源泉所得税の調査は、「給与計算が合っているか」「納付書を出しているか」だけを見るものではありません。
会社や個人事業主が、誰に、どのような名目で、どのような実態の支払いを行ったのか。その支払いを源泉徴収の対象として扱ったのか。支払時に税額を控除し、法定納期限までに納付し、必要な書類を保存していたのか。税務調査では、これらが一連の流れとして確認されます。
人を雇って給与を支払う場合や、税理士・弁護士・司法書士などに報酬を支払う場合には、その支払の都度、所得税および復興特別所得税を差し引き、原則として翌月10日までに国へ納める義務があります。
出典:国税庁|No.2502 源泉徴収義務者とは
この第六テーマでは、源泉所得税、給与、報酬料金、外注費と給与の区分、非居住者・海外勤務者への支払い、退職金、不納付加算税と納税告知を、税務調査対応の観点から整理します。
個別の計算方法や細かな例外を網羅するページではありません。ここでお示ししたいのは、読者ご自身が自社・自身の状況に照らして「どの論点から確認すべきか」「どの記事を次に読むべきか」を判断できる、テーマ全体の地図です。
第六テーマで理解できること
第六テーマの中心にあるのは、「支払者としての説明責任」です。
法人税調査では、給与や外注費は損金になるか、役員報酬は定期同額給与等の要件を満たすか、退職金は過大でないかが問題になります。消費税調査では、外注費として処理した支払いについて仕入税額控除が認められるかが問われます。所得税調査では、給与、報酬、退職金、非居住者支払について、誰が、いつ、どのように源泉徴収すべきだったかが確認されます。
源泉所得税は、これらの論点と密接につながっています。
たとえば、外注費として処理していた支払いが実態として給与と認定されれば、法人税の費用処理だけでなく、消費税の仕入税額控除、源泉所得税の徴収漏れ、不納付加算税、場合によっては重加算税の問題にまで波及します。役員報酬や役員賞与についても、法人税上の損金算入可否と、支払時の源泉徴収は、別の問題として整理しなければなりません。
このテーマでは、源泉所得税を「給与計算の一部」としてではなく、支払実態、契約関係、勤務実態、役務提供、社内決裁、納付管理、そして調査対応までを含む実務判断領域として扱います。
なぜ源泉所得税は税務調査で問題になりやすいのか
源泉所得税は、支払者が税を預かり、国に納付する制度です。税金そのものは受給者側の所得税に関係しますが、税務署との直接の納付関係では、支払者である会社や個人事業主が重要な責任を負います。
そのため、源泉所得税の調査では、次のような点が確認されます。
給与・賞与・役員報酬については、給与台帳、賃金台帳、役員報酬の決議、年末調整資料、源泉徴収票、納付書、所得税徴収高計算書との整合性が見られます。
報酬・料金については、支払先が個人か法人か、支払内容が源泉徴収対象となる報酬に該当するか、請求書に源泉税が記載されているか、実際の支払額と納付額が一致しているかが問題になります。
外注費については、契約書や請求書の形式だけでなく、指揮命令、勤務時間、代替性、報酬計算、道具・設備の負担、成果物の有無などから、実態として給与に近いかどうかが確認されます。
非居住者や海外勤務者への支払いについては、居住者・非居住者の区分、国内源泉所得に該当するか、租税条約の適用を検討しているか、海外送金や出向契約との整合性が見られます。非居住者等への国内源泉所得の支払いについては、一定の場合に支払者が源泉徴収・納付義務を負います。
出典:国税庁|No.2885 非居住者等に対する源泉徴収のしくみ
退職金については、退職所得の受給に関する申告書、勤続年数、退職所得控除、役員退職金の支給決議、退職の実態、複数退職金の有無などが問題になります。
そして、納付漏れがあれば、納税告知、不納付加算税、延滞税の問題へと進みます。源泉所得税は、原則として支払月の翌月10日までに納付します。ただし、給与の支給人員が常時10人未満であるなど一定の要件を満たす場合には、納期の特例により半年分をまとめて納付できる制度があります。
出典:国税庁|No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例
このテーマを読む前に持っておきたい視点
源泉所得税の調査対応で大切なのは、「源泉徴収したかどうか」だけを切り出して考えないことです。
まず、支払いの実態を確認します。給与なのか、外注費なのか、報酬料金なのか、退職金なのか、非居住者への国内源泉所得なのか。それによって、確認すべき資料も判断軸も変わってきます。
