給与・賞与・役員報酬の源泉徴収は、毎月の給与計算の一部として淡々と処理されることが多い実務です。そのため、税務調査の場面でも「給与計算ソフトで処理しているのだから問題ないはず」と考えられがちです。
しかし、源泉所得税の調査で確認されるのは、税額表どおりに金額が計算されているかどうかだけではありません。
たとえば、それが誰に対する支払いなのか。給与なのか、賞与なのか、それとも役員報酬なのか。扶養控除等申告書の提出状況と、適用している税額表の欄は整合しているか。支払時期、未払計上、年末調整、源泉徴収票、納付書が一本の線でつながっているか。役員報酬については、法人税上の処理と源泉所得税上の処理を混同していないか。
こうした点が、総勘定元帳や給与台帳、役員報酬の決議、賞与明細、扶養控除等申告書、納付書、源泉徴収票、年末調整資料といった資料と突き合わせて確認されていきます。
源泉所得税は、本来は所得を受け取る役員や従業員側の税金です。一方で、それを徴収して納付する義務は、支払う側にあります。
つまり給与・賞与・役員報酬の源泉徴収は、会社や個人事業主にとって「他人の税金を預かり、期限までに国へ納める」という支払管理の仕組みでもあるのです。
源泉徴収は「給与を支払う者」の責任として確認される
会社や個人が人を雇って給与を支払う場合などには、その支払いの都度、所得税および復興特別所得税を差し引き、原則として翌月10日までに国へ納めなければなりません。このように、所得税等を差し引いて国に納める義務を負う者を、源泉徴収義務者といいます。
出典:国税庁|No.2502 源泉徴収義務者とは
ここで押さえておきたいのは、給与を受け取る従業員や役員が、最終的に年末調整や確定申告で精算するかどうかとは別に、支払う側には支払時点で源泉徴収する責任がある、という点です。
税務調査では、おおむね次のような観点から確認が進みます。
| 確認される視点 | 調査で見られる内容 |
|---|---|
| 支払者の義務 | 源泉徴収義務者に該当するか |
| 支払の性質 | 給与、賞与、役員報酬、退職金、外注費等の区分 |
| 税額表の適用 | 月額表・日額表・賞与表、甲欄・乙欄・丙欄の適用 |
| 申告書の有無 | 扶養控除等申告書の提出・保存状況 |
| 納付状況 | 翌月10日納付、納期の特例、納付書区分 |
| 年末調整 | 年税額との精算、源泉徴収票との整合性 |
| 法人税との関係 | 役員給与、認定賞与、損金算入要件との切り分け |
給与計算ソフトを使っていても、前提となる登録情報や支払区分が誤っていれば、当然ながら計算結果も誤ります。調査では、計算結果そのものだけでなく、登録情報、申告書、支給の実態、会計処理の前提までさかのぼって確認される。そう考えておくのが安全です。
給与の源泉徴収は、月額表・日額表・甲欄・乙欄の適用が出発点
給与等を支払うときに源泉徴収する所得税および復興特別所得税の額は、「給与所得の源泉徴収税額表」または「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を使って求めます。
月ごとに支払う給与などには月額表を、日ごと・週ごと・日割りなどの給与には日額表を使います。そのうえで、扶養控除等申告書の提出がある場合は甲欄を、提出がない場合は乙欄を用い、日雇賃金については一定の場合に丙欄を使います。
出典:国税庁|No.2511 税額表の種類と使い方
税務調査で問題になりやすいのは、次のような誤りです。
| 誤りやすい処理 | 問題になる理由 |
|---|---|
| 扶養控除等申告書がないのに甲欄で計算している | 甲欄適用の前提資料がない |
| 複数勤務者に主たる給与と従たる給与の整理がない | 甲欄・乙欄の適用がずれる |
| アルバイトを一律に丙欄で処理している | 丙欄は日雇賃金など一定の場合に限定される |
| 給与支給形態が変わったのに税額表の使い方を見直していない | 月額表・日額表の選択が実態とずれる |
| 扶養親族等の数を古い情報のまま使っている | 源泉徴収税額が過少または過大になる |
パートやアルバイトについても、一般の社員と同じように、扶養控除等申告書の提出の有無や給与の支給方法に応じて、月額表・日額表の甲欄・乙欄を使うのが原則です。日額表の丙欄を使えるのは、雇用契約期間が2か月以内であるなど、一定の要件に該当する場合に限られます。
