グループ通算制度を検討するとき、多くの経営者がまず気にされるのは、「黒字会社と赤字会社を相殺できるのか」という一点ではないでしょうか。
実際、次のような場面はめずらしくありません。
- 親会社は黒字だが、新規事業の子会社は赤字である
- 成熟事業の子会社は利益を出している一方、研究開発子会社は欠損を抱えている
- グループ全体では大きな利益が出ていないのに、黒字会社だけで法人税を納めている
- 過去に赤字だった子会社が、今後は黒字化する見込みである
- 将来、子会社の売却・合併・清算・事業承継を検討している
こうした状況では、グループ通算制度における損益通算や欠損金の通算が、税負担にとどまらず、資金繰り、子会社管理、税効果会計、M&A、グループ再編の判断にまで影響してきます。
もっとも、グループ通算制度は、赤字会社の欠損金を自由に黒字会社へ移せる制度ではありません。損益通算、欠損金の通算、特定欠損金、非特定欠損金、損金算入限度額、遮断措置といった複数のルールが、幾重にも組み合わさっています。
本記事では、申告ソフトへの具体的な入力方法ではなく、経営者や経理責任者の方が専門家と対話するうえで押さえておきたい「損益通算と欠損金の判断構造」を整理します。
まず押さえるべき区分:損益通算と欠損金の通算は別の論点
グループ通算制度では、「損益通算」と「欠損金の通算」という言葉が並んで登場します。どちらも赤字・欠損に関わる話ですが、対象とするものが違います。
| 区分 | 対象 | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| 損益通算 | 当期に発生した通算前所得・通算前欠損 | 同じ通算事業年度内で、黒字法人と赤字法人の損益を一定ルールで通算する |
| 欠損金の通算 | 過年度から繰り越された欠損金 | 通算制度適用後に、過年度欠損金をどの法人の所得から控除できるかを判定する |
損益通算は、当期の黒字・赤字の調整です。これに対して欠損金の通算は、過去に発生し、繰り越されている欠損金の控除の問題です。
この2つを混同すると、「当期の赤字を通算できる話」と「過去の欠損金を使える話」が入り混じり、税額試算や繰延税金資産の判断を誤りかねません。
グループ通算制度における損益通算は、欠損法人の欠損金額を所得法人の所得金額の比で配分し、所得法人で損金算入する仕組みです。一方の欠損金の通算については、法人税法57条の欠損金繰越控除の適用にあたり、一定の調整が必要となります。
(出典:国税庁|No.5900 グループ通算制度の概要)
損益通算の基本構造
損益通算は、通算グループ内に、当期に所得が出ている法人と欠損が出ている法人がある場合に行われます。
基本的な流れは、次の2段階に分けて考えると整理しやすくなります。
| 段階 | 内容 | 法人側の処理 |
|---|---|---|
| 第1段階 | 欠損法人の通算前欠損金額を、所得法人の通算前所得金額の比で配分する | 所得法人では通算対象欠損金額を損金算入する |
| 第2段階 | 所得法人で損金算入された金額と同額を、欠損法人の通算前欠損金額の比で配分する | 欠損法人では通算対象所得金額を益金算入する |
ここで押さえておきたいのは、赤字会社の欠損金がそのまま黒字会社へ「移転」するわけではない、という点です。
所得法人では損金算入が行われますが、欠損法人では、これに対応する益金算入が行われます。グループ全体として整合するよう、所得法人側と欠損法人側の双方で調整がかかる仕組みになっているわけです。
通算法人の所得事業年度に、他の通算法人で通算前欠損金額が生じた場合、その所得法人では通算対象欠損金額が損金算入され、欠損事業年度の法人では通算対象所得金額が益金算入されます。
(出典:国税庁|通算制度の当初申告における損益通算の計算)
損益通算のイメージ:黒字が赤字より大きい場合
たとえば、通算グループ内の当期の通算前所得・欠損が、次のようになっているとします。
| 法人 | 通算前所得・欠損 |
|---|---|
| 親会社P社 | 800 |
| 子会社A社 | 400 |
| 子会社B社 | ▲600 |
