税務調査・過年度処理・更正リスク|M&A税務DDで過去の税務リスクをどう判断に変えるか

M&Aの税務DDで過年度申告を確認するとき、「過去の申告書がきちんと提出されているか」を確かめるだけでは足りません。本当に見極めたいのは、過去の税務処理が買収後にどのような形で問題化し得るのか、という点です。

税務調査で過去に何を指摘されたのか。修正申告や更正の対象となった事項は何か。重加算税につながりかねない隠蔽・仮装をうかがわせる事実はなかったか。更正期間がまだ残っている年度はどこか。税務当局と争っている事項はないか。過去の指摘事項が、その後の申告でも繰り返されていないか。そして、買収後に追加納税、延滞税、加算税、税務調査対応、売主との補償請求が発生し得るのか。

このように、税務調査・過年度処理・更正リスクは、税務DDのなかでも「過去を見て終わり」という論点ではありません。買収価格、表明保証、補償、前提条件、クロージング前の対応、そして買収後の税務管理体制にまで直結する論点です。

税務DDでは、対象会社の税務調査の実施状況、対象税目、対象事業年度をはじめ、更正通知書・修正申告書、重加算税の有無、税務当局と争いになっている事項、税務調査時の社内メモ、調査官の指摘事項、指摘後の改善状況などを丁寧に確認していくことが欠かせません。

この記事では、M&A税務DDにおいて、税務調査履歴、過年度処理、更正リスクをどのように確認し、どのように実行判断へつなげていくべきかを整理します。

目次

税務調査履歴は、過年度税務リスクを読む最短ルートになる

税務DDで過年度申告書を分析することは、もちろん重要です。ただ、税務調査履歴の確認は、それ以上に効率よくリスクを把握する手段になることがあります。

理由はシンプルで、税務調査の結果には、過去に税務当局がどこを問題視したのかがそのまま表れているからです。指摘された事項は、対象会社の税務処理の弱点を映し出します。仮に指摘されなかった事項であっても、調査官とのやり取りや社内メモのなかに、将来問題化し得る論点が残っていることは少なくありません。

さらに、税務調査の実施頻度や指摘内容の傾向は、表明保証や補償期間の設計にも影響し得ます。

そのため税務DDでは、調査対象期間内だけでなく、過去数回分の税務調査の内容まで把握しておくことが望ましいとされています。実施頻度や指摘事項の傾向を理解するためであり、調査の頻度そのものが表明保証の期間に影響する可能性もあるからです。

確認しておきたい主な資料は、次のとおりです。

確認資料主な確認目的
税務調査結果の通知・説明資料調査対象税目、対象年度、指摘事項の全体像を把握する
更正通知書税務当局が処分した内容、税額、理由を確認する
修正申告書対象会社が自ら是正した内容、対象税目、追加税額を確認する
加算税・延滞税の資料過少申告、無申告、不納付、重加算税等の有無を確認する
税務調査時の社内メモ更正・修正申告に至らなかった指摘や調査官とのやり取りを把握する
税理士・顧問税理士とのやり取り税務判断の根拠、当時の見解、未解決事項を確認する
税務当局への照会文書・回答事前照会・文書回答等に基づく処理の有無を確認する
その後の申告書過去の指摘事項が改善されているか、同じ処理が継続していないかを確認する

ここで気をつけたいのは、「税務調査が終わっているのだから安全だ」と短絡しないことです。

調査済みの年度は、一般的には再度調査される可能性が相対的に低いと考えられます。しかし、新たに得られた情報に照らして非違があると認められる場合には、改めて税務調査が行われることがあります。国税庁も、修正申告等の提出後や更正・決定後であっても、新たに得られた情報に照らして非違があると認められるときは、改めて調査を行う場合があると説明しています。

出典:国税庁|税務手続について

税務調査で「何を指摘されたか」より「なぜ指摘されたか」を見る

税務調査資料を確認するとき、追加税額の大きさだけに目を奪われると、判断を誤ります。

本当に重要なのは、指摘事項の原因です。同じ追加納税であっても、その原因によってM&A上の意味は大きく変わってきます。

指摘原因M&A上の見方
単純な集計ミス・転記ミス金額が限定的で、再発防止策が明確なら条件対応で足りる場合がある
税法解釈の相違金額化しにくく、将来年度への波及や契約上の手当てが重要になる
証憑不足税務リスクだけでなく、内部管理体制・経理体制の弱さを示す
毎期同じ処理誤り買収後も同じリスクが継続する可能性が高い
役員・関連当事者取引オーナー依存、私的費用、正常収益力、法務DDにも接続する
隠蔽・仮装を疑わせる処理重加算税、不正リスク、撤退判断の検討対象になり得る

