貸借対照表から資金繰りを読む|売掛金・在庫・借入金・自己資本に表れる資金調達力

「売上も利益も出ているのに、なぜか資金が残らない」 「借入金は増えていないはずなのに、気がつくと手元資金が薄くなっている」 「金融機関から貸借対照表の中身を尋ねられても、損益の話しかできない」

実務の現場で、こうしたご相談は少なくありません。そして多くの場合、損益計算書ばかりを見てきた会社で起こりやすい悩みです。

損益計算書が示すのは、一定期間の売上、費用、そして利益です。これに対して貸借対照表は、会社の資金がどこから調達され、どこに使われ、いまどの程度残っているのかを映し出します。

資金繰りを読むうえで本当に大切なのは、「今月いくら儲かったか」だけではありません。売掛金として回収待ちになっていないか。在庫として資金が寝ていないか。固定資産に資金が固定化されていないか。短期で返すべき負債が重くなっていないか。借入金の返済負担は、営業キャッシュフローに見合っているか。そして自己資本は、将来の損失や投資リスクを受け止められるだけの厚みがあるか。これらはいずれも、貸借対照表に表れてきます。

貸借対照表は、資産・負債・純資産を通じて、会社の資金構造を一枚で見渡せるようにしてくれる資料です。流動資産、固定資産、流動負債、固定負債、純資産という区分をたどっていけば、会社の資金がどこから来て、どこへ向かっているのかが見えてきます。

資金調達を「いくら借りられるか」という発想だけで捉えると、貸借対照表はとっつきにくい決算書に見えてしまいます。ですが、「何に使い、どう回収し、どう返済するか」という財務設計として捉え直すと、貸借対照表は経営判断に欠かせない一枚の地図に変わります。

目次

貸借対照表は「資金の調達」と「資金の運用」を映す

貸借対照表は、左側に資産、右側に負債と純資産を並べる形で作られています。

左側の資産は、会社が保有している現預金、売掛金、在庫、設備、不動産などです。右側の負債と純資産は、それらの資産を取得するための資金を、どこから調達したかを示しています。

つまり貸借対照表は、次のような関係で成り立っています。

貸借対照表の区分資金繰り上の意味
資産調達した資金を何に使っているか
負債返済義務のある資金をどこから調達したか
純資産返済義務のない自己資金や過去の利益蓄積

この関係は、資金繰りを読むうえでとても重要です。

会社に現預金が少ないとき、その原因は「利益が少ないから」とは限りません。資金が売掛金に姿を変えているのかもしれません。在庫に変わっているのかもしれません。設備や不動産に固定化されているのかもしれませんし、借入返済や仕入債務の支払いに使われたのかもしれません。

貸借対照表では、資産の部が「どのような資産が会社にあるか」を示し、負債の部と純資産の部が「その資産を得るために、どうやって資金を集めたか」を示します。そして、資産の部の合計と、負債・純資産の部の合計は、必ず一致します。

損益計算書は「儲かったか」を見る資料であり、貸借対照表は「資金がどこに姿を変えたか」を見る資料です。資金繰りを理解するには、まずこの違いを押さえておく必要があります。

損益ばかり見ていると、資金不足の原因を見誤る

資金繰りが苦しいとき、経営者はまず売上や利益に目を向けがちです。

もちろん、収益力は重要です。赤字が続けば、資金繰りはいずれ苦しくなっていきます。

ところが、黒字であっても資金不足は起こります。売掛金が増えれば、売上は計上されても現金は増えません。在庫が増えれば、仕入資金が商品や材料の形で固定されます。設備投資を行えば、資金は固定資産へと姿を変えます。借入返済を行えば、費用にはならなくても現金は確実に減っていきます。

掛取引では、売上の計上と入金のタイミングがどうしてもズレます。利益は資金の出入りとは関係なく、収益と費用の差額で計算されるため、利益が計上されていても資金の回収が間に合わず、いわゆる黒字倒産が起こることもあります。

このズレを把握するために、貸借対照表を読みます。

資金繰りが苦しい会社では、貸借対照表のどこかに資金が詰まっています。その詰まりを見つけないまま追加の借入だけを重ねると、資金不足の原因はそのままに、借入残高だけが膨らんでいってしまいます。

現預金だけを見ても、資金繰りの安全性は分からない

貸借対照表を開いて、まず目に入るのは現金預金でしょう。

現預金は、すぐに支払いに使える資金です。月末の支払い、給与、税金、借入返済、仕入代金、設備投資の自己負担など、会社を動かす直接的な原資になります。

とはいえ、現預金残高だけで資金繰りを判断するのは危険です。

残高が多くても、その直後に大きな支払いが控えていれば、安全とはいえません。逆に残高が少なくても、数日後に大口の入金が確実にあるのなら、一時的な不足にすぎないこともあります。さらに、現預金が借入によって一時的に膨らんでいるだけなら、返済後の資金繰りまで見ておく必要があります。

