債務超過に陥っている会社、赤字が続いている会社、オーナーからの借入金が多額に残る同族会社、あるいはグループ内で資金支援を受けている子会社。こうした会社では、「残った借入金をどう整理していくか」が、経営上の重要な論点になってきます。
借入金を整理する代表的な方法として、債務免除、DES、擬似DESの3つが挙げられます。
いずれも、会社の貸借対照表を改善させる効果を持っています。ただ、税務上の結論となると、その中身は大きく異なります。
ここで特に注意したいのが、次のような思い込みです。「借入金が資本金に変わるだけなのだから、課税は起きないはずだ」「債務免除を受けても、欠損金があるのだから問題ないはずだ」「オーナーが自分の会社への貸付金を放棄するだけだから、税務上は簡単なはずだ」。実務では、まさにこうした考え方の中に、大きな落とし穴が潜んでいます。
DESでは、債務者側に債務消滅益が生じることがあります。債務免除であれば、債務者側に債務免除益が生じます。法人が債権者となる場合には、その債権放棄損や現物出資損が損金になるのか、それとも寄附金とされるのかが問題になります。さらに、オーナーや同族株主が関係してくると、株価の上昇を通じたみなし贈与のリスクも無視できません。
本稿では、DES・擬似DES・債務免除を、単なる財務改善の手法としてではなく、法人税・資本政策・事業承継・再生局面が交差する高リスクの論点として整理していきます。
DES・擬似DES・債務免除は、まず「何を消す取引か」で分ける
はじめに、3つの手法の違いを整理しておきましょう。
| 手法 | 取引の概要 | 会社側の主な効果 | 税務上の主な論点 |
|---|---|---|---|
| 債務免除 | 債権者が会社に対する債権を放棄する | 借入金が減少し、純資産が改善する | 債務免除益、債権放棄損、寄附金、欠損金、みなし贈与 |
| DES | 債権者が会社に対する債権を現物出資し、株式を受ける | 借入金が資本に振り替わる | 現物出資、債務消滅益、資本金等の額、債権評価、株主構成 |
| 擬似DES | 債権者が金銭出資し、会社がその金銭で借入金を返済する | 借入金が減少し、資本が増える | 金銭出資、債務弁済、債権回収益、株式評価、価値移転 |
DESは、発行会社に対する金銭債権を現物出資する手法です。現物出資が行われると、債権者と債務者が同一になるため、債権と債務は混同によって消滅します。
一方の擬似DESは、債権者がいったん会社に金銭を払い込み、会社がその金銭を使って債権者へ借入金を返済する手法です。経済的には似ているように見えても、法的な構成と税務処理は別物だとお考えください。
大切なのは、どの手法を選んだとしても、「借入金が消えた」という結果だけで判断してはならない、という点です。
税務では、次のような点を一つひとつ確認していきます。誰が債権を持っていたのか。その債権の時価はいくらか。債務者は債務超過なのか。債権者は法人か、それとも個人か。完全支配関係があるのか。合理的な再建計画があるのか。そして、既存株主に経済的利益が移転していないか。
債務免除の税務|会社には債務免除益が生じる
債務免除は、借入金を整理する方法の中で、もっとも分かりやすいものです。
たとえば、会社がオーナーから3,000万円を借り入れていて、オーナーがその返済を求めないことにしたとします。この場合、会社側では借入金が消滅します。
会計上は、通常、債務免除益を計上します。
借入金 3,000万円 / 債務免除益 3,000万円
法人税の取り扱いでも、この債務免除益は原則として益金になります。つまり債務免除は、会社の財務状態を改善させる一方で、課税所得を発生させる可能性を抱えた取引なのです。
ここで多いのが、「赤字会社だから税金は出ない」という誤解です。
確かに、青色欠損金が十分に残っていれば、債務免除益と相殺できる場合もあります。しかし、繰越欠損金の残高、控除限度、期限、そして過年度申告が適正であったかどうか。これらを確認しないまま債務免除に踏み切ると、想定していなかった法人税・住民税・事業税が発生することがあります。
