法人税申告書の中でも、経営者や経理責任者にとって特に読み解きづらいのが、別表四と別表五(一)ではないでしょうか。
別表四は「所得の金額の計算に関する明細書」、別表五(一)は「利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書」です。国税庁が公表している令和7年版「法人税のあらましと申告の手引」でも、この2つは主要な申告書別表として位置づけられています。
出典:国税庁|令和7年版 法人税のあらましと申告の手引
ただ、この2つの別表は、税額計算のための単なる付属資料ではありません。
別表四は、会計上の利益を法人税法上の所得へと変換していく表です。
一方の別表五(一)は、その税務調整のうち翌期以降へ持ち越されるもの、あるいは資本等取引として管理すべきものを、税務上の純資産の履歴として残していく表です。
つまりこの2つは、単年度の申告書を作成するためだけの書類ではありません。将来の損金算入、税効果会計、繰越欠損金、資本政策、自己株式、組織再編、M&A、清算、事業承継にまで影響が及ぶ、いわば「税務上の履歴管理台帳」といえる存在です。
本記事では、この別表四・別表五(一)の基本構造を、加算・減算、留保・社外流出、利益積立金額、資本金等の額、翌期引継ぎという、実務判断の軸に沿って整理していきます。
なお、申告書別表の様式や欄番号は、年度によって改訂されます。実際の申告にあたっては、対象となる事業年度に対応した国税庁公表の様式・記載要領を必ずご確認ください。国税庁は、令和7年4月1日以後終了事業年度分などを含め、年度別の法人税等各種別表を公表しています。
出典:国税庁|法人税、地方法人税及び防衛特別法人税の申告(法人税申告書別表等)
別表四と別表五(一)は「当期の税額」と「将来の税務履歴」をつなぐ
法人税の申告では、まず決算書上の当期純利益を出発点にします。
もっとも、会計上の利益と法人税法上の所得は、そのまま一致するわけではありません。法人税法22条は、内国法人の各事業年度の所得について、益金の額から損金の額を控除して計算することを定めています。そして、益金・損金の額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うものとされています。
出典:e-Gov法令検索|法人税法
この「会計上の利益」と「税務上の所得」との差を調整していくのが、別表四の役割です。
ただ、別表四で調整した項目のすべてが、その当期だけで終わるわけではありません。たとえば、減価償却超過額、貸倒引当金繰入限度超過額、評価損否認額、棚卸資産評価の差額といった項目は、翌期以降の認容・取崩し・売却・除却などを通じて、税務上解消されていく可能性があります。
こうした翌期以降にまで影響を残す税務調整を管理するのが、別表五(一)の「利益積立金額」です。
別表四が「当期の所得計算の表」だとすれば、別表五(一)は「税務上の残高管理の表」だと整理すると、両者の役割の違いが見えやすくなります。
| 別表 | 役割 | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| 別表四 | 会計上の利益から税務上の所得へ調整する | 当期の課税所得・欠損金を計算する |
| 別表五(一)Ⅰ | 利益積立金額を管理する | 留保された税務調整を翌期以降に引き継ぐ |
| 別表五(一)Ⅱ | 資本金等の額を管理する | 資本取引、自己株式、減資、組織再編、みなし配当等に影響する |
別表四の基本|加算・減算とは何か
別表四では、会計上の当期利益、または当期欠損の額を出発点として、税務上の加算・減算を行っていきます。
加算とは、会計上は費用または損失として処理されているものの税務上は損金に算入できないもの、あるいは会計上は収益に入っていないものの税務上は益金に算入すべきものを、所得に加える処理です。
減算とは、会計上は収益として処理されているが税務上は益金に算入しないもの、あるいは会計上は費用に入っていないが税務上は損金算入できるものを、所得から差し引く処理を指します。
| 調整 | 典型例 | 所得への影響 |
|---|---|---|
