相続税調査で重加算税が問題になる場面|名義財産・生前贈与・財産除外の事実認定

相続税の調査で申告漏れを指摘されたとき、多くの相続人の方が最も不安に感じられるのは、「重加算税まで課されてしまうのか」という点ではないでしょうか。

名義預金を申告に含めていなかった。過去の生前贈与が否認された。被相続人の現金や有価証券が、あとから見つかった。家族名義の口座について、実質的には被相続人の財産だと指摘された。あるいは、借入金や未払金として債務控除したものの実在性を疑われた——。

こうした場面では、本税の修正にとどまらず、過少申告加算税、無申告加算税、延滞税、そして重加算税の有無までが問題になります。

ただし、相続税の申告漏れがあったからといって、それが直ちに重加算税につながるわけではありません。重加算税は、単なる計算誤りや資料不足、あるいは評価判断の相違に対して課されるものではないからです。あくまで、課税価格や税額計算の基礎となる事実について、隠蔽または仮装があった場合に問題となるものなのです。

相続税の調査で重要になるのは、「申告漏れがあるかどうか」だけではありません。

その財産の存在を、誰が知っていたのか。なぜ申告書に含まれなかったのか。資料を意図的に隠したのか、それとも単に整理ができていなかっただけなのか。調査官から質問されたときに、虚偽の説明をしたのか。税理士にはどの情報を伝えていたのか。名義や管理状況を利用して、意図的に財産を除外したと評価されるような事情があるのか。

重加算税の判断では、こうした一つひとつの事実認定が中心になります。

目次

まず押さえるべき結論

相続税の調査で重加算税が問題になりやすい典型的な場面は、次のようなケースです。

場面重加算税リスクが高まる事情
名義預金・名義財産被相続人の財産であると認識しながら、家族名義であることを利用して申告から除外した
生前贈与実際には贈与が成立していないのに、後から契約書を作成するなどして贈与済みのように装った
財産除外預金、現金、有価証券、保険金、国外財産などの存在を知りながら、資料を出さず申告しなかった
架空債務実在しない借入金、未払金、葬式費用等を作り、課税価格を圧縮した
虚偽説明税務調査で財産の存在、資料の有無、管理状況について事実と異なる説明をした
資料操作通帳、残高証明、契約書、領収書、借用書、贈与契約書などを改ざん、隠匿、破棄した
関係者との通謀金融機関、取引先、親族、法人関係者などに虚偽資料や虚偽説明をさせた

一方で、次のような場合には、申告漏れや修正申告が必要であったとしても、重加算税とは切り離して検討すべきです。

場面重加算税とは限らない理由
相続人が財産の存在を知らなかった隠蔽・仮装の前提となる認識が弱い
財産評価の判断が分かれる評価誤りと事実の仮装は別問題
名義財産かどうかの判断が難しい実質所有者の判断と隠蔽行為の有無は分けて検討する
税理士への資料提供漏れがあった意図的除外か、資料整理不足かを確認する必要がある
調査で初めて資料の所在が判明した事前の認識、管理状況、調査時説明を確認する必要がある
相続人間で情報共有が不十分だった誰が何を知っていたかを相続人ごとに整理する必要がある

重加算税の判断は、「漏れていた財産の金額が大きいかどうか」だけで決まるものではありません。金額の大きさは、たしかに調査上の関心を高めます。しかし最終的に問われるのは、隠蔽・仮装と評価できる具体的な行為があったかどうかなのです。

重加算税は「悪質な申告漏れ」に対する加算税である

重加算税は、過少申告加算税や無申告加算税に代えて課される、重い加算税です。

国税庁は加算税について、法定申告期限までに適正な申告がされない場合等に、その申告を怠った程度に応じて課されるものと説明しています。そのうち重加算税は、過少申告加算税または無申告加算税の要件に該当し、なおかつ課税標準等または税額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽または仮装していた場合に課されるものです。

なお、重加算税は他の加算税に代えて課されるため、同一の本税額について過少申告加算税等と重ねて課されることはありません。出典:国税庁|加算税とは

税率は、過少申告加算税に代えて課される場合が原則35%、無申告加算税に代えて課される場合が原則40%です。さらに、一定の繰り返し等がある場合には、加重されることもあります。出典:国税庁 税務大学校|加算税制度が納税者の税務コンプライアンスに及ぼす影響

