海外子会社との取引価格を決めるとき、多くの会社ではまず「いくらなら利益が出るか」「現地法人の資金繰りは大丈夫か」「関税や為替を考えると、どの水準が現実的か」といった点から検討を始めます。
それ自体は、経営上ごく当然の視点です。
しかし、移転価格税制の観点からは、それだけでは足りません。日本法人と国外関連者との取引価格が、独立した第三者間であれば成立したであろう価格、すなわち「独立企業間価格」といえるかどうかを、あらためて検証する必要があります。
ここで押さえておきたいのは、独立企業間価格とは「なんとなく相場に近い価格」ではない、ということです。取引内容、機能、リスク、無形資産、契約条件、市場環境、事業戦略、比較対象取引の有無まで踏まえたうえで、どの算定方法が最も適切かを選ばなければなりません。
国税庁の通達においても、最も適切な方法の選定にあたっては、国外関連取引および非関連者間取引に係る諸要素に加え、各算定方法の長所・短所、取引内容や当事者の機能等に対する方法の適合性、必要な情報の入手可能性、国外関連取引と非関連者間取引との類似性を勘案するものとされています。
出典:国税庁|第2款 独立企業間価格の算定方法の選定
本稿では、移転価格税制における独立企業間価格の考え方と、主要な算定方法であるCUP、再販売価格基準法、原価基準法、TNMM、利益分割法を、実務判断の順番に沿って整理していきます。
独立企業間価格とは何か
独立企業間価格とは、国外関連者との取引が、独立した事業者間で通常の取引条件に従って行われたとした場合に成立する価格をいいます。
たとえば、日本法人が海外子会社に製品を販売する場面を考えてみましょう。グループ内の事情としては、海外子会社の立ち上げを支援したい、現地市場を早く拡大したい、現地法人に一定の利益を残したい、といった判断があり得ます。
しかし移転価格税制上は、その価格が「独立した第三者に同じような条件で販売した場合にも成立するか」という視点で検証していきます。
この検証は、単に「日本法人の利益率が低いか高いか」を見るものではありません。たとえば、海外子会社が単なる販売代行的な機能しか持たないのか、それとも在庫リスクや信用リスクを負いながら現地市場を開拓しているのかによって、適正な利益水準は変わってきます。
同じ製品を扱っていても、どちらが研究開発を行ったか、どちらが品質保証を負うか、どちらが販売リスクを負うか、どちらが商標やノウハウを保有するかによって、独立企業間価格の考え方は変わります。
つまり移転価格税制の実務では、価格そのものを見る前に、取引の実態をていねいに分解しておく必要があるのです。
「算定方法の選択」は結論ではなく判断過程である
移転価格の相談でよくある誤解は、「どの算定方法を使えばよいですか」という問いに、最初から方法名で答えようとすることです。
しかし算定方法は、取引実態を分析した結果として選ぶものです。
現在の移転価格税制では、かつてのように基本三法を機械的に優先する考え方ではなく、個々の事案に応じて「最も適切な方法」を選定する考え方が採られています。
もっとも、基本三法、とりわけCUPには独立企業間価格を直接的に算定できるという長所があり、比較可能性が十分にそろう場合には有力な選択肢となります。国税庁の参考事例集でも、基本三法の比較可能性が十分である場合には基本三法を選定し、CUPの比較可能性が十分である場合にはCUPを選定するという考え方が示されています。
出典:国税庁|移転価格税制の適用に当たっての参考事例集
実務上も、CUPは比較対象となる取引が同一である、あるいは差異が定量化しやすい範囲にとどまる場合には強い方法です。反面、取引内容、機能、契約条件、市場などに差異があると、それが価格へ直接影響するため、適用は難しくなります。
このように整理すると、移転価格算定方法の選択とは、次のような判断過程だといえます。
- 対象取引を正しく切り出す
- 取引当事者の機能・リスク・資産を把握する
- 内部または外部に比較対象取引があるかを確認する
- 比較対象との相違点が価格または利益率に影響するかを検討する
- 必要な差異調整が可能かを確認する
- 複数の方法が候補になる場合には、最も信頼性の高い方法を選ぶ
- その判断過程を、後から説明できる資料として残す
算定方法名だけを決めても、取引実態に合っていなければ、税務調査の場で説明することができません。
比較可能性分析が移転価格判断の中心になる
移転価格の実務で最も重要なのは、比較可能性分析です。
比較可能性分析とは、国外関連取引と比較対象となる非関連者間取引を突き合わせるために、取引の中身を整理していく作業をいいます。
国税庁の参考事例集では、独立企業間価格の算定方法を選定するためには、あらかじめ国外関連取引の内容等を十分に理解し、比較を行うための諸要素を的確に把握する必要があるとされ、国外関連取引に係る資産の種類・役務の内容や、当事者が果たす機能等の事前検討が重要と位置づけられています。
出典:国税庁|移転価格税制の適用に当たっての参考事例集
実務では、次のような要素を順に確認していきます。
まず、取引対象です。製品、商品、部品、原材料、役務、ロイヤリティ、貸付、保証、費用配賦など、何を取引しているのかを明確にします。
次に、機能です。研究開発、製造、仕入、在庫管理、物流、品質保証、販売、マーケティング、債権回収、経営管理など、どちらの法人が何を担っているかを確認します。
さらに、リスクです。在庫リスク、信用リスク、為替リスク、