そのため税務DDでは、更正通知書や修正申告書だけでなく、調査の経緯がわかる社内メモ、調査官とのやり取り、さらには指摘されたものの更正・修正申告に至らなかった事項まで確認しておく必要があります。処分や修正申告という「結果」だけを追っていては、税務調査で本当に問題視された論点を取りこぼしてしまうからです。

たとえば、税務調査で交際費の処理を指摘され、追加税額そのものは小さかったとします。金額だけを見れば、重要性は低いと判断しがちです。

しかし、調査官とのやり取りのなかで、役員の私的支出や親族への支払、領収書の保存不足、稟議・承認の不備が併せて指摘されていたとすれば、話は変わります。それはもはや、単なる交際費の税務論点ではありません。経費処理全体の統制不備であり、オーナー依存であり、買収後の管理体制整備の論点です。

つまり税務調査履歴は、税金の問題を読むためだけの資料ではありません。対象会社の経理・税務管理がどこまで成熟しているかを読み取るための資料でもあるのです。

修正申告と更正は、M&A上の意味が異なる

税務調査の結果、申告内容に誤りがあった場合、実務上は修正申告または更正という形で処理されます。

修正申告は、納税者の側が自ら申告内容を是正する手続です。一方の更正は、税務署長が申告内容を是正する処分です。

国税庁は、申告内容の誤りについて、納める税金が少なすぎた場合や還付される税金が多すぎた場合には修正申告により訂正できると説明しています。また、税務調査で誤りが認められた場合には、調査結果の内容を説明したうえで修正申告等を勧奨すること、その勧奨に応じない場合には税務署長が更正または決定の処分を行うことがあるとしています。

出典:国税庁|税務手続について

M&A税務DDでは、それが修正申告なのか更正なのかによって、次の点を分けて見ていく必要があります。

修正申告の場合

修正申告は、対象会社が自ら申告内容を訂正したものです。税務当局との争いを避けるために修正申告を行っていることもあれば、実質的に指摘を受け入れたものと見るべき場合もあります。

確認しておきたいのは、次の点です。

  • どの税目・年度を修正したか
  • 修正理由は何か
  • 追加本税、加算税、延滞税はいくらか
  • 同じ処理がその後の年度でも続いていないか
  • 顧問税理士や社内で再発防止策を取ったか
  • 修正申告をしたことで、当該事項について不服申立てができないことを理解しているか

国税庁は、修正申告等をした場合には、その修正申告等に係る再調査の請求や審査請求はできないものの、更正の請求はできることを説明するとしています。

出典:国税庁|税務手続について

したがって、修正申告済みの事項については、「なぜそれを受け入れたのか」「対象会社の主張はあったのか」「同じ論点が将来も続くのか」を確認しておく必要があります。

更正の場合

更正は、税務署長による処分です。納税者が税務当局の判断に不服を持つ場合には、不服申立てや訴訟へと進む可能性があります。

M&A税務DDでは、次の点を確認します。

  • 更正通知書の内容
  • 処分理由
  • 追加税額・加算税・延滞税
  • 不服申立ての有無
  • 再調査の請求、審査請求、訴訟のどの段階か
  • 同様の取引がその後の年度に存在するか
  • 買収後に争いを継続する必要があるか
  • 補償条項や特別補償で手当てすべきか

国税庁は、更正または決定などの不利益処分を行う場合には、その通知書に処分の理由を記載するとしています。また、処分に不服があるときは、処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内に、税務署長等への再調査の請求か、国税不服審判所長への審査請求のいずれかを選択できると説明しています。

出典:国税庁|税務手続について

更正処分がある場合、DD報告書では「追加税額がいくらか」だけでなく、「争点が継続しているか」「将来年度に波及するか」「買主が買収後にその争いを引き継ぐのか」までを明確にしておく必要があります。

更正リスクは、期間制限を踏まえて見る

過年度の税務リスクを評価する際、必ず押さえておきたいのが、更正・決定の期間制限です。

国税庁は、税務署長が更正または決定の処分を行うことができる期間について、原則として法定申告期限から5年間であり、偽りや不正の行為によって税額を免れ、または還付を受けた場合には、法定申告期限から7年間、更正または決定を行うことができると説明しています。