実際、貸借対照表を分析する際には、現金預金の多い少ないだけで判断するのは避けたほうがよく、売上債権や棚卸資産といった中身もあわせて見ていく必要があります。

ですから現預金を見るときは、少なくとも次の問いを確認しておきたいところです。

確認項目見るべき理由
月商に対して現預金は十分か短期的な支払余力を確認するため
借入直後の一時的な残高ではないか実力以上に資金があるように見えるため
納税・賞与・返済・設備支払いが近くないか今後の資金流出を確認するため
売掛金回収予定と支払予定は合っているか入金前に支払いが先行しないかを見るため
金融機関別の預金残高はどうなっているか取引金融機関との関係や返済口座を把握するため

手元資金は厚いほど安心です。ただ、単に現預金の額を眺めるだけでは不十分です。その現預金が「何によって増えたのか」、そして「今後どの支払いで減っていくのか」まで読み取ってこそ、はじめて意味のある判断ができます。

売掛金は「売上」ではなく「まだ回収していない資金」として見る

売掛金は、貸借対照表から資金繰りを読むうえで、もっとも重要な項目のひとつです。

売掛金は、売上は計上したものの、まだ入金されていない債権です。資金繰りの観点でいえば、「現金になる前の資金」ということになります。

ですから、売上が伸びている会社であっても、それ以上のペースで売掛金が増えていれば、資金繰りそのものは改善していない可能性があります。

特に注意したいのは、次のようなケースです。

売掛金の状態資金繰り上のリスク
売上増加に伴い売掛金が急増している増加運転資金が必要になる
回収サイトが長期化している入金より支払いが先行しやすい
特定取引先への売掛金が大きい回収遅延時の影響が大きい
滞留債権が含まれている実際には資金化できない可能性がある
売上計上だけが先行している利益は出ても現金が残らない

売掛金は流動資産に含まれますが、現預金とは性格が異なります。回収できて、はじめて支払いに使える資金になるのです。

金融資産には、現金預金のほか、受取手形・売掛金・貸付金といった金銭債権が含まれます。金銭債権とは、将来の一定期日に他者から現金を受け取ることのできる、契約上の権利のことです。

資金調達を検討するときは、売掛金を単なる資産として見るのではなく、回収予定表と結びつけて確認していきます。

金融機関に対しても、売掛金が増えている理由をきちんと説明できることが大切です。たとえば、こう整理できると説得力が違ってきます。

「売上が伸びているため、一時的に売掛金が増加している」 「主要取引先の支払サイトが60日であり、その間の増加運転資金が必要である」 「滞留債権はこの金額であり、通常の回収分とは分けて管理している」 「回収条件の見直しに着手しており、資金繰りの改善効果はこの程度を見込んでいる」

ここまで整理できれば、単なる資金不足ではなく、運転資本の構造として語ることができます。

在庫は「売れれば資金」だが、売れるまでは資金を固定する

棚卸資産、つまり在庫も、資金繰りに大きく影響します。

在庫は、将来販売されれば資金になります。けれども、販売されるまでの間は、資金が商品・材料・仕掛品・製品といった形で固定されたままです。

会計上、在庫は資産として扱われます。一方、資金繰りの観点では「まだ現金化されていない支出」と捉えたほうが実態に近いといえます。

棚卸資産は、取得した金額で帳簿に記録され、将来の販売によって短期的に資金へと転化するまで、企業が保有し続けるものと整理できます。在庫が実際の品物や数量を指すのに対し、それを金額として会計上とらえたものが棚卸資産だと考えると、両者の関係が分かりやすくなります。

在庫が増える理由はさまざまです。売上増加に備えて仕入れた場合もあれば、新商品の立ち上げで材料を確保した場合もあります。販売不振で商品が残っているのかもしれませんし、需要予測を誤ったのかもしれません。仕掛品や未成工事が増えていることもあれば、滞留在庫や不良在庫を評価減しないまま抱えていることもあります。

同じ在庫増加でも、その意味はまったく異なります。

ですから資金調達の判断では、在庫の金額だけでなく、その中身を見ていきます。

在庫の見方確認すべきこと
正常在庫通常販売に必要な水準か
増加在庫売上増加や受注増加に対応したものか
滞留在庫長期間動いていないものはないか
不良在庫値引き・廃棄・評価減が必要ではないか
仕掛品・未成工事完成・請求・入金までの資金負担はどれくらいか
過剰在庫借入で維持すべきものか、処分すべきものか

