過年度誤謬・前期損益修正と法人税務|過去の処理誤りを当期で直せるか

過去の決算や申告に誤りが見つかったとき、経理の現場では「前期損益修正として当期に処理しておけばよいのではないか」と考えがちです。

しかし法人税務では、その発想がそのまま通用するとは限りません。

売上の計上漏れ、外注費の計上漏れ、棚卸資産の誤り、固定資産の取得価額の誤り、貸倒損失の計上時期の誤り、税額控除の適用漏れ。こうした誤りは、会計上は当期に前期損益修正として処理する場面があります。ただ税務では、「本来どの事業年度の益金・損金・税額控除として扱うべきだったのか」をあらためて確認しなければなりません。

法人税は、各事業年度ごとに所得を計算し、申告・納付する仕組みです。法人税法22条は、所得計算にあたり、別段の定めがあるものを除いて、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従う旨を定めています。とはいえ、会計処理が存在するからといって、それが常にそのまま法人税の所得計算に採用されるわけではありません。
出典:e-Gov法令検索|法人税法

とりわけ注意したいのが、本来は過去の事業年度で処理すべきだった単なる計上漏れを、後の事業年度で前期損益修正として損金算入するケースです。こうした処理については、裁判例でも慎重な判断が示されています。東京地裁平成27年9月25日判決は、過年度の外注費計上漏れを後の事業年度で前期損益修正損として損金算入することは、公正処理基準に該当するとは認められないと判断しました。

本稿では、過年度誤謬・前期損益修正を単なる会計処理の問題にとどめず、次の観点から整理していきます。法人税務上どの年度で処理すべきか。修正申告・更正の請求・当期処理をどう切り分けるか。そして、判断を誤ったときにどのような経営上のリスクが残るか、という観点です。

なお、本稿は2026年6月時点で確認できる公的情報を前提としています。実際の対応では、対象となる事業年度、税目、申告状況、税務調査の有無、会計基準の適用状況、過去の申告書、証憑、契約関係などによって結論が変わります。最新の法令・通達・公的情報とあわせて、個別の資料を確認することが欠かせません。

目次

過年度誤謬と前期損益修正は同じではない

まず、言葉の整理から始めます。

過年度誤謬とは、過去の財務諸表や決算に含まれていた誤りをいいます。たとえば、売上の計上漏れ、仕入の二重計上、棚卸数量の誤り、減価償却計算の誤り、税額控除の適用漏れなどです。

一方、前期損益修正とは、過去の損益に関する修正額を、当期の損益計算書に特別損益として表示する会計上の処理を指すことがあります。

会計上の変更および過去の誤謬の訂正については、企業会計基準委員会(ASBJ)の企業会計基準第24号が、会計方針の開示、会計上の変更、過去の誤謬の訂正に関する取扱いを定めています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第24号 会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準

ただし、法人税務で問題になるのは、「会計上どう表示するか」だけではありません。

法人税務で問われるのは、次の点です。

確認すべき点実務上の意味
誤りが生じた事業年度本来の益金・損金の帰属年度を確認する
誤りの性質単純な計上漏れか、見積り変更か、後発的事由か、仮装経理かを区別する
税額への方向追加納税か、還付・欠損金増加かを確認する
是正手続修正申告、更正の請求、当期処理のどれを検討するかを決める
期間制限更正の請求や税務署側の更正が可能な期間を確認する
当期決算との整合性会計上の前期損益修正を税務上どう調整するかを整理する
将来影響欠損金、税効果会計、金融機関説明、M&A・事業承継への影響を確認する

この整理をせずに「前期損益修正で処理したから税務も完了」と考えてしまうと、思わぬ問題が生じます。当期の法人税申告で損金否認される、過去年度の修正機会を失う、繰越欠損金や税額控除が不整合になる、といった事態です。

法人税務では「本来どの年度の所得か」が出発点になる

法人税の所得計算は、各事業年度ごとに行います。

そのため、過去の処理誤りが見つかったときにまず確認すべきなのは、「その取引や事実は、本来どの事業年度に帰属するものだったのか」という点です。

たとえば、次のように整理します。

発見された内容税務上の基本的な考え方
前期の売上計上漏れ原則として前期の益金漏れであり、修正申告を検討する
前期の外注費計上漏れ原則として前期の損金漏れであり、更正の請求を検討する
前期末棚卸資産の過少計上前期の売上原価過大、所得過少として修正申告を検討する
過去に取得した固定資産の取得価額誤り取得価額、減価償却、税額控除、固定資産台帳を遡って確認する
過去の税額控除の適用漏れ当初申告要件や更正の請求の可否を制度ごとに確認する
過去に粉飾して売上を過大計上仮装経理に基づく過大申告として通常の更正の請求とは別の論点を確認する