出典:国税庁|税務手続について

また財務省は、更正・決定の除斥期間について、通常の更正・決定は5年、偽りその他不正の行為の場合は7年、移転価格税制に係る法人税等については7年、法人税に係る純損失等の金額についての更正は10年と整理しています。

出典:財務省|更正・決定の除斥期間、更正の請求期間

M&A税務DDでは、単に「直近何年分を見るか」ではなく、次のように期間を分けて整理していきます。

区分DD上の見方
すでに更正期間が経過している年度原則として追加課税リスクは限定的。ただし、会計修正や買収後管理への影響は別途確認する
更正期間が残っている年度税務調査による追加課税リスクを検討する
偽りその他不正の行為が疑われる年度7年リスク、重加算税、不正リスク、撤退判断を含めて検討する
移転価格・国外取引がある年度通常より長い期間制限や相互協議、海外税務リスクも確認する
欠損金・純損失等に関係する年度欠損金利用可能性、税務属性の価値、買収後税負担に接続する

ここで注意したいのが、「税務調査は通常3年分だから大丈夫」という見方です。

実務上、調査対象年度が3年程度にとどまることはあります。しかしM&Aの判断では、法的な更正可能期間、偽りその他不正の行為の有無、移転価格・国外取引・欠損金等の特例まで踏まえる必要があります。

買収契約の表明保証期間や税務補償期間も、この期間制限と無関係に設計することはできません。過年度税務リスクが残っている期間と、売主が責任を負う期間とがずれていると、買収後に買主だけが追加税負担を背負うことになりかねないからです。

重加算税は、金額以上に「会社の実態」を示す

税務調査履歴のなかでも、とりわけ注意して見たいのが重加算税です。

重加算税は、単なる計算誤りや税法解釈の相違とは性質が異なります。隠蔽・仮装が認定されている場合、そこには税務リスクにとどまらず、内部管理体制、不正リスク、経営者の姿勢、証憑管理、さらには法務DD上のリスクまでが含まれてきます。

税務DDでは、過去の税務調査において重加算税の対象となった項目の有無を把握し、課されている場合にはその内容を詳細に確認すべきです。重加算税は、通常の税務リスク金額を超えて、内部統制や法務DDにも影響し得る重要な論点だからです。

国税庁の法人税に関する重加算税の事務運営指針でも、重加算税の計算について、国税通則法68条等に基づき、重加算税の基因となった事実によって計算するという考え方が示されています。

出典:国税庁|法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)

重加算税がある場合、DDでは次の点を必ず確認します。

  • 対象税目
  • 対象年度
  • 対象取引
  • 隠蔽・仮装と認定された事実
  • 関与した役員・従業員・外部関係者
  • 経営者が把握していたか
  • 同様の処理が他年度・他税目にも存在しないか
  • 会計不正や粉飾に接続する可能性がないか
  • 法務DD・労務DD・内部管理体制に共有すべき事項がないか
  • 買収後に経理・税務担当者を継続雇用してよいか

重加算税は、単に「追加税額が大きい論点」ではありません。対象会社の税務コンプライアンス、経営管理、内部統制、証憑保存、そして倫理観を映し出すサインです。

とりわけ、売上除外、架空経費、役員・親族への支出、関連会社との取引、外注費の水増し、現金売上の管理不備、棚卸資産の操作などが背景にある場合には、財務DDや会計不正リスクの観点からも、改めて確認しておく必要があります。

更正・修正申告に至らなかった指摘事項も重要である

税務調査の資料を見ていくと、最終的に修正申告や更正に至った項目だけが残っているケースがあります。しかしM&A税務DDでは、それだけでは不十分です。

税務調査では、調査官から指摘や問題提起があったにもかかわらず、最終的には更正・修正申告に至らなかった事項が存在することがあります。金額が小さかった、資料が不足していた、税務当局が今回は見送った、納税者側の主張が一定程度受け入れられた、時間の制約で深掘りされなかった――背景には、さまざまな事情があり得ます。

こうした事項は、将来の税務調査で再び問題化する可能性をはらんでいます。たとえば、次のようなものです。

  • 売上計上時期について指摘されたが、修正には至らなかった
  • 役員給与や親族給与について説明を求められた
  • 交際費・福利厚生費・会議費の区分について指摘された
  • 外注費の実態について質問された
  • 関連当事者取引について資料提出を求められた
  • 海外関連会社への支払について源泉税・移転価格の質問があった
  • 消費税の課税区分について説明を求められた
  • 棚卸資産や固定資産の実在性について確認された
  • 貸倒損失や評価損について根拠資料を求められた