次に、支払時の判断過程を確認します。どの資料を見て、誰が、どのような理由で源泉徴収の要否を判断したのか。請求書、契約書、勤怠記録、議事録、支払調書、納付書、社内承認履歴が整っていなければ、調査時に後付けの説明になりやすくなります。
さらに、納付管理を確認します。源泉所得税は、支払時の判断と納付期限の管理が分かれています。源泉徴収自体は正しくても、納付書の区分や納期限を誤れば、不納付加算税の問題が生じます。
最後に、制度改正への対応も必要です。令和8年分の給与等については、源泉徴収税額表が令和7年度税制改正に伴う基礎控除等の見直しを反映したものとなっています。また、令和9年1月以後の源泉徴収については、防衛特別所得税の創設および復興特別所得税の見直しが公表されています。実務では、対象年分に応じた最新の税額表・取扱いを確認する必要があります。
出典:国税庁|令和8年分 源泉徴収税額表 出典:国税庁|防衛特別所得税及び復興特別所得税の源泉徴収のあらまし(令和9年1月以後の源泉徴収)
推奨する読む順番
第六テーマは、原則として次の順番でお読みいただくことを想定しています。
まず、源泉所得税調査の全体像を把握するために、6-1を確認します。ここで、源泉徴収義務者、支払内容、納付期限、納税告知、不納付加算税といったテーマ全体の位置づけを押さえます。
次に、最も基本となる給与・賞与・役員報酬について、6-2を読みます。通常の給与支払いだけでなく、役員報酬や賞与、年末調整との関係があるため、多くの法人・個人事業主にとって入口となる論点です。
給与以外の支払いがある場合には、6-3で報酬・料金の源泉徴収を確認します。士業報酬、原稿料、講演料など、支払先や支払内容によって判断が変わるため、請求書処理だけで済ませない視点が必要です。
外注費が多い会社、個人事業主、士業・IT・建設・運送・クリエイティブ業務などでは、6-4を早めに確認してください。外注費と給与の区分は、源泉所得税だけでなく、法人税・所得税・消費税に同時に影響します。
海外勤務者、非居住者、海外出向者、海外在住の専門家への支払いがある場合には、6-5へ進みます。国内取引だけを前提にした源泉判断では対応できないため、居住性、国内源泉所得、租税条約、出向契約の整理が必要になります。
退職金や役員退職金の支払いを予定している、または過去に支給した退職金がある場合には、6-6を確認します。退職所得の源泉徴収は、給与とは異なる計算体系を持ち、法人税上の役員退職給与の判断とも接点があります。
最後に、納付漏れや調査指摘への対応として、6-7を確認します。源泉所得税を納め忘れた場合の納税告知、不納付加算税、延滞税、自主納付、正当な理由などを整理し、調査終盤の対応や再発防止につなげます。
6-1. 源泉所得税調査の全体像
「源泉所得税がなぜ税務調査で問題になるのか分からない」という方は、まず6-1から確認してください。
この詳細コラムでは、源泉徴収義務者とは何か、調査でどのような支払いが確認されるか、給与・報酬・退職金・非居住者支払・納付漏れがどのようにつながるかを整理します。
源泉所得税は、法人税や消費税の調査の中で横断的に確認されることがあります。調査通知を受けた段階で、どの支払いが源泉論点になり得るかを洗い出すための入口として、お読みいただきたい記事です。
6-2. 給与・賞与・役員報酬の源泉徴収
給与、賞与、役員報酬の支払いがある法人・個人事業主は、6-2を確認してください。
この詳細コラムでは、給与支払時の源泉徴収、賞与に対する源泉徴収、役員報酬や役員賞与との関係、年末調整や納付管理との接点を整理します。
役員報酬については、法人税上の損金算入要件と、源泉所得税上の支払時処理を混同しないことが重要です。法人税では認定賞与や事前確定届出給与が問題になり、源泉所得税では支払時に徴収・納付していたかが問題になります。
法人税と源泉所得税を分けて考える視点を持つために、6-2は第六テーマの基礎となる記事です。
6-3. 報酬・料金の源泉徴収
専門家報酬、原稿料、講演料、デザイン料、出演料、士業報酬など、給与以外の支払いがある場合は、6-3を確認してください。
この詳細コラムでは、報酬・料金に対する源泉徴収義務、支払先が個人か法人かによる違い、請求書記載と実際の源泉徴収、復興特別所得税を含めた納付実務を整理します。
報酬・料金の源泉徴収で多いのは、「請求書に源泉税が書かれていないから不要だと思った」「法人への支払いと個人への支払いを区別していなかった」「納期の特例の対象だと思い込んでいた」といった、管理上の問題です。
6-3では、細かな支払類型の判定へ入る前に、報酬・料金の支払管理をどう見直すべきかを理解できます。
6-4. 外注費と給与の区分が調査で問題になる理由
