不動産取引における税務上の時価|同族関係者間売買・低額譲渡・高額譲渡で確認すべき判断軸

不動産を売買するとき、当事者どうしで合意した金額が、そのまま税務上も認められるとは限りません。

特に、会社と役員、会社と株主、あるいは親族間、同族会社間、グループ会社間で土地や建物を移転する場面では、「その売買価額を、税務上の時価として説明できるか」が重要になります。

不動産取引における時価判断を誤ると、売り手側ではみなし譲渡課税、譲渡益課税、寄附金課税、役員給与課税が問題となります。買い手側でも、受贈益、給与課税、取得価額、減価償却、将来の譲渡損益に影響します。さらにその影響は、株主構成や事業承継、法人成り・個人成り、M&A、組織再編、清算、金融機関への説明にまで波及していきます。

不動産の時価をめぐる裁決・判決を見ると、争点はおおむね共通しています。親族間・同族関係者間の売買かどうか、裁判所や審判所が時価をどのように認定したか、「時価より低い」と「著しく低い」の違い、そして土地の権利関係をどう考慮するか。こうした点が、主要な争点として繰り返し整理されてきました。

本記事では、個別不動産の鑑定評価額を算定する方法そのものではなく、法人税務の実務判断として、不動産取引における税務上の時価をどのように考え、どの資料を確認し、どのような課税リスクを整理すべきかを解説します。

目次

不動産の「税務上の時価」は、目的によって見方が変わる

不動産の時価といっても、常に一つの金額に決まるわけではありません。同じ土地・建物であっても、実務では次のような評価額が併存しています。

評価の種類主な用途実務上の注意点
実際の売買価額売買契約、M&A、資金調達第三者間取引であれば有力な資料になるが、同族関係者間では価格形成過程の説明が必要
不動産鑑定評価額高額取引、争点化しやすい取引、金融機関説明評価目的、価格時点、前提条件、鑑定評価の種類を確認する必要がある
相続税評価額相続税・贈与税の財産評価法人税上の取引時価そのものとは限らない
固定資産税評価額固定資産税、家屋評価、倍率方式の基礎実勢価格と乖離することがある
路線価・倍率方式による評価額相続税・贈与税の土地評価税務上の参考資料にはなるが、低額譲渡判定では通常の取引価額との関係を確認する
取引事例・近隣売買価格市場性の確認個別事情、面積、形状、用途、権利関係、時点修正が必要
収益還元的な価額賃貸不動産、事業用不動産賃料水準、稼働率、修繕、将来収益、利回りの前提が結論を左右する

相続税・贈与税の財産評価基本通達において、時価とは、課税時期における財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいうものとされています。そして評価に当たっては、価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮するものとされています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第1章 総則

ここで気をつけたいのは、「相続税評価額があるのだから、それを売買価額にすれば常に安全だ」という考え方ではない、という点です。相続税評価額は、あくまで相続税・贈与税の課税財産を評価するための実務上の基準です。

法人税・所得税における不動産売買では、取引当事者、売買目的、価格形成過程、通常の取引価額、権利関係などを、別途あらためて確認する必要があります。

不動産取引で時価が問題になる典型場面

不動産の時価が税務上問題になりやすいのは、当事者間に利害の対立が働きにくい取引です。典型的には、次のような場面が挙げられます。

取引場面主な税務上の論点
オーナー個人から同族会社へ土地を売却する個人側のみなし譲渡、法人側の受贈益、株主への価値移転
同族会社から役員へ不動産を売却する法人側の譲渡益、役員側の経済的利益、役員給与・賞与
親族間で土地・建物を売買する贈与税のみなし贈与、著しく低い価額かどうか
グループ会社間で不動産を移転する譲渡損益、寄附金、受贈益、グループ法人税制、譲渡損益調整
法人成りで個人事業の不動産を法人へ移す個人側の譲渡所得、法人側の取得価額、消費税・登録免許税・不動産取得税
個人成り・廃業で法人資産を個人へ戻す法人側の譲渡損益、個人側の課税、低額譲渡リスク
清算・現物分配で不動産を株主へ移転する譲渡損益、みなし配当、株主側課税
M&A・組織再編前に不動産を動かす価格調整、税務DD、含み損益、欠損金制限、否認リスク

