源泉所得税の調査は、法人税や所得税の調査とは、その性質が少し異なります。
法人税や所得税の調査では、基本的に「自社や本人の所得を正しく申告しているか」が中心になります。これに対して源泉所得税で問われるのは、「他人に支払った所得について、支払者として正しく所得税等を差し引き、期限までに国へ納付しているか」という点です。
つまり、源泉所得税調査で確認されるのは、自社の利益だけではありません。誰に、何の名目で、いくら支払ったのか。その支払いは給与なのか、外注費なのか、それとも報酬・料金なのか。源泉徴収の対象になる支払いだったのか。源泉徴収した税額を、いつ、どの納付書で納めたのか。そもそも、源泉徴収すべき税額を差し引いていなかったのではないか。
こうした支払実務そのものが、調査の対象になります。
源泉所得税には、支払を受ける側の所得税の前払いという面があります。しかし、税務調査で責任を問われるのは、原則として支払者の側です。したがって、給与計算、報酬の支払、外注費処理、役員への支払い、退職金、海外勤務者や非居住者への支払いがある法人・個人事業主にとって、源泉所得税は「経理処理のついで」で済むものではありません。独立して管理すべき税務リスクとして捉えておく必要があります。
源泉所得税調査とは、何を確認する調査か
源泉徴収制度とは、給与や報酬など一定の所得を支払う者が、その支払時に所得税および復興特別所得税を差し引き、国に納付する仕組みです。所得税および復興特別所得税を差し引いて国に納める義務を負う者は、「源泉徴収義務者」と呼ばれます。会社に限らず、個人事業主、学校、官公庁、人格のない社団・財団なども、支払内容によっては源泉徴収義務者に該当します。
出典:国税庁|No.2502 源泉徴収義務者とは
源泉所得税調査では、この「支払者としての義務」が果たされているかどうかが確認されます。調査の対象になりやすいのは、給与、賞与、役員報酬、退職金、税理士・弁護士・司法書士等への報酬、原稿料・講演料、外交員報酬、ホステス等への報酬、非居住者への支払いなどです。
ただし、調査官が見ているのは、勘定科目の名称だけではありません。たとえば外注費として処理していても、その実態が雇用に近ければ、給与として問題になることがあります。支払先から請求書を受け取っていても、その支払いが所得税法上の報酬・料金等に該当すれば、源泉徴収漏れが問われます。役員に対する私的支出や経済的利益が、法人税調査では役員賞与、源泉所得税調査では給与等として扱われる、ということも起こり得ます。
源泉所得税調査の本質は、「支払名目」ではなく、「支払の実態」と「支払者が行うべき徴収・納付の履行状況」を確認することにある——そう理解しておくとよいでしょう。
源泉所得税は「支払時」に問題になる
源泉所得税でまず押さえておきたいのは、原則として「実際に支払ったとき」に源泉徴収を行う、という点です。給与、報酬、退職金などについて、支払者は支払時に税額を計算し、支払額からこれを差し引いたうえで、その後に納付します。
このため、調査では次のような流れで確認が進みます。
はじめに確認されるのは、支払いの事実です。給与台帳、賃金台帳、振込データ、現金出納帳、総勘定元帳、請求書、契約書、領収書、支払調書、役員会議事録などから、誰に対してどのような支払いがあったのかが確かめられます。
次に、その支払いが源泉徴収の対象かどうかが確認されます。給与等なのか、報酬・料金等なのか、退職手当等なのか、非居住者等に対する国内源泉所得なのか、あるいは源泉徴収の対象外なのか。ここを一つひとつ整理していきます。
最後に確認されるのが、源泉徴収税額と納付状況です。差し引いた税額が正しいか、所得税徴収高計算書の区分が正しいか、納付期限までに納付されているか、納期の特例の適用範囲を誤っていないか。こうした点が見られます。
源泉所得税は、支払者の側で「あとから決算で調整すればよい」という性質のものではありません。支払の時点で判断し、期限までに納付しておく必要があるのです。
納付期限と納期の特例
源泉徴収した所得税および復興特別所得税は、原則として、給与などを実際に支払った月の翌月10日までに納付します。
ただし、給与の支給人員が常時10人未満の源泉徴収義務者については、一定の手続を経ることで、半年分をまとめて納付できる「納期の特例」が用意されています。この特例では、1月から6月までに源泉徴収した分は7月10日、7月から12月までに源泉徴収した分は翌年1月20日が、それぞれ納付期限となります。