| 加算 | 役員給与の損金不算入額、交際費等の損金不算入額、寄附金損金不算入額、減価償却超過額 | 課税所得を増やす |
| 減算 | 受取配当等の益金不算入額、過年度に否認した減価償却超過額の認容、税務上損金算入できる準備金等 | 課税所得を減らす |
ここで押さえておきたいのは、加算・減算は「税額を増やす・減らす」だけの操作ではない、という点です。
その調整が当期で完結するのか、それとも翌期以降に残るのか。この違いによって、別表五(一)への反映のされ方も変わってきます。
留保と社外流出の違い
別表四で加算・減算した項目は、通常、「留保」と「社外流出」に区分されます。
この区分は、単なる形式上の分類ではありません。翌期以降に税務上の影響が残るかどうかを見極める、重要な判断です。
留保とは
留保とは、税務調整の影響が会社内部に残っており、翌期以降に解消される可能性があるものを指します。
たとえば、会計上は減価償却費を計上したものの、税務上の償却限度額を超えていたため、超過部分を損金不算入として加算したとします。この超過額は、翌期以降、減価償却資産の税務上の帳簿価額との差として残っていきます。
このような項目は、将来の償却・売却・除却などによって減算される可能性があります。そのため、別表四では加算留保とし、別表五(一)では利益積立金額として管理していきます。
社外流出とは
社外流出とは、税務上の差異が会社内部に残らず、翌期以降に戻ってこないものを指します。
たとえば、役員給与の損金不算入額、交際費等の損金不算入額、寄附金の損金不算入額といった項目です。これらは会計上すでに社外へ支出されており、税務上損金にならないとしても、将来の損金算入として戻ってくる性質のものではありません。
こうした項目は、当期の課税所得を増やして終わるため、別表五(一)で翌期へ引き継ぐ残高にはなりません。
| 区分 | 意味 | 代表例 | 翌期以降への影響 |
|---|---|---|---|
| 留保 | 税務調整が会社内部に残る | 減価償却超過額、貸倒引当金繰入限度超過額、評価損否認額、税務上の資産・負債差額 | あり |
| 社外流出 | 税務調整が会社内部に残らない | 交際費等の損金不算入額、寄附金損金不算入額、役員給与損金不算入額、法人税等損金不算入額 | 原則なし |
国税庁の記載要領でも、別表四の「留保」欄の金額が、別表五(一)Ⅰ「利益積立金額の計算に関する明細書」の当期の増減欄へきちんと移記されているかを確認するチェックポイントが示されています。
出典:国税庁|令和7年版 法人税のあらましと申告の手引 申告書作成上の留意点
別表五(一)Ⅰ|利益積立金額とは何か
利益積立金額は、会計上の利益剰余金と似ているものの、同じものではありません。
法人税法上、利益積立金額は、法人の所得の金額で留保している金額として政令で定める金額をいうものとされています。
出典:e-Gov法令検索|法人税法
実務の感覚としては、利益積立金額を「税務上の利益剰余金」と捉えておくと、理解しやすくなります。
ただし、会計上の利益剰余金と税務上の利益積立金額は、次のような理由でズレが生じます。
| ズレの原因 | 具体例 |
|---|---|
| 損益認識時期の違い | 減価償却超過額、引当金否認、評価損否認 |
| 税務上永久に認められない損金 | 交際費損金不算入、寄附金損金不算入、役員給与損金不算入 |
| 税務上益金不算入となる収益 | 受取配当等の益金不算入、一定の受贈益益金不算入 |
| 税務上の資産・負債の簿価差 | 圧縮記帳、組織再編、譲渡損益調整、減価償却差額 |
| 税金関係 | 納税充当金、未納法人税等、未収還付法人税等 |
| 資本等取引 | 自己株式、資本払戻し、減資、合併・分割等 |
別表五(一)Ⅰは、こうした差異のうち利益積立金額に関係するものを、期首から期末まで途切れなくつないでいく表です。
国税庁の記載要領では、別表五(一)の「期首現在利益積立金額」について、原則として前期分の同表の「差引翌期首現在利益積立金額」の各欄の金額を移記するものとされています。更正または決定があった場合には、その際に通知された金額を反映する必要があります。
出典:国税庁|令和7年版 法人税のあらましと申告の手引 申告書作成上の留意点
