる状態を整えること。ここに尽きると思います。

目次

調査前準備は「反論準備」ではなく「現実把握」から始める

税務調査の通知が届くと、多くの方が「何を指摘されるのか」「追徴税額はいくらになるのか」「税務署にどう説明すればよいのか」という不安を抱えます。当然のことだと思います。

ただ、最初から反論の方針を組み立てようとすると、かえって重要な事実を見落としてしまいます。まず必要なのは、次の三つを切り分けることです。

区分内容調査前に行うべきこと
事実実際に何があったか契約、請求、納品、入金、支払、管理状況を確認する
証拠その事実を示す資料があるか帳簿、証憑、通帳、メール、議事録、稟議書を整理する
税務判断その事実に税法を当てはめるとどう評価されるか損金性、必要経費性、課税区分、源泉、評価、加算税を検討する

事実があいまいなまま法令解釈だけを主張しても、税務調査では説得力を持ちません。逆に、資料が足りなくても、事実の経過や資金の流れを丁寧に整理しておけば、単なる誤りなのか、資料不備なのか、見解の相違なのか、それとも不正行為に近いのか、落ち着いて見極められる場合があります。

そもそも税務調査の手続は、手続の透明性と納税者の予見可能性を高め、納税者の協力を促し、申告納税制度を充実させるという観点から、法令上明確に定められたものです。調査は、公益的な必要性と納税者側の私的な利益とのバランスを踏まえ、社会通念上相当な範囲で、納税者の理解と協力を得ながら行うものとされています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

つまり調査前準備とは、税務署と対立するための準備ではないのです。必要な協力を行いながら、事実と証拠に基づいて説明するための準備だと捉えています。

まず確認すべきは「何の調査か」

資料整理に入る前に、税務署からの連絡内容を正確に確認しておきます。

特に押さえておきたいのは、次の事項です。

確認項目確認する理由
税務調査か、行政指導か修正申告や加算税の判断に影響する
対象税目法人税、消費税、源泉所得税、所得税、相続税など、準備資料が変わる
対象期間どの年度・年分・相続開始に関する調査かを把握する
調査場所本店、事務所、自宅、税理士事務所など準備環境が変わる
調査日時日程調整、資料準備、専門家立会いの可否に影響する
調査担当部署・担当者税務署か国税局か、法人課税・個人課税・資産課税かで視点が異なる
対象となる帳簿書類その他の物件調査官が最初に確認したい範囲を把握する
税理士への通知の有無税務代理権限証書や立会い体制を確認する

事前通知では、調査を行う旨、調査の開始日時、調査場所、調査目的、対象税目、対象期間、対象となる帳簿書類その他の物件、担当職員などが、通知事項として整理されます。

国税庁も、実地調査を行う場合には、原則として調査開始前に相当の時間的余裕を置いて、調査開始の日時や場所、対象税目・課税期間、調査目的などを通知すると説明しています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

ここで注意したいのは、「法人税の調査」と通知されたからといって、法人税だけを見ておけばよいわけではない、という点です。

たとえば外注費が給与と認定されれば、法人税だけでなく源泉所得税や消費税にまで波及します。役員給与が問題になれば、損金算入、源泉徴収、議事録、支給の実態が問われます。消費税の調査であれば、課税区分、請求書、インボイス、帳簿の保存、取引の実態が確認されます。相続税の調査で名義預金が論点になれば、贈与税、過去の資金移動、通帳・印鑑の管理、さらには家族の認識まで、確認の対象が広がっていきます。

対象税目を確認するのは、準備の範囲を狭めるためではありません。どの論点が他の税目に波及するのかを読むために行うものだと考えてください。

資料整理の第一歩は「資料一覧表」を作ること

調査前に資料を集めるとき、いきなり段ボールに書類を詰め込むのは避けたいところです。まずは資料一覧表を作成します。

一覧表には、少なくとも次の項目を入れておきます。

項目記載内容
資料名法人税申告書、総勘定元帳、請求書、契約書、通帳など
対象期間何年何月分、どの事業年度、どの相続開始に関する資料か
保管場所紙ファイル、会計ソフト、クラウド、メール、銀行サイトなど
保管形式原本、写し、PDF、CSV、会計データ、画像データなど
関連論点売上、外注費、役員給与、消費税、名義預金など
不足・不明点紛失、未整理、相手先確認中、担当者退職など
提出予定初日に提示する、質問後に提出する、説明資料に添付するなど