債務免除を受ける会社では、まず次の計算を行っておく必要があります。
債務免除益
- 当期の損失
- 控除可能な繰越欠損金
= 課税所得となる可能性がある金額
債務免除益は、いわば「資金が入ってこない利益」です。現金収入がないにもかかわらず税負担が生じる場合があるため、資金繰りの面でも注意を要する論点だといえます。
債権者側では「貸倒損失」か「寄附金」かが問題になる
法人が子会社や関係会社に対する債権を放棄した場合、債権者側では、その債権放棄損を損金にできるかどうかが問題になります。
回収不能であることが明らかな債権であれば、貸倒損失として整理できる可能性があります。しかし、回収不能とまでは言い切れない段階で債権放棄を行う場合には、法人税基本通達9-4-1または9-4-2の考え方に照らして、経済合理性があるかどうかを検討することになります。
国税庁は、貸倒れに該当しない債権放棄であっても、その放棄を行うことについて経済合理性を有する場合には、寄附金には該当しないという整理を示しています。具体的には、子会社等を整理・再建するために行う債権放棄等について、相当な理由があり経済合理性を有するのであれば、寄附金には当たらないものとされています。
出典:国税庁|貸倒れに該当しない債権放棄の検討
また、法人税基本通達9-4-1は、子会社等の解散や経営権の譲渡等に伴う損失負担等について、今後より大きな損失を被ることが社会通念上明らかであるなど、相当な理由があるときは寄附金に該当しないものとしています。9-4-2は、子会社等の再建に際して行う無利息貸付けや債権放棄等について、合理的な再建計画に基づくなど相当な理由があるときは、やはり寄附金に該当しないものとしています。
出典:国税庁|法人税基本通達 第9章 第4節 寄附金 第1款 寄附金の範囲等
実務上は、次のような資料が重要になってきます。
| 確認事項 | 必要となる資料 |
|---|---|
| 債務者が経営危機にあるか | 実態貸借対照表、資金繰り表、金融機関資料 |
| 債権放棄の必要性があるか | 再建計画、破産時回収見込との比較、支援しない場合の損失見込 |
| 支援額が合理的か | 債務超過額、事業計画、弁済計画、金融機関との協議資料 |
| 支援者の範囲が相当か | 債権者一覧、支援割合、利害関係者の合意状況 |
| 恣意性がないか | 第三者関与、債権者会議議事録、専門家意見書 |
単に「子会社を助けるため」「親会社として当然」といった理由だけでは、税務上は足りません。税務調査の場面では、なぜその金額を放棄する必要があったのか、そしてその放棄によって親会社や関係者がどのような損失回避を図ったのかを、きちんと説明できることが求められます。
完全支配関係がある場合は、受贈益・寄附金の扱いが変わる
法人による完全支配関係がある内国法人どうしで債務免除が行われる場合には、グループ法人税制の影響を受けます。
このとき債務者側では、完全支配関係にある法人から受ける受贈益が益金不算入となる場合があります。その一方で、債権者側では、対応する寄附金が損金不算入となります。
つまり、完全親子会社間においては、債務者側だけを見て「債務免除益が課税されないから有利だ」と判断するのは危険だということです。親会社側では債権放棄損を損金にできない可能性があり、グループ全体で見渡すと、期待していたほどの税務効果が出ないことがあります。
なお、完全支配関係がある場合であっても、会計上の処理、別表四・五(一)、投資簿価、将来の子会社株式譲渡、グループ通算制度との関係については、あらかじめ整理しておく必要があります。
DESの税務|「借入金が資本金に変わるだけ」ではない
DESは、Debt Equity Swapの略で、債務を資本に転換する手法を指します。
債権者が会社に対する債権を現物出資し、その対価として株式を取得します。会社側では、借入金が消滅し、資本金または資本剰余金が増加します。
一見すると、損益を通すことなく、借入金をそのまま資本に振り替えられるように見えます。
