国際取引が税務調査で問題になる理由|海外取引・源泉・消費税・移転価格・国外財産をどう整理するか

海外取引のある会社や個人事業主が税務調査で最初に意識すべきなのは、「海外との取引だから特殊で難しい」という点だけではありません。

より本質的に重要なのは、海外取引では、取引の相手方、契約書、送金、請求書、役務提供地、資産の所在地、価格設定、源泉徴収、消費税、国外財産、租税条約、情報交換といった要素が、一つの取引のなかで一度に重なり合いやすいという点です。

国内取引であれば、請求書、入金、会計処理、申告内容の整合性を確認することで、おおよその方向性をつかめる場面が少なくありません。ところが国際取引では、同じ一回の支払であっても、法人税・所得税、源泉所得税、消費税、移転価格税制、国外財産調書、租税条約、外国税額控除といった論点が同時に関わってくることがあります。

国税庁が公表する国際税務関係の情報でも、国際戦略トータルプラン、BEPS、CRS、CARF、移転価格税制、租税条約、相互協議などが、国際税務の主要領域として整理されています。これは、国際取引の税務リスクが一つの税目だけでは完結しないことを、制度の側からも示しているといえます。
出典:国税庁|国際税務関係情報

本記事では、国際取引に関する個別制度を細かく解説する前に、そもそもなぜ海外取引が税務調査で問題になりやすいのか、調査官は何を確認し、納税者はどこを整理しておくべきなのかを、実務判断の入口として整理していきます。

目次

国際取引の調査では「海外取引があるか」ではなく「説明できるか」が問われる

税務調査で国際取引が問題になるのは、単に相手先が海外にあるからではありません。

実際に問題となるのは、その取引について、次のような点を説明できないときです。

  • 誰に対する支払なのか
  • 何の対価なのか
  • 役務はどこで提供されたのか
  • 資産はどこに所在していたのか
  • なぜその価格なのか
  • 源泉徴収は必要なかったのか
  • 消費税の内外判定はどのように行ったのか
  • 海外送金の内容と会計処理は一致しているのか
  • 国外財産や国外口座の情報と申告内容は整合しているのか

国際取引では、契約書や請求書が英語や外国語で作成されていることも多く、請求書の摘要を眺めるだけでは取引の実態が見えてこないことがあります。海外送金の名目と会計処理の勘定科目が一致していたとしても、それだけで税務上正しいと言い切れるわけではありません。

調査では、会計処理の表面だけでなく、契約、役務提供の内容、相手方との関係、送金経路、メールや稟議、価格の決定過程まで踏み込んで確認されることがあります。国際取引で本当に大切なのは、「海外取引として処理したこと」そのものではなく、「その処理を、後から事実と資料に基づいて説明できること」だと考えています。

国際取引が税務調査で問題になりやすい5つの理由

1. 「国内か国外か」の判断が税目ごとに異なる

国際取引で最初に混乱しやすいのが、「海外との取引だから日本では課税されない」という思い込みです。

所得税・法人税では、居住者・非居住者、内国法人・外国法人、国内源泉所得、国外源泉所得、恒久的施設、租税条約といった考え方が関わってきます。これに対して消費税では、国内取引か国外取引か、輸出免税か、不課税か、リバースチャージの対象か、といった別の判断が求められます。

つまり、同じ一つの海外取引であっても、所得税・法人税では日本の課税対象となる一方、消費税では国外取引として不課税になる、という場合があるわけです。逆に、国外事業者から提供を受けるインターネット広告やクラウドサービスのように、海外から提供されていても、日本の消費税上は国内取引として扱われるケースもあります。

国税庁は、消費税の国外取引について、資産の譲渡・貸付けでは原則として資産の所在地、役務提供では原則として役務の提供地によって内外判定を行うとしています。さらに、電気通信利用役務の提供については、役務の提供を受ける者の住所等によって国内取引かどうかを判定するとされています。
出典:国税庁|No.6210 国外取引

ここで気をつけたいのは、「海外に支払ったから国外取引」「海外から請求されたから日本の税務は関係ない」といった単純な割り切りをしないことです。調査では、どの税目について、どの基準で、どのように判断したのかが確認されます。

