部門別・得意先別・資金繰り管理をどう始めるか|創業初期から数字を経営判断に使う方法

月次決算を始めると、毎月の売上や粗利、固定費、利益、そして現預金、売掛金、買掛金、在庫、借入金の状況が、少しずつ見えるようになってきます。

ただ、月次試算表が出るようになったからといって、それがそのまま経営判断に使えるとは限りません。

試算表には、会社全体の数字が集約されています。全体として黒字か赤字か、現預金がいくらあるか、借入金がいくら残っているか。こうしたことは分かります。しかし、それだけでは答えにくい問いがあります。

  • どの事業が利益を出しているのか
  • どの店舗・部門が資金を使っているのか
  • どの得意先は売上が大きいものの、回収が遅いのか
  • どの商品は売れているのに、粗利が低いのか
  • どの費用は売上に連動し、どの費用は固定的に発生するのか
  • どの売掛金や在庫、買掛金が資金繰りを圧迫しているのか

創業初期の管理会計とは、難しい原価計算制度を導入することではありません。まず必要なのは、経営者が判断に使うために、数字を適切な単位で分けて見ることです。

本記事では、創業初期から部門別、得意先別、商品別、費目別、そして売掛金・買掛金・在庫、資金繰りの管理をどのように始めればよいのかを、順を追って整理していきます。

目次

試算表を見ても経営判断に使えない理由

月次試算表は、経営管理の土台となる資料です。とはいえ、試算表だけを眺めていても、次に打つべき手が見えてこないことがあります。

たとえば、会社全体で売上1,000万円、粗利600万円、固定費550万円、営業利益50万円だったとしましょう。この試算表だけを見ると、「一応は黒字だが、利益率が低い」という程度の把握にとどまります。

ところが、内訳を分けてみると、まったく違う姿が見えてくることがあります。

  • A事業:売上400万円、粗利260万円、部門利益120万円
  • B事業:売上350万円、粗利210万円、部門利益80万円
  • C事業:売上250万円、粗利130万円、部門損失150万円

こうして分けて見ると、会社全体の利益を圧迫しているのはC事業だと分かります。

別の例もあります。得意先別に見ていくと、売上上位の取引先ほど回収サイトが長く、かえって資金繰りを圧迫しているというケースです。商品別に見れば、売れ筋商品ほど値引きや配送費が重く、実際の粗利は薄い、ということも起こります。

つまり、試算表はあくまで「会社全体の結果」を映す資料です。経営判断に使うには、その結果を、事業、部門、得意先、商品、案件、費目、そして資金の動きへと分解していく必要があります。

創業初期から管理項目を整えておく意味は、まさにここにあります。

管理会計は「細かくすること」ではなく「判断に使う単位で分けること」

管理会計という言葉を聞くと、大企業が行う高度な原価計算や予算管理を思い浮かべる方が多いかもしれません。けれども、創業初期に必要な管理会計は、そこまで複雑なものではありません。

大切なのは、数字を分ける目的です。細かく分けること自体が目的ではありません。経営判断に使わない分類ばかり増やしてしまうと、入力の手間が膨らみ、月次決算がかえって遅れてしまいます。

反対に、会社全体の数字しか見ていなければ、利益の出ている事業、資金を吸い込んでいる取引先、採算の悪い商品、増えすぎた固定費といったものを見落とします。

では、創業初期に管理すべき単位は、どう決めればよいのでしょうか。次のような観点で考えると整理しやすくなります。

  • 経営者が毎月確認したい数字か
  • 価格改定、撤退、増員、投資、広告、仕入条件の変更といった意思決定に使うか
  • 金融機関や投資家、共同創業者、株主に説明する必要があるか
  • 税務上・会計上・契約上、後から説明が必要になりやすいか
  • 管理の手間に見合うだけの判断価値があるか

