役員退職給与が否認される場面|実質退職・分掌変更・功績倍率・支給決議への調査対応

役員退職給与は、法人税調査でとりわけ争点になりやすい支出です。

理由は金額が高額になりやすいことだけではありません。役員退職給与は、会社の意思決定権限を握る役員本人への支払いです。支給するかどうか、いくら支給するか、いつ支給するか。その判断の多くが、会社の内部でなされます。

こうした性質があるため、税務調査では「退職金規程どおりに計算しました」「株主総会で決議しました」「銀行振込で支払いました」という説明だけでは十分とはいえません。

調査官が確認するのは、おおむね次の三つに集約されます。

ひとつは、本当に退職したのか、あるいは実質的に退職したと同じといえる事情があるのか。

ふたつめは、支給額が、その役員の功績、在任期間、退職の事情、同業類似法人の水準などに照らして、不相当に高額ではないか。

三つめは、支給決議、金額の確定、会計処理、実際の支払い、源泉徴収が、互いに整合しているか。

つまり役員退職給与の調査対応では、「退職金として処理した」という会計処理の形式そのものよりも、退職の実態、金額算定の合理性、意思決定の記録、支給時期の整合性を、きちんと説明できるかどうかが問われます。

本稿では、法人税調査で役員退職給与が否認される典型的な場面を、実質退職、分掌変更、支給決議、金額算定、損金算入時期の順に整理していきます。退職所得の源泉徴収計算そのものや、相続税対策としての役員退職金設計は本稿の中心ではありませんので、必要な接点に絞って触れることにします。

目次

役員退職給与は「退職金だから自由に損金」ではない

法人が退職した役員に退職金を支給した場合、その役員の業務従事期間、退職の事情、同業種・同規模の法人における役員退職金の支給状況などからみて相当と認められる金額は、原則として、退職金の額が確定した事業年度に損金算入されます。逆に、不相当に高額な部分は損金算入できません。
出典:国税庁|No.5203 使用人が役員へ昇格したとき又は役員が分掌変更したときの退職金

役員給与といえば、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与といった損金算入ルールがよく知られています。ただ、退職給与については、それらと同じ枠組みで「毎月同額か」「事前届出があるか」を見るわけではありません。中心になるのは、退職給与としての実質と、金額の相当性です。

なお、いわゆる功績倍率法に基づいて支給する退職給与は、法人税法34条5項の業績連動給与には該当しない旨が、法人税基本通達で示されています。
出典:国税庁|法人税基本通達 第7款 退職給与

ここで押さえておきたいのは、役員退職給与については「支給した事実」だけでなく、「退職した事実」と「金額の相当性」を、会社側が説明できなければならないという点です。

税務調査で確認されるのは、退職金規程、議事録、登記、給与台帳、振込記録、源泉徴収資料にとどまりません。退職後にその役員が実際にどう関わっていたか、というところまで踏み込まれることがあります。代表権を持ち続けている、経営会議に出席している、主要取引先との交渉を続けている、銀行対応をしている、稟議を承認している。こうした事情があれば、「本当に退職したのか」が問われることになります。

否認される場面は大きく三つに分かれる

役員退職給与が税務調査で否認される場面は、大きく三つに分けて考えると整理しやすくなります。

第一に、退職の事実がない、あるいは分掌変更後も実質的に経営上主要な地位を占めているために、退職給与ではなく役員給与・賞与等と評価される場面です。

第二に、退職の事実はあるものの、支給額のうち不相当に高額な部分があるとして、一部が損金不算入とされる場面です。

第三に、退職給与としての性質や金額には一定の合理性があっても、株主総会決議、金額確定、損金算入時期、未払計上、実際の支払い、源泉徴収といった処理が整合せず、損金算入時期や処理内容が争点になる場面です。

この三つを混同してしまうと、調査対応を誤ります。

たとえば、分掌変更後も実質的に経営を続けているのであれば、功績倍率が妥当かどうか以前に、「そもそも退職給与といえるのか」が問題になります。反対に、実際に退任しているのであれば、焦点は「金額が相当か」「どの事業年度で損金算入できるか」へと移っていきます。