この「前期末から当期首への引継ぎ」こそが、別表五(一)の核心です。
別表五(一)が崩れると、税務調整の履歴が途切れてしまいます。履歴が切れると、将来認容できるはずの損金を見落としたり、逆にすでに解消済みの差異を残し続けたり、あるいはM&Aや清算の場面で税務上の純資産を誤ってしまったりと、さまざまな問題が生じます。
別表五(一)Ⅱ|資本金等の額とは何か
別表五(一)Ⅱでは、資本金等の額を管理します。
法人税法上、資本金等の額は、法人が株主等から出資を受けた金額として政令で定める金額をいうものとされています。
出典:e-Gov法令検索|法人税法
実務上は、資本金等の額を「税務上の出資持分の履歴」と捉えておくと、理解しやすくなります。
会計上の資本金・資本準備金・その他資本剰余金と、法人税法上の資本金等の額は、必ずしも一致するとは限りません。特に次のような取引では、ズレが生じやすくなります。
| 取引 | 資本金等の額が重要になる理由 |
|---|---|
| 増資 | 株主からの出資額として資本金等の額を増加させる |
| 減資 | 会計上の資本金減少と税務上の資本金等の額減少が一致するとは限らない |
| 資本剰余金配当 | 資本の払戻しと利益分配の区分に影響する |
| 自己株式取得 | みなし配当、譲渡損益、資本金等の額の減少に影響する |
| 合併・分割・現物分配 | 利益積立金額・資本金等の額の引継ぎや調整が必要になる |
| DES・債務免除 | 資本等取引か損益取引か、債務消滅益や株主側課税と関係する |
国税庁の記載要領でも、自己株式が貸借対照表に計上されている場合には、法人税法施行令に掲げる資本金等の額の調整を行っているかというチェックポイントが示されています。
出典:国税庁|令和7年版 法人税のあらましと申告の手引 申告書作成上の留意点
資本金等の額は、単なる申告書上の数字ではありません。
みなし配当、自己株式取得、資本払戻し、清算時の残余財産分配、組織再編、事業承継時の株主課税にまで影響します。資本取引を行う会社であれば、別表五(一)Ⅱを継続的に管理していないと、将来の株主課税や法人側の処理を誤ってしまう可能性があります。
別表四の留保項目は別表五(一)にどうつながるか
別表四と別表五(一)の関係は、次のように整理すると見通しがよくなります。
| 別表四の処理 | 別表五(一)への影響 |
|---|---|
| 加算・留保 | 利益積立金額を増加させる |
| 減算・留保 | 利益積立金額を減少させる |
| 加算・社外流出 | 原則として利益積立金額に残さない |
| 減算・社外流出 | 原則として利益積立金額に残さない |
| 資本等取引 | 別表四を経由せず、別表五(一)Ⅰ・Ⅱで調整することがある |
たとえば、減価償却超過額が100万円あるとします。当期の別表四では、これを加算・留保として所得に加えます。それと同時に、別表五(一)では利益積立金額を100万円増加させます。
そして翌期以降、税務上認容されるタイミングでは、別表四で減算・留保として所得から差し引き、別表五(一)では利益積立金額を減少させていきます。
この一連の流れを管理できていないと、同じ金額を二重に認容してしまったり、逆に認容できる金額を見落としてしまったりといった事態が起こります。
減価償却超過額の例
| 年度 | 会計処理 | 税務処理 | 別表四 | 別表五(一) |
|---|---|---|---|---|
| X1期 | 減価償却費を多く計上 | 税務上の限度超過 | 加算・留保 | 利益積立金額を増加 |
| X2期以降 | 会計上償却済みまたは償却額が少ない | 税務上認容 | 減算・留保 | 利益積立金額を減少 |
| 売却・除却時 | 会計簿価と税務簿価が異なる | 譲渡損益・除却損に影響 | 必要に応じて調整 | 残高を解消 |
交際費損金不算入額の例
| 年度 | 会計処理 | 税務処理 | 別表四 | 別表五(一) |
|---|---|---|---|---|
| X1期 | 交際費として費用計上 | 損金不算入部分あり | 加算・社外流出 | 原則として残高管理しない |
| X2期以降 | 影響なし | 将来認容なし | なし | なし |