出典:国税庁|No.2514 パートやアルバイトの源泉徴収
「短時間勤務だから乙欄でよい」「アルバイトだから丙欄でよい」という割り切りでは足りません。調査では、雇用契約、勤務の実態、給与の支給方法、扶養控除等申告書の有無を、合わせて確認されることになります。
扶養控除等申告書は、甲欄適用の根拠資料である
給与所得者の扶養控除等申告書は、給与所得者が扶養控除などの諸控除を受けるために行う手続です。提出の時期は、その年の最初に給与の支払を受ける日の前日まで。中途就職の場合は、就職後最初に給与の支払を受ける日の前日まで、とされています。記載内容に異動があったときは、異動後最初に給与の支払を受ける日の前日までに、異動内容を記載した申告書を提出します。
出典:国税庁|A2-1 給与所得者の扶養控除等の(異動)申告
実務で意識しておきたいのは、この申告書が単なる年末調整書類ではないということです。税務調査では、毎月の源泉徴収税額を甲欄で計算するための根拠資料として確認されます。
特に問題になりやすいのは、次のような状況です。
| 状況 | 調査上のリスク |
|---|---|
| 申告書を提出していない従業員に甲欄を適用している | 源泉徴収税額の不足 |
| 退職者・中途入社者の申告書管理が不十分 | 年末調整や源泉徴収票との不整合 |
| 扶養親族の異動を反映していない | 月次源泉税・年末調整の誤り |
| 電子提出データの保存体制が曖昧 | 調査時に根拠を示せない |
| 外国人従業員・国外親族について確認書類が不足 | 控除適用の前提が崩れる可能性 |
給与所得者の扶養控除等申告書等は、税務署長から提出を求められるまでの間、源泉徴収義務者が保存します。保存期間は、その申告書等の提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年間です。
出典:国税庁|No.2503 給与所得者の扶養控除等申告書等の保存期間
源泉所得税の調査では、「申告書はもらっていたはずです」という説明だけでは通りません。いつ提出を受けたのか、どの年分の申告書か、異動があったときに更新されているか、そして現に保存されているか。ここまでが確認の対象になります。
税額表は「その年分」のものを使う
給与・賞与の源泉徴収では、該当する年分の源泉徴収税額表を使うことが大前提になります。たとえば令和8年分の源泉徴収税額表は、令和8年分の給与等について所得税と復興特別所得税を併せて源泉徴収する際に使用するものであり、令和7年分以前の給与等の税額を算出する際には使用しないこととされています。
出典:国税庁|令和8年分 源泉徴収税額表
また、令和7年度税制改正により、所得税の基礎控除や給与所得控除の見直し、特定親族特別控除の創設などが行われました。これらは原則として令和7年12月1日に施行され、令和7年分以後の所得税に適用されています。その結果、令和7年12月以後の年末調整や、令和8年分以後の給与の源泉徴収事務にも変更が生じています。
出典:国税庁|令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について
さらに、令和8年度税制改正についても、基礎控除の引上げ等により、原則として令和8年12月以後の源泉徴収事務に変更が生じることが案内されています。給与計算は一度設定すれば終わりというものではなく、年分ごとの税額表、控除申告書の様式、年末調整の改正点を、継続的に確認していく必要があります。
出典:国税庁|令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について
税務調査では、過年度の給与計算について、その年に使うべき税額表を使っていたかどうかが確認されます。現在の税額表で過去分を再計算しても、それは調査上の説明にはなりません。
賞与の源泉徴収は、通常の月給とは計算方法が異なる
賞与から源泉徴収する所得税および復興特別所得税は、原則として「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を使って計算します。扶養控除等申告書を提出している場合は甲欄、提出していない場合は乙欄を使います。