| 合計 | 600 |
この場合、所得法人であるP社とA社の所得合計は1,200、欠損法人であるB社の欠損は600です。
B社の欠損600は、P社とA社の所得金額の比、すなわち800:400=2:1で配分されます。
| 法人 | 通算前所得・欠損 | 損益通算 | 通算後所得・欠損 |
|---|---|---|---|
| P社 | 800 | ▲400 | 400 |
| A社 | 400 | ▲200 | 200 |
| B社 | ▲600 | +600 | 0 |
| 合計 | 600 | 0 | 600 |
グループ全体の所得は600です。P社・A社では法人税の課税所得が減少し、B社では、当期の欠損が通算対象所得金額の益金算入によってゼロになります。
このとき、B社の赤字はグループ内で吸収されますが、P社とA社の所得はなお残ります。したがって、グループ全体として法人税課税がなくなるわけではありません。
損益通算のイメージ:赤字が黒字より大きい場合
反対に、欠損の方が所得より大きいケースを考えてみます。
| 法人 | 通算前所得・欠損 |
|---|---|
| P社 | 250 |
| S1社 | 50 |
| S2社 | ▲500 |
| S3社 | ▲100 |
| 合計 | ▲300 |
所得法人の所得合計は300、欠損法人の欠損合計は600です。この場合、所得法人側で損金算入できるのは、所得合計である300までにとどまります。
| 法人 | 通算前所得・欠損 | 損益通算 | 通算後所得・欠損 |
|---|---|---|---|
| P社 | 250 | ▲250 | 0 |
| S1社 | 50 | ▲50 | 0 |
| S2社 | ▲500 | +250 | ▲250 |
| S3社 | ▲100 | +50 | ▲50 |
| 合計 | ▲300 | 0 | ▲300 |
このケースでは、P社とS1社の所得はゼロになりますが、S2社・S3社には通算後も欠損が残ります。残った欠損は、翌期以降の欠損金の通算や繰越控除の論点へと引き継がれていきます。
ここで意識しておきたいのが、「当期の損益通算で使い切れなかった欠損が、将来どのような欠損金として扱われるか」という点です。通常、グループ通算制度適用後にグループ内で生じた欠損金は、後述する非特定欠損金として扱われます。ただし、一定の損益通算対象外欠損金については、後に特定欠損金として扱われる場合があります。
損益通算の対象外となる欠損金がある
グループ通算制度では、当期に欠損が出たからといって、その欠損が常に損益通算の対象になるわけではありません。
一定の場合には、損益通算の対象とならない欠損金額があります。たとえば、通算制度の開始・加入時に時価評価の対象とならない法人について、一定期間にわたり継続して支配関係がなく、かつ共同事業要件を満たさないときの一定の欠損金額などは、損益通算の対象になりません。
(出典:国税庁|損益通算の対象とはならない欠損金額等)
これは、制度の濫用を防ぐための取扱いです。
含み損を抱えた会社や赤字会社をグループに入れ、その欠損だけを黒字会社の所得と通算する——こうした使い方が無制限に認められれば、グループ通算制度が租税回避的に利用されるおそれがあります。そこで、支配関係の継続期間、共同事業性、特定資産譲渡等損失といった観点から、損益通算の対象外となる欠損が設けられているのです。
実務では、子会社を新たに取得した場合、M&Aで赤字会社を取得した場合、グループ内再編を予定している場合に、この論点がとりわけ重要になります。
欠損金の通算は「過年度欠損金」の使い方の問題
損益通算の次に問題となるのが、過年度から繰り越されている欠損金です。
単体申告であれば、原則として、その法人自身の将来所得から繰越欠損金を控除するという構造でした。グループ通算制度では、この過年度欠損金を、特定欠損金と非特定欠損金に分けて取り扱います。
通算法人の過年度欠損金額の損金算入額は、まず各通算法人の特定欠損金額の損金算入額を計算し、次に特定欠損金額以外の欠損金額について通算グループ全体の合計額を各通算法人に配賦して非特定欠損金額を求め、その非特定欠損金額の損金算入額を計算する、という順序で算出します。