そのため税務DDでは、更正通知書や修正申告書に加えて、税務調査に関する社内メモ等の開示を受け、調査官の指摘事項を網羅的に把握することが重要になります。更正処分や修正申告に至らなかった指摘事項の内容まで押さえたうえで、税務コンプライアンスや改善状況を検討していく必要があります。

「追徴税額がなかったから問題ない」のではありません。税務調査でどこを疑われたのかを読み解くことが、そのまま買収後のリスク管理に直結します。

過年度処理の誤りは、財務DDにも影響する

税務調査・過年度処理の論点は、税務DDのなかだけで完結するものではありません。

過年度の売上、費用、資産、負債の処理が税務上問題となる場合には、財務DD上の正常収益力、実態純資産、運転資本、ネットデットにまで影響が及ぶ可能性があります。具体的には、次のような関係です。

税務上の指摘財務DDへの影響
売上計上時期の誤り期間損益、正常収益力、直近業績分析に影響
架空経費・私的費用EBITDA調整、オーナー関連費用、内部管理体制に影響
貸倒損失の否認債権評価、実態純資産、税務上の損金性に影響
棚卸資産評価の誤り粗利率、在庫評価、運転資本に影響
固定資産除却・修繕費の否認設備投資、維持更新投資、減価償却に影響
関連会社取引の否認収益力、税務リスク、法務DD、買収後取引条件に影響
消費税区分誤り未払税金、資金繰り、経理体制に影響
源泉徴収漏れ未払債務、加算税、不納付加算税、労務・外注管理に影響

過年度決算の修正が必要になる場合には、税務上の修正だけでなく、会計上の過年度誤謬、当期損益処理、税効果、実態純資産、そして将来の申告への影響まで整理しておく必要があります。

循環取引などが発覚した場合には、過去の法人税申告の基礎となった所得計算が誤っていたとして、法人税額の修正が必要になることがあります。架空または介入取引によって見せかけの売上高と利益が計上されているケースでは、売上高と仕入高の修正処理も問題になってきます。

税務DDで過年度処理の問題を見つけたときは、財務DDチームと共有し、正常収益力・実態純資産・買収価格への影響を同時に検討していくことが重要です。

税務調査中・不服申立中の案件は、未確定リスクとして扱う

対象会社が税務調査中である場合、または更正処分について不服申立てを行っている場合、その税務リスクはまだ確定していません。

このような状況では、単純に「追加税額見込」を算定するだけでは足りません。確認すべきなのは、次の点です。

  • 調査対象税目・年度
  • 調査の進行状況
  • 指摘を受けている事項
  • 税務当局の主張
  • 対象会社側の主張
  • 顧問税理士・弁護士の見解
  • 追加納税見込額
  • 加算税・延滞税見込
  • 同様の取引が他年度にも存在するか
  • 買収後に争訟対応を引き継ぐ必要があるか
  • 売主が費用・税額を負担するのか
  • クロージング条件にするのか
  • エスクローや特別補償を設定するのか

税務当局と争いになっている事項がある場合、その後の事業年度でも同様の取引が発生していると、まだ税務調査の対象となっていない年度にまで同じ税務リスクが広がっている可能性があります。税務DDでは、争いの段階だけを見るのではなく、同様の取引がその後も継続しているかどうかを一体として確認していく必要があります。

未確定リスクは、価格に反映しにくいことがあります。金額化が難しいからです。

そうした場合には、契約上の手当てが重要になります。税務補償、特別補償、表明保証、誓約事項、クロージング前対応、エスクロー、価格留保、前提条件などを組み合わせて、リスク配分を設計していきます。

追加税負担は、本税だけで見てはいけない

税務DDで追加税負担を試算する場合、本税だけを見ていては不十分です。実際には、次のような負担が生じ得ます。

  • 追加本税
  • 過少申告加算税
  • 無申告加算税
  • 不納付加算税
  • 重加算税
  • 延滞税
  • 地方税への波及
  • 消費税・源泉所得税への波及
  • 税理士・弁護士等の対応費用
  • 社内対応工数
  • 税務調査対応による経営負荷
  • 買収後の経理・税務管理体制整備費用