相続税の調査においては、期限内申告はしていたものの財産の一部が漏れていた場合、過少申告加算税に代えて重加算税が問題になります。相続税の申告そのものをしていなかった場合には、無申告加算税に代えて重加算税が問題になります。

ただし、いずれの場合も、単に申告が誤っていたというだけでは足りません。課税価格や税額計算の基礎となる事実について、隠蔽または仮装があったことが必要なのです。

相続税・贈与税の重加算税で国税庁が示している具体例

国税庁の事務運営指針では、相続税関係で重加算税の対象となり得る不正事実として、次のような類型が示されています。

国税庁が示す類型相続税調査での具体的なイメージ
財産関係書類の改ざん、偽造、変造、虚偽表示、破棄、隠匿通帳を出さない、残高証明を隠す、贈与契約書を後から作る、借用書を偽造する
課税財産の隠匿、架空債務の作出、事実ねつ造による価額圧縮現金を隠す、実在しない親族借入金を債務控除する、評価資料を作り替える
関係者と通謀した帳簿書類の改ざん等親族や法人に虚偽資料を作らせる、取引先に虚偽説明をさせる
虚偽答弁等を含む総合判断により、課税財産の存在を知りながら申告していないと合理的に推認できる場合調査で「口座はない」と答えた後に通帳が見つかる、段階的に事実を認める
被相続人名義以外、架空名義、無記名、遠隔地、架空債務等の状態を認識し、その状態を利用して申告しない場合家族名義預金、無記名財産、遠隔地口座、海外口座などを「見つかりにくい」状態のまま除外する

出典:国税庁|相続税及び贈与税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)

この指針から読み取れるのは、相続税の重加算税が「漏れた財産の種類」だけで判断されるものではない、ということです。

問われるのは、財産の名義、所在、管理状況、資料の保存状態、調査時の説明、そして相続人の認識などを総合したうえで、財産を申告から除外するための意図的な行為があったといえるかどうか。この一点に尽きます。

単なる申告漏れと重加算税の分かれ目

相続税の調査で最も誤解されやすいのは、「申告漏れがあれば重加算税になる」と考えてしまうことです。

実務では、次のように段階を分けて検討していきます。

段階確認する内容
第1段階申告漏れまたは評価誤りがあるか
第2段階その財産・事実を相続人が認識していたか
第3段階認識していたとして、申告から除外する意図があったか
第4段階その意図を外部からうかがわせる具体的行為があるか
第5段階その行為に基づいて申告書が提出されたか
第6段階重加算税の対象となる税額・価額はいくらか

このなかでも、重加算税の判断で特に重要になるのが第4段階です。

「知っていたかもしれない」だけでは足りないことがあります。「申告が漏れていた」だけでも足りません。「結果として税額が少なかった」というだけでも、重加算税の要件を満たすとは限らないのです。

重加算税が問題になるのは、過少申告や無申告とは別に、隠蔽または仮装と評価できる具体的な行為がある場合に限られます。

国税不服審判所の公表裁決事例でも、重加算税の賦課要件を満たすためには、過少申告行為とは別に、隠蔽または仮装と評価すべき行為の存在が必要であると整理されたものがあります。出典:国税不服審判所|隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例

名義預金・名義財産で重加算税が問題になる場面

相続税の調査で最も重加算税リスクが高い領域の一つが、名義預金・名義財産です。

名義預金とは、口座の名義が配偶者、子、孫などであっても、資金原資、管理支配、通帳・印鑑の保管状況、運用収益の帰属などから、実質的には被相続人の財産と認定される預金をいいます。

相続財産に含まれるかどうかは、主に次の事実から判断されます。

判断要素調査で確認されること
資金原資その預金の元手は誰の収入・財産か
管理支配通帳、印鑑、キャッシュカード、ネットバンキングを誰が管理していたか
贈与意思被相続人と名義人の間に贈与の合意があったか
受贈者の認識名義人本人が財産をもらったと認識していたか
贈与後の管理名義人が自由に使用・運用できたか
収益帰属利息、配当、運用益を誰が管理していたか
申告・納税贈与税申告や納税が実態を伴っていたか