この一覧表を作っておくと、資料の不足や説明の弱い部分が、早い段階で見えてきます。

税務調査では、調査担当者が帳簿書類等の提示・提出を求めることがあります。正当な理由なく提示・提出を拒んだり、虚偽の記載がある帳簿書類等を提示・提出したりすれば、罰則が科されることもあります。一方で国税庁は、提示・提出が必要とされる趣旨を説明したうえで、納税者の理解と協力のもと、その承諾を得て行うものだと説明しています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

資料提出は、単に「出す・出さない」という二択の問題ではありません。調査官がなぜその資料を求めているのか、どの税目・どの論点に関係するのか、その資料だけで誤解が生じないか。こうした点を確認したうえで、必要に応じて説明メモを添えること。これが大切だと感じています。

調査前に揃える基本資料

税目や業種によって必要な資料は変わりますが、調査前準備では、まず共通する資料から整理していきます。

法人・個人事業主に共通する基本資料

資料確認する内容
申告書・決算書・内訳書申告内容、勘定科目、税額計算、特例・届出の有無
総勘定元帳・補助元帳勘定科目ごとの取引内容、期末処理、異常値
試算表・月次推移表売上、利益率、経費、在庫、現預金の変動
請求書・領収書取引先、取引日、金額、内容、消費税区分
契約書・注文書・納品書・検収書取引実態、収益計上時期、役務提供内容
通帳・入出金明細売上入金、支払、役員・親族・関係会社との資金移動
クレジットカード明細経費性、私的利用、家事関連費、証憑との対応
給与台帳・源泉納付書給与、賞与、役員報酬、源泉徴収、納付漏れ
議事録・稟議書役員給与、退職金、重要取引、関係会社支援の意思決定
消費税申告資料課税区分、仕入税額控除、簡易課税、届出、インボイス
電子取引データメール、PDF請求書、クラウド請求書、EC明細、電子契約

法人税調査で特に確認したい資料

法人税の調査では、損益の計上と取引実態が整合しているかどうかが中心になります。

論点主な資料調査前に確認すること
売上計上請求書、納品書、検収書、入金明細計上時期、期ずれ、未計上、帳端売上
棚卸・原価棚卸表、原価明細、工事台帳実地棚卸、評価方法、原価付替え、未成工事
役員給与議事録、支給明細、届出書定期同額、事前確定届出、遡及増額、経済的利益
外注費契約書、請求書、成果物、作業記録業務実態、給与認定、源泉、消費税
交際費領収書、参加者メモ、目的メモ相手先、目的、事業関連性、役員私用
関係会社取引契約書、稟議書、送金記録価格、役務提供、寄附金、貸付利息
固定資産見積書、請求書、工事内容修繕費・資本的支出、使用開始、除却

確認されやすい項目は、業種によっても異なります。たとえば建設業では未成工事支出金や工事原価が、情報通信業では外注費や棚卸資産が、運送業では原始資料から売上の繰延べや売上除外が、それぞれ確認されることがあります。

個人事業主の調査で特に確認したい資料

個人事業主の場合は、事業と生活の境界が大きな論点になりがちです。

論点主な資料調査前に確認すること
売上売上台帳、レジ、予約表、通帳現金売上、入金漏れ、売上計上時期
必要経費領収書、カード明細、契約書事業関連性、私的支出、家事按分
家事関連費家賃、通信費、車両費、光熱費按分根拠、使用実態、説明資料
専従者給与勤務記録、業務内容、支払記録勤務実態、金額相当性、親族間取引
帳簿保存会計データ、領収書、電子データ保存期間、電子取引、帳簿不備