在庫が増えた理由を説明できない会社は、金融機関から見ても資金管理に不安が残ります。逆に、在庫の中身、回転期間、販売見込み、処分方針まで説明できる会社は、在庫を資金繰り管理の対象としてきちんと扱えていると受け止められます。

買掛金・未払金は「資金繰りを支える猶予」か「支払い遅延の兆候」か

貸借対照表では、資産だけでなく負債も重要です。

買掛金、未払金、未払費用、未払税金、未払社会保険料などは、すでに発生している支払い義務です。これらはまだ支払いを行っていないため、一時的には手元資金を支える役割を果たします。

ただし、支払時期が来れば、資金は必ず出ていきます。

買掛金や未払金を見るときは、次の区別が大切になります。

状態意味
通常の支払サイト内で発生している正常な営業循環の一部
売上増加に伴って自然に増えている増加運転資金とあわせて見る
支払期日を過ぎている資金繰り悪化のサイン
税金・社会保険料の未払いがある資金繰りだけでなく信用面の問題
仕入先への支払いを延ばしている取引継続リスクが高まる

中小企業が会計を活かして資金繰りを安定させていくには、現預金出納帳、債権管理、債務管理、在庫管理、そして3か月程度の資金繰り表といった日々の管理が欠かせません。

買掛金や未払金は、資金繰り上の「時間差」を示すものです。支払いを遅らせれば一時的に現金は残りますが、それで資金繰りそのものが改善したわけではありません。

むしろ、支払い遅延が始まっている場合には、貸借対照表に資金繰り悪化の兆候が表れていると受け止めるべきだと考えています。

運転資本を見ると、日常営業に必要な資金が見える

貸借対照表から資金繰りを読むうえで欠かせないのが、運転資本です。

一般的には、次のように考えます。

運転資本 = 売上債権 + 棚卸資産 - 仕入債務

ここでいう売上債権は、売掛金や受取手形などです。棚卸資産は、商品・製品・原材料・仕掛品など。仕入債務は、買掛金や支払手形などを指します。

運転資本は、日常の営業を回していくために必要な資金です。

売掛金が増えれば、入金待ちの資金が増えます。在庫が増えれば、販売前の資金負担が重くなります。買掛金が増えれば、支払いを後ろにずらせるため、一時的に資金負担は軽くなります。

銀行融資の実務でも、正常運転資金は、売上債権・棚卸資産・仕入債務の関係から捉えられます。債務償還年数を考える際にも、借入金の全額ではなく、正常運転資金や現預金、処分予定資産を控除して、要償還債務を把握するという考え方があります。

運転資本が増えている場合には、その理由を見極める必要があります。売上増加に伴う正常な増加なのか。回収遅延による売掛金の増加なのか。販売不振による在庫の増加なのか。あるいは、支払い遅延によって買掛金が膨らんでいるのか。それとも、資金繰り悪化を借入で補っているのか。

運転資本は、会社の営業構造そのものを映しています。資金調達を考える前に、まずは自社の正常な運転資本がいくらなのかを把握しておくことが大切です。

流動資産と流動負債で、短期の支払能力を読む

貸借対照表では、資産と負債が「流動」と「固定」に分けられています。

流動資産は、通常1年以内に現金化される資産です。現預金、売掛金、受取手形、棚卸資産などが含まれます。流動負債は、通常1年以内に支払う負債で、買掛金、支払手形、短期借入金、1年以内返済予定の長期借入金、未払金、未払税金などが含まれます。

短期の資金繰りを見るうえでは、この流動資産と流動負債のバランスが重要です。

流動資産が流動負債を大きく上回っていれば、短期的な支払余力がある可能性があります。反対に、流動資産より流動負債のほうが大きい場合には、近い将来の支払いに対して資金が不足しやすくなります。

流動資産は1年以内に現金化できる資産、流動負債は1年以内に返済の必要がある負債です。流動資産より流動負債が大きいと資金繰りに問題が生じやすく、両者の比率である流動比率は、短期的な安全性を見る指標として用いられます。

ただし、流動比率だけで安心するのは禁物です。

流動資産の中に、回収困難な売掛金や滞留在庫が含まれていれば、実際の支払能力はその分だけ低くなります。流動負債の中に、すぐ返済が必要な短期借入金が多ければ、資金繰りは厳しくなります。