この違いこそが、留保と社外流出を分ける実務上の意味そのものです。
留保項目を管理しないと、将来の税額を誤る
留保項目は、将来の所得計算に戻ってくる可能性があります。
そのため、別表五(一)の管理が甘い会社では、次のようなミスが起こりがちです。
| 管理ミス | 起こり得る影響 |
|---|---|
| 減価償却超過額を残したまま認容を忘れる | 将来の所得が過大になり、税金を多く納める |
| 既に認容済みの金額を残し続ける | 税務上の資産・負債残高が実態とズレる |
| 貸倒否認額の解消を管理していない | 貸倒損失計上時に二重調整・調整漏れが起きる |
| 圧縮記帳・特別償却準備金の取崩しを追跡していない | 将来益金算入・損金算入の時期を誤る |
| 棚卸資産・固定資産の税務簿価を管理していない | 売却・除却・組織再編時の譲渡損益を誤る |
| 修正申告後の別表五(一)を更新していない | 翌期以降の申告書が連鎖的に誤る |
別表五(一)は、「前年の申告書から数字を転記すれば済む表」ではありません。
前期申告後に、修正申告、更正、組織再編、自己株式取得、減資、債務免除、税務調査での指摘などがあった場合には、その内容を反映して更新していく必要があります。
税務実務では、組織再編や自己株式取引のように、別表四を経由せずに利益積立金額と資本金等の額が入り繰る場面もあります。たとえば合併の実務では、別表四での加算・減算だけでなく、別表五(一)の検算式では単純に合わない調整や、資本金等の額と利益積立金額の入り繰りを、別途把握しなければならない場面が出てきます。
社外流出項目は「戻らない差異」として説明する
社外流出項目は、将来の税務調整として戻ってこないため、別表五(一)に残らないのが通常です。
とはいえ、経営上は非常に重要な項目です。
なぜなら社外流出項目は、会計上は費用として利益を減らしているにもかかわらず、税務上は損金として認められず、税額負担だけが残る項目だからです。
典型例は、次のとおりです。
| 社外流出項目 | 経営上の見方 |
|---|---|
| 交際費等の損金不算入額 | 支出は済んでいるが、税務上の節税効果は限定される |
| 寄附金損金不算入額 | 支援・協賛・関係会社支援の経済合理性説明が必要 |
| 役員給与損金不算入額 | 役員報酬設計や議事録・届出管理の不備が税負担に直結する |
| 法人税・住民税等の損金不算入額 | 税金そのものは原則として法人税所得計算上損金にならない |
| 罰金・加算税・延滞税等の損金不算入額 | 本税以外の資金流出として管理すべき |
社外流出は、「別表五(一)に残らないから重要ではない」というものではありません。
むしろ将来戻らないからこそ、当期の支出判断・役員報酬設計・関係会社支援・交際費管理の段階で、税負担まで含めて判断しておくべき項目だといえます。
別表五(一)は税効果会計にもつながる
別表五(一)に残る留保項目は、税効果会計の一時差異と密接に関係します。
税効果会計は、企業会計上の資産・負債の額と、課税所得計算上の資産・負債の額との相違を調整対象とし、法人税等を税引前利益と合理的に対応させるための手続です。
たとえば、減価償却超過額、貸倒引当金繰入限度超過額、賞与引当金否認、退職給付引当金、評価損否認といった項目は、会計上の資産・負債と税務上の資産・負債との差異として、繰延税金資産・繰延税金負債の検討へとつながっていきます。
ただし、別表五(一)の留保項目が、すべて税効果会計の対象になるわけではありません。将来解消するか、スケジューリングが可能か、回収可能性があるかを、別途検討する必要があります。
| 別表五(一)の残高 | 税効果会計上の視点 |
|---|---|
| 減価償却超過額 | 将来減算一時差異となり得る |
| 貸倒引当金繰入限度超過額 | 将来損金算入見込みを確認する |
| 評価損否認額 | 売却・除却・回復不能等による解消時期を確認する |
| 交際費損金不算入額 | 永久差異であり税効果の対象にならない |
| 受取配当等益金不算入額 | 永久差異であり税効果の対象にならないことが多い |
| 資本金等の額の調整 | 税効果よりも資本政策・株主課税の視点が中心 |