実質退職がない場合|退職金ではなく役員給与・賞与と見られる

役員退職給与で最も根本的な論点は、退職の事実です。

役員が登記上も退任し、会社の経営から離れ、その後は業務執行や意思決定に関与していない。そうした場合であれば、退職の事実は比較的説明しやすいでしょう。

ところが中小企業・同族会社では、創業者、前代表者、親族役員が、「会長」「相談役」「顧問」といった肩書で会社に残るケースが少なくありません。

このとき、肩書だけで結論は決まりません。税務調査で見られるのは、退職後に実際に何をしていたかです。

  • 代表権や取締役としての地位が残っていないか
  • 取引先、金融機関、従業員から、実質的な経営者として扱われていないか
  • 稟議、契約、資金繰り、借入、採用、人事評価に関与していないか
  • 役員会、経営会議、営業会議に継続して出席していないか
  • 役員報酬、顧問料、相談役報酬が、退職前と大きく変わらない水準ではないか
  • 会社のメール、社用車、役員室、秘書、決裁権限が引き続き使えていないか
  • 退職後も主要案件の最終判断を行っていないか

こうした事情があれば、「退職金」という名目で支給していても、実質的には退職していないと見られ、退職給与としての性質が否定される可能性があります。

とりわけ注意したいのは、創業者が代表取締役を退任して会長になっただけ、役員報酬を多少下げただけ、登記は変更したものの実際には経営判断を続けている、といった場面です。

分掌変更による退職給与は「実質的に退職したと同様」といえるかが核心

完全に退任していない場合でも、役員の分掌変更によって地位や職務内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情があると認められるときは、退職給与として取り扱える余地があります。

法人税基本通達は、分掌変更等により役員としての地位または職務内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められる例として、常勤役員が非常勤役員になったこと、取締役が監査役になったこと、分掌変更後の給与がおおむね50%以上減少したことなどを挙げています。ただし、代表権を有する場合や、実質的に経営上主要な地位を占めている場合などは、ここから除かれます。
出典:国税庁|法人税基本通達 第7款 退職給与

この通達は、実務上とても重要です。

ただ、誤解してはならないのは、「給与を50%以上下げれば必ず退職給与になる」という意味ではない、という点です。50%以上の減額は、あくまで実質退職を判断するうえでの重要な要素のひとつにすぎません。分掌変更後も会社の経営上主要な地位を占めていれば、給与を下げても退職給与として認められない可能性があります。

たとえば、次のようなケースは慎重な検討が必要です。

  • 代表取締役から取締役会長になったが、銀行交渉や重要契約は続けている
  • 常勤から非常勤になったとされているが、実際には毎日出社している
  • 取締役から監査役になったが、営業や資金繰りを実質的に指揮している
  • 役員報酬は半減したが、顧問料、車両、社宅、経費負担で実質的な待遇が維持されている
  • 後継者が形式上代表者になっただけで、実際の意思決定は前代表者が続けている
  • 退職慰労金の支給後も、対外的には「実質オーナー」「創業会長」として会社を代表している

分掌変更による役員退職給与では、議事録の記載だけでは足りません。退職後の職務内容、権限、出勤状況、報酬水準、対外的な表示、社内決裁の実態を整理し、「何が変わったのか」を説明できる資料を備えておく必要があります。

未払計上だけでは危険な場合がある

実際に退任した役員への退職給与について、法人税基本通達は、損金算入時期を、株主総会の決議等によって金額が具体的に確定した日の属する事業年度としています。あわせて、法人が支払った日の属する事業年度に支払額を損金経理した場合も認める、としています。
出典:国税庁|法人税基本通達 第7款 退職給与

一方、分掌変更等の場合の退職給与については、原則として、未払金等に計上した額は「退職給与として支給した給与」に含まれない旨が示されています。
出典:国税庁|法人税基本通達 第7款 退職給与

この違いは、実務上きわめて重要です。

現実に役員を退任している場合には、株主総会決議等で金額が具体的に確定した事業年度が、損金算入時期になります。これに対して、分掌変更にともなう退職給与では、未払計上だけでは退職給与として取り扱えない可能性があるのです。