法人成りでは、個人事業で使用していた設備や資産を、法人でも引き続き使用することが多く、個人から法人への資産移転が税務上の論点になります。

不動産を移転する場合には、単に「帳簿価額で移す」「固定資産税評価額で移す」と決めるのではなく、譲渡所得、法人側の取得価額、将来の減価償却、金融機関への説明まで含めて検討しておくことが望まれます。

土地の時価を考えるときの確認ポイント

土地の時価は、単純に面積と単価だけで決まるものではありません。税務上の説明可能性を高めるには、少なくとも次の要素を確認しておきたいところです。

確認項目見るべき内容
所在・用途地域市街化区域、市街化調整区域、用途地域、建ぺい率、容積率
地積・形状不整形地、奥行、間口、無道路地、旗竿地、高低差
接道状況建築基準法上の道路、再建築可否、私道負担
権利関係借地権、底地、使用貸借、賃貸借、地上権、共有
利用状況自用地、貸地、貸家建付地、駐車場、事業用地、遊休地
収益性賃料、稼働率、契約期間、更新料、修繕負担
環境要因土壌汚染、騒音、日照、嫌悪施設、災害リスク
公的価格路線価、固定資産税評価額、公示価格、基準地価格
取引事例近隣売買、同規模・同用途・同時点の比較可能性
評価時点契約日、引渡日、決算日、相続開始日、贈与日

路線価が定められていない地域の土地は、相続税・贈与税の評価では倍率方式により、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて評価するものとされています。

出典:国税庁|No.4606 倍率方式による土地の評価

ただし、路線価や倍率方式による評価額は、あくまで相続税・贈与税の財産評価上の金額です。不動産を売買する場面では、実際に第三者間で通常成立すると考えられる取引価額、売買事例、鑑定評価、利用状況、権利関係を確認する必要があります。

特に同族会社や親族間での土地売買では、「相続税評価額で売買したのだから問題ない」とは言い切れません。相続税評価額と通常の取引価額に差がある場合には、その差がどの税目でどのように評価されるのかを、あらかじめ確認しておかなければなりません。

建物の時価を考えるときの確認ポイント

建物は、土地以上に個別性が大きい資産です。

相続税・贈与税の家屋評価では、家屋は固定資産税評価額に1.0を乗じて評価するものと説明されています。
出典:国税庁|No.4602 土地家屋の評価

また、財産評価基本通達でも、家屋の価額は固定資産税評価額に別表の倍率を乗じて計算するものとされています。
出典:国税庁|財産評価基本通達 第3章 家屋及び家屋の上に存する権利

しかし、法人税務上の売買価額を検討する場合には、固定資産税評価額だけでなく、次のような事情も確認しておく必要があります。

確認項目実務上の意味
建築年月・構造木造、鉄骨造、RC造などにより耐用年数・価値低下が異なる
修繕・改良履歴大規模修繕、増改築、耐震補強の有無
維持管理状態老朽化、雨漏り、設備劣化、使用不能部分
用途事務所、店舗、工場、倉庫、賃貸住宅、自社利用
収益性賃貸中か、自社利用か、空室か
解体可能性建物価値がほぼなく、解体費を考慮すべき場合がある
土地建物一体取引売買価額を土地と建物にどう配分するかが問題になる
消費税土地は非課税、建物は課税対象となるため、配分が重要

土地建物を一括で売買する場合、総額だけでなく、土地価額と建物価額の配分が実務上大きな意味を持ちます。建物部分の価額は減価償却、消費税、将来の譲渡損益に影響し、土地部分の価額は非償却資産として将来まで残っていくからです。