この観点で考えていくと、創業初期に優先すべき管理軸が見えてきます。部門別、得意先別、商品・サービス別、費目別、売掛金・買掛金・在庫、そして資金繰りです。

まず整えるべき管理軸

創業初期の管理会計では、最初からすべてを細かく分ける必要はありません。まずは、次の順番で整えていくと、実務に乗せやすくなります。

部門別・事業別

複数の事業や店舗、拠点、サービスラインがある場合は、部門別管理を検討します。

たとえば、店舗型ビジネスであれば店舗別、士業・コンサルティング業であればサービス別、ECと卸売を併営しているなら販売チャネル別、クリニックであれば保険診療部門と自由診療部門、不動産管理業であれば物件別や管理区分別、といった形です。

部門別管理の目的は、売上規模を測ることではありません。採算と資金の使い方を確認することにあります。

得意先別

BtoBビジネスでは、得意先別の管理が重要になります。

見るべきなのは売上高だけではありません。粗利、回収サイト、売掛金残高、入金遅延、値引き、返品、追加対応、請求漏れまで含めて確認します。

売上上位の取引先が、必ずしも良い取引先とは限りません。売上は大きいのに粗利が薄く、支払サイトが長く、担当工数が重く、入金遅延も多い。そうした取引先は、資金繰りと収益性の両面で注意が必要です。

商品・サービス別

商品やサービスごとの粗利を見ておかないと、売れているものと儲かっているものを取り違えてしまうことがあります。

商品別・サービス別に確認すべきなのも、売上高だけではありません。単価、販売数量、原価、外注費、配送費、手数料、返品、値引き、在庫、対応工数まで含めて見ていきます。

価格帯が大きく異なる商品・サービスは、同じ売上としてまとめず、分類して見る必要があります。収益構造を分解するときは、単価を無理に細かく分けるよりも、価格帯や商品区分で分類したうえで、販売数量や顧客数を構造的に分解していくほうが役立ちます。

費目別

費用は、勘定科目ごとに見るだけでは足りません。経営判断に使うためには、少なくとも次のように分けて考えます。

  • 売上に連動する変動費
  • 毎月発生する固定費
  • 将来の売上をつくるための戦略費
  • 一時的な開業費・設備投資関連の支出
  • 税金、社会保険、借入返済など、損益と資金繰りで見え方が異なる支出

特に創業初期は、広告費、外注費、採用費、開発費、設備投資、人件費が増えやすい時期です。「何のために使った費用か」を月次で確認できる状態にしておきたいところです。

売掛金・買掛金・在庫

資金繰り管理では、売掛金、買掛金、在庫の管理が中核になります。

掛け取引では、売上・仕入のタイミングと、入金・支払のタイミングがずれます。販売してから入金されるまでの間は売掛金、仕入れてから販売されるまでの間は在庫、仕入れてから支払うまでの間は買掛金として整理されます。

運転資本は、基本的に「売上債権+棚卸資産-仕入債務」として把握できます。これは、手元に置いておくべき資金を考えるときの入口になります。

資金繰り

損益管理と資金繰り管理は、別物です。

利益が出ていても、売掛金が増え、在庫が増え、そこに借入返済や納税が重なれば、資金は不足します。

資金繰り表では、売上入金、仕入支払、外注費支払、人件費支払、税金支払、社会保険料支払、借入返済、設備投資、補助金入金などを、時系列で整理していきます。

月次でキャッシュ・フローを把握する場合、直接法は入金と出金の実態構造を理解しやすく、金融機関が求める資金繰り表とも構造が近くなります。一方の間接法は、貸借対照表の変動から作成するため、売上債権、棚卸資産、仕入債務の増減の取り扱いで計算ミスが起こりやすい点に注意が必要です。

部門別管理を始めるときの考え方

部門別管理は、事業や店舗ごとの採算を把握するための管理です。ただし、部門を細かく設定しすぎると、かえって月次決算が遅れてしまいます。

最初に考えたいのは、「どの単位で意思決定するか」です。

  • 店舗を増やすかどうか
  • ある事業を伸ばすか、撤退するか
  • 広告費をどの部門に投下するか
  • 人員をどの部門に配置するか
  • 設備投資をどの部門で回収するか
  • 金融機関へどの事業の成長性を説明するか