出典:国税庁|No.2523 賞与に対する源泉徴収
ここでいう賞与とは、定期の給与とは別に支払われる給与等で、賞与、ボーナス、夏期手当、年末手当、期末手当などの名目で支給されるもの、あるいはこれらに類するものをいいます。賞与の性質を有するかどうかが必ずしも明らかでない場合でも、純益を基準として支給されるものや、あらかじめ支給額または支給基準の定めのないものなどは、賞与に該当するものとされています。
出典:国税庁|No.2523 賞与に対する源泉徴収
調査で確認されるのは、賞与の税額計算だけではありません。
| 確認される事項 | 実務上の確認資料 |
|---|---|
| 賞与の支給対象期間 | 賞与規程、支給決裁、給与台帳 |
| 賞与の支給日 | 振込データ、給与明細、会計伝票 |
| 賞与計算の基準 | 人事評価資料、支給一覧、稟議書 |
| 源泉徴収税額 | 賞与に対する算出率表、扶養控除等申告書 |
| 社会保険料控除後の金額 | 賞与明細、社会保険料資料 |
| 未払賞与との関係 | 決算整理仕訳、未払金明細、支給確定資料 |
特に、決算期末に未払賞与を計上している場合には、法人税上の損金算入要件、社会保険料の未払計上、実際の支給日、源泉徴収のタイミングを、それぞれ分けて確認する必要があります。賞与引当金や未払賞与を検討する際には、賞与規程、支給時期、支給対象期間、過去の支給実績、見積額と実際支給額との差異を確認しておくと、判断がぶれにくくなります。
役員報酬は「源泉所得税」と「法人税」を分けて考える
役員報酬には、税務調査で混同しやすい点があります。
それは、源泉所得税上の給与等としての取扱いと、法人税上の損金算入要件とが、まったく別の問題だということです。
役員に毎月支払う報酬は、通常、給与等として源泉徴収の対象になります。一方で、その役員給与を法人税上で損金算入できるかどうかは、定期同額給与、事前確定届出給与、一定の業績連動給与といった要件に該当するか、不相当に高額な部分がないか、という別の観点から判断されます。
法人が役員に対して支給する給与のうち、定期同額給与、事前確定届出給与または一定の業績連動給与のいずれにも該当しないものの額は、損金算入されません。また、これらに該当する給与であっても、不相当に高額な部分は損金算入の対象になりません。
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
役員給与については、調査対象期間における役員別・月別の支給の推移を把握したうえで、定期同額給与、事前確定届出給与、経済的利益の有無、源泉徴収の要否を確認していく視点が欠かせません。
したがって、税務調査への対応では、次のように論点を切り分けて整理しておく必要があります。
| 論点 | 主に問題となる税目 | 確認すべきこと |
|---|---|---|
| 毎月の役員報酬に源泉徴収しているか | 源泉所得税 | 給与台帳、税額表、納付書 |
| 役員報酬が定期同額給与に該当するか | 法人税 | 支給時期、支給額、改定時期 |
| 役員賞与が事前確定届出給与に該当するか | 法人税 | 決議、届出、支給額・支給日の一致 |
| 役員への私的支出が給与等に該当しないか | 源泉所得税・法人税 | 支出目的、精算状況、経済的利益 |
| 役員退職金か賞与か | 所得税・法人税 | 退職実態、支給決議、金額算定 |
役員報酬について「法人税で損金不算入だから、源泉徴収は関係ない」と考えるのは誤りです。損金算入できるかどうかと、役員に対する給与等として源泉徴収が必要かどうかは、まったく別の検討軸なのです。
役員賞与は、法人税上の届出と源泉所得税上の支払時期を分けて確認する
役員賞与は、法人税上も源泉所得税上も、調査で問題になりやすい支払いです。
法人税上は、事前確定届出給与として損金算入できるかどうかが問題になります。事前確定届出給与とは、所定の時期に確定した額を支給する旨の定めに基づいて支給する給与であり、原則として所定の期限までに届出が必要です。届出額と実際の支給額・支給時期が異なると、損金算入が問題になります。