税効果会計を適用している会社では、別表五(一)と繰延税金資産・繰延税金負債の計算資料が整合しているかを、確認しておく必要があります。
別表五(一)の残高はM&A・組織再編・清算で重要になる
別表五(一)は、平常時の法人税申告だけでなく、特殊な局面でこそ重要性が増します。
M&Aでの影響
買収前の税務デューデリジェンスでは、申告書の別表四・別表五(一)が確認されます。
というのも、別表五(一)には、会計上の貸借対照表だけでは見えてこない税務上の資産・負債差額が残っているからです。
たとえば、固定資産の評価損を会計上計上していても、税務上否認されていれば、税務上の簿価は会計上の簿価よりも高いままになります。組織再編税制の検討では、会計上の帳簿価額ではなく税務上の帳簿価額が問題になる場面があるため、別表五(一)に多額の加算留保項目が残っている場合には、特に注意が必要です。
組織再編での影響
適格合併・適格分割・適格現物分配などでは、利益積立金額や資本金等の額の引継ぎ・調整が問題になります。
組織再編は、会計仕訳だけで処理できるものではありません。税務上、何が簿価で引き継がれ、どの利益積立金額が移転し、資本金等の額がどう変動するのか。これらを別表五(一)で管理していく必要があります。
清算での影響
会社の解散・清算では、別表五(一)の利益積立金額が、期限切れ欠損金や残余財産の見込みに関係してくる場面があります。
たとえば、債務超過会社の清算で債務免除益が発生する場合には、青色欠損金だけでなく、別表五(一)の期首現在利益積立金額の差引合計額を確認する実務があります。
このように別表五(一)は、平常時には地味に見えるかもしれません。しかしM&A・再編・清算・承継の場面では、重要な税務判断の資料になります。
実務でよくある別表四・別表五(一)の誤り
1. 留保と社外流出を誤る
最も多い誤りは、留保と社外流出の区分を取り違えてしまうことです。
将来認容される可能性のある項目を社外流出にしてしまうと、別表五(一)に残高が残らず、翌期以降の減算を見落としてしまいます。
逆に、将来戻らない項目を留保にしてしまうと、別表五(一)に実態のない残高が残り続けてしまいます。
判断の基準は、「その税務調整は、将来、会社内部の資産・負債・税務簿価として解消されるものかどうか」です。
2. 前期末残高と当期首残高が一致していない
別表五(一)は、前期末の「差引翌期首現在利益積立金額」を当期首へ引き継ぐのが基本です。
前期申告後に修正申告や更正がないにもかかわらず、当期首残高が前期末残高と一致していない場合には、申告書の連続性に問題があるといえます。
国税庁の記載要領でも、各区分ごとの期首現在利益積立金額について、前期申告書の差引翌期首現在利益積立金額と一致しているかが、チェックポイントとして示されています。
出典:国税庁|令和7年版 法人税のあらましと申告の手引 申告書作成上の留意点
3. 修正申告・更正後の別表五(一)を更新していない
過年度の修正申告や更正があると、当該年度だけでなく、翌期以降の別表五(一)にも影響します。
たとえば、過年度の減価償却超過額、棚卸資産、未払事業税、欠損金、税額控除などが修正されると、翌期首利益積立金額や税務上の資産・負債残高も変わってくることがあります。
修正申告書を提出して終わり、ではありません。影響が及ぶ年度の別表五(一)を、すべてつなぎ直しておく必要があります。
4. 別表五(二)との整合性を確認していない
法人税等、地方法人税、住民税、事業税、納税充当金、未納税額、還付税額は、別表五(二)と別表五(一)の双方に関係します。
別表五(二)で管理される租税公課の納付状況と、別表五(一)の納税充当金・未納法人税等とが整合していなければ、税務上の純資産が不整合になってしまいます。
5. 会計上の貸借対照表だけで税務簿価を判断している
税務上の簿価は、会計上の帳簿価額と一致するとは限りません。
会計上、評価損や減損を計上していても、税務上損金不算入であれば、税務上の簿価は減っていないことがあります。
この違いは、固定資産売却、棚卸資産廃棄、貸倒損失、組織再編、M&Aといった場面で重要になってきます。
6. 資本金等の額を会計上の資本金だけで見ている
資本金等の額は、会計上の資本金だけを見ればよいというものではありません。