個人事業では、経費を「どこまで落とせるか」よりも、「なぜ事業に必要だったのか」を説明できるかどうかが中心になります。自宅家賃、車両、通信費、交際費などは、領収書があるだけでは足りません。按分の根拠や利用の実態まで説明できることが求められます。

資産税調査で特に確認したい資料

相続税・贈与税の調査では、名義や形式よりも、資金の原資、管理支配、贈与の成立、評価の根拠が問われます。

論点主な資料調査前に確認すること
名義預金被相続人・家族の通帳、入出金明細資金原資、管理者、通帳・印鑑、収益帰属
生前贈与贈与契約書、贈与税申告書、振込記録贈与意思、受贈者の認識、管理状況
不動産評価評価明細、登記、固定資産税資料、現況写真評価単位、利用状況、貸付実態、路線価
非上場株式決算書、株主名簿、評価明細会社規模、類似業種、純資産、役員貸付金
特例適用居住・事業・貸付の資料小規模宅地等の要件、継続要件、取得者要件

たとえ家族名義の財産であっても、実質的に被相続人の財産と認められるものは、相続財産として問題になります。贈与が認められるかどうかは、贈与契約書があるかどうかだけでは決まりません。贈与の意思、受贈者の受諾、名義変更、管理の状況、その後の収益の帰属。こうした点を総合的に確認していく必要があります。

資料を集めた後は「整合性」を確認する

資料が揃ったら、次に行うべきは整合性の確認です。

税務調査で問題になるのは、資料が一つ欠けているときばかりではありません。複数の資料が互いに矛盾している場合も、同じように問題になります。

たとえば、次のような不整合は、調査で確認されやすいポイントです。

不整合の例想定される論点
請求書の日付と売上計上日が大きくずれている売上計上時期、期ずれ、売上漏れ
入金はあるが売上台帳に記載がない売上除外、仮受金処理、預り金処理
外注費の請求書はあるが成果物・作業記録がない架空外注、給与認定、仕入税額控除
役員給与の支給額と議事録・届出額が一致しない役員給与の損金不算入、認定賞与
領収書の宛名・内容が曖昧交際費、私的支出、使途不明支出
会社通帳と代表者個人口座の資金移動が頻繁役員貸付金、売上入金混在、個人流用
贈与契約書はあるが通帳は贈与者が管理名義預金、生前贈与否認
インボイス登録番号が未確認仕入税額控除、経過措置、帳簿保存

国税庁は、調査担当者が必要と判断した場合、法人税の調査において法人代表者名義の個人預金に事業関連性が疑われるときは、その通帳の提示・提出を求めることも、質問検査等の範囲に含まれると説明しています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

つまり、「会社の調査だから個人通帳は関係ない」とは限らないということです。法人資金と個人資金が混在している場合には、代表者貸付金、役員賞与、売上除外、資産流用といった論点へと発展することがあります。

想定論点マップを作る

調査前準備の中心になるのが、想定論点マップの作成です。

想定論点マップとは、税務調査で確認されそうな項目について、事実、資料、税務上の評価、説明方針を一覧にまとめたものを指します。

想定論点事実関係根拠資料税務上の評価説明方針リスク
売上計上時期3月納品、4月検収契約書、納品書、検収書検収基準の妥当性契約上の検収条件を説明期ずれ
外注費継続的に個人へ支払業務委託契約、請求書、成果物給与認定の可能性指揮監督・成果物・独立性を整理源泉・消費税波及
役員報酬期中に増額議事録、給与台帳定期同額給与の問題増額理由と時期を確認損金不算入
交際費高額な飲食費領収書、参加者メモ交際費・役員私用相手先・目的を説明私的支出
名義預金子名義口座に被相続人資金通帳、贈与契約書相続財産認定の可能性贈与意思・管理状況を整理相続税・重加算税
仕入税額控除請求書不備請求書、帳簿、登録番号控除否認の可能性インボイス・経過措置を確認消費税追徴

この表を作る目的は、税務署に提出することではありません。納税者側が、調査当日に何を聞かれそうか、どの資料で説明できるか、どこが弱いのかを、あらかじめ把握しておくためのものです。