ここで押さえておきたいのは、会計上の仕訳が当期に起きているからといって、税務上も当期の益金・損金になるとは限らないということです。

たとえば、過年度の外注費計上漏れを当期に発見し、会計上は当期の「前期損益修正損」として処理したとします。しかし、その外注費が過去の役務提供に係るものであり、過去の売上に対応する原価として本来は過去の事業年度に損金算入すべきものであれば、法人税務上は当期損金とは認められない可能性があります。

先の東京地裁平成27年9月25日判決でも、単なる計上漏れを後の事業年度で前期損益修正として処理することを法人税法上認めれば、恣意的な年度選択を許すことになり、公平な所得計算の要請に反する、と整理されています。

この点は、中小企業の実務でとても重要になります。

「税務上の損金になるかどうか」は、当期に会計処理したかどうかではなく、法人税法上その事業年度の損金として認められる事実があるかどうかで判断するのです。

修正申告・更正の請求・当期処理の切り分け

過年度誤謬が見つかった場合の手続は、大きく3つに分かれます。

区分典型的な場面税務手続
税額が過少だった売上計上漏れ、損金過大、税額控除過大修正申告
税額が過大だった売上過大、損金計上漏れ、欠損金過少、還付金過少更正の請求
過去の申告は当時正しく、後発的事由が当期に発生した後日の値引き、契約解除、債権回収不能の確定、訴訟確定等当期処理または後発的事由による更正の請求を検討

国税庁は、確定申告期限後に誤りに気付いた場合について、次のように整理しています。税額を多く申告していたときは更正の請求、少なく申告していたときは修正申告という切り分けです。更正の請求は、その内容が正当と認められたときに減額更正が行われ、納め過ぎた税金が還付される手続です。
出典:国税庁|申告が間違っていた場合

法人税および地方法人税の更正の請求について、国税庁は、すでに行った申告において納付すべき税額が過大である場合、翌期へ繰り越す欠損金額が過少である場合、還付金額が過少である場合などに更正を求める手続であると説明しています。また、国税通則法23条1項に基づく一般的な更正の請求は原則として法定申告期限から5年以内、同条2項の後発的事由に基づくものは該当事実の翌日から2か月以内などとされています。
出典:国税庁|C1-12、H1-2 法人税及び地方法人税の確定申告に係る税額等についての更正の請求

さらに、法人税の翌期へ繰り越す欠損金額が過少である場合などに係る更正の請求については、平成30年4月1日以後に開始した事業年度に係るものは10年以内とされています。赤字年度の誤りは、当期税額がゼロであっても将来の税負担に影響します。決して軽視できません。
出典:国税庁|C1-12、H1-2 法人税及び地方法人税の確定申告に係る税額等についての更正の請求

ここで注意しておきたいのは、「更正の請求期限を過ぎたから、当期の前期損益修正損として損金にすればよい」という考え方が危険だということです。

更正の請求期限を徒過した場合、それは過去年度の過大納税を是正する手続上の機会を失ったという問題にすぎません。当然に当期損金として救済される、という意味ではないのです。

「単なる計上漏れ」と「後発的事由」は分けて考える

過年度修正でもっとも判断を誤りやすいのが、単なる計上漏れと後発的事由の混同です。

単なる計上漏れとは、過去の事業年度の時点で必要な資料や事実がすでに存在しており、本来その年度に処理すべきだったにもかかわらず、処理を漏らしていたものです。

一方、後発的事由とは、過去の申告時点では申告内容が正しかったものの、その後に契約解除、判決、和解、債権放棄、価格調整、破産手続などの新たな事実が生じたものを指します。

区分税務上の検討
単なる計上漏れ前期に納品済みの商品売上を計上していなかった前期の修正申告
単なる計上漏れ前期に役務提供を受けた外注費を未計上だった前期の更正の請求
後発的事由前期売上について当期に返品・値引きが合意された契約内容、当初から予定された価格調整か、当期事由かを確認
後発的事由過去に発生した債権が当期に法的整理で回収不能となった貸倒損失の損金算入時期を確認
後発的事由過去の取引について当期に判決・和解で権利関係が確定した更正の請求の後発的事由に該当するか、当期処理かを検討