2. 支払の内容によって源泉徴収の要否が変わる

海外の個人や法人へ支払を行う場合、源泉所得税の確認は避けて通れません。

非居住者や外国法人に対し、国内源泉所得に該当する支払を行うときは、原則として所得税および復興特別所得税の源泉徴収が必要になります。たとえ国内源泉所得を国外で支払った場合でも、支払者が国内に住所・居所・事務所等を有していれば、国内で支払ったものとみなされ、源泉徴収が必要になることがあります。
出典:国税庁|No.2884 非居住者等に対する源泉徴収・源泉徴収の税率
出典:国税庁|No.2885 非居住者等に対する源泉徴収のしくみ

調査で確認されるのは、単に「海外送金があるかどうか」ではありません。

その支払が、使用料なのか、利子なのか、配当なのか、不動産の使用料なのか、人的役務の対価なのか、給与なのか、退職金なのか、業務委託料なのか。性質の違いによって、源泉徴収の要否や税率、租税条約の適用関係まで変わってきます。

とりわけ注意したいのは、請求書に「service fee」「commission」「consulting fee」「royalty」「management fee」と記載されているからといって、それだけで税務上の性質が定まるわけではない、という点です。調査では、契約書、成果物、業務内容、役務提供地、権利使用の有無、相手方の居住地、租税条約届出の有無などを一つひとつ確認していく必要があります。

源泉徴収の漏れがあると、支払先ではなく支払者の側に、納税告知、不納付加算税、延滞税といった問題が生じることがあります。海外の相手先との契約上、源泉税をどちらが負担するのかが曖昧なままだと、税務上の負担にとどまらず、取引先との交渉そのものにも影響が及びます。

3. 消費税では「海外取引」と「国外取引」は同じではない

消費税の調査では、海外取引について次のような点が確認されます。

  • 輸出売上として免税処理しているが、輸出証明書等が保存されているか
  • 国外取引として不課税処理しているが、内外判定の根拠があるか
  • 海外広告費やクラウド利用料に、電気通信利用役務の提供として処理すべきものが含まれていないか
  • 国外事業者からの役務提供に、リバースチャージ方式の対象となるものがないか
  • 仕入税額控除の対象とした海外関連費用について、請求書・インボイス・帳簿・取引実態が整っているか

国税庁は、電気通信利用役務の提供について、国内の事業者・消費者に対して行われるものであれば、国内・国外いずれから提供されたものであっても国内取引として消費税が課税されるとしています。また、事業者向け電気通信利用役務の提供については、国外事業者から役務提供を受けた国内事業者が「特定課税仕入れ」として申告・納税を行う、リバースチャージ方式が定められています。
出典:国税庁|No.6118 国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税関係

消費税で怖いのは、法人税では損金として認められる支払であっても、消費税では仕入税額控除の対象にならないことがある、という点です。逆に、消費税の課税区分を誤れば、売上側でも仕入側でも、税額に直接響いてきます。

ですから国際取引の消費税では、「費用として正しいか」だけでなく、「課税仕入れなのか」「不課税なのか」「免税売上なのか」「輸出証明があるか」「リバースチャージの対象か」という、別の軸での確認が欠かせません。

4. 海外関連者との取引では「価格の合理性」が問われる

海外子会社、海外親会社、海外関連会社との取引では、移転価格税制が重要になります。

移転価格税制は、国外関連者との取引を通じた海外への所得移転に対応するための制度です。国税庁は、法人と国外関連者との取引価格が、第三者間の取引価格すなわち独立企業間価格と異なることによって日本の課税所得が減少している場合に、その取引が独立企業間価格で行われたものとみなして所得を計算する仕組みであると説明しています。
出典:国税庁|移転価格税制に関する事前確認の申出及び事前相談について

調査で問われるのは、単に「海外関連会社との取引価格が高いか低いか」だけではありません。

  • なぜその価格にしたのか
  • 誰がどの機能を果たしているのか
  • どちらがどのリスクを負担しているのか
  • 契約書と実態は一致しているのか
  • 価格改定の理由は何か
  • 赤字や低利益が続いている理由は何か
  • 無償または低額の役務提供がないか
  • 貸付金、利息、保証料、ロイヤルティ、管理料の水準に合理性があるか

移転価格税制は、税額計算だけで片づくものではありません。契約、機能、リスク、資産、価格設定方法、比較対象、利益水準、事業上の背景を整理したうえで、なぜその取引条件が合理的といえるのかを説明できる状態にしておく必要があります。