ところが法人税の世界では、債権の「額面」ではなく、「税務上の価額」が問題になります。
たとえば、会社が債権者に対して3,000万円の借入金を負っているものの、会社が債務超過の状態にあり、その債権の回収可能額が1,000万円と見積もられる場合を考えてみましょう。
DESによって、債権者が3,000万円の債権を会社へ現物出資したとしても、税務上、その債権の価額が1,000万円と評価されると、会社側では次のような構造になります。
受け入れた債権の税務上の価額 1,000万円
消滅する借入金の帳簿価額 3,000万円
差額 2,000万円
この差額2,000万円が、債務消滅益として問題になるわけです。
国税庁の文書回答事例では、企業再生税制の適用場面においてDESが行われた場合の取り扱いが整理されています。それによると、債務者の増加する資本金等の額はDESによる自己宛債権の時価が基礎となり、債務消滅益の額は、債権額面のうち資本金等の増加額とならなかった部分、すなわち額面と時価との差額になるとされています。また、DES対象債権の時価については、合理的に見積もられた回収可能額に基づいて評価することが妥当であるとされています。
出典:国税庁|企業再生税制適用場面においてDESが行われた場合の債権等の評価に係る税務上の取扱いについて
出典:国税庁|同 別紙
DESは、法律上は現物出資にほかなりません。そのため法人税法上も、適格現物出資に該当するのか、非適格現物出資に該当するのかを確認することになります。完全支配関係内の現物出資を除けば、DESは非適格現物出資として扱われることが多く、その場合には、債権の時価評価と債務消滅益が問題になってきます。
DESの基本仕訳イメージ
債務者である会社側の税務処理を単純化すると、次のようなイメージになります。
前提:
借入金の帳簿価額 3,000万円
債権の税務上の時価 1,000万円
1. 債権の現物出資を受ける
自己宛債権 1,000万円 / 資本金等の額 1,000万円
2. 債権と債務が混同により消滅する
借入金 3,000万円 / 自己宛債権 1,000万円
債務消滅益 2,000万円
この2,000万円は、資金収入を伴わない利益です。欠損金で吸収できなければ、税負担が生じる可能性があります。
DESを行う前には、最低限、次の試算をしておきたいところです。
| 試算項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 対象債権の額面 | 会社の借入金帳簿価額と債権者側の債権額 |
| 対象債権の時価 | 回収可能額、実態貸借対照表、再建計画上の弁済可能額 |
| 債務消滅益 | 額面と時価の差額 |
| 欠損金 | 青色欠損金、期限切れ欠損金、控除限度 |
| 資本金等の額 | DES後に税務上どれだけ増加するか |
| 株主構成 | 新株発行後の議決権割合、希薄化、支配関係 |
| 株価影響 | 既存株主・後継者・少数株主への価値移転 |
DESが適格現物出資になる場合でも、安心しすぎない
完全支配関係にある法人間でDESを行う場合には、適格現物出資に該当することがあります。
この場合、現物出資法人から被現物出資法人に対して債権が簿価で移転するため、債権者側・債務者側のいずれにおいても、益金や損金が発生しないのが一般的です。
ただ、ここでも見落としてはならない点があります。
親会社が、その債権を当初から額面で持っているとは限らないのです。たとえば、親会社が外部の金融機関から額面1億円の債権を1,000万円で買い取っていたとします。この場合、親会社の債権帳簿価額は1,000万円です。
その後、適格現物出資としてこの債権が子会社へ移転すると、子会社側では1,000万円の債権を受け入れる一方で、1億円の債務が消滅することになります。すると、その差額が債務消滅益になる可能性が出てきます。
つまり、適格現物出資だからといって、常に債務消滅益がゼロになるわけではありません。
確認しておくべきなのは、次の関係です。
債務者側の借入金帳簿価額
= 債権者側から移転される債権の税務簿価