外注費、業務委託費、業務委託契約、フリーランスへの支払いがある場合には、6-4を確認してください。
この詳細コラムでは、外注費と給与の区分が、源泉所得税だけでなく、法人税・所得税・消費税にどのように波及するかを整理します。
契約書や請求書があるから外注費でよい、という判断は危険です。税務調査では、指揮監督の有無、勤務時間の拘束、代替性、報酬計算、成果物、道具や交通費の負担、他社への従事状況などから、実態が確認されます。
外注費処理が給与認定されると、源泉徴収漏れ、不納付加算税、消費税の仕入税額控除否認、場合によっては架空人件費や重加算税の問題に発展することがあります。6-4は、第六テーマの中でも特に税目横断の視点が必要な記事です。
6-5. 非居住者・海外勤務者・出向者への支払い
海外勤務者、海外出向者、非居住者、海外在住の役務提供者、国外送金を伴う支払いがある場合には、6-5を確認してください。
この詳細コラムでは、居住者・非居住者の区分、国内源泉所得、海外勤務者への給与、出向者給与、グロスアップ、租税条約の確認といった国際源泉論点を整理します。
国内の給与・報酬と同じ感覚で処理すると、源泉徴収漏れや税率誤りが生じることがあります。反対に、本来源泉徴収が不要なものまで過大に控除してしまうと、受給者との精算や契約関係にも影響します。
海外支払いがある場合、6-5だけで完結させず、第九テーマの国際取引・海外出向・グループ取引の記事とあわせてお読みいただくことで、法人税・移転価格・消費税との接点も整理しやすくなります。
6-6. 退職所得・退職手当の源泉徴収
退職金、役員退職金、分掌変更に伴う支給、複数の退職手当がある場合には、6-6を確認してください。
この詳細コラムでは、退職所得の計算、退職所得控除、退職所得の受給に関する申告書、勤続年数、源泉徴収、役員退職金との接点を整理します。
退職所得は、給与所得とは異なる税務上の取扱いを受けます。しかし、退職の実態がない場合や、役員退職金の金額・支給時期に問題がある場合には、法人税上の損金算入判断、認定賞与、源泉徴収の論点が交差します。
退職金は金額が大きくなりやすく、調査で確認されたときの影響も大きいため、支給前の資料整理と支給後の保存が重要です。
出典:国税庁|No.2732 退職手当等に対する源泉徴収
6-7. 源泉所得税の不納付加算税と納税告知
源泉所得税を納め忘れた、税務署から納付漏れを指摘された、納税告知を受けた、または過去の源泉処理を自主点検したい。そうした場合には、6-7を確認してください。
この詳細コラムでは、納税告知、法定納期限、自主納付、不納付加算税、正当な理由、延滞税、重加算税との関係を整理します。
源泉所得税の納付漏れは、単に「後から納めればよい」という問題ではありません。税務署からの連絡前に自主納付したのか、調査を予知していたのか、正当な理由があるのか、隠蔽・仮装が疑われる事情があるのか。それによって、附帯税の扱いが変わります。
6-7は、第六テーマの出口にあたる記事です。給与・報酬・外注・退職金・非居住者支払のいずれの論点でも、最終的に納付漏れがあれば、この論点に接続します。
状況別にどこから読むべきか
税務調査の通知を受け、源泉所得税も対象になっている可能性がある場合は、まず6-1を読み、次に自社の支払い内容に応じて6-2から6-6へ進みます。すでに納付漏れの可能性がある場合は、6-7も早めに確認してください。
給与・賞与・役員報酬に不安がある場合は、6-2から読むのが自然です。そのうえで、役員給与の法人税上の取扱いが問題になる場合には、第4テーマの役員給与の記事へ進むと、法人税と源泉所得税の違いを整理しやすくなります。
士業報酬、原稿料、講演料、デザイン料などの支払いがある場合は、6-3を確認してください。支払先が個人か法人か、請求書の記載がどうなっているか、納付書区分が正しいか。それらを見直すきっかけになります。
外注費が多い会社や、業務委託契約で人材を活用している事業者は、6-4を優先してください。外注費と給与の区分は、税務調査で複数税目に波及しやすく、説明資料の作り方も重要になります。
海外赴任者、海外出向者、国外居住者への支払いがある場合は、6-5を確認してください。国際取引がある場合は、第9テーマの記事とあわせて読むことで、源泉所得税だけでなく、法人税・移転価格・消費税との関係も見えやすくなります。
退職金や役員退職金を支給した、または支給予定がある場合は、6-6を確認してください。特に役員退職金については、第4テーマの役員退職給与の記事とあわせて読むと、支払者側の損金判断と受給者側の退職所得課税を分けて整理できます。