不自然な配分をすれば、法人税だけでなく、消費税や固定資産台帳、金融機関への説明にまで影響が及びます。

不動産鑑定評価を取得すれば十分か

高額な不動産取引、同族関係者間取引、権利関係が複雑な土地、賃貸不動産、M&A・組織再編前後の不動産移転では、不動産鑑定評価書の取得が有効です。

不動産鑑定評価基準では、不動産の価格は価格判定の基準日においてのみ妥当するため、価格時点を確定する必要があるとされています。そして、不動産鑑定評価によって求める価格は基本的には正常価格であるものの、依頼目的に応じた条件により、限定価格、特定価格または特殊価格を求める場合があるとされています。
出典:国土交通省|不動産鑑定評価基準

この点は、税務実務のうえでも重要です。鑑定評価書がある場合でも、次の点は確認しておかなければなりません。

確認項目確認すべき理由
価格時点契約日・引渡日・決算日とずれていないか
評価目的税務上の売買時価の説明に使える目的で作成されているか
価格の種類正常価格か、限定価格か、特定価格か
前提条件現況利用、開発前提、賃貸中、土壌汚染等が適切に反映されているか
権利関係借地権、賃借権、共有、担保権が反映されているか
収益性賃貸不動産の場合、賃料・空室・修繕・利回りが妥当か
鑑定後の事情変更契約までに価格形成要因が変化していないか
税務処理との整合性会計処理、申告書、議事録、契約書と矛盾しないか

つまり、鑑定評価書は強力な資料ではあるものの、それだけで税務判断が完結するわけではありません。税務上求められるのは、「なぜその評価を採用したのか」を、取引目的・当事者関係・税務処理と一体で説明できる状態にしておくことです。

相続税評価額・固定資産税評価額を売買価額に使う場合の注意点

実務では、親族間や同族会社間の不動産売買で、相続税評価額や固定資産税評価額を売買価額の参考にすることがあります。

これ自体が直ちに誤りというわけではありません。問題は、その評価額が、当該取引の税務上の時価として説明できるかどうかにあります。

たとえば、次のような場合には、相続税評価額や固定資産税評価額だけでは説明が弱くなります。

状況注意すべき理由
都市部の土地で実勢価格が相続税評価額を大きく上回る低額譲渡・受贈益・みなし贈与の問題が出やすい
築古建物だが収益物件として高収益固定資産税評価額より収益価値が高い可能性がある
建物が老朽化し解体前提固定資産税評価額が実態より高く見えることがある
借地権・貸家建付地・使用貸借がある権利関係により通常の取引価額が変わる
売買直前に近隣で取引事例があるその事例を無視すると説明が難しい
金融機関・M&A・株主説明でも使う価額税務上だけでなく外部説明に耐える価額が必要

国税庁は、負担付贈与または個人間の対価を伴う取引により取得した土地や家屋等について贈与税を計算するときは、通常の取引価額に相当する金額によって評価すると説明しています。

出典:国税庁|No.4602 土地家屋の評価

このため、親族間売買や同族会社関係者間の売買では、「相続税評価額であれば贈与税は問題ない」と短絡的に考えるのではなく、通常の取引価額との関係を確認しておく必要があります。

個人から法人へ不動産を低額譲渡する場合

不動産取引で最も注意したい場面の一つが、オーナー個人や役員個人が、同族会社へ土地・建物を低額で売却する場面です。

この場合、売り手である個人側と、買い手である法人側とで、別々に課税関係を整理する必要があります。

個人側:時価の2分の1未満なら、時価で売ったものとされる

土地や建物を法人に対して時価より低い価額で売却した場合、その売却価額が時価の2分の1を下回ると、所得税の譲渡所得では、実際の売却価額ではなく時価を収入金額として計算することになります。
出典:国税庁|No.3217 時価より低い価額で売ったとき

