架空売上や循環取引が論点となる税務調査では、「売上を多めに計上していたのだから、結局は税金を払い過ぎているだけではないか」という整理だけでは足りません。
確かに、実態のない売上を計上していた場合、その事業年度だけを切り取って見れば、法人税を過大に申告しているように映ることがあります。
ところが実務では、そう単純にはいきません。架空売上には、対応する架空仕入、在庫、外注費、資金循環、売掛金、貸倒処理、消費税、源泉所得税、役員や従業員への利益移転、そして重加算税といった論点が同時にぶら下がってくるからです。
なかでも循環取引は、注文書、請求書、検収書、入出金記録といった書類が形式的にはきれいにそろっていることが少なくありません。むしろ証憑が整っているがゆえに発覚が遅れ、税務調査で初めて「取引は本当に実在したのか」「資金はどう流れたのか」「最終的な需要はあったのか」が問われる、という場面に至ります。
この点については、日本公認会計士協会も過去に注意喚起を行っています。会計監査の文脈での公表ではありますが、取引の実態、証拠、内部統制、説明可能性をどう考えるかという視点は、税務調査への対応を考えるうえでも示唆に富むものです。
出典:日本公認会計士協会|会長通牒「循環取引等不適切な会計処理への監査上の対応等について」
本稿では、架空売上、循環取引、Uターン取引、帳合取引、スルー取引といった実態のない取引が、税務調査でどのように確認され、どこで判断が分かれるのかを整理します。
架空売上・循環取引・実態のない取引は、似ているようで違う
まずは、言葉の意味を整理しておきましょう。
架空売上とは、実際には商品やサービスの提供がないにもかかわらず、売上を計上する処理を指します。請求書だけを発行している、検収書はあるが納品や役務提供の実体がない、入金はあるが別の経路で資金が戻っている、といった形で現れます。
循環取引とは、複数の会社が関与し、商品や役務が企業間を転々と販売されたように見せる取引です。実物がまったく存在しない場合もあれば、実物はあっても最終的な需要や経済的合理性が乏しく、売上を計上するためだけに取引が循環している場合もあります。循環の出口、つまり最終的なエンドユーザーが存在しないと、取引はいずれ破綻し、取引金額や損害が膨らみやすいという特徴があります。
Uターン取引は、自社が販売した商品などが複数の会社を経由して、最終的に自社や関連先へ戻ってくる取引です。クロス取引やバーター取引のように、複数の企業が互いに売買を行い、形式上は取引が成立しているように見えても、実質的な需要やリスク移転に乏しいものもあります。循環取引では、参加企業が必ずしも全体像を把握しているとは限らず、仕入先・販売先・価格だけを指示されて取引に加わってしまうことも珍しくありません。
そして実態のない取引とは、これらを広く包み込む概念です。契約書、請求書、検収書、入金記録がそろっていても、取引の経済的実質、物流、役務提供、リスク移転、支配の移転、最終需要が確認できなければ、税務上も会計上も問題になります。
肝心なのは、「証憑があるかどうか」ではありません。「その証憑が、実際の取引を表しているかどうか」です。
なぜ税務調査で問題になるのか
架空売上や循環取引は、一見すると会計上の売上計上の問題にすぎないように見えます。
しかし税務調査では、論点が次のように広がっていきます。
- 法人税上、益金・損金・棚卸資産・貸倒損失をどう修正するか
- 消費税上、課税売上や仕入税額控除をどう扱うか
- 架空仕入や外注費が含まれる場合、損金性や源泉所得税に影響しないか
- 売掛金、買掛金、仮払金、貸付金、未収入金が実態と合っているか
- 役員や従業員への資金還流、キックバック、私的流用がないか
- 粉飾決算として仮装経理規定の対象になるか
- 過年度の修正申告、更正の請求、減額更正、修正経理が必要か
- 隠蔽・仮装として重加算税が問題にならないか
- 質問応答記録書にどのような供述が残るか