そのため、流動資産と流動負債は、金額だけでなく中身まで見ていく必要があります。

項目資金繰り上の注意点
現預金すぐに使える資金か、借入直後の一時残高か
売掛金回収予定どおり入金されるか
棚卸資産正常に販売・回収できるか
短期借入金更新できる前提に依存していないか
1年以内返済予定長期借入金毎月返済額を資金繰り表に反映しているか
未払税金・未払社会保険料支払遅延や滞納になっていないか

短期の支払能力は、貸借対照表と資金繰り表を組み合わせてはじめて判断できます。

固定資産は、資金が長期に固定されている部分として読む

固定資産は、設備、建物、土地、車両、ソフトウェア、投資有価証券、長期貸付金など、長期的に保有する資産です。

固定資産は、会社の事業基盤そのものです。ただし資金繰りの観点でいえば、「すぐには現金化できない資産」でもあります。

設備投資をすれば、資金は固定資産へと姿を変えます。その後、設備が稼働し、売上の増加やコスト削減を通じて、少しずつ資金を回収していくことになります。

ですから固定資産を見るときは、次の観点が重要になります。

固定資産の見方確認すべきこと
事業に必要な資産か本業の収益に貢献しているか
投資額は過大ではないか売上規模・利益規模に見合っているか
借入期間と回収期間は合っているか短期資金で長期投資をしていないか
稼働率は十分か遊休資産になっていないか
処分可能資産はないか資金化や借入返済に使えるか
減損・評価損の可能性はないか実態貸借対照表で資産価値が下がらないか

固定資産は、ビジネスの基盤となる資産です。貸借対照表を分析する際には、有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産といった中身を確認し、本業以外での運用や知的資産の状況まで含めて見ていく必要があります。

設備投資の判断では、「購入できるか」「融資が受けられるか」だけでは不十分です。投資後に営業キャッシュフローが増えるのか。返済期間は投資回収期間に合っているのか。自己資金を使いすぎて手元資金が薄くならないか。補助金が後払いの場合、立替資金は確保できているか。固定資産が増えた結果、貸借対照表の安全性が悪化しないか。

固定資産は、攻めの投資と資金繰りリスクとが、同時に表れる場所だといえます。

短期借入と長期借入のミスマッチを貸借対照表で確認する

借入金は、資金調達において最も重要な負債項目です。

貸借対照表では、短期借入金、1年以内返済予定長期借入金、長期借入金などに分かれます。

ここで大切なのは、借入の期間と資金使途が合っているかどうかです。

運転資金であれば、売掛金の回収や在庫の販売を通じて、資金が循環していきます。設備資金であれば、長期的な投資回収によって返済原資を生み出します。成長投資資金であれば、立ち上がり期間の赤字や追加投資まで含めて設計しておく必要があります。

短期資金で長期投資を行うと、資金は固定化されているのに、返済期限だけが早く来てしまいます。これがいわゆる資金繰りのミスマッチです。

企業金融では、企業活動に必要な資金を、資金使途の性格や、短期・長期の別、リスクの大きさなどに応じて、どこからどのような手段で調達するかが、重要な課題になります。

貸借対照表で借入金を見るときは、次の点を確認します。

借入金の見方確認すべきこと
短期借入金運転資金か、返済・更新前提か
長期借入金設備資金・長期資金として使途と合っているか
1年以内返済予定長期借入金今後1年間の返済負担はいくらか
金融機関別残高メイン行・サブ行との取引バランスはどうか
保証協会付き・プロパーの内訳将来の調達余力に影響しないか
借入金と現預金の差額実質的に返済すべき債務はいくらか
正常運転資金との関係利益で返すべき借入と運転資本借入を分けているか

借入金は、単に残高が多いか少ないかだけでは判断できません。何のために借りたのか。どの資産に変わっているのか。返済原資は利益なのか、売掛金の回収なのか、それとも投資回収なのか。返済期間は資金使途と合っているのか。既存借入と新規借入を合わせた返済負担に、資金繰りは耐えられるのか。

この整理こそが、金融機関への説明の核心になります。

純資産・自己資本は、財務安全性と借入余力を示す

貸借対照表の右下にある純資産は、資産から負債を差し引いた部分です。

純資産は、返済義務のない資金です。資本金、資本剰余金、利益剰余金などから構成されます。

純資産の厚さは、財務の安全性を示します。過去の利益が蓄積されていれば、利益剰余金が増え、自己資本は厚くなります。逆に赤字が続けば、利益剰余金は減り、自己資本は薄くなっていきます。

