資産税調査|相続税・贈与税・財産評価の実務判断

相続税や贈与税の税務調査は、法人税や所得税の調査とは、その性格が大きく異なります。

法人税調査であれば、帳簿、請求書、契約書、会計処理、社内承認、そして取引実態との整合性が中心になります。個人事業主の調査では、売上、必要経費、家事関連費、通帳、現金管理、帳簿保存といったあたりが主な確認対象です。

一方、相続税調査で確認されるのは、すでに亡くなった方の財産管理であり、過去の入出金であり、家族名義の財産です。生前贈与の実態、財産評価の根拠、さらには相続人ごとの認識にまで及びます。被相続人ご本人に確認することはできません。ですから、通帳、印鑑、契約書、贈与税申告書、保険証券、証券口座、固定資産資料、相続人の説明、過去の資金移動といった手がかりから、事実を一つずつ復元していく作業になります。

相続税の申告期限は、原則として被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。期限までに申告しなかった場合や、実際に取得した財産より少ない額で申告した場合には、本税のほかに加算税や延滞税がかかることがあります。
出典:国税庁|No.4205 相続税の申告と納税

ただし、資産税調査で本当に問われるのは、「期限内に申告したか」だけではありません。

  • その財産を、なぜ相続財産に含めたのか
  • なぜ含めなかったのか
  • 生前贈与は、本当に成立していたのか
  • 家族名義の預金は、誰の財産なのか
  • 土地や非上場株式の評価根拠を、説明できるのか
  • 特例を適用した土地について、居住・事業・貸付の実態を説明できるのか
  • 国外財産や海外居住者がいる場合に、納税義務や財産所在地を確認しているのか
  • 調査で指摘された場合に、単なる申告漏れなのか、それとも重加算税が問題になるのか

本テーマでは、相続税・贈与税・財産評価の調査対応を、税額計算だけの問題としてではなく、事実認定、資料整理、財産管理、承継設計、そして説明責任の問題として整理していきます。

資産税調査の中心は「名義」ではなく「実質」にある

相続税調査でよく問題になるのは、申告書に書かれている財産そのものよりも、むしろ申告書に書かれていない財産です。

その代表例が、名義預金や名義財産でしょう。口座の名義が配偶者や子、孫であったとしても、その資金の原資が被相続人であり、通帳や印鑑を被相続人が管理していて、名義人本人が自由に使える状態になかった。そうした場合には、実質的には被相続人の財産ではないか、という視点から確認が入ります。

資産税調査では、「誰の名義か」だけでは足りません。

  • 誰のお金で取得したのか
  • 誰が管理していたのか
  • 誰が収益を受け取っていたのか
  • 贈与を受けた人は、その財産を自分のものとして認識していたのか
  • 相続開始前に、どのような入出金があったのか
  • 申告時に、どの資料を税理士へ渡し、どの財産を検討したのか

これらを一つずつ確認しておかなければ、税務署から「なぜ申告しなかったのか」と問われたときに、説明が曖昧になってしまいます。

相続税調査は、家族間の信頼や生前の慣行を否定する場ではありません。ただ、税務の観点から見ると、家族間であるからこそ、書面、資金移動、管理状況、意思確認が曖昧になりやすい。そして、まさにその部分が調査で争点になりやすいのです。

財産評価は「低く評価できるか」ではなく「根拠を説明できるか」で考える

不動産、非上場株式、貸付金、同族会社関係、国外財産。これらは、残高証明や時価情報だけで申告額が決まるという性質のものではありません。

とりわけ土地については、評価単位、地目、利用状況、権利関係、貸家建付地、小規模宅地等の特例、特殊事情の有無などによって評価額が変わってきます。非上場株式であれば、会社規模、同族株主の判定、類似業種比準方式、純資産価額方式、土地保有会社・株式保有会社の判定、役員貸付金や含み資産といった論点が問題になります。

相続税・贈与税の課税価格計算の基礎となる財産評価については、財産評価基本通達が公表されています。そこでは、評価の原則、共有財産、邦貨換算、評価方法の定めのない財産、国外財産の評価などが整理されています。
出典:国税庁|財産評価

また、路線価等の評価基準は、相続、遺贈または贈与により取得した財産について、相続税・贈与税の財産評価を行う際に用いられます。
出典:国税庁|財産評価基準書

ただ、評価通達に従っているつもりであっても、評価単位の捉え方、土地の現況、賃貸実態、同族会社の純資産、非上場株式の前提資料に誤りがあれば、調査で評価額の修正を求められることがあります。