もっとも、後発的事由であれば常に過去年度の更正の請求が認められる、というわけではありません。

最高裁令和2年7月2日判決は、法人が過去に受領した制限超過利息等を益金算入して申告した後、その後の破産手続で不当利得返還請求権に係る破産債権が確定した事案について、次のように判断しました。当該制限超過利息等の受領日の属する事業年度の益金を減額する計算は、公正処理基準に従ったものとはいえない、という判断です。
出典:国税庁|令和2年判決分(税務訴訟資料第270号)

この判例から読み取るべき実務上の教訓は、後から過去の取引に関する事情が変わったとしても、直ちに「過去年度の益金・損金が誤っていた」とはいえない場合があるということです。

したがって、過年度修正では、次の問いを必ず立てておく必要があります。

問い判断の意味
過去の申告時点で、その処理は誤っていたのか誤っていたなら修正申告・更正の請求を検討する
過去の申告時点では正しく、後に事情が変わったのか当期処理または後発的事由による更正の請求を検討する
後発的事由は国税通則法23条2項の要件に該当するか該当事実の翌日から2か月以内などの期限を確認する
会計上の処理と税務上の帰属年度が一致するか当期申告で加算・減算調整が必要かを確認する

会計上の前期損益修正を税務上どう扱うか

過年度誤謬を会計上、当期に前期損益修正損益として処理した場合でも、法人税申告では別途の検討が必要になります。

典型的には、次のように整理します。

会計処理税務上の基本対応
当期に前期損益修正損を計上当期損金にならない場合は、別表四で加算調整を検討する
当期に前期損益修正益を計上当期益金にならない場合は、別表四で減算調整を検討する
過去年度について修正申告当期ではなく過去年度の所得・税額を増額修正する
過去年度について更正の請求当期ではなく過去年度の所得・税額・欠損金を減額・増額修正する
当期発生の後発的事由当期の益金・損金として処理できるかを検討する

たとえば、前期の外注費計上漏れを当期に前期損益修正損として会計処理したものの、税務上は本来前期の損金と判断される場合を考えてみます。この場合、当期の法人税申告では、その前期損益修正損を当期損金として扱わない調整が必要になる可能性があります。そのうえで、前期について更正の請求が可能かどうかを検討することになります。

逆に、前期の売上計上漏れを当期に前期損益修正益として会計処理したものの、税務上は本来前期の益金と判断される場合はどうでしょうか。このときは、当期の益金として扱うのではなく、前期について修正申告を検討します。あわせて、当期申告では二重課税にならないよう調整が必要です。

ここで重要になるのが、別表四・別表五(一)の管理です。

当期の会計処理と税務上の帰属年度がズレると、税務調整が当期だけで完結しないことがあります。利益積立金額、繰越欠損金、繰延税金資産、地方税、翌期以降の別表引継ぎまで、丁寧に確認しておく必要があります。

この論点については、次の記事「6-5. 別表四・別表五(一)と留保・社外流出の管理」でさらに掘り下げていきます。

更正の請求期限を過ぎた場合の注意点

過去の費用計上漏れが見つかり、本来であれば過去年度の更正の請求で税額を減らせたはずでも、すでに更正の請求期限を過ぎている場合があります。

このとき、もっとも危険なのが、「期限が過ぎているなら当期の前期損益修正損として損金にすればよい」という判断です。

税務上は、期限徒過により更正の請求ができないことと、当期損金として認められることは、まったくの別問題です。前述の過年度外注費計上漏れの裁判例でも、更正の請求期限を徒過したとみられる状況で、後の事業年度に前期損益修正として処理したことが問題となっています。

この場面で整理すべきことは、次のとおりです。

確認事項実務上の意味
更正の請求期限が本当に徒過しているか法定申告期限、延長承認、欠損金、後発的事由を確認する
当期損金となる別の事実があるか当期に債務確定、貸倒れ、価格調整等が発生したかを確認する
会計上の処理を税務上どう調整するか当期損金不算入なら加算調整が必要
金融機関・株主への説明過去決算の信頼性に影響する可能性がある
再発防止策月次締め、支払照合、契約管理、決算レビューを見直す

更正の請求期限を過ぎた誤りは、税務上の救済が限定されるだけにとどまりません。社内管理体制の問題としても残ります。税務だけの話として片付けず、決算品質・内部管理・金融機関説明の論点として扱うべきものです。