出典:国税庁|No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例
ここで注意したいのは、納期の特例がすべての源泉所得税に適用されるわけではない、という点です。納期の特例の対象となるのは、給与や退職金から源泉徴収した所得税および復興特別所得税と、税理士、弁護士、司法書士など一定の報酬から源泉徴収したものに限られます。すべての報酬・料金、非居住者への支払い、配当、利子等まで、一律に半年納付にできるわけではありません。
出典:国税庁|No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例
そのため調査では、納付が遅れているかどうかだけでなく、納期の特例の対象外の支払いまで特例扱いにしていないか、従業員数が増えた後も従来どおり半年納付を続けていないか、納付書の区分を誤っていないか、といった点まで確認されます。
復興特別所得税もあわせて確認される
平成25年1月1日から令和19年12月31日までの間に生ずる所得については、源泉徴収義務者は、源泉所得税を徴収する際に復興特別所得税を併せて徴収し、源泉所得税の法定納期限までに合計額を納付する必要があります。対象には、給与等、退職手当等、報酬・料金等、非居住者等所得などが含まれます。
出典:国税庁|No.2507 復興特別所得税の源泉徴収
そのため税務調査では、「所得税本体だけを源泉徴収していた」「復興特別所得税分を含めずに計算していた」「古い税率表や古い計算式を使い続けていた」といった点も、問題になり得ます。
源泉所得税は、年末調整や支払調書だけの問題ではありません。支払時点で適用する税率、税額表、復興特別所得税の有無まで含めて、毎年の制度改正や国税庁の資料を確認しておく必要があります。
報酬・料金等で源泉徴収漏れが起きやすい理由
報酬・料金等の源泉徴収は、給与に比べて判断が難しくなりがちです。
給与は給与計算システムや年末調整の流れに乗るため、管理の仕組みが比較的整いやすいといえます。一方で報酬・料金等は、経理担当者や現場担当者が請求書処理の一環として支払っているケースが多く、源泉徴収の要否確認が漏れやすいのです。
源泉徴収が必要な報酬・料金等の範囲は、支払を受ける者が居住者か内国法人かによって異なります。そのうえで、居住者への原稿料・講演料、弁護士・公認会計士・司法書士等の特定資格者への報酬、社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬、外交員等への報酬などが、対象として挙げられています。
出典:国税庁|No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは
また、謝礼、研究費、取材費、車代などの名目で支払われていても、その実態が報酬・料金等と同じであれば、源泉徴収の対象になります。金銭ではなく物品その他の経済的利益で支払う場合も、報酬・料金等に含まれます。さらに、請求書で報酬額と消費税額が明確に区分されていない場合には、原則として消費税等を含めた金額が源泉徴収の対象となります。
出典:国税庁|No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは
この点は、調査でしばしば問題になります。
- 「業務委託費だから源泉徴収は不要」
- 「請求書に源泉税の記載がなかったから不要」
- 「相手が消費税を請求しているから源泉徴収とは関係ない」
- 「謝礼や車代だから報酬ではない」
こうした理解は、必ずしも正しいとはいえません。源泉徴収の要否は、請求書の書き方だけで決まるものではなく、支払先の属性、支払内容、支払名目と実態、所得税法上の対象範囲に照らして判断する必要があります。
報酬・料金等の支払者が個人の場合の注意点
報酬・料金等については、支払者が個人の場合に源泉徴収義務があるかどうかも、重要な論点になります。
居住者に対して源泉徴収対象となる報酬・料金等を国内で支払う者は、支払時に所得税および復興特別所得税を源泉徴収しなければなりません。ただし、支払者が個人であり、その個人が給与等の支払者でないとき、または給与等の支払者であっても常時2人以下の家事使用人のみに対する給与の支払者であるときは、一定の場合を除き、報酬・料金等について源泉徴収する必要はないとされています。
出典:国税庁|No.2793 報酬・料金等の源泉徴収義務者
