VC・エンジェル・投資契約・株主間契約の基本|投資を受ける前に確認すべき資本政策と実務

創業期の資金調達というと、「融資を受けるか、出資を受けるか」という比較にどうしても目が向きがちです。けれども、VCやエンジェルから投資を受ける場面で本当に大切なのは、資金が入ること、それ自体ではありません。

投資を受けると、会社には新しい株主が加わります。この新しい株主は、単なる資金の提供者ではありません。会社の意思決定や情報提供、資本政策、将来のIPO・M&A、場合によっては経営者の行動制限にまで関わってくる存在です。

投資とは、資金調達であると同時に、「株主構成」「契約管理」「ガバナンス」「出口戦略」を設計する行為でもあるのです。

本稿では、VC・エンジェル投資を検討する創業期の経営者が、投資契約・株主間契約を前にして何を理解し、どの順番で確認していけばよいのかを整理していきます。

目次

投資を受けると、会社には3つの変化が起こる

VCやエンジェルからの投資は、借入とは性質が大きく異なります。

借入であれば、論点の中心はあくまで返済義務と利息です。もちろん金融機関への対応や財務制限、資金使途の説明も欠かせませんが、金融機関が株主になるわけではありません。

これに対して投資では、資金の提供者そのものが株主になります。株式や新株予約権を通じて、会社の成長によるリターンを期待する立場になるため、投資後の関係は、一度の入金では終わりません。

変化内容実務上の意味
資金面の変化返済義務のない資本性資金が入る資金繰りには余裕が出るが、株主リターンへの説明責任が生じる
所有面の変化創業者以外の株主が入る持株比率、議決権、希薄化、Exit時の分配に影響する
契約面の変化投資契約・株主間契約が締結される事前承認、情報提供、買取請求、ドラッグアロング等の義務が発生し得る

投資家が見ているのは、事業の成長可能性です。なぜこの事業なのか、なぜ今なのか、なぜこの経営陣であれば実行できるのか。こうした問いにどう答えられるかを、投資家は重視しています。

だからこそ、投資を受ける前に、経営者自身の整理が必要です。「資金が足りないから投資を受ける」のではなく、「どの成長仮説を実行するために、どの投資家を株主に迎えるのか」を自分の言葉で説明できる状態にしておきたいところです。

VCとエンジェルは、同じ投資家でも見ているものが違う

VCとエンジェルは、どちらもスタートアップに資金を提供する投資家です。ただし、その背景や意思決定の構造は、それぞれ異なります。

区分主な特徴創業者側の確認ポイント
エンジェル投資家個人として自己資金を投資することが多い事業理解、関与度合い、紹介・助言の期待値、契約条件の明確化
VCファンドとしてLP等から集めた資金を投資する投資ステージ、ファンド期間、投資委員会、Exit方針、追加投資余力
CVC・事業会社投資家事業シナジーや協業目的を伴うことがある資本業務提携、競業制限、独占交渉、取引条件との関係

エンジェル投資家は、創業・シード期の資金の出し手となることが多く、現役または元経営者が、次世代の起業家を応援する趣旨で出資するケースもあります。

一方のVCは、ファンドを通じてスタートアップに投資し、IPOやM&Aによる株式の値上がり益を得る事業体だと整理できます。

VCの場合、投資検討は、初期検討からはじまり、投資委員会、マネジメントプレゼンテーション、最終意思決定、会計・法務デューデリジェンス、投資契約交渉へと進んでいくのが一般的です。検討から意思決定まで一定の期間を要しますから、資金が枯渇する直前に打診しても間に合わない、ということが起こり得ます。

エンジェル投資では、VCほど形式的なプロセスを踏まない場合もあります。とはいえ、だからといって契約を簡略化してよいわけではありません。少額であっても株主になる以上、出資額、取得株式数、株価、情報提供、譲渡制限、そして将来の追加調達時の扱いまで、あらかじめ明確にしておく必要があります。

エンジェル税制を使う場合は、投資契約書の内容にも注意する

個人投資家から投資を受ける場合、その投資がエンジェル税制の対象になるかどうかが話題にのぼることがあります。

エンジェル税制は、スタートアップへ投資を行った個人投資家に対する、税制上の優遇措置です。令和7年度税制改正では、令和8年1月1日以降に取得した株式について、再投資期間の延長や保有期間の設定といった改正が行われています。
出典:経済産業省|エンジェル税制

