法人税務|申告実務と重要論点の税務判断

法人税務は、決算書の数字を申告書へ写し取るだけの手続ではありません。

もちろん、法人税申告には、決算書の作成から税務調整、別表作成、電子申告、納付へと続く実務の流れがあります。ただ、法人税務の本質は、その手続の内側にとどまるものではないと考えています。

売上をいつ計上するのか。役員報酬や役員退職金をどのように定めるのか。交際費、寄附金、貸倒損失、固定資産、棚卸資産をどう処理するのか。あるいは、グループ会社間の取引、組織再編、M&A、事業承継、海外取引を行うとき、税務上どのような影響が生じるのか。そして、税務調査の場で、その処理を後からどこまで説明できるのか。

これらはいずれも、単なる経理処理ではありません。会社の利益、税負担、資金繰り、金融機関への説明、株主や後継者への説明、さらには将来のM&Aや事業承継の選択肢にまで及ぶ、経営そのものの判断です。

法人税法は、法人税について、納税義務者、課税所得等の範囲、税額計算、申告、納付、還付手続などを定める法律です。その中でも22条は、各事業年度の所得の金額を、益金の額から損金の額を控除して計算するという基本構造を示しています。ですから、法人税務を理解しようとするとき、まず出発点になるのは、会計上の利益と税務上の課税所得がどこで異なるのかを押さえることです。
出典:e-Gov法令検索|法人税法

本シリーズでは、国内の中小・中堅企業を主な対象として、法人税申告実務の基本構造から、経営判断に関わる重要論点、そして組織再編・M&A・事業承継・国際税務を含む高度な税務判断までを、体系立てて整理していきます。

法人税務を「申告作業」で終わらせないために

法人税申告は、毎年繰り返される定型業務のように見えます。

けれども実際には、同じ勘定科目で処理されていても、その背後にある取引の実態、契約関係、社内の意思決定、そして資料の残し方によって、税務上の評価は大きく変わってきます。

たとえば、ある支出を費用として会計処理していても、それが税務上当然に損金算入できるとは限りません。売上を会計上計上していても、税務上の益金算入の時期や金額については、あらためて検討を要する場面があります。グループ会社間の費用負担や資産移転では、寄附金、受贈益、時価、移転価格、みなし配当といった複数の制度が、同時に問題となることも珍しくありません。

法人税務で問われるのは、「どの科目で処理したか」だけではないのです。

なぜその処理を選んだのか。その取引はどのような契約に基づいているのか。相手方との関係はどうなっているのか。金額はどのように決めたのか。社内でどのような承認を経たのか。そして、後から説明できる資料が手元に残っているのか。

こうした確認を経ないまま、前年踏襲や表面的な節税効果だけで処理を進めてしまうと、税務調査、金融機関対応、株主説明、後継者への引継ぎ、あるいはM&A時の税務デューデリジェンスといった局面で、問題が一気に表面化することがあります。

本シリーズは、法人税務を「申告期限までに終わらせる作業」ではなく、「会社の意思決定を支える管理領域」として捉え直すためのものです。

本シリーズで扱う法人税務の全体像

法人税務には、基本的な申告実務から高度な判断論点まで、実に多くの領域があります。本シリーズでは、それらを大きく18のテーマに分けて整理していきます。

1. 法人税申告実務の全体像と決算・申告プロセス

はじめに、法人税申告の基本構造を整理します。

決算から申告、納付、そして申告後の対応までの流れをつかみ、会計上の利益と税務上の所得がどのように結び付くのかを確認します。別表四、別表五(一)、別表五(二)、税額控除関係の別表など、法人税申告書を読み解くうえで避けて通れない基本事項も、あわせて取り上げます。

このテーマで大切にしたいのは、申告書をブラックボックスにしないことです。法人税申告書は、会社の取引、利益、税務判断、資本項目、そして翌期以降への繰越項目までが集約された、いわば一枚の見取り図です。経営者や実務責任者がすべての記載を自ら作成する必要はありませんが、重要な数字がどのように申告書へ反映されているのかを理解しておくことは、専門家と対話するうえで大きな助けになります。