純資産の部は、資産と負債の差額として算出され、株主資本などに区分されます。株主資本は、資本金、資本剰余金、利益剰余金などから構成され、株主からの払込資本と、事業活動で稼いだ留保利益とで成り立っています。

自己資本が厚い会社には、損失に耐えるだけの余力があります。反対に、自己資本が薄い会社は、少しの赤字や評価損で債務超過に近づいてしまいます。

金融機関も、自己資本を重視します。それは、自己資本が会社の財務的な耐久力を示すものだからです。

純資産は返済の必要がない資金であり、自己資本とも呼ばれます。これに対して負債は、将来的に返済しなければならない他人資本です。自己資本比率が高いほど、経営状況は安全だと判断されます。

ただし、自己資本比率を高めたいからといって、ただ借入を避ければよいというものではありません。

成長投資に必要な借入まで過度に避けてしまえば、成長の機会を逃すこともあります。逆に、自己資本が薄いまま借入を増やせば、返済負担や金融機関の評価に影響が及びます。

大切なのは、投資の必要性、返済原資、自己資金、借入余力、財務安全性、これらのバランスです。

債務超過は、貸借対照表から見る重要な危険信号

純資産がマイナスになる状態を、債務超過といいます。

債務超過とは、負債の総額が資産の総額を上回っている状態です。簡単にいえば、会社の資産をすべて売却しても、負債を返しきれない状態を指します。

債務超過は、金融機関の評価、追加融資、事業承継、投資判断、経営改善のいずれにも、大きく影響します。

債務超過とは、決算書において負債総額が資産総額を上回っている状態をいい、このとき純資産の部の金額はマイナスになります。

ただし、金融機関が見ているのは、表面上の貸借対照表だけではありません。

含み益のある不動産や有価証券があれば、実質的には資産超過と評価されることもあります。逆に、帳簿上は資産超過に見えても、土地の含み損、不良在庫、回収困難な売掛金、役員貸付金などを修正していくと、実質的には債務超過と見られることもあります。

決算書の上では債務超過でなくても、土地や市場価格のない有価証券の含み損などにより、実質的には債務超過とみなされる場合があります。反対に、帳簿上は債務超過でも、含み益によって実質的には資産超過となる場合もあります。

中小企業の場合、特に注意したい項目は次のとおりです。

実態修正が必要になりやすい項目確認すべきこと
回収困難な売掛金実際に回収できるか
滞留在庫・不良在庫販売可能額は帳簿価額を下回らないか
遊休固定資産事業に使っているか、処分価値はあるか
役員貸付金回収可能性があるか
投資有価証券実質価額や時価が下落していないか
土地・建物含み損益はないか
繰延資産・仮払金実質的な資産性があるか

資金調達を検討する際には、表面上の純資産だけでなく、実態貸借対照表まで意識しておく必要があります。

金融機関は貸借対照表から「返済できる会社か」を見る

金融機関は、損益計算書だけで融資判断をしているわけではありません。貸借対照表から、会社の財務安全性、資金使途、返済原資、保全、他行状況、借入余力まで確認しています。

融資審査では、債務者評価、融資案件の事情、資金使途・融資形態・返済原資、保全面の検証、他行状況や資金調達余力などが確認されます。担保の有無よりも先に、そもそも貸せる先なのかという債務者評価から審査が始まる、というのが実務の感覚です。

貸借対照表から金融機関が見やすいポイントを挙げると、次のようになります。

金融機関が見る視点貸借対照表上の確認項目
手元資金は足りているか現預金
売上は資金化されているか売掛金、受取手形
在庫に資金が滞留していないか棚卸資産
短期支払能力はあるか流動資産、流動負債
長期投資と長期資金は合っているか固定資産、長期借入金
借入依存度は高すぎないか借入金、自己資本
財務安全性はあるか純資産、自己資本比率
実態債務超過ではないか実態修正後の資産・負債
返済負担は重すぎないか借入金残高、返済予定

金融機関に貸借対照表を説明する際は、単に数字を提出するだけでは足りません。なぜ売掛金が増えているのか。在庫に販売の見込みはあるのか。固定資産投資はどのように回収するのか。短期借入は運転資金として妥当なのか。長期借入の返済原資は、営業キャッシュフローで足りるのか。自己資本の薄さを、どう改善していくのか。

こうした説明ができると、金融機関との対話は、単なるお願いではなく、財務状況の共有へと変わっていきます。

「資産が多い会社」が安全とは限らない

貸借対照表の上では、資産が多い会社ほど大きく見えます。

しかし、資産が多いことと、資金繰りが安全であることは、決して同じではありません。

資産が多くても、それがすぐに現金化できない固定資産ばかりであれば、短期の支払いには使えません。売掛金が多くても、回収が遅れていれば資金繰りは苦しくなります。在庫が多くても、売れなければ資金にはなりません。役員貸付金や仮払金が多ければ、実態としては資金が社外へ流出している可能性もあります。