なかでも、次の三つに当てはまる論点は、優先して整理しておくとよいでしょう。

  1. 金額が大きいもの
  2. 継続的に同じ処理をしているもの
  3. 説明が弱いと、重加算税や他税目に波及し得るもの

事実経緯表を作る

口頭の説明だけで調査に臨むと、話が前後したり、記憶違いが起きたりしがちです。そこで、重要な論点については、事実経緯表を作成しておきます。

たとえば外注費が問題になりそうな場合は、次のように整理します。

時期事実関係者資料
令和○年4月業務委託開始当社、A氏業務委託契約書
毎月末成果物提出A氏納品データ、メール
翌月10日請求書受領A氏請求書
翌月末振込支払当社通帳、振込明細
決算時外注費計上経理担当元帳、決算資料

相続税の調査で名義預金が問題になりそうな場合は、次のように整理します。

時期事実関係者資料
平成○年子名義口座開設被相続人、子口座開設資料
毎年資金移動被相続人から子へ通帳、振込明細
贈与時贈与契約書作成贈与者、受贈者贈与契約書
その後通帳管理誰が保管したか保管状況メモ
相続開始時残高確認相続人残高証明書

こうした事実経緯表を作ると、資料の不足や説明の矛盾が浮かび上がってきます。

ここで大切なのは、不利な事実を消そうとしないことです。不利な点も含めて、事実を正確に把握しておく。調査前の段階で弱点をつかんでいれば、それが単なる資料不足なのか、処理の誤りなのか、修正申告を検討すべきものなのか、それとも重加算税のリスクがあるものなのかを、早めに判断できます。

電子データの準備を軽視しない

いまの税務調査では、紙の資料だけでなく、会計データ、PDF請求書、メール、クラウド請求書、ECサイトの購入履歴、電子契約、CSVデータなども確認の対象になり得ます。

国税庁は、帳簿書類等の物件が電磁的記録である場合について、提示はディスプレイ画面上で確認できる状態にして示し、提出はプリントアウト、電磁的記録媒体への保存、e-Tax、オンラインストレージサービスなどによる提出を求める場合があると説明しています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

電子取引については、電子帳簿保存法のもとで、取引情報を含む電子データをやり取りした場合の保存義務や保存方法が定められています。所得税法・法人税法上の保存義務者は、特に電子取引について確認しておく必要があります。
出典:国税庁|電子帳簿等保存制度特設サイト

調査前には、次の点を確認しておきます。

電子データ確認ポイント
会計ソフト対象期間の仕訳、元帳、補助科目、修正履歴
クラウド請求書発行日、請求日、取引先、登録番号、保存状態
メール見積、注文、納品、検収、支払依頼のやり取り
電子契約契約締結日、契約内容、相手先、締結権限
ECサイト明細購入日、品目、支払方法、事業関連性
クレジット明細領収書との対応、私的利用、按分
銀行CSV入出金、売上、貸付、資金移動

電子データは、調査の直前になって探そうとすると、思いのほか時間がかかります。担当者がすでに退職している、クラウドの閲覧権限がない、過去のデータをダウンロードできない、検索条件が分からない。そんな事態も珍しくありません。

紙資料と電子データのどちらが原始資料なのか、どのデータが保存義務の対象なのか。これらを調査前に確認しておくことが大切です。

消費税・インボイスは資料不備が税額に直結しやすい

消費税は、法人税や所得税以上に、資料保存の不備がそのまま税額に響きやすい税目です。

国税庁は、課税仕入れ等に係る消費税額を控除するには、その事実を記載し区分経理に対応した帳簿と、事実を証する請求書等の両方を保存する必要があるとしています。ここでいう請求書等には、適格請求書、適格簡易請求書、仕入明細書等や、それらの電磁的記録が含まれます。また、帳簿・請求書等は一定期間保存しなければなりません。
出典:国税庁|No.6496 仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存

仕入税額控除の要件となる帳簿には、課税仕入れの相手方の氏名または名称、年月日、資産または役務の内容、支払対価の額などを記載する必要があります。
出典:国税庁|No.6497 仕入税額控除のために保存する帳簿および請求書等の記載事項