個人事業主の場合、ここを誤解しやすいところです。給与の支払いがある個人事業主は、たとえその給与について納付すべき税額がない場合でも、源泉徴収対象となる報酬・料金等を支払う際には源泉徴収義務が生じ得ます。
出典:国税庁|No.2793 報酬・料金等の源泉徴収義務者
したがって、個人事業主の税務調査においても、源泉所得税は決して無関係ではありません。スタッフ、アルバイト、青色事業専従者、士業報酬、外部専門家への支払いがある場合には、所得税調査とあわせて源泉所得税が確認されることがあります。
源泉所得税調査で確認されやすい資料
源泉所得税調査では、税額表や納付書だけが見られるわけではありません。支払いの実態を確認するため、複数の資料を突き合わせながら確認が進みます。
確認されやすい資料は、主に次のとおりです。
| 資料 | 調査で確認される視点 |
|---|---|
| 給与台帳・賃金台帳 | 給与、賞与、手当、現物給与、源泉徴収税額 |
| 扶養控除等申告書 | 甲欄・乙欄の適用、扶養控除等の前提 |
| 年末調整資料 | 年末調整の対象者、控除証明書、精算の妥当性 |
| 総勘定元帳 | 給与、外注費、支払手数料、交際費、福利厚生費等の支払内容 |
| 請求書・契約書 | 報酬・料金等の対象性、外注費と給与の区分 |
| 支払調書 | 報酬・料金等の支払先、支払額、源泉徴収税額 |
| 振込データ・通帳 | 実際の支払日、支払額、相手先 |
| 役員会議事録・稟議書 | 役員報酬、賞与、退職金、経済的利益の意思決定 |
| 出向契約・海外勤務関係資料 | 出向者給与、非居住者、国内源泉所得、負担関係 |
| 所得税徴収高計算書 | 納付区分、納付額、納付期限、納期の特例の適用状況 |
源泉所得税の調査では、支払先ごとの実態確認が重要になります。たとえば同じ「外注費」であっても、支払先が法人なのか個人なのか、業務内容は何か、源泉徴収対象となる報酬・料金等に該当するのか、あるいは給与に近い実態があるのか。これらによって、判断は変わってきます。
また、役員や従業員への支出については、福利厚生費、旅費交通費、交際費、貸付金、立替金などの勘定科目で処理されていても、実態として給与や賞与に該当すると判断されることがあります。この場合、法人税上の損金性だけでなく、源泉所得税の徴収漏れも問題になります。
外注費と給与の区分は、源泉所得税調査の重要論点になる
源泉所得税調査で特に問題になりやすいのが、外注費と給与の区分です。
外注費として処理している支払いについて、調査官は次のような点を確認します。
- 業務遂行について、会社の指揮監督を受けているか
- 勤務時間や勤務場所の拘束があるか
- 他人による代替が認められるか
- 成果物に対する責任を負っているか
- 材料や道具を、誰が負担しているか
- 報酬が、時間給・日給・月給に近い形で計算されていないか
- 請求書や契約書が、実態に合っているか
- 社会保険、雇用保険、源泉徴収、消費税の処理と整合しているか
外注費が給与と認定されると、法人税上の処理だけでなく、源泉所得税の徴収漏れ、消費税の仕入税額控除の否認、場合によっては社会保険・労務上の論点にまで波及します。
ここで大切なのは、「契約書に業務委託と書いてあるから外注費でよい」と考えないことです。税務調査では、契約書の文言だけでなく、実際の働き方、支払方法、業務管理、社内資料、メール、出勤状況、請求内容などが確認されます。
役員・従業員への経済的利益と認定賞与
法人税調査で役員への私的支出や経済的利益が問題になる場合、それは源泉所得税にも影響します。
たとえば、法人が負担した費用について、実態として役員個人の利益と判断される場合、法人税上は役員賞与として損金不算入となるだけでなく、源泉所得税の徴収漏れが問題になることがあります。調査実務上、役員賞与、貸付金、交際費、使途不明金、使途秘匿金などを、どのように事実認定するか。それによって、法人税・消費税・源泉所得税への影響は変わってきます。
ここで重要になるのは、調査官が「その支出は誰の利益になったのか」を確認する、という点です。
会社の業務遂行に必要な支出なのか。役員や従業員が個人的に便益を受けたものなのか。福利厚生として全従業員に合理的に提供されたものなのか。役員だけ、あるいは特定の従業員だけに、利益が帰属していないか。
こうした整理が不十分なまま調査で説明してしまうと、法人税上の否認に加えて、源泉所得税の納税告知や不納付加算税につながる可能性があります。
退職金は「退職所得」として扱えるかが確認される