国税庁の移転価格事務運営要領でも、国外関連取引の価格が非関連者間取引において通常付された価格となっているかを検討し、市場の状況や業界情報などの幅広い事実把握に努め、独立企業間価格の算定方法や比較対象取引の選定について調査を行う旨が示されています。
出典:国税庁|移転価格事務運営要領 第1章 定義及び基本方針

移転価格の調査では、会計数値だけでなく、事業の実態と価格設定の考え方そのものが問われます。だからこそ、調査通知を受けてから慌てて説明資料を作るのではなく、日頃から契約書、価格改定資料、稟議、グループ内ポリシー、機能・リスクの整理を残しておくことが重要になります。

5. 国外財産・海外口座・海外送金は、税務署側でも把握されやすくなっている

国際取引や国外財産については、納税者が提出した申告書だけでなく、法定調書、国外送金等調書、国外財産調書、財産債務調書、CRSによる金融口座情報、租税条約等に基づく情報交換など、税務当局の側で確認できる情報が年々増えています。

国税庁は、租税条約等に基づく情報交換について、要請に基づく情報交換、自発的情報交換、自動的情報交換という3つの形態を示しています。このうち自動的情報交換では、法定調書から把握した非居住者等への利子、配当、不動産賃貸料、使用料、給与・報酬、株式譲受対価などの情報を、税務当局間で一括して送付する仕組みが説明されています。
出典:国税庁|租税条約等に基づく情報交換

また、CRSは、非居住者に係る金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準です。各国の税務当局は、自国の金融機関等から、非居住者が保有する金融口座情報の報告を受け、その非居住者の居住地国の税務当局へ情報を提供する仕組みになっています。
出典:国税庁|共通報告基準(CRS)に基づく自動的情報交換に関する情報

さらに、居住者である個人が一定額を超える国外財産を有する場合には、国外財産調書の提出義務が問題になります。国税庁のタックスアンサーでは、居住者(非永住者を除く)が、その年の12月31日において価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を有する場合、翌年6月30日までに国外財産調書を提出しなければならないとされています。
出典:国税庁|No.7456 国外財産調書の提出義務

こうした制度が整っている以上、海外口座、海外証券、海外不動産、海外法人への出資、海外からの配当・利子・売却代金、海外送金について、「申告書に書かなければ分からない」と考えるのは禁物です。

調査では、海外送金の入出金、国外財産調書の記載、確定申告書、相続税申告書、法人決算書、関係会社取引、役員貸付金・借入金、資産の取得原資などが、互いに突き合わせられることがあります。

国際取引の税務調査で確認される基本軸

国際取引が税務調査で問題になる場面では、確認すべき軸はおおむね次の5つに整理できます。

誰との取引か

まず確認すべきは、取引の相手です。

相手が外国法人なのか、非居住者である個人なのか、海外子会社なのか、海外親会社なのか、関連会社なのか、それとも独立した第三者なのか。これによって、確認すべき論点は変わってきます。

海外関連者との取引であれば、移転価格や寄附金の問題が生じやすくなります。非居住者や外国法人への支払であれば、国内源泉所得と源泉徴収の確認が必要です。国外に所在するプラットフォームやクラウドサービス提供会社との取引であれば、消費税の電気通信利用役務の提供が論点になることがあります。

「海外の会社」と一括りにするのではなく、税務上は、相手方の所在地、居住者性、法人格、関連者性、恒久的施設の有無、そして実質的な受益者まで確認しておく必要があります。

何の対価か

次に重要になるのが、支払の性質です。

同じ海外送金であっても、それが商品の仕入代金なのか、業務委託料なのか、広告費なのか、使用料なのか、利子なのか、配当なのか、給与なのか、役員報酬なのか、出向者の給与負担金なのかによって、税務上の取扱いはまったく変わってきます。

特に国際取引では、「consulting fee」「service fee」「management fee」といった名称で請求されることが多くあります。しかし、名称だけで税務判断はできません。