出典:国税庁|No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
源泉所得税上は、役員賞与が給与等に該当する以上、支払時に源泉徴収が必要です。さらに、役員に対する賞与については、支払確定後1年を経過した日までに支払がない場合、その1年を経過した日に支払があったものとみなされ、源泉徴収を行う必要があります。
出典:国税庁|No.2526 給与が一部未払の場合の源泉徴収
この「みなし支払」は、税務調査で見落とされやすいところです。
役員賞与については、次の順番で整理していくと、判断がしやすくなります。
| 確認順序 | 確認する内容 |
|---|---|
| 1 | 役員賞与の支給決議・支給額・支給日がいつ定められたか |
| 2 | 法人税上、事前確定届出給与として届出が必要か |
| 3 | 届出額・届出支給日と実際支給が一致しているか |
| 4 | 支払時に源泉徴収しているか |
| 5 | 未払のまま支払確定後1年を経過していないか |
| 6 | 納付書の「役員賞与」欄や摘要欄の記載が適切か |
法人税上の事前確定届出給与は、役員給与の損金算入の問題です。一方、源泉所得税は、役員に対する給与等をいつ支払ったか、あるいは支払ったものとみなされるか、という問題です。調査対応では、この二つを混同しないことが大切です。
未払給与・未払賞与は「未払だから源泉徴収不要」とは言い切れない
給与等が、定められた支給日に支払われず未払となる場合、源泉徴収は原則として実際に支払う際に行います。ただし、給与等の一部を支払い、残額が未払となる場合には、支払うべき給与等の金額に対する所得税のうち、実際に支払う給与等の金額に対応する部分を源泉徴収する必要があります。
出典:国税庁|No.2526 給与が一部未払の場合の源泉徴収
また、源泉徴収に関する基本通達では、「支払の際」には、現実に金銭を交付する行為だけでなく、預金口座への振替など、支払債務が消滅する一切の行為が含まれるとされています。未払の給与等について支払者が債務免除を受けた場合にも、一定の場合を除き、その債務免除時に支払があったものとして源泉徴収を行う取扱いがあります。
出典:国税庁|法第181条から第223条まで(源泉徴収)共通関係
税務調査では、未払給与や未払役員報酬について、次の点が確認されます。
| 確認事項 | 調査での意味 |
|---|---|
| 未払計上日 | いつ支払債務が確定したか |
| 実際の支払日 | 源泉徴収時期と納付期限に影響する |
| 一部支払の有無 | 支払済部分に対応する源泉徴収が必要 |
| 役員賞与かどうか | 支払確定後1年経過のみなし支払が問題になる |
| 債務免除・放棄の有無 | 支払があったものとされる可能性がある |
| 年末調整対象給与かどうか | その年に支払うべきことが確定した給与か |
未払の処理は、法人税、源泉所得税、年末調整で、それぞれ見方が異なります。ですから、未払計上をした場合には、会計上の仕訳だけでなく、支払確定日、支払日、源泉徴収日、納付日、そして年末調整への反映までを、あらかじめ整理しておく必要があります。
年末調整は、毎月の源泉徴収の誤りをすべて消す手続ではない
年末調整は、1年間に給与から源泉徴収した所得税および復興特別所得税の合計額と、その人が1年間に納めるべき税額とを一致させるための手続です。対象となるのは、原則として「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している人です。ただし、給与収入が2,000万円を超える人など、年末調整の対象外となる人もいます。
出典:国税庁|No.2662 年末調整のしかた
年末調整は、毎月の源泉徴収税額と年税額を精算する制度です。とはいえ、「年末調整をしているのだから、月次の源泉徴収のミスは問題にならない」という理解は危険です。
税務調査では、年末調整について次のような点が確認されます。
| 確認される事項 | 注意点 |
|---|---|
| 対象者 | 扶養控除等申告書を提出しているか |
| 対象給与 | その年に支払うべきことが確定した給与か |
| 前職分給与 | 源泉徴収票により確認しているか |