たとえば、決算直前に多額の役員退職慰労金を未払計上し、実際の支払いは翌期以降にまわす。こうした処理は、税務調査で確認されやすい論点です。とくに分掌変更事案では、「本当に退職給与として支給したのか」「資金移動をともなわない利益調整ではないか」「退職後も役員として実質的に残っているのではないか」と見られる可能性があります。

したがって、分掌変更にともなう退職慰労金を検討する際には、金額算定だけでなく、実際の支給時期、資金手当、支払方法、源泉徴収、支払後の職務内容まで含めて設計しておく必要があります。

支給決議は「いつ・誰に・いくら・なぜ」を残す

役員退職給与では、支給決議の整備が欠かせません。

株式会社では、取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益について、定款に定めがないときは、株主総会の決議によって定めるものとされています。退職慰労金も、役員の職務執行の対価として支給される性質を持ちますので、会社法上の報酬等の決定手続を確認しておく必要があります。
出典:e-Gov法令検索|会社法

税務調査では、議事録の有無だけでなく、その内容まで確認されます。

  • 退職した役員の氏名
  • 退職日または分掌変更日
  • 退職慰労金の支給額
  • 支給日または支給予定日
  • 算定方法
  • 退職金規程との関係
  • 取締役会または代表取締役への一任の範囲
  • 実際の支給額との一致
  • 議事録作成日と決議日の整合性
  • 登記変更日、給与停止日、源泉徴収日との整合性

退職慰労金について、株主総会で総額または具体的な算定方法を決議し、具体額の決定は取締役会に一任する、という実務もあります。ただ、その場合でも、取締役会または代表取締役が、どのような資料に基づいて個別金額を決めたのかを説明できなければなりません。

「株主総会で一任されています」だけでは、税務上の金額相当性の説明にはなりません。会社法上の決議手続と、法人税上の損金算入判断は、別の問題だからです。

金額算定では功績倍率法だけに頼りすぎない

役員退職給与の金額算定では、実務上、功績倍率法が広く使われます。

一般的には、次のような算式で検討します。

退職時の役員報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率

功績倍率は、役位、会社への貢献、同業類似法人の支給状況などを踏まえて設定します。代表取締役、専務、常務、取締役、監査役といった役位ごとに倍率を変える退職慰労金規程を設けている会社もあります。

ただし、功績倍率法で計算したからといって、その金額が当然に損金算入されるわけではありません。

法人税法施行令70条は、退職した役員への退職給与の額が、その役員の業務従事期間、退職の事情、同種の事業を営み事業規模が類似する法人の支給状況等に照らして相当と認められる金額を超える場合、その超える部分を過大な役員給与として扱う旨を定めています。
出典:e-Gov法令検索|法人税法施行令

つまり金額算定では、少なくとも次の要素を整理しておく必要があります。

  • 役員としての在任期間
  • 使用人期間を含めるかどうか
  • 代表者、取締役、監査役などの役位
  • 実際の職務内容と責任
  • 会社への貢献内容
  • 退職の理由
  • 退職直前の役員報酬月額
  • 同業類似法人の支給水準
  • 会社の規模、収益、財政状態
  • 退職金規程の有無と運用実績
  • 過去の他役員への支給状況

とくに注意したいのは、退職直前に役員報酬を大きく増額し、その月額を基礎に退職金を計算しているケースです。功績倍率法は「退職時の役員報酬月額」を使うことが多いため、直前の報酬月額が実態に比べて高すぎると、退職金全体まで過大に見えてしまいます。

反対に、長年にわたり無報酬または低額報酬で会社に貢献してきた役員の場合、単純に退職時の月額だけで計算すると、実態を反映しないこともあります。そうしたときは、過去の職務内容、会社への貢献、適正な報酬水準、同業類似法人のデータなどを踏まえた説明が必要になります。

「退職金規程どおり」は安全を保証しない

役員退職慰労金規程があること自体は重要です。規程がないまま、退職のたびに高額な金額を都度決めているような場合は、利益調整や恣意性を疑われやすくなります。

とはいえ、規程があれば必ず安全、というわけでもありません。

税務調査では、次のような点が確認されます。

  • 規程がいつ作成されたか
  • 退職直前に都合よく改定されていないか
  • 規程が過去から継続的に運用されているか
  • 他の役員にも同じ基準を適用しているか
  • 功績倍率が合理的な範囲にあるか
  • 役位や在任期間の判定に無理がないか
  • 実際の職務内容と規程上の役位が一致しているか
  • 株主総会または取締役会で、規程に基づく算定資料を確認しているか