こうした判断があるのであれば、その単位で部門別管理を行う価値があります。

反対に、創業初期で事業が一つしかなく、管理対象を分けても意思決定が変わらないのであれば、部門別管理を急ぐ必要はありません。まずは会社全体の月次決算、資金繰り、売掛金・買掛金・在庫管理を優先します。

部門別管理で見るべき数字

部門別管理では、まず次の項目を確認します。

  • 部門別売上高
  • 部門別売上原価
  • 部門別粗利
  • 部門別直接費
  • 部門別人件費
  • 部門別広告費
  • 部門別外注費
  • 部門別利益
  • 部門別の売掛金、在庫、買掛金
  • 部門別の資金需要

ここで大切なのは、共通費を無理に細かく配賦しすぎないことです。

たとえば、本社家賃、会計事務所報酬、役員報酬、共通システム費、共通広告費などは、どの部門に帰属するのか判断が難しい場合があります。

創業初期は、まず「直接把握できる売上・原価・直接費」を部門別に分けることを優先します。共通費については、必要に応じて、売上比、人員数、使用面積、工数といった合理的な基準で配賦していきます。ただし、配賦した結果だけを見て「この部門は赤字だから撤退」と短絡的に判断してしまうのは危険です。

部門別管理は、次の三段階で見ると実務的です。

  1. 部門別粗利
  2. 部門別直接利益
  3. 共通費配賦後の部門別利益

この順番で見ていくと、部門そのものの収益力と、会社全体の固定費負担とを、分けて判断できるようになります。

得意先別管理は「売上ランキング」では足りない

得意先別管理でよくある失敗は、売上高だけで得意先を評価してしまうことです。

売上高が大きい取引先は、もちろん重要です。しかし経営管理の観点では、売上高だけでは不十分です。

得意先別に、少なくとも次の項目を確認します。

  • 売上高
  • 粗利額
  • 粗利率
  • 値引き額
  • 返品・クレーム対応
  • 追加対応工数
  • 売掛金残高
  • 入金予定日
  • 実際の入金日
  • 入金遅延の有無
  • 取引依存度
  • 契約条件
  • 支払条件の変更余地

商取引では、契約が反復継続的に行われることが多く、取引を円滑に進めるには、具体的で明確な取り決めが欠かせません。取引金額が大きい場合には、あらかじめ支払条件や方法を決め、損害が生じたときの対応まで想定しておく必要があります。

売上高が大きくても、回収が遅い取引先が増えれば、売掛金は膨らんでいきます。売掛金は利益ではありません。入金されるまでは、会社の資金にはならないのです。

創業初期は、少数の取引先に依存しやすい時期でもあります。だからこそ、得意先別の売掛金管理はとても重要になります。

得意先別管理で確認すべきリスク

得意先別管理では、次のような兆候に注意します。

  • 売上は増えているのに、入金が遅れている
  • 売掛金残高が、月商に比べて大きくなっている
  • 特定の得意先への依存度が高すぎる
  • 値引きが常態化している
  • 請求後の追加対応が多く、実質的な採算が悪い
  • 支払条件が長く、仕入・外注の支払が先行している
  • 契約書や注文書がなく、請求根拠が弱い
  • 入金遅延時の対応ルールが決まっていない

得意先別管理は、単なる営業管理ではありません。会計、資金繰り、契約、債権管理をつなぐ管理でもあるのです。

商品別・サービス別管理は「売れているもの」と「儲かっているもの」を分ける

創業初期は、どうしても売上が伸びる商品やサービスに意識が向きがちです。しかし、売れているものが、必ずしも儲かっているとは限りません。

商品別・サービス別管理では、次の項目を確認します。

  • 販売単価
  • 販売数量
  • 売上高
  • 直接原価
  • 外注費
  • 配送費
  • 決済手数料
  • 販売手数料
  • 返品・交換
  • 在庫
  • 対応工数
  • 粗利額
  • 粗利率

たとえばEC事業では、商品原価だけでなく、配送費、決済手数料、広告費、返品率、在庫保管費まで見なければ、実際の採算は見えてきません。サービス業でも、外注費に加えて、社内工数、追加対応、再作業、問い合わせ対応まで含めて考える必要があります。