| 控除申告書 | 基礎控除、配偶者控除、保険料控除等の申告書が保存されているか |
| 年末調整過不足 | 還付・徴収が納付書に反映されているか |
| 源泉徴収票 | 給与台帳、年末調整計算、法定調書と一致しているか |
年末調整の対象となる給与は、その年1月1日から12月31日までの間に支払うべきことが確定した給与です。実際に支払ったかどうかに関係なく、未払の給与もその年の年末調整の対象になります。逆に、前年に未払となっていた給与を今年支払っても、その支払った年の年末調整対象給与には含まれません。
出典:国税庁|No.2668 年末調整の対象となる給与
このように、決算上の未払給与、源泉徴収のタイミング、年末調整対象給与は、同じ「給与」という言葉で処理されていても、それぞれ判断基準が違います。
源泉徴収票・法定調書は、調査で支払実務の整合性を確認する資料になる
給与等の支払者は、給与等を支払ったすべての受給者について、給与所得の源泉徴収票を作成し、交付する必要があります。ただし、税務署に提出するものは一定の範囲に限られます。たとえば、年末調整をした法人の役員については、その年中の給与等の支払金額が150万円を超えるものなどが、提出対象とされています。
出典:国税庁|No.7411 「給与所得の源泉徴収票」の提出範囲と提出枚数等
税務調査では、源泉徴収票や法定調書は、単なる提出書類ではありません。給与台帳、総勘定元帳、源泉所得税納付書、年末調整資料、役員報酬資料との照合資料として扱われます。
たとえば、次のような不整合は確認の対象になります。
| 不整合 | 調査上の疑問 |
|---|---|
| 給与台帳の支給額と源泉徴収票の支払金額が違う | 年末調整・源泉徴収票作成の誤り |
| 元帳の役員報酬と源泉徴収票の役員給与が合わない | 役員への別支給・経済的利益の有無 |
| 源泉徴収票の源泉徴収税額と納付書が合わない | 納付漏れまたは納付書区分誤り |
| 年末調整の還付額が納付書に反映されていない | 過不足税額の処理漏れ |
| 退職者への源泉徴収票交付・年末調整処理が曖昧 | 中途退職者処理の誤り |
法定調書は、適正・公平な課税を実現するために必要な資料とされており、その適正な提出を確保するため、必要に応じて調査が行われます。
出典:国税庁|法定調書(源泉徴収票、支払調書)
役員・従業員への経済的利益は、給与として見られることがある
給与・賞与・役員報酬の源泉徴収で意外と見落とされやすいのが、金銭以外の経済的利益です。
給与というと、毎月の給与振込や賞与の支給を思い浮かべがちです。しかし税務調査では、役員や従業員に対して会社が負担した費用、精算されていない支出、私的利用分、渡切交際費なども確認されます。
たとえば、役員等に毎月一定額の交際費を支給し、その精算を行っていない、いわゆる渡切交際費。これは、業務のために使用すべきものとして支給されたものであっても、そのために使用したことの事績が明らかでないものは給与等に該当し、源泉徴収票の支払金額に、通常の給与に含めて記載する必要があるとされています。
出典:国税庁|役員等に支給する渡切交際費がある場合の「給与所得の源泉徴収票」の記載方法
調査では、次のような支出が確認対象になり得ます。
| 支出・処理 | 確認される視点 |
|---|---|
| 渡切交際費 | 精算実績があるか、給与該当性 |
| 役員への貸付金 | 実質的な給与・賞与でないか |
| 会社負担の私的費用 | 役員・従業員の経済的利益でないか |
| 社宅・住宅関連費用 | 通常の賃料負担があるか |
| 旅費・日当 | 規程、実態、精算状況 |
| 福利厚生費 | 特定者だけに利益が帰属していないか |
| 立替金・仮払金 | 長期間精算されていないものがないか |
役員や従業員への経済的利益は、法人税上は役員給与・交際費・寄附金・貸付金などの論点になり、源泉所得税上は給与等としての徴収漏れが問題になることがあります。
納付期限と納期の特例も調査対象になる
源泉徴収した所得税および復興特別所得税は、原則として、給与などを実際に支払った月の翌月10日までに国に納付します。給与の支給人員が常時10人未満の源泉徴収義務者は、一定の手続によって、半年分をまとめて納付できる納期の特例を受けることができます。