(出典:国税庁|通算法人の過年度の欠損金額の当初申告における損金算入額の計算方法)
つまり、欠損金の通算では、次の順番が基本になります。
| 順番 | 計算内容 | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| 1 | 古い事業年度の欠損金から順に見る | 欠損金の発生年度管理が重要 |
| 2 | 特定欠損金の損金算入額を先に計算する | 自社でしか使えない欠損金を先に処理する |
| 3 | 非特定欠損金を通算グループ内で配賦する | グループ全体で使える欠損金を計算する |
| 4 | 特定欠損金と非特定欠損金の損金算入額を合計する | 各法人の欠損金控除額が決まる |
欠損金の計算は、単年度だけで完結するものではなく、10年内事業年度ごとに、古い事業年度から順番に行っていきます。このとき、別表七、発生年度、特定・非特定の区分、控除済額、残額の管理が不正確だと、将来の税額はもちろん、税効果会計にまで影響が及びます。
特定欠損金とは何か
特定欠損金とは、端的にいえば「その法人自身の所得を限度として使う欠損金」です。
実務で問題になりやすいのは、グループ通算制度の開始前・加入前からその法人が持っていた欠損金、一定の組織再編等により引き継いだ欠損金、損益通算の対象外となった欠損金などです。
通算制度開始前の欠損金額については、一定要件のもとで切り捨てられない場合、通算制度開始後に特定欠損金額として損金算入できます。この特定欠損金額には、時価評価除外法人の最初通算事業年度開始日前10年以内に開始した各事業年度に生じた欠損金額、一定の適格合併・残余財産確定に基因して欠損金額とみなされた金額、損益通算の対象外とされた欠損金額などが含まれます。
(出典:国税庁|過年度の欠損金額を通算制度適用後に損金算入することの可否)
実務上、特定欠損金に該当しやすいものを整理すると、次のとおりです。
| 欠損金の種類 | 特定欠損金になり得る場面 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 通算開始前の繰越欠損金 | 親法人・子法人が通算制度開始前から持っていた欠損金 | 切捨ての有無、時価評価除外法人該当性、支配関係期間を確認 |
| 加入前の繰越欠損金 | 子法人が通算グループ加入前から持っていた欠損金 | M&A取得時や新規加入時に特に重要 |
| 損益通算対象外欠損金 | 一定の要件により当期損益通算の対象外となった欠損金 | 翌期以降、特定欠損金として扱われることがある |
| グループ外から引き継いだ欠損金 | 一定の適格合併、残余財産確定等により引き継いだ欠損金 | 組織再編税制・欠損金制限との接続が必要 |
特定欠損金の本質は、「グループ全体の所得を自由に使って控除できる欠損金ではない」という点にあります。
そのため、多額の繰越欠損金を持つ会社が通算グループに入ったとしても、それだけでグループ全体の税負担が大きく下がるとは限りません。その会社自身に将来所得が出るかどうかが、税務上も会計上も重要な意味を持ちます。
グループ通算制度の実務では、通算開始・加入前の繰越欠損金を、その法人自身の所得を限度にしか使わせない——この考え方が大切であり、いわゆるSRLYルールとして整理されます。特定欠損金に該当する欠損金と非特定欠損金に該当する欠損金を分けて管理することが、税額試算と繰延税金資産の判断の出発点になります。
非特定欠損金とは何か
非特定欠損金は、特定欠損金以外の欠損金を指します。
実務上は、グループ通算制度適用後に通算グループ内で発生し、損益通算後に残った欠損金が中心です。非特定欠損金は、一定のルールにより通算グループ全体で配賦され、他の通算法人の所得から控除され得る点に特徴があります。
とはいえ、非特定欠損金も「好きな法人に好きな金額を使わせる」ことはできません。通算グループ全体の損金算入限度額、各通算法人の非特定欠損金額、非特定損金算入割合などに基づき、機械的に配賦されていきます。