ここで押さえておきたいのは、名義預金が相続財産と認定されることと、重加算税が課されることは別問題だということです。名義預金として相続財産に加算されたとしても、相続人がその実質帰属を理解していなかった、資料整理が不十分だった、税理士に説明したが判断が誤った——といった事情があるのであれば、重加算税まで課すべきかどうかは、慎重に検討されるべきものです。

一方で、次のような事情があると、重加算税のリスクは高くなります。

事情なぜ問題になるか
相続人が通帳や印鑑を保管していたのに提出しなかった財産の存在を知りながら隠したと評価されやすい
税理士から資料提出を求められたのに「ない」と答えた虚偽説明または資料隠匿と見られる可能性がある
調査官に聞かれて家族名義口座の存在を否定した調査時の虚偽答弁として重視される
調査で指摘された口座だけを段階的に認めた全体を隠す意図が疑われる
被相続人が生前から家族名義で財産を分散し、相続人もその事情を把握していた名義を利用した財産除外と評価されやすい
口座解約や資金移動により発見を困難にした隠蔽行為と判断される可能性が高まる

国税不服審判所の公表裁決事例には、被相続人名義の預金について、原処分庁が「相続人は存在を知りながら関与税理士に伝えなかった」と主張したものの、相続人があえて税理士に伝えなかったとまでは認められず、発見を困難にする意図や行動も認められないとして、重加算税の賦課要件を満たさないとされたものがあります。出典:国税不服審判所|重加算税の意義

このように、名義預金の本税処理と重加算税の判断は、あくまで切り離して整理する必要があります。

「相続人ごと」に認識と行為を分けて見る

相続税の重加算税では、相続人ごとの認識と行為を分けて整理することが重要です。

たとえば、相続人Aは財産の存在を知っていた。相続人Bは知らなかった。相続人Cは申告資料の整理をAに任せていた。相続人Dは海外在住で、資料確認には関与していなかった——。

このようなケースで、全員に同じように重加算税が課されるとは限りません。名義財産を管理していた相続人、財産を税理士に伝えなかった相続人、調査で虚偽説明をした相続人、資料整理に関与していなかった相続人では、判断が異なり得るからです。

国税不服審判所の公表裁決事例でも、無記名定期預金の存在を把握していた相続人については重加算税の課税要件を満たす一方で、その存在を知らなかった他の相続人については課税要件を備えていないと整理されたものがあります。出典:国税不服審判所|隠ぺい、仮装の事実等を認めなかった事例

調査対応において、「相続人代表が対応していたから全員同じ」という発想は危険です。誰が何を知り、どの資料を管理し、誰が税理士や税務署に説明したのか。これを相続人ごとに、時系列で整理しておく必要があります。

生前贈与が否認された場合の重加算税

生前贈与が否認される場面でも、重加算税が問題になることがあります。

たとえば、被相続人が生前に子や孫の名義で預金を作っていたものの、実際には子や孫に贈与を受けた認識がなく、通帳・印鑑も被相続人が管理していた——。このような場合、その預金は名義人の財産ではなく、被相続人の相続財産と認定される可能性があります。

ただ、ここでもやはり「贈与が否認されたこと」と「重加算税が課されること」は同じではありません。

重加算税のリスクが高まるのは、次のような場面です。

場面問題点
贈与契約書を相続開始後に作成した贈与があったように事実を仮装したと見られる可能性がある
契約書の日付を過去日にした作成時期や実際の合意時期が争点になる
名義人が贈与を知らないのに、受贈者として署名したように整えた贈与の受諾を仮装したと見られる可能性がある
贈与税申告だけをして、実際の管理移転がない申告形式と実態の乖離が問題になる
贈与済みと説明しながら、被相続人が死亡時まで管理していた実質移転がないことを認識していたかが問われる
調査で「本人が管理していた」と説明した後、資料と矛盾した供述の信用性が問題になる