税額控除・優遇税制の過年度誤りはさらに慎重に扱う

過年度誤謬のなかでも、税額控除や優遇税制の適用漏れ・記載誤りには、とりわけ注意が必要です。

というのも、税額控除制度には、当初申告での明細書添付や記載が適用要件となっているものがあるからです。

たとえば、中小企業経営強化税制などでは、当初申告で制度を適用していなかったにもかかわらず、修正申告書や更正請求書の提出により新たに制度を適用することはできない、と整理される場面があります。また、当初申告に添付した書類に記載した取得価額が実際より少なかった場合でも、修正申告や更正の請求を機会にその記載金額を増額訂正できないことがあります。

その一方で、修正申告により法人税額が増加した場合には、当初申告ですでに適用していた税額控除について、法人税額による控除上限額が増える余地が生じることもあります。

このように、税額控除は「後から見つかったから直せる」と単純に割り切れるものではありません。

誤りの内容実務上の注意点
当初申告で税額控除を適用していなかった更正の請求で新規適用できるか制度ごとに確認する
明細書の取得価額を少なく記載した後から増額訂正できない場合がある
修正申告で法人税額が増えた当初適用済みの控除上限額が増える可能性がある
後日値引き・返品があった取得価額修正、税額控除修正、当期益金処理を確認する
特別償却不足額・準備金がある将来年度の繰越・取崩しに影響する

優遇税制の誤りは、単年度の税額だけの問題ではありません。設備投資判断、資金繰り、税額控除限度額、繰越、別表六、適用額明細書にまで影響します。適用漏れが発覚した時点で、制度ごとの当初申告要件を確認しておくことが重要です。

仮装経理・粉飾決算は通常の過年度誤謬と分けて考える

過年度誤謬のなかには、単純ミスではなく、仮装経理・粉飾決算が関係するものがあります。

仮装経理とは、会計処理基準や事実に反して利益を過大に計上し、経営成績や財政状態を実態より良く見せる処理をいいます。粉飾決算により過大な法人税を納付した場合、通常の過大申告と同じように直ちに還付されるわけではありません。

国税庁は、仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う法人税額・地方法人税額の還付請求について、法人税法135条4項等に基づく手続として案内しています。一定の事実が生じた場合には、その事実が生じた日以後1年以内に還付請求を行う手続とされています。
出典:国税庁|C1-54 仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う法人税額・地方法人税額の還付の請求

この論点は、税務だけで完結するものではありません。

粉飾決算がある場合には、次のような対応が必要になります。

観点確認すべき事項
会計修正経理、過年度決算、株主・金融機関への説明
税務仮装経理に基づく過大申告、更正、還付制限、後続事業年度での控除
会社法取締役責任、計算書類、株主総会、配当可能額
金融機関借入条件、財務制限条項、信用格付、リスケ交渉
税務調査仮装・隠蔽、重加算税、質問応答記録
再発防止内部統制、承認権限、月次レビュー、外部専門家の関与

仮装経理は、「過去の誤りを当期で直す」という通常の誤謬訂正とは性質が異なります。むしろ危機対応です。税金の還付を急ぐ前に、会社としてどの事実を認め、どの範囲を修正し、誰にどう説明するのかを整理する必要があります。

実務でよくある判断場面

売上計上漏れが見つかった場合

前期に納品・検収が完了していたにもかかわらず売上を計上していなかった場合、これは原則として前期の益金計上漏れです。

このとき、当期に前期損益修正益を計上して終わりにするのではなく、前期の修正申告を検討します。当期にも会計上で収益を計上している場合には、二重課税にならないよう、当期申告で調整する必要があります。

確認資料としては、契約書、注文書、納品書、検収書、請求書、入金資料、売上管理表が挙げられます。

費用計上漏れが見つかった場合

前期に役務提供を受け、債務も確定していた外注費・業務委託費・修繕費などを計上していなかった場合、これは原則として前期の損金漏れです。

このときは、前期について更正の請求ができるかを確認します。更正の請求期限を過ぎている場合であっても、当然に当期損金にできるわけではありません。

確認資料としては、契約書、請求書、成果物、検収資料、支払資料、稟議書、取引先とのやり取りが挙げられます。

棚卸資産の誤りが見つかった場合

前期末の棚卸数量が過少だった場合、前期の売上原価が過大になり、前期所得が過少になっている可能性があります。逆に、棚卸数量が過大だった場合には、前期所得が過大だった可能性があります。

