税務調査の対象期間・対象税目・対象資料の読み取り方|通知内容から調査範囲を整理する

税務調査の通知を受けたとき、多くの方がまず気にされるのは、「何年分を見られるのか」「どの税金が対象なのか」「どの資料を用意すればよいのか」という三つの点です。

実は、この三つは単なる事務的な連絡事項ではありません。調査対応の範囲はもちろん、準備すべき資料、想定される論点、調査官への説明方針、修正申告の要否、さらには加算税のリスクまで左右する、たいへん重要な情報です。

ただ、通知された内容を「その範囲だけ見られる」「それ以外は一切関係ない」と機械的に受け取ってしまうと、かえって判断を誤ることがあります。税務調査は、通知された対象期間・対象税目・対象資料を起点としながらも、調査の過程で非違が疑われる事項が出てきた場合には、追加の確認が行われることがあるからです。

大切なのは、通知内容を過度に狭く読むことでも、必要以上に広く恐れることでもありません。「今回の調査で直接対象となる範囲」と「説明のために確認され得る周辺資料」を、きちんと分けて整理しておくことです。

この記事では、税務調査の通知を受けたとき、対象期間・対象税目・対象資料をどう読み取り、どの順番で準備を進めればよいのかを、実務判断の観点から整理してみます。

目次

調査の範囲は、三つの軸で決まる

税務調査の範囲は、主に次の三つの軸で整理できます。

通知で確認すべきこと実務上の意味
対象期間何年分・何事業年度・どの課税期間かどの申告書、帳簿、証憑を準備するかを決める
対象税目法人税、所得税、消費税、源泉所得税、相続税などどの税法上の論点を想定するかを決める
対象資料帳簿書類その他の物件どの資料を提示・提出できる状態にするかを決める

国税庁の事務運営指針では、実地の調査を行う場合、原則として、調査の開始日時、場所、目的、対象税目、対象期間、そして対象となる帳簿書類その他の物件などを、あらかじめ通知することとされています。
出典:国税庁|調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)

事前通知の事項としては、ほかにも、調査を行う旨や調査担当職員の氏名なども挙げられています。これらが通知されることによって、調査の対象が特定されていくわけです。

ですから、通知を受けた段階でまず行うべきことは、調査官に反論を考えることではありません。「今回の調査は、どの税目の、どの期間の、どの資料を起点に行われるのか」を、正確に記録しておくことです。

事前通知で聞いた内容は、その場で整理しておく

電話で税務調査の連絡を受けると、どうしても緊張してしまい、内容を聞き漏らしやすくなります。

しかし、対象期間・対象税目・対象資料を曖昧なままにしてしまうと、準備の範囲が必要以上に広がったり、逆に肝心な資料を用意し忘れたりすることになりかねません。

通知を受けたら、少なくとも次の項目は控えておいてください。

確認項目メモすべき内容
調査担当部署税務署名、部門名、担当者名
調査開始日時何月何日、何時からか
調査場所会社、事業所、自宅、税務署、税理士事務所など
対象税目法人税、消費税、源泉所得税、所得税、相続税、贈与税など
対象期間何年分、何事業年度、何課税期間か
対象資料帳簿、請求書、領収書、契約書、通帳、電子データなど
日程変更の可否変更を希望する場合の連絡方法
税理士への通知税務代理権限証書の提出状況、税理士への連絡有無

ここで気をつけたいのは、調査官の言葉を、自分なりに要約しすぎないことです。

たとえば、調査官が「法人税と消費税の3期分」と言ったのか、それとも「法人税等の調査」と言ったのかでは、意味がまるで違ってきます。源泉所得税が明示されているかどうか、相続税の調査で贈与税も対象に含まれているのか、消費税の対象課税期間が法人税の事業年度と一致しているのか。こうした点も、ひとつひとつ確認しておく必要があります。

不明な点があれば、その場で聞き返して構いません。

「対象税目は法人税と消費税でよろしいでしょうか」 「対象期間は令和3年3月期から令和5年3月期までの3事業年度という理解でよろしいでしょうか」 「源泉所得税は今回の対象に含まれていますか」

