法人税・地方税リスクの見方|M&A税務DDで過年度申告と申告調整をどう読むか

M&Aの税務DDで法人税・地方税を確認する目的は、「税金が正しく申告されているか」を形式的に点検することにとどまりません。

買収後に追加の納税が発生する余地はないか。決算書上の利益と税務上の所得のあいだに、どのようなズレが生じているのか。そのズレは一時的なものなのか、それとも毎期繰り返されているものなのか。法人税・住民税・事業税・地方法人税・特別法人事業税・防衛特別法人税までを含めた税金キャッシュアウトを、事業計画や買収価格のなかにどう織り込むべきか。そして、見つかったリスクを価格調整・表明保証・補償・クロージング前対応・買収後の管理体制へどう反映するのか。

こうした点まで整理して、税務DDははじめてM&Aの実行判断に使えるものになります。

法人税は、法人の企業活動によって得られた所得に対して課される税で、所得金額は益金の額から損金の額を差し引いて計算します。実務では、企業会計上の当期利益を出発点に、法人税法上の加算・減算、いわゆる申告調整を行って所得金額を導きます。

出典:国税庁|法人税のあらましと申告の手引

したがって、税務DDで確かめるべきは「法人税申告書が提出されているかどうか」ではありません。決算書上の利益が、どのような税務調整を経て課税所得になっているのか。その調整は税法上きちんと説明できるものか。過年度から同じ論点が繰り返されていないか。買収後も同じ処理を続けてよいのか。仮に税務調査で指摘を受けたとき、どの程度の追加負担が生じ得るのか。確かめるべきは、こうした点です。

本記事では、M&A税務DDにおける法人税・地方税リスクの見方を、実務の判断に使える形で整理します。

目次

法人税・地方税リスクとは何か

税務DDにおける法人税・地方税リスクは、大きく三つに分けて捉えると整理しやすくなります。

第一に、過年度申告の誤りや不十分な処理によって、買収後に追加納税が発生するリスクです。売上計上時期の誤り、費用の損金性をめぐる問題、役員給与の処理、交際費・寄附金の限度超過、貸倒損失、資産評価、関連当事者取引、税額控除の適用誤りなどが、ここに含まれます。

第二に、将来の税負担を見誤るリスクです。過年度はたまたま税負担が小さく見えていても、税務上の欠損金が使えなくなる、税額控除が終了する、外形標準課税の対象になる、買収後のグループ体制の変更によって税負担が変わる、といったことが起こり得ます。

第三に、税務処理そのものよりも、税務管理体制に起因するリスクです。根拠資料が残っていない、税務判断のメモがない、申告調整の理由を社内で説明できない、顧問税理士任せで会社側が論点を把握していない、税務調査で指摘された事項が改善されていない。こうした状態がこれにあたります。

この三つは、分けて考える必要があります。追加納税リスクは価格や補償に反映しやすい一方で、税務管理体制の弱さは、買収後の経理・申告体制の整備課題として残りやすいからです。

財務・税務DDでは、法人税のほか、法人税に連動する住民税・事業税なども重要な調査対象になります。特に、地方税のうち事業税の外形標準課税部分は法人税と単純には連動しないため、別途の確認が必要になることがあります。

まず見るべきは「会計利益」と「課税所得」のズレ

法人税・地方税DDの入口は、損益計算書の税引前利益と、法人税申告書上の所得金額との差を読むことにあります。

決算書上は利益が出ていても、税務上は欠損となっている場合があります。反対に、会計上の利益は小さいのに、税務上は大きな所得が出ている場合もあります。この差を生むのが、別表四を中心とする申告調整です。

税務DDでは、少なくとも次のような観点で確認します。

  • 会計上の利益から税務上の所得への調整が、毎期どのように行われているか
  • 加算項目・減算項目の内容が、法人税法上きちんと説明できるものか
  • 一時差異と永久差異が整理されているか
  • 税務調整の理由が、社内資料や顧問税理士の資料で確認できるか
  • 同じ調整項目が毎期繰り返されている場合、その背景に会計処理や管理体制の問題がないか
  • 申告調整が必要であるにもかかわらず、未処理のまま残っている項目がないか

法人税申告書の別表は、計算の過程で他の別表の金額を参照することがあり、別表一や別表四には他の別表で計算された金額を転記する欄があるため、その作成には一定の順序があります。

