法定監査や内部統制監査の実務では、基準を読めばすぐに結論が出る論点ばかりではありません。むしろ、判断に迷う場面のほうが多いというのが実感です。
監査計画をどこまで具体化するか。重要性をどう設定し、期中でどう見直すか。識別したリスクに対して、どの程度まで監査証拠を積み上げるか。内部統制の不備を単なる運用上の例外として扱うのか、それとも財務報告に係る重要な不備として評価するのか。会計上の見積り、KAM、不正リスク、開示、監査意見形成を、どこまで一貫した判断過程として説明できる状態にしておくか。
こうした問いに、その場しのぎではなく筋道立てて答えられるかどうかが、監査品質を左右します。
このシリーズでは、金商法監査、会社法監査、内部統制監査を軸に、財務諸表監査、内部統制報告制度、開示、会計上の見積り、KAM、不正リスク、監査役等との連携、審査、協会レビュー、金融庁・当局対応までを扱います。個別論点を並べるのではなく、「後から説明できる監査判断の体系」として整理していきます。
監査基準は、財務諸表監査の目的を次のように位置づけています。経営者が作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠し、企業の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況を、すべての重要な点で適正に表示しているかどうか。これを監査人が自ら入手した監査証拠に基づいて判断し、その結果を意見として表明することにあります。そして、この適正表示に関する意見には、財務諸表全体として重要な虚偽表示がないことについて合理的な保証を得た、という監査人の判断が含まれています。
出典:金融庁・企業会計審議会|監査基準
つまり、監査は「すべてを確認する作業」ではありません。重要な虚偽表示リスクを評価し、重要性を踏まえて監査計画を策定し、十分かつ適切な監査証拠を入手する。その判断過程を監査調書として残し、最終的に監査意見として結論づける。あくまで専門的判断の積み重ねです。
このシリーズが重視するのは、監査手続を表面的に列挙することではありません。次の問いに答えられる状態をつくることです。
- なぜその論点を重要と判断したのか
- どの事実、基準、証拠、内部統制、開示と結びついているのか
- どの程度の監査証拠があれば、監査意見の基礎として十分といえるのか
- 監査役等、審査担当者、会社、財務諸表利用者に対して、判断過程をどこまで説明できるのか
- 形式的には基準に沿っていても、監査品質上の懸念が残らないか
このシリーズで扱う領域
法定監査と財務報告を、次のような流れで整理していきます。
まず、金商法監査、会社法監査、内部統制監査の制度上の位置づけを確認します。続いて、監査スケジュール、監査計画、重要性、リスク評価、監査アプローチを整理し、そのうえで監査証拠、監査手続、監査調書、内部統制評価、J-SOX、IT統制、決算・財務報告プロセスへと進みます。
さらに、会計上の見積り、収益認識、棚卸資産、固定資産、減損、リース、金融商品、税効果、退職給付、引当金といった主要な会計領域を取り上げます。いずれも、会計処理そのものではなく、監査上のリスク、証拠、内部統制、開示という観点から整理します。
その後は、不正リスク、会計不正、粉飾決算、訂正対応、有価証券報告書、適時開示、虚偽記載責任、KAM、監査報告書、監査意見形成、監査役等との連携、品質管理、審査、レビュー、検査対応、そしてIPO準備監査へと接続していきます。
監査基準においても、監査人には、監査リスクを合理的に低い水準に抑えるための一連の対応が求められています。重要な虚偽表示リスクを評価し、発見リスクの水準を決定するとともに、監査上の重要性を勘案して監査計画を策定し、これに基づいて監査を実施する、という流れです。あわせて、内部統制を含む企業および企業環境の理解、十分かつ適切な監査証拠の入手、監査役等との連携も、監査プロセス上の重要な要素として位置づけられています。
出典:金融庁・企業会計審議会|監査基準
監査判断は、個別論点ではなく一連のプロセスで捉える
監査実務では、論点が分断されやすい傾向があります。
重要性は重要性の論点、リスク評価はリスク評価の論点、内部統制はJ-SOXの論点、会計上の見積りは会計基準の論点、KAMは監査報告書の論点、開示は開示チェックの論点。こうして別々の箱に入れて処理されてしまうことが少なくありません。
しかし、実際の監査判断では、これらを切り離すことはできません。
