進行期・直近期の業績をどう見るか|過去決算では見えない足元変化をM&A判断に反映する

財務DDの現場では、対象会社の過去3期分の決算書や税務申告書を確認することが一般的です。過去の実績は、対象会社の収益構造や費用構造、資金の流れ、会計処理の傾向をつかむうえで、たしかに欠かせない材料です。

ただ、買収の可否を判断する局面で本当に問われるのは、「過去にいくら儲かったか」だけではありません。

買収を実行しようとしているまさにその時点で、対象会社の業績がどちらに動いているのか。直近の月次で、売上や粗利が落ち込んでいないか。主要顧客の離脱、受注の減少、値引きの増加、回収の遅れといった兆候はないか。売主が示す通期見込みや事業計画は、足元の実績ときちんと整合しているのか。クロージングまでの間に、ネットデットや運転資本、資金繰りが悪化してしまわないか。

こうした点を見落とすと、決算書の上では問題がないように見えても、買収した直後に「想定していた収益力が、すでに失われていた」という事態を招きかねません。

財務DDにおける進行期、つまり当年度の収益力分析は、直近の事業環境を映した収益力をとらえ、将来計画の収益力を検討するうえで重要な分析です。実務では、通期予測の評価、LTM(直近12か月累計)分析、アウト・ターン分析(期中実績+予測)といった手法を組み合わせて、直近のトレンドを読み解いていきます。

本記事では、進行期・直近期の業績を単なる月次資料の確認で終わらせず、M&Aの実行可否、価格条件、契約条件、クロージング前の対応、そして買収後の管理にどう反映するか、という観点から整理していきます。

目次

進行期・直近期の業績を見る意味

進行期・直近期の業績を確認する目的は、突き詰めれば一つです。過去決算の延長線上に、対象会社が今も変わらず存在しているかを見極めること。これに尽きます。

決算書は、あくまで過去の一定時点までの結果を示すものです。一方で、M&Aの意思決定は、その先の時点で行われます。

たとえば、直近の決算期末が3月で、DDを実施しているのが9月だとすれば、すでに半年分の事業活動が進んでいることになります。

この半年の間に、主要顧客の解約、原材料価格の上昇、人員の流出、受注の減少、回収の遅れ、在庫の増加、資金繰りの悪化といった変化が起きていれば、過去決算だけを根拠に買収判断を下すことはできません。

進行期・直近期の業績分析では、次のような問いに答えていく必要があります。

  • 過去決算で把握した収益力は、今も続いているのか。
  • 直近の売上・粗利・EBITDAは、過年度と比べて改善しているのか、それとも悪化しているのか。
  • 予算や事業計画に対する進捗は、妥当な水準か。
  • その業績変化は、一過性のものか、それとも構造的なものか。
  • 買収価格や契約条件を、見直す必要があるか。
  • クロージング前に、追加で確認すべき事項はないか。
  • 買収後、直ちに手をつけるべき課題は何か。

進行期の分析は、過去分析と将来計画分析をつなぐ橋渡しの役割を担います。

過去の実績だけを見れば「買える会社」に映っても、足元の実績まで踏み込むと「条件変更が必要な会社」、あるいは「慎重に撤退まで検討すべき会社」へと、評価が変わることは珍しくありません。

まず確認すべきは、月次資料の信頼性

進行期・直近期の分析では、月次試算表、月次損益、月次KPI、予算実績管理表、受注残資料、売掛金年齢表、資金繰り表などを確認していきます。

ただ、ここで真っ先に問うべきなのは、その月次資料の数字がそもそも正しいのか、という点です。

月次決算は、年度決算や四半期決算と同じ精度で作られているとは限りません。減価償却費を概算で計上しているだけだったり、賞与引当や退職給付、棚卸評価、貸倒引当、未払費用、税金費用が反映されていなかったり、売上や仕入の締め処理が粗かったり。こうしたケースは、実務では決して例外ではありません。

当年度の収益力分析では、数値の信頼性や比較可能性を検討するうえで、その月次決算が速報値なのか、カットオフ手続は正確か、引当や見積りは反映されているか、レビューはどの程度行われているか、といった点を押さえておくことが大切です。月次決算と四半期決算・年度決算とでは会計処理が異なる場合があり、たとえば月次では減価償却費を予算額で計上していたり、引当処理が実績率に基づいていなかったりすることがあります。