出典:国税庁|法人税のあらましと申告の手引

申告書を見るときは、別表を一枚ずつ眺めるのではなく、「どの会計数値が、どの別表で、どのように税務上の所得や税額へ変換されているか」を追っていくことが大切です。

法人税申告書で確認すべき基本資料

法人税・地方税DDでは、過年度の申告書一式を確認します。対象とする期間は、案件の性質、税務調査の履歴、資料の入手可能性、重要性によって変わりますが、税務当局による更正可能期間や税務調査が済んでいない期間を踏まえて重点を置くのが一般的です。

確認する資料としては、次のようなものが中心になります。

確認資料主な確認目的
法人税申告書 別表一所得金額、法人税額、税額控除、地方法人税等の全体像を確認する
別表四会計利益から課税所得への加算・減算を確認する
別表五(一)利益積立金額・資本金等の額の税務上の変動を確認する
別表五(二)租税公課の納付状況、未払法人税等、納税充当金との整合性を確認する
別表七(一)繰越欠損金の発生・使用・残高を確認する
別表八受取配当等の益金不算入を確認する
別表十四(二)寄附金の損金算入限度額を確認する
別表十五交際費等の損金不算入額を確認する
別表十六関係減価償却、少額資産、一括償却資産等を確認する
適用額明細書租税特別措置の適用状況を確認する
地方税申告書法人住民税、法人事業税、特別法人事業税、外形標準課税等を確認する

別表五(二)では、租税公課の納付状況、未払法人税等、損金不算入となる租税公課、加算税・延滞税の有無、事業税の調整などを確認することが重要です。加算税や延滞税が生じている場合には、その金額だけでなく、発生原因まで確かめておく必要があります。

この段階で大切なのは、税額だけを見ないことです。追加税額そのものは小さくても、同じ処理誤りが毎期繰り返されているのであれば、買収後の管理リスクは決して小さくありません。逆に、一時的な処理誤りで、原因と影響額が特定でき、クロージング前に修正できる見通しが立つのであれば、条件調整で対応できることもあります。

役員給与は、中小・オーナー企業で特に重要になる

法人税DDで頻繁に問題になるのが、役員給与です。

なかでも中小・オーナー企業では、役員報酬、役員賞与、役員退職慰労金、親族役員への給与、オーナー個人の支出との混在が、正常収益力と税務リスクの双方に影響します。

法人税法上、法人が役員に支給する給与のうち、定期同額給与、事前確定届出給与、一定の業績連動給与のいずれにも該当しないものは、原則として損金に算入できません。また、これらに該当する給与であっても、不相当に高額な部分は損金に算入されません。

出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与

税務DDでは、次の点を確認します。

  • 役員報酬の改定時期と金額が、税務上きちんと説明できるか
  • 役員賞与や臨時支給が、事前確定届出給与等として適切に処理されているか
  • 親族役員への給与が、実際の職務内容・勤務実態と整合しているか
  • 役員退職慰労金の支給予定があり、その金額や支給時期に税務リスクがないか
  • 買収後にオーナーが退任・減額・継続関与する場合、正常収益力にどう反映するか
  • 役員給与の処理が、財務DD上の調整後EBITDAと税務DD上の損金性判断の双方に影響していないか

役員給与は、単なる税務論点にとどまりません。買収価格の前提となる正常収益力、売主との条件交渉、クロージング前の退職慰労金支給、買収後の経営体制にも、そのまま直結します。

ですから役員給与を見るときは、税務上の損金算入の可否だけでなく、「買収後も同じ費用構造が続くのか」「買収後に必要となる人件費は増えるのか」「オーナー退任後に代替人材のコストが発生するのか」というところまで視野に入れる必要があります。

交際費・寄附金・福利厚生費は、科目名ではなく実態で見る

交際費、会議費、広告宣伝費、福利厚生費、寄附金、販売促進費は、税務DDで科目をまたいで確認すべき領域です。

会計上の科目名が「会議費」だから税務上も問題ない、というわけではありません。実態として接待・供応・贈答にあたれば、交際費等として扱う必要があります。反対に、交際費勘定に計上されていても、税務上は交際費等から除外できるものもあります。