こうした確認は、調査を拒むためのものではありません。あくまで、適切に準備を進めるためのものです。

対象期間の読み方|「何年分を見るか」と「どの資料を見るか」は一致しない

対象期間とは、調査の直接の対象となる年分、事業年度、課税期間のことを指します。

法人であれば「令和3年3月期から令和5年3月期までの法人税」といった形で通知されることがあります。個人事業主であれば「令和3年分から令和5年分までの所得税及び消費税」、相続税であれば「令和○年○月○日相続開始に係る相続税」といった形になります。

ここで注意したいのは、対象期間と、実際に確認される資料の期間とは、必ずしも完全には一致しないという点です。

進行期については、更正決定等を目的とした調査の対象期間には含まれません。とはいえ、通知された対象期間の申告内容を確認するために必要な場合には、進行期に作成・取得された帳簿書類等が確認されることがあります。たとえば、期末売掛金の入金確認、決算後の返品・値引き、翌期に計上された売上や仕入の確認などです。

ですから、対象期間を読むときは、次の二つの層に分けて考えるとよいでしょう。

区分意味
直接の対象期間更正・修正申告等の判断対象になる期間令和3年3月期〜令和5年3月期
確認のための周辺期間対象期間の申告内容を確認するために参照される期間翌期の入金、前期からの繰越、進行期の決済状況

この区分を取り違えると、「対象期間外だから見せなくてよい」と早合点してしまいます。逆に、対象期間外の資料を求められたからといって、ただちに調査範囲が不当に広げられたと考えるのも、また早計です。

問われているのは、その資料が、対象期間の申告内容を確認するために必要なものなのかどうか。その一点に尽きます。

法人の対象期間|事業年度単位で読む

法人税の調査では、通常、事業年度単位で対象期間が示されます。

たとえば、3月決算の法人であれば、次のように通知されることがあります。

通知内容の例読み方
令和3年3月期から令和5年3月期まで3事業年度分の法人税申告が対象
令和4年3月期及び令和5年3月期2事業年度分が対象
令和5年3月期特定年度に絞った調査

法人税では、対象期間の損益だけでなく、貸借対照表の項目も確認されます。売掛金、買掛金、棚卸資産、仮払金、貸付金、未払金、固定資産などは、前期から引き継がれる項目です。そのため、対象期間の前期末残高や、翌期の決済状況まで確認されることがあります。

たとえば、令和5年3月期が対象であれば、令和4年3月期末の売掛金残高、令和5年4月以降の入金、令和6年3月期に処理された返品・値引きが、令和5年3月期の売上計上や貸倒処理の確認に関わってくることがあるわけです。

法人税の調査で対象期間を読むときは、次のように整理してみてください。

確認事項見るべき資料
期首残高前期末の決算書、内訳書、元帳
期中取引総勘定元帳、補助元帳、請求書、契約書、入出金
期末処理棚卸表、未払金、未収入金、減価償却、引当・見積り
翌期決済入金、支払、返品、値引き、取消し、貸倒れ
継続処理前期・翌期と同じ処理がされているか

対象期間は、「その年度だけを切り取る」ものではありません。期首から期末、さらには翌期の決済までつながっていく数字として読む。そうした視点が必要になります。

個人事業主の対象期間|年分と消費税の課税期間を分ける

個人事業主の場合、所得税は暦年単位で対象期間が示されます。

たとえば、「令和3年分から令和5年分までの所得税」と通知された場合は、各年の1月1日から12月31日までが対象です。

一方、消費税は課税期間単位で確認されます。個人事業主の消費税も通常は暦年ですが、課税事業者である年と免税事業者である年が混在することがあります。そのため、所得税と消費税を同時に調査する場合でも、調査対象期間が一致しないことがあるのです。実際、申告所得税と消費税を同時に調査する場合には、事前通知を行う対象期間が必ずしも一致していなくてもよく、それぞれの税目ごとに調査対象期間を通知するものと整理されています。