資産税調査で重要なのは、「評価額はいくらか」だけではありません。「その評価額に至った資料と判断過程を、後から説明できるか」なのです。

生前対策は、実行した後の管理まで見られる

相続対策として、生前贈与、相続時精算課税、生命保険、法人化、不動産活用、非上場株式対策、小規模宅地等の特例を見据えた承継設計などが行われることがあります。

しかし、調査で確認されるのは、制度を使ったかどうかだけではありません。むしろ、制度や対策を実行した後の管理状況こそが重要になります。

  • 贈与契約書を作った後、財産は本当に移転したのか
  • 受贈者本人が管理していたのか
  • 贈与税申告や納税は、誰が行ったのか
  • 賃貸不動産は、実際に貸付事業として継続していたのか
  • 相続時精算課税を選択した財産について、将来の相続時加算を見据えて記録していたのか
  • 家族間で、財産管理のルールを共有していたのか

令和6年1月1日以後の贈与については、暦年課税に係る生前贈与加算の対象期間が、段階的に相続開始前7年以内へ延長される制度改正が行われています。
出典:国税庁|No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)

また、相続時精算課税については、令和6年1月1日以後の贈与から、特定贈与者ごとに年110万円の基礎控除が設けられています。
出典:国税庁|No.4103 相続時精算課税の選択

制度改正によって、生前対策の選択肢は変わります。ただ、どの制度を選ぶ場合であっても、調査で問われる本質は変わりません。財産の移転、管理、収益帰属、申告、資料保存が一貫しているかどうか。そこに尽きます。

本テーマで読むべき詳細コラム

このテーマトップでは、資産税調査の全体像を俯瞰しています。個別論点の判断や、具体的な確認資料については、それぞれの詳細コラムで深掘りしていきます。

読む順番としては、基本的には 8-1 から 8-9 へ進む構成です。ただし、すでに税務調査の通知を受けている方、名義預金を心配されている方、生前贈与や財産評価に不安をお持ちの方は、ご自身の状況に近い記事から読み始めていただいて構いません。

8-1. 相続税調査の全体像

最初に読んでいただきたい、入口となる記事です。

相続税調査では、調査通知、相続人対応、預金調査、過去の入出金、生前贈与、財産評価、修正申告、重加算税といった論点が、一連の流れの中で確認されていきます。8-1では、相続税調査で何が見られるのか、相続人側がどのような資料を整え、どのような説明方針を考えるべきかを整理します。

相続税調査を初めて受ける方、税務署から連絡があり全体像を把握したい方は、まずこのコラムから読み進めていただくと、その後の個別論点の位置づけが理解しやすくなります。

8-2. 名義預金・名義財産が相続税調査で問題になる理由

相続税調査で最も問題になりやすい論点の一つが、名義預金・名義財産です。

配偶者名義、子名義、孫名義の預金や有価証券について、名義人の財産なのか、それとも実質的には被相続人の財産なのかが争点になります。8-2では、資金原資、管理支配、通帳・印鑑、贈与意思、収益帰属といった観点から、家族名義財産の見方を整理します。

家族名義の口座が多い方、被相続人が家族の財産管理をまとめて行っていた方、生前贈与をしたつもりだが管理が曖昧だった方は、このコラムを優先してご確認ください。

8-3. 生前贈与が税務調査で否認される場面

贈与契約書や贈与税申告があれば、常に生前贈与が認められる——というわけではありません。

8-3では、贈与の成立、受贈者の認識、名義変更、贈与税申告、管理状況、収益帰属などを、調査対応の観点から整理します。特に、毎年同じ時期に贈与していた場合、親が通帳を管理していた場合、孫名義口座への入金がある場合、贈与契約書だけが形式的に残っている場合には、読む価値の高い記事です。

生前贈与は、相続税を減らすための形式ではありません。財産の実質的な移転です。調査で説明できる状態になっているかどうかを確認するために、このコラムで論点を整理してください。

8-4. 不動産の財産評価が調査で争点になる場面

土地や建物の評価は、相続税額に大きく影響します。

8-4では、評価単位、路線価、利用状況、貸宅地、貸家建付地、特殊な土地、鑑定評価など、不動産評価において調査上問題になりやすい論点を整理します。土地の現況と評価明細が合っているか、賃貸借の実態があるか、評価減の根拠資料が残っているか。こうした点を確認したい方に向いた内容です。

不動産評価は、単に評価額を下げる技術ではありません。現況、権利関係、利用実態、評価根拠を一体として説明できることが重要になります。

8-5. 非上場株式評価と同族会社の税務調査

同族会社の株式を相続した場合、非上場株式評価は、資産税と法人税が交差する高度な論点になります。

8-5では、取引相場のない株式の評価、同族株主、会社規模、類似業種比準価額、純資産価額、役員貸付金、土地保有会社などを整理します。会社を経営していた被相続人の相続、事業承継、親族内承継、同族会社の財産管理が絡む場合には、早い段階で確認しておきたい論点です。