とはいえ、ここで重要なのは、すべてのコストを厳密に個別配賦することではありません。まずは、経営判断に影響する大きなコストから把握していきます。

  • 商品Aは粗利率が高いが、販売数量が少ない
  • 商品Bは売上が大きいが、広告費と返品が重い
  • サービスCは単価が高いが、追加対応工数が多い
  • サービスDは単価が低いが、標準化しやすく粗利が安定している

こうして見えてくると、価格改定、販売停止、商品構成の見直し、外注範囲の変更、広告投資といった判断が、格段にしやすくなります。

費目別管理は、変動費・固定費・戦略費に分ける

費用は、会計上の勘定科目だけで見ていると、経営判断には使いにくいことがあります。

たとえば「広告宣伝費」という勘定科目だけでは、それが短期的な売上獲得のための広告なのか、採用広報なのか、ブランド構築なのか、あるいは既存顧客向けの施策なのかが分かりません。

外注費も同じです。制作外注か、開発外注か、営業代行か、バックオフィス外注かによって、その意味合いはまったく変わってきます。

創業初期の費目別管理では、次の三つに分けて見ると実務的です。

変動費

売上や販売数量に連動する費用です。商品原価、外注費、決済手数料、販売手数料、配送費、材料費などが該当します。

変動費は、粗利に直結します。売上が増えているのに利益が増えないときは、まず変動費率が上がっていないかを確認します。

事業計画やシミュレーションでは、売上原価、物流コスト、販売促進費、通信費などを、売上や販売数量に連動する変数として設計することがあります。たとえば、配送費は商品販売数に単位発送費を乗じる、販売手数料は代理店経由売上に手数料率を掛ける、といった具合です。こうして費用を構造化しておくと、計画と実績の比較がしやすくなります。

固定費

売上にかかわらず、毎月発生する費用です。役員報酬、給与、地代家賃、リース料、会計事務所報酬、システム利用料、保険料などが該当します。

固定費は、一度増やすと簡単には減らせません。創業初期の固定費管理では、「売上が想定より遅れた場合でも、何か月耐えられるか」を確認しておく必要があります。

戦略費

短期の利益を圧迫してでも、将来の成長のために使う費用です。広告投資、採用費、開発費、展示会費、マーケティング施策、新規事業準備費などが該当します。

戦略費は、単に削ればよい費用ではありません。ただし、どんな仮説に基づいて使い、どの指標で効果を確認するのかを決めておかなければ、費用だけが先行してしまいます。

戦略費は、計画、実績、効果検証をセットで管理することが大切です。

売掛金・買掛金・在庫を見ない資金繰り管理は危うい

資金繰り管理で重要なのは、預金残高だけを見ることではありません。預金残高は、あくまで今日時点の結果にすぎないからです。

将来の資金繰りを把握するには、売掛金、買掛金、在庫まで見ていく必要があります。

売掛金

売掛金は、将来入金される予定の売上です。ただし、入金されるまでは資金ではありません。

売掛金管理では、取引先別に次の項目を確認します。

  • 請求日
  • 請求金額
  • 入金予定日
  • 入金実績日
  • 未入金残高
  • 滞留日数
  • 入金遅延理由
  • 督促状況
  • 契約書・注文書・検収書の有無

売掛金が増えているときは、売上成長による自然な増加なのか、それとも回収遅延によるものなのかを、分けて確認します。

売上債権回転期間を設定しておくと、売上が発生してから何か月後に入金されるかを、月次で整理できます。売上債権回転期間が1か月の場合と2か月の場合とでは、同じ売上高でも、売掛金残高と必要資金は変わってきます。

買掛金

買掛金は、将来支払う予定の仕入・外注費です。

買掛金は、支払を先送りできるという意味では、資金繰り上プラスに働きます。ただし、支払予定を見落としてしまうと、翌月以降に資金不足が起こります。

買掛金管理では、仕入先・外注先別に次の項目を確認します。

  • 請求日
  • 請求金額
  • 支払予定日
  • 支払実績日
  • 未払残高
  • 支払条件
  • 支払遅延の有無
  • 仕入・外注内容
  • インボイス登録番号の確認状況