ですから進行期の分析では、いきなり売上や利益の増減に飛びつくのではなく、まず次の点を確かめることから始めます。

  • 月次決算は、何営業日で締められているか。
  • 月次の売上計上基準は、年度決算と同じか。
  • 売上、仕入、外注費、在庫、未払費用の締め処理は適切か。
  • 賞与、退職給付、未払残業代、リベート、保証費用などの見積項目は、月次に反映されているか。
  • 税金費用は、月次で概算計上されているか。
  • 月次試算表は、販売管理資料・請求資料・入金資料と整合しているか。
  • その月次決算は、経営会議で実際に使われているか。

月次資料の信頼性が低ければ、進行期分析から導ける結論もまた、限定的なものにとどまります。

このような場合は、月次の数値をそのまま判断材料にするのではなく、証憑、販売管理データ、請求書、入金状況、受注残、現預金残高などを突き合わせ、足元の業績を補正して見ていく必要があります。

売上は「伸びているか」ではなく「なぜ変化しているか」を見る

進行期の売上分析では、売上が増えているか減っているかを眺めるだけでは、十分とはいえません。

売上の変化は、少なくとも次の要素に分解して確認します。

  • 販売数量の変化
  • 販売単価の変化
  • 主要顧客の増減
  • 新規顧客と既存顧客の構成
  • 継続取引とスポット取引の構成
  • 値引き、返品、割戻、リベートの影響
  • 受注残の変化
  • 解約、キャンセル、失注の状況
  • 売上計上時期の変更
  • 関連当事者取引やグループ取引の変化

売上が増えていても、その中身が単発案件や低採算案件の積み増しにすぎないのであれば、正常収益力が改善したとはいえません。

逆に、売上が一時的に落ち込んでいても、季節性や納期のずれで説明がつき、受注残が十分に積み上がっているのであれば、それを直ちに重大な悪化と見る必要はないでしょう。

ここで肝心なのは、売上が変化した「要因」と、その「持続性」です。

たとえば、直近期に主要顧客を失った場合、その影響は過去決算にはまだ十分に表れていないことがあります。進行期の予算達成率が低く、その原因が主要顧客の喪失にあるのなら、その顧客との取引が続く前提で組まれた将来計画に対して、プロフォーマ調整を検討しなければなりません。

売上の足元の変化は、価格条件に直結します。主要顧客の離脱、継続率の低下、受注の減少、販売単価の下落が構造的なものであれば、過去実績を土台にした買収価格は、見直しが避けられません。

粗利率の変化は、売上より早く異常を示すことがある

進行期分析では、売上高だけでなく、粗利率の変化にも目を向けます。

売上は維持されていても粗利率が下がっているなら、対象会社の収益力はすでに損なわれ始めている可能性があります。

粗利率が下がる要因としては、次のようなものが考えられます。

  • 原材料価格や仕入価格の上昇
  • 外注費の増加
  • 販売単価の下落
  • 値引きの拡大
  • 低採算製品・低採算顧客の構成比の上昇
  • 在庫評価損や廃棄損の増加
  • 歩留まりの悪化
  • 人手不足による生産効率の低下
  • 為替や物流費の影響
  • 売上計上と原価計上の期間ずれ

売上が伸びている会社ほど、粗利率を確認する意味は大きくなります。売上成長に買収意欲が引き寄せられているときこそ、その成長が利益を伴っているのかを、冷静に見届けなければなりません。

とりわけ、直近期に粗利率が下がっているにもかかわらず、売主が示す事業計画では粗利率が回復する前提になっている場合には、その回復の根拠を確かめます。

  • 価格改定は、すでに実施済みなのか。
  • 仕入先との条件変更は、合意済みなのか。
  • 低採算案件は、これから終了するのか。
  • 外注費の増加は、一時的なものなのか。
  • 在庫評価や廃棄は、過年度処理の遅れによるものなのか。

説明が抽象的なものにとどまるのであれば、計画上の利益をそのまま採用することには、慎重であるべきです。

予算実績差異は「未達かどうか」より「未達理由」を見る

進行期分析では、月次の実績を予算や事業計画と照らし合わせます。

ただ、予算未達だから即問題、予算達成だから安心、という単純な見方は危うさをはらみます。注目すべきは、予算がどう作られたのか、そしてなぜ未達なのか、という点です。

予算実績差異を見るときは、次の点を確認します。

  • 予算はいつ作成されたか
  • M&A検討前から、通常の経営管理目的で作られていたか
  • DD対応のために、後から作られたものではないか
  • 予算は取締役会や経営会議で承認されているか
  • 過去の予算達成率は、どの程度か
  • 未達が常態化していないか
  • 差異分析は、月次で行われているか
  • 差異の説明は、数字と証憑に裏づけられているか
  • 残り期間で挽回できる内容か