規程は、あくまで説明の出発点です。税務上の結論は、規程の形式だけでなく、支給額が実態に照らして相当かどうかで判断されます。

そのため、役員退職給与を支給する際には、規程、算定表、功績内容メモ、同業比較資料、過去の支給実績、退職後の職務変更資料を、一体で保存しておくことが望ましいといえます。

否認されやすい金額算定のパターン

役員退職給与で否認リスクが高まるのは、次のような場面です。

  • 退職直前に役員報酬を大幅に増額している
  • 役員在任期間が短いのに、高額な退職金を支給している
  • 退職理由が業績不振や不祥事対応であるのに、高額支給している
  • 会社の規模や収益に比べて退職金が過大である
  • 同業類似法人の支給水準と比べて大きく乖離している
  • 退職金規程が退職直前に作られている
  • 過去の役員には支給していないのに、特定の役員だけ高額支給している
  • 生命保険の解約返戻金や保険金の額に合わせて退職金を決めている
  • 代表者一族への利益移転として見られやすい支給になっている
  • 分掌変更後も実質的に経営に関与している

生命保険を財源とする退職金も、注意が必要です。

法人が保険金や解約返戻金を受け取り、それを財源として役員退職給与を支給すること自体が、ただちに否認されるわけではありません。しかし、保険金額に合わせて退職金額を決めたように見える場合には、退職金としての相当額の説明が弱くなってしまいます。

退職金額は、保険契約の返戻金額ではなく、役員の職務、功績、在任期間、退職事情、会社規模、同業水準から説明されるべきものです。

損金算入時期は「決議日」「確定日」「支払日」を分けて確認する

役員退職給与では、損金算入時期も調査で確認されます。

実際に退任した役員への退職給与については、株主総会決議等により金額が具体的に確定した日の属する事業年度が、原則的な損金算入時期です。ただし、支払日の属する事業年度に支払額を損金経理した場合も認められます。
出典:国税庁|法人税基本通達 第7款 退職給与

ここで問題になりやすいのは、次のようなケースです。

  • 退職日は当期末前だが、株主総会決議は翌期である
  • 取締役会で概算額だけを決め、具体額の確定が後日になっている
  • 決算整理で未払計上したが、株主総会決議がまだない
  • 議事録の日付と、実際の意思決定日が一致していない
  • 支払日が複数の事業年度に分かれている
  • 分掌変更事案で、未払計上だけをしている
  • 源泉徴収が支払時期と整合していない

税務調査では、退職日、決議日、金額確定日、会計処理日、支払日、源泉徴収日が、時系列で確認されます。

「当期に退職したから当期の損金」という単純な処理ではなく、金額がいつ具体的に確定したのか、実際にいつ支払ったのか、どの時点で債務が確定したのかを、説明できるようにしておく必要があります。

源泉所得税への波及も見落とさない

役員退職給与が問題になった場合、話は法人税だけで終わらないことがあります。

役員または使用人に退職手当等を支払うときは、所得税および復興特別所得税を源泉徴収し、原則として翌月10日までに納付しなければなりません。ここでいう退職手当等には、本来の退職手当だけでなく、退職したことに基因して支払われる功労金なども含まれます。
出典:国税庁|No.2732 退職手当等に対する源泉徴収

退職所得の受給に関する申告書の提出がない場合には、退職手当等の金額について20.42%の税率で源泉徴収する必要があります。
出典:国税庁|A2-29 退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)

さらに、役員等勤続年数が5年以下の者に対する特定役員退職手当等については、退職所得金額の計算上、原則的な2分の1課税の適用がありません。
出典:国税庁|No.2737 役員等の勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等(特定役員退職手当等)

本稿では源泉徴収税額の計算そのものまでは扱いませんが、税務調査では、法人税上の損金算入とあわせて、源泉所得税の徴収・納付、退職所得申告書、退職所得の源泉徴収票・特別徴収票も確認される可能性があります。