非特定損金算入限度額は、通算グループ全体の損金算入限度額の合計額を、各通算法人それぞれの非特定欠損金額の比で配賦した金額となります。
(出典:国税庁|通算法人の過年度の欠損金額の当初申告における損金算入額の計算方法)
非特定欠損金では、次の2つの見方が重要になります。
| 視点 | 内容 | なぜ重要か |
|---|---|---|
| 自社で発生した欠損金が他社で使われる | 配賦欠損金額・配賦欠損金控除額の発生 | 通算税効果額の受取り、繰延税金資産の回収可能性に影響 |
| 他社で発生した欠損金を自社で使う | 被配賦欠損金額・被配賦欠損金控除額の発生 | 通算税効果額の支払い、税負担軽減額の社内精算に影響 |
非特定欠損金は、グループ全体で使える可能性がある一方、通算税効果額、社内精算、会計処理まで含めて管理しておかないと、後から説明に窮する場面が出てきます。
控除限度額を確認しないと、税額効果を過大に見積もる
欠損金があるからといって、その全額をその年度に控除できるとは限りません。
欠損金の繰越控除には、損金算入限度額があります。大法人では所得金額の一定割合までしか控除できませんが、中小法人等、更生法人等、新設法人などについては取扱いが異なります。損金算入限度額は、その通算法人の所得金額の50%に相当する金額とされ、中小法人等・更生法人等・新設法人については所得金額そのものが限度となります。
(出典:国税庁|修正申告等があった場合の通算法人の過年度の欠損金額の損金算入額の計算方法)
グループ通算制度では、この控除限度の確認が、さらに込み入ってきます。
| 確認項目 | 実務上の意味 |
|---|---|
| その法人が大法人か中小法人等か | 損金算入限度額が50%か100%かに影響する |
| 通算グループ内に大法人があるか | 中小法人向け特例の判定に影響することがある |
| 特定欠損金があるか | まず特定欠損金の損金算入額を計算する必要がある |
| 非特定欠損金があるか | グループ全体で配賦計算が必要になる |
| 古い欠損金があるか | 10年内事業年度ごとに古いものから計算する必要がある |
| 地方税で欠損金が残っているか | 国税と地方税で欠損金管理がズレる可能性がある |
税額試算でありがちな誤りが、繰越欠損金残高だけを見て「この金額までは将来の税金を減らせる」と考えてしまうことです。
実際には、特定欠損金か非特定欠損金か、控除限度額にかかるか、将来どの法人に所得が出るか、地方税でどう扱われるか——こうした要素によって、税額効果は大きく変わってきます。
グループ通算制度の欠損金の通算では、連結納税制度のような一体計算ではなく、個別申告方式を前提としたプロラタ計算が行われます。さらに、非特定欠損金の期首残高を各通算法人の損金算入限度額の比で配分すること、損益通算後の個別所得を限度に特定欠損金の控除額が計算されることが、旧連結納税制度との重要な違いになります。
欠損金の計算順序を実務目線で整理する
実際の計算は複雑ですが、判断構造そのものは、次のように整理できます。
1. 当期の通算前所得・通算前欠損を確定する
まず、各法人の決算・税務調整を行い、損益通算前の所得または欠損を把握します。
この段階で、売上計上、役員給与、寄附金、交際費、貸倒損失、減価償却、評価損、関係会社間取引などの税務調整に誤りがあると、その後の損益通算・欠損金通算の計算がすべてズレてしまいます。
グループ通算制度では、各法人の単体申告の品質が、そのままグループ全体の計算に影響します。
2. 当期の損益通算を行う
所得法人と欠損法人がある場合、所得法人の所得金額の比で欠損を配分し、所得法人では損金算入、欠損法人では益金算入を行います。
この当期の損益通算によって、各法人の通算後所得・欠損が決まります。
3. 過年度欠損金を年度別に整理する
過年度欠損金は、発生年度ごとに管理します。欠損金は古い事業年度のものから順に控除していくため、発生年度が曖昧なままでは、正しい計算ができません。
別表七、過年度申告書、修正申告・更正履歴、組織再編履歴を、あわせて確認する必要があります。
4. 特定欠損金と非特定欠損金に区分する
過年度欠損金を、特定欠損金と非特定欠損金に分けます。