財務DDでは、進行事業年度の月次実績を事業計画と比較して進捗状況を把握することが欠かせません。受注販売型のビジネスであれば、調査時点までの受注残の推移を押さえておくことも重要になります。

予算実績差異は、単なる管理資料ではありません。買収価格の前提となっている利益水準が、現時点で達成可能かどうかを見極めるための資料です。

たとえば、上期の実績が予算を大きく下回っているのに、下期で一気に回復する前提になっている場合には、その回復の根拠を確かめる必要があります。受注残はあるのか、価格改定は織り込まれているのか、新規顧客は契約済みなのか、コスト削減は実行済みなのか。

これらの根拠が弱ければ、通期予測や翌期計画は、楽観に傾いている可能性があります。

LTM分析は、季節性のある事業で特に有効

進行期の途中でM&Aを検討する場合、数か月分の実績だけでは、対象会社の収益力を見定めにくいことがあります。

とりわけ季節性の強い事業では、直近3か月や上期の実績だけを切り取ると、誤った印象を持ちかねません。

こうした場面で力を発揮するのが、LTM分析です。LTMとは、直近12か月累計の実績を指します。

季節性のある事業では、進行期の一部期間だけを見ても収益力のトレンドがつかみにくいため、直近の月次決算から直近12か月の収益力を分析するLTM分析が有効になります。LTMを過年度通期、当年度予算、アウト・ターン、事業計画と比べることで、通期予測や計画の達成可能性を検討できます。

たとえば、季節性のある小売業、食品、観光、教育、建設、イベント関連、農水産関連、BtoB受注型事業などでは、月次売上の偏りが大きくなりがちです。

このような場合は、単月や四半期だけを見るのではなく、直近12か月累計で売上、粗利、EBITDA、営業CF、運転資本を確認します。

LTM分析では、次のような比較が効果的です。

  • LTM実績と直近決算期実績
  • LTM実績と前年同期間実績
  • LTM実績と当年度予算
  • LTM実績と売主提示の翌期計画
  • LTM実績と正常化調整後EBITDA
  • LTM実績と買収価格算定に用いた利益水準

LTMが過去決算より悪化しているなら、買収価格に織り込んだ収益力が、すでに失われている可能性があります。

反対に、LTMが改善している場合であっても、その改善が一過性のものか、それとも構造的なものかは、見極めておく必要があります。

アウト・ターン分析で通期着地を冷静に見る

進行期の業績を見るときは、実績だけでなく、通期の着地見込みも確認します。ここで有効なのが、アウト・ターン分析です。

アウト・ターン分析とは、進行期の実績に残り期間の予測を加えて、通期の着地見込みを算定する考え方です。

実務では、事業の季節性、市場や同業他社のトレンド、競合の影響などを踏まえながら、進行期の実績に残余期間の予測値を加えて算出した通年アウト・ターンが、はたして達成可能なのかを検証します。残余期間を予測する際には、過去の予算達成度にも目を配る必要があります。

アウト・ターン分析で大切なのは、残り期間の予測を機械的に足し込まないことです。

上期の未達を下期で挽回する前提になっているなら、その挽回の根拠を確かめます。

  • 過去にも下期偏重で達成してきた会社なのか
  • 受注残や契約済み案件があるのか
  • 値上げの効果は、いつから反映されるのか
  • コスト削減は、すでに実行済みなのか
  • 主要顧客の解約影響は、織り込まれているのか
  • 仕入価格や人件費の上昇は、織り込まれているのか

アウト・ターンが当初予算を下回る場合、その差額は買収判断に影響します。とくに、買収価格が当年度予算や翌期計画を土台に算定されているのであれば、足元実績に基づいて価格目線を見直す必要が出てきます。

受注・解約・キャンセルは、損益計算書より早く変化を示す

進行期分析では、売上計上済みの実績だけを見ていては、把握が後手に回ることがあります。

売上になる前の情報、つまり受注、内示、商談、契約更新、解約、キャンセル、失注の状況にも目を向ける必要があります。

とくに、受注販売型、プロジェクト型、サブスクリプション型、保守契約型、BtoB継続取引型の事業では、受注や解約の情報が、将来の売上を先取りして教えてくれます。

確認しておきたい資料は、次のようなものです。

  • 受注残高の推移
  • 受注残の売上化予定
  • 顧客別の受注残
  • 案件別の粗利見込み
  • キャンセル・失注の一覧
  • 解約の一覧
  • 契約更新率
  • 継続率、チャーンレート
  • 商談パイプライン
  • 見積提出済み案件
  • 納期遅延案件
  • 赤字受注案件