2. 益金・収益認識と法人税法22条・22条の2

売上や収益を、いつ、いくら益金に算入するのか。これは法人税務の根幹をなす論点です。

収益認識会計基準の導入にあわせて、法人税法の側でも、資産の販売等に係る収益の計上時期・計上額に関する規定が整備されました。国税庁も、収益認識会計基準への対応として、法人税法の改正や法人税基本通達の見直しについて公表しています。
出典:国税庁|「収益認識に関する会計基準」への対応について
出典:ASBJ|企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」等の公表

このテーマでは、法人税法22条、22条の2、公正処理基準に加え、引渡し、役務提供、検収、値引き、割戻し、返品、変動対価、無償取引、過年度修正といった論点を扱います。

収益認識は、単に売上の計上日を決めるだけの問題ではありません。契約書、注文書、納品書、検収書、請求書、売上管理表などをどう整えているかが、そのまま税務上の説明力に直結します。

3. 損金算入と否認されやすい支出

会計上の費用が、税務上そのまま損金になるとは限りません。

役員給与、役員退職金、交際費、寄附金、福利厚生費、広告宣伝費、外注費、租税公課などは、日常的に発生する一方で、税務調査でも確認されやすい論点です。

なかでも役員給与や役員退職金は、会社の利益計画にとどまらず、役員個人の所得税、社会保険、事業承継、株価評価にまで影響が及びます。「支給したから損金」と単純に割り切れるものではなく、支給の時期、支給額、決議、届出、退職の事実、職務内容、そして金額の相当性まで、一つずつ確認していく必要があります。

このテーマでは、税負担の軽減そのものを否定するのではなく、会社として説明できる支出かどうかを軸に整理していきます。

4. 資産・負債・損失の税務判断

棚卸資産、固定資産、減価償却、修繕費、貸倒損失、評価損、ソフトウェア、法人保険などは、決算の段階で判断を迫られる論点です。

これらは、単なる勘定科目の選択にとどまりません。

棚卸資産の評価は、売上原価と利益に影響します。固定資産の取得価額や事業供用日は、減価償却費や設備投資税制の適用を左右します。修繕費か資本的支出かの判断は、当期に損金算入できる額を大きく変えます。貸倒損失にしても、債権の回収可能性、債務者の状況、回収努力、債権放棄の事実などによって、その判断は変わってきます。

さらに、ソフトウェア開発や法人保険のように、会計処理、税務処理、資金繰り、そして将来の出口が一体となって絡み合う論点もあります。

5. 中小企業税制・税額控除・設備投資税制

中小企業には、法人税率の軽減、少額減価償却資産、中小企業投資促進税制、中小企業経営強化税制、賃上げ促進税制、研究開発税制など、多くの優遇制度が用意されています。

ただし、これらは「使えそうだから使う」というものではありません。

対象法人の判定、対象設備の確認、指定事業、取得・供用の時期、事前認定、証明書、給与等支給額、教育訓練費、申告書別表、保存書類など、制度ごとに確認すべき要件があります。

中小企業向けの賃上げ促進税制については、中小企業庁が、令和6年4月1日から令和8年3月31日までの間に開始する事業年度に係る制度情報を公表しており、令和8年度税制改正による制度強化についても案内しています。設備投資関連では、中小企業投資促進税制や中小企業経営強化税制について、適用期限や対象制度の概要が中小企業庁から示されています。
出典:中小企業庁|中小企業向け「賃上げ促進税制」
出典:中小企業庁|中小企業投資促進税制
出典:中小企業庁|中小企業経営強化税制

優遇税制は、うまく適用できれば税負担の軽減につながります。その一方で、要件の確認や申告書の記載を誤れば、後から適用漏れや否認といった問題を招きかねません。本シリーズでは、制度のメリットだけでなく、投資判断、賃上げ判断、資金繰り、そして申告手続までを含めて整理していきます。