交際費等とは、得意先・仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答、そしてこれらに類する行為のために支出するものを指します。また、飲食等に要する費用のうち一定の書類保存要件を満たすものについては、令和6年4月1日以後、1人当たり10,000円以下という基準が示されています。

出典:国税庁|No.5265 交際費等の範囲と損金不算入額の計算

税務DDでは、次のように見ていきます。

  • 交際費・会議費・広告宣伝費・販売促進費の区分が、実態と合っているか
  • 社内飲食、役員・親族向け支出、取引先接待の区分が説明できるか
  • 領収書、参加者、目的、相手先、人数などの保存資料があるか
  • 交際費等の損金不算入額が、正しく別表十五に反映されているか
  • 寄附金が、一般寄附金、指定寄附金、特定公益増進法人等への寄附金などに区分されているか
  • 寄附金の損金算入限度額が、別表十四(二)で正しく計算されているか
  • オーナー個人・親族・関連団体への支出が混在していないか

寄附金についても、支出先や内容に応じて損金算入限度額や必要書類が異なります。たとえば、認定NPO法人等への一定の寄附金については、一般の寄附金に係る損金算入限度額とは別枠で、特別損金算入限度額の範囲内で損金に算入される取扱いが設けられています。

出典:国税庁|No.5284 認定NPO法人等に対する寄附金

交際費や寄附金の論点は、金額だけを見れば小さく映ることもあります。しかし、支出の実態が曖昧な会社では、経費処理全体の統制が弱まっている可能性があります。税務DDでは、個別の金額だけでなく、経費の承認プロセス、証憑の保存、役員・親族関連支出の管理体制までを確認しておく必要があります。

貸倒損失・貸倒引当金は、債権回収リスクと税務処理を分けて見る

財務DDでは、売掛金や貸付金の回収可能性を見ます。一方、税務DDで見るのは、それらを貸倒損失や貸倒引当金として損金処理できるかどうかです。

ここで混同してはならないのは、「会計上、回収不能に見えること」と「税務上、損金算入できること」は同じではない、という点です。

税務DDでは、次の点を確認します。

  • 長期滞留債権について、回収不能の事実を示す資料があるか
  • 貸倒損失として処理した債権について、法的整理、債務免除、回収不能の事実が説明できるか
  • 関連会社や役員への貸付金について、通常の貸倒処理と同様に扱えるのか
  • 貸倒引当金を損金算入している場合、対象法人・対象債権・繰入限度額が適切か
  • 買収後に債権回収不能が顕在化した場合、税務上の損金算入時期が想定とずれないか

一定の大法人等の100%子法人等では、中小企業向けの特例措置が適用されないことがあり、貸倒引当金繰入額の損金算入、繰越欠損金の損金算入制限の不適用、中小企業者等の法人税率の特例などにも影響が及びます。

出典:国税庁|No.5800 一定の大法人等の100%子法人等における中小企業向け特例措置の不適用について

買収前は中小法人として処理していたものが、買収後に親会社グループへ入ることで、税務上の取扱いが変わる場合があります。この点は、買収後の税負担や資金計画にも影響します。

減価償却・固定資産・修繕費は、買収後の税負担にも影響する

固定資産に関する法人税リスクも、M&Aでは重要です。

財務DDでは、固定資産の実在性、時価、老朽化、除却・減損、維持更新投資を確認します。税務DDでは、取得価額、耐用年数、償却方法、資本的支出と修繕費の区分、除却損、圧縮記帳、少額資産、一括償却資産などを確認します。

特に注意したいのは、買収前の処理が買収後の税務キャッシュフローに残るという点です。たとえば、過去に修繕費として一括で損金処理していた支出が、税務上は資本的支出と見るべきものだった場合、過年度の追加課税リスクが生じます。逆に、資産計上すべきものが費用処理されていれば、税務上の償却資産台帳、固定資産税、償却資産申告にも影響します。

税務DDでは、次の点を確認します。

  • 固定資産台帳と貸借対照表、減価償却明細が一致しているか
  • 会計上の償却と税務上の償却に差異があるか
  • 償却超過額・償却不足額が別表で管理されているか
  • 修繕費と資本的支出の区分が説明できるか
  • 遊休資産・除却済資産・実在しない資産が残っていないか
  • 圧縮記帳や特別償却・税額控除を適用している場合、その要件を満たしているか
  • 買収後に事業譲渡、会社分割、合併を予定している場合、固定資産の税務簿価や含み損益がどのように引き継がれるか