表面的には売上を過大に計上していても、その裏で架空原価や架空外注費が同時に計上されていることがあります。売上と仕入が同時に膨らんでいれば、利益への影響は小さく見えることもあります。ところが消費税の課税売上・課税仕入、売掛金・買掛金、資金移動、貸倒処理まで踏み込んで見ると、税務上の影響は決して単純ではありません。
さらに循環取引は、資金決済が実際に行われていることが多く、債権債務が滞留しないため、通常の帳簿確認だけでは見抜きにくいという厄介さがあります。注文書、検収書、請求書といった基本的な証憑が整っていることも多く、そのことがかえって発覚を遅らせるのです。
税務調査では、売上金額そのものだけでなく、取引の起点、終点、物流、決済、価格設定、関係者の認識、社内承認、後続年度の処理まで、丁寧に確認されていきます。
会計上の売上認識は「請求書を出したか」ではなく「支配が移転したか」が鍵になる
架空売上や循環取引を考えるうえでは、会計上の収益認識の考え方も外せません。
現在の収益認識基準では、売上を計上してよいかを判断する際、単に請求書を発行したか、契約書があるか、入金されたかだけでは足りません。約束した財またはサービスに対する支配が、顧客へ移転しているかどうかが重要になります。
企業会計基準適用指針第30号では、一時点で充足される履行義務について、顧客が資産に対する法的所有権を有しているか、物理的に占有しているか、重大なリスクと経済価値が移転しているか、顧客が検収したか、といった指標を考慮します。ただし、物理的な占有が常に支配と一致するわけではありません。買戻契約、委託販売契約、請求済未出荷契約などでは、特に慎重な判断が求められます。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第30号 収益認識に関する会計基準の適用指針
いわゆる「請求は済んでいるが出荷していない」請求済未出荷契約についても、当然に収益認識が認められるわけではありません。同指針では、合理的な理由があること、顧客に属するものとして区分して識別されていること、物理的な移転の準備が整っていること、企業がその商品を他の顧客に振り向ける能力を有していないことなど、一定の要件を満たす必要があるとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第30号 収益認識に関する会計基準の適用指針
こうした会計上の整理は、税務調査でも無視できません。
税務上は最終的に各税法の規定に基づいて判断されますが、申告所得の基礎となる会計処理が取引の実態を適切に反映しているかは、当然のように確認されます。とりわけ架空売上や循環取引では、「請求書がある」「検収書がある」という形式よりも、顧客が本当に商品やサービスを支配し、使用し、その便益を享受できる状態になっていたかどうかが問われます。
税務調査で確認の中心に置かれるのは「取引の実在性」
架空売上や循環取引が疑われる場合、税務調査でまず確認されるのは、取引の実在性です。
ここでいう実在性とは、帳簿に取引が記録されている、という意味ではありません。次のような事実を総合して見ていきます。
- 契約が実際に締結されているか
- 発注、納品、検収、請求、入金の流れが自然か
- 商品やサービスの内容が具体的か
- 取引先がその商品やサービスを必要としていたか
- 物流、在庫、作業、成果物が確認できるか
- 取引価格に合理性があるか
- 取引先との間に資金還流や相殺がないか
- エンドユーザーが存在するか
- 社内承認や稟議の内容が実態と合っているか
- 担当者だけでなく、会社として取引内容を把握していたか
税務調査で問われるのは、帳簿上の売上金額ではありません。取引が確かに存在したことを裏付ける、事実の鎖がつながっているかどうかです。
たとえば、注文書、請求書、検収書がそろっていても、エンドユーザーから入手した書類がない、物流が確認できない、利益率が他部門と比べて極端に低い、同じ担当者が仕入先と販売先の両方を指示している、入金と支払が短期間で循環している――こうした事情があれば、調査官は形式的な資料だけでは満足せず、取引の経済的実質まで踏み込んで確認しようとします。