6. 欠損金・申告後手続・税効果会計

赤字が出た場合、その欠損金は将来の税負担に影響します。青色欠損金の繰越控除、欠損金の繰戻還付、更正の請求、修正申告、過年度誤謬、別表四・五(一)の管理などは、申告実務のうえで重要な論点です。

また、会計の側では税効果会計も関わってきます。税効果会計とは、会計上の資産・負債と税務上の資産・負債の差異を踏まえ、法人税等と税引前利益とを合理的に対応させるための会計処理です。これは税務申告そのものではありませんが、会計上の利益、税金費用、そして繰延税金資産の回収可能性を検討するうえで欠かせません。

とりわけ繰延税金資産の回収可能性は、将来の課税所得、事業計画、タックスプランニングと深く関係します。税務申告と会計処理を切り離して考えてしまうと、金融機関や株主への説明に耐えにくい数字になってしまうことがあります。

7. グループ法人税制・グループ通算制度

複数の会社を抱える企業グループでは、単体申告だけを見ていても、法人税務の全体像はつかめません。

完全支配関係にある法人間の取引、グループ法人税制、寄附金・受贈益、譲渡損益調整、受取配当等の益金不算入、グループ通算制度、損益通算、欠損金、投資簿価修正といった論点を、あわせて整理する必要があります。

グループ通算制度は、連結納税制度を見直して創設された制度で、令和4年4月1日以後に開始する事業年度から適用されています。制度の概要や申告書別表の記載例などは、国税庁から公表されています。
出典:国税庁|グループ通算制度について
出典:国税庁|グループ通算制度の概要(令和2年4月)

グループ通算制度は、損益通算だけに目を向ければ有利に見える場面があります。しかし、開始・加入・離脱、欠損金、時価評価、地方税、税額控除、投資簿価修正まで見渡さなければ、制度選択の判断を誤りかねません。

8. グループ間取引・出向転籍・人材移動の税務

グループ会社間では、人材の出向・転籍、給与負担、賞与負担、退職金負担、源泉所得税、海外出向といった論点が生じます。

出向・転籍は、一見すると人事上の手続のように見えます。しかし税務上は、給与、寄附金、役務提供、源泉所得税、移転価格、グループ法人税制と結び付いています。出向元と出向先のどちらが給与を負担するのか、その負担に合理的な理由があるのか、そして契約書や精算資料が整っているのか。ここが判断の要になります。

人材の移動を税務の面から整理しておくことは、グループ経営の透明性を高めるうえでも意味を持ちます。

9. 組織再編税制の基本と実務判断

合併、会社分割、現物出資、株式交換等、株式移転、現物分配、株式分配などは、事業再編、グループ整理、M&A、事業承継の場面で活用されることがあります。

組織再編税制では、適格組織再編成に該当するかどうかによって、資産・負債の移転が簿価で行われるのか、それとも時価課税されるのかが、大きく分かれます。加えて、繰越欠損金の引継制限、使用制限、特定資産譲渡等損失の損金不算入、包括否認規定など、高度な論点が伴います。

組織再編は、形式的に手続を整えれば足りるというものではありません。再編の目的、事業の実態、支配関係、従業者や事業の継続、株主構成、欠損金、含み損益、そして将来のM&Aや承継への影響まで、見通しておく必要があります。

10. M&A税務・デューデリジェンス・買収後対応

M&Aでは、株式譲渡、事業譲渡、組織再編型M&Aなど、選択するスキームによって税務上の取扱いが変わります。

売り手にとっては譲渡益課税、買い手にとっては取得価額、そして対象会社にとっては過去申告のリスク、欠損金、簿外債務、関係会社取引、消費税、源泉所得税、役員給与、固定資産などが問題になります。