個人事業主の方が対象期間を読む際には、次のように分けて考えてください。

税目対象期間の単位注意点
所得税年分売上、必要経費、家事関連費、所得区分を確認
消費税課税期間課税事業者か、簡易課税か、インボイス・仕入税額控除を確認
源泉所得税支払時期・納付時期従業員給与、報酬料金、外注費の実態を確認
個人住民税・事業税原則として別制度国税調査の結果が地方税に波及することがある

個人事業主の場合、対象期間内の通帳だけでなく、対象期間前後の入出金、現金売上、予約台帳、レジ資料、クレジット決済、プラットフォーム入金、家事関連費の按分根拠などが問題になることがあります。

「令和5年分だけ」と言われた場合でも、令和4年12月の売上入金が令和5年にずれ込んでいないか、あるいは令和6年1月の入金が令和5年の売上に対応していないか。こうした点が確認されることがあります。

相続税・贈与税の対象期間|相続開始日だけでは読めない

相続税の調査では、対象が「令和○年○月○日相続開始に係る相続税」という形で示されることが多くなります。

この場合、申告対象となる相続税は、特定の相続開始日を基準とします。ただし、実際に確認される資料は、相続開始日時点の財産一覧だけにとどまりません。

相続税の調査では、過去の入出金、生前贈与、名義預金、家族名義の財産、相続開始前の多額の引出し、不動産の利用状況、非上場株式の評価資料などが確認されます。子や配偶者の名義であっても、実質的に被相続人の財産と認められる場合には、相続財産として問題になります。名義財産の判断にあたっては、資金の原資、贈与の意思、受贈者の認識、名義変更、管理状況、収益の帰属などが重要な要素となります。

相続税の調査では、対象期間を次のように整理しておくとよいでしょう。

確認対象読み方
相続開始日課税財産・債務・評価の基準日
相続開始前の期間預金移動、生前贈与、名義財産、保険、現金引出しを確認
相続開始後の期間遺産分割、納税資金、申告後の財産処分、相続人の管理状況を確認
贈与税の年分生前贈与の成立、申告、相続財産への加算を確認

相続税の調査で「相続開始日だけ」を見ればよい、と考えるのは危険です。資産税では、財産がいつ、誰の資金で形成され、誰が管理し、誰に帰属していたのか。そうした時間軸が重視されるからです。

対象税目の読み方|法人税だけの調査でも、他税目に波及することがある

対象税目とは、今回の調査で直接対象となる税金の種類のことです。

通知で「法人税」と言われた場合は、法人税が中心になります。「法人税及び消費税」であれば、両方が直接の対象です。そして「源泉所得税」が含まれていれば、給与、報酬、外注費、退職金、非居住者への支払などの支払実務も確認されることになります。

ただ、税務上の論点というのは、税目ごとに完全に切り離されているわけではありません。

取引・処理法人税消費税源泉所得税
外注費損金性、架空費用、給与認定仕入税額控除給与・報酬なら源泉漏れ
役員への支払役員給与、認定賞与課税仕入れにならない場合あり給与・賞与の源泉
交際費損金算入制限、使途秘匿金仕入税額控除相手方への報酬性が問題になる場合
海外支払損金性、寄附金、移転価格内外判定、リバースチャージ非居住者源泉
個人事業の家事関連費必要経費性課税仕入れ該当性従業員・外注区分

たとえば、外注費が給与と認定されると、法人税では損金処理や役員・従業員への経済的利益が問題になり、消費税では仕入税額控除が否認される可能性が生じ、源泉所得税では源泉徴収漏れが問われることになります。一つの取引が、複数の税目に波及していくわけです。

そこで、対象税目を読むときは、次の二段階で考えます。

段階内容
直接対象税目通知で明示された税目
波及税目その論点が他税目に影響する可能性がある税目

対象税目が法人税だけだからといって、消費税や源泉所得税の影響を無視してよいわけではありません。とはいえ、通知されていない税目について、調査官が何でも自由に調査できるという意味でもありません。