資本準備金、資本剰余金、自己株式、資本払戻し、減資、合併・分割などの影響を受けます。
資本金等の額を正しく管理できていないと、みなし配当や株主課税の判断を誤ってしまう可能性があります。
別表四・別表五(一)を読むための実務チェック
経営者・経理責任者が、細かい別表記載をすべて覚えておく必要はありません。
しかし、重要な論点について専門家と対話するには、少なくとも次のチェックができる状態にしておきたいところです。
| チェック項目 | 確認すべき内容 |
|---|---|
| 1. 当期利益の出発点 | 損益計算書の当期純利益・欠損と別表四の出発点が整合しているか |
| 2. 加算項目 | 役員給与、交際費、寄附金、償却超過、評価損否認などが漏れていないか |
| 3. 減算項目 | 受取配当益金不算入、認容額、準備金取崩しなどが漏れていないか |
| 4. 留保・社外流出 | 将来解消する項目と戻らない項目を正しく区分しているか |
| 5. 別表五(一)期首 | 前期末残高から正しく引き継がれているか |
| 6. 別表五(一)当期増減 | 別表四の留保欄と整合しているか |
| 7. 税金関係 | 別表五(二)と納税充当金・未納税額が整合しているか |
| 8. 資本金等の額 | 増資、減資、自己株式、資本剰余金配当、組織再編を反映しているか |
| 9. 修正申告・更正 | 過年度修正の影響が翌期以降に反映されているか |
| 10. 将来影響 | 税効果会計、M&A、清算、事業承継に影響する残高がないか |
このチェックは、税理士に任せるかどうかという問題ではありません。
会社として、自社の税務上の履歴がどのように残っているのかを把握するための、管理項目そのものです。
別表五(一)の残高を「放置してよいもの」と考えない
中小企業の申告書では、別表五(一)に古い留保項目が何年も残っているケースがあります。
たとえば、減価償却超過額、貸倒否認額、評価損否認額、仮払税金、納税充当金、未収還付税金などが、実態を確認されないまま残っていることがあります。
このような残高は、次の観点から棚卸ししておくべきです。
| 残高の種類 | 確認すべきこと |
|---|---|
| 減価償却超過額 | 対象資産はまだ存在するか、売却・除却済みではないか |
| 貸倒否認額 | 債権は残っているか、法的貸倒れ・事実上の貸倒れが発生していないか |
| 評価損否認額 | 対象資産の売却・除却・回復不能事実はないか |
| 棚卸差額 | 翌期以降の売上原価に反映されているか |
| 納税充当金 | 実際の納付・還付と一致しているか |
| 資本金等の額 | 登記、株主総会議事録、資本取引の履歴と一致しているか |
| 組織再編関連項目 | 合併・分割時の税務上の引継ぎ資料が残っているか |
別表五(一)の残高が実態と合っていない場合、単に申告書を修正すれば済むとは限りません。
過去の申告、会計処理、税務調整、資産台帳、契約書、議事録、修正申告、更正の請求、税務調査の履歴まで、あわせて確認していく必要があります。
経営判断への影響
別表四・別表五(一)の管理は、申告書作成担当者だけの問題ではありません。
経営判断にも、直接影響してきます。
| 経営場面 | 別表四・五(一)が影響する理由 |
|---|---|
| 税額予測 | 留保項目の認容・取崩しが将来課税所得に影響する |
| 資金繰り | 追加納税、還付、税額控除、欠損金利用の見通しが変わる |
| 金融機関対応 | 会計利益と課税所得の差を説明できるかが重要になる |
| M&A | 税務デューデリジェンスで過去申告リスク・税務簿価が確認される |
| 事業承継 | 自己株式、資本金等の額、利益積立金額が株主課税や株価に影響する |
| 組織再編 | 税務上の簿価、利益積立金額、資本金等の額の引継ぎが必要になる |
| 清算・再生 | 期限切れ欠損金、債務免除益、残余財産分配に影響する |
| 税効果会計 | 一時差異・永久差異・回収可能性の検討に影響する |
| 税務調査 | 申告調整の根拠資料と翌期引継ぎの整合性が問われる |