仮に税務上、退職給与ではなく役員賞与や通常給与と見られた場合には、受給者側の所得区分や源泉徴収の処理にも影響が及びます。法人税の否認額だけを見て判断してしまうと、源泉所得税、不納付加算税、延滞税まで含めた全体のリスクを見落とすことになりかねません。

重加算税リスクは「否認されたか」ではなく「隠蔽・仮装があるか」で見る

役員退職給与が否認されたとしても、それだけでただちに重加算税になるわけではありません。

重加算税で問われるのは、単なる見解の相違や金額相当性の判断誤りではなく、隠蔽または仮装があったかどうかです。

ただし、役員退職給与では、次のような事情があると、重加算税のリスクが高まります。

  • 実際には退職していないのに、退職したように議事録を作成している
  • 退職日や決議日を事後的に改ざんしている
  • 分掌変更後も経営に関与している事実を隠している
  • 退職金規程を、過去から存在していたように装っている
  • 実際の支給日と異なる支払記録を作っている
  • 調査時に、職務内容や出勤状況について虚偽の説明をしている
  • 役員個人への利益移転を、退職給与に偽装している

不利な事実がある場合でも、まず行うべきは、事実関係を正確に整理することです。

退職給与としての説明が難しいときは、修正申告の要否を検討することになります。ただし、過大部分の否認、退職給与性そのものの否認、源泉所得税への波及、加算税の種類、重加算税リスクは、それぞれ別の論点です。感覚的に「危ない」「大丈夫」と判断せず、証拠関係を分けて検討する必要があります。

調査前に整理すべき資料

役員退職給与について、調査前に整理しておきたい資料は次のとおりです。

  • 定款
  • 登記簿謄本
  • 株主名簿
  • 株主総会議事録
  • 取締役会議事録
  • 役員退職慰労金規程
  • 役員報酬規程
  • 退職慰労金の算定表
  • 功績倍率の根拠資料
  • 同業類似法人の比較資料
  • 退職日、分掌変更日、登記変更日の資料
  • 退任届、辞任届、委任契約書、顧問契約書
  • 退職後の職務内容を示す資料
  • 経営会議、稟議、決裁権限の変更資料
  • 給与台帳、役員報酬明細
  • 退職金の支払記録
  • 源泉所得税の計算・納付資料
  • 退職所得の受給に関する申告書
  • 退職所得の源泉徴収票・特別徴収票
  • 生命保険を財源とした場合の保険契約、解約返戻金、保険金入金資料
  • 未払計上している場合の金額確定日、支払予定、資金手当資料

資料は、ただ集めるだけでは足りません。

時系列に並べたうえで、退職または分掌変更、支給決議、金額確定、支払、源泉徴収、退職後の職務変更が、ひとつの流れとして説明できるかどうかを確認しておく必要があります。

調査官から指摘されたときの整理手順

役員退職給与を調査官から指摘されたら、まず争点を切り分けます。

最初に確認するのは、退職の事実です。登記上退任しているか、代表権はなくなっているか、取締役として残っていないか、顧問・相談役としての関与はどの程度か。ここを整理します。

次に、分掌変更事案であれば、職務内容がどのように激変したのかを整理します。給与が下がったかどうかだけでなく、経営上主要な地位を失ったか、決裁権限が変わったか、対外的な役割が変わったかを確認します。

そのうえで、支給額の相当性を検討します。功績倍率法だけでなく、在任期間、退職時報酬、役位、貢献内容、同業類似法人、会社規模、過去の支給実績を資料化していきます。

最後に、損金算入時期と源泉所得税を確認します。金額確定日、支払日、未払処理、源泉徴収日、納付日を、時系列で整理します。

この整理をしないまま、調査官の指摘にその場で「退職しています」「規程どおりです」「税理士に任せています」と答えてしまうと、後から資料と発言が食い違うことがあります。

回答に時間が必要であれば、資料を確認したうえで説明する、という姿勢が大切です。とくに退職後の実際の職務内容については、役員本人、後継者、経理担当者の認識がずれていることがあります。事前に事実確認をしておくべきところです。