令和5年10月1日から始まったインボイス制度では、適格請求書等保存方式のもとで、原則として一定事項を記載した帳簿と適格請求書等の保存が、仕入税額控除の要件となります。免税事業者等からの仕入れには経過措置が設けられていますが、適用期間・要件・金額制限を確認しておく必要があります。
出典:国税庁|No.6498 適格請求書等保存方式(インボイス制度)

調査前には、次の点を確認しておきます。

確認項目調査前に見るべきこと
課税区分課税、非課税、不課税、免税の区分が正しいか
仕入税額控除帳簿・請求書等が保存されているか
インボイス登録番号、税率別金額、消費税額等が記載されているか
免税事業者取引経過措置の適用可否、帳簿記載、金額制限
簡易課税届出、事業区分、適用期間
還付申告設備投資、輸出免税、届出、課税売上割合
電子請求書電子取引データとして保存されているか

消費税の資料準備では、「請求書があるか」だけでなく、「その請求書で仕入税額控除の要件を満たすか」まで踏み込んで確認しておく必要があります。

説明資料は“調査官に出す資料”ではなく“自分たちの判断資料”として作る

調査前に説明資料を用意する場合、最初から提出用の完成資料を作り込む必要はありません。

むしろ初期の段階では、納税者側が判断するための内部整理資料として作っておくのがよいと考えています。

説明資料に盛り込みたい要素は、次のとおりです。

項目内容
論点調査で確認されそうな事項
事実関係いつ、誰が、何を、どのように行ったか
処理内容会計処理・申告処理として何をしたか
根拠資料申告書、元帳、証憑、契約書、通帳など
判断理由なぜその処理を選んだのか
弱い点資料不足、説明不足、処理誤りの可能性
対応方針説明、追加資料、修正検討、専門家意見

説明資料を作るときは、都合のよい資料だけを並べないこと。これが何より重要です。調査官は、提出された資料だけを見ているわけではなく、通帳、反面資料、過去の申告、他税目の資料との整合性まで確認します。

取引先等への反面調査について、国税庁は、納税者本人以外の取引先などへの調査を行わなければ申告内容に関する正確な事実の把握が困難と認められる場合には、いわゆる反面調査を実施することがあると説明しています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

本人側の資料だけで説明が完結しない場合には、反面調査や金融機関調査で確認されたとしても矛盾のない説明になっているか。これを事前に確認しておく必要があります。

不足資料がある場合の整理方法

調査前準備を進めても、資料が完全には揃わないことがあります。

そんなとき、決してしてはならないのは、後から都合よく資料を作ることです。特に、契約書、議事録、贈与契約書、領収書、業務報告書などを、実際の日付と異なる形で作成してしまうと、仮装、虚偽資料、重加算税、場合によってはより重大な問題へと発展します。

不足資料がある場合は、次のように整理していきます。

状況対応
原本がない写し、メール、入出金、相手先資料で補完できるか確認する
契約書がない実際の取引条件、請求書、メール、納品実態を整理する
領収書がない支払明細、カード明細、取引先再発行可否を確認する
議事録がない実際の決定経緯、支給実態、関係者の認識を整理する
通帳がない銀行明細、残高証明、取引履歴の取得可否を確認する
電子データがない保存ルール、削除経緯、バックアップ有無を確認する
贈与契約書がない贈与意思、振込、申告、管理状況、受贈者の認識を整理する

資料が足りないこと自体が、ただちに不正を意味するわけではありません。ただ、資料不足についての説明があいまいなままだと、調査官に不利な推認をされてしまうことがあります。

帳簿書類を適正に備え付け、記録し、保存していること。これは、青色申告や仕入税額控除、推計課税のリスクにも関わってきます。帳簿書類の提示要求に合理的な理由なく応じなかった場合に、帳簿書類の備付け・記録・保存がないとの推認が働くと判断された裁判例もあります。