出典:国税庁|No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例
納期の特例の対象となるのは、給与や退職金から源泉徴収した所得税等と、税理士、弁護士、司法書士など一定の報酬から源泉徴収した所得税等に限られます。納期の特例の適用を受ける場合、1月から6月までに源泉徴収した分は7月10日、7月から12月までに源泉徴収した分は翌年1月20日が、それぞれ納付期限です。
出典:国税庁|No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例
調査では、次のような点が確認されます。
| 確認項目 | 注意点 |
|---|---|
| 納付期限 | 支払月の翌月10日納付になっているか |
| 納期の特例 | 申請書の提出と承認時期が合っているか |
| 人員要件 | 常時10人未満の要件を満たしているか |
| 対象範囲 | 納期の特例の対象外の支払いを含めていないか |
| 納付書区分 | 給与、賞与、役員賞与、報酬料金等の区分が適切か |
| 年末調整過不足 | 還付・徴収が納付書に反映されているか |
納期の特例を受けている場合でも、すべての源泉所得税を半年納付にできるわけではありません。給与・退職金・一定の士業報酬などの対象範囲を超えて処理していると、納付遅れとして問題になることがあります。
源泉徴収漏れがあった場合、納税告知・不納付加算税につながる
源泉所得税の納付を怠った場合、税務署から納税の告知が行われることがあります。源泉所得税は、その所得の支払時に納税義務が成立し、同時に確定する性質を持つため、申告納税方式の法人税等とは異なり、税務署は納付を求めるために納税の告知を行うことになります。
また、不納付加算税は、源泉徴収により納付すべき税額を法定納期限までに納付せず、法定納期限後に納付または納税の告知があった場合に問題となる附帯税です。納付すべき税額が大きければ、当然、不納付加算税の負担も重くなります。
給与・賞与・役員報酬の源泉徴収漏れが見つかった場合は、次の順序で整理していくとよいでしょう。
| 整理順序 | 確認する内容 |
|---|---|
| 1 | どの支払いについて源泉徴収漏れがあるか |
| 2 | 支払日、支払額、支払先、支払区分を確認する |
| 3 | 適用すべき税額表・税率を確認する |
| 4 | 年末調整で精算済みか、未精算かを確認する |
| 5 | 納付書区分と納付期限を確認する |
| 6 | 不納付加算税・延滞税の可能性を確認する |
| 7 | 受給者への説明・求償・会計処理を検討する |
| 8 | 今後の給与計算・支払承認体制を見直す |
源泉徴収漏れがあった場合、「従業員が確定申告しているから問題ない」とは限りません。源泉徴収義務者である支払者側の義務が、それとは別に問題になるためです。
税務調査で確認される資料を、支払の流れで整理する
給与・賞与・役員報酬の源泉所得税調査では、資料を単に集めるだけでは不十分です。支払の流れに沿って、資料同士がきちんとつながっているかを確認しておく必要があります。
| 支払の流れ | 確認資料 |
|---|---|
| 採用・就任 | 雇用契約書、役員就任承諾書、登記、株主総会議事録 |
| 給与条件の決定 | 労働条件通知書、給与規程、役員報酬決議 |
| 扶養情報の確認 | 扶養控除等申告書、異動申告書、各種控除申告書 |
| 月次給与計算 | 給与台帳、勤怠資料、社会保険料資料、税額表 |
| 賞与計算 | 賞与規程、支給決裁、賞与明細、算出率表 |
| 役員報酬支給 | 役員別月次推移、定期同額給与、事前確定届出給与 |
| 支払 | 振込データ、現金出納帳、預金通帳 |
| 源泉税納付 | 所得税徴収高計算書、納付書控え、e-Tax納付履歴 |
| 年末調整 | 年末調整計算書、控除証明書、源泉徴収票 |
| 法定調書 | 源泉徴収票、法定調書合計表、提出控え |
調査対応で大切なのは、給与台帳だけ、納付書だけ、源泉徴収票だけ、と個別に見るのではなく、支払の発生から納付・年末調整・法定調書までを、一連の流れとして説明できる状態にしておくことです。