大切なのは、調査の途中で非違が疑われる事項が生じたとき、それがどの税目に、どのように波及するのかを整理しておくことです。

通知された税目以外の確認が行われる場面

国税庁の事務運営指針では、実地調査において、通知した事項以外の事項について非違が疑われた場合には、納税者に対し、調査対象に追加する税目や期間などを説明し、理解と協力を得たうえで質問検査等を行うこととされています。
出典:国税庁|調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)

実務上も、事前に通知していない税目や課税期間について非違が疑われることになった場合、その事項に関して質問検査等を行うことは妨げられないと整理されています。たとえば、法人税の調査の過程で印紙税の納付漏れが疑われる場合や、譲渡所得の調査で資金の流れを確認した結果、贈与税の申告漏れが疑われる場合などが、これにあたります。

この点を実務に落とし込むと、おおむね次のようになります。

当初通知調査中に見つかる可能性のある波及論点
法人税消費税、源泉所得税、印紙税、役員給与
消費税法人税、所得税、外注費・給与区分、還付調査
所得税消費税、源泉所得税、贈与税、事業実態
相続税贈与税、所得税、国外財産、名義財産
譲渡所得贈与税、法人税、時価取引、資金移動

納税者の側としては、通知された税目を中心に準備を進めつつ、金額の大きい取引、役員・親族・関係会社との取引、外注費、資金移動、消費税の控除、源泉徴収、贈与や名義財産といった、波及しやすい論点をあらかじめ洗い出しておきたいところです。

対象資料の読み方|「帳簿書類その他の物件」とは何か

事前通知では、調査対象となる「帳簿書類その他の物件」が示されます。

この表現はかなり広く、単に総勘定元帳や領収書だけを指すものではありません。

国税庁の通達では、事前通知事項としての「帳簿書類その他の物件」について、法令上、備付け・保存が必要なものは名称と根拠法令を示し、それ以外のものは一般的な名称や内容を例示することとされています。あわせて、質問検査等の対象となる帳簿書類その他の物件には、法令上の備付け・保存が必要な帳簿書類だけでなく、調査の目的を達成するために必要と認められる帳簿書類その他の物件も含まれるとされています。
出典:国税庁|国税通則法第7章の2(国税の調査)等関係通達 第4章

実務上も、「その他の物件」には、金銭、有価証券、棚卸商品、不動産といった各種の資産や、帳簿書類作成の基礎となる原始記録など、調査の目的を達成するために必要な物件が含まれると整理されています。

対象資料は、次のように分類して準備しておくと整理しやすくなります。

資料区分具体例確認される理由
申告資料申告書、決算書、内訳書、勘定科目明細申告内容の出発点
会計帳簿総勘定元帳、仕訳帳、補助元帳、現金出納帳数字の流れを確認
証憑請求書、領収書、納品書、検収書、契約書取引の実在性を確認
金融資料通帳、振込明細、借入資料、入出金データ資金移動を確認
社内資料稟議書、議事録、承認記録、取引メモ意思決定過程を確認
電子データ会計データ、販売管理データ、電子請求書、EC明細電子取引・原始記録を確認
現物・資産棚卸資産、固定資産、現金、有価証券帳簿残高と実態を確認
資産税資料預金履歴、贈与契約書、不動産資料、評価資料財産帰属・評価を確認

法人税の調査では、総勘定元帳と証憑だけでなく、契約書、議事録、稟議書、資金繰り表、関係会社との取引資料が重要になります。

個人事業主の調査では、通帳、現金出納、レジ資料、予約台帳、売上管理表、クレジット決済明細、家事関連費の按分資料が鍵になります。

相続税の調査では、被相続人・相続人・家族の名義の預金履歴、贈与契約書、贈与税申告書、保険資料、不動産の利用状況、財産評価資料が重要です。

対象資料を読み取るときは、「通知された資料名に該当するか」だけでなく、「その資料が何を証明するのか」まで考えておく必要があります。

電子データ・クラウド資料も対象になり得る

いまの税務調査では、紙の資料だけを想定していると、どうしても不十分になります。

会計ソフト、販売管理システム、クラウド請求書、電子契約、ECサイト、決済代行会社、ネット広告、銀行のCSVデータ、メール、チャット、クラウドストレージ。取引の記録が電子データとして残っているケースが、年々増えているからです。