資料がないときほど、早めに専門家へ相談し、代替資料でどこまで説明できるかを検討しておく必要があります。

重加算税リスクは調査前に把握しておく

調査前準備で避けて通れないのが、重加算税リスクの確認です。

重加算税は、単なる計算ミスや見解の相違ではなく、隠蔽・仮装が問題となる場合に検討されます。隠蔽・仮装の具体例としては、二重帳簿、帳簿書類の破棄・隠匿・改ざん、虚偽記載、意図的な集計違算、売上除外、棚卸除外、簿外資産からの収入除外などが挙げられます。

もっとも、売上漏れや棚卸の計上漏れがあったからといって、ただちに重加算税が決まるわけではありません。棚卸原票の紛失であれば過少申告加算税の対象にとどまる可能性がある一方で、棚卸原票の改ざん・破棄・集計違算といった事実が明確になれば、隠蔽・仮装ありと判断される可能性が出てきます。

調査前には、次の観点で確認しておきます。

確認項目見るべき事実
帳簿操作二重帳簿、削除、改ざん、不自然な修正
売上現金売上、未計上入金、請求漏れ、仮受金処理
棚卸実地棚卸原票、集計表、廃棄・紛失の経緯
外注費架空請求、水増し、資金還流、実体のない役務
経費私的支出、領収書改ざん、相手先不明
名義財産故意の除外、虚偽説明、資料隠し
調査対応虚偽答弁、資料隠匿、後付け資料作成

質問応答記録書は、納税者等の答述を証拠化する行政文書として作成されることがあり、課税要件事実の存否を証拠によって明らかにし、税法等を適用して正当な税額等を導くための作業の一部と位置づけられます。調査官が重加算税の要件を立証するために、この質問応答記録書を活用することもあります。

そのため調査前の準備では、調査当日に不用意に断定しないことも、準備の一部になります。

分からないことは「資料を確認して回答します」と言えるようにしておく。記憶だけで答えない。事実と推測を分ける。これらは、調査対応の基本だと考えています。

調査当日に出す資料と、後日提出する資料を分ける

調査前に資料を整理したからといって、すべての資料を初日に一括で提出すべきとは限りません。

初日に提示すべき資料、質問を受けてから提出すべき資料、説明メモを添えるべき資料、専門家の確認後に提出すべき資料。これらを分けて考えます。

区分注意点
初日に提示する資料申告書、決算書、元帳、主要証憑整理状態を整え、対象期間を確認する
質問後に提出する資料契約書、通帳、稟議書、メール資料の意味を確認してから出す
説明メモを添える資料役員給与、外注費、名義預金、評価資料資料だけで誤解されないよう補足する
専門家確認後に提出する資料重加算税、修正申告、争点化し得る資料不利な記録化を避け、事実を整理する
提出前に範囲確認すべき資料電子データ一式、メールボックス、個人通帳調査対象との関連性を確認する

これは、必要な資料を出さないという意味ではありません。資料の提出は、意味づけと説明を伴って行うべきだ、ということです。

特に、電子データやメールを広い範囲で提出する場合には、調査対象外の私的情報、他税目に波及する情報、未整理の内部メモが含まれている可能性があります。提出の前に、対象期間、対象税目、関連性を確認しておく必要があります。

調査前に修正申告を検討すべき場合

調査前準備を進める過程で、明らかな誤りが見つかることがあります。

その場合、すぐに修正申告を出すべきかどうかは、慎重に判断します。行政指導なのか、調査通知の後なのか、更正予知の前なのか、指摘内容が単純な誤りなのか、重加算税のリスクがあるのか。こうした条件によって、判断は変わってきます。

国税庁は、調査結果により更正決定等をすべき非違がある場合には、原則として修正申告を勧奨するとしています。ただし、その勧奨に応じるかどうかは納税者の任意です。また、修正申告を行った場合には更正の請求はできますが、不服申立てはできません。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

調査前に誤りを見つけた場合は、次のように整理します。

確認項目判断のポイント
誤りの内容計算誤り、入力ミス、期ずれ、資料不足、不正行為の可能性
税目法人税、消費税、源泉所得税、所得税、相続税への波及
金額本税、加算税、延滞税の影響
継続性単年度の誤りか、複数年継続しているか
証拠関係誤りを説明できる資料があるか
重加算税隠蔽・仮装と評価される事情があるか
手続段階行政指導、調査通知後、調査着手後、更正予知前後
将来影響同じ処理を今後どう是正するか