この関係が一致しない場合には、適格現物出資であっても債務消滅益が発生することがあります。
個人オーナーがDESを行う場合の注意点
同族会社では、オーナー社長が会社へ多額の貸付金を持っているケースがしばしば見られます。
こうした場合に、「社長貸付金をDESで資本金に振り替えれば、相続財産である貸付金を減らせるうえ、会社の債務超過も改善できるのではないか」と考えられることがあります。
しかし、個人から法人への現物出資は、法人税法上の適格現物出資には該当しません。適格現物出資の制度は、基本的に法人から法人への現物出資を前提としているためです。
したがって、個人オーナーが債務超過会社に対する債権をDESする場合、会社側では、受け入れた債権の時価と消滅する債務の帳簿価額との差額について、債務消滅益が生じる可能性があります。
また、オーナーがDESによって新株を取得すると、株主構成が変わります。後継者、配偶者、兄弟姉妹、少数株主といった株主がいる場合には、議決権割合や株価への影響についても整理しておかなければなりません。
債務超過会社だから株価はゼロで問題ない、とは限りません。DESによって債務超過が解消され、会社の純資産価額が改善すれば、既存株式の価値が上がる可能性があるからです。
擬似DESの税務|金銭出資と借入金返済を分けて見る
擬似DESは、形式の上ではDESではありません。
債権者が会社に金銭を出資し、会社がその金銭を使って債務を返済する、という流れをたどります。
1. 債権者が会社に金銭出資
現金預金 3,000万円 / 資本金等の額 3,000万円
2. 会社が借入金を返済
借入金 3,000万円 / 現金預金 3,000万円
DESとは異なり、債権そのものを現物出資しているわけではありません。会社はいったん金銭を受け取り、その金銭で借入金を弁済しています。そのため会社側では、通常、債務消滅益は生じません。
もっとも、擬似DESにも別のリスクが潜んでいます。
第一に、資金の流れを明確にしておく必要があります。金銭出資と返済が形式だけのものになっていて、実態としては債務免除やDESと同視されるような処理になっていないか。この点を確認しておかなければなりません。
第二に、債権者が外部から債権を額面より低い金額で取得していた場合には、返済を受けた時点で債権回収益が生じることがあります。たとえば、額面3,000万円の債権を1,000万円で取得していた者が、擬似DESの後に3,000万円の返済を受ければ、差額2,000万円が回収益として問題になります。
第三に、擬似DESによって取得した株式について、出資の直後に評価損を計上できるとは限りません。金銭出資は株式の取得原価を形成するため、出資した金額をすぐに損金化できるわけではないのです。
擬似DESには、会社側で債務消滅益を避けやすいという利点があります。その一方で、債権者側の課税、株式評価、資金手当、金融機関への説明、そして価値移転リスクについては、あらかじめ確認しておく必要があります。
債務免除・DESと欠損金の関係
債務免除益や債務消滅益が生じる場合、次に検討することになるのが欠損金です。
通常であれば、青色欠損金の繰越控除を確認します。ただ、債務超過会社や再生局面においては、期限切れ欠損金、つまり通常の青色欠損金としては使えなくなった欠損金を利用できるかどうかが問題になってきます。
法人税法59条は、会社更生等による債務免除等があった場合の欠損金の損金算入について定めています。また国税庁の法人税基本通達12-3-1は、再生手続開始の決定に準ずる事実として、法律の定める手続による資産整理、主務官庁の指示に基づく再建整備計画、あるいは債務免除等が多数の債権者によって協議のうえ決められるなど、決定に恣意性がなく内容に合理性がある資産整理を挙げています。
出典:国税庁|法人税基本通達 第12章 第3節 会社更生等による債務免除等があった場合の欠損金