また、税制適用の申請にあたっては、個人投資家とスタートアップが経済産業省の告示に基づく投資契約書を作成し、都道府県に提出する必要があります。
出典:経済産業省|エンジェル税制申請ガイドライン

つまりエンジェル投資では、投資家側の税務メリットだけを見て判断してしまうのは危うい、ということです。会社側でも、対象会社要件、投資家要件、投資契約書、申請手続、株式の保有期間、譲渡時の扱いまで、あわせて確認しておく必要があります。

税制の適用可否は、会社・投資家双方の状況、投資方法、払込時期、取得する有価証券の種類によって変わってきます。エンジェル税制を前提に投資条件を設計するのであれば、契約締結の前に、税務・法務の確認を済ませておくべきでしょう。

投資契約・株主間契約・財産分配契約は役割が違う

投資を受ける場面では、これらをひとまとめに「投資契約」と呼んでしまうことがあります。しかし実務上は、複数の契約がそれぞれの役割を分担しているのが通常です。

スタートアップ投資に関する主な契約は、投資契約、株主間契約、財産分配契約の3つに整理されます。すべての案件で3種類の契約書がそろうわけではありませんが、契約内容の機能と契約当事者を分けて理解しておくことが大切です。
出典:経済産業省|スタートアップ投資契約ガイドライン

契約類型主な役割主な関係者
投資契約今回の投資実行条件を定める会社、投資家、場合により経営株主
株主間契約投資後の会社運営・株主間の権利義務を定める会社、創業株主、主要投資家等
財産分配契約M&A・清算等の場面での分配やExit条件を整理する会社、株主、投資家等

投資契約が中心的に扱うのは、「今回、いくらで何株を発行し、どの条件が満たされれば払込みが行われるのか」です。

株主間契約は、「投資後に、会社と株主がどう行動するのか」を扱います。事前承認事項、情報提供、取締役選任、株式譲渡制限、共同売却権、ドラッグアロング、買取請求といった論点は、この株主間契約で問題になることが多いものです。

財産分配契約は、とくに優先株式を用いる投資で重要になります。M&A時に優先株式を金銭等に換価する場面では、清算と同視して、優先残余財産分配に関する規定が準用されることがあるためです。
出典:経済産業省|我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項(増補版)

投資契約で最初に見るべき項目

投資契約は、投資家が資金を払い込むための条件を定める契約です。形式的には、株式引受契約、新株予約権引受契約、投資契約といった名称が使われます。

創業者がまず確認しておきたいのは、次の項目です。

項目確認すべき内容見落とすと起こり得る問題
投資金額いくら払い込まれるか資金繰り表の前提とずれる
株価・評価額プレマネー・ポストマネー、1株当たり払込金額希薄化や次回調達条件を誤認する
発行する証券普通株式、種類株式、新株予約権等権利内容や会計・登記処理が変わる
取得株式数・持株比率投資後の議決権・潜在株式を含めた比率創業者の支配権やSO枠に影響する
資金使途採用、開発、広告、設備、運転資金等使途逸脱が契約違反や説明問題になる
前提条件登記、定款変更、株主総会決議、DD完了等条件未充足で払込みが遅れる
表明保証会社の法務・税務・財務・知財等の事実確認誤りがあれば補償・解除・買取請求の論点になる
クロージング手続払込日、株式発行日、必要書類登記・会計処理・株主名簿更新が漏れる

投資契約は、契約書だけを読んでいても十分ではありません。資本政策表、定款、株主名簿、事業計画、資金繰り表、月次試算表、知財・契約・労務資料と照らし合わせながら、契約上の前提と実態がきちんと一致しているかを確認していく必要があります。

表明保証は、投資家向けの確認事項であると同時に、自社の棚卸しでもある

投資契約において、表明保証は重要な位置を占めます。

表明保証とは、会社や創業株主が、一定時点における事実について「この内容は正しい」と投資家に表明し、保証する条項です。たとえば、会社が適法に設立されていること、株式が有効に発行されていること、重要な契約違反がないこと、未払税金や訴訟がないこと、知的財産権の帰属に重大な問題がないこと。こうした事柄が対象になります。

表明保証は、契約書の単なる定型文ではありません。投資家にとっては、情報の非対称性を埋めるための重要な確認事項です。そして会社側にとっては、自社の法務・税務・会計・労務・知財・契約を棚卸しする、またとない機会でもあります。