銀行交渉の実務では、資産をスリム化することで自己資本比率が改善する場合があります。固定資産だけでなく、売掛金の回収サイトを早めたり、在庫を処分したりすることでも、資産のスリム化と財務改善を進めることができます。

資金繰りの視点では、資産を次のように整理して見ると、分かりやすくなります。

資産の種類資金繰り上の意味
すぐに使える資産現預金など
近いうちに資金化される資産売掛金、正常在庫など
長期的に回収する資産設備、不動産、ソフトウェアなど
資金化が難しい資産滞留在庫、回収困難債権、遊休資産、役員貸付金など

資産が多いかどうかよりも、「その資産が、いつ、どのように資金化されるのか」のほうが、ずっと重要です。

「負債が少ない会社」が成長できるとも限らない

負債が少ない会社は、財務的に安全に見えます。

ただ、負債が少ないことだけが良いとは限りません。

成長投資、設備投資、人材投資、DX投資、新規事業投資などを行おうとすれば、自己資金だけでは足りない場面も出てきます。そうしたとき、適切な借入を使うことで、成長の機会を逃さずに済むこともあります。

問題は、借入そのものではありません。問題なのは、資金使途、返済原資、調達期間、投資回収、自己資本とのバランス、これらが整理されないままの借入です。

企業金融では、企業の活動に原材料の仕入、給与の支払い、工場の建設、設備の導入などの資金が必要となり、その資金使途の性格に応じて、どう調達するかが重要になります。

貸借対照表からは、借入がどの資産に変わっているかを確認できます。短期借入が現預金や売掛金、在庫の循環を支えているのか。長期借入が設備投資に充てられているのか。借入金が赤字補填や支払遅延の穴埋めに回っていないか。あるいは、社長への貸付や遊休資産に流れていないか。

負債は、会社の成長を支える道具にもなります。しかし、返済可能性を伴わない負債は、将来の制約に変わってしまいます。

貸借対照表から資金不足の原因を分類する

資金繰りが苦しいとき、貸借対照表を見ると、その原因を分類しやすくなります。

資金不足の原因貸借対照表に表れる兆候主な対応方向
売掛金の回収遅れ売掛金が増加、滞留債権が増える回収管理、条件見直し、与信管理
在庫過多棚卸資産が増加、回転期間が長い在庫削減、販売計画、評価減
設備投資過大固定資産が増加、現預金が減少、借入が増加投資回収検証、返済条件見直し
短期返済負担短期借入、1年以内返済予定長期借入が多い借換、長短バランス見直し
赤字による資金流出純資産減少、利益剰余金減少収益改善、固定費見直し
支払い先送り買掛金、未払金、未払税金が増加資金繰り改善、支払計画
社外流出役員貸付金、仮払金が増加回収方針、法人個人分離
過剰債務借入金が大きく、自己資本が薄い返済計画、収益改善、金融機関調整

資金不足の原因が違えば、必要な対応も違ってきます。

売掛金の回収遅れなら、追加借入よりも回収管理を優先すべきことがあります。在庫過多なら、借入で在庫を維持するより、在庫処分のほうが必要なこともあります。設備投資過大なら、返済期間や追加投資の見直しが要りますし、過剰債務なら、単なる借換ではなく、経営改善計画や金融機関との調整が必要になることもあります。

資金調達の基本は、資金不足の理由を知り、そのうえで債権債務の改善や資金運用の見直しを行うことにあります。資金は企業継続の絶対的な必要条件であり、原因を確かめないまま資金を調達しても、根本的な解決にはなりません。

貸借対照表を読む目的は、数字を分析して終わることではありません。資金不足の原因を切り分け、打つべき手を決めることにあります。

月次貸借対照表がなければ、資金繰りの変化に気づけない

年次決算の貸借対照表だけでは、資金繰りの変化に気づくのが、どうしても遅れてしまいます。

売掛金が増え始めた。在庫が増え始めた。未払金が増え始めた。短期借入が増え始めた。現預金が減り始めた。自己資本が薄くなっている。こうした変化は、月次で見ていれば早い段階で把握できます。

ところが、年に1回の決算ではじめて気づいたときには、すでに資金繰りが悪化していることも少なくありません。

月次決算は、毎月の営業成績や財政状態を明らかにするために行う決算です。毎月実施することで、経営者は判断材料となる生きた数字を手にでき、次に打つべき手を考えやすくなります。