調査では、契約上の業務内容、実際に提供された成果物、相手先の担当者、メールのやり取り、送金の理由、社内稟議、会計処理の勘定科目などが確認されます。

どこで行われた取引か

国際取引では、「どこで行われたか」という場所の確認も重要です。

物の売買であれば、資産がどこに所在していたのか。役務提供であれば、どこで役務が提供されたのか。権利の使用料であれば、どの地域で権利が使用されたのか。人的役務であれば、どこで勤務・業務が行われたのか。海外出向であれば、どこに勤務し、どの法人のために働いているのか。恒久的施設が関係する場合には、どの所得が恒久的施設に帰属するのか。

非居住者や外国法人への課税では、国内源泉所得のみが課税対象となります。ただ、同じ国内源泉所得であっても、恒久的施設の有無や、その所得が恒久的施設に帰せられるかどうかによって、課税関係は変わってきます。
出典:国税庁|No.2878 国内源泉所得の範囲
出典:国税庁|No.2883 恒久的施設(PE)(令和元年分以後)

場所の判断を誤れば、申告漏れ、源泉徴収漏れ、消費税区分の誤り、移転価格調整、外国税額控除の誤りにつながりかねません。国際取引では、「どこの国の話か」を感覚で決めず、税目ごとの判定基準に沿って整理することが欠かせません。

いくらが適正か

海外関連者との取引では、価格の合理性が問われます。

商品の輸出入価格、ロイヤルティ、業務委託料、グループ内管理料、貸付利息、保証料、出向者の給与負担、無償の役務提供などは、調査で確認されやすい項目です。

とりわけ、海外子会社の利益率が低い、国内親会社だけ利益が薄い、海外関連会社への支払が増えている、契約書がない、価格改定の理由が不明、相手先が赤字にもかかわらず取引条件が維持されている。こうした状況があると、取引価格の合理性が問われやすくなります。

ここで大切なのは、「結果として利益が出ているか」だけではありません。「その価格を設定した時点で、どのような事業上・経済上の根拠があったか」が問われるのです。

どの資料で説明できるか

国際取引の調査では、口頭の説明だけでは足りない場面が数多くあります。

確認される資料には、たとえば次のようなものがあります。

  • 契約書
  • 請求書
  • インボイス
  • 輸出入関連書類
  • 送金明細
  • 通帳・銀行取引明細
  • メール
  • 稟議書
  • 役務提供の成果物
  • 出張報告書
  • 価格改定資料
  • 関係会社間契約
  • グループ内ポリシー
  • 移転価格文書
  • 国外財産調書
  • 財産債務調書
  • 海外口座情報
  • 会計帳簿
  • 総勘定元帳
  • 勘定科目内訳明細書

調査では、これらの資料が「存在するか」だけでなく、資料同士が整合しているかどうかも見られます。契約書では業務委託料とされているのに、実態は権利の使用料である。請求書ではコンサルティング費用とされているが、成果物がない。送金明細ではロイヤルティとされているのに、源泉徴収をしていない。このような食い違いがあると、調査上の争点になりやすくなります。

国際取引では、法人税・消費税・源泉所得税が同時に動く

国際取引の調査対応が難しいのは、一つの処理ミスが複数の税目に波及するからです。

たとえば、海外の個人に業務委託料を支払った場合を考えてみます。法人税では、その費用性や業務実態が問題になります。源泉所得税では、その支払が国内源泉所得に該当するか、源泉徴収が必要かを確認します。消費税では、役務提供が国内取引か国外取引か、電気通信利用役務に該当するか、リバースチャージの対象かを確認することになります。

海外子会社への支払であれば、法人税では寄附金や損金性、移転価格税制が問題になります。源泉所得税では、使用料や利子などの国内源泉所得がないかを確認します。消費税では、課税仕入れ、国外取引、特定課税仕入れの判定が必要です。

つまり、国際取引の調査対応では、「この支払は費用になるか」だけでは到底足りません。

同時に、次のような整理が求められます。

  • 法人税上、損金算入できる根拠はあるか
  • 所得税・源泉所得税上、国内源泉所得に該当しないか
  • 消費税上、課税取引・不課税取引・免税取引・非課税取引のいずれか
  • 移転価格上、独立企業間価格として説明できるか
  • 租税条約の適用を受けるなら、届出や証明書は整っているか
  • 国外財産や海外送金に関する情報と、申告内容は整合しているか