たとえば会計上の見積りは、会計基準に沿って金額を算定すれば終わり、という論点ではありません。経営者が用いた仮定、基礎データ、過年度見積りとの差異、経営者バイアス、内部統制の運用状況、注記の十分性、KAM候補としての位置づけ、そして審査担当者への説明可能性まで、一続きの検討が必要になります。
ASBJの「会計上の見積りの開示に関する会計基準」は、こうした見積りの開示を目的とした基準です。当年度の財務諸表に計上した金額のうち会計上の見積りによるもので、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目について、財務諸表利用者の理解に資する情報を開示することを求めています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」
この考え方は、そのまま監査実務にも及びます。監査人は、見積りの金額そのものだけを見ていればよいわけではありません。その不確実性が財務諸表利用者にどう伝わるか、注記が監査上の判断と整合しているか、監査報告書でどう扱うべきか。ここまで含めて見ていく必要があります。
内部統制は、監査手続を減らすためだけのものではない
内部統制を、実証手続を効率化するための手段としてのみ理解するのは、やはり一面的です。内部統制は、財務報告の信頼性を支える会社側の仕組みであり、監査人が重要な虚偽表示リスクを評価する際の基礎でもあります。
2023年4月には、企業会計審議会が「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」および実施基準の改訂に関する意見書を公表しました。改訂後の基準・実施基準では、内部統制の実効性、評価範囲の適切性、財務報告に及ぼす影響の重要性、不正リスク、ITへの対応、そしてガバナンスや全組織的なリスク管理との関係が、従来以上に重要な論点として位置づけられています。
出典:金融庁・企業会計審議会|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)
このシリーズでは、内部統制を「RCMを作る」「サンプルを取る」「不備を分類する」といった作業の集合としてだけでは扱いません。もう少し踏み込んで考えます。
評価範囲をどう決めるか。全社的内部統制、業務プロセス統制、決算・財務報告プロセス、IT全般統制を、どのように接続して捉えるか。不備を単なる例外事項として処理するのか、それとも財務報告に係る重要な虚偽表示リスクとの関係で評価するのか。開示すべき重要な不備に該当するかどうかを、どのような根拠で説明するのか。
これらを、財務諸表監査と内部統制監査の関係のなかで整理していきます。
KAMは、監査報告書の装飾ではない
KAMを、監査報告書に載せる文章づくりの論点だと捉えると、本質を見誤ります。KAMは、監査計画、リスク評価、会計上の見積り、監査役等とのコミュニケーション、開示、審査、監査報告書が交差する論点です。
金融庁は、KAMについて次のように説明しています。2018年7月に公表された監査基準の改訂によって日本の監査実務に導入され、2021年3月期から、一部を除く金融商品取引法監査の対象会社に対して監査報告書への記載が求められるようになりました。そして、KAMの記載には、監査人が実施した監査の透明性を高め、監査報告書の情報価値を向上させるという意義があるとされています。
出典:金融庁|「監査上の主要な検討事項(KAM)」の実務の定着と浸透に向けた取組みについて
KAMを実務で検討する際には、「前期と同じKAMでよいか」「他社事例と似ているか」という確認だけでは足りません。
重要な見積りや判断を、どのように監査上の主要な検討事項として捉えたのか。監査役等とのコミュニケーションのなかで、どの論点が特に重要と判断されたのか。財務諸表注記と監査報告書の記載は整合しているか。監査上の対応は、実際に実施した監査手続と対応しているか。そして、審査担当者や財務諸表利用者が読んだときに、監査人の判断過程がきちんと伝わるか。
KAMは、監査報告書の末尾で急に検討し始めるものではなく、監査計画の段階から意識しておくべき出口論点だと考えています。
このシリーズの読み方
このシリーズは、監査経験の浅い読者に向けた用語解説ではありません。想定しているのは、監査法人に勤務し、法定監査、内部統制監査、財務報告、開示、審査対応のなかで、日々判断を求められている公認会計士の方々です。
もっとも、読み方は一つに限りません。関心に応じて、次のように読み進めることができます。