特定欠損金は、原則として自社所得を限度に控除する欠損金です。非特定欠損金は、通算グループ全体で配賦計算され得る欠損金です。
この区分を誤ると、税額試算、別表作成、税効果会計のすべてに影響が及びます。
5. 特定欠損金を先に控除する
同一年度の欠損金の中に特定欠損金と非特定欠損金がある場合、特定欠損金を先に損金算入します。
特定欠損金額は、非特定欠損金額より先に損金算入額の計算を行うこととされており、欠損金額の一部のみが特定欠損金額である場合には、その特定欠損金額に相当する金額から損金算入することになります。
(出典:国税庁|第64条の7《欠損金の通算》関係)
6. 非特定欠損金をグループ全体で配賦する
特定欠損金の控除後、非特定欠損金について、通算グループ全体の損金算入限度額、各法人の非特定欠損金額、非特定損金算入割合を用いて計算します。
この段階で、他社から欠損金を配賦される法人と、他社へ欠損金を配賦する法人とが生じます。
7. 通算税効果額・会計処理・内部精算を確認する
非特定欠損金が他社で使われる場合には、通算税効果額を授受するかどうかが問題になります。
通算税効果額は、法人税申告だけでなく、会計処理、未収未払、グループ内精算、資金繰り、少数株主への説明にまで関わってきます。
特定欠損金と非特定欠損金で経営判断が変わる
特定欠損金と非特定欠損金の違いは、単なる税務用語の違いにとどまりません。経営判断に直結する論点です。
特定欠損金が多い会社
特定欠損金が多い会社では、その会社自身に将来所得が出なければ、欠損金を十分に使えない可能性があります。
たとえば、通算開始前に多額の繰越欠損金を持っていた子会社があったとしても、その欠損金が特定欠損金であれば、親会社や他の黒字子会社の所得と自由に相殺できるわけではありません。
この場合に検討すべきは、「グループ全体で黒字か」ではなく、「その欠損金を持つ法人自身が、将来どの程度の所得を出すか」です。
非特定欠損金が多い会社
非特定欠損金が多い会社では、グループ全体の所得で回収できる可能性があります。
ただし、非特定欠損金を他社で使った場合には、通算税効果額の授受、内部精算、繰延税金資産の回収可能性の判断が必要になります。
- 自社の欠損金が他社で使われたのに、社内精算のルールがない
- 親会社の税額は減ったが、赤字子会社の資金繰りには反映されていない
- 会計上、未収入金・未払金を計上すべきかどうかが整理されていない
こうした状態では、税務上の計算は合っていても、グループ経営管理としては不十分だといわざるを得ません。
税務調査・修正申告時には遮断措置を理解しておく
グループ通算制度には、申告後にある法人の所得金額が変わった場合でも、原則として他の法人への影響を遮断する仕組みが設けられています。
損益通算については、期限内申告における損金算入額・益金算入額を固定したうえで、その法人の所得金額を計算します。ただし、一定の要件に該当する場合には、通算グループ内の全法人について損益通算を再計算する「全体再計算」が行われます。また、欠損金の繰越期間制限を潜脱する目的や、離脱法人に欠損金を帰属させる目的などで、誤った期限内申告を行ったと認められる場合には、税務署長が全体再計算を行うことができるとされています。
(出典:国税庁|所得の金額が当初申告と異なることとなった場合の損益通算の取扱い)
欠損金の通算についても、同様の考え方が置かれています。他の通算法人の修正申告等によって損金算入限度額等が増減したとしても、その増減がなかった通算法人は、原則として、他の通算法人の期限内申告書添付書類に記載された金額に固定して損金算入額を算出します。これにより、他の通算法人の修正申告等による影響が遮断されます。
(出典:国税庁|修正申告等があった場合の通算法人の過年度の欠損金額の損金算入額の計算方法)
この遮断措置は、申告実務の負担を軽減するための仕組みです。
もっとも、「間違えても他社に影響しないから大丈夫」という意味ではありません。誤った法人自身には、修正申告、更正、追加納税、延滞税、加算税、税務調査対応が生じ得ます。加えて、通算税効果額の内部精算、会計処理、税効果会計、M&A時の税務デューデリジェンスでは、過去の誤りそのものが問題として浮上します。