役員報酬の調査対応では、決議・会計処理・源泉徴収を一体で見る
役員報酬の調査では、法人税調査と源泉所得税調査が重なります。
たとえば、役員報酬を期中に増額していた場合。法人税上は、定期同額給与に該当するかどうかが問題になります。一方、源泉所得税上は、実際に支払った給与等について正しく源泉徴収しているかが問題になります。
また、期末に役員に対する未払給与を計上している場合には、法人税上はその支給の実態や損金性が確認され、源泉所得税上は実際の支払時期や、役員賞与に該当する場合のみなし支払が確認されます。
さらに、役員に対して会社が負担した私的支出がある場合には、法人税上は役員給与・交際費・貸付金等の区分が問題になり、源泉所得税上は給与等として源泉徴収すべきだったかが問題になります。
役員報酬については、次の3層に分けて整理しておくと、頭が整理しやすくなります。
| 層 | 確認する論点 |
|---|---|
| 会社法・意思決定 | 定款、株主総会決議、取締役会決議、報酬規程 |
| 法人税 | 定期同額給与、事前確定届出給与、過大役員給与、認定賞与 |
| 源泉所得税 | 給与等該当性、支払時期、税額表、納付、源泉徴収票 |
この切り分けができていないと、調査の場で「法人税ではどう処理したのか」と「源泉所得税ではどう徴収したのか」が混ざってしまい、説明があいまいになってしまいます。
出向者・兼務者がいる場合は、給与の支払者と源泉徴収義務者を確認する
給与・賞与・役員報酬の源泉徴収では、通常の従業員だけでなく、出向者、兼務役員、複数の会社から給与を受ける人も確認の対象になります。
出向者の場合、誰が給与を直接支払っているのか、給与負担金を誰が負担しているのか、扶養控除等申告書をどこに提出しているのか。これらによって、源泉徴収義務者や甲欄・乙欄の適用が問題になります。出向実務では、給与の負担者と支払者が分かれるため、支払者ごとに源泉徴収義務者を整理しておく必要があります。
たとえば、出向元と出向先の双方から給与が支払われる場合には、主たる給与の支払者に扶養控除等申告書を提出して甲欄を適用し、従たる給与については乙欄を適用する、という整理が必要になることがあります。
この論点は、後続記事「6-5. 非居住者・海外勤務者・出向者への支払い」で詳しく扱う領域です。ただ、給与・賞与・役員報酬の源泉徴収においても、出向者がいる場合には、早い段階で確認しておくに越したことはありません。
税務調査前に確認すべき給与・賞与・役員報酬のチェックポイント
税務調査の通知を受けたとき、給与・賞与・役員報酬については、次の順序で確認していくと、論点を整理しやすくなります。
| 確認項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 給与支払者 | 誰が給与を支払っているか |
| 源泉徴収義務者 | 源泉徴収義務者として届出・納付しているか |
| 扶養控除等申告書 | 甲欄適用者の申告書が保存されているか |
| 税額表 | 年分・月額表・日額表・甲欄・乙欄・丙欄が適切か |
| 賞与 | 算出率表、前月給与、扶養親族等の数が適切か |
| 役員報酬 | 支給決議、月次推移、定期同額性、源泉徴収状況 |
| 役員賞与 | 事前確定届出給与、支給日・支給額、源泉徴収 |
| 未払給与 | 支払確定日、実際支払日、年末調整対象給与 |
| 経済的利益 | 渡切交際費、社宅、私的費用、貸付金 |
| 年末調整 | 対象者、前職分、控除申告書、過不足税額 |
| 源泉徴収票 | 給与台帳、年末調整、法定調書との一致 |
| 納付 | 翌月10日、納期の特例、納付書区分 |
| 調査対応 | 説明資料、支払一覧、論点別メモの準備 |
ここで大切なのは、税額を再計算することだけではありません。
なぜ甲欄で処理したのか。なぜ賞与として処理したのか。なぜ役員報酬をその時期に改定したのか。なぜ未払計上したのか。なぜ経済的利益に該当しないと判断したのか。そして、それを年末調整や源泉徴収票にどう反映したのか。
これらを、資料と時系列に沿って説明できる状態にしておくこと。それが、実務上の調査対応です。
給与・賞与・役員報酬の源泉徴収は、経理体制の整備につながる
給与・賞与・役員報酬の源泉徴収は、毎月の給与計算だけで完結するものではありません。