税務デューデリジェンスでは、税務申告書を確認するだけでは足りません。過去の判断、資料の残り方、税務調査の履歴、重要な契約、別表の継続管理、そして未払税金や偶発債務の有無まで、確認していく必要があります。

M&Aが成立した後も、会計方針、税務処理、関係会社間取引、届出、月次決算、申告体制を整えておかなければ、買収後になってリスクが表面化することがあります。

11. 資本等取引・みなし配当・自己株式・オーナー貸付金

資本等取引は、損益取引に比べて見落とされやすい領域です。しかし、自己株式取得、資本払戻し、減資、みなし配当、DES、債務免除、オーナー貸付金の解消といった取引は、法人税、所得税、相続税、株価、資本金等の額、利益積立金額に、大きく影響します。

みなし配当は、会社法上の配当ではなくても、税務上は実質的に配当とみなされる制度です。合併、分割型分割、株式分配、資本の払戻し、解散による残余財産分配、自己株式取得などの場面で問題となります。

また、同族会社では、オーナー社長から会社への貸付金や、会社からオーナーへの貸付金が、長期間そのまま残っていることがあります。こうした貸付金については、債権放棄、債務免除、DES、役員報酬や役員退職金との関係、株価への影響、贈与税リスクまで含めて検討しておく必要があります。

12. 事業承継・非上場株式・株主構成戦略

事業承継は、相続税対策だけの話ではありません。

株式を、誰に、いつ、どのように移すのか。後継者に経営権を集中させられるのか。少数株主や分散した株式にどう対応するのか。役員退職金、自己株式、種類株式、持株会社、M&Aをどう活用するのか。そして、会社の法人税務に問題が残っていないか。

これらを、総合的に整理しておく必要があります。

法人版事業承継税制、非上場株式評価、株主構成、種類株式、持株会社、自己株式、承継M&Aは、税務・法務・経営が密接に絡み合う領域です。制度の適用可否だけでなく、将来の継続要件、打切りリスク、納税資金、そして後継者の経営体制まで、視野に入れて考えていく必要があります。

13. 解散・清算・債務超過・粉飾決算対応

会社を閉じる、整理する、あるいは再生させる局面では、通常の決算申告とは異なる法人税務が生じます。

解散、清算、残余財産分配、現物分配、期限切れ欠損金、債務免除益、債務超過、民事再生、破産、仮装経理、粉飾決算の修正などは、平常時よりも慎重な判断が求められます。

とりわけ、仮装経理に基づく過大申告は、通常の過大申告のように直ちに全額が還付されるとは限りません。粉飾決算の修正には、会計処理、税務申告、金融機関対応、株主説明が、いずれも絡んできます。

危機局面の法人税務では、税額だけを見て判断するのではなく、会社の実態、債権者、株主、金融機関、そして今後の事業継続の可能性まで含めて整理していくことが欠かせません。

14. 国際税務の基本と海外取引

海外取引のある会社では、国内の法人税申告だけを見ていては十分とは言えません。

海外売上、海外仕入、海外への役務提供、ライセンス、ロイヤリティ、海外子会社配当、外国税額控除、源泉所得税、租税条約、PEといった論点が生じます。

外国法人課税では、内国法人と外国法人、国内源泉所得、恒久的施設、帰属主義などの概念が重要になります。日本の法人が海外と取引する場合にも、相手国側の源泉課税やPEリスクが生じることがあるため、契約の段階から確認しておく必要があります。

国際税務は、大企業だけの問題ではありません。中小・中堅企業であっても、海外子会社、海外外注先、海外顧客、海外出向者、ライセンス契約があれば、申告の前に確認すべき論点が生じてきます。

15. 移転価格税制・外国子会社合算税制・国際高度論点

海外子会社や国外関連者との取引では、移転価格税制が問題になります。

移転価格税制は、国外関連者との取引価格を、独立企業間価格の観点から検証する制度です。対象取引、機能・リスク、無形資産、役務提供、金融取引、ローカルファイル、APA、相互協議など、事前の資料整備が重要になります。国税庁も、移転価格税制の適正かつ円滑な執行のために、移転価格事務運営要領を公表しています。
出典:国税庁|移転価格事務運営要領の制定について