受注残が増えていても、その中身が低採算案件やキャンセル可能性の高い案件ばかりであれば、将来収益力の裏づけにはなりません。

逆に、足元の売上実績がまだ弱くても、採算の良い受注残が積み上がっているのであれば、それが通期見込みの根拠になることもあります。

受注・解約の情報は、ビジネスDDや法務DDともつながっています。主要顧客との契約条件、解約条項、チェンジ・オブ・コントロール条項、最低購入義務、価格改定条項などは、財務数値の将来性に直接響いてくるためです。

回収状況は、足元業績の質を示す

進行期・直近期の業績を見るときは、売上や利益だけでなく、回収の状況も確認します。

売上が計上されていても回収が遅れているのであれば、その売上の質には疑問符がつきます。とくに、直近期に売上が伸びている一方で売掛金が急増している場合には、注意が必要です。

確認しておきたい事項は、次のとおりです。

  • 売掛金残高の月次推移
  • 売上債権回転期間
  • 滞留債権の発生状況
  • 主要顧客別の未回収残高
  • 入金遅延の理由
  • 回収条件の変更
  • 分割払い、支払猶予、相殺の有無
  • 貸倒懸念先の有無
  • 期末付近の売上計上と入金状況
  • 関連当事者向け債権の回収可能性

回収の遅れが一時的な事務処理の遅延にすぎないなら、追加の確認で足りることもあります。

しかし、顧客の資金繰り悪化、品質クレーム、検収未了、返品予定、実質的な金融支援、関連当事者取引などが背景にある場合には、売上の実在性、貸倒リスク、運転資本、正常収益力、税務リスクへと波及していきます。

回収状況は、損益とキャッシュをつなぐ重要な論点です。「黒字なのに資金が残らない会社」かどうかは、直近期の回収状況を見れば、早い段階で見えてきます。

直近期の資金繰り悪化は、撤退判断に近い論点になることもある

直近期の業績分析では、損益だけでなく資金繰りも確認します。

売上や利益が一定の水準に見えても、資金繰りが急速に悪化していれば、買収後に追加の資金が必要になる可能性があります。

とくに中小・オーナー企業では、資金繰りが経営者個人の借入、役員借入、支払猶予、金融機関との関係、税金・社会保険料の納付状況などに支えられていることがあります。

確認しておきたい資料は、次のとおりです。

  • 現預金残高の月次推移
  • 資金繰り表
  • 借入金残高と返済予定
  • 短期借入、当座貸越、手形割引の利用状況
  • 税金・社会保険料の未納・延滞
  • 買掛金・未払金の支払遅延
  • 役員借入・役員貸付の増減
  • 金融機関との条件変更の有無
  • クロージングまでの資金不足見込み
  • 買収後に必要な最低現預金

直近期に資金繰りが悪化している場合、価格調整だけでは対応しきれないことがあります。クロージング前の資金ショート、金融機関の承諾、経営者保証、追加融資、未払税金、仕入先与信の維持など、契約条件や前提条件にまでつながる論点となるためです。

資金繰りの悪化が深刻で、売主から十分な説明や資料の開示が得られない場合には、撤退も含めて検討する必要があります。

売上計上時期とカットオフを確認する

直近期の売上が好調に見えるときほど、売上の計上時期を確認します。

期末やDDの直前に売上が急増しているなら、次のような論点が潜んでいないかを確かめます。

  • 出荷前売上
  • 検収前売上
  • 請求先行売上
  • 返品予定の売上
  • キャンセル可能性の高い売上
  • 実態のない売上
  • 関連当事者への売上
  • 循環取引的な取引
  • 売上と原価の期間ずれ

収益認識の考え方は、こうした会計処理の前提となるものです。直近期の業績を見る際には、対象会社がどの取引について、どの時点で収益を認識しているかを確認しておく必要があります。