資金調達に強い会社は、月次の損益だけでなく、月次の貸借対照表も見ています。

月次の貸借対照表を見ていれば、次のような変化を追うことができます。

月次で見るべき変化経営判断への活用
現預金の増減支払余力、借入時期、投資可否を判断
売掛金の増減回収状況、増加運転資金を判断
在庫の増減仕入計画、販売計画、資金滞留を判断
買掛金・未払金の増減支払負担、支払遅延リスクを判断
借入金の増減返済負担、借入余力を判断
純資産の増減財務安全性、利益蓄積を判断

月次の貸借対照表は、いわば資金繰りの早期警戒システムです。

貸借対照表と資金繰り表はセットで見る

貸借対照表は、ある時点の資産・負債・純資産を示します。資金繰り表は、一定期間の入金・支払い・返済・投資支出を示します。

この2つをセットで見ることで、資金繰りの実態が見えてきます。

貸借対照表だけでは、いつ入金されるのか、いつ支払うのかまでは分かりません。一方、資金繰り表だけでは、売掛金や在庫、借入金の蓄積状況までは見えにくいことがあります。

たとえば、貸借対照表で売掛金が大きいときは、資金繰り表で入金予定を確認します。在庫が大きいときは、販売予定と仕入支払予定を確認します。短期借入金が大きいときは、返済や更新の時期を確認します。固定資産が増えているときは、投資支出と借入返済予定を確認します。

資金計画は、目前の資金繰りを把握するためだけでなく、現在の経営環境を俯瞰し、数年先までの見通しを立てるためにも必要です。利益計画だけでなく、資金計画をあわせて作成しておくことが大切です。

貸借対照表は「資金がどこにあるか」を示し、資金繰り表は「資金がいつ動くか」を示します。この2つをつなげてはじめて、資金調達の必要額とタイミングを判断できるようになります。

貸借対照表から見る「借入余力」

経営者が金融機関に相談する際、「あといくら借りられるか」を知りたいと思うのは自然なことです。

ですが、借入余力は、担保や売上規模だけで決まるものではありません。

貸借対照表から見る借入余力には、少なくとも次の観点があります。

観点確認項目
手元資金現預金は十分か
運転資本売掛金・在庫・買掛金のバランスはどうか
既存借入借入残高、返済期間、毎月返済額はどうか
自己資本純資産、自己資本比率はどうか
実態資産回収困難債権、不良在庫、含み損益はないか
返済原資利益と営業キャッシュフローは十分か
資金使途借入で何を賄うのか明確か
返済期間資金使途と返済期間が合っているか

銀行は、債務超過の有無や純資産の金額を、表面上の貸借対照表だけでなく、実態貸借対照表で判定することがあります。また、債務償還年数は、借入金を何年で返せるかを見る重要な指標です。

借入余力を見るときには、「借りられるか」だけでなく、「借りてよいか」を分けて考える必要があります。

金融機関が融資可能と判断した場合でも、会社の資金繰りに無理があれば、その借入はやがて将来の負担になります。逆に、自己資本が厚く、運転資本の構造が安定し、返済原資が明確であれば、必要な成長投資のための借入を、前向きに検討しやすくなります。