このように国際取引では、税目ごとに別々の判断を重ねながら、最終的には一つの取引として説明できる状態にしておくことが必要になります。

海外取引の税務調査でよく問題になる整理不足

国際取引で調査上の問題になりやすいのは、必ずしも悪質な処理だけではありません。

実務では、むしろ次のような整理不足が、大きな問題に発展します。

契約書がない、または実態と合っていない

海外取引では、取引先との関係が続いているうちに、契約書を作らないまま支払だけが重ねられていくことがあります。あるいは、当初の契約書はそのままで、業務内容や価格だけが変わってしまっている、というケースもあります。

しかし調査では、契約書と実態の不一致が問題になります。とりわけ関連会社間の取引では、契約書がないこと自体が、価格設定や役務提供の合理性を説明しにくくする要因になってしまいます。

請求書の摘要だけで処理している

請求書に「consulting fee」とあるからコンサルティング費用として処理する。「commission」とあるから販売手数料として処理する。「royalty」とあるから使用料として処理する。

こうした処理は、調査では不十分とみなされます。

請求書の表現は、あくまで出発点にすぎません。税務上は、契約内容、実際の役務、権利の使用、相手方の機能、成果物、支払条件まで確認する必要があります。

海外送金と会計処理の突合ができていない

海外送金は、税務署の側でも把握され得る情報です。送金額、送金先、送金目的、会計処理が一致していなければ、調査で確認される可能性があります。

国税庁の手続案内によれば、国外送金等調書は金融機関が提出する法定調書であり、その提出時期は、為替取引を行った日の翌月末とされています。
出典:国税庁|F4-1 国外送金等調書(同合計表)

海外送金がある場合には、送金明細と会計処理を紐づけておくことが大切です。送金目的の説明、請求書、契約書、相手方の情報が整理されていないと、調査の際の事実確認に時間がかかってしまいます。

関係会社取引の価格改定理由が残っていない

海外子会社や海外関連会社との取引価格を変更した場合には、その理由を説明できる資料が必要になります。

為替変動、原材料価格、販売地域、機能分担、在庫リスク、信用リスク、マーケティング活動、研究開発、資金調達など、価格の変更には何らかの事業上の理由があるはずです。ところが実務では、グループ内の感覚や本社方針だけで価格が決まり、資料が残っていないことが少なくありません。

調査では、後から「なぜこの価格だったのか」を説明することになります。価格改定時の稟議、メール、計算資料、比較資料、契約変更の覚書を残しておくことが重要です。

租税条約の適用を前提にしているが、手続が整っていない

非居住者や外国法人への支払については、租税条約によって源泉税が軽減・免除される場合があります。ただし、その適用には、相手方の居住者性、所得の種類、受益者、恒久的施設の有無、届出書類などの確認が前提になります。

「相手国と租税条約があるから源泉は不要」といった処理は危険です。租税条約は、あくまで国内法上の課税関係を確認したうえで、適用を検討するものだからです。国内法上そもそも源泉の対象でないのか、それとも国内法上は源泉の対象だが条約によって軽減されるのか。この区別を分けて整理しておく必要があります。

法人・個人事業主・資産税で共通する本質

国際取引というと、海外子会社を持つ法人だけの問題と思われがちです。しかし実際には、個人事業主や資産税の領域でも問題になります。

法人では、海外子会社との取引、海外仕入、海外売上、海外広告費、海外出向、ロイヤルティ、貸付金、保証料、グループ内管理料、M&A、非上場株式の評価などが論点になります。

個人事業主では、海外プラットフォームからの収入、海外顧客への役務提供、海外広告費、国外口座、海外証券、暗号資産、海外不動産、外国税額控除などが問題になります。

資産税では、国外財産、海外預金、海外証券、海外不動産、国外居住の相続人、国際相続、外国税額控除、国外財産調書、財産債務調書、財産の所在地判定などが論点になります。