物流・納品・検収はどこまで確認されるのか
架空売上や循環取引では、「物が動いているか」が非常に重要な手がかりになります。
ただし、物流の確認はそう単純ではありません。実物がまったくない架空取引もあれば、実物はあるものの、売上計上の根拠となる支配移転が伴わない取引もあります。商社的な取引、帳合取引、スルー取引では、自社が物を直接保管・出荷しないこともあります。そのため、「自社倉庫から出荷していないから架空だ」とも、「検収書があるから実在する」とも、簡単には断定できません。
税務調査では、次のような資料が確認されやすくなります。
- 納品書
- 検収書
- 出荷指示書
- 運送伝票
- 倉庫入出庫記録
- 在庫台帳
- シリアル番号、ロット番号
- 作業報告書
- 設置記録、設定記録、納入写真
- エンドユーザーへの納入確認資料
- 返品、再販売、転売の記録
特に循環取引では、最終的な納入先はどこか、商品が実際にどこに存在していたか、誰がいつ検収したのか、同じ商品が複数回売買されていないか、といった点が確認されます。
検収書があっても、検収した者が実際に物や役務の内容を確かめていなかったり、検収書が売上計上のためだけに作成されていたりすれば、売上認識の根拠としては弱くなります。
決済がある取引でも「実態がある」とは限らない
循環取引でとりわけ誤解されやすいのが、「実際に入金があるのだから売上は実在する」という考え方です。
確かに、入金のない架空売上に比べれば、入金のある取引は一見すると実在性が高そうに見えます。
しかし、循環取引では現金決済が実際に行われることがあります。むしろ現金決済があるからこそ、債権債務が長期間滞留せず、問題が見えにくくなるのです。
税務調査では、次のような資金の流れが確認されます。
- 売上入金の直前または直後に、近い金額の支払いがないか
- 複数社間で資金が円環状に回っていないか
- 同額、あるいは薄いマージンを乗せただけの金額で取引が連続していないか
- 入金が、別の仕入、外注、手数料、貸付金として戻っていないか
- 相殺、仮払金、未収入金、貸付金で処理されていないか
- 取引先の資金繰り支援になっていないか
- 金融機関向け資料と、実際の資金移動が一致しているか
循環取引では、仕入と売上がほぼ同時に計上され、薄いマージンだけが手元に残る形になることがあります。この場合、取引は売上目標の達成や取引規模の水増しには役立つものの、実質的には金融支援や伝票操作に近いものになっているのです。
入金があるから安全、ではありません。入金があるからこそ、資金の出入り全体を追う必要があるのです。
価格・マージン・経済合理性が問われる
架空売上や循環取引では、価格設定もまた重要な確認ポイントになります。
通常の商取引であれば、仕入価格、販売価格、利益率、在庫リスク、信用リスク、販売努力、役務提供の内容に応じて、一定の経済合理性が認められます。
ところが循環取引には、次のような特徴が現れることがあります。
- 極端に薄いマージンで取引が繰り返される
- 仕入先と販売先を第三者から指定される
- 価格交渉の実態がない
- 自社が在庫リスクや信用リスクをほとんど負っていない
- 取引金額だけが大きく、利益はわずかである
- 販売先がすぐに別の会社へ転売している
- 取引の目的が、売上計上や資金繰りに見える
- 同業者間で同じ商品が何度も転売されている
売上総額を計上している会社が、実質的には代理人に近い役割しか果たしていない場合、会計上も税務上も、売上総額をそのまま認識してよいかには疑義が生じます。収益認識基準の導入後は、顧客への財またはサービスの提供に複数の当事者が関与する場合に、自社が本人として行動しているのか、それとも代理人として関与しているにすぎないのか、という検討がより重みを増しています。循環取引の防止という観点からも、売上総額を安易に計上できない体制づくりが欠かせません。
税務調査では、価格の相当性だけでなく、「なぜその取引を、ほかでもない自社が行う必要があったのか」が問われます。
消費税では、売上側と仕入側の両方が問題になる