非上場株式評価は、相続税申告だけで完結するものではありません。会社の決算書、法人税申告、役員貸付金、土地評価、そして将来の承継方針ともつながっていきます。

8-6. 小規模宅地等の特例と相続税調査

小規模宅地等の特例は、相続税額に大きな影響を与える、重要な特例です。

この特例は、小規模宅地等について、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、区分ごとに一定割合を減額する制度とされています。
出典:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例

8-6では、居住用、事業用、貸付事業用の宅地について、取得者要件、継続要件、利用実態、資料保存の観点から整理します。特例を使った土地について、税務署から居住実態や事業実態を確認される可能性がある方は、このコラムをご確認ください。

特例は、適用できれば税額を大きく下げる制度です。ただし調査では、要件と実態の説明が必要になります。

8-7. 相続時精算課税・生前対策の調査リスク

相続時精算課税は、生前贈与と将来の相続税申告がつながる制度です。

8-7では、相続時精算課税の選択、撤回不可、相続時加算、贈与財産の管理、資料保存、そして将来の相続税調査で確認される事項を整理します。令和6年以後の改正により、制度の使い勝手は変わっています。しかし、選択後の記録管理が重要であることに変わりはありません。

「制度を使ったから終わり」ではなく、「将来の相続税調査で説明できるように残す」。そこを重視したい方に向いた内容です。

8-8. 国際相続・国外財産の税務調査対応

海外資産や海外居住者がいる相続では、国内相続とは異なる確認事項が増えていきます。

相続人が外国に居住している場合、取得した財産のうち国内財産だけが相続税の課税対象となる場合がある一方で、一定の場合には国外財産も課税対象になります。
出典:国税庁|No.4138 相続人が外国に居住しているとき

また、国外財産調書は、その年の12月31日において価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を有する一定の居住者について提出義務があり、国外財産に関する資料提示等や、加算税の軽減・加重措置にも関係してきます。
出典:国税庁|No.7456 国外財産調書の提出義務

8-8では、居住者・非居住者、納税義務者、国外財産、財産所在地、外貨換算、外国税額控除、海外手続、情報交換を整理します。海外口座、外国株式、海外不動産、海外居住相続人がいる場合には、早い段階で確認すべき記事です。

8-9. 相続税調査で重加算税が問題になる場面

資産税テーマの出口リスクとして位置づけられるのが、重加算税です。

重加算税は、単なる申告漏れの場合ではなく、課税価格や税額計算の基礎となる事実について、隠蔽または仮装があった場合に問題となります。相続税・贈与税の重加算税については、事務運営指針において、相続税の場合の重加対象価額や、隠蔽・仮装されていない事実との差額計算の考え方が示されています。
出典:国税庁|相続税及び贈与税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)

8-9では、名義財産、生前贈与、財産除外、架空債務、資料提出、質問応答記録書、相続人ごとの認識などを、重加算税の事実認定という観点から整理します。

申告漏れを指摘された方、重加算税を示唆された方、名義預金や生前贈与について説明が弱いと感じている方は、8-9で本税と加算税を分けて考える視点をご確認ください。

調査通知を受けた方は、読む順番を少し変える

通常は 8-1 から順番に読み進めていただくと理解しやすい構成ですが、すでに調査通知を受けている場合には、状況に応じて読み方を変えるほうが実務的です。

  • 相続税調査の全体像が分からない場合は、まず 8-1 から
  • 家族名義の預金や証券口座が気になる場合は、8-2 へ
  • 生前贈与を毎年行っていた場合や、贈与契約書の有効性が不安な場合は、8-3 を
  • 土地や自社株の評価に不安がある場合は、8-4 または 8-5 を優先
  • 小規模宅地等の特例を使っている場合は、8-6 で要件と資料を確認
  • 相続時精算課税を選択している場合は、8-7 を確認
  • 海外財産や海外居住者が関係する場合は、8-8 を早めに
  • 重加算税を示唆された、または隠蔽・仮装と見られないか不安がある場合は、8-9 を優先

調査対応において、すべての論点を同じ深さで検討する必要はありません。重要なのは、税務署が確認しようとしている論点と、自分たちの説明が弱い論点とを、早い段階で切り分けることです。