表明保証の分野創業期に確認すべき例
会社法・登記定款、株主総会決議、取締役選任、株式発行履歴
株主・資本政策株主名簿、潜在株式、過去の株式譲渡、SO約束
財務・会計月次試算表、借入、未払金、簿外債務、資金繰り
税務法人税、消費税、源泉所得税、届出、税務調査リスク
労務雇用契約、業務委託、社会保険、未払残業代
知財ソースコード、商標、特許、職務発明、外注成果物の帰属
契約主要取引先契約、解除条項、競業制限、秘密保持
紛争訴訟、クレーム、行政指導、違法行為の有無

契約書の世界では、「知りませんでした」では済まされない場面があります。表明保証違反があると、損害賠償、補償、契約解除、株式買取請求といった論点に発展することがあるためです。

ですから、投資契約を締結する前に、表明保証の各項目について「本当に表明できるのか」「例外事項として開示しておくべきものはないか」を、一つひとつ確認しておくことが欠かせません。

資金使途は、投資後の説明責任につながる

投資契約では、資金使途もまた重要な論点です。

投資家は、ただ会社に資金を入れているのではありません。その資金がどの成長仮説に使われるのかを見ています。採用、開発、マーケティング、設備投資、運転資金、海外展開。資金使途によって、期待されるKPIや説明資料は変わってきます。

資金使途投資家に説明すべきこと
採用どの職種を、いつ、何人採用し、何の成果に結びつけるか
開発どの機能を、どの期間で開発し、どの顧客価値を高めるか
広告・マーケティングCAC、リード数、商談数、受注率、回収期間
設備投資投資額、稼働時期、売上・原価・粗利への影響
運転資金売掛金、前払費用、在庫、固定費、資金ショート防止
海外展開現地規制、販売チャネル、採用、追加資金需要

事業計画は、単なる数値表ではありません。市場機会、経営チーム、ビジネスモデル、資金使途を一本の線でつなげて説明できてこそ、意味を持ちます。

投資後に「何に使ったのか」が曖昧なままだと、次回調達時の説明が難しくなります。だからこそ、月次試算表、資金繰り表、予実管理、KPI管理を初期から整えておくことが、投資家対応の土台になるのです。月次決算は、経営者自身が会計を読める・話せる・使える状態になるための基礎でもあります。

株主間契約は、投資後の会社運営を縛る

株主間契約は、投資後の会社運営と、株主間の利害調整を定める契約です。

近年は、投資後の内容に関する事項を株主間契約に一本化し、発行会社、創業株主、主要投資家が一つの契約に基づいて統一的に行動する、という事例が増えています。
出典:経済産業省|我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項

株主間契約でよく問題になるのは、次のような項目です。

項目内容創業者側の確認ポイント
事前承認事項一定の重要事項について投資家の承認を必要とする日常経営のスピードを阻害しない範囲か
情報提供義務月次資料、予算、決算、KPI等を投資家へ提出する提出頻度と資料作成体制が現実的か
取締役・オブザーバー投資家が取締役やオブザーバーを派遣する経営会議・取締役会の運用と整合するか
株式譲渡制限創業者や投資家の株式譲渡を制限する退職、相続、M&A時にどう扱うか
先買権・共同売却権株式譲渡時に他株主が優先購入・共同売却できる創業者株式の売却自由度に影響する
希薄化防止次回調達時の発行価格が下がった場合の調整ダウンラウンド時の創業者持分に影響する
買取請求一定事由で投資家が株式買取を求め得る発動事由、買取価格、支払原資を確認する
ドラッグアロング一定条件で株主にM&Aへの協力を求める売却価格、承認要件、対象株主、手続を確認する

株主間契約は、投資家を守るためだけのものではありません。多数の株主がいる会社で、次回調達、M&A、IPO準備、経営者退任、創業者間トラブルといった局面が訪れたときに、どう意思決定するのかを、あらかじめ定めておく役割も担っています。

とはいえ、創業者が十分に理解しないまま締結してしまうと、後になって会社運営が想定以上に制約される、ということにもなりかねません。

事前承認事項は、多ければよいわけではない

事前承認事項とは、会社が一定の重要事項を行う場合に、投資家の事前同意を必要とする条項です。投資家が拒否できることから、拒否権条項とも呼ばれます。

この事前承認事項には、投資家の権利・利益を保護する機能があります。その一方で、対象が多岐にわたると、発行会社の迅速な意思決定を妨げるおそれや、双方の手続負担が増えるおそれも生じます。だからこそ、各項目の必要性を十分に吟味すべきだと考えられています。
出典:経済産業省|我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項(増補版)