国税庁は、同族会社の代表者個人が時価1億円の土地を会社に4,000万円で売った場合、4,000万円ではなく1億円が譲渡所得の収入金額になる、という例を示しています。
出典:国税庁|No.3217 時価より低い価額で売ったとき

また、所得税基本通達59-3では、法人に対して時価の2分の1以上の対価で譲渡した場合には、所得税法59条1項2号の適用はないとされています。ただし、その譲渡が同族会社等の行為計算否認に該当する場合には、時価相当額で譲渡所得等を計算できる旨が示されています。
出典:国税庁|法第59条《贈与等の場合の譲渡所得等の特例》関係

つまり、「時価の2分の1以上なら絶対に安全」ということではありません。同族会社への不自然な譲渡で、税負担を不当に減少させる目的や結果がある場合には、別の否認リスクが残ります。

法人側:時価との差額が受贈益になり得る

個人から法人が不動産を時価より低く取得した場合、法人側では、時価と取得価額との差額が受贈益として益金に算入される可能性があります。

国税不服審判所の公表裁決でも、法人が資産を時価より低額で譲り受けた場合には、現実の譲受価額が時価より「著しく低い」かどうかを問わず、譲受価額と時価との差額について、無償による財産の取得があったものとして、法人税法22条2項により益金に算入すべきものと解される旨が示されています。
出典:国税不服審判所|平14.5.21裁決、裁決事例集No.63 269頁

個人から法人への譲渡についても同様に整理できます。法人が適正価格より低い価格で譲り受けた場合には、適正価格との差額が受贈益として課税されることになります。

したがって、個人から法人への低額譲渡では、個人側だけでなく、法人側の課税も同時に検討しなければなりません。

法人から個人へ不動産を低額譲渡する場合

法人が役員、株主、親族、従業員などの個人に不動産を低額で譲渡する場合も、注意が必要です。

法人側では、法人が本来得られるべき時価相当額を基礎に譲渡損益を認識すべきか、また、時価との差額が誰への経済的利益供与に当たるかが問題になります。

個人側では、法人から時価より低い価額で不動産を取得することにより、役員給与、賞与、経済的利益、贈与に類似する利益などとして、課税関係が生じる可能性があります。特に相手が役員であれば、法人税上の役員給与規制や過大役員給与、損金不算入の問題にもつながっていきます。

この場面で危ういのは、法人側が「売買契約は締結している」「代金も入金されている」と考え、時価との差額を見落としてしまうことです。税務上は、形式的な売買であるかどうかではなく、法人から個人へ経済的利益が移転していないかを確認します。

法人間で不動産を低額・高額譲渡する場合

法人間の取引では、低額譲渡・高額譲渡の差額が、寄附金や受贈益として問題になります。

国税庁は、法人税法上の寄附金について、名義を問わず、法人が行った金銭その他の資産または経済的利益の贈与・無償供与をいうと説明しています。そして、低額譲渡等でその差額が実質的な贈与等と認められる場合には、その差額をもって計算するとしています。
出典:国税庁|No.5281 寄附金の範囲と損金不算入額の計算

法人間で不動産を時価より低く売却した場合には、売り手側で寄附金、買い手側で受贈益が問題になります。反対に、時価より高く購入した場合には、買い手側が相手法人に経済的利益を供与したものとして、寄附金等の問題が生じます。

ただし、100%グループ内の取引では、グループ法人税制により、譲渡損益調整や寄附金・受贈益の取扱いが通常取引と異なる場合があります。完全支配関係の有無、法人による完全支配関係か個人を頂点とする支配関係か、譲渡損益調整資産に該当するかどうかを確認する必要があります。

個人間の不動産売買では「著しく低い価額」が問題になる

親族間など、個人間で土地・建物を売買する場合には、買い手側で贈与税のみなし贈与が問題になります。

国税庁は、個人から著しく低い価額の対価で財産を譲り受けた場合、その財産の時価と支払った対価との差額は、財産を譲渡した人から贈与により取得したものとみなされると説明しています。また、著しく低い価額かどうかは個々の具体的な事案に基づいて判定するものとされ、この判定基準は、法人に対して資産を移転した場合の「時価の2分の1に満たない金額」とは異なるものとされています。
出典:国税庁|No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき

ここで重要なのは、個人間の贈与税の判定では、単純な「2分の1基準」で安全性を判断できない、という点です。

親族間で「相続税評価額ならよい」「固定資産税評価額ならよい」と考えるのではなく、通常の取引価額、権利関係、売買の必要性、資金の流れ、代金決済の実態を確認しておく必要があります。

高額譲渡も危険である

不動産取引では、低額譲渡ばかりが注目されがちですが、高額譲渡にもリスクがあります。

会社が役員や関係者から不動産を時価より高く購入した場合、会社が過大に支払った部分について、役員給与、寄附金、経済的利益供与などが問題となります。

たとえば、会社がオーナーから土地を高く買い取れば、会社側では取得価額が大きくなり、将来の譲渡原価や財務状態に影響します。一方で、オーナー側には売却代金が流入します。税務上は、その差額が通常の売買対価なのか、それとも会社からオーナーへの利益移転なのかが問われます。

高額譲渡では、次の点を確認しておくべきです。

確認項目注意点
価格根拠鑑定評価、取引事例、収益価値があるか
購入目的会社の事業上必要な不動産か
代替案賃借や第三者取得と比較したか
取締役会・株主総会利害関係者取引として承認過程を残しているか
資金繰り会社の資金流出に合理性があるか
将来影響減価償却、譲渡損益、金融機関説明に耐えるか

「会社に利益が出ているのだから、オーナー不動産を高く買ってもよい」という判断は危険です。税務上の時価を超える部分を、会社の事業遂行上必要な支出として説明できるかどうかが問われます。

取引事例を使うときの注意点

近隣の売買事例は、不動産の時価を説明するうえで有力な資料です。

ただし、単に「近くでこの価格で売れている」というだけでは十分とはいえません。比較対象として使うには、次の点を調整しておく必要があります。

比較項目確認内容
取引時点地価変動があるため、時点修正が必要
面積大規模地・小規模地で単価が異なる
形状不整形、間口、奥行、高低差
接道道路幅員、方位、再建築可否
用途住宅、商業、工業、事業用地
権利関係借地権、賃借権、共有、担保
取引当事者第三者間か、親族・関係会社間か
取引条件売急ぎ、買進み、瑕疵、立退き、価格調整条項

税務調査で説明力を持つのは、単なる相場感ではなく、比較可能性を検討した資料です。特に同族会社間の取引では、売買事例、鑑定評価、公的価格、社内の意思決定資料を組み合わせて、価格決定の過程を残しておくことが重要です。

時価判断で必ず確認すべき資料

不動産の時価を検討する際には、次の資料を整理しておきます。

資料確認する内容
登記事項証明書所有者、地目、地積、担保、権利関係
公図・地積測量図土地の位置、形状、境界
固定資産評価証明書固定資産税評価額、課税地目、家屋評価
路線価図・評価倍率表相続税評価上の参考情報
不動産鑑定評価書正常価格、価格時点、前提条件
近隣取引事例市場価格の参考
賃貸借契約書賃料、期間、敷金、更新、解除条件
レントロール賃貸不動産の収益性
建築確認・検査済証建物の法的状態
修繕履歴・工事資料建物価値、資本的支出、修繕費判断
土壌汚染・境界資料減価要因、瑕疵の有無
売買契約書案価格、支払条件、引渡条件
取締役会議事録・稟議書価格決定理由、事業目的、承認過程
資金移動資料実際の決済、返金、相殺の有無
決算書・申告書・固定資産台帳帳簿価額、含み損益、取得価額