さらに国税庁は、中小企業活性化協議会の実施基本要領に基づいて策定された再生計画により債権放棄等が行われた場合について、照会事実を前提としたうえで、法人税法59条、法人税基本通達9-4-2、12-3-1などの取り扱いを「貴見のとおりで差し支えない」と回答しています。中小企業庁も、協議会スキームに基づく再生計画により債権放棄等、すなわち債権放棄および債務の株式化が行われた場合について、一定の要件のもとで、債権者側の無税償却や債務者側の期限切れ欠損金の損金算入等に関して国税庁から回答がなされていると公表しています。
出典:国税庁|中小企業活性化協議会の「中小企業活性化協議会実施基本要領」に基づき策定された再生計画により債権放棄等が行われた場合の税務上の取扱いについて
出典:中小企業庁|「協議会スキーム」に係る税務上の取扱いについて
ここで大切なのは、「債務超過だから期限切れ欠損金が使える」と単純に判断してしまわないことです。
期限切れ欠損金を使えるかどうかは、会社更生、民事再生、一定の私的整理、解散清算、資産評定、再建計画の合理性、債権者の数、第三者の関与といった要素によって変わってきます。
| 局面 | 欠損金の主な確認事項 |
|---|---|
| 通常の債務免除 | 青色欠損金で吸収できるか |
| 法的整理・一定の私的整理 | 法人税法59条の期限切れ欠損金利用可能性 |
| 中小企業活性化協議会スキーム | 文書回答の前提と自社事案が整合するか |
| 解散・清算 | 残余財産がないと見込まれるか、実態貸借対照表を作成できるか |
| グループ内支援 | 完全支配関係、寄附金・受贈益、グループ通算への影響 |
解散した法人については、法人税基本通達12-3-8が、当該事業年度終了の時に債務超過の状態にあるときは「残余財産がないと見込まれるとき」に該当するとしています。また、残余財産がないと見込まれることを説明する書類として、実態貸借対照表が例示されています。
出典:国税庁|法人税基本通達 第12章 第3節 12-3-8、12-3-9
株価上昇とみなし贈与リスク
同族会社で債務免除やDESを行う場合には、法人税だけでなく、贈与税の視点も欠かせません。
たとえば、オーナー社長が会社に対する貸付金5,000万円を放棄したとします。会社側では借入金が減り、純資産が改善します。その結果として、会社の株式価値が上昇することがあります。
このとき、会社の株主がオーナー社長ひとりだけであれば、経済的利益の移転は比較的整理しやすいかもしれません。
ところが、株主の中に、後継者である子、配偶者、兄弟姉妹、親族、従業員持株会などが含まれている場合には、オーナー社長の債権放棄によって、ほかの株主が保有する株式の価値が上がることがあります。
この株価上昇が、実質的にはオーナーからほかの株主への利益移転だと評価される場合には、相続税法9条のみなし贈与が問題になる可能性が出てきます。相続税基本通達9-1は、相続税法9条にいう「利益を受けた」とは、おおむね利益を受けた者の財産の増加または債務の減少があった場合等をいう、としています。
出典:e-Gov法令検索|相続税法
出典:国税庁|相続税基本通達 第9条《その他の利益の享受》関係
オーナー貸付金の解消手法としては、債権放棄、DES、擬似DES、役員給与の減額による返済、役員退職金との相殺、代物弁済などが検討の対象になります。ただ、このうち債権放棄については、会社に債務免除益が生じるうえ、株価上昇を通じたみなし贈与課税が問題となることがあります。
株価への影響を見ていくときは、少なくとも次の順番で整理していきます。
| 確認順序 | 確認内容 |
|---|---|
| 1 | 債務免除・DES前の株式評価額 |
| 2 | 債務免除益・債務消滅益に対する法人税負担 |
| 3 | 税引後の純資産改善額 |
| 4 | 株主ごとの持株割合 |
| 5 | 株主ごとの株式価値増加額 |
| 6 | 誰の財産減少により誰が利益を受けたか |
| 7 | 相続税法9条、低額・高額取引、価値移転の検討 |
債務超過会社であっても、債務免除の後に株価がゼロのままとは限りません。事業価値、含み益、役員退職金の予定、保険の解約返戻金、土地の評価、営業権的な価値といった要素によって、株式評価が動くことがあるからです。