国税庁は、期限内に正しく申告・納税をしない場合には、法令に基づき過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税、重加算税、延滞税が課される場合があると説明しています。

出典:国税庁|税務手続について

延滞税についても、国税庁は、税金が定められた期限までに納付されない場合には、原則として法定納期限の翌日から納付する日までの日数に応じて、利息に相当する延滞税が自動的に課されると説明しています。

出典:国税庁|No.9205 延滞税について

M&A上は、追加税額の試算を次のように整理します。

区分DD上の整理
確定額修正申告済み、更正済み、納付済みの金額
高確度見込額税務調査中で税務当局の指摘が具体化している金額
レンジ試算解釈差・資料不足により幅を持って見積もる金額
定量困難リスク税務当局の判断、争訟、資料不存在により金額化が難しいもの
買収後管理コスト税務管理体制、証憑保存、申告体制の整備費用

追加税負担を本税だけで評価してしまうと、実際の資金流出を過小評価することになります。とりわけ重加算税や延滞税が絡む場合には、負担が大きく膨らみ得る点に注意が必要です。

税務調査履歴は、契約条件にどう反映するか

税務調査・過年度処理・更正リスクは、最終的に契約条件へとつなげていく必要があります。主な反映方法は、次のとおりです。

表明保証

売主に対して、対象会社の税務申告、納税、税務調査、税務係争、未払税金、源泉徴収、消費税、地方税、税務上の届出などに関する表明保証を求めます。

なかでも、次の事項は明確に確認しておきたいところです。

  • 過年度申告が適法・適正に行われていること
  • 未納税額がないこと
  • 税務調査中・不服申立中の事項が開示されていること
  • 更正・修正申告・重加算税の履歴が開示されていること
  • 売主が認識している税務リスクが開示されていること
  • 帳簿書類・証憑が保存されていること

補償・特別補償

過年度税務リスクが具体的に判明している場合には、一般的な表明保証違反の補償だけでなく、特別補償を検討します。たとえば、次のような事項です。

  • 税務調査中の特定論点
  • 過去に重加算税が課された論点の波及
  • 消費税・源泉所得税の特定リスク
  • 海外関連会社取引・移転価格リスク
  • 過年度未処理の修正申告予定事項
  • 更正期間が残る年度の特定処理

前提条件・クロージング前対応

クロージング前に、修正申告、未納税額の納付、届出、資料整備、税務調査対応の一区切りが必要な場合には、前提条件やクロージング前誓約として整理します。

価格調整・エスクロー

追加税額が合理的に見積もれる場合には、買収価格への反映、価格留保、エスクロー、未払税金としての調整を検討します。

ただし、税務リスクは金額化が難しい場合も多くあります。その場合には、価格だけで処理しようとせず、補償・表明保証・前提条件・買収後管理を組み合わせていく必要があります。

買収後管理に残すべき税務課題

税務調査・過年度処理リスクは、契約で手当てをすれば終わり、というものではありません。買収後に同じ問題を繰り返さないためには、税務管理体制そのものを整備しておく必要があります。主な管理課題は、次のとおりです。

  • 月次決算と税務申告の基礎資料を整合させる
  • 税務調整項目を一覧化する
  • 税務判断メモを残す
  • 役員・関連当事者取引を管理する
  • 経費承認ルールを見直す
  • 消費税区分・インボイス管理を整備する
  • 源泉徴収対象支払の判定フローを整える
  • 固定資産台帳・償却資産申告を整合させる
  • 海外支払・移転価格・源泉税のチェック体制を整える
  • 顧問税理士、親会社経理部門、対象会社経理担当者の役割を明確にする
  • 次回税務調査に備えて過去指摘事項の改善状況を管理する

税務調査履歴は、買収後の税務管理体制を設計するための材料でもあります。過去に指摘された事項は、買収後の初期管理項目として、必ず引き継いでおくべきものです。

税務調査・過年度処理リスクで撤退を検討すべき場面

税務リスクがあるからといって、直ちにM&Aをやめるべきだとは限りません。

それでも、次のような場合には、条件変更だけでなく、撤退も含めて慎重に判断する必要があります。

  • 重加算税の対象となる隠蔽・仮装が反復している
  • 経営者が不適切処理を認識していた可能性がある
  • 税務調査資料や社内メモの開示を拒まれる
  • 更正通知書・修正申告書・納付資料が確認できない
  • 過去の指摘事項が改善されていない
  • 同じ税務処理が現在も続いている
  • 追加税額を合理的に試算できない
  • 税務当局との争いが重大かつ長期化している
  • 海外税務・移転価格・源泉税リスクが複数国にまたがる
  • 税務リスクが会計不正・粉飾・法令違反と結びついている
  • 売主が十分な補償を受け入れない
  • 買収後に管理できる体制を確保できない