創業者側は、次のような観点で確認しておくとよいでしょう。

確認事項実務上の見方
対象事項は限定されているか株式発行、M&A、借入、重要資産処分、役員変更など本当に重要な事項か
金額基準はあるか少額取引まで承認対象になると日常運営に支障が出る
承認権者は誰か個別投資家なのか、多数投資家なのか、取締役会決議なのか
承認期限はあるか期限がないと意思決定が止まる
みなし承認はあるか一定期間内に回答がない場合の扱いを確認する

事前承認事項は、投資家との信頼関係を壊すものではなく、投資家にとって重要なリスクを管理するための仕組みです。ただし、あまりに広い条項は、経営者の機動的な判断を阻害してしまいます。

投資家保護と経営スピード、この両者のバランスをどう取るかが肝心です。

情報提供義務は、月次決算体制がないと運用できない

投資家は、投資したあとも会社の状況を把握しておく必要があります。そのため株主間契約では、月次試算表、年次決算書、事業計画、予算、KPI、資金繰り、重要な経営上の変化について、情報提供義務が定められることがあります。

提供資料実務上の目的
月次試算表売上、粗利、固定費、営業損益、現預金の確認
資金繰り表ランウェイ、追加調達時期、支払余力の確認
予実管理表計画との差異、施策の修正判断
KPIレポート顧客数、MRR、解約率、CAC、採用進捗など
取締役会資料重要な意思決定と経営方針の共有
年次決算書・税務申告資料会計・税務の正確性と継続性の確認

投資家に提出する資料は、資金調達のときだけ整えればよい、というものではありません。投資後の信頼は、月次の数字と説明を地道に積み重ねることで築かれていきます。

創業期に会計ソフト、証憑管理、請求・入金管理、給与・外注管理、契約管理が整っていないと、投資家向けレポートはすぐに立ち行かなくなります。これは税務申告だけの問題にとどまらず、次回調達やM&A時のデューデリジェンスにも影響してくる話です。

買取請求条項は、発動事由と支払可能性を確認する

投資契約・株主間契約には、一定の場合に、投資家が会社や創業株主に対して株式の買取を求める条項が入ることがあります。

典型的に問題になるのは、重大な表明保証違反、契約違反、反社会的勢力との関係、資金使途違反、重大な法令違反、上場努力義務違反といった事由です。ただし、どのような事由で買取請求が発動するのかは、契約ごとに異なります。

創業者側として確認しておきたいのは、次の点です。

確認事項重要性
発動事由軽微な違反でも発動するのか、重大な違反に限定されているか
帰責性会社の責任か、創業株主個人の責任か
是正期間違反後に修正する機会があるか
買取義務者会社なのか、創業株主なのか、連帯するのか
買取価格投資額、時価、一定利率加算など、どの算定方法か
支払原資会社法上の財源規制や実際の資金繰りに耐えられるか

買取請求条項は、契約違反を防ぐ抑止力として働きます。その一方で、いざ発動すると、会社や創業者の資金繰りに大きな影響を及ぼしかねません。

とりわけ、創業株主個人に買取義務が及ぶ条項は、経営者個人の財産リスクにも直結します。条項の有無だけを見るのではなく、発動条件、買取価格、支払義務者まで、具体的に確認しておく必要があります。

ドラッグアロングは、M&A時の意思決定ルールである

ドラッグアロングとは、一定の条件を満たしたM&A等の場合に、他の株主にも株式売却等への協力を求める条項です。日本語では、売却請求権などと訳されることがあります。

創業者にとっては、一見すると怖い条項に映るかもしれません。けれども、多数の株主がいる会社では、少数株主の反対によってM&Aが成立しない、というリスクもあります。投資家にとっても、Exitの実現可能性は、投資判断に直結する問題です。

大切なのは、ドラッグアロングを入れるかどうか、だけではありません。どの条件で発動するのか、そこを見極めることです。

確認事項実務上の見方
発動要件どの株主・投資家の同意で発動するか
売却価格最低価格、投資家回収額、普通株主の分配に影響する
対象取引株式譲渡、合併、事業譲渡、会社分割などどこまで含むか
対象株主全株主か、主要株主か、創業株主のみか
手続通知期間、協力義務、表明保証の範囲
創業者の責任M&A契約上の補償義務が個人に及ぶか