生前贈与は、契約書があるかどうかだけで判断されるものではありません。贈与者の贈与意思、受贈者の受諾、財産の引渡し・名義変更、贈与後の管理、収益の帰属、贈与税申告・納税の実態などを総合して判断します。

契約書や贈与税申告があることは重要な資料です。しかし、それだけで安全とはいえません。逆に、贈与の成立や管理状況について判断が難しい場合であっても、後から事実に反する資料を作ったり、調査で虚偽説明をしたりしなければ、重加算税とは別に争う余地が残されています。

財産除外で重加算税が問題になる場面

相続税の調査では、申告書に記載されていない財産が見つかることがあります。

典型的には、次のような財産です。

財産調査で確認されやすい資料
被相続人名義の預金残高証明、通帳、入出金履歴、定期預金明細
家族名義預金資金原資、通帳管理、印鑑管理、贈与税申告
現金金庫、貸金庫、出金履歴、手許現金の説明
有価証券証券口座、配当通知、取引報告書
生命保険金保険証券、支払通知、保険料負担者
貸付金借用書、返済履歴、利息収受、債務者資料
未収家賃・未収配当契約書、入金予定表、法人資料
ゴルフ会員権・貴金属・美術品会員証、購入資料、保管資料
国外財産海外口座資料、国外財産調書、CRS情報、送金資料

財産除外が重加算税につながるかどうかは、次の事情によって大きく変わってきます。

確認事項重加算税判断への影響
財産の存在を誰が知っていたか認識の有無が中心論点になる
その資料を誰が管理していたか隠匿・不提出の評価につながる
税理士に資料を渡したか専門家判断の前提情報が問題になる
調査官に質問されたか虚偽答弁の有無が問題になる
財産を移動・解約したか発見困難化の意図が疑われる
申告漏れ後の対応はどうだったか自発的説明か、指摘後の段階的開示かが見られる

単に相続財産の確認が不十分だったという場合と、意図的に財産を隠した場合とでは、税務上の評価は大きく異なります。

そこで相続税の調査では、財産漏れを指摘された時点で、まず「本税上、相続財産に含めるべきか」を検討します。そのうえで、「なぜ当初申告に含まれなかったのか」を、別に整理していきます。この二段階を混同してしまうと、必要以上に不利な説明をしてしまうことがあるのです。

架空債務・債務控除で重加算税が問題になる場面

相続税の課税価格は、相続財産から一定の債務や葬式費用を控除して計算します。そのため、債務控除が過大である場合にも、重加算税が問題になることがあります。

特に注意したいのは、次のような場面です。

債務控除の内容重加算税リスクが高い事情
親族からの借入金実際の資金移動がないのに借用書だけがある
会社からの借入金法人側帳簿と整合しない
未払医療費・介護費請求書や支払義務がない
未払税金対象期間や納税義務者が違う
葬式費用実際の支払額を超えている、領収書が不自然
保証債務確実な履行義務がないのに控除している
被相続人の事業債務個人債務か法人債務か不明確

重加算税が問題になりやすいのは、単に債務控除の可否を誤った場合ではありません。存在しない債務を作った、金額を水増しした、後から借用書を整えた、支払ったように見せかけた——こうした場合です。

国税庁の事務運営指針でも、相続税関係の不正事実として、架空の債務をつくること、事実をねつ造して課税財産の価額を圧縮することが挙げられています。出典:国税庁|相続税及び贈与税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)

債務控除では、「払ったかどうか」だけが問われるのではありません。相続開始時点で、確実な債務として存在していたかどうかが問題になります。後から支払ったものでも、相続開始時点で債務として確定していなければ、控除できないことがあります。逆に、相続開始時点で確実な債務であれば、支払時期が後であっても控除の対象となり得ます。