出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」等の公表

収益認識の問題は、売上だけにとどまらず、粗利、売掛金、在庫、そして税務上の売上計上時期にまで影響を及ぼします。

直近期の売上が力強く見えても、それが会計上適切な売上かどうかを確かめなければ、正常収益力の判断を誤ることになります。

直近期の変化を4つに分類する

進行期・直近期で見つかった変化は、すべてを同じ重みで扱うべきではありません。実行判断に活かすために、次の4つに分類して整理します。

1. 一過性の変化

季節性、納期のずれ、一時的な大型案件、災害・設備トラブル、特定月の販促費などがこれにあたります。

一過性であることが証憑や過去の傾向で説明できる場合には、正常収益力から調整する、あるいは通期見込みでならして見る、といった対応が考えられます。

2. 構造的な変化

主要顧客の離脱、継続率の低下、価格競争の激化、原価の上昇、人員の不足、販売チャネルの毀損、製品ライフサイクルの終盤化などがこれにあたります。

構造的な変化は、買収価格や事業計画に反映すべきものです。単なる注記で済ませるわけにはいかず、正常収益力、バリュエーション、価格交渉に影響します。

3. 管理上の問題

月次決算が遅い、予算実績管理がない、受注残を正確に把握できない、売掛金の滞留管理ができていない、資金繰り表がない、といった問題です。

この場合は、直近期の数字そのものだけでなく、買収後の管理負担も見積もっておく必要があります。PMIの詳細設計は別の領域になりますが、DDの段階では、買収後に整備すべき管理課題として整理しておくべきでしょう。

4. 信頼性・不正リスクを示す変化

期末売上の急増、未回収売掛金の増加、説明のつかない粗利率の変動、関連当事者向け売上の増加、証憑の不備、会計処理の変更、資料間の不整合などがこれにあたります。

この場合は、追加資料の依頼、インタビュー、証憑確認、そして法務DD・税務DD・不正調査的な追加手続への接続を検討します。

リスクが重大で、なおかつ説明がつかないのであれば、条件変更ではなく撤退の判断に近づくこともあります。

実行判断への反映方法

進行期・直近期の業績分析で見つかった事項は、DD報告書の中だけで完結させてはなりません。価格、契約、クロージング前の対応、買収後の管理へと、確実に変換していく必要があります。

中小M&Aガイドラインでも、DDは財務・法務・ビジネス・税務などの実態を調査する工程であり、譲渡対価の精査や、判明した実態を踏まえた対応のために行われるものと位置づけられています。客観的な資料に基づいて検討を重ね、M&Aを実行すべきかどうか、実行する場合には譲渡額、表明保証、補償などの内容・条件を調整していくことが、成立後のトラブル防止やPMIに資する情報の取得につながる、という整理です。

出典:中小企業庁|中小M&Aガイドライン(第3版)―第三者への円滑な事業引継ぎに向けて―

進行期・直近期の発見事項は、次のように整理していきます。

  • 一過性で金額的な影響が限定的なものは、リスクを受容しつつ、社内説明資料に根拠を残しておきます。
  • 構造的な収益悪化は、正常収益力や価格条件に反映します。
  • 回収遅延、在庫増加、ネットデットの増加、運転資本の悪化は、価格調整やクロージング時の確認に反映します。
  • 主要顧客の離脱、契約解除リスク、COC条項は、法務DDと接続し、前提条件や表明保証、クロージング前の対応に反映します。
  • 月次管理の弱さは、買収後の管理課題として整理します。
  • 説明のつかない売上急増や未回収債権の増加は、追加調査または撤退検討事項として扱います。

財務DDで定量化が可能で、顕在化の可能性が高いリスクは、価格調整に織り込む方向で交渉します。一方、定性的なリスクは、金額試算や表明保証条項への反映を検討していくことになります。

買主が特に確認すべき実務上の問い

進行期・直近期の業績を見る際、買主としては次の問いを手元に置いておくとよいでしょう。

  • 直近月次の売上・粗利・EBITDAは、過年度と比べてどう変化しているか。
  • その変化は、数量、単価、顧客、製品ミックス、原価、費用のどこから生じているか。
  • 月次決算は、年度決算と同じ会計方針で作成されているか。
  • 売上計上、仕入計上、在庫、未払費用、引当、税金費用に、月次特有の粗さはないか。
  • 予算実績差異は、説明可能か。
  • 過去の予算達成率から見て、残り期間の予測は現実的か。
  • LTM実績は、直近決算期実績と比べて改善しているか、悪化しているか。
  • 受注残、解約、キャンセル、失注は、将来売上を支える内容か。
  • 売掛金の回収状況は、売上の質を裏づけているか。
  • 現預金、借入、支払遅延、未払税金などから見て、クロージングまで資金繰りに問題はないか。
  • 直近期の変化は、一過性か、構造的か、管理上の問題か、それとも信頼性リスクか。
  • 発見事項は、価格、契約、前提条件、補償、クロージング前対応、買収後管理のどこに反映すべきか。