監査全体の地図を確認したいときは、第1テーマから第4テーマまでを順に読むと、制度、監査スケジュール、重要性、リスク評価、監査証拠、監査調書のつながりが把握できます。
J-SOXや内部統制評価を深掘りしたいときは、第5テーマと第6テーマが中心になります。内部統制報告制度、評価範囲、統制評価、不備判断、業務プロセス、IT統制、決算・財務報告プロセスを整理できます。
会計上の見積りや主要会計領域の監査重点を確認したいときは、第7テーマと第8テーマが軸になります。減損、税効果、退職給付、金融商品、収益認識などは、会計処理そのものではなく、監査上のリスク、証拠、開示、KAMとの関係で理解する必要があります。
不正リスク、開示、監査報告といった出口論点を確認したいときは、第9テーマから第11テーマです。会計不正、粉飾決算、訂正対応、虚偽記載責任、KAM、除外事項、継続企業の前提、内部統制監査報告を、一続きで整理できます。
監査役等との連携、品質管理、協会レビュー、金融庁・当局対応、IPO準備監査を確認したいときは、第12テーマから第14テーマが対象です。
シリーズ全体のテーマ
第1テーマ 法定監査制度と監査判断の全体像
金商法監査、会社法監査、内部統制監査の位置づけ、二重責任の原則、合理的保証、重要性、独立性、職業的懐疑心、監査意見の意味を整理します。
個別手続に入る前に、法定監査が何を保証し、何を保証しないのかを確認しておくための入口です。
第2テーマ 監査スケジュール・監査計画・プロジェクト設計
監査を年度全体のプロジェクトとして捉え、期首、期中、期末、審査、監査役等報告までを整理します。
監査品質は、期末監査の頑張りだけで決まるものではありません。期首からの計画、課題管理、会社とのコミュニケーション、監査役等との連携によって支えられます。
第3テーマ 重要性・リスク評価・監査アプローチ
監査上の重要性、重要な虚偽表示リスク、固有リスク、統制リスク、特別な検討を必要とするリスク、リスク対応手続を整理します。
どの論点に監査資源を投入すべきかを判断するための、中核となるテーマです。
第4テーマ 監査証拠・監査手続・監査調書
監査証拠の十分性と適切性、監査手続の種類、試査、サンプリング、監査調書、未修正虚偽表示、意見形成前の判断を扱います。
監査調書は、作業の記録ではありません。監査人の判断過程と結論を、後から説明するための基礎です。
第5テーマ 内部統制報告制度・J-SOX・内部統制監査
内部統制報告制度の全体像、評価範囲、全社的内部統制、整備評価、運用評価、不備評価、開示すべき重要な不備、そして内部統制監査と財務諸表監査の関係を整理します。
ここでは、J-SOXを形式的な文書化作業としてではなく、財務報告の信頼性を支える制度として扱います。
第6テーマ 業務プロセス・IT統制・決算財務報告プロセス
販売、購買、在庫、固定資産、財務経理、IT全般統制、IT業務処理統制、外部委託、クラウド、決算・財務報告プロセス、開示基礎資料を扱います。
監査人が会社の業務を理解することは、単なるヒアリングの前提ではありません。どこで虚偽表示リスクが生じ、どの統制がそれを防止・発見するのかを理解するために欠かせない作業です。
第7テーマ 会計上の見積り・重要判断・経営者バイアス
見積りの不確実性、経営者の仮定、基礎データ、専門家の利用、過年度見積りの事後的検討、経営者バイアス、見積り開示、KAM候補を整理します。
見積りは、正解を一つに決める領域ではありません。前提、証拠、不確実性、開示、監査上の対応を総合して判断する領域です。
第8テーマ 主要会計領域別の監査重点
収益認識、棚卸資産、固定資産、減損、リース、金融商品、時価、ヘッジ会計、税効果、退職給付、引当金、連結、組織再編、特殊取引を、監査の視点から整理します。
会計基準を知っていることと、それを監査上のリスク、証拠、内部統制、開示に落とし込めることは、同じではありません。
第9テーマ 不正リスク・会計不正・粉飾決算対応
誤謬と不正、粉飾決算、資産流用、経営者による内部統制の無効化、仕訳テスト、見積りバイアス、非定型取引、関連当事者、訂正・再発防止を扱います。
監査は、不正の摘発そのものを目的とするものではありません。ただし、不正による重要な虚偽表示リスクに対しては、職業的懐疑心を保持して対応する必要があります。
第10テーマ 開示制度・有価証券報告書・適時開示・訂正対応
金融商品取引法上の開示制度、有価証券報告書、決算短信、適時開示、訂正報告書、内部統制報告書、虚偽記載責任を扱います。
監査判断は、財務諸表の中だけで完結するものではありません。有価証券報告書、適時開示、訂正対応、投資家への説明可能性へと接続していきます。