修正申告は、税額だけで判断するものではありません。証拠関係、加算税、将来の申告処理、金融機関・取引先への説明、そして専門家としての責任まで含めて検討する必要があります。

調査前準備でしてはいけないこと

税務調査前の準備では、してよいことと、してはいけないことを、はっきり分けておく必要があります。

してはいけないこと理由
契約書や議事録を過去日付で作る仮装・虚偽資料と評価されるリスクがある
領収書を後から作ってもらう支出の実在性や時期を誤らせる可能性がある
不都合な資料を捨てる隠蔽行為と評価される可能性がある
調査官への説明内容を関係者間で作り込む事実と異なる供述調整と見られる可能性がある
取引先に口裏合わせを依頼する反面調査で矛盾し、重加算税・信用リスクが高まる
記憶だけで説明資料を作る後で資料と矛盾する可能性がある
資料不足を隠す不利な推認や虚偽説明につながる
税務署の指摘を待たず安易に修正申告する不服申立ての余地を失うことがある

調査前準備は、過去を作り替える作業ではありません。過去に起きた事実を正確に把握し、いま手元にある証拠でどこまで説明できるかを整理する作業です。

専門家に相談する前にまとめておくとよい事項

税務調査の相談では、最初からすべての資料を完璧に揃えておく必要はありません。ただ、次の情報があると、相談の質は大きく変わってきます。

相談前に整理する事項内容
税務署からの連絡内容調査か行政指導か、電話の内容、担当者名
対象税目・期間法人税、消費税、源泉所得税、所得税、相続税など
調査予定日・場所日程調整、立会い、準備期間の確認
求められた資料申告書、元帳、通帳、請求書、契約書など
不安な論点売上、外注費、役員給与、名義預金、消費税など
既に説明した内容税務署に話したこと、提出済み資料
資料不足紛失、未取得、電子データ不明、担当者退職など
修正申告の打診指摘内容、金額、加算税の示唆
重加算税の示唆隠蔽・仮装と言われたか、質問応答記録書の有無

税務代理人が関与する場合、事前通知や調査通知、調査終了時の説明の取扱いに関して、税務代理権限証書の記載が重要になります。令和6年4月1日以後の様式では、調査の通知や終了の際の手続に関する同意欄も設けられています。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(税理士向け)

調査前準備を専門家とともに進める場合でも、納税者ご本人の関与は欠かせません。税理士・会計士は資料と税法を整理できますが、取引の背景、意思決定、家族間の資金管理、現場の実態を把握しているのは、やはりご本人側だからです。

調査前準備を再発防止につなげる

税務調査の前に資料整理をしてみると、多くの場合、日頃の管理上の弱点が見えてきます。

たとえば、次のような課題です。

見つかる課題調査後に整えるべき仕組み
請求書と売上計上がずれている売上計上基準、月次締め、検収管理
領収書が散在している証憑保存ルール、電子保存、経費精算フロー
外注費の実態が説明しにくい契約書、成果物管理、発注承認
役員給与の決議が曖昧株主総会・取締役会議事録、届出期限管理
消費税区分のミスが多い課税区分チェック、インボイス確認
通帳が混在している事業用口座と私用口座の分離
家族名義財産の管理が曖昧贈与契約、管理者、通帳・印鑑管理
電子データを探せないクラウド権限、保存フォルダ、検索ルール

税務調査の準備は、調査当日を乗り切るためだけの作業ではありません。日頃の月次管理、証憑保存、承認ルール、契約管理、資金管理、財産管理を見直す機会でもあります。

調査の前に一度、自社・自身・財産の数字と実態を棚卸ししておくと、将来の資金調達、M&A、承継、相続対策も、落ち着いて進めやすくなります。

まとめ|調査前準備の質が、調査対応の質を決める

税務調査では、調査当日の受け答えだけが重要なわけではありません。むしろ、調査の前にどこまで資料を整理し、想定論点を洗い出し、説明方針を整えておいたか。それが、その後の対応を大きく左右します。