仕入先との支払条件は、資金繰りに直結します。入金が翌々月で、支払が翌月であれば、売上が伸びるほど、先に資金が出ていくことになります。

在庫

在庫は、商品や材料として保有している資産です。ただし資金繰りの観点では、現金が在庫に姿を変えている状態でもあります。

在庫管理では、次の項目を確認します。

  • 品目別在庫数量
  • 在庫金額
  • 入庫日
  • 販売予定
  • 滞留在庫
  • 廃棄・評価減の可能性
  • 発注点
  • 在庫回転期間
  • 保管費用
  • 資金繰りへの影響

在庫は、粗利にも資金繰りにも影響します。売れ筋商品を切らさないことは重要ですが、過剰在庫は資金を固定化してしまいます。

在庫と買掛金は、セットで考えることが大切です。在庫を何か月分保持するか、仕入れてから何か月後に支払うかを設定し、月次の売上原価から在庫残高と仕入債務残高を算出しておくと、資金繰りへの影響を把握しやすくなります。

資金繰り管理は、月次試算表と別に持つ

「月次試算表があるのだから、資金繰り表は不要では」と思われることがあります。しかし、そうとは限りません。

月次試算表は、損益と財政状態を見る資料です。一方、資金繰り表は、入金と出金のタイミングを見る資料です。この二つは、目的そのものが異なります。

資金繰り表では、少なくとも次の項目を整理します。

  • 月初現預金残高
  • 売上入金
  • その他入金
  • 仕入支払
  • 外注費支払
  • 人件費支払
  • 家賃・固定費支払
  • 税金支払
  • 社会保険料支払
  • 借入入金
  • 借入返済
  • 設備投資支払
  • 補助金入金
  • 月末現預金残高

ここで注意したいのは、損益計算書には出てこない資金の動きです。

借入金の元本返済は、損益計算書上の費用ではありません。それでも、現金は確かに出ていきます。設備投資も、支払時点では大きな現金支出になりますが、損益計算書では通常、減価償却を通じて費用化されていきます。消費税、法人税、源泉所得税、社会保険料も、損益と支払タイミングがずれます。

つまり、利益計画だけでは資金繰りは把握できません。掛け取引では売上計上と入金に時間差があるため、利益が出ていても資金回収が間に合わず、いわゆる黒字倒産が起こり得ます。だからこそ、利益計画と資金計画は分けて作る必要があるのです。

資金繰り管理で最初に見るべき指標

創業初期の資金繰り管理では、難しい財務指標を大量に見る必要はありません。まずは、次の指標を月次で確認していきます。

現預金残高が固定費の何か月分あるか

手元資金が何か月分あるか。これは、創業初期における重要な安全指標です。

月商基準で見る方法もありますが、創業初期は売上が安定しないため、固定費基準でも見ておきます。たとえば、毎月の固定費が300万円で、現預金が900万円であれば、固定費3か月分ということになります。