通算税効果額は、税務計算と会計・資金移動をつなぐ論点
損益通算や非特定欠損金の通算によって、ある法人の税負担が軽くなり、別の法人の欠損金が使われることがあります。このときに問題となるのが、通算税効果額です。
たとえば、赤字子会社の非特定欠損金を黒字親会社が使った場合、親会社の法人税負担は軽くなります。その一方で、欠損金を発生させた子会社は、その税負担軽減効果を直接享受できないかもしれません。
このとき、親会社から子会社へ通算税効果額を支払うのか。支払うのであれば、どの計算方法で、いつ、どの科目で処理するのか。支払わないのであれば、その方針を会計上・経営上どのように説明するのか。いずれも整理しておくべき論点です。
一定の通算税効果額の授受については、支払った法人では損金不算入、受け取った法人では益金不算入として取り扱われる例が示されています。
(出典:国税庁|通算税効果額の計算方法)
また、ASBJの実務対応報告第42号は、グループ通算制度を適用する場合における法人税・地方法人税ならびに税効果会計の会計処理・開示の取扱いを明らかにすることを目的としており、通算税効果額の授受を行うことを前提としています。
(出典:企業会計基準委員会|実務対応報告第42号 グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い)
実務上は、次の事項を通算税効果額の精算ルールとして整備しておくことが望ましいといえます。
| 整備項目 | 内容 |
|---|---|
| 精算対象 | 損益通算、非特定欠損金の通算、税額控除などのどこまでを精算対象にするか |
| 計算方法 | 法人税・地方法人税を含めるか、税率をどう設定するか |
| 精算時期 | 申告時、決算時、税額確定時のどこで精算するか |
| 支払経路 | 親法人を通すか、法人間で直接授受するか |
| 会計処理 | 未収入金・未払金、法人税等、損益不算入処理との整合性 |
| 承認手続 | 取締役会、稟議、グループ税務規程、覚書の整備 |
| 修正時対応 | 修正申告・更正時に過年度精算を見直すか |
とりわけ、少数株主がいる子会社、M&Aで売却を予定している子会社、金融機関に個社財務を説明する必要がある会社では、通算税効果額の社内精算ルールが曖昧なままだと、後になって問題が顕在化しやすくなります。
税効果会計では、欠損金の種類ごとに回収可能性を見る
グループ通算制度における欠損金は、税効果会計にも影響します。
単体申告であれば、繰越欠損金に係る繰延税金資産は、その法人自身の将来課税所得を基礎に検討するのが中心でした。グループ通算制度では、特定欠損金と非特定欠損金とで、回収可能性の見方が変わってきます。
非特定欠損金は、通算グループ全体の課税所得を通じて回収できる可能性があります。一方、特定欠損金は、自社の所得を限度にしか使えない性質を持つため、自社の将来所得の見込みが重要になります。
実務上も、グループ通算制度を適用する場合の繰越欠損金の回収可能額は、税額計算の結果に基づき、特定欠損金と非特定欠損金ごとに計算する必要があります。非特定欠損金については、自社で損金算入された金額だけでなく、自社の非特定欠損金のうち自社および他社で損金算入された金額を意味する損金算入欠損金額まで見て、回収可能額を判断する点が重要です。
この点は、金融機関対応や株主説明にも影響します。
繰延税金資産を計上すれば純資産は増えますが、回収可能性の説明が弱ければ、決算書の信頼性を損ないます。逆に、慎重に取り過ぎると、会社の実態よりも財務状態を弱く見せてしまう可能性があります。
税効果会計では、法人税・地方法人税、住民税・事業税、特定欠損金・非特定欠損金、通算税効果額の授受を区別しながら検討する必要があります。詳細は、本シリーズの「7-8. グループ通算制度と税効果会計・事業計画」で扱う論点ですが、損益通算・欠損金の段階から、会計への影響を意識しておくべきです。
地方税では国税と同じ通算効果が出ない
損益通算や欠損金の通算を検討する際、法人税だけを見ていると、判断を誤ります。