ドラッグアロングは、将来のM&Aを前提とした条項です。投資家にとってはExitを確保する意味があり、創業者にとっては、会社を売却するタイミングや条件に影響してきます。だからこそ、事前に具体的なシミュレーションをしておくことが欠かせません。

優先株式と投資契約は一体で読む

VC投資では、普通株式ではなく優先株式が使われることがあります。

優先株式では、残余財産分配権、取得請求権、取得条項、普通株式への転換、希薄化防止、みなし清算条項といった点が問題になります。優先株式に関する権利は、定款だけでなく、投資契約、株主間契約、財産分配契約とあわせて、一体で整理されることがあります。

また、普通株式以外の有価証券として、種類株式、新株予約権、新株予約権付社債などがあり、これらは資金調達、インセンティブ制度、人材採用、M&A、事業承継といったさまざまな場面で活用されます。

優先株式でとりわけ注意したいのが、Exit時の分配です。

持株比率だけを見て「投資家は20%だから、売却時も20%だけ受け取る」と考えてしまうのは、危険です。優先残余財産分配権、参加型・非参加型、倍率、みなし清算条項によって、M&A時の分配結果が変わることがあるためです。優先株式の投資実務では、残余財産分配権、普通株式への転換、みなし清算、ドラッグアロングといった論点が、一体として絡み合ってきます。

投資契約を読むときは、「今いくら調達できるか」だけを見ていては足りません。「次回調達後の持株比率」「ダウンラウンド時の調整」「M&A時の分配」「IPO時の普通株式転換」まで、あわせて確認しておく必要があります。

広く投資家を勧誘する場合は、金融商品取引法にも注意する

創業期の会社が、知人・友人・SNS・イベント等を通じて広く投資家を募る場合には、会社法だけでなく、金融商品取引法や開示規制の確認も必要になることがあります。

非開示会社の場合、参考となる整理があります。50人以上の一般投資家を対象とする新規発行有価証券の勧誘行為は募集に該当し、調達金額が1億円以上であれば有価証券届出書の提出が必要となります。また、募集に該当しない勧誘は私募と位置づけられます。
出典:金融庁|事務局説明資料

少人数のエンジェル投資であっても、勧誘人数、勧誘方法、調達金額、過去の発行との通算、電子募集の利用、第三者による紹介・媒介の有無によって、論点は変わってきます。

「知人に声をかけるだけだから大丈夫」と考えるのではなく、投資家募集の方法そのものを、事前に確認しておく必要があります。

投資を受ける前に整えるべき社内資料

投資契約交渉に入る前に、最低限、次の資料は整えておきたいところです。

資料用途
最新定款株式の種類、譲渡制限、機関設計、発行可能株式総数を確認する
登記事項証明書会社の基本情報、役員、本店、資本金を確認する
株主名簿現在株主、株数、取得日、持株比率を確認する
資本政策表投資前後、SO枠、次回調達後の希薄化を確認する
過去の株式発行・譲渡資料発行決議、払込、譲渡承認、株価根拠を確認する
事業計画市場、顧客、収益計画、資金使途、KPIを説明する
月次試算表現在の財務状態、売上・費用・現預金を確認する
資金繰り表ランウェイ、追加調達時期、資金ショートリスクを確認する
主要契約一覧顧客、仕入、外注、業務委託、ライセンス、借入を確認する
労務資料雇用契約、業務委託契約、社会保険、未払賃金リスクを確認する
知財資料商標、特許、著作権、ソースコード、外注成果物の帰属を確認する
税務届出・申告資料法人設立届出、消費税、源泉所得税、過去申告を確認する

契約書の基本的な確認では、契約目的、法的性質、重要条項、法令遵守、用語表現、シミュレーションといった観点が重要になります。

投資契約では、この確認がさらに複雑になります。というのも、投資契約は単なる取引契約ではなく、会社の資本構成と将来の意思決定そのものを変える契約だからです。

投資を受けるかどうかは、資金不足だけで決めない

投資を受けるべきかどうかは、資金が足りないという理由だけでは判断できません。

判断軸確認すべきこと
成長戦略外部資本を入れて急成長を目指す事業か
収益モデル投資資金を使って企業価値を大きく高められるか
Exit方針IPO、M&A、長期保有のどれを想定するか
創業者持分希薄化後も必要な経営支配・インセンティブを維持できるか
投資家との相性経営方針、成長速度、Exit時期の認識が合っているか
契約条件事前承認、情報提供、買取請求、ドラッグ条項に耐えられるか
管理体制月次決算、資金繰り、契約管理、労務・税務が整っているか