源泉所得税の納付漏れ、納税告知、不納付加算税が現実に問題になっている場合は、6-7をお読みください。そのうえで、第3テーマの加算税・延滞税・不服申立ての記事へ進むと、調査終盤の判断を立体的に整理できます。
第六テーマと他テーマのつながり
第六テーマは、単独で完結するテーマではありません。源泉所得税は、人件費、外注費、役員報酬、消費税、国際取引、附帯税とつながっています。
第4テーマの法人税調査では、役員給与、役員退職給与、外注費、出向・転籍が扱われます。第六テーマでは、それらの支払いについて源泉徴収・納付の観点から整理します。
第5テーマの消費税調査では、仕入税額控除やインボイス、課税仕入れが扱われます。外注費が給与認定されると、消費税の仕入税額控除にも影響するため、6-4とあわせて確認する必要があります。
第9テーマでは、国際取引、海外出向、グループ会社取引が扱われます。非居住者・海外勤務者への支払いは、第六テーマの源泉論点と、第九テーマの国際税務論点が交差する領域です。
第3テーマでは、加算税、延滞税、重加算税、不服申立てが扱われます。源泉所得税の納付漏れが調査で指摘された場合、最終的には第3テーマの出口判断に接続します。
第11テーマでは、税務調査後の再発防止、月次管理、証憑保存、専門家との役割分担を扱います。源泉所得税は毎月・毎支払ごとの管理が必要であるため、調査後の改善テーマとしても重要です。
第六テーマで重視する実務判断
第六テーマでは、細かな税額計算そのものよりも、次の実務判断を重視します。
第一に、支払いの性質を正しく整理すること。 給与、報酬、外注費、退職金、非居住者支払は、名称ではなく実態で判断されます。
第二に、支払時点での判断資料を残すこと。 契約書、請求書、給与台帳、勤怠記録、議事録、退職所得申告書、納付書、支払調書が、後から整合している必要があります。
第三に、納付期限と納付書区分を管理すること。 源泉徴収自体が正しくても、納付が遅れれば不納付加算税や延滞税の問題になります。
第四に、法人税・消費税・国際税務への波及を見落とさないこと。 源泉所得税だけを見て処理すると、調査で別税目の問題が顕在化することがあります。
第五に、調査で指摘された後の対応を記録化すること。 いつ誤りに気づいたのか、どの範囲を自主点検したのか、税務署からどのような確認を受けたのか。これらは、加算税や不服申立ての判断にも影響します。
源泉所得税の不安は、支払管理の見直しにつなげる
源泉所得税の調査対応は、過去の納付漏れを見つけて終わりではありません。
給与や報酬の支払フロー、外注先登録時の確認、非居住者判定、退職金支給時の資料保存、納付書作成、e-Tax納付、納期の特例の対象支払いの区分。こうした支払事務全体を見直す機会になります。
税務調査をきっかけに、源泉所得税の管理を「担当者の経験」から「会社の仕組み」に変えることができれば、今後同じ不安を繰り返しにくくなります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、源泉所得税の調査対応だけでなく、給与・報酬・外注費・退職金・非居住者支払の論点整理、納付漏れの確認、不納付加算税や納税告知への対応、調査後の支払管理体制の改善まで、事実と資料に基づいて整理します。
源泉所得税について税務署から確認を受けている場合、外注費や報酬処理に不安がある場合、過去の納付漏れに気づいた場合は、お問い合わせページからご相談ください。支払内容、資料の有無、調査の進行状況を確認したうえで、現実的な対応方針を一緒に整理します。
振り返り|第六テーマで押さえるべきこと
| 振り返り項目 | 確認すべき視点 |
|---|---|
| 第六テーマの中心 | 源泉所得税、給与、報酬、外注費、退職金、非居住者支払、不納付加算税を横断して整理する |
| 税務調査で問われること | 支払者として、支払実態、源泉徴収要否、納付期限、資料保存を説明できるか |
| 最初に読む記事 | 6-1「源泉所得税調査の全体像」 |
| 給与・役員報酬の入口 | 6-2「給与・賞与・役員報酬の源泉徴収」 |
| 報酬・料金の入口 | 6-3「報酬・料金の源泉徴収」 |
| 税目横断で注意すべき論点 | 6-4「外注費と給与の区分が調査で問題になる理由」 |
| 国際的な人の移動・海外支払 | 6-5「非居住者・海外勤務者・出向者への支払い」 |
| 退職金・役員退職金 | 6-6「退職所得・退職手当の源泉徴収」 |
| 納付漏れ・納税告知 | 6-7「源泉所得税の不納付加算税と納税告知」 |
| 関連する他テーマ | 法人税、消費税、国際取引、附帯税、不服申立て、再発防止 |
| 実務上の到達点 | 税務署から確認されたときに、支払処理の理由と資料を後から説明できる状態にする |