会社法・登記手続も税務判断に影響する
DESは、会社法上は現物出資を伴う募集株式の発行にあたります。
現物出資については、原則として検査役の調査が必要になるなど、会社法上の手続論点があります。会社法207条は、募集株式について金銭以外の財産を出資の目的とする事項を定めたときは、原則として現物出資財産の価額を調査させるため、裁判所に検査役選任の申立てをしなければならない旨を定めています。一定の場合には検査役調査が不要となる例外もありますが、DESでは、会社法上の手続、評価証明、登記、募集事項の決定、株主総会・取締役会の決議を確認しておく必要があります。
出典:e-Gov法令検索|会社法
本稿では登記手続の詳細にまでは踏み込みませんが、いずれにせよ、税務判断だけでDESを進めることはできません。
会社法上の募集事項、現物出資財産の価額、発行価額、増加する資本金・資本準備金、株主総会決議、既存株主の希薄化、種類株式の有無。これらはいずれも、税務上の資本金等の額や、株主間の価値移転にも影響してきます。
DES・擬似DES・債務免除の比較
実務の判断では、単に税負担の大小だけでなく、次のように多面的に比較していきます。
| 比較項目 | 債務免除 | DES | 擬似DES |
|---|---|---|---|
| 借入金の減少 | 減少する | 消滅する | 弁済により減少する |
| 資本の増加 | 増えない | 増える | 増える |
| 会社側の益金 | 債務免除益が生じる | 債務消滅益が生じる場合がある | 通常は生じにくい |
| 債権者側の損失 | 債権放棄損 | 現物出資損・債権譲渡損 | 原則として株式取得原価になる |
| 寄附金リスク | あり | 非適格現物出資損で問題になる | 高額引受け・価値移転で問題になる |
| 欠損金との関係 | 債務免除益との相殺を検討 | 債務消滅益との相殺を検討 | 会社側では通常大きな益金は生じにくい |
| 株主構成 | 変わらない | 変わる | 変わる |
| みなし贈与 | 株価上昇に注意 | 発行条件・株価上昇に注意 | 発行条件・株価上昇に注意 |
| 資金移動 | なし | なし | 一時的に資金払込と返済が必要 |
| 手続負担 | 比較的軽い | 現物出資・登記・評価が重い | 第三者割当増資・返済実行管理が必要 |
DESや擬似DESは、見た目には「資本を増やす」処理です。しかし税務上は、損益、寄附金、欠損金、株価、資本項目が同時に動きます。この点を忘れてはいけません。
失敗しやすい判断パターン
この論点で実務上とりわけ危険なのは、次のような判断です。
| 危険な判断 | 実際に確認すべきこと |
|---|---|
| DESなら借入金が資本金になるだけで課税されない | 債権の時価と債務帳簿価額との差額による債務消滅益を確認する |
| 債務免除益は欠損金で消せる | 欠損金残高、控除限度、期限切れ欠損金の適用可否を確認する |
| 親会社の債権放棄損は当然損金になる | 法基通9-4-1、9-4-2の相当な理由・合理的再建計画を確認する |
| 完全子会社なら支援損はグループ内で相殺できる | 受贈益益金不算入と寄附金損金不算入の両面を確認する |
| 擬似DESなら税務リスクはない | 債権回収益、株式取得価額、価値移転、資金流れを確認する |
| オーナーが貸付金を放棄するだけだから簡単 | 債務免除益、株価上昇、みなし贈与、相続財産への影響を確認する |
| 債務超過だから株価はゼロのまま | 債務免除後・DES後の株価を再計算する |
| 税務処理は実行後に申告で調整すればよい | 実行前に試算しないと、資金不足・株主間課税・税賠リスクが残る |
DESについては、税務上の評価や債務消滅益の見落としが、税賠事故につながることがあります。実際、税理士損害賠償の事故事例でも、DESをめぐる判断ミスが重要な論点として取り上げられています。
この論点は、単なる節税テクニックではありません。会社の存続、金融機関への対応、株主構成、後継者への承継、そして将来のM&Aにまで影響する、資本政策そのものなのです。