重要なのは、相続開始時点における債務の存在、金額、債権者、支払義務を、資料で説明できることです。

財産評価の誤りは、通常は「隠蔽・仮装」とは分けて考える

不動産評価、非上場株式評価、小規模宅地等の特例、貸家建付地、借地権、同族会社株式などでは、評価判断をめぐって税務署と見解が対立することがあります。

しかし、評価誤りと重加算税は同じものではありません。

評価論点通常の争点
土地の評価単位どこまでを一体評価するか
貸家建付地賃貸実態があるか
小規模宅地等の特例居住・事業・貸付の継続要件を満たすか
非上場株式会社規模、類似業種比準、純資産価額、特定会社判定
特殊な土地無道路地、不整形地、地積規模、土壌汚染、埋蔵文化財
不動産鑑定評価鑑定評価額を採用できるか

これらは、評価根拠や事実認定が争点になることはあっても、評価方法の選択や判断の相違だけで重加算税になるわけではありません。

ただし、次のような事情がある場合には、評価論点であっても重加算税のリスクが生じます。

事情問題点
実際には賃貸していないのに賃貸借契約書を作成した利用実態の仮装
空室が長期間続いているのに満室として資料を作った評価根拠の虚偽表示
同族会社の帳簿を操作して株価を下げた評価基礎事実の仮装
小規模宅地等の特例要件を満たすよう住民票だけ移した居住実態の仮装が疑われる
不動産の利用状況について調査時に虚偽説明した供述の信用性が問題になる

財産評価では、「評価額が低すぎたから重加算税」となるわけではありません。問われるのは、評価額の前提となる事実を偽ったかどうかなのです。

質問応答記録書は重加算税判断に影響する

相続税の調査で重加算税が問題になる場合、質問応答記録書への対応は極めて重要です。

質問応答記録書は、調査官が納税者や関係者から聞き取った内容を記録した文書で、後日の処分や争訟で証拠として用いられる可能性があります。相続税の調査では、名義預金、生前贈与、現金管理、通帳保管、贈与契約書の作成時期、税理士への資料提供状況などについて作成されることがあります。

特に注意したい質問は、次のようなものです。

質問注意点
この口座の存在をいつから知っていましたか認識時期が重加算税判断に直結する
通帳・印鑑は誰が保管していましたか管理支配、名義財産、隠匿の判断に影響する
税理士にこの資料を渡しましたか資料提供漏れが故意か過失か問われる
なぜ申告書に含めなかったのですか申告漏れの理由が記録化される
贈与契約書はいつ作りましたか後日作成・日付操作の有無が問われる
調査前に資料を確認しましたか調査前準備と認識の有無に影響する
家族名義財産は被相続人のものだと思っていましたか実質帰属の認識が問われる

質問応答記録書への対応で最も避けたいのは、記憶が曖昧な事項について、断定的に答えてしまうことです。

「たぶんそうだったと思います」「税理士に言ったと思います」「昔から自分のものではないと思っていました」「親が全部管理していたと思います」——。

こうした回答が、後になって資料と矛盾すると、説明全体の信用性に影響してしまいます。

分からないことは分からないと答える。資料確認が必要な事項は、後日確認する。読み上げの内容に違和感があれば、訂正を求める。事実と異なる記載があれば、そのまま署名しない。これらは決して対立的な対応ではなく、正確な事実認定のために必要な、実務上の対応です。

修正申告をすることと、重加算税を認めることは同じではない

相続税の調査で財産漏れが判明した場合、本税について修正申告を行うことがあります。

しかし、本税を修正することと、重加算税を認めることは、論理上は別の問題です。

たとえば、名義預金について相続財産に含めるべきだと判断し、本税の修正申告を行う場合であっても、その申告漏れが隠蔽・仮装によるものだったかどうかは、別に検討します。

判断対象検討内容
本税その財産を相続財産に含めるべきか
過少申告加算税正当な理由があるか、更正予知との関係はどうか
重加算税隠蔽・仮装があったか
延滞税納付時期、法定納期限、控除期間はどうか
不服申立て賦課決定処分を争う余地があるか