法人は、帳簿を備え付けて取引を記録し、帳簿や、取引等に関して作成・受領した書類を、原則として確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存しなければならないとされています。青色欠損金が生じた事業年度などでは、保存期間が10年間となる場合もあります。
出典:国税庁|No.5930 帳簿書類等の保存期間

個人事業主についても、帳簿や書類を一定期間保存する必要があり、青色申告者の帳簿や決算関係書類などは、原則として7年間の保存とされています。
出典:国税庁|記帳や帳簿等保存・青色申告

さらに電子帳簿保存法では、取引情報を含む電子データをやり取りした場合について、そのデータの保存義務や保存方法などが定められています。
出典:国税庁|電子帳簿等保存制度特設サイト

電子データについては、次の点を確認しておきたいところです。

確認項目実務上の注意点
保存場所会計ソフト、クラウド、PC、外部ストレージ、メール
出力方法PDF、CSV、画面表示、紙出力
検索性取引年月日、金額、取引先で確認できるか
改ざん防止訂正削除履歴、タイムスタンプ、事務処理規程等
紙資料との整合紙の領収書・請求書と電子データが重複・矛盾していないか
退職者管理担当者のメール・チャット・クラウド権限が残っているか

電子データは便利な反面、後から見直したときに資料の所在が分からなくなっていたり、退職者のアカウントに取引記録が残ったままになっていたり、紙と電子で金額が食い違っていたり、といった問題が起こりやすい領域でもあります。

調査の前には、電子資料を「見せられる状態」にしておくだけでなく、「何を示す資料か」をきちんと説明できるところまで整理しておくことが大切です。

対象資料は「全部出す」前に、意味を整理する

税務調査では、調査官から資料の提示・提出を求められることがあります。

国税庁の事務運営指針では、調査について必要がある場合に帳簿書類その他の物件の提示・提出を求めるときは、相手方の理解と協力のもと、その承諾を得て行うこととされています。また、提出を受けた帳簿書類等の留置きについても、その必要性を説明し、理解と協力のもとで行うものとされています。
出典:国税庁|調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)

ここで大切なのは、「資料を出すか出さないか」という二択で考えないことです。資料を出す前に、次の点を確認しておきます。

確認事項理由
どの税目・期間の資料か対象範囲との関係を確認するため
何を示す資料か誤解を防ぐため
他の資料と矛盾しないか追加質問・重加算税リスクを防ぐため
個人情報・機密情報が含まれるか不要な混乱を避けるため
原本か写しか返還・留置き管理のため
電子データか紙か提示方法・保存要件を確認するため
説明メモが必要か資料の意味を正しく伝えるため

資料は、ただ多く出せばよいというものではありません。

たとえば、取引先別の売上表を提出する場合、その表の作成日、作成元のデータ、会計帳簿との関係、請求書や入金との一致状況を説明できなければ、かえって疑問を招いてしまうことがあります。

社内メモやメールについても同様です。その文書が正式な意思決定資料なのか、担当者の仮説メモにすぎないのか、あるいは後日修正されたものなのか。そうした整理をしないまま提出すると、誤った事実認定につながりかねません。

調査対応では、資料そのものだけでなく、資料の位置づけを整理しておくことが重要になります。

「対象期間外だから関係ない」とは言い切れない資料

対象期間外の資料であっても、対象期間の申告内容を説明するために必要になることがあります。

代表的なものを挙げると、次のとおりです。

対象期間外の資料関係する論点
前期末の残高資料期首残高、貸借対照表項目、棚卸、売掛金
翌期の入金資料売上計上時期、売掛金回収、期ずれ
翌期の支払資料未払金、外注費、仕入計上、費用計上時期
進行期の帳簿対象期間の決済確認、継続処理の確認
過去の贈与契約名義財産、生前贈与、相続財産の帰属
過去の関係会社契約継続取引、価格設定、寄附金、移転価格
過去の議事録役員報酬、退職金、意思決定過程