架空売上や循環取引では、消費税の論点も見落とせません。
消費税は、売上に係る消費税から仕入に係る消費税を控除して納付税額を計算する仕組みです。インボイス制度の下では、仕入税額控除の要件として、一定事項を記載した帳簿や適格請求書等の保存が重要になります。課税仕入れ等に係る消費税額を控除するには、その事実を記載し、区分経理に対応した帳簿、そして事実を証する請求書等を保存する必要がある、と国税庁も説明しています。
出典:国税庁|No.6496 仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存
また帳簿には、課税仕入れの相手方の氏名または名称、課税仕入れを行った年月日、資産または役務の内容、支払対価の額などを記載する必要があります。
出典:国税庁|No.6497 仕入税額控除のために保存する帳簿および請求書等の記載事項
ただし架空売上や循環取引では、請求書やインボイスがあるというだけでは安心できません。
そもそも実在しない取引であれば、課税仕入れそのものが存在しないと判断される可能性があります。
取引実態がないにもかかわらず仕入税額控除を行っていた場合には、消費税の追徴、加算税、重加算税の問題へと発展することもあります。
確認すべきは、次の点です。
- 実際に課税資産の譲渡等、または役務提供があったか
- 請求書・インボイスの記載内容が、取引実態と一致しているか
- 売上側と仕入側の消費税区分が整合しているか
- 取引先が適格請求書発行事業者であるか
- 帳簿記載、請求書保存、電子データ保存が整っているか
- 架空仕入や循環仕入により、仕入税額控除を過大にしていないか
- 返品、値引き、取消し、貸倒れの消費税処理を誤っていないか
消費税では、形式書類の不備だけでなく、取引実態そのものが問われます。特に循環取引では、売上側と仕入側が同時に膨らむため、法人税の利益への影響は小さく見えても、消費税の影響は大きくなることがあります。
法人税では「過大申告」と「過少申告」を分けて整理する
架空売上がある場合、その売上だけを見れば、利益を過大に計上しているように映ります。
しかし税務調査では、次のように分けて整理する必要があります。
- 架空売上による過大申告部分
- 架空仕入や架空外注費による過少申告部分
- 在庫、仕掛品、売掛金、買掛金の過大・過少
- 翌期以降の返品、値引き、貸倒れ、戻し処理
- 消費税の課税売上・課税仕入への影響
- 役員や従業員への資金還流
- 仮装経理規定の対象となる部分
- 重加算税の対象となる部分
過大申告と過少申告が混在している場合、単純に相殺して考えるのは危険です。
たとえば、架空売上を計上して過大に法人税を納めていたとしても、同時に架空外注費を計上して資金を外部へ流していれば、その部分は過少申告や役員給与認定の問題になります。
また、架空売上を翌期に取り消したり、貸倒れとして処理したりしている場合には、後続年度の損金処理が正しいかどうかも確認されます。
仮装経理に基づく過大申告については、通常の過大申告とは異なり、ただちに全額が還付されるとは限りません。修正経理や後続年度の処理との関係を整理する必要があります。仮装経理には、粉飾決算を税務上規制するという趣旨で法人税法上の取扱いが設けられており、過大納付税額の取扱いにも特別な整理が求められます。
出典:国税庁|C1-54 仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う法人税額・地方法人税額の還付の請求
重加算税は「架空取引だから当然」ではなく、事実認定で決まる
架空売上、循環取引、実態のない取引が税務調査で発覚すると、重加算税が問題になりやすくなります。
とはいえ、すべての誤処理が重加算税の対象になるわけではありません。
重加算税で問われるのは、単なる処理誤りや見解の相違ではなく、隠蔽・仮装にあたる事実があるかどうかです。国税通則法でも、隠蔽・仮装に基づいて申告した場合に、過少申告加算税等に代えて重加算税を課す仕組みが定められています。
出典:e-Gov法令検索|国税通則法