なお、近年は期中開示・レビューの制度にも変更が生じています。企業会計審議会は2024年3月12日の総会で、四半期レビュー基準を期中レビュー基準へ改訂する意見書と、監査に関する品質管理基準の改訂に係る意見書を取りまとめました。
出典:金融庁・企業会計審議会|「四半期レビュー基準の期中レビュー基準への改訂に係る意見書」及び「監査に関する品質管理基準の改訂に係る意見書」の公表について
第11テーマ KAM・監査報告書・監査意見形成
監査報告書の構造、KAM、除外事項付意見、不適正意見、意見不表明、継続企業の前提、内部統制監査報告書を扱います。
監査報告書は、監査手続の結果を形式的に記載する文書ではありません。監査人の重要な判断を、財務諸表利用者に伝えるための制度的な成果物です。
第12テーマ 監査役等・内部監査・三様監査・ガバナンス連携
監査役等、内部監査、会計監査人の役割分担、三様監査、監査計画・監査結果の共有、KAM候補のコミュニケーション、ガバナンスと内部統制の関係を整理します。
監査基準においても、監査人には、監査の各段階で監査役等と協議するなど、適切な連携を図ることが求められています。
出典:金融庁・企業会計審議会|監査基準
第13テーマ 監査品質管理・審査・レビュー・検査対応
監査法人内の品質管理、審査、専門的見解の相談、監査調書レビュー、協会レビュー、金融庁・当局対応、改善対応を整理します。
監査品質は、現場担当者の経験だけで維持されるものではありません。監査判断が、審査、レビュー、外部検証に耐えられるよう、リスク評価、証拠、調書化、結論の整合性を確保しておく必要があります。
なお、金融庁の企業会計審議会のページでは、監査基準、監査に関する品質管理基準、期中レビュー基準、監査における不正リスク対応基準、内部統制の評価及び監査の基準・実施基準などの最新版が整理されています。
出典:金融庁|企業会計審議会
第14テーマ IPO準備監査・準金商法監査・上場後移行
IPO準備監査、準金商法監査、N-2期、N-1期、申請期、期首残高の検証、管理体制、開示体制、内部統制、そして上場後の金商法監査・内部統制監査への移行を扱います。
IPO準備監査は、通常の監査基準の適用を前提としつつ、上場会社水準の財務報告体制と開示体制へと移行していく、特殊な局面です。上場はゴールではなく、法定監査、内部統制報告制度、適時開示の継続的な運用が始まる起点でもあります。
このシリーズで特に重視する判断軸
各論点は、次の五つの判断軸で整理していきます。
1. 制度上の位置づけ
まず、その論点が金商法監査、会社法監査、内部統制監査、開示制度、会社法上のガバナンス、監査基準、会計基準のどこに位置づくのかを確認します。
制度上の位置づけを誤ると、監査手続の深度、会社への説明、監査役等との協議、監査報告書への影響まで、連鎖的に判断を誤りかねません。
2. 重要性とリスク
次に、その論点が財務諸表全体に与える影響、アサーションレベルのリスク、質的重要性、不正リスク、開示上の影響を検討します。
監査の効率性を考えるうえでも、重要性とリスクの評価は避けて通れません。すべてを同じ深度で見ることが監査品質なのではなく、重要な虚偽表示リスクを識別し、適切な深度で対応することこそが監査品質につながります。
3. 証拠と内部統制
監査判断は、主張や印象ではなく、証拠によって支えられていなければなりません。
その証拠は内部証拠なのか外部証拠なのか。質問だけで足りるのか。確認、閲覧、再計算、再実施、分析的手続、立会が必要なのか。内部統制に依拠できるのか。IT統制や外部委託先の統制まで見なければならないのか。こうした観点から、証拠の十分性と適切性を整理します。
4. 開示と説明可能性
財務諸表監査の判断は、最終的に開示と監査報告書へと接続します。
会計処理が妥当であっても、注記が不十分であれば、財務諸表利用者に必要な情報が伝わらないおそれがあります。KAMや見積り注記、継続企業の前提、内部統制報告書、訂正対応の場面では、監査判断と開示内容の整合性が特に重要になります。
5. ガバナンスと品質管理
監査判断は、監査チームの中だけで閉じるものではありません。監査役等、内部監査、経営者、審査担当者、品質管理部門、外部レビュー、当局対応へと接続していきます。
説明できない判断は、後になって監査品質上のリスクになります。だからこそこのシリーズでは、監査調書に何を残すか、審査で何を説明するか、監査役等と何を共有するかまでを視野に入れて整理します。
このシリーズが目指す到達点
このシリーズの目的は、読者に「基準上の答え」を暗記してもらうことではありません。