注意したいのは、修正申告に至る過程での説明が、そのまま重加算税の判断資料になるという点です。

「隠していました」「税金がかかると思って出しませんでした」「税理士には言わないようにしました」「見つからないと思っていました」——。

こうした発言が、事実に反する、あるいは文脈を欠いたまま記録化されてしまうと、後で重加算税を争う際の大きな障害になります。

本税について修正すべき点がある場合でも、重加算税の事実認定については、認める部分、争う部分、確認が必要な部分を、明確に分けておくべきです。

重加算税の対象は、追徴税額の全部とは限らない

相続税の調査で複数の指摘事項がある場合、すべての追徴税額が重加算税の対象になるとは限りません。

たとえば、次のようなケースを考えてみます。

指摘事項税務上の分類
家族名義預金Aを意図的に申告しなかった重加算税の対象となる可能性
土地評価の評価単位が違っていた通常は評価判断の争点
小規模宅地等の特例の面積計算に誤りがあった計算・要件判断の争点
葬式費用の一部が控除対象外だった通常は債務控除判断
海外口座Bを相続人が知らなかった重加算税対象とは限らない

この場合、仮に重加算税が問題になるとしても、全体の追徴税額ではなく、隠蔽・仮装に基づく部分に対応する税額を切り出して検討する必要があります。

国税庁の事務運営指針でも、相続税の重加算税の計算について、更正等があった後の税額から、隠蔽または仮装されていない事実のみに基づいて計算した税額を控除して計算すること、相続税では重加対象価額を基に計算することが示されています。また、重加対象価額の基となる財産に対応することが明らかな控除漏れ債務がある場合には、その財産価額から当該債務を控除した額が重加対象価額となるとされています。出典:国税庁|相続税及び贈与税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)

調査結果の説明を受けたときは、「追徴税額はいくらか」だけでなく、「どの指摘事項に重加算税を課そうとしているのか」「重加対象価額はいくらとされているのか」を、必ず確認しておくべきです。

過少申告加算税・無申告加算税との関係

重加算税が課されない場合でも、過少申告加算税や無申告加算税が課されることがあります。

相続税・贈与税の過少申告加算税や無申告加算税について、国税庁の事務運営指針では、正当な理由、更正予知、調査通知後の修正申告、無申告加算税の取扱いなどが整理されています。たとえば、相続人間に争いがある等の理由により相続財産の全容を知り得なかったことや、遺産分割協議が行えなかったことは、無申告加算税における正当な理由には当たらないとされています。出典:国税庁|相続税、贈与税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針)

ここで重要なのは、「重加算税が取り消される可能性がある」ことと、「加算税が一切かからない」ことは別だという点です。

判断結果
隠蔽・仮装が認められる重加算税が問題になる
隠蔽・仮装はないが申告漏れがある過少申告加算税が問題になる
申告義務があるのに無申告無申告加算税が問題になる
正当な理由がある加算税の全部または一部が課されない可能性
更正予知前の自主修正加算税率に影響する可能性

重加算税を争う場合でも、過少申告加算税相当額については受け入れるのか、正当な理由まで主張するのか、修正申告のタイミングをどう評価するのか。これらを分けて検討する必要があります。

相続税調査で重加算税を避けるために、調査前に確認すべきこと

税務調査の通知を受けた段階で、重加算税のリスクを下げるために重要なのは、後から資料を作ることではありません。すでに存在する事実と資料を、正確に整理することです。

調査前には、少なくとも次の確認を行っておくべきです。

確認項目具体的な確認内容
被相続人名義預金全金融機関、定期預金、外貨預金、休眠口座、解約口座
家族名義預金資金原資、管理者、贈与契約、贈与税申告、使用状況
相続開始前出金出金目的、現金残高、贈与、生活費、医療費、葬式準備
貸金庫・金庫現金、貴金属、有価証券、権利証、保険証券
生命保険契約者、被保険者、受取人、保険料負担者、支払通知
証券口座被相続人名義、家族名義、配当、特定口座、外国証券
債務控除借入金、未払金、未払医療費、葬式費用、保証債務
生前贈与契約書、入金記録、受贈者管理、贈与税申告
不動産評価利用状況、賃貸借契約、空室状況、現況写真
非上場株式会社決算書、役員貸付金、土地保有、類似業種比準
国外財産海外口座、国外財産調書、送金履歴、CRS情報
税理士への提供資料何を渡し、何を渡していなかったか