調査後の再発防止は、役員報酬・退職金設計の仕組み化から始まる

役員退職給与の否認リスクは、支給時だけの問題ではありません。

退職金を支給する数年前から、役員報酬の金額、役位、職務内容、後継者への権限移譲、退職慰労金規程、生命保険、株式承継、金融機関対応が、少しずつ積み重なっています。

調査後に見直しておきたいポイントは、次のとおりです。

  • 役員退職慰労金規程を整備し、恣意的な運用を避ける
  • 役員ごとの職務内容、権限、報酬水準を定期的に確認する
  • 分掌変更時には、肩書だけでなく、実際の権限移譲を行う
  • 代表権、登記、決裁権限、銀行対応、社内稟議を、実態に合わせて変更する
  • 退職金算定時には、功績倍率の根拠を資料化する
  • 退職直前の役員報酬変更は、慎重に検討する
  • 未払計上に頼らず、支払時期と資金手当を事前に設計する
  • 源泉所得税、退職所得申告書、法定調書まで、一体で確認する
  • 事業承継、M&A、相続対策と役員退職金を、切り離さずに検討する

役員退職給与は、会社にとって、長年の功績に報いる大切な支出です。だからこそ、税務上は、金額が大きいぶん、形式だけではなく、後から説明できる資料と実態が求められます。

役員退職給与に不安がある場合は、支給前または調査前に整理を

役員退職給与は、退職時に一度だけ発生する支出のように見えます。しかし実際には、役員報酬、退職金規程、分掌変更、事業承継、生命保険、源泉所得税、株主総会決議、会社法上の手続が重なり合う、難度の高い論点です。

とくに、次のような場合には、支給前または税務調査前に、専門家へ相談しておくことをお勧めします。

  • 創業者や前代表者が、退職後も会社に関与する
  • 代表取締役から会長、相談役、顧問へ移行する
  • 分掌変更にともない退職慰労金を支給する
  • 退職慰労金を未払計上する予定がある
  • 退職金額が高額で、功績倍率の妥当性に不安がある
  • 退職直前に役員報酬を変更している
  • 生命保険の解約返戻金や保険金を、退職金財源にする
  • 税務調査で役員退職給与を指摘されている
  • 源泉所得税や退職所得申告書の処理に不安がある

犬飼公認会計士・税理士事務所では、役員退職給与の税務調査対応について、退職の実態、分掌変更後の職務内容、支給決議、金額算定、損金算入時期、源泉所得税への波及を、一体で整理します。

「退職金規程どおりだから大丈夫」と考える前に、税務調査でどの資料を見られ、どの点を説明する必要があるのかを、あらかじめ確認しておくことが大切です。役員退職給与の支給前確認、調査前の整理、調査官からの指摘対応にご不安があれば、お問い合わせページからご相談ください。

振り返り|役員退職給与の調査対応で押さえるべきポイント

確認項目税務調査で見られること実務上の対応
退職の事実登記上だけでなく、実際に経営から離れているか退任日、登記、職務内容、決裁権限、出勤状況を整理する
分掌変更役員としての地位や職務内容が激変しているか代表権、常勤・非常勤、監査役就任、報酬減額、権限移譲を確認する
給与50%減50%以上下げれば必ず認められるわけではない経営上主要な地位を失っているかを資料で示す
支給決議株主総会・取締役会等で適切に決議されているか議事録に対象者、金額、支給時期、算定方法を残す
金額算定不相当に高額な部分がないか在任期間、役位、功績、同業類似法人、功績倍率を整理する
功績倍率法算式だけでなく、倍率の合理性があるか退職時報酬、勤続年数、役位、比較資料を保存する
退職直前報酬直前増額により退職金が過大になっていないか報酬改定の理由と時期を確認する
未払計上損金算入時期に問題がないか金額確定日、支払日、分掌変更事案かどうかを分ける
源泉所得税退職所得として適切に源泉徴収しているか退職所得申告書、源泉徴収票、納付資料を確認する
特定役員退職手当等役員等勤続年数5年以下に該当しないか役員勤続期間と退職所得計算への影響を確認する
重加算税リスク虚偽議事録、日付改ざん、実態隠しがないか否認理由と隠蔽・仮装の有無を分けて検討する
再発防止次回以降も説明できる仕組みがあるか退職金規程、役員報酬管理、権限移譲、支給前レビューを整備する
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