これらに共通する本質は、次の3つに集約できます。

  • 取引や財産の実態を説明できるか
  • 申告内容と外部資料が整合しているか
  • 税目ごとの判断を、資料に基づいて整理しているか

国際取引の調査では、法人・個人・資産税という区分を超えて、「数字と事実の説明可能性」が問われるのです。

税務調査前に整理しておくべき資料

国際取引がある場合、税務調査の前に、少なくとも次の資料を整理しておくことが望ましいといえます。

まず、海外取引一覧を作成します。相手先、国・地域、取引内容、金額、通貨、送金日、会計処理、税務処理、源泉徴収の有無、消費税区分を、一覧の形にまとめておきます。

次に、契約書と請求書を整理します。契約書のない取引については、なぜ契約書がないのか、実態をどの資料で説明できるのかを確認しておきます。

そのうえで、送金明細、銀行取引明細、インボイス、輸出入書類、成果物、メール、稟議書、価格改定資料を紐づけていきます。

海外関連者との取引については、関係会社図、資本関係、機能・リスクの分担、価格設定方法、ローカルファイルの要否、グループ内ポリシーを確認します。

海外資産がある場合には、国外財産調書、財産債務調書、確定申告書、相続税申告書、海外口座明細、取得原資、評価資料を確認しておきます。

ここで大切なのは、資料を集めるだけで終わらせないことです。調査官に説明するためには、「この資料は、どの論点を説明するためのものか」というところまで整理しておく必要があります。

国際取引を税理士なしで対応するリスク

国際取引を含む税務調査では、税理士なしで対応するリスクが大きくなりやすいといえます。

その理由は、調査官からの質問に答えるだけでは済まないからです。

  • 海外送金について聞かれたとき、その支払が源泉徴収の対象かどうかを即答できるか
  • 海外広告費について、消費税のリバースチャージやインボイスの影響を説明できるか
  • 海外子会社への支払について、移転価格なのか寄附金なのか役務提供なのかを整理できるか
  • 国外財産について、国外財産調書や相続税申告との関係を説明できるか
  • 調査官から修正申告を勧められたとき、どの税目にどう影響するかを比較できるか
  • 質問応答記録書に記載される内容が、後の重加算税や不服申立てにどう影響するかを判断できるか

国際取引の調査では、一つの発言が複数の税目に影響することがあります。たとえば、「実際には海外子会社のために行った支払です」と説明した結果、法人税では寄附金、移転価格では国外関連取引、源泉所得税では使用料、消費税では課税区分の問題が、同時に浮上することもあるのです。

専門家を付ける意味は、単に税務署とのやり取りを任せることではありません。事実関係を整理し、税目ごとの論点を切り分け、資料の出し方を検討し、修正申告に応じるかどうかを冷静に判断すること。そこにこそ意味があります。

国際取引がある場合の実務判断の進め方

国際取引を含む税務調査では、次の順番で整理していくと、論点を見落としにくくなります。

1. 取引を一覧化する

海外売上、海外仕入、海外業務委託、海外広告費、ロイヤルティ、利息、配当、出向者の給与負担、海外不動産、海外証券、海外口座などを一覧にします。

この段階では、税務上の結論を急がず、まずは事実を漏れなく把握することを優先します。

2. 税目別に論点を分ける

法人税・所得税、源泉所得税、消費税、移転価格、資産税、法定調書・国外財産調書という観点で、論点を分けていきます。

同じ支払であっても、税目ごとに判断基準は異なります。一つの結論で全税目をまとめて処理しようとしないことが大切です。

3. 資料と説明を紐づける

契約書は、取引内容を説明する資料です。請求書は、支払内容を説明する資料です。送金明細は、資金の移動を説明する資料です。メールや稟議は、意思決定の過程を説明する資料です。成果物は、役務提供の実在性を説明する資料です。価格改定資料は、取引条件の合理性を説明する資料です。

資料をただ提出するのではなく、どの資料でどの事実を説明するのかを整理しておきます。

4. 不利な点を先に把握する

国際取引の調査では、不利な点を後回しにすると、かえって対応が難しくなります。

  • 契約書がない
  • 源泉徴収をしていない
  • 消費税区分が曖昧である
  • 海外子会社への支払に成果物がない
  • 価格改定の理由が残っていない
  • 国外財産調書と申告内容が整合しない
  • 海外口座の入出金の説明が弱い

こうした点は、早めに把握したうえで、どのように説明するか、修正申告を検討すべきか、争う余地があるかを整理しておく必要があります。

5. 調査後の体制改善まで考える

国際取引の税務調査は、その場限りで終わらせるべきものではありません。

調査で問題になった論点は、今後の月次管理、契約管理、送金管理、源泉徴収管理、消費税区分、移転価格の文書化、国外財産の管理に反映させていく必要があります。

調査対応をきっかけに海外取引の社内ルールを整えることができれば、次回以降の調査だけでなく、金融機関への対応、M&A、事業承継、海外展開の判断にも役立っていきます。