また、海外子会社を保有する場合には、外国子会社合算税制も問題となります。外国関係会社、特定外国関係会社、経済活動基準、受動的所得、租税負担割合などを確認していく必要があります。国税庁は、外国子会社合算税制に関するQ&Aを公表しています。
出典:国税庁|外国子会社合算税制に関するQ&A(平成29年度改正関係等)

国際税務の高度な論点は、税務調査で指摘されてから動いたのでは、対応が後手に回ることがあります。契約、価格設定、社内稟議、移転価格文書、海外子会社の管理資料を、平時から整えておく必要があります。

16. 税務上の時価・否認リスク・重要判例

法人税務で判断の難しい論点の多くは、「時価」と「経済合理性」に関わっています。

同族会社間の不動産売買、非上場株式の譲渡、低額譲渡、高額譲渡、無償取引、自己株式取得、増資、債権放棄、組織再編、事業承継スキームなどでは、取引価格が適正かどうかが問われます。

税務上の時価は、相続税評価額や帳簿価額をそのまま使えばよいというものではありません。取引の当事者、税目、支配関係、少数株主か支配株主か、鑑定評価、類似取引、そして裁判例・裁決例までを踏まえて、検討していく必要があります。

また、形式のうえでは法令に沿っているように見える処理でも、税負担を不当に減少させるものと評価される場合には、同族会社の行為計算否認や、組織再編成に係る包括否認規定が問題となることがあります。節税、租税回避、脱税の境界を理解しておくことは、会社を守るうえで欠かせません。

17. 税務調査・附帯税・加算税・重加算税

税務調査への対応は、調査当日の受け答えだけで決まるものではありません。

申告の時点でどのような判断をしたのか。その判断の根拠となる資料が残っているのか。契約書、請求書、議事録、稟議書、台帳、評価資料が整っているのか。そして、調査が始まる前に論点を整理できているのか。

こうした準備が、税務調査の場での説明力を大きく左右します。

税務調査には、事前通知、質問検査権、帳簿書類の提示・提出、留置き、質問応答記録書、調査結果の説明、修正申告の勧奨、更正、不服対応といった手続があります。国税庁の手続情報や実務上の整理を踏まえ、調査への対応は平時から意識しておく必要があります。

また、申告に誤りがあれば、本税だけでなく、延滞税、過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税、重加算税といった附帯税が問題になります。とりわけ重加算税は、単なる誤りかどうかではなく、隠蔽・仮装があったかどうかが、重要な判断の分かれ目となります。

18. 税務判断の品質管理・資料管理・相談前整理

法人税務の品質は、申告書を提出したその時点だけで決まるものではありません。

日々の会計処理、月次決算、契約書の管理、議事録、稟議、届出期限、申告前のレビュー、専門家への相談記録、そしてリスク説明の記録。こうした積み重ねによって、税務判断の質は大きく変わってきます。

税理士損害賠償の裁判例や事故事例を見ても、届出漏れ、特例の適用漏れ、資料不足、説明不足、依頼範囲の不明確さ、記録不足といったところに、問題の芽があることがわかります。

会社の側にとっても、専門家に丸投げするのではなく、自社の論点、取引の目的、金額、関係者、契約書、会計処理、期限を整理したうえで相談することが大切です。

本シリーズが最終的に目指すのは、読者の方が専門家と対等に対話できる状態になることです。個別の結論を安易に断定するのではなく、自社で何を確認し、どの資料を整え、どの段階で専門家に相談すべきかを、自ら整理できる状態を目標にしています。