固定資産の税務論点は、法人税だけでなく、地方税、償却資産税、不動産取得税、登録免許税、組織再編税制にもつながっていきます。本記事では組織再編税制の詳細には立ち入りませんが、買収後の再編を予定している場合には、法人税DDの段階で固定資産の税務簿価と含み損益を把握しておく必要があります。

税額控除・租税特別措置は「適用できているか」より「要件を説明できるか」

法人税DDでは、税額控除や租税特別措置の適用状況も確認します。

研究開発税制、賃上げ促進税制、設備投資関連税制、中小企業向けの特例、所得拡大・人材確保に関する措置などは、対象会社の税負担を大きく下げていることがあります。

ただし、税額控除や特例は、適用していること自体がリスクになる場合があります。要件を満たしていない、証憑がない、計算根拠が不十分、適用額明細書との整合性がない、グループ関係や資本金要件の判定を誤っている。こうした場合には、買収後に否認される可能性があるためです。

確認すべき観点は、次のとおりです。

  • 適用している税額控除・特別措置の一覧があるか
  • 適用額明細書と申告書別表が整合しているか
  • 要件判定に必要な資料が保存されているか
  • 資本金、従業員数、親会社関係、大法人による支配関係などの判定が正しいか
  • 買収後も同じ制度を利用できるか
  • 事業計画上、過年度と同水準の税額控除を前提にしていないか
  • 税額控除が使えなくなった場合、将来キャッシュフローや価格評価に影響しないか

税額控除は、買収価値を高める要素にもなり得ます。しかし、要件を説明できない税額控除は、価値ではなくリスクに転じます。

繰越欠損金は「残高」ではなく「利用可能性」を見る

法人税DDでは、繰越欠損金も重要な論点です。詳細は別記事で扱うべき内容ですが、法人税・地方税リスクの見方として、最低限おさえておきたい点があります。

対象会社に繰越欠損金がある場合、買主は将来の税負担軽減効果を期待することがあります。しかし、欠損金は、申告書に残高があるというだけで価値になるわけではありません。

青色申告書を提出した事業年度に生じた欠損金額は、原則として各事業年度開始の日前10年以内に開始した事業年度のものが損金に算入されます。その前提として、青色申告書の提出と、その後の連続した確定申告が必要です。さらに、欠損等法人が特定支配関係の取得後に一定の事由に該当する場合には、過去の欠損金の繰越控除が制限されることがあります。

出典:国税庁|No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除

税務DDでは、次の点を確認します。

  • 欠損金の発生年度、残高、使用状況が別表七(一)で確認できるか
  • 青色申告・連続申告の要件を満たしているか
  • 買収による支配関係の変動で使用制限を受けないか
  • 事業内容の変更や、休眠会社の買収に近い状態がないか
  • 法人税の繰越欠損金と、事業税の繰越欠損金が一致していると誤解していないか
  • 将来の課税所得が本当に見込めるか
  • バリュエーション上、欠損金の節税効果を過大に織り込んでいないか

法人税の繰越欠損金だけでなく、法人住民税・法人事業税への影響も確認が必要です。地方税には、法人税と連動する部分がある一方で、事業税や外形標準課税のように、別途確認すべき項目もあります。

欠損金は「節税メリット」ではなく、「条件付きで利用できる可能性のある税務属性」として捉えるのが適切です。

地方税は、法人税に連動する部分と連動しない部分を分ける

法人税・地方税リスクを整理するうえで、地方税をひとまとめにして見ると、判断を誤ります。

実務上は、少なくとも次のように分けて考える必要があります。

  • 法人住民税の法人税割
  • 法人住民税の均等割
  • 法人事業税の所得割
  • 法人事業税の外形標準課税部分
  • 特別法人事業税
  • 事業所税、固定資産税、償却資産税など、事業や資産に応じて発生する税

法人住民税の法人税割や法人事業税の所得割は、法人税や所得金額と連動しやすい部分があります。一方、均等割は赤字でも発生します。外形標準課税は、所得だけでなく、付加価値割や資本割が関係します。