税務調査では、次のような事情が重視されます。
- 実在しない取引を帳簿に計上していたか
- 取引先と通謀していたか
- 証憑を後から作成・改ざんしていたか
- 実態と異なる検収書や納品書を作成していたか
- 資金を循環させて、実在する取引のように見せていたか
- 担当者個人の行為なのか、会社としての行為なのか
- 役員や経営者が認識・承認していたか
- 調査前から隠蔽・仮装の意図があったと認定できるか
- 調査時の説明や質問応答記録書に、どのような供述が残っているか
隠蔽・仮装の具体例としては、二重帳簿、帳簿書類の破棄・隠匿、改ざん、虚偽記載、意図的な集計違算、売上除外、棚卸除外、簿外資産からの収入除外などが挙げられます。もっとも、外形的な隠蔽・仮装が明確でない場合でも、申告当初からの意図や、外部からうかがえる行動などを手がかりに重加算税が主張されることがあります。そのため、事実関係は慎重に整理しておく必要があります。
「架空売上があったのだから重加算税で決まりだ」とも、「担当者がやったことだから会社には関係ない」とも、簡単には言い切れません。誰が、いつ、どの資料を作り、どのような認識で、どの申告に反映したのか――これを一つひとつ整理することが求められます。
質問応答記録書が作成される場面では、供述が重要な証拠になる
架空売上や循環取引が疑われる税務調査では、質問応答記録書が作成されることがあります。
質問応答記録書は、調査官が納税者や関係者から聴取した内容を記録する行政文書であり、後の重加算税、処分、不服申立てで重要な意味を持つことがあります。実務上は、隠蔽・仮装に係る取引そのものだけでなく、そこへ至る経緯やストーリーを明らかにし、処分内容を整理する目的で作成されることもあります。
架空売上・循環取引に関する調査では、次のような質問が想定されます。
- その取引を最初に持ち込んだのは誰か
- 仕入先と販売先を誰が決めたのか
- 価格はどのように決まったのか
- 商品やサービスを実際に確認したのか
- エンドユーザーを把握していたのか
- 検収書は誰が、いつ、何を確認して作成したのか
- 決済資金はどこから出て、どこへ戻ったのか
- 売上目標や金融機関対応との関係はあるか
- 過年度から同じ取引を繰り返していたのか
- 税理士、会計士、金融機関にどう説明していたのか
ここで、記憶が曖昧なまま断定したり、資料を確認せずに「実態はありませんでした」「決算対策でした」「担当者に任せていました」などと述べたりすると、後の事実認定で不利に働くおそれがあります。
もちろん、事実を隠すべきだという意味ではありません。大切なのは、確認できる事実、確認中の事実、記憶に基づく説明、資料で裏付けられる説明を、きちんと分けて伝えることです。
税務署への説明では「取引フロー」を描く
架空売上や循環取引の調査対応では、個々の請求書を単体で説明しても十分ではありません。
必要なのは、取引全体を見える化することです。
少なくとも、次のような整理を行っておきましょう。
- 取引先ごとの一覧
- 取引日、契約日、納品日、検収日、請求日、入金日
- 仕入先、販売先、エンドユーザー
- 商品・役務の内容
- 物流・納品・保管の経路
- 資金決済の経路
- 粗利率、マージン、価格設定の根拠
- 担当者、承認者、稟議の有無
- 関連するメール、チャット、議事録
- 会計仕訳と税務申告への反映
- 取消し、返品、値引き、貸倒れ、後続年度処理
循環取引では、取引を一つひとつ眺めるよりも、複数社間の流れを図示し、資金と物の流れを重ねて確認するほうが効果的です。
税務調査で説得力を持つのは、長い説明ではなく、資料相互の整合性です。売上、仕入、在庫、入出金、契約、物流、社内承認がつながっていなければ、どれだけ整った説明をしても、後から崩れやすくなります。
税務調査で指摘を受けたときの修正申告の判断
調査官から架空売上や循環取引を指摘されたとき、すぐに修正申告へ応じるべきかどうかは、慎重に見極める必要があります。