棚卸誤りは、翌期の売上原価にも影響します。前期だけでなく、当期首棚卸・当期売上原価・当期利益にも連動するため、単年度で処理を完結させないことが重要です。

確認資料としては、棚卸表、実地棚卸記録、在庫管理システム、廃棄記録、仕入・売上データ、原価計算資料が挙げられます。

固定資産の取得価額誤りが見つかった場合

過去に取得した固定資産について、付随費用の計上漏れ、値引き、補助金、圧縮記帳、資本的支出と修繕費の区分誤りが見つかることがあります。

この場合、取得価額だけでなく、過年度の減価償却限度額、償却超過額・償却不足額、固定資産台帳、税額控除の基礎金額、償却資産税にまで影響が及びます。

当期に前期損益修正損益を計上するだけで終わらせず、過去年度の修正申告・更正の請求、当期以降の減価償却計算、別表十六の整合性を確認する必要があります。

貸倒損失の時期誤りが見つかった場合

過去から回収困難だった債権について、当期に「前期から悪かったので前期損益修正損にする」と判断するのは危険です。

貸倒損失は、法律上の貸倒れ、事実上の貸倒れ、形式基準など、損金算入時期を判断するための事実確認が重要になります。過去から債権状態が悪かったことと、税務上その事業年度に貸倒損失として損金算入できることは、同じではありません。

確認資料としては、債権管理台帳、督促記録、取引停止時期、相手先の破産・民事再生資料、債権放棄通知、回収努力資料、取締役会議事録が挙げられます。

過年度誤謬が見つかったときの判断手順

実務では、次の順序で整理していくと、判断を誤りにくくなります。

1. 誤りの内容を特定する

まず、売上、費用、棚卸、固定資産、税額控除、欠損金、源泉税、消費税、地方税のどこに誤りがあるのかを特定します。

「前期損益修正」という勘定科目名で判断してはいけません。勘定科目ではなく、取引事実そのものを確認します。

2. 本来の帰属年度を確認する

次に、その取引や事実が本来どの事業年度に属するのかを確認します。

契約日、納品日、検収日、役務提供完了日、請求日、支払日、債務確定日、権利確定日を整理します。あわせて、売上と原価が対応しているかも確認します。

3. 単なる誤謬か、後発的事由かを区別する

過去の時点で分かっていたはずの誤りなのか、後に新たな事実が発生したのかを区別します。

この区別が、修正申告・更正の請求・当期処理の分岐点になります。

4. 税額への方向を確認する

過去年度の税額が増えるのか、減るのか、あるいは欠損金だけが変わるのかを確認します。

税額が増えるなら修正申告、減るなら更正の請求を検討します。欠損金が変わる場合には、将来年度への影響を試算します。

5. 期間制限を確認する

更正の請求期限、修正申告の可否、税務署側の更正期間、欠損金に関する特例的な期間を確認します。

期限の確認を後回しにすると、対応方針そのものが変わってしまうことがあります。

6. 当期会計処理と税務調整を設計する

当期に前期損益修正損益を計上する場合でも、税務上は当期の益金・損金とするのか、別表四で調整するのかを決めます。

また、別表五(一)や別表七に影響する場合には、翌期以降の引継ぎまで確認しておきます。

7. 説明資料を残す

最後に、判断の過程を資料化します。

少なくとも、次の記録は残しておくべきです。

記録項目内容
誤謬の概要何が、どの年度で、いくら誤っていたか
発見経緯月次レビュー、決算作業、税務調査、金融機関指摘、取引先照合など
原因入力漏れ、資料不足、判断誤り、承認漏れ、仮装経理の有無
税務判断修正申告、更正の請求、当期処理、税務調整の理由
金額影響本税、地方税、延滞税、加算税、欠損金、税額控除、税効果
根拠資料契約書、請求書、台帳、議事録、稟議書、計算資料
承認経営者、経理責任者、顧問税理士、必要に応じて取締役会
再発防止策月次締め、証憑管理、承認フロー、決算レビューの見直し