法人事業税に係る外形標準課税は、所得に課税される法人のうち、事業年度終了の日における資本金の額または出資金の額が1億円を超える法人を基本としつつ、令和7年4月1日以後開始事業年度からの減資への対応、令和8年4月1日以後開始事業年度からの100%子法人等への対応を含め、一定の法人を対象とすることとされています。

出典:東京都主税局|法人事業税に係る外形標準課税 概要

税務DDでは、地方税について次の点を確認します。

  • 申告先の自治体が正しいか
  • 本店、支店、事業所、工場、営業所の所在地が把握されているか
  • 分割基準が適切に計算されているか
  • 法人住民税の均等割の税率区分が正しいか
  • 法人事業税の所得割、付加価値割、資本割の計算が正しいか
  • 外形標準課税の対象法人に該当するか
  • 減資、資本剰余金、親会社関係、100%子法人等の判定を誤っていないか
  • 買収後のグループ関係によって、地方税負担が変わらないか
  • 過年度の地方税申告書と国税申告書が整合しているか

地方税のリスクは、法人税ほど目立たないことがあります。しかし、複数拠点を持つ会社、資本金・資本剰余金が大きい会社、グループ再編を予定している会社、そして赤字でも一定の税負担が生じる会社では、買収後の資金繰りに影響します。

地方法人税・防衛特別法人税も、法人税系の税負担として確認する

名称が紛らわしいため注意が必要ですが、地方法人税は地方税ではなく国税です。ただし、法人税額と密接に関係し、法人税申告書と一体で申告されるため、法人税DDのなかで確認します。

法人税を納める義務がある法人は、地方法人税を納める義務があり、その額は各課税事業年度の課税標準法人税額に10.3%の税率を乗じて計算します。

出典:国税庁|法人税のあらましと申告の手引

さらに、令和8年4月1日以後開始事業年度からは、防衛特別法人税にも注意が必要です。令和7年3月31日に公布された所得税法等の一部を改正する法律によって防衛特別法人税が創設され、令和8年4月1日以後開始事業年度からは、法人税・地方法人税に加えて、防衛特別法人税の申告・納付が必要になります。

出典:国税庁|防衛特別法人税に関する納付手続等について

税務DDでは、過年度のリスクだけでなく、買収後の税金キャッシュアウトも確認します。したがって、事業計画の税金計算において、法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税、特別法人事業税、そして防衛特別法人税の影響が適切に反映されているかを確かめる必要があります。

未払法人税等・納税充当金・租税公課は、資金繰りにも影響する

法人税・地方税リスクは、損益計算書だけでは見えてきません。

貸借対照表の未払法人税等、未払消費税、未払事業税、納税充当金、前払税金、還付未収法人税等、租税公課勘定、法人税等調整額なども確認します。

特にクロージングの前後では、次の点が重要になります。

  • 買収基準日以前の税金を、誰が負担するのか
  • 未払法人税等が、実際の納付予定額と整合しているか
  • 申告後に、納付が済んでいない税金がないか
  • 中間納付額や予定納税が適切に反映されているか
  • 還付見込みを資産として見てよいか
  • 事業税の損金算入時期が正しく反映されているか
  • 加算税・延滞税など、損金不算入となる租税公課がないか
  • 税務調査による追加納付見込みが、未計上になっていないか

未払法人税等の不足は、実態純資産やネットデットに影響することがあります。法人税等の支払予定は、買収後の短期資金繰りにも響きます。

そのため税務DDでは、申告書上の税額と貸借対照表上の未払税金を照合し、さらに納付書、ダイレクト納付の履歴、地方税の納付状況、eLTAX・e-Taxの提出状況などを確認します。

税金は、損益の論点であると同時に、キャッシュアウトの論点でもあります。買収後に「利益は出ているのに資金が減る」という事態が、過年度税金や予定納税に起因していることもあるのです。