国税庁のFAQでも、行政指導と税務調査の違い、修正申告の要請、調査手続の明確化について説明されています。調査に基づく修正申告は、後の不服申立てとの関係にも影響するため、指摘内容を十分に整理しておかなければなりません。
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
特に、次の点を確認しないまま修正申告に応じるのは危険です。
- どの取引が否認の対象なのか
- 売上だけを取り消すのか、仕入・原価も修正するのか
- 過大申告部分と過少申告部分を分けているか
- 消費税の課税売上・仕入税額控除をどう修正するか
- 後続年度の返品、貸倒れ、戻し処理と重複しないか
- 重加算税を前提にした事実認定になっていないか
- 質問応答記録書の内容と、修正申告の内容が矛盾しないか
- 更正の請求や減額更正を検討すべき部分がないか
- 不服申立てを残すべき争点はないか
修正申告は、単なる税額の訂正ではありません。どの事実を認めたのか、どの法的評価を受け入れたのかが、後の重加算税や争訟に影響することがあります。
してはいけない対応
架空売上や循環取引が疑われたとき、決してしてはいけない対応があります。
- 契約書や検収書を後から作り直す
- 日付を過去にさかのぼって合わせる
- 取引先に口裏合わせの連絡をする
- メールやチャットを削除する
- 担当者だけで説明を統一しようとする
- 税務署に提出する資料を、意味づけしないまま大量に提出する
- 過大申告部分と過少申告部分を分けずに修正申告する
- 重加算税の可能性を検討しない
- 消費税への波及を見落とす
- 金融機関や株主への説明と、税務署への説明が矛盾する
不利な事実があったとしても、それを隠すことが最も危険です。税務調査対応で必要なのは、事実を消すことではなく、事実を整理することです。
特に循環取引では、関係会社、取引先、担当者、金融機関、場合によっては外部の専門家まで関与していることがあります。誰がどこまで認識していたのかを整理しないまま説明してしまうと、後から会社行為、担当者不正、役員関与の評価が変わってしまうことがあります。
調査前・調査中に確認しておくべき資料
架空売上・循環取引・実態のない取引が疑われる場合には、少なくとも次の資料を整理しておく必要があります。
| 確認資料 | 確認する目的 |
|---|---|
| 契約書・注文書 | 取引の発生原因、契約当事者、取引条件を確認する |
| 納品書・検収書 | 実際の納品、検収、役務完了の有無を確認する |
| 運送伝票・倉庫記録 | 商品の移動、保管、入出庫の実態を確認する |
| 請求書・インボイス | 記載内容と取引実態、消費税処理を確認する |
| 通帳・振込記録 | 資金決済、資金還流、同日決済、相殺を確認する |
| 売掛金・買掛金明細 | 債権債務の滞留、消込、相殺、貸倒れを確認する |
| 在庫台帳・棚卸表 | 実在在庫、滞留在庫、架空在庫の有無を確認する |
| 稟議書・議事録 | 会社としての承認、意思決定の経緯を確認する |
| メール・チャット | 価格指示、取引先指定、実態認識、隠蔽行為を確認する |
| 金融機関提出資料 | 外部説明と会計・税務処理の整合性を確認する |
資料を集めるだけでは足りません。資料同士に矛盾がないか、税務署に説明できる順番に並べられるかが重要です。
再発防止では「帳合取引に関与しない」というルールが要る
循環取引には、担当者が「取引先からの依頼だから」「帳合だけだから」「会社に損はないから」と考えて、つい関与してしまう側面があります。
しかし、取引の輪が途切れた瞬間に、損失、税務否認、重加算税、金融機関からの信用低下、場合によっては資金繰りの悪化へとつながります。循環取引が発覚すれば、金融機関との契約違反や財務制限条項への抵触が問題となり、資金繰りに深刻な影響を及ぼすこともあります。
再発防止には、「不正をしない」という抽象論だけでは足りません。次のようなルール化が必要です。
- 実需のない取引には関与しない
- エンドユーザーを確認できない取引は承認しない
- 仕入先と販売先を同一担当者が指定する取引をチェックする