国際取引の税務調査で大切なのは「税目横断の説明力」

国際取引の税務調査で本当に大切なのは、個別制度を暗記することではありません。

必要なのは、次のような説明力です。

  • この取引は誰との取引か
  • この支払は何の対価か
  • どこで役務提供・資産譲渡が行われたか
  • どの税目に影響するか
  • 源泉徴収の要否をどう判断したか
  • 消費税区分をどう判断したか
  • 関連者間価格の合理性をどう説明するか
  • 外部情報や国外財産情報と、申告内容が整合しているか
  • 不利な点がある場合、どう整理し、どの選択肢を検討するか

国際取引では、形式上の書類が整っていても、実態を説明できなければ、調査対応としては不十分です。逆に、処理に迷いがある場合でも、事実関係と判断の過程を丁寧に整理できていれば、調査官との議論を落ち着いて進めやすくなります。

税務調査は、税務署とのやり取りそのものが目的ではありません。自社や自身の取引・財産・数字を、法律と事実に基づいて説明できる状態に整えること。そこに本質があります。

国際取引を含む税務調査で相談を検討すべき場面

次のような状況がある場合には、調査の前、あるいは調査の初期段階で専門家に相談する価値が高いと考えられます。

  • 海外送金が継続的にある
  • 海外子会社・海外親会社・海外関連会社との取引がある
  • 海外広告費、クラウドサービス、プラットフォーム利用料が多い
  • 非居住者や外国法人への支払について源泉徴収をしていない
  • 消費税の国外取引・輸出免税・リバースチャージの判断に不安がある
  • 海外出向者や海外勤務者への給与負担がある
  • 海外口座、海外証券、海外不動産、国外財産調書に関する不安がある
  • 税務署から海外取引や国外財産について質問を受けている
  • 調査官から修正申告や重加算税の可能性を示唆されている
  • M&Aや事業承継を見据えて、過去の税務リスクを整理したい

国際取引の税務調査では、早い段階で論点を整理しておくほど、選択肢を比較しやすくなります。反対に、調査の終盤になってから、源泉徴収漏れ、消費税区分の誤り、移転価格、国外財産の不一致が一度に表面化すると、対応はどうしても難しくなってしまいます。

犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について

国際取引を含む税務調査では、法人税、所得税、消費税、源泉所得税、移転価格、国外財産、資産税、M&A・承継といった視点を、それぞれ分けて整理する必要があります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、調査官からの指摘に場当たり的に対応するのではなく、取引の実態、契約書、送金、会計処理、税務判断、資料の保存、そして今後の管理体制まで含めて、後からきちんと説明できる状態を整えることを重視しています。

海外取引について税務署から確認を受けている、調査の前に論点を整理しておきたい、海外子会社・海外送金・国外財産・消費税・源泉徴収の処理に不安がある。そうした場合には、現在の資料と事実関係を早めに整理しておくことが大切です。

国際取引を含む税務調査への対応について、専門家とともに論点を確認したい方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。

本記事の振り返り

確認すべき論点税務調査で問題になる理由まず整理すべき資料・視点
取引相手非居住者、外国法人、海外関連者かどうかで税務処理が変わる相手方情報、所在地、資本関係、居住者性、関連者性
支払内容同じ海外送金でも、使用料・利子・役務提供・給与・配当で取扱いが異なる契約書、請求書、成果物、業務内容、送金目的
源泉所得税国内源泉所得に該当すると、支払者側に源泉徴収義務が生じる場合がある国内源泉所得の判定、租税条約、届出書、支払時期
消費税海外取引でも、内外判定・輸出免税・リバースチャージ・インボイスが問題になる課税区分、輸出証明、請求書、帳簿、電気通信利用役務の判定
移転価格海外関連者との価格が独立企業間価格として説明できるかが問われる関係会社図、契約書、価格設定資料、機能・リスク分析
国外財産・海外口座国外財産調書、CRS、情報交換、海外送金情報と申告内容の整合性が確認される国外財産調書、海外口座明細、取得原資、申告書
調査対応一つの発言や資料提出が複数税目に影響する論点整理表、資料一覧、説明メモ、専門家との事前確認
再発防止調査後も同じ不安を繰り返さない仕組みが必要月次管理、契約管理、送金管理、源泉・消費税チェック体制
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