たとえば、令和5年3月期の売上が対象であれば、令和5年4月以降の入金確認は、令和5年3月期の売掛金が実在していたかどうかを確かめるために必要になることがあります。

相続税の調査でも、相続開始の数年前の預金移動や贈与契約が、相続開始日時点での財産の帰属を判断するうえで重要になります。

対象期間外の資料については、次のように判断するとよいでしょう。

判断軸確認すること
関連性対象期間の申告内容を説明するために必要か
範囲必要な部分に限定できるか
整合性対象期間資料と矛盾しないか
説明可能性なぜその資料を出すのか説明できるか
専門家確認提出前に論点化する可能性を確認したか

「対象期間外だから拒否する」のではなく、「対象期間のどの論点を確認するための資料か」を見極める。そうした姿勢が大切になります。

調査範囲が広がる可能性がある場面

調査の途中で、対象税目や対象期間が追加されることがあります。

ただし、これは調査官が自由に、無制限に広げられるという意味ではありません。調査の過程で通知事項以外の事項について非違が疑われた場合に、追加する税目・期間などを説明し、理解と協力を得たうえで質問検査等を行う、という整理になります。
出典:国税庁|調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)

調査範囲が広がりやすいのは、次のような場面です。

きっかけ広がる可能性のある範囲
売上除外が疑われる前後期、消費税、代表者口座
外注費の実態が不明源泉所得税、消費税、反面調査
役員への資金移動役員賞与、貸付金、源泉所得税
契約書に印紙不備がある印紙税
相続人への資金移動がある贈与税、名義預金
海外送金がある国際税務、国外財産、源泉所得税
帳簿不備がある推計課税、青色申告取消、加算税

調査範囲が広がる兆候が見えたときは、感情的に反発するのではなく、次の点を確認しておきたいところです。

確認事項実務上の意味
何の非違が疑われているのか争点の特定
どの税目に追加されるのか法令判断の整理
どの期間が対象になるのか資料準備範囲の確認
どの資料を求められているのか提示・提出前の整理
既に終了した調査に当たるのか再調査該当性の確認
修正申告を求められているのか調査終盤判断との区別

追加の確認が始まった段階で、発言や資料提出を整理しないまま対応してしまうと、後になって事実関係が固定され、不利な記録が残ってしまうことがあります。

再調査との関係|一度終わった税目・期間かを確認する

税務調査では、「新たに得られた情報に基づく再調査」が問題になることがあります。

国税庁の通達では、調査は、納税義務者について税目と課税期間によって特定される納税義務に関してなされるものであり、別段の定めがある場合を除いて、その納税義務に係る調査を一つの調査として扱うものとされています。
出典:国税庁|国税通則法第7章の2(国税の調査)等関係通達 第4章

実務上も、再調査の判定は税目・課税期間によって行われ、異なる税目の調査は再調査に該当しないと整理されています。

この考え方は、調査範囲を読むうえで重要な意味を持ちます。

状況実務上の見方
法人税の令和5年3月期が初めて対象通常の調査
法人税の令和5年3月期が過去に是認済み再調査該当性を確認
消費税の令和5年3月期が初めて対象法人税とは別税目として確認
同じ税目・同じ期間について新資料が出た新たに得られた情報に基づく再調査か確認
対象期間外の資料を確認するだけ必ずしもその期間自体の調査とは限らない

納税者の側としては、「過去に見られたから、もう調査はできない」と単純に考えるのではなく、税目、課税期間、過去の調査終了の手続、そして新たに得られた情報の有無を、それぞれ分けて確認しておく必要があります。

対象期間・対象税目・対象資料を一枚に整理する

調査の通知を受けたら、まずは次のような一覧表を作ってみてください。

区分内容準備状況リスクメモ
対象税目法人税、消費税申告書確認済み消費税の課税区分に注意
対象期間令和3年3月期〜令和5年3月期元帳準備中令和5年3月期に外注費増加
主要資料申告書、決算書、元帳、証憑一部不足契約書未整備の取引あり
周辺資料翌期入金、前期残高、議事録未確認役員貸付金あり
波及税目源泉所得税、印紙税未確認外注費・給与区分
説明が必要な事項売上計上時期、外注費、役員支払経緯整理中専門家確認が必要