ただし、未払金、借入返済、税金、社会保険料がある場合には、それらを控除して考える必要があります。

売掛金の回収予定

売掛金は、入金予定日ごとに確認します。

  • 今月入金予定の売掛金
  • 翌月入金予定の売掛金
  • 入金遅延している売掛金
  • 請求済みだが検収待ちの売掛金
  • 請求書未発行の売上

ここまで分けて見ておくと、資金繰り表の精度が上がります。

買掛金・未払金の支払予定

仕入、外注費、広告費、家賃、給与、税金、社会保険料の支払予定を確認します。

支払予定を資金繰り表に反映しておかないと、預金残高だけを見て「余裕がある」と誤認しやすくなります。

在庫の資金固定

在庫は、売れるまで現金になりません。

在庫が増えているときは、売上増加に必要な在庫なのか、それとも売れ残りなのかを分けて見ます。

借入返済と追加資金需要

借入金の元本返済は、利益計算とは別に、資金繰りへ影響します。

返済予定表を資金繰り表に反映し、何か月後に追加資金が必要になるかを確認しておきます。

部門別・得意先別管理は金融機関説明にも役立つ

創業融資を受けた後も、金融機関との関係は返済だけで終わるわけではありません。

追加融資、設備投資、運転資金、保証協会付き融資などを検討する場面では、会社全体の試算表だけでなく、事業の中身を説明する必要が出てきます。

金融機関の融資審査は、まず債務者評価から始まり、事業内容、業績、今後の見通し、資金使途、返済原資などを確認していきます。銀行の担当者が自社の事業内容を当然に深く理解しているとは限りません。ですから、事業内容は具体的に説明する姿勢が求められます。

このとき、部門別、得意先別、商品別、資金繰りの資料が手元にあれば、次のような説明がしやすくなります。

  • 売上はどの事業で伸びているか
  • 粗利率はどの商品で改善しているか
  • 資金が必要なのは、在庫増加によるものか、売掛金増加によるものか
  • 追加融資は赤字補填なのか、受注増加に伴う運転資金なのか
  • 返済原資はどの事業の利益から生まれるのか
  • 主要得意先への依存度はどの程度か
  • 回収条件や支払条件に、どのような特徴があるか

銀行融資の審査では、直近の試算表、資金繰り表、銀行取引一覧表、事業計画書、納税証明書などが求められることがあります。これらをあらかじめ準備しておけば、審査を円滑に進めやすくなります。

会計ソフトで管理項目を設定するときの注意点

部門別・得意先別・商品別管理を始める場合、会計ソフトや販売管理ソフトの設定が重要になります。ただし、会計ソフトだけですべてを管理しようとすると、運用が重くなってしまうことがあります。

会計ソフトで管理するもの

会計ソフトでは、次のような項目を管理しやすいです。

  • 部門別損益
  • 勘定科目別損益
  • 補助科目別残高
  • 売掛金・買掛金の残高
  • 固定資産
  • 借入金
  • 消費税区分
  • 月次試算表

法人の場合、帳簿には総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、売掛金元帳、買掛金元帳、固定資産台帳、売上帳、仕入帳などが含まれ、注文書、契約書、領収書等の書類も保存の対象になります。法人は、帳簿と、取引に関して作成・受領した書類を、原則として確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存する必要があります。青色繰越欠損金が生じた事業年度等では、10年間となる場合があります。
出典:国税庁|No.5930 帳簿書類等の保存期間

会計ソフトの管理項目は、税務申告や帳簿保存にも関係します。ですから、税務上必要な科目、補助科目、消費税区分を誤らないことが重要です。

販売管理・請求書発行システムで管理するもの

得意先別売上、請求状況、入金状況、商品別売上については、会計ソフトよりも、販売管理システムや請求書発行システムで管理したほうが実務的なことがあります。

特に、次の項目は販売管理側で管理しやすいです。

  • 得意先別請求額
  • 入金予定日
  • 入金消込
  • 商品別売上
  • 値引き
  • 返品
  • 納品日
  • 検収日
  • 請求書発行日

会計ソフトへは、月次決算に必要な形で集約して連携するのが現実的です。

Excelやスプレッドシートで補完するもの

創業初期のうちは、すべてをシステム化する必要はありません。次のような管理は、Excelやスプレッドシートで補完しても十分です。

  • 資金繰り表
  • 得意先別粗利表
  • 案件別採算表
  • 在庫一覧
  • 借入返済予定表
  • 広告費と成果の管理
  • 予実管理表

大切なのは、システムを増やすことではなく、毎月きちんと更新できる管理表を作ることです。

電子取引・証憑保存との接続も忘れない

部門別・得意先別・資金繰り管理を行うには、その元になる資料が欠かせません。請求書、領収書、契約書、注文書、納品書、検収書、入金明細、カード明細、電子取引データ。これらが整理されていなければ、管理数字そのものの信頼性が下がってしまいます。