退職金については、退職所得として源泉徴収するのか、それとも給与・賞与に近いものとして扱われるのかが、問題になることがあります。
退職所得は、長期間の勤務に対する後払い的な性格や、退職後の生活保障的な性格を踏まえ、給与所得とは異なる課税関係になります。そのため税務調査では、退職の事実、支給規程、支給決議、勤続年数、退職所得の受給に関する申告書、源泉徴収税額の計算が確認されます。
特に役員退職金の場合には、法人税上の損金算入、過大退職給与、分掌変更による実質退職、そして退職所得としての源泉徴収が、相互に関係してきます。本記事では退職所得計算の詳細にまでは立ち入りませんが、源泉所得税調査の全体像としては、退職金についても「名目」ではなく「退職の実態」と「支払時の源泉徴収処理」が問われる、と理解しておく必要があります。
非居住者・海外勤務者への支払いは別枠で確認する
海外出向者、海外勤務者、非居住者、外国法人への支払いがある場合、源泉所得税の判断はさらに複雑になります。
国内勤務分の給与なのか。国外勤務分なのか。非居住者に対する国内源泉所得に該当するのか。租税条約の適用があるのか。支払者は日本法人なのか、海外法人なのか。給与負担金なのか、直接支給なのか、グロスアップ契約なのか。
こうした点によって、源泉徴収の要否、税率、納付期限、必要書類が変わってきます。特にグループ会社間の出向や海外赴任では、法人税上の給与負担金・寄附金・移転価格の問題と、源泉所得税の問題が重なり合います。
源泉所得税調査では、海外関連の支払いを単なる人件費処理として見るのではなく、居住者・非居住者、国内源泉所得、支払者、負担関係、租税条約まで含めて整理しておく必要があります。
源泉徴収漏れが見つかった場合の流れ
源泉徴収漏れがある場合、税務署は源泉徴収義務者に対して、納税の告知を行うことがあります。
源泉所得税は、支払時に納税義務が成立し、同時に税額が確定する性質を持ちます。そのため、申告納税方式の法人税や所得税とは異なり、税務署は納付を求めるために納税の告知を行うのです。納税の告知は、源泉徴収義務者に対して、納付すべき税額、納期限、納付場所等を示し、具体的な納付手段を与えるものです。
ここで注意したいのは、支払者が実際に相手先から税額を差し引いていなかったとしても、税務署との関係では、源泉徴収義務者である支払者が納付を求められる、という点です。支払者が後から受給者に源泉所得税相当額の返還を求められるかどうかは、税務署への納付義務とは別の問題になります。
つまり、源泉徴収漏れは「相手から差し引いていないから納められない」という説明では済みません。支払者の側で、どの支払いについて、なぜ源泉徴収しなかったのか、支払先との関係をどう整理するのか、追加納付後にどのように会計処理するのかを、あわせて検討していく必要があります。
不納付加算税と延滞税
源泉所得税を法定納期限までに納付しなかった場合、不納付加算税や延滞税が問題になります。
国税通則法67条の適用については、事務運営指針に取扱いが定められており、法定納期限までに納付しなかったことについて正当な理由があると認められる場合の例も示されています。ただし、税法の不知、誤解、事実誤認に基づくものは、正当な理由には当たらないとされています。
出典:国税庁|源泉所得税の不納付加算税の取扱いについて(事務運営指針)
不納付加算税は、通常、源泉徴収等による国税を法定納期限までに納付しなかった場合に問題になります。また、調査があったことにより納税の告知があるべきことを予知して自主納付したものかどうかによって、取扱いが変わる場面もあります。源泉徴収義務者が調査のあったことを了知したと認められた後に自主納付された場合には、原則として「告知があるべきことを予知してされたもの」に該当するとされています。一方で、臨場のための日時連絡の段階で自主納付された場合や、納付確認の結果として自主納付された場合などは、原則としてこれに該当しないものとされています。
出典:国税庁|源泉所得税の不納付加算税の取扱いについて(事務運営指針)
実務上は、源泉徴収漏れに気づいた時点で、税務署からの具体的な指摘を待つのか、自主的に納付するのか、それとも事実関係を確認してから納付するのかを、慎重に判断する必要があります。ただし、拙速に「とりあえず納める」だけでは、後から支払先への求償、会計処理、支払調書、年末調整、法人税・消費税への影響が整理できなくなることがあります。
源泉所得税調査で重要なのは「支払先別・支払類型別」に整理すること
源泉所得税調査への対応で避けたいのは、勘定科目だけで整理してしまうことです。