準備の基本は、次の流れです。

  1. 税務署からの連絡内容を正確に確認する
  2. 対象税目・対象期間・対象資料を把握する
  3. 資料一覧表を作る
  4. 申告書、元帳、証憑、契約書、通帳、議事録等の整合性を確認する
  5. 想定論点マップを作る
  6. 重要論点について事実経緯表を作る
  7. 資料不足や説明の弱い点を把握する
  8. 消費税・インボイス・電子取引データを確認する
  9. 重加算税リスクを早期に検討する
  10. 調査当日に出す資料と後日提出する資料を分ける
  11. 修正申告の要否を慎重に判断する
  12. 調査後の再発防止につなげる

税務調査前の資料整理は、「税務署に見せる資料を整える作業」ではありません。申告内容、会計処理、取引実態、証拠、意思決定の経緯を結び直し、後から説明できる状態を作る作業です。

資料が揃っている論点は、落ち着いて説明できます。

資料が不足している論点は、不足している理由と代替資料を検討できます。

判断が分かれる論点は、事実認定、法令解釈、証拠関係に分けて、専門家とともに検討できます。

調査前準備を丁寧に行うことは、追徴税額を減らすためだけではありません。会社、事業、財産を長期的に守るための説明責任を整えることでもあるのです。

税務調査の通知を受け、資料整理や想定論点の洗い出しに不安がある方へ

税務調査の通知を受けた段階では、まだできることが残されています。

一方で、資料を十分に確認しないまま調査官に説明したり、求められた資料を意味づけせずに提出したり、修正申告の判断を急いだりすると、後になって選択肢が狭まってしまうことがあります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、税務調査を単なる税務署対応としてではなく、申告内容、会計処理、証憑、契約、通帳、取引実態、意思決定の経緯を整理する、実務判断の場面として捉えています。

税務調査の前に、どの資料を揃えるべきか、どの論点が問題になりそうか、調査官にどう説明すべきか、修正申告や重加算税のリスクをどう見ればよいか。こうした点を整理しておきたい方は、現在の通知内容と資料の状況をもとに、ご相談ください。

お問い合わせの際は、税務署からの連絡内容、対象税目、対象期間、調査予定日、求められている資料、気になる取引や財産の内容を、分かる範囲でお知らせいただけますと、初回相談で確認すべき論点を整理しやすくなります。

振り返り

重要事項調査前に確認すること実務上の意味
税務署からの連絡内容調査か行政指導か、対象税目・期間・資料初動対応と加算税判断に影響する
資料一覧表申告書、元帳、証憑、契約書、通帳、議事録等資料不足と説明の弱点を見える化する
整合性確認申告書・帳簿・証憑・入出金の一致売上漏れ、経費否認、資金混在を早期発見する
想定論点マップ事実、資料、税務判断、説明方針調査官の質問に場当たりで対応しない
事実経緯表取引開始、契約、納品、請求、入金、決定経緯口頭説明の矛盾や記憶違いを防ぐ
電子データ会計データ、PDF請求書、メール、電子契約電子取引・電帳法対応を確認する
消費税・インボイス帳簿、請求書、登録番号、経過措置仕入税額控除の否認リスクを抑える
不足資料紛失、未取得、代替資料、説明可能性後付け作成ではなく事実整理で対応する
重加算税リスク隠蔽・仮装、虚偽資料、資料破棄、売上除外単なる誤りとの違いを早期に整理する
資料提出方針初日提示、後日提出、説明メモ添付誤解を生む資料提出を避ける
修正申告判断事実、法令、金額、加算税、将来影響安易な修正申告で選択肢を失わない
再発防止月次管理、証憑保存、承認フロー調査対応を今後の仕組みづくりにつなげる

主な出典・参考情報

出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(税理士向け)
出典:国税庁|No.6496 仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存
出典:国税庁|No.6497 仕入税額控除のために保存する帳簿および請求書等の記載事項
出典:国税庁|No.6498 適格請求書等保存方式(インボイス制度)
出典:国税庁|電子帳簿等保存制度特設サイト

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