法人税務で重視すべき判断軸

法人税務の各論点は多岐にわたりますが、実務上の判断軸は、意外なほど共通しています。

会計処理と税務処理は一致するとは限らない

法人税務は会計処理を出発点にしますが、会計上の収益・費用と、税務上の益金・損金が、常に一致するわけではありません。

会計処理をそのまま税務申告に反映できる場合もあれば、別表で加算・減算を要する場合もあります。さらに、その差異が一時差異なのか永久差異なのかによって、税効果会計の検討にも影響が及びます。

税負担の軽減は重要だが、それだけでは判断できない

税負担を適正に抑えることは、重要な経営課題です。

しかし、短期的な節税効果だけを見て判断してしまうと、将来の税務調査、金融機関への説明、株主説明、M&A、事業承継の場面で、かえって不利益を招くことがあります。

税務判断では、税額だけでなく、資金の流出、会計上の整合性、資料の管理、将来の選択肢、そして外部への説明可能性を、同時に検討していく必要があります。

形式ではなく、取引実態と資料が重要になる

税務上の判断では、契約書や議事録といった形式資料も、たしかに重要です。ただ、それだけでは十分とは言えません。

実際にどのような取引が行われたのか。誰がどの役務を提供したのか。なぜその金額になったのか。その取引を行う事業上の理由は何か。そして、社内でどのように承認されたのか。

形式と実態がずれている場合、税務上の説明は難しくなります。

判断過程を残すことが会社を守る

税務判断では、結果だけでなく、そこに至る過程が重要です。

その時点でどのような資料を確認したのか。どの制度を検討したのか。どのリスクを認識したのか。どの選択肢を比較したのか。そして、最終的に誰がどのような判断を下したのか。

これらが記録として残っていれば、税務調査や後任者への引継ぎ、金融機関への説明、株主説明といった場面で、会社としての説明力が確かなものになります。

本シリーズの読み進め方

本シリーズは、必ずしもすべての記事を最初から順番に読む必要はありません。

まず法人税申告の全体像をつかみたい場合は、第1テーマから読み進めるのがよいでしょう。決算や申告の前に気になる論点があれば、第2テーマから第6テーマを確認することで、収益、費用、資産、税額控除、欠損金、申告後対応を整理できます。

グループ会社をお持ちの場合は、第7テーマと第8テーマが重要になります。組織再編、M&A、承継、資本政策を検討している場合は、第9テーマから第12テーマを読むことで、事前に整理しておくべき論点が見えてきます。

会社の整理、債務超過、粉飾決算、海外取引、移転価格、時価、否認リスク、税務調査に関心がある場合は、第13テーマから第17テーマをご確認ください。

そして最終的に、第18テーマで、税務判断を会社に残す方法、資料管理、相談前の整理、レビュー体制を確認していただくことで、単発の知識を実務の運用へと落とし込んでいけます。

法人税務は、年1回の申告だけで完結しない

法人税務の問題は、申告期限の直前になって初めて現れるわけではありません。

役員報酬の決定は、期首や定時株主総会の段階ですでに始まっています。設備投資税制では、投資の前の計画や証明書の取得が重要になる場面があります。組織再編やM&Aは、実行前のスキーム設計によって税務への影響が大きく変わります。海外取引に至っては、契約書や送金の時点で、すでに源泉税や移転価格の論点が生じています。

つまり法人税務は、「申告時に処理するもの」ではなく、「取引を設計する段階から考えるもの」なのです。

月次決算、資金繰り、予実管理、投資判断、役員報酬、承継計画、M&A検討、海外取引を、税務と結び付けて管理していく。そうすることで、申告の正確性だけでなく、経営判断そのものの精度も高まっていきます。

制度改正への対応について

法人税務は、制度改正の影響を受けやすい分野です。

賃上げ促進税制、研究開発税制、中小企業税制、グループ通算制度、国際課税、グローバル・ミニマム課税などは、改正によって適用要件や手続が変わることがあります。財務省は、年度ごとの税制改正資料を公表しており、令和8年度税制改正についても、法人課税・国際課税を含む資料を示しています。
出典:財務省|令和8年度税制改正
出典:財務省|令和8年度税制改正の大綱の概要