電子帳簿保存法は、税務関係帳簿書類のデータ保存を可能とする法律で、電子取引で取引情報を含む電子データをやり取りした場合の保存義務や保存方法も定めています。所得税法・法人税法上の保存義務者は、特に電子取引について確認しておく必要があります。
出典:国税庁|電子帳簿等保存制度特設サイト

管理会計は、証憑保存と切り離せません。

得意先別売上を見るなら、請求書、契約書、検収書、入金明細が必要です。商品別粗利を見るなら、仕入明細、在庫表、配送費、手数料が必要です。資金繰りを見るなら、通帳、借入返済予定表、税金・社会保険料の納付予定が必要です。

数字を分けて見るためには、証憑もまた、後から追える形で保存しておくことが欠かせないのです。

中小企業にとっての会計は、外部説明にも使われる

創業初期の管理会計は、社内のためだけのものではありません。金融機関、取引先、共同創業者、株主、税務当局など、会社の外部へ説明する場面でも役立ちます。

中小企業庁は、中小会計要領について、経理人員が少なく、高度な会計処理に対応できる十分な能力や経理体制を持っていない中小企業の実態を踏まえた会計ルールであると説明しています。また、会計情報の開示を求められる範囲として、取引先、金融機関、同族株主、税務当局等を挙げています。
出典:中小企業庁|中小会計要領について

創業初期から数字を整えることは、経営者が自分のためだけに行うものではありません。

  • 資金調達を受ける
  • 取引先に信用してもらう
  • 共同創業者と状況を共有する
  • 株主や投資家に説明する
  • 税務調査で説明する
  • 将来の法人成り、承継、M&Aに備える

こうした場面に備えるためにも、数字を分けて管理する体制が必要になります。

創業初期にありがちな管理会計の失敗

部門別・得意先別・資金繰り管理を始めるにあたっては、次のような失敗に注意が必要です。

分類を細かくしすぎる

最初から、部門、商品、案件、得意先、担当者、地域、チャネルをすべて細かく分けようとすると、入力が続きません。

管理軸は、判断に使うものから始めます。

売上だけを見てしまう

売上が伸びていると、事業が順調に見えるものです。しかし、粗利率が下がり、売掛金が増え、在庫が増え、固定費が増えていれば、資金繰りは悪化します。

資金繰り管理では、売上だけでなく、利益と現金を分けて確認する必要があります。中小企業の資金繰りでは、売上アップだけを追うのではなく、現金、利益、売上の順で重視する視点や、試算表を読みこなし、不良債権・過剰在庫による黒字倒産のパターンを理解しておくことが重要です。