実行前に整理すべき資料
DES・擬似DES・債務免除を検討する場合には、少なくとも次の資料を整理しておきます。
| 資料 | 確認目的 |
|---|---|
| 直近決算書・試算表 | 債務超過額、純資産、損益状況を確認する |
| 法人税申告書・別表七(一) | 青色欠損金の残高を確認する |
| 別表五(一) | 利益積立金額、資本金等の額、期限切れ欠損金の基礎を確認する |
| 借入金明細 | 債権者、元本、利息、弁済期、担保、保証を確認する |
| 債権者側の帳簿価額資料 | DES・債権放棄時の債権者側損益を確認する |
| 債権時価評価資料 | 回収可能額、実態貸借対照表、事業計画を確認する |
| 資金繰り表 | 債務免除後・DES後の納税資金を確認する |
| 再建計画 | 債権放棄・DESの経済合理性を説明する |
| 株主名簿 | 価値移転、議決権、みなし贈与を確認する |
| 株価算定資料 | 債務整理前後の非上場株式評価を確認する |
| 議事録・稟議書 | 経営判断の目的、代替案、リスク説明を記録する |
| 金融機関資料 | 債権者協議、返済条件変更、支援合意を確認する |
| 会社法手続資料 | 募集事項、現物出資、検査役要否、登記手続を確認する |
なかでも、実態貸借対照表は重要です。
税務上の債権時価、債務超過額、期限切れ欠損金、再建計画の合理性、残余財産の有無。これらを判断するための基礎になるからです。帳簿上の貸借対照表だけでなく、資産の処分価額、担保評価、回収可能性、偶発債務を反映した、実態ベースの数字を作成しておく必要があります。
判断の順番
実務では、次の順番で整理していくと、論点の見落としを防ぎやすくなります。
1. 目的を確認する
まず、何のために借入金を整理するのかを明確にします。
資金繰りの改善、債務超過の解消、金融機関への対応、事業再生、M&A前の整理、事業承継、相続財産の圧縮、グループ再編。目的が変われば、最適な手法も変わってきます。
2. 債権者と株主の関係を確認する
債権者が金融機関なのか、親会社なのか、オーナー個人なのか、親族なのか、あるいは外部投資家なのかを確認します。
同じ債務免除であっても、金融機関による再生計画上の債権放棄と、オーナー個人による同族会社への債権放棄とでは、税務上の検討ポイントが異なってきます。
3. 債権の時価を確認する
DESでは、対象となる債権の時価がきわめて重要です。
債権の額面ではなく、回収可能額をどう見積もるか。ここが、債務消滅益、資本金等の額、そして債権者側の損益に影響してきます。
4. 債務者側の課税所得を試算する
債務免除益または債務消滅益を計算し、欠損金で吸収できるかどうかを確認します。
資金収入を伴わない利益に課税される可能性があるため、納税資金についても同時に確認しておきます。
5. 債権者側の損金算入可否を確認する
法人が債権者となる場合には、その債権放棄損や現物出資損が、貸倒損失となるのか、寄附金となるのか、あるいは損金不算入となるのかを確認します。
合理的な再建計画があるか、支援しない場合の損失がどうなるか、第三者から見て説明できるか。こうした点が重要になります。
6. 株価と株主間価値移転を確認する
債務整理による株価上昇が、誰に利益を与えるのかを確認します。
とりわけ、オーナー、後継者、親族株主、少数株主が入り混じっている場合には、みなし贈与や株主間トラブルのリスクを確認しておきます。
7. 会社法・金融機関・将来取引への影響を確認する
DESや擬似DESでは、新株発行、現物出資、登記、発行価額、資本金、議決権割合が変わります。
また、将来のM&Aや事業承継の場面で、過去のDESや債務免除の経緯が、税務DDの中で確認されることもあります。
専門家へ相談すべきタイミング
DES・擬似DES・債務免除は、いったん実行してしまうと、後から修正することが難しい取引です。
特に、次のいずれかに当てはまる場合には、実行の前に、税務・会計・会社法・資本政策を一体として確認しておくべきです。