- 薄利の大口取引は、取引目的を確認する
- 帳合取引、スルー取引、名義貸し的取引を禁止、または厳格承認とする
- 取引先からの信用供与の依頼を、営業現場だけで判断させない
- 取引フロー、物流、資金決済を定期的に確認する
- 高額取引、期末取引、同日決済取引を重点的にレビューする
- 疑義があれば、税理士・会計士に事前相談する
社内ルールとして、架空循環取引や帳合取引には関与しないことを明確にし、経営者自身がその姿勢を示すことが何より大切です。
架空売上・循環取引が疑われる場合は、早い段階で相談を
架空売上や循環取引が税務調査で問題になったとき、論点は会計処理だけでは終わりません。
法人税、消費税、源泉所得税、重加算税、質問応答記録書、修正申告、更正の請求、金融機関への説明、社内責任、再発防止が、同時に動き出します。
会社だけで対応しようとすると、次のようなリスクが生じます。
- 売上の取消しだけに気を取られ、仕入・消費税・資金還流を見落とす
- 過大申告部分と過少申告部分を混同する
- 質問応答記録書で不利な供述をしてしまう
- 重加算税の争点を整理しないまま修正申告する
- 税務署、金融機関、株主への説明が食い違う
- 担当者不正と会社行為の切り分けを誤る
- 調査後の再発防止が、形だけのものに終わる
犬飼公認会計士・税理士事務所では、税務調査対応を単なる税務署とのやり取りとしてではなく、取引実態、会計処理、証拠資料、税務上の評価、修正申告の判断、重加算税リスク、再発防止までを含めて整理します。
架空売上、循環取引、帳合取引、実態のない取引について税務調査で確認を受けている場合、あるいは社内で疑わしい取引が見つかった場合には、まず対象となる取引、関係資料、調査官からの指摘内容を整理したうえで、お問い合わせページからご相談ください。
重要ポイントの振り返り
| 論点 | 実務上の確認ポイント |
|---|---|
| 架空売上 | 請求書や入金だけでなく、納品・役務提供・支配移転を確認する |
| 循環取引 | 複数社間で取引と資金が回っていないか、エンドユーザーが存在するかを見る |
| Uターン取引 | 自社が販売した商品等が、複数社を経由して戻っていないか確認する |
| 証憑の有無 | 証憑があることではなく、証憑が実態を表しているかが重要 |
| 物流・検収 | 運送、倉庫、在庫、検収、エンドユーザー資料を確認する |
| 資金決済 | 同日・近接日決済、相殺、資金還流、薄いマージンを確認する |
| 消費税 | 架空仕入があれば、仕入税額控除否認やインボイス不備が問題になる |
| 法人税 | 過大申告部分と過少申告部分を分けて整理する |
| 重加算税 | 隠蔽・仮装の客観的事実、認識、供述、証拠関係が重要 |
| 質問応答記録書 | 記憶だけで断定せず、資料を確認してから事実を整理して対応する |
| 修正申告の判断 | 何を認めるのか、争う余地を残すのかを整理して判断する |
| 再発防止 | 帳合取引・スルー取引・実需のない取引を、営業現場だけで判断させない |
出典・参考情報
出典:日本公認会計士協会|会長通牒「循環取引等不適切な会計処理への監査上の対応等について」
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第30号 収益認識に関する会計基準の適用指針
出典:国税庁|税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
出典:国税庁|No.6496 仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存
出典:国税庁|No.6497 仕入税額控除のために保存する帳簿および請求書等の記載事項
出典:国税庁|C1-54 仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う法人税額・地方法人税額の還付の請求
出典:e-Gov法令検索|法人税法
出典:e-Gov法令検索|国税通則法
出典:e-Gov法令検索|消費税法