地方税、とりわけ法人事業税や法人住民税では、グループ通算制度の取扱いが法人税とは異なります。実務上、地方税にはグループ通算制度がそのまま適用されないため、損益通算や欠損金の通算を行わずに税額計算を行う場面が出てきます。
地方税にはグループ通算制度が適用されないため、繰越欠損金の切捨て、損益通算、欠損金の通算を行わずに地方税額が計算されます。もっとも、地方税の課税標準は、グループ通算制度によって算出された法人税額や所得金額を用いるため、国税と完全に切り離されるわけではありません。この点も押さえておく必要があります。
したがって、グループ通算制度による税額効果を試算するときは、次のように分けて見ていくことになります。
| 税目 | 損益通算・欠損金通算の見方 |
|---|---|
| 法人税 | グループ通算制度の中心。損益通算・欠損金通算を行う |
| 地方法人税 | 法人税額を基礎にするため、通算制度の影響を受ける |
| 法人住民税 | 法人税割の基礎となる法人税額との関係を確認する |
| 法人事業税 | 個々の法人の所得計算を意識する必要がある |
| 外形標準課税 | 所得割だけでなく付加価値割・資本割への影響も確認する |
「法人税では税負担が下がるが、地方税まで含めると、思ったほど資金流出が減らない」——こうしたことは、実務上、十分に起こり得ます。
損益通算・欠損金で判断を誤りやすい場面
グループ通算制度における損益通算・欠損金で、実務上とくに誤りやすいのは、次のような場面です。
| 場面 | 誤りやすい判断 | 必要な確認 |
|---|---|---|
| 赤字子会社がある | 赤字をすべて黒字会社で使えると考える | 損益通算対象外欠損金、特定欠損金の有無 |
| 通算開始前欠損金がある | グループ全体で自由に使えると考える | 特定欠損金として自己所得限定になるか |
| M&Aで赤字会社を取得する | 買収後すぐに欠損金を活用できると考える | 時価評価、欠損金切捨て、支配関係期間、共同事業性 |
| 親会社に多額の欠損金がある | 旧連結納税の感覚で子会社所得と相殺できると考える | 親法人の開始前欠損金にも自己所得制限が及ぶか |
| 通算税効果額を精算しない | 税務計算だけ合っていればよいと考える | 会計処理、少数株主、資金移動、M&A時の説明 |
| 地方税を見ていない | 法人税の減少額をそのまま資金効果と見る | 住民税・事業税・外形標準課税の別管理 |
| 税効果会計を後回しにする | 申告が終わってから繰延税金資産を考える | 特定・非特定ごとの回収可能性、事業計画 |
| 修正申告が出た | 他社への影響は常に遮断されると考える | 遮断措置の例外、全体再計算、濫用防止規定 |
これらはいずれも、単なる税額計算のミスにとどまりません。グループ経営、財務管理、将来のM&A・組織再編、金融機関対応にまで影響する判断ミスです。
導入・運用前に整理すべき資料
損益通算と欠損金を正しく判断するには、次の資料をあらかじめ整理しておく必要があります。
| 資料 | 確認する内容 |
|---|---|
| グループ資本関係図 | 通算親法人・通算子法人、完全支配関係、加入・離脱予定 |
| 各社の法人税申告書 | 別表四、五(一)、七、六、八など |
| 繰越欠損金明細 | 発生年度、控除済額、残額、期限 |
| 通算開始・加入前の欠損金資料 | 特定欠損金該当性、切捨ての有無 |
| M&A・組織再編履歴 | 適格合併、残余財産確定、欠損金引継ぎ |
| 各社の事業計画 | 将来所得、欠損金回収可能性 |
| 税額控除資料 | 研究開発税制、外国税額控除、賃上げ促進税制等 |
| 地方税申告書 | 住民税、事業税、外形標準課税 |
| 通算税効果額の規程・覚書 | 精算対象、計算方法、支払時期 |
| 税務調査履歴 | 過去修正、指摘事項、欠損金修正の有無 |
とりわけ、欠損金の発生年度と特定・非特定の区分は、後から復元しようとすると相応の手間がかかります。申告書別表だけでなく、過去の組織再編、子会社取得、事業開始、支配関係発生日、共同事業性の資料まで紐づけておくことが望まれます。
専門家に相談すべきタイミング