人事情報、扶養情報、給与規程、役員報酬決議、賞与決裁、会計仕訳、源泉税納付、年末調整、源泉徴収票、法定調書。これらが連動してはじめて、後から説明できる状態が出来上がります。
税務調査で指摘されやすい会社には、次のような傾向が見られます。
| 状態 | 起こりやすい問題 |
|---|---|
| 給与計算を担当者任せにしている | 税額表・甲乙欄の誤りが見落とされる |
| 扶養控除等申告書の管理が弱い | 甲欄適用の根拠が示せない |
| 役員報酬の決議資料が曖昧 | 法人税と源泉所得税の説明が崩れる |
| 未払給与・未払賞与の整理がない | 年末調整・源泉徴収時期が混乱する |
| 納付書控えが散在している | 納付漏れや納付書区分誤りに気づきにくい |
| 源泉徴収票と給与台帳を照合していない | 法定調書提出時に不整合が残る |
| 経済的利益の判断基準がない | 役員・従業員への支出が給与認定されやすい |
源泉所得税の調査対応は、過去のミスを探す作業にとどまるものではありません。給与・賞与・役員報酬を、毎月同じ前提で処理し、資料を保存し、調査のときに説明できる状態にしておくこと。それ自体が、会社を守る仕組みになります。
まとめ|給与・賞与・役員報酬は「支払の事実」と「説明できる資料」で整理する
給与・賞与・役員報酬の源泉徴収で重要なのは、税額表どおりに計算することだけではありません。
支払者は誰か。支払の相手は役員か、従業員か、出向者か。支払の性質は給与か、賞与か、役員賞与か、経済的利益か。扶養控除等申告書は提出され、保存されているか。税額表は正しい年分・欄を使っているか。納付期限と納付書区分は適切か。そして、年末調整・源泉徴収票・法定調書まで整合しているか。
税務調査では、こうした一連の流れが確認されます。
特に役員報酬については、法人税上の損金算入要件と、源泉所得税上の徴収義務とを、分けて考える必要があります。法人税で否認されるかどうかとは別に、役員に対して給与等を支払っている以上、源泉徴収義務が問題になることがあるからです。
給与・賞与・役員報酬の源泉徴収に不安がある場合は、まず、給与台帳、扶養控除等申告書、役員報酬決議、賞与資料、納付書、源泉徴収票を並べてみてください。そのうえで、支払の流れがきちんと説明できるかどうかを確認することが、何より大切です。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、税務調査対応を単なる税務署とのやり取りとはとらえていません。支払実務、会計処理、証憑管理、役員報酬設計、源泉所得税の納付管理までを含めて整理することを重視しています。給与・賞与・役員報酬の源泉徴収や、税務調査前の資料整理に不安をお持ちの場合は、お問い合わせページから、現在の状況をお聞かせください。
重要ポイントの振り返り
| 論点 | 押さえるべきポイント |
|---|---|
| 源泉徴収義務 | 給与等を支払う者が、支払時に所得税等を差し引き納付する |
| 給与の税額表 | 月額表・日額表、甲欄・乙欄・丙欄を支給形態と申告書の有無で使い分ける |
| 扶養控除等申告書 | 甲欄適用の根拠資料であり、保存期間にも注意する |
| 年分ごとの税額表 | その年分の税額表を使用し、改正後の控除・様式にも注意する |
| 賞与 | 通常の月給とは異なり、賞与に対する算出率表を使う |
| 役員報酬 | 源泉所得税上の給与等と、法人税上の損金算入要件を分けて考える |
| 役員賞与 | 事前確定届出給与の届出・支給一致と、支払時の源泉徴収を分けて確認する |
| 未払給与 | 原則は実際支払時に源泉徴収するが、役員賞与や一部支払では別途注意が必要 |
| 年末調整 | 年税額との精算手続であり、月次源泉徴収の前提資料不備をすべて解消するものではない |
| 源泉徴収票 | 給与台帳、年末調整、納付書、法定調書との整合性が確認される |
| 経済的利益 | 渡切交際費、私的支出、社宅等が給与等に該当する可能性がある |
| 納付期限 | 原則翌月10日。納期の特例は対象範囲と要件を確認する |
| 調査対応 | 支払先・支払類型・支払時期・税額表・納付状況を資料で説明できる状態にする |