VC投資は、会社を大きく成長させる選択肢になり得ます。ただ、忘れてはならないのは、投資家がExitから逆算して投資を行っているという点です。創業者が長期安定経営を志向しているのに、短期的な急成長とExitを強く求める投資家を迎えてしまうと、後になって方向性の違いが表面化しかねません。

投資を受ける前に、経営者自身が整理しておきたいことがあります。「どの会社にしたいのか」「どのスピードで成長したいのか」「誰と株主として歩んでいくのか」。この3つです。

専門家に相談すべきタイミング

投資契約は、契約書が提示されてから相談したのでは、遅い場合があります。理想を言えば、投資家との条件交渉が始まる前、少なくともタームシートや主要条件の合意前に、法務・税務・会計・資本政策の確認を行っておきたいところです。

とりわけ、次のような場面では、早めの相談をおすすめします。

相談すべき場面理由
エンジェルから出資の打診を受けた株価、持株比率、エンジェル税制、投資契約書を確認する必要がある
VCからタームシートを受け取った主要条件が後の契約書に反映されるため、早期確認が重要
優先株式を発行する定款、登記、種類株主、分配、Exit条件が複雑になる
株主間契約を締結する事前承認、情報提供、買取請求、ドラッグ条項の影響が大きい
共同創業者や役職員に株式・SOを約束している潜在株式、税務、退職時の扱い、将来調達に影響する
次回調達を見据えて資本政策表を作る希薄化、SOプール、創業者持分、投資家リターンを整理する必要がある
M&A・IPOを将来想定している契約・会計・税務・内部管理が将来の審査・DDに影響する

投資契約は、弁護士だけ、税理士だけ、公認会計士だけで完結するものではありません。会社法、金融商品取引法、税務、会計、資本政策、労務、知財、契約管理が、幾重にも重なり合ってきます。

そのため実務では、弁護士、司法書士、税理士、公認会計士、そして必要に応じて社労士・弁理士とも連携しながら進めていくことが望ましい領域だといえます。

まとめ

VC・エンジェル投資は、創業期の会社にとって、大きな成長の機会になります。返済義務のない資本性資金を得ることで、採用、開発、マーケティング、設備投資を前倒しできる可能性が生まれます。

ただし、投資は資金だけのものではありません。新しい株主を迎え、投資契約・株主間契約を通じて、情報提供、事前承認、株式譲渡、買取請求、ドラッグアロング、Exit協力義務といったさまざまな義務を負うことになります。

大切なのは、「投資を受けられるか」ではありません。「どの投資家を、どの条件で、どの成長戦略のために迎えるか」です。

投資契約・株主間契約の内容に不安がある方、あるいはエンジェル投資・VC投資を受ける前に、資本政策、月次管理、税務・会計体制を整理しておきたいという方は、犬飼公認会計士・税理士事務所へご相談ください。投資家対応だけを切り出すのではなく、創業者持分、資金使途、月次決算、税務届出、契約管理、そして将来のIPO・M&Aまでを見据えて、後からきちんと説明できる初期設計を、一緒に整えていきます。

振り返り

論点重要ポイント
投資の本質資金が入るだけでなく、新しい株主と契約上の義務が生じる
VCとエンジェルVCはファンドとしてExitを見据え、エンジェルは個人投資家として関与することが多い
投資契約今回の投資金額、株価、発行株式、資金使途、表明保証、払込条件を定める
株主間契約投資後の会社運営、事前承認、情報提供、株式譲渡、Exit対応を定める
財産分配契約M&A・清算等での優先分配や分配ルールを整理する
表明保証会社の法務・税務・会計・労務・知財・契約の事実確認であり、違反時の責任に直結する
資金使途投資後の予実管理・KPI管理・次回調達説明につながる
事前承認事項投資家保護の役割があるが、多すぎると経営スピードを阻害する
情報提供義務月次試算表、資金繰り表、KPIレポートを継続的に提出できる体制が必要
買取請求発動事由、買取義務者、買取価格、支払原資を必ず確認する
ドラッグアロングM&A時の株主協力ルールであり、発動条件と分配を確認する
エンジェル税制投資家側の税務だけでなく、会社側の要件・契約書・申請手続も確認する
相談タイミング契約書提示後ではなく、タームシート・主要条件の合意前に確認する
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次