グループ通算制度の損益通算・欠損金は、決算後に申告書を作成するだけで片づけるには、いささか重い論点です。
次のような状況にある場合には、早い段階で専門家に相談されることをおすすめします。
- グループ内に黒字会社と赤字会社が混在している
- 通算開始前または加入前の繰越欠損金がある
- 赤字子会社の将来の黒字化を見込んでいる
- M&Aで赤字会社を取得した、または取得予定がある
- 子会社の売却・合併・清算・離脱を検討している
- 通算税効果額の社内精算ルールがない
- 繰延税金資産の回収可能性に不安がある
- 地方税まで含めた資金効果を確認したい
- 過去申告で、欠損金や税額控除の管理に不安がある
- 親会社主導で子会社の申告を取りまとめているが、各社資料の精度にばらつきがある
グループ通算制度は、単年度の節税効果だけでなく、将来のグループ戦略とセットで検討すべき制度です。欠損金を早く使うことが、常に有利とは限りません。将来の子会社売却、再編、税効果会計、金融機関への説明までを含めて判断していく必要があります。
グループ通算制度の損益通算・欠損金をご相談ください
グループ通算制度における損益通算と欠損金は、申告書上の計算技術であると同時に、グループ経営の数字をどう設計するか、という判断領域でもあります。
- 赤字会社の欠損を使うことができるのか
- 通算開始前の欠損金は、特定欠損金としてどこまで使えるのか
- 非特定欠損金を、グループ内でどう配賦するのか
- 通算税効果額を、どう精算するのか
- 地方税や税効果会計まで含めると、実際の資金効果はどうなるのか
- 将来のM&A・組織再編・事業承継に、不利な影響がないか
これらは、単に申告書を作るだけでは判断しきれない論点です。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、グループ会社を有する中小・中堅企業について、グループ通算制度、グループ法人税制、欠損金、税効果会計、M&A・組織再編を見据えた法人税務の整理を支援しています。
グループ通算制度の導入を検討している場合、すでに通算制度を適用しているものの欠損金管理や通算税効果額に不安がある場合、あるいは将来の再編・M&Aを見据えてグループ税務を見直したい場合は、お問い合わせページよりお気軽にご相談ください。
振り返り:グループ通算制度における損益通算と欠損金
| 論点 | 重要ポイント | 実務上の確認事項 |
|---|---|---|
| 損益通算 | 当期の所得法人と欠損法人の損益を通算する | 通算前所得金額・通算前欠損金額を正確に把握する |
| 通算対象欠損金額 | 欠損法人の欠損を所得法人の所得比で配分する | どの所得法人にどれだけ損金算入されるかを確認 |
| 通算対象所得金額 | 所得法人で損金算入された金額と同額を欠損法人で益金算入する | 欠損法人側の益金算入を忘れない |
| 損益通算対象外欠損金 | 一定の欠損金は当期の損益通算対象外となる | 支配関係期間、共同事業性、特定資産譲渡等損失を確認 |
| 欠損金の通算 | 過年度欠損金を特定・非特定に分けて控除する | 発生年度、控除期限、別表七を整理する |
| 特定欠損金 | 原則として自社所得を限度に使う欠損金 | 通算開始前・加入前欠損金、損益通算対象外欠損金を確認 |
| 非特定欠損金 | 通算グループ全体で配賦され得る欠損金 | 非特定損金算入割合、配賦・被配賦を確認 |
| 控除限度額 | 欠損金全額を当期に控除できるとは限らない | 大法人・中小法人等の区分、50%・100%の限度を確認 |
| 遮断措置 | 修正申告等があっても原則として他法人への影響を遮断する | 例外的な全体再計算、濫用防止規定を確認 |
| 通算税効果額 | 欠損金利用による税負担軽減効果を社内で精算する論点 | 規程、覚書、会計処理、精算時期を整備 |
| 税効果会計 | 特定欠損金・非特定欠損金で回収可能性の見方が異なる | 事業計画、将来所得、通算グループ全体の所得を確認 |
| 地方税 | 国税と同じ通算効果が出るとは限らない | 住民税、事業税、外形標準課税を別途確認する |