不動産の時価資料は、取引後に慌てて整えるものではありません。取引の前に、価格決定の根拠と意思決定の過程を残しておく必要があります。

税務調査で見られるポイント

不動産取引が税務調査で確認される場合、調査官は「売買契約書があるか」だけを見ているわけではありません。

むしろ、次のような観点から、取引実態と価格の合理性を確認していきます。

税務調査での確認ポイント見られる理由
当事者関係同族関係、親族関係、役員・株主関係があるか
売買目的事業上の必要性があるか、税負担調整が主目的ではないか
価格根拠鑑定、評価、取引事例、公的価格があるか
価格決定過程誰が、いつ、どの資料で決めたか
代金決済実際に支払われたか、相殺・戻しがないか
会計処理売却益、取得価額、減価償却、受贈益、寄附金が整合しているか
議事録・稟議利害関係者取引として承認されているか
前後の取引直前直後に贈与、増資、債権放棄、再編がないか
株主への影響株式価値の移転、みなし贈与がないか
申告書別表税務調整が必要な論点を反映しているか

不動産取引は金額が大きいため、税務調査で問題になると、追加税額や附帯税の影響も大きくなります。さらに、時価判断の誤りは、将来のM&Aや事業承継、金融機関への説明の場面で発見されることもあります。

不動産の時価判断を誤ると、将来の選択肢を狭める

不動産取引の税務上の時価は、単年度の申告だけの問題ではありません。

たとえば、同族会社がオーナーから不動産を低額で取得した場合、法人側では受贈益課税が問題になります。オーナー側では、時価の2分の1未満であればみなし譲渡課税が問題になります。さらに、その不動産取得によって会社の純資産が増加し、株式価値が上がれば、他の株主への価値移転や事業承継上の問題が生じることもあります。

個人から法人へ低額で不動産を譲渡したことで、会社には法人税が課され、株式価値の上昇を通じて株主に相続税・贈与税が問題となった事例も、裁決・判決の整理のうえで、重要な論点として扱われています。

また、法人が役員から高額で不動産を取得した場合には、会社の資金流出、役員への利益移転、取得価額、減価償却、将来の譲渡損益に影響します。M&Aの際には、買い手から「なぜこの価格で不動産を取得したのか」と確認される可能性もあります。

つまり、不動産の時価判断は、税務調査への対策だけでなく、会社の数字を将来にわたって説明できる状態にしておくための判断でもあるのです。

実行前に整理すべき判断手順

不動産取引を実行する前には、次の順で整理していくと判断しやすくなります。

1. 取引目的を明確にする

なぜ不動産を移転するのかを確認します。

事業用不動産の集約、法人成り、個人成り、事業承継、M&A前の整理、グループ再編、借入担保、資金繰り、相続対策など、取引目的によって、検討すべき税務論点は変わってきます。