むしろ、実務上のグレーゾーンに立ったとき、次のように考えを整理できる状態を目指しています。
この論点は、どの制度・基準に関係しているのか。財務諸表上、どのアサーションに関わるのか。重要性は量的・質的にどう評価すべきか。経営者の判断や仮定に、どのようなバイアスが入り得るか。内部統制の整備・運用状況を、どう見ればよいか。どの監査証拠が、どの結論を支えているのか。開示上、利用者に何を伝えるべきか。そして、監査役等、会社、審査担当者、外部レビューに対して、どう説明できるか。
監査実務には、時間の制約もあります。すべての論点を理想どおりに深掘りできるとは限りません。
だからこそ、限られた時間のなかで、どの論点を優先し、どの証拠を重視し、どこまで文書化し、どの関係者と協議すべきかを見極める力が求められます。
実務で迷ったときに立ち戻るべきこと
監査実務で判断に迷ったときは、基準の文言だけに戻るのではなく、次の順番で整理していくと考えがまとまりやすくなります。
まず、その論点が財務諸表利用者の意思決定に重要な影響を及ぼし得るかを確認します。次に、虚偽表示リスクがどこにあり、どのアサーションに関係するかを整理します。そのうえで、内部統制に依拠できるか、実証手続をどの程度まで実施すべきかを判断します。さらに、会計処理だけでなく、注記、KAM、監査報告書、内部統制報告書、適時開示への影響を確認します。最後に、監査調書として、第三者が読んでも判断過程を追える状態になっているかを見直します。
この順番を踏んでおくと、「結論は妥当だと思うが、うまく説明できない」という状態を避けやすくなります。
法定監査と財務報告は、会社の信頼を支える仕組みである
監査は、会社の数字を機械的に検証するだけの作業ではありません。
会社が作成する財務情報、内部統制、開示、ガバナンスが、資本市場や利害関係者から信頼されるための、制度的な仕組みそのものです。
公認会計士に求められる専門性も、監査手続を正確に実施することだけにはとどまりません。複雑な事実関係を整理し、会計基準、監査基準、内部統制、開示制度、会社法、金商法、ガバナンスを横断して判断する力が必要になります。
このシリーズでは、そうした判断力を高めるために、個別論点を孤立させることなく、監査計画から監査報告までの一連の流れのなかで整理していきます。
相談・面談をご検討の方へ
法定監査、内部統制、財務報告、開示、IPO準備、会計上の見積り、不正リスク、KAM、監査役等との連携。これらの論点は、一般論だけでは判断しきれない場面が少なくありません。
とりわけ、監査法人内での審査対応、会社側との論点整理、内部統制不備の評価、開示上の説明可能性、過年度訂正や不正リスクへの対応といった場面では、早い段階で論点を構造化しておくことが重要になります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、会計・監査・内部統制・開示を横断して、実務上の論点整理や判断支援を行っています。監査上または財務報告上の論点について、現状を整理し、次に検討すべき事項を明確にしたい場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページからご相談ください。
振り返り
| 観点 | このシリーズで重視すること |
|---|---|
| 監査の位置づけ | 法定監査を、単なる手続ではなく、合理的保証と説明責任を伴う専門判断として整理する |
| 監査計画 | 期首から監査報告までを一体のプロジェクトとして捉え、リスク評価と手続設計を接続する |
| 重要性・リスク | 量的重要性だけでなく、質的重要性、不正リスク、開示影響、KAM候補まで含めて判断する |
| 監査証拠 | 手続を実施した事実ではなく、結論を支える十分かつ適切な証拠があるかを重視する |
| 内部統制 | J-SOXを形式的な文書化ではなく、財務報告の信頼性を支える実効的な仕組みとして捉える |
| 会計上の見積り | 仮定、データ、経営者バイアス、注記、KAM、審査対応を一体で検討する |
| 不正リスク | 誤謬と不正を区別し、経営者による内部統制の無効化や非定型取引に注意を向ける |
| 開示・監査報告 | 会計処理の妥当性だけでなく、利用者への説明可能性と監査報告書への影響を確認する |
| ガバナンス | 監査役等、内部監査、会計監査人の連携を、監査品質の一部として捉える |
| 品質管理 | 審査、協会レビュー、金融庁・当局対応に耐える判断過程と監査調書を重視する |