この確認で申告漏れの可能性が見えてきた場合に大切なのは、その時点で専門家とともに事実関係を整理しておくことです。

調査官から聞かれて、初めて曖昧に答える。それよりも、事前に「当初申告には含めていなかったが、現在確認中である」「この財産については実質帰属に論点がある」「相続人間で管理状況の認識が分かれている」と整理しておくほうが、説明の信用性を保ちやすくなります。

調査中にしてはいけない対応

重加算税のリスクを高める対応は、明確に避けるべきです。

避けるべき対応なぜ危険か
資料を後から作る仮装行為と評価される可能性がある
契約書の日付をさかのぼる作成時期・真正性が争点になる
通帳や残高証明を選別して出す資料隠匿と見られる可能性がある
「ない」と答えた後に資料が見つかる虚偽答弁と評価される可能性がある
相続人間で口裏合わせをする通謀や虚偽説明の疑いが生じる
調査官の質問に推測で答える後に資料と矛盾しやすい
税理士に不利な資料を見せない専門家の判断を誤らせる
修正申告を急ぎ、加算税判断を整理しない重加算税を認めたかのような記録が残る可能性がある

相続税の調査では、「黙っていればよい」「聞かれた分だけ出せばよい」という姿勢も危険ですが、「不安だから何でも断定して答える」という姿勢も、同じくらい危険です。

必要なのは、協力すべき資料は整理して提出しつつ、分からないことは確認し、争点となる事実は証拠に基づいて説明する——この姿勢です。

重加算税を争う場合の整理方法

税務署から重加算税を示唆された場合、感情的に反論するのではなく、次の観点に沿って整理していきます。

観点検討内容
指摘対象どの財産・債務・事実について重加算税を課そうとしているか
認識相続人はその財産の存在・帰属を知っていたか
行為隠匿、改ざん、虚偽説明、架空資料作成などの行為があるか
主体その行為をしたのは誰か。相続人本人か、他の相続人か、税理士か
時期行為は申告前か、申告後か、調査中か
因果関係その行為に基づいて過少申告または無申告となったか
証拠調査官の認定を裏付ける客観資料は何か
反証通帳、メール、税理士への提出資料、相続人間連絡、時系列資料で説明できるか
計算重加対象価額・重加対象税額の範囲は正しいか
手続修正申告、更正、賦課決定、不服申立ての選択肢は何か

重加算税の争点は、「納得できない」と言うだけでは整理できません。どの事実を認め、どの事実を争い、どの評価を争うのか。これを分けておく必要があります。

たとえば、次のように整理します。

項目整理例
本税家族名義預金Aは被相続人の相続財産に含める方向で修正する
認識相続人Bは口座の存在を知っていたが、相続財産に含まれる認識はなかった
行為通帳は保管していたが、税理士に提出しなかった理由は資料整理漏れであり、虚偽説明はしていない
反証資料税理士への資料送付メール、財産一覧作成メモ、相続人間の連絡記録
加算税過少申告加算税は検討するが、重加算税の隠蔽・仮装は争う
修正申告本税の修正と重加算税の認定は別問題として説明する

このように、税額と事実認定を分けて対応することが、何より重要です。

不服申立てを検討すべき場面

重加算税の賦課決定処分に納得できない場合には、不服申立てを検討することがあります。

検討すべき典型例は、次のような場合です。

場面検討理由
申告漏れはあるが、隠蔽・仮装行為が具体的に示されていない重加算税の要件該当性に疑問がある
相続人の認識が不明確認識を推認する証拠が弱い可能性
他の相続人の行為を理由に課されている納税者本人との関係を検討すべき
税理士への資料提供状況が誤解されている説明資料で反証できる可能性
調査時の発言が不正確に記録されている質問応答記録書等の信用性が争点
重加対象価額が広すぎる計算対象の切り分けが必要
評価誤りまで重加算税対象に含めている評価判断と隠蔽・仮装の区別が必要
架空債務とされたものに実在性がある債務資料・資金移動・返済履歴で反証可能