資金調達前に貸借対照表で確認すべきこと

資金調達を検討する前に、貸借対照表から次の項目を確認してみてください。

1. 現預金は、今後の支払いに対して十分か

単に残高を見るだけでなく、納税、賞与、借入返済、設備支払い、仕入支払いまで含めて確認します。

2. 売掛金は、予定どおり回収できるか

回収サイト、滞留債権、主要取引先への偏り、入金予定を確認します。

3. 在庫は、販売可能な正常在庫か

滞留在庫、不良在庫、過剰在庫、仕掛品の増加を確認します。

4. 買掛金・未払金は、通常の範囲か

支払遅延、未払税金、未払社会保険料がないかを確認します。

5. 短期借入と長期借入のバランスは適切か

短期資金で長期投資を賄っていないかを確認します。

6. 固定資産は、収益と資金回収に貢献しているか

遊休資産、過大投資、投資回収が未達の設備がないかを確認します。

7. 自己資本は、損失や投資リスクに耐えられる水準か

純資産、利益剰余金、自己資本比率、債務超過の有無を確認します。

8. 実態貸借対照表で見ても安全か

回収不能債権、不良在庫、含み損、役員貸付金などを修正しても資産超過かを確認します。

9. 借入金は、返済原資と対応しているか

運転資金借入、設備資金借入、赤字補填借入、借換資金を分けて確認します。

10. 新規借入後の貸借対照表はどう変わるか

借入後に、現預金、固定資産、借入金、自己資本比率、返済負担がどう変化するかを確認します。

貸借対照表を読める会社は、金融機関への説明が変わる

貸借対照表を読める会社は、金融機関への説明が具体的になります。

「資金が足りません」ではなく、「売上増加により売掛金と在庫が増加し、正常運転資金がこの金額だけ不足しています」と説明できます。

「設備投資をしたいです」ではなく、「この設備投資により固定資産が増加しますが、投資回収期間と返済期間はこのように整合しています」と説明できます。

「借換したいです」ではなく、「短期借入で賄っている長期性資金を長期借入に組み替え、毎月返済額を営業キャッシュフローの範囲に収める必要があります」と説明できます。

「黒字です」ではなく、「利益は出ていますが、売掛金の回収と在庫の増加により資金化が遅れているため、資金繰り表ではこの月に不足が発生します」と説明できます。

こうした説明は、交渉のテクニックではありません。貸借対照表、資金繰り表、月次決算、事業計画をつなげて経営を把握していることの、自然な表れです。

会計を活かして経営課題を可視化し、中小企業会計要領に基づく正しい決算や企業情報を発信していくことは、金融機関や取引先からの信頼向上にもつながっていきます。

金融機関に説明できる貸借対照表は、経営者自身が判断できる貸借対照表でもあるのです。

まとめ:貸借対照表は、資金繰りの「結果」と「予兆」を映す

貸借対照表は、過去の経営判断の結果を示します。

売掛金が増えている。在庫が増えている。固定資産が増えている。借入金が増えている。自己資本が薄くなっている。現預金が減っている。これらはすべて、過去の営業、投資、資金調達、返済、利益蓄積の結果です。

そして同時に、貸借対照表は将来の資金繰りの予兆も映し出します。

売掛金が回収されなければ、資金不足になります。在庫が売れなければ、資金化できません。短期負債が多ければ、近い将来の支払いが重くなります。固定資産投資が過大であれば、返済負担が長く続きます。自己資本が薄ければ、赤字や評価損への耐久力が弱くなります。

資金調達を考えるとき、貸借対照表は「提出する資料」ではありません。会社の資金がどこにあり、どこで詰まり、どこから返済原資が生まれるのかを読むための、大切な資料です。

損益計算書で利益を見る。貸借対照表で資金の姿を見る。資金繰り表で入出金のタイミングを見る。事業計画で将来の回収可能性を見る。この4つをつなげてはじめて、資金調達は経営判断になります。

貸借対照表から資金繰りを整理したい方へ

貸借対照表を見ても、資金繰りとのつながりが分からない。売掛金や在庫が増えている理由を、金融機関にうまく説明できない。借入金の返済負担が重いのか、まだ借入余力があるのか判断できない。設備投資や成長投資を行う前に、貸借対照表への影響を確認しておきたい。資金調達の前に、自社の実態貸借対照表を整理しておきたい。

このようなときは、損益計算書だけでなく、貸借対照表、資金繰り表、借入一覧、月次試算表、投資計画をつなげて確認していく必要があります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、資金調達を単なる融資申込としてではなく、資金使途、運転資本、借入金、自己資本、返済原資、そして金融機関への説明可能性までを一体で整理する、財務設計として支援しています。

「貸借対照表のどこに資金繰りの問題が表れているのか」を把握したい方は、お問い合わせページより、直近の決算書、月次試算表、資金繰り表、借入一覧をご準備のうえ、ご相談ください。

この記事の振り返り

論点重要ポイント
貸借対照表の役割資金をどこから調達し、何に使っているかを示す
現預金すぐに支払いに使える資金だが、今後の支払予定とセットで見る
売掛金売上ではなく、まだ回収していない資金として見る
在庫売れれば資金になるが、売れるまでは資金を固定する
買掛金・未払金支払い猶予か、資金繰り悪化の兆候かを区別する
運転資本売上債権、棚卸資産、仕入債務から日常営業に必要な資金を把握する
流動資産・流動負債短期的な支払能力を判断する
固定資産資金が長期に固定されている部分として、投資回収と返済期間を確認する
借入金資金使途、返済原資、短期・長期のバランスを見る
自己資本財務安全性、損失耐久力、借入余力に影響する
債務超過負債が資産を上回る状態であり、金融機関評価に大きく影響する
実態貸借対照表回収困難債権、不良在庫、含み損益などを修正して実態を確認する
金融機関説明貸借対照表、資金繰り表、事業計画をつなげて説明することが重要
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