共通費配賦にこだわりすぎる

部門別損益を作ると、共通費をどう配賦するかが問題になります。ただし創業初期は、配賦の精緻さよりも、直接粗利と直接費を早く把握することのほうが重要です。

共通費の配賦に時間をかけすぎると、月次決算が遅れてしまいます。

会計ソフトだけで完結しようとする

会計ソフトは重要ですが、すべての管理に向いているわけではありません。

得意先別の回収管理、商品別販売管理、案件別採算、資金繰り表は、販売管理システムやスプレッドシートで補完したほうが、運用しやすい場合があります。

資金繰り表を作って終わる

資金繰り表は、作るだけでは意味がありません。毎月、実績と予定を更新し、差異を確認していく必要があります。

  • 入金が遅れた理由
  • 支払が増えた理由
  • 在庫が増えた理由
  • 追加資金が必要になる時期
  • 売上計画を見直す必要性

これらを確認して初めて、資金繰り表は経営判断に使える資料になります。

どこまで管理すべきかは事業の段階で変わる

創業初期の管理会計は、事業の段階に応じて深めていきます。

開業直後

まずは、会社全体の月次試算表、資金繰り表、売掛金・買掛金・在庫の一覧を整えます。

この段階では、部門別管理よりも、記録の正確性と資金繰りの把握を優先します。

取引が増えた段階

得意先別売上、得意先別売掛金、商品別粗利、固定費の増減を確認します。

この段階では、売上の伸びと資金繰りのズレを、早めに把握することが重要になります。

複数事業・複数店舗になった段階

部門別損益、店舗別損益、事業別資金繰りを整えます。

人員配置、広告投資、撤退・拡大の判断に使える管理資料が必要になってきます。

融資・投資・法人成り・承継を見据える段階

金融機関、投資家、承継先、M&Aの相手方に説明できる資料として、月次試算表、資金繰り表、部門別損益、得意先別売上、売掛金一覧、借入一覧、予実管理表を整えます。

この段階では、数字の整合性と説明可能性が重要になります。

相談前に整理しておきたい事項

部門別・得意先別・資金繰り管理について専門家に相談する際は、次の事項を整理しておくと、具体的な設計がしやすくなります。

  • 現在の事業内容
  • 個人事業、法人設立、法人成りのいずれか
  • 利用している会計ソフト
  • 利用している請求書発行システム
  • 利用している販売管理・在庫管理システム
  • 主な売上区分
  • 主な商品・サービス
  • 主要得意先
  • 入金サイト
  • 支払サイト
  • 在庫の有無
  • 外注費の有無
  • 借入金と返済予定
  • 毎月確認したい数字
  • 資金繰りで不安な時期
  • 金融機関へ説明する予定の有無
  • 部門別管理をしたい単位
  • 社内で入力・管理できる範囲

この整理があると、会計ソフトの設定、補助科目、部門設定、得意先管理、資金繰り表、月次報告資料の設計が、具体的に進められます。

犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について

部門別・得意先別・資金繰り管理は、創業初期から始めるほど効果が出やすいものです。ただし、最初から細かく作り込みすぎると、月次決算そのものが回らなくなってしまいます。

必要なのは、自社の事業構造、取引条件、資金繰り、税務、金融機関対応に合わせて、管理すべき数字を絞り込むことです。

  • 会社全体の試算表は出ているが、どこで利益が出ているのか分からない
  • 売上は伸びているのに、資金が増えない
  • 得意先別・商品別の採算を見たいが、どこまで分けるべきか分からない
  • 会計ソフトの部門設定や補助科目を、どう設計すべきか迷っている
  • 金融機関へ説明できる月次資料を整えたい

こうした課題がある場合は、単に記帳を進めるだけでなく、経営判断に使える管理体制そのものを設計する必要があります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、創業・開業・法人化の初期段階から、月次決算、部門別損益、得意先別管理、売掛金・買掛金・在庫管理、資金繰り表、金融機関向け資料までを、一体で整える支援を行っています。

創業初期から数字を経営に使える状態にしたいという方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページから、お気軽にご相談ください。

この記事の振り返り

確認項目何を管理するか創業初期に整える理由
部門別管理事業別、店舗別、サービス別、チャネル別の売上・粗利・直接費どの事業を伸ばすか、見直すかを判断するため
得意先別管理売上、粗利、売掛金、入金予定、入金遅延、取引依存度売上規模だけでなく、回収条件と採算を把握するため
商品・サービス別管理単価、数量、原価、外注費、配送費、手数料、粗利売れているものと儲かっているものを分けるため
費目別管理変動費、固定費、戦略費、一時支出費用削減ではなく、費用の性質に応じた判断を行うため
売掛金管理請求額、入金予定日、未入金残高、滞留日数売上と現金のズレを把握するため
買掛金管理仕入・外注の支払予定、未払残高、支払条件将来の支払を見落とさず、資金繰り表に反映するため
在庫管理在庫数量、在庫金額、滞留在庫、在庫回転期間現金が在庫に固定化されるリスクを把握するため
資金繰り表入金、支払、税金、社会保険、借入返済、設備投資利益ではなく、現金の過不足を先に確認するため
会計ソフト設定部門、補助科目、消費税区分、証憑連携月次決算と管理資料を継続的に作れるようにするため
販売管理・請求管理得意先別請求、商品別売上、入金消込会計ソフトだけでは見えにくい取引実務を補完するため
証憑保存契約書、請求書、領収書、電子取引データ管理数字を後から説明できる状態にするため
金融機関対応月次試算表、資金繰り表、部門別損益、借入一覧追加融資や設備投資時に、資金使途と返済原資を説明するため
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