法人税務を経営判断に結び付けていくには、「今年の法人税額はいくらか」だけでは足りません。「今年の税務調整が、将来に何を残したのか」まで把握しておく必要があります。
その役割を担っているのが、別表四と別表五(一)なのです。
実務上、専門家に確認すべき場面
次のような場合には、別表四・別表五(一)の継続的な管理について、専門家と確認しておくことをお勧めします。
| 相談すべき場面 | 理由 |
|---|---|
| 別表五(一)に古い残高が多数残っている | 実態のない税務調整が放置されている可能性がある |
| 修正申告・更正があった | 翌期以降の別表五(一)に影響する可能性がある |
| 税務調査で過年度の調整を指摘された | 留保・社外流出の区分や残高更新が必要になる |
| 減価償却・固定資産・評価損が多い | 税務簿価と会計簿価の差が大きくなりやすい |
| 貸倒損失・債権放棄を検討している | 過年度否認額や債権残高との整合が必要 |
| 自己株式取得・減資・資本払戻しを予定している | 資本金等の額と利益積立金額が株主課税に影響する |
| M&A・組織再編を予定している | 税務簿価、欠損金、利益積立金額、資本金等の額の精査が必要 |
| 解散・清算を検討している | 債務免除益、期限切れ欠損金、残余財産分配に影響する |
| 税効果会計を適用している | 一時差異と別表五(一)の残高整合が必要 |
別表四・別表五(一)は、申告書の中でも特に「前年踏襲」が危険な領域です。
前年の数字をそのまま移すだけでなく、当期中に起きた取引、修正、資本取引、税務調査、資産の売却・除却、債権の貸倒れ、組織再編などをきちんと反映できているか。そこを確認していく必要があります。
犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について
別表四・別表五(一)は、単に法人税申告書を完成させるための別表ではありません。
そこには、過年度から引き継がれた税務判断、将来認容される可能性のある差異、戻らない社外流出項目、税務上の資本構成、そして組織再編や資本政策に影響する履歴が残されています。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、法人税申告書の作成にとどまらず、別表四・別表五(一)に残る税務調整の意味、翌期以降への影響、税効果会計、そしてM&A・事業承継・組織再編・清算への波及まで含めて整理いたします。
過去の申告書に残っている留保項目の意味が分からない、別表五(一)の残高が実態と合っているか不安がある、自己株式・減資・組織再編・M&Aの前に税務上の純資産を確認しておきたい。そうした場合には、犬飼公認会計士・税理士事務所のお問い合わせページから、どうぞお気軽にご相談ください。
重要ポイントの振り返り
| 項目 | 重要ポイント |
|---|---|
| 別表四 | 会計上の利益から法人税法上の所得へ変換する表 |
| 別表五(一)Ⅰ | 利益積立金額を管理し、留保された税務調整を翌期以降へ引き継ぐ表 |
| 別表五(一)Ⅱ | 資本金等の額を管理し、資本取引・自己株式・減資・組織再編等に影響する表 |
| 加算 | 会計上の利益に税務上加える調整 |
| 減算 | 会計上の利益から税務上差し引く調整 |
| 留保 | 税務調整が会社内部に残り、翌期以降に解消される可能性があるもの |
| 社外流出 | 税務調整が会社内部に残らず、原則として翌期以降に戻らないもの |
| 利益積立金額 | 税務上の利益剰余金に近い概念で、会計上の利益剰余金とは一致しない |
| 資本金等の額 | 税務上の出資持分の履歴であり、会計上の資本金だけではない |
| 翌期引継ぎ | 別表五(一)の期首残高は、原則として前期末残高から引き継ぐ |
| 修正申告・更正 | 当該年度だけでなく翌期以降の別表五(一)にも影響することがある |
| 税効果会計 | 留保項目は一時差異・永久差異の検討につながる |
| M&A・組織再編 | 税務上の簿価、利益積立金額、資本金等の額の管理が重要になる |
| 清算・再生 | 債務免除益、期限切れ欠損金、残余財産分配の判断に影響する |
| 実務上の注意 | 前年踏襲ではなく、残高の意味・根拠資料・将来解消可能性を確認する |