この一覧表を作っておくと、調査範囲を冷静に把握できます。

とりわけ重要なのは、「資料があるか」だけでなく、「説明が弱い部分」を見える化しておくことです。

説明が弱くなりやすい部分事前に確認すべきこと
口頭合意の取引契約条件、メール、請求書、入金
役員・親族との取引金額の相当性、意思決定、資金移動
外注費成果物、作業実態、給与との違い
現金取引入出金記録、現金残高、売上台帳
家事関連費按分根拠、利用実態、私的利用
名義財産資金原資、管理支配、贈与意思
海外取引契約、送金、役務提供、源泉、消費税

税務調査では、説明が弱い部分にこそ、質問が集中します。調査範囲を読む目的は、準備漏れをなくすだけでなく、説明の弱い部分を早めに把握しておくことにもあるのです。

資料準備の順番|申告書から始め、元帳、証憑、周辺資料へ進む

対象期間・対象税目・対象資料を確認したら、資料の準備は次の順番で進めていきます。

1. 申告書・決算書を確認する

まずは、対象期間の申告書、決算書、勘定科目内訳書、消費税申告書、源泉所得税の納付状況、相続税申告書などを確認します。

この段階では、税額計算そのものよりも、どの勘定科目・取引・財産が調査対象になりやすいかを把握することに重きを置きます。

2. 元帳・補助簿を確認する

次に、総勘定元帳、補助元帳、売掛帳、買掛帳、現金出納帳、固定資産台帳、棚卸表などを確認します。

前期比較、異常値、金額の大きい取引、期末処理、そして役員・親族・関係会社との取引には、印を付けておきます。

3. 証憑を確認する

請求書、領収書、契約書、納品書、検収書、見積書、発注書、振込明細などを確認します。

ここでは、帳簿にある数字が、実際の取引資料と一致しているかどうかを確かめます。

4. 資金移動を確認する

通帳、インターネットバンキング、クレジットカード明細、決済サービス、借入資料を確認します。

売上の入金、外注費の支払、役員貸付金、親族間の資金移動、相続開始前の引出しなどを整理しておきます。

5. 意思決定資料を確認する

議事録、稟議書、承認記録、メール、社内メモ、契約交渉資料を確認します。

特に、役員給与、役員退職金、関係会社取引、貸倒処理、評価、贈与、財産移転といった場面では、意思決定の経緯が重要になります。

6. 説明メモを作成する

最後に、調査官へ説明するための前提として、論点別の説明メモを作成します。

この段階で、資料の不足、記憶が不明な点、処理に誤りがある可能性、修正申告を検討すべき事項、専門家の判断が必要な事項を、それぞれ切り分けておきます。

対象範囲を読めないまま対応するリスク

対象期間・対象税目・対象資料を曖昧にしたまま調査対応を進めてしまうと、次のようなリスクが生じます。

リスク具体例
準備漏れ消費税も対象なのに請求書・インボイスを確認していない
資料の出し過ぎ関係の薄い資料を大量に出し、別論点を生む
発言の混乱対象期間外の記憶を対象期間内の事実として話してしまう
税目波及の見落とし外注費の問題が源泉・消費税に及ぶことを見落とす
修正申告判断の誤り対象税目・期間を誤解したまま修正範囲を広げる
再調査判断の見落とし過去に終了した税目・期間との関係を確認しない
重加算税リスク資料不足や説明矛盾が隠蔽・仮装と誤解される

調査対応では、調査官に協力することと、準備不足のまま何でも答えてしまうことは、まったく別のものです。

分からないことは、「確認して回答する」。対象範囲が不明な資料については、「どの論点に関する資料か確認する」。説明が難しい処理については、「事実・資料・税務判断を整理してから説明する」。