- 債務超過会社の借入金を整理したい
- オーナー社長からの借入金が多額にある
- 後継者以外の親族株主がいる
- 金融機関から債務免除やDESを提案されている
- 親会社が子会社への貸付金を放棄したい
- 完全支配関係の有無が判断に影響しそうである
- 繰越欠損金や期限切れ欠損金を使えるか確認したい
- 中小企業活性化協議会や私的整理を検討している
- M&A前に債務超過を解消したい
- DES後の資本金、株主構成、株価への影響が不明である
- 債務免除後の贈与税・相続税リスクを確認したい
- 過去の別表五(一)や借入金明細に不安がある
この段階で必要になるのは、「どの手法が節税になるか」だけではありません。
会社を存続させるのか、再生させるのか、承継させるのか、それとも売却するのか。経営の出口を見据えたうえで、税務上きちんと説明できる処理を選ぶこと。これこそが、この局面で問われることだと考えています。
まとめ
DES・擬似DES・債務免除は、借入金を整理する手法であると同時に、法人税務の上では非常に複雑な判断領域を含んでいます。
債務免除では、会社側に債務免除益が生じます。DESでは、債権の時価と債務の帳簿価額との差額により、債務消滅益が生じることがあります。擬似DESでは、会社側の債務消滅益は通常生じにくいものの、債権者側の債権回収益、株式取得価額、価値移転には注意が必要です。
また、債務整理によって会社の純資産が改善すると、非上場株式の価値が上昇し、ほかの株主へのみなし贈与が問題になることがあります。法人税だけでなく、所得税、贈与税、相続税、会社法、金融機関への対応、事業承継、そしてM&Aまでを見据えて判断していく必要があるのです。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、DES・擬似DES・債務免除について、債務消滅益・債務免除益の試算、欠損金の利用可能性、債権者側の損金算入、株価・みなし贈与、会社法手続、事業承継・M&Aへの影響を、一体として整理しています。
オーナー貸付金の整理、債務超過会社の再生、親子会社間の債権放棄、DESを伴う資本政策をご検討の場合は、実行の前に、借入金明細、直近の申告書、別表五(一)、別表七(一)、株主名簿、試算表を整理したうえで、お問い合わせページからご相談ください。
振り返り
| 重要論点 | 実務上の確認ポイント |
|---|---|
| 債務免除 | 会社側に債務免除益が生じる。欠損金で吸収できるかを確認する |
| 債権放棄損 | 法人債権者側で貸倒損失、寄附金、損金不算入のいずれになるか確認する |
| 法基通9-4-1・9-4-2 | 整理・再建支援の相当な理由、合理的な再建計画、支援額の合理性を確認する |
| 完全支配関係 | 受贈益益金不算入と寄附金損金不算入の両面を確認する |
| DES | 債権を現物出資する取引。債権時価と債務帳簿価額の差額により債務消滅益が生じることがある |
| 非適格現物出資 | 完全支配関係内でないDESでは、債権の時価評価と債務消滅益に注意する |
| 適格現物出資 | 完全支配関係内でも、債権者側の帳簿価額と債務者側の借入金額が一致するか確認する |
| 擬似DES | 金銭出資と借入金返済を分けて処理する。債権回収益や価値移転に注意する |
| 欠損金 | 青色欠損金、期限切れ欠損金、法人税法59条の適用可能性を確認する |
| 中小企業活性化協議会 | 協議会スキームに基づく再生計画では、一定の税務上の取扱いが確認されている |
| 株価上昇 | 債務整理により既存株主の株式価値が上がる場合、みなし贈与を確認する |
| オーナー貸付金 | 債権放棄、DES、擬似DES、役員退職金相殺などを比較する |
| 会社法手続 | DESは現物出資。検査役、募集事項、決議、登記、発行価額を確認する |
| 資金繰り | 債務免除益・債務消滅益は資金収入を伴わない利益であり、納税資金に注意する |
| 事前資料 | 借入金明細、実態貸借対照表、再建計画、別表五(一)、別表七(一)、株主名簿を整える |