法人税・地方税リスクをどう評価するか

税務DDで法人税・地方税の論点が見つかったとき、大切なのは、単に「リスクあり」と書いて終えないことです。次の観点で整理する必要があります。

1. 金額化できるか

明確な申告調整漏れ、損金不算入漏れ、税率の適用誤り、未払税金の不足であれば、一定の前提を置いて追加税額を試算できる場合があります。

一方で、役員給与の相当性、関連当事者取引の価格、寄附金の認定、租税特別措置の要件充足性などは、金額化しにくいことがあります。

金額化できないリスクについては、契約上の補償や表明保証での手当てが重要になります。

2. 発生可能性は高いか

税務上の解釈が分かれる論点と、明らかな処理誤りは、分けて考える必要があります。

根拠資料があるか、過去の税務調査で同様の処理が確認済みか、顧問税理士の判断メモがあるか、社内承認があるか。こうした点によって、リスクの見方は変わってきます。

3. 一過性か、継続的か

単年度の処理誤りであれば、価格調整や補償で対応できることがあります。

しかし、毎期同じ処理誤りが続いている場合には、買収後の税務管理体制の問題として残ります。

4. 買収後も同じ処理を続けるのか

売主の時代には問題が小さく見えていた処理でも、買収後に親会社グループの会計・税務方針へ合わせると、処理の変更が必要になることがあります。

特に、上場会社グループ、PEファンド、金融機関対応がある会社では、証憑、承認、税務判断メモ、月次決算、申告プロセスの水準が変わることがあります。

5. 価格・契約・クロージング・買収後管理のどこで扱うか

法人税・地方税リスクは、発見しただけでは意味を持ちません。実行判断に活かすためには、次のどこで扱うのかを明確にしておく必要があります。

扱い方典型的な対応
価格に反映追加税額、未払税金の不足、利用できない税務属性を買収価格に反映する
契約で手当て表明保証、補償、特別補償、責任期間、責任上限を検討する
クロージング前に対応修正申告、未払税金の納付、関連当事者取引の整理、届出対応を行う
買収後に管理税務申告体制、承認フロー、税務判断メモ、証憑保存を整備する
実行判断を見直す重大な税務否認リスク、資料の不存在、反復的な不適切処理がある場合に再検討する

中小M&Aガイドラインでも、法的な問題点が判明した場合には、それがM&Aの実行にどのような影響を与え得るのかを把握することが重要とされています。税務DDでも考え方は同じで、発見事項を実行の可否、条件の変更、契約対応へとつなげていくことが要となります。

法人税・地方税DDで注意したい「見落としやすい兆候」

法人税・地方税リスクは、最初から大きな税額として見えてくるとは限りません。次のような兆候があるときは、より踏み込んだ確認が必要です。

  • 税引前利益と課税所得の差が大きいのに、その理由が説明されていない
  • 別表四の加算・減算が、毎期大きく変動している
  • 別表五(一)の利益積立金額と、会計上の利益剰余金との差異が説明できない
  • 別表五(二)の未納税額と、貸借対照表の未払法人税等が整合しない
  • 加算税・延滞税が発生している
  • 税務調査で、同じ指摘が繰り返されている
  • 役員・親族・関連会社への支出が多い
  • 交際費・会議費・福利厚生費・広告宣伝費の区分が曖昧である
  • 外注費が多いが、業務内容や契約書が不十分である
  • 貸倒損失や除却損が多い
  • 税額控除・特例の適用が大きいが、要件を裏づける資料が不足している
  • 繰越欠損金を買収価値に織り込んでいるが、利用制限を検討していない
  • 地方税申告書が、一部しか提出されていない
  • 事業所や支店の所在地と、地方税の申告先が整合していない
  • 買収後の資本関係の変更による、中小特例・外形標準課税への影響を検討していない

これらは、一つひとつを単独で見れば、小さな違和感にすぎないこともあります。しかし、いくつも重なる場合には、税務管理体制そのものに課題がある可能性があります。

税務DDの結論は「税務上問題なし」では足りない

法人税・地方税DDの報告で避けたいのは、「特段の問題はありません」という抽象的な結論です。

読者がM&Aの実行判断に使うためには、次のように整理されている必要があります。

  • 確認した申告年度
  • 確認した税目
  • 入手できた申告書・別表・地方税申告書
  • 入手できなかった資料
  • 主要な申告調整項目
  • 税務上の否認リスク
  • 金額化できる追加税負担
  • 金額化しにくい不確実性
  • 買収価格に反映すべき項目
  • 表明保証・補償で手当てすべき項目
  • クロージング前に整理すべき項目
  • 買収後に管理体制を整えるべき項目
  • 追加調査が必要な項目