こうした姿勢が、後からきちんと説明できる調査対応へとつながっていきます。

まとめ|調査範囲を正確に読むことが、冷静な調査対応の出発点

税務調査の通知を受けたとき、最初に確認すべきなのは、対象期間、対象税目、対象資料です。

対象期間は、どの年分・事業年度・課税期間が直接の調査対象なのかを示します。対象税目は、どの税金について確認されるのかを示します。対象資料は、どの帳簿書類その他の物件を起点に事実確認が行われるのかを示します。

ただし、通知された範囲を過度に狭く読むべきではありません。対象期間の申告内容を確認するために、前後の期間の資料が必要になることがあります。通知された税目の論点が、消費税、源泉所得税、贈与税、印紙税などに波及することもあります。通知された資料名に含まれていなくても、調査の目的を達成するために必要な原始資料や電子データが確認されることもあります。

重要なのは、範囲を恐れることではなく、範囲を整理することです。

どの税目の、どの期間の、どの資料を、何のために確認されているのか。その資料は、申告内容のどの数字・どの事実・どの税務判断を説明するものなのか。対象範囲外に見える資料についても、対象期間の事実確認とどう関係するのか。

ここまで整理できれば、税務調査は場当たり的な対応ではなく、事実・証拠・法律関係に基づいて判断していく場へと変わっていきます。

税務調査の対象範囲を整理し、必要資料と想定論点を確認したい方へ

税務調査の通知を受けた段階では、まだ結論を急ぐ必要はありません。

まず必要なのは、対象期間、対象税目、対象資料を正確に読み取り、自社・ご自身・財産のどこに論点があるのかを整理することです。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、法人、個人事業主、資産税の税務調査について、調査通知の内容、対象税目、対象期間、申告書、元帳、証憑、契約書、通帳、電子データ、財産資料を確認しながら、調査前に整理しておくべき論点を洗い出します。

「どこまで資料を準備すればよいか分からない」 「対象期間外の資料を求められた場合の意味を知りたい」 「法人税だけでなく、消費税・源泉所得税・贈与税への波及が心配」 「調査前に、説明が弱い部分を把握しておきたい」

このようなお悩みがある場合は、通知の内容と手元の資料を整理したうえで、どうぞお早めにご相談ください。調査範囲を冷静に読み解くことが、調査当日の発言、資料の提出、修正申告の判断、そして調査後の再発防止までを左右します。

振り返り

重要事項実務上の読み方準備すべきこと
対象期間直接の調査対象となる年分・事業年度・課税期間申告書、元帳、前後期間の関連資料を確認する
周辺期間対象期間の事実確認に必要な前後期間翌期入金、前期残高、進行期資料を整理する
対象税目通知で明示された税金法人税、所得税、消費税、源泉、相続税などを分ける
波及税目直接対象ではないが影響し得る税目外注費、役員取引、贈与、印紙税などを確認する
対象資料帳簿書類その他の物件帳簿、証憑、契約書、通帳、電子データを整理する
電子データクラウド・メール・会計データ等保存場所、出力方法、検索性、整合性を確認する
対象外資料対象期間外でも関係し得る資料何の論点を説明する資料か確認する
追加確認調査中に非違が疑われた事項追加税目・期間・資料の意味を確認する
再調査同一税目・同一期間の再確認過去の調査終了手続と新情報の有無を確認する
資料提出出すか出さないかだけで判断しない資料の意味、矛盾、機密性、説明メモを確認する
説明方針事実・証拠・税務判断をつなげる記憶だけで断定せず、資料確認後に回答する

主な出典・参考情報

出典:国税庁|調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)
出典:国税庁|国税通則法第7章の2(国税の調査)等関係通達の制定について
出典:国税庁|国税通則法第7章の2(国税の調査)等関係通達 第4章
出典:国税庁|国税通則法第7章の2(国税の調査)等関係通達 第4章 事前通知に関する事項
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
出典:国税庁|No.5930 帳簿書類等の保存期間
出典:国税庁|記帳や帳簿等保存・青色申告
出典:国税庁|電子帳簿等保存制度特設サイト

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