たとえば「支払手数料」という勘定科目の中には、税理士報酬、司法書士報酬、講演料、コンサルティング報酬、法人への業務委託料、個人への外注費などが混在していることがあります。この場合、勘定科目単位で「支払手数料はすべて源泉徴収済み」「支払手数料はすべて源泉徴収不要」と判断してしまうのは、危険です。
調査対応では、少なくとも次のように整理しておく必要があります。
| 整理単位 | 確認する内容 |
|---|---|
| 支払先 | 個人、法人、人格のない社団、非居住者、外国法人 |
| 支払内容 | 給与、退職金、報酬料金、外注費、謝礼、手当、経済的利益 |
| 契約関係 | 雇用、委任、請負、業務委託、顧問、出向 |
| 支払時期 | 実際の支払日、未払計上、支払確定日 |
| 源泉徴収の有無 | 対象性、税率、税額、復興特別所得税 |
| 納付状況 | 納付期限、納付書区分、納期の特例対象か |
| 関連税目 | 法人税、所得税、消費税、社会保険、法定調書 |
この整理をしておくと、調査官から質問を受けたときに、「この支払いはなぜ源泉徴収したのか」「なぜ源泉徴収しなかったのか」を説明しやすくなります。
反対に、この整理がないと、調査の最中に請求書や総勘定元帳を見ながらその場で判断することになり、回答がぶれやすくなります。源泉所得税調査では、回答のぶれや資料の不整合が、追加確認や納税告知につながることがあるのです。
税務調査前に確認しておきたい源泉所得税のチェックポイント
源泉所得税について調査通知を受けた場合、あるいは法人税・所得税調査とあわせて源泉所得税も確認される可能性がある場合には、次の点を事前に確認しておくことが重要です。
| 確認項目 | 確認のポイント |
|---|---|
| 給与・賞与 | 税額表、甲欄・乙欄、扶養控除等申告書、年末調整 |
| 役員報酬 | 定期同額給与、事前確定届出給与、認定賞与との接点 |
| 退職金 | 退職の実態、退職所得の受給に関する申告書、源泉徴収税額 |
| 報酬・料金等 | 支払先が個人か法人か、対象となる報酬か、消費税区分 |
| 外注費 | 給与該当性、指揮監督、勤務実態、請求書・契約書の整合性 |
| 非居住者等 | 国内源泉所得、租税条約、海外勤務、出向契約 |
| 納付状況 | 翌月10日納付、納期の特例、納付書区分、納付漏れ |
| 経済的利益 | 役員・従業員への私的支出、現物給与、貸付金処理 |
| 支払調書 | 提出対象、支払額、源泉徴収税額との整合性 |
| 記録保存 | 契約書、請求書、給与台帳、振込記録、説明メモ |
ここでの目的は、すべてを形式的に完璧にそろえることではありません。重要なのは、「なぜその処理をしたのか」を説明できる状態にしておくことです。
源泉徴収が必要だった可能性がある支払いについては、対象性、税額、納付時期、支払先への対応、附帯税リスクを、それぞれ分けて整理する必要があります。外注費と給与、報酬と立替経費、退職金と賞与、国内勤務と国外勤務など、判断が分かれる論点については、根拠資料と実態を結びつけて確認しておくことが重要です。
源泉所得税調査を専門家なしで対応するリスク
源泉所得税調査は、一見すると給与計算や納付書の確認のように見えるため、自社だけで対応できると考えられがちです。しかし実際には、法人税、所得税、消費税、国際税務、労務、会計処理が交差します。
特にリスクが高いのは、次のような場面です。
- 外注費が給与と認定される可能性がある
- 役員への支出が認定賞与とされる可能性がある
- 報酬・料金等の対象性判断が必要である
- 非居住者、海外勤務者、出向者への支払いがある
- 源泉徴収漏れについて、納税告知や不納付加算税が見込まれる
- 過去複数年にわたり、同じ処理を続けている
- 支払先から源泉所得税相当額を回収できるか分からない
- 法人税や消費税の指摘と連動している
これらの場面では、単に税額を計算して納めるだけでは足りません。どの支払いが問題なのか、どの税目に波及するのか、調査官の指摘に応じるべきか、追加資料を出すべきか、納税告知後に争う余地があるのか、支払先への説明をどうするのか。ここまで整理しておく必要があります。
専門家を付けずに対応すると、調査官からの質問に対して不用意に断定してしまったり、資料の提出順序を誤ったり、後から不利になる説明をしてしまうことがあります。源泉所得税は「支払の事実」と「支払時の判断」が問題になるため、調査中の説明内容が、そのまま納税告知や不納付加算税の判断に影響することがあるのです。