本シリーズでは、個別記事を作成・更新する際に、その時点の法令、通達、国税庁・財務省・中小企業庁・ASBJ等の公式情報を確認し、現行制度を前提として解説します。

ただし、法人税務の結論は、会社の状況、取引の内容、契約関係、会計処理、過去の申告、届出の状況、グループ関係、株主構成などによって変わります。記事の内容はあくまで一般的な整理であり、個別の税務判断にあたっては、具体的な事実に即した確認が必ず必要になります。

相談前に整理しておきたいこと

法人税務について専門家に相談する際は、最初から結論だけを求めるよりも、前提となる事実を整理しておくことをおすすめします。

少なくとも、次のような事項を整理しておくと、相談の精度がぐんと高まります。

  • 何を判断したいのか
  • 対象となる取引や支出は何か
  • 金額はいくらか
  • いつ発生した取引か
  • 契約書、請求書、議事録、稟議書はあるか
  • 会計上どのように処理しているか
  • 過去の申告でどのように扱ってきたか
  • 相手方との関係はどうなっているか
  • 税務上の不安はどこにあるか
  • 期限や実行予定日はいつか
  • 税額だけでなく、資金繰り、金融機関、株主、後継者、M&Aへの影響をどう考えているか

税務判断は、事実が変われば結論も変わります。相談の前に事実関係を整理しておくことは、専門家のためというより、まず会社自身が自社の論点を把握するために欠かせません。

犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について

法人税務の判断を「節税できるかどうか」だけで進めてしまうと、後から説明に苦労することがあります。

決算・申告、役員給与、役員退職金、税額控除、グループ会社間取引、組織再編、M&A、事業承継、国際税務、税務調査対応などについて、自社の処理に不安がある場合や、重要な取引の前に税務上の影響を整理しておきたい場合は、早い段階で専門家に相談されることをおすすめします。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、法人税務を単なる申告手続としてではなく、会計処理、税務調整、契約関係、資料管理、意思決定の背景、そして将来の選択肢までを含めて整理することを大切にしています。

自社の法人税務について、どの論点を優先して確認すべきか、どの資料を整えるべきか、あるいは将来のM&A・承継・資本政策に影響する税務判断が残っていないかを整理したい場合は、お問い合わせページよりお気軽にご相談ください。

振り返り

確認したい事項本シリーズでの整理
法人税申告の全体像決算、税務調整、別表、申告、納付、申告後対応を整理
会計と税務の違い会計利益、課税所得、益金、損金、税務調整を整理
売上・収益の判断収益認識、法人税法22条・22条の2、契約・検収・値引き等を整理
費用・損金の判断役員給与、役員退職金、交際費、寄附金、外注費等を整理
決算で問題になる資産・損失棚卸資産、固定資産、修繕費、貸倒損失、評価損、ソフトウェア、保険を整理
税額控除・優遇税制中小企業税制、賃上げ促進税制、設備投資税制、研究開発税制を整理
赤字・申告後対応欠損金、繰戻還付、修正申告、更正の請求、税効果会計を整理
グループ経営の税務グループ法人税制、グループ通算制度、出向・転籍、関係会社間取引を整理
組織再編・M&A適格要件、欠損金制限、税務DD、買収後対応、包括否認を整理
事業承継・資本政策非上場株式評価、自己株式、みなし配当、オーナー貸付金、株主構成を整理
特殊局面解散、清算、債務超過、粉飾決算、再生局面を整理
国際税務PE、源泉、租税条約、外国税額控除、移転価格、外国子会社合算税制を整理
否認リスク時価、経済合理性、同族会社行為計算否認、重要判例を整理
税務調査対応事前通知、質問検査権、附帯税、加算税、重加算税、資料化を整理
相談前整理事実関係、契約、金額、会計処理、期限、資料、判断過程を整理