資産税調査で専門家に相談する前に、整理しておきたいこと

相続税調査や贈与税調査では、専門家に相談する前の資料整理が、その後の対応の質を大きく左右します。

最低限、次のような資料は整理しておきたいところです。申告書、財産評価明細、遺産分割協議書、戸籍関係資料、預金通帳、残高証明、証券口座資料、保険証券、不動産登記簿、固定資産税通知書、賃貸借契約書、贈与契約書、贈与税申告書、同族会社の決算書、国外財産資料、そして税務署からの連絡内容です。

ただし、資料を集めるだけでは足りません。

  • どの財産について不安があるのか
  • 税理士へ当初どの資料を渡したのか
  • 相続人の誰が財産管理をしていたのか
  • 被相続人の生前の資金移動を、誰が把握しているのか
  • 生前贈与や名義変更の経緯を説明できる人は誰か
  • 財産評価で判断が分かれそうな土地や株式はどれか
  • 税務署から、どの論点を確認されそうか

このように、資料、事実、認識、判断論点を分けて整理していく。そうすることで、調査官への説明方針、修正申告の要否、加算税リスク、不服申立ての可能性を、現実的に比較できるようになります。

本テーマで大切にしている判断軸

資産税調査では、税額を下げることだけを目的にしてしまうと、判断を誤りやすくなります。

もちろん、適用できる評価減や特例を正しく使うことは重要です。過大な税額を納める必要はありません。しかし、資料や実態を軽視して、形式だけを整えた申告をしてしまうと、調査でかえって不利になることがあります。

本テーマを通じて一貫して重視している判断軸は、次のとおりです。

  • 名義ではなく、実質で説明できるか
  • 評価額ではなく、評価根拠を説明できるか
  • 生前対策ではなく、実行後の管理を説明できるか
  • 税額軽減ではなく、要件充足と資料保存を説明できるか
  • 相続人全体ではなく、相続人ごとの認識と関与を整理できるか
  • 修正申告するかどうかだけでなく、重加算税や将来影響まで見て判断できるか

相続税調査は、過去の財産管理を振り返るだけの手続ではありません。今後、同じ不安を繰り返さないために、財産管理、贈与記録、通帳・証券口座の管理、法人と個人の資金区分、家族間の情報共有、承継前の資料整備を見直す機会でもあるのです。

相談導線|相続税調査を、財産管理と承継設計の見直しにつなげる

相続税調査では、名義預金、生前贈与、不動産評価、非上場株式、小規模宅地等の特例、相続時精算課税、国外財産、重加算税といった論点が、それぞれ個別に存在しているように見えます。

しかし実際には、これらはすべて「財産の帰属・管理・評価・説明可能性」という一つの軸でつながっています。

税務署から調査通知を受けている場合、あるいは相続税申告後に名義財産や生前贈与の説明に不安がある場合は、早い段階で論点を整理することが重要です。調査官に何を聞かれてから対応するか、ではありません。どの財産について何を説明すべきかを先に把握しておく。それによって、資料提出、発言、修正申告の判断、重加算税リスクへの対応は大きく変わってきます。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、相続税・贈与税・財産評価に関する税務調査対応について、申告書の確認だけにとどまらず、財産の実質帰属、過去の入出金、生前贈与の実行状況、評価根拠、相続人ごとの認識、税務署への説明方針まで含めて整理いたします。

相続税調査の通知を受けた方、名義預金や生前贈与について調査で説明できるか不安がある方、財産評価や特例適用の判断を見直したい方は、申告書、財産一覧、通帳、贈与契約書、評価明細、税務署からの連絡内容を整理したうえで、お問い合わせページからご相談ください。

振り返り|本テーマで整理する資産税調査の全体像

項目このテーマで確認すること読むべき詳細コラム
相続税調査の入口調査通知、相続人対応、預金調査、財産評価、修正申告の全体像8-1
名義預金・名義財産家族名義財産が実質的に被相続人の財産かどうか8-2
生前贈与贈与契約、受諾、管理、収益帰属、贈与税申告の整合性8-3
不動産評価評価単位、利用状況、貸家建付地、特殊土地、鑑定評価8-4
非上場株式同族会社株式、純資産、類似業種、役員貸付金、土地保有会社8-5
小規模宅地等の特例居住用・事業用・貸付事業用宅地の要件と利用実態8-6
相続時精算課税選択制度、相続時加算、基礎控除、贈与財産の記録管理8-7
国際相続・国外財産納税義務者、国外財産、財産所在地、外貨換算、情報交換8-8
重加算税単なる申告漏れと隠蔽・仮装の違い、質問応答記録書、資料提出8-9
共通する判断軸後から説明できる財産管理・資料保存・判断過程になっているか本テーマ全体