税務DDの目的は、税務リスクをゼロにすることではありません。どこにリスクがあり、どこまで分かっていて、どの条件であれば進められるのかを、判断可能な形に整えることです。

法人税・地方税リスクを専門家に相談すべき場面

次のような状況では、法人税・地方税DDを専門家に相談する必要性が高くなります。

  • 株式譲渡で対象会社を法人格ごと取得する
  • 過年度申告書の別表四・五(一)・五(二)の内容を、社内で説明できない
  • 税務調査の履歴や修正申告の有無が不明である
  • 役員給与、関連当事者取引、オーナー支出が多い
  • 交際費、寄附金、福利厚生費、会議費の区分が曖昧である
  • 貸倒損失、固定資産除却損、評価損が大きい
  • 繰越欠損金や税額控除を、買収価値に織り込んでいる
  • 地方税の申告先や外形標準課税の判定に不安がある
  • 買収後に合併、会社分割、グループ通算、資本関係の変更を予定している
  • DDの結果を、価格・契約・補償・クロージング前対応にどう反映するか迷っている

法人税・地方税リスクは、申告書だけを見ても判断しきれません。会計処理、証憑、契約、資金の流れ、税務調査の履歴、買収スキーム、そして買収後の管理体制まで、つなげて見る必要があります。

まとめ|法人税・地方税DDは、申告書確認ではなく条件判断のために行う

法人税・地方税DDで見るのは、過年度申告書の提出の有無ではありません。会計利益から課税所得への申告調整、法人税・地方税の税額計算、未払税金、租税公課、役員給与、交際費、寄附金、貸倒損失、固定資産、税額控除、繰越欠損金、外形標準課税、そして買収後の税負担です。

そのうえで、見つかった事項を、追加税負担、価格調整、表明保証、補償、クロージング前対応、買収後の税務管理体制へどう反映するのかを整理していきます。

税務リスクがあるからといって、直ちにM&Aを止めなければならないとは限りません。一方で、法人税・地方税リスクを曖昧にしたまま進めてしまうと、買収後に追加納税、資金流出、売主との紛争、税務調査対応、管理体制の混乱が生じる可能性があります。

大切なのは、リスクを恐れることではなく、判断できる形に整えることです。

法人税・地方税の過年度申告、別表の読み取り、地方税・外形標準課税の判定、税務リスクの価格・契約条件への反映でお迷いの際は、犬飼公認会計士・税理士事務所のお問い合わせページからご相談ください。買収を前に進めるべきか、条件を見直すべきか、追加調査を行うべきかを、数字・事実・税務リスクに基づいて整理いたします。

振り返り|法人税・地方税リスクを見るときの重要論点

確認論点見るべき資料・観点実行判断へのつながり
会計利益と課税所得の差別表四、損益計算書、申告調整利益の質、過年度リスク、将来税負担を把握する
利益積立金額・資本金等の額別表五(一)、株主資本等変動計算書税務上の純資産、組織再編・配当・自己株式論点につなげる
租税公課・未払税金別表五(二)、未払法人税等、納付書実態純資産、ネットデット、買収後資金繰りに反映する
役員給与役員報酬台帳、議事録、届出書、親族役員の勤務実態損金否認リスク、正常収益力、買収後人件費を整理する
交際費・寄附金別表十五、別表十四(二)、領収書、支出目的損金不算入、証憑不足、オーナー関連支出の有無を確認する
貸倒損失・貸倒引当金債権明細、回収資料、契約書、別表債権評価と税務上の損金処理を分けて判断する
固定資産・減価償却固定資産台帳、別表十六、修繕費資料買収後税負担、設備投資、資産評価に影響する
税額控除・特例適用額明細書、税額控除別表、要件資料将来税負担や買収価値への織込み可否を判断する
繰越欠損金別表七(一)、青色申告、支配関係変動節税効果を買収価値に織り込めるか判断する
地方税・外形標準課税地方税申告書、拠点情報、資本金・資本剰余金赤字でも発生する税負担、買収後の税金キャッシュアウトを把握する
防衛特別法人税等の新制度最新の国税庁資料、申告様式、事業年度開始日買収後の税負担・事業計画に反映する
契約・価格への反映DD報告書、SPA、表明保証、補償条項税務リスクを価格・契約・クロージング前対応に変換する
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