源泉所得税調査は、支払管理体制を見直す機会でもある
源泉所得税調査は、過去の徴収漏れを確認するだけの手続ではありません。調査をきっかけに、支払管理の仕組みそのものを見直していくことが重要です。
源泉所得税で問題が出る会社・個人事業主には、次のような共通点が見られます。
- 支払先が個人か法人かを、経理処理時に確認していない
- 報酬・料金等の対象かどうかを、担当者任せにしている
- 請求書に源泉税の記載がなければ、不要と考えている
- 外注費と給与の区分を、契約書名だけで判断している
- 納期の特例の対象範囲を、正確に管理していない
- 役員への立替、貸付、私的支出が整理されていない
- 海外勤務者や非居住者への支払いを、通常の給与処理と同じにしている
- 納付書の控え、支払調書、給与台帳、総勘定元帳がつながっていない
源泉所得税の管理では、支払の時点で判定できる仕組みが必要です。年末や決算時にまとめて確認するのでは、間に合わないことがあります。
実務上は、支払先の登録時、契約締結時、請求書の受領時、支払承認時、そして納付時という各段階で、源泉徴収の要否を確認する仕組みを置いておくことが望ましいといえます。これは単なる税務リスク対応にとどまらず、会社の支払管理、経理体制、内部統制、資金管理を整えることにもつながっていきます。
まとめ|源泉所得税調査では「誰に、何を、なぜ支払ったか」が問われる
源泉所得税調査は、単なる納付書の確認ではありません。
誰に支払ったのか。何の対価として支払ったのか。給与、報酬、外注費、退職金、経済的利益のどれに当たるのか。源泉徴収の対象であれば、いくら差し引くべきだったのか。その税額を、いつ納付すべきだったのか。納付漏れがある場合、どのように是正し、どのような附帯税リスクがあるのか。
これらを、資料と事実に基づいて説明できるかどうか。そこが問われます。
源泉所得税は、支払者の側が義務を負う税目です。支払先が確定申告をしているかどうか、支払先が請求書に源泉税を記載していたかどうか。それだけで、支払者の責任が消えるわけではありません。
税務調査を受けてから慌てて過去の支払いを見直すのではなく、日頃から支払先別・支払類型別に源泉徴収の要否を確認し、給与台帳、請求書、契約書、納付書、支払調書がつながる状態にしておく。これが、最も現実的な調査対応だといえます。
源泉所得税について、過去の支払いに不安がある場合、税務調査の通知を受けた場合、または法人税・消費税の調査とあわせて人件費・外注費・報酬支払が確認されそうな場合には、早い段階で事実関係と資料を整理しておくことが重要です。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、税務調査対応を単なる税務署とのやり取りとして捉えるのではなく、支払実務、会計処理、証憑管理、説明資料、そして今後の管理体制まで含めて整理することを重視しています。源泉所得税の調査対応や、給与・報酬・外注費・役員支出の整理に不安がある場合は、お問い合わせページから現在の状況をお聞かせください。
重要ポイントの振り返り
| 論点 | 押さえるべきポイント |
|---|---|
| 源泉所得税調査の本質 | 支払者が、支払時に正しく源泉徴収し、期限までに納付したかを確認する調査 |
| 源泉徴収義務者 | 会社、個人事業主、学校、官公庁、人格のない社団等もなり得る |
| 主な調査対象 | 給与、賞与、役員報酬、報酬料金、外注費、退職金、非居住者への支払い |
| 納付期限 | 原則として、実際に支払った月の翌月10日 |
| 納期の特例 | 対象となる支払いと要件が限定されており、すべての源泉所得税に使えるわけではない |
| 報酬・料金等 | 名目ではなく実態で判断し、謝礼・車代・経済的利益も対象になり得る |
| 外注費と給与 | 契約書名ではなく、指揮監督、代替性、勤務実態、支払方法などで判断する |
| 認定賞与 | 役員等への経済的利益は、法人税だけでなく源泉所得税にも波及する |
| 納税告知 | 源泉徴収漏れがある場合、支払者である源泉徴収義務者に納付を求められる |
| 不納付加算税 | 法定納期限までに納付しなかった場合に問題となり、正当な理由の有無や自主納付の時期が重要 |
| 調査対応の軸 | 「誰に、何を、なぜ支払ったか」を資料と事実で説明できる状態にする |
| 再発防止 | 支払先登録、契約、請求書確認、支払承認、納付管理の各段階で源泉徴収の要否を確認する |