経営判断上のリスク

過年度誤謬は、税額だけの問題ではありません。

過去の数字を直すということは、会社の利益管理、資金繰り、金融機関対応、M&A、事業承継、税務調査にまで影響します。

経営上の影響内容
資金繰り修正申告により追加納税・延滞税が発生する可能性がある
金融機関対応過去決算の信頼性、借入審査、財務制限条項に影響する
税務調査単純ミスか、隠蔽・仮装か、説明資料の有無が問われる
欠損金管理赤字年度の誤りが将来の税負担に影響する
税効果会計繰延税金資産の回収可能性や税金費用に影響する
M&A税務デューデリジェンスで過去申告リスクとして検出される
事業承継株価評価、役員退職金、オーナー貸付金整理に影響する
内部管理月次決算・承認フロー・資料保存の弱さが顕在化する

とりわけ、M&Aや事業承継を控えている会社では、過年度誤謬の放置が大きなリスクになります。

買い手や後継者は、過去の決算書と申告書に目を通します。過年度誤謬が見つかったときに、会社がどのように調査し、どの手続で是正し、どの資料を残したのか。その一連の対応は、会社の管理水準そのものを映し出します。

専門家に相談すべき場面

過年度誤謬が軽微な入力ミスで、税額への影響も小さく、他年度や他税目への影響もない場合は、社内と顧問税理士で整理できることもあります。

しかし、次のような場合には、早い段階で専門家に相談すべきです。

相談すべき場面理由
複数年度にわたる誤り修正申告・更正の請求・別表引継ぎが複雑になる
更正の請求期限が近い期限徒過により救済が失われる可能性がある
欠損金が変動する将来税負担や税効果会計に影響する
税額控除・優遇税制が関係する当初申告要件により後から適用できない場合がある
前期損益修正損を当期損金にしている損金否認リスクがある
税務調査で指摘されている修正申告に応じるか、更正を受けるかの判断が必要
仮装経理・粉飾決算の可能性がある通常の更正の請求とは異なる対応が必要
金融機関・株主・親会社への説明が必要税務だけでなく財務報告・信用管理に影響する
M&A・事業承継を予定している税務DDや株価評価に影響する

過年度誤謬は、発見した瞬間よりも、その後の初動が重要です。

「とりあえず当期で前期損益修正」と処理してしまう前に、税務上の帰属年度、是正手続、証拠資料、将来影響を整理しておく。それが、会社を守る判断につながります。

犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について

過年度誤謬や前期損益修正は、会計処理だけで完結する論点ではありません。

過去の処理誤りを当期で直せるのか。修正申告が必要なのか。更正の請求ができるのか。更正の請求期限を過ぎている場合にどう整理すべきか。税務調査でどのように説明すべきか。これらは、個別の事実関係と資料によって判断が分かれます。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、過年度誤謬が見つかった場合に、対象年度、会計処理、法人税申告、別表調整、欠損金、税額控除、税効果会計、税務調査対応、金融機関説明までを含めて整理し、会社として説明可能な是正方針を検討します。

過去の処理誤りを当期で処理してよいか不安がある、更正の請求や修正申告の要否を確認したい、税務調査で前期損益修正を指摘されている、M&A・事業承継の前に過去申告リスクを整理しておきたい。そうした場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所のお問い合わせページからご相談ください。

重要ポイントの振り返り

論点押さえるべきポイント
過年度誤謬過去の決算・財務諸表・申告に含まれていた誤りをいう
前期損益修正会計上、過去損益の修正額を当期損益として表示する処理を指すことがある
税務上の出発点勘定科目ではなく、本来どの事業年度の益金・損金かを確認する
単なる計上漏れ原則として本来の事業年度に遡って修正申告・更正の請求を検討する
後発的事由過去申告時点では正しく、その後に新事実が発生した場合は、当期処理か後発的事由による更正の請求を検討する
当期損金処理の注意点過去の費用計上漏れを当期の前期損益修正損として処理しても、税務上当期損金になるとは限らない
更正の請求一般的には法定申告期限から5年以内、一定の欠損金関係は10年以内など、期限確認が重要
税額控除当初申告要件がある制度では、後から新規適用や金額増額ができない場合がある
仮装経理粉飾決算に基づく過大申告は、通常の過大申告とは異なる還付制限・特別手続を確認する
別表管理当期会計処理と税務上の帰属年度がズレる場合、別表四・五(一)・七への影響を確認する
経営上の影響税額だけでなく、金融機関説明、M&A、事業承継、税効果会計、税務調査に影響する
実務対応誤謬の内容、発見経緯、帰属年度、金額影響、根拠資料、承認、再発防止策を記録する
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