重要なのは、税務リスクをゼロにすることではありません。受け入れられるリスクなのか、価格で調整すべきリスクなのか、契約で手当てすべきリスクなのか、クロージング前に解消すべきリスクなのか、買収後の管理で対応できるリスクなのか、それとも進めるべきでないリスクなのか――この切り分けこそが要点です。

税務DDを専門家に相談すべき場面

税務調査・過年度処理・更正リスクについて、次のような状況がある場合には、税務DDの段階で専門家に相談する必要性が高くなります。

  • 過去に税務調査を受けている
  • 修正申告・更正・加算税の履歴がある
  • 重加算税の有無が不明である
  • 税務調査中、または不服申立中である
  • 税務調査資料や社内メモが十分に整理されていない
  • 税務調査の指摘事項が、その後改善されているか分からない
  • 更正期間が残る年度の税務リスクを評価したい
  • 移転価格、海外取引、源泉税、消費税などに波及する可能性がある
  • 追加税負担を価格・契約・補償にどう反映すべきか判断したい
  • 買収後の税務管理体制をどう整えるべきか検討したい

税務調査履歴は、過去の話ではありません。買収後に誰がそのリスクを負担し、どう説明し、どう管理していくのか――まさに現在の経営判断に関わる問題です。

まとめ|税務調査・更正リスクは、過去の問題ではなく買収条件の問題である

税務調査・過年度処理・更正リスクを確認する目的は、過去の申告ミスを探し出すことだけではありません。

過去の税務調査で何を指摘され、なぜ指摘され、どのように是正され、その後改善されたのか。更正可能期間が残る年度に、どのような追加税負担があり得るのか。税務当局と争っている事項は、買収後も続くのか。重加算税や不正を示唆する事項が、内部管理体制や法務リスクに接続しないか。そして、発見されたリスクを、価格、契約、補償、クロージング前対応、買収後管理にどう反映していくのか。

ここまで整理して、はじめて税務DDは買収判断に使えるものになります。

税務調査履歴、修正申告・更正、重加算税、過年度処理、未確定税務リスク、表明保証・補償への反映で迷われる場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所のお問い合わせページからご相談ください。

買収を前に進めるべきか、条件を見直すべきか、追加調査を行うべきか――過年度税務リスクと実行判断の両面から整理します。

振り返り|税務調査・過年度処理・更正リスクの重要論点

確認論点DDで見るべきこと実行判断へのつながり
税務調査履歴実施時期、対象税目、対象年度、調査主体、指摘事項過年度リスクの傾向と表明保証・補償期間を検討する
更正通知書処分内容、処分理由、追加税額、対象年度確定した課税リスクと契約上の補償対象を把握する
修正申告書修正理由、追加本税、加算税、延滞税対象会社が受け入れた処理と将来波及を確認する
重加算税隠蔽・仮装の内容、関与者、反復性税務リスクを超えて不正・内部管理リスクとして扱う
税務調査メモ調査官とのやり取り、未修正指摘事項金額化されていない将来リスクを把握する
指摘後の改善状況その後の申告、社内ルール、証憑保存買収後に同じ問題が続くかを判断する
更正可能期間原則5年、偽りその他不正は7年、一定の特例税務補償期間、価格調整、追加調査範囲に影響する
不服申立て再調査の請求、審査請求、訴訟の段階未確定リスクとして契約・補償・エスクローを検討する
追加税負担本税、加算税、延滞税、地方税波及、専門家費用買収価格、実態純資産、ネットデット、資金繰りに反映する
財務DDへの接続売上、費用、資産、負債、正常収益力、実態純資産税務論点を財務数値と買収判断へ接続する
契約への反映表明保証、補償、特別補償、前提条件売主・買主間のリスク配分を明確にする
クロージング前対応修正申告、納税、資料整備、争点整理買収前に解消すべきリスクを切り分ける
買収後管理税務判断メモ、申告体制、証憑保存、経費承認DDで見つけた弱点を管理体制の整備につなげる
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