2. 当事者関係を確認する

売り手・買い手が、第三者なのか、親族なのか、役員なのか、株主なのか、関係会社なのかを確認します。

同族関係者間では、第三者間のような価格交渉が働きにくいため、価格根拠と意思決定過程の資料化が、より重要になります。

3. 対象不動産を分解する

土地、建物、構築物、附属設備、借地権、賃借権、底地、共有持分などに分解します。

土地建物を一括で売買する場合、土地と建物の配分が、法人税、消費税、減価償却、将来の譲渡に影響します。

4. 複数の評価資料を比較する

鑑定評価、取引事例、路線価、固定資産税評価額、収益還元的な価額を比較します。

一つの資料だけで判断するのではなく、評価額に差がある理由を確認しておきます。

5. 税目別に課税関係を整理する

法人税、所得税、贈与税、消費税、不動産取得税、登録免許税、地方税を確認します。

法人税上は問題が小さく見えても、個人側の譲渡所得や贈与税で大きな問題が出ることがあります。

6. 会計処理と申告処理を整合させる

売却益、固定資産取得、減価償却、受贈益、寄附金、役員給与、別表調整を確認します。

税務上の時価判断と会計処理がずれていると、後から説明することが難しくなります。

7. 意思決定資料を残す

契約書、稟議書、取締役会議事録、評価資料、価格決定メモ、資金移動資料を残します。

重要なのは、「その時点でどの資料を見て、なぜその価格を合理的と判断したのか」を説明できることです。

専門家へ相談する前に準備すべき資料

不動産の時価が問題になる取引について相談する場合、次の資料を準備しておくと、検討の精度が上がります。

分類資料
取引概要取引目的、売り手・買い手、予定価額、実行予定日
権利関係登記事項証明書、公図、地積測量図、賃貸借契約書
評価資料固定資産評価証明書、路線価、評価倍率表、鑑定評価書、取引事例
建物資料建築確認、検査済証、修繕履歴、図面、設備資料
会計資料固定資産台帳、決算書、総勘定元帳、税務申告書
税務資料別表、過年度申告、減価償却明細、消費税区分
意思決定資料稟議書、議事録、価格決定メモ、専門家意見
資金資料借入契約、返済計画、決済予定、相殺予定
関係者資料株主名簿、役員関係、親族関係、グループ関係図

特に、価格を決める前に相談していただくことが重要です。売買契約の後や決済の後に相談すると、選択肢が限られ、資料も後付けに見えやすくなってしまいます。

不動産取引の時価判断では「説明できる価格」を重視する

不動産の税務上の時価判断で重要なのは、最も税負担が小さい金額を探すことではありません。

重要なのは、後から説明できる価格を採用することです。

その価格は、第三者間でも成立し得るか。その評価方法は、取引目的と税目に合っているか。土地と建物の配分は合理的か。相続税評価額や固定資産税評価額を使う理由を説明できるか。鑑定評価の価格時点と取引時点は一致しているか。権利関係や賃貸状況は反映されているか。取引後の会計処理・申告処理に矛盾はないか。そして、金融機関、株主、後継者、買い手、税務調査に説明できるか。

こうした視点を持つことで、不動産取引は単なる節税手段ではなく、会社の財務・税務・将来設計を整える意思決定になっていきます。

ご相談を検討される方へ

同族会社、オーナー企業、グループ会社、事業承継、法人成り・個人成り、M&A、組織再編で不動産を移転する場合、売買価額の決め方は、税務上の結論だけでなく、会社の財務状態、株式価値、資金繰り、将来の説明責任にまで影響します。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、不動産の売買価額について、単に「この金額でよいか」を確認するのではなく、取引目的、当事者関係、評価資料、会計処理、法人税・所得税・贈与税への波及、そして将来の事業承継・M&A・金融機関説明まで含めて整理いたします。

不動産を同族会社・役員・株主・親族・グループ会社間で移転するご予定がある場合は、契約締結前・決済前の段階で、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。

本記事の振り返り

重要ポイント実務上の意味
不動産の時価は一つとは限らない鑑定評価、相続税評価額、固定資産税評価額、取引事例は目的が異なる
相続税評価額は万能ではない法人税・所得税の売買時価としてそのまま使えるとは限らない
固定資産税評価額だけで判断しない建物評価の参考にはなるが、市場価格・収益性・状態確認が必要
個人から法人への低額譲渡は特に注意個人側のみなし譲渡、法人側の受贈益が問題になる
時価の2分の1以上でも安全とは限らない同族会社等の行為計算否認や受贈益・寄附金リスクが残る
法人間取引では寄附金・受贈益を確認する低額・高額取引の差額が利益供与と見られることがある
鑑定評価書は有力だが、前提確認が必要価格時点、評価目的、権利関係、価格の種類を確認する
土地建物の配分が重要減価償却、消費税、将来譲渡損益に影響する
税務調査では価格決定過程が見られる契約書、評価資料、稟議書、議事録、資金移動資料を残す
実行前の相談が最も有効取引後ではなく、価格決定前に税務・会計・資料化を整える
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次