不服申立ては、単に税務署への不満を述べる手続ではありません。処分の違法・不当を、法令、証拠、事実認定、計算関係に基づいて主張していく手続です。

そのため、調査の段階でどのような資料を提出したか、どのような説明をしたか、質問応答記録書に何が記載されたか。これらが、その後の争い方に大きく影響します。

まとめ|相続税調査の重加算税は、事実と証拠で判断する

相続税の調査で重加算税が問題になると、不安から「もう争えないのではないか」と感じる方もいらっしゃいます。

しかし、重加算税は、申告漏れがあれば当然に課されるものではありません。

名義預金が相続財産に加算されるか。生前贈与が否認されるか。債務控除が認められるか。財産評価が修正されるか。こうした本税上の判断と、隠蔽・仮装があったかどうかは、分けて整理すべきものです。

相続税の調査で重加算税を検討する際には、次の順番で確認していきます。

まず、どの財産・債務・評価項目が指摘されているのかを整理します。次に、それが本税上、修正すべきものかを検討します。そのうえで、相続人がその事実を認識していたかを確認します。さらに、資料隠匿、虚偽説明、後日作成資料、架空債務、名義の利用など、隠蔽・仮装と評価される具体的な行為があるかを検討します。そして最後に、重加算税の対象価額・対象税額が適切に切り分けられているかを確認します。

相続税の調査では、後から説明できる状態を作っておくことが、何より重要です。相続人ごとの認識、資料の保管状況、税理士への提供資料、申告時の判断過程、調査時の回答内容を、時系列と証拠で整理しておく。これが、重加算税リスクへの最も現実的な対応になります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、相続税調査における名義預金・名義財産、生前贈与、財産評価、債務控除、国外財産、重加算税リスクについて、申告内容・資料関係・相続人ごとの認識・調査官への説明方針を一体で整理しています。

相続税調査で重加算税を示唆されている場合、あるいは名義財産や生前贈与の説明に不安がある場合は、申告書、財産一覧、通帳、贈与契約書、税理士への提出資料、税務署からの指摘事項を整理したうえで、お問い合わせページからご相談ください。

振り返り|相続税調査で重加算税が問題になる場面

論点重要ポイント確認すべき資料・対応
重加算税の基本単なる申告漏れではなく、隠蔽・仮装が必要国税通則法68条、指摘事項の整理
過少申告型期限内申告後の財産漏れ等で問題になる修正申告内容、重加対象価額
無申告型申告義務があるのに無申告で、隠蔽・仮装がある場合申告義務の認識、財産把握状況
名義預金相続財産該当性と重加算税は別に判断する通帳、印鑑、資金原資、管理状況
名義財産名義を利用して申告から除外したかが問題名義変更資料、収益帰属、使用状況
生前贈与贈与否認と重加算税は分けて検討する贈与契約書、入金記録、贈与税申告
後日作成資料契約書や借用書を後から整えると仮装リスク作成日、署名、メール、作成経緯
財産除外財産の存在を知りながら除外したかが争点残高証明、証券資料、保険資料
現金出金履歴と手許現金の説明が重要預金引出明細、金庫確認、使途メモ
架空債務実在しない借入金等は重加算税リスクが高い借用書、送金記録、返済履歴
葬式費用実際の支払額・支払義務を確認する領収書、請求書、支払明細
財産評価評価誤りだけでは通常重加算税とは別問題評価明細、現況写真、賃貸契約
小規模宅地等要件判断と事実の仮装を分ける居住資料、事業資料、継続資料
非上場株式評価基礎資料の操作があると重加算税リスク決算書、株主名簿、会社資料
国外財産海外口座や国外財産調書との整合性が重要海外口座明細、送金資料、調書
相続人ごとの認識全員一律ではなく、誰が何を知っていたかを分ける相続人間メール、資料管理記録
税理士への資料提供渡した資料・渡していない資料が重要送付メール、面談メモ、資料一覧
質問応答記録書発言が重加算税判断の証拠になり得る読み上げ確認、訂正申出、同席記録
修正申告本税修正と重加算税認定は同じではない修正理由、加算税判断の整理
不服申立て隠蔽・仮装の認定や重加対象価額を争う余地がある賦課決定通知、証拠資料、主張整理
専門家相談早期に事実・証拠・説明方針を整理する申告書、通帳、契約書、指摘事項メモ
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