これらの問いに答えられないまま買収を進めてしまうと、DDを実施していても、その結果を実行判断に活かしきれていない、ということになりかねません。

まとめ|直近期の業績は、買収判断の「現在地」を示す

財務DDにおいて、過去決算の分析が重要であることは言うまでもありません。

しかし、M&Aは過去を買う取引ではありません。買収時点で存在している事業と、買収後に引き継ぐ収益力・資金繰り・管理課題を見極める取引です。

進行期・直近期の業績は、その「現在地」を示してくれます。

月次の推移は、収益力の変化を示します。予算実績差異は、計画の信頼性を示します。LTM分析は、季節性をならした直近の収益力を示します。アウト・ターン分析は、通期着地の現実性を示します。受注・解約・回収の状況は、将来の売上とキャッシュの質を示します。そして資金繰りは、買収後に追加の資金が必要かどうかを示します。

大切なのは、足元に変化があること自体を恐れることではありません。

その変化が、受け入れられるものなのか、価格で調整すべきものなのか、契約で手当てすべきものなのか、クロージング前に対応すべきものなのか、それとも撤退を検討すべきものなのか。これを一つひとつ切り分けていくことです。

進行期・直近期の分析は、財務DDを「過去の確認作業」から「現在の買収判断」へと引き上げるための、重要なプロセスにほかなりません。

進行期・直近期の業績に不安がある場合

対象会社から直近の月次資料は開示されているものの、年度決算と同じ精度で作られているのか判断がつかない。売主の通期見込みは強気だが、足元の売上、受注、回収、資金繰りにどこか違和感がある。直近期の業績悪化を、価格調整、表明保証、補償、前提条件、クロージング前の対応にどう反映すべきか見極めたい。

このような段階では、進行期・直近期の数値を単なる参考資料として扱うのではなく、買収判断の中心論点として整理していく必要があります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、M&A検討段階における財務・税務DD、直近期業績の分析、月次資料の信頼性の確認、そして正常収益力・価格条件・契約条件への反映に関するご相談をお受けしています。

過去決算だけにとどまらず、足元の変化を踏まえたうえで、後からきちんと説明できる買収判断を行いたいとお考えの場合は、お問い合わせページよりご相談ください。

参考情報・出典

出典:中小企業庁|中小M&Aガイドライン(第3版)―第三者への円滑な事業引継ぎに向けて―
出典:中小企業庁|中小PMIガイドライン~中小M&Aを成功に導くために~
出典:中小企業庁|PMIを実施する
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」等の公表
出典:企業会計基準委員会|改正企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」等の公表

本記事の振り返り

重要論点確認すべきこと実行判断への反映
月次資料の信頼性月次決算の締め処理、カットオフ、引当、見積り、年度決算との違い月次数値をそのまま判断に使えるか、補正や追加確認が必要かを判断する
売上の足元変化数量、単価、顧客構成、受注、解約、キャンセル、値引き正常収益力、事業計画、価格条件の見直しに反映する
粗利率の変化原価上昇、外注費、製品ミックス、値引き、低採算案件見かけの売上成長と実態の利益悪化を切り分ける
予算実績差異予算作成過程、過去の予算達成率、差異理由、残り期間の挽回可能性通期予測や売主提示計画の信頼性を判断する
LTM分析直近12か月実績と過年度通期・予算・計画の比較季節性をならして直近収益力を把握する
アウト・ターン分析期中実績+残り期間予測、季節性、市場動向、過去達成率通期着地見込みを価格・契約交渉に反映する
受注・解約・回収受注残、解約率、キャンセル、滞留債権、入金遅延将来売上とキャッシュの質を評価する
資金繰り現預金、借入返済、未払税金、支払遅延、役員借入クロージング前対応、追加資金需要、撤退判断に接続する
契約条件への反映主要顧客離脱、COC条項、直近期悪化、未回収債権表明保証、補償、前提条件、誓約事項、価格調整に反映する
買収後管理月次決算、予算実績管理、受注・回収管理、資金繰り管理PMI詳細設計に踏み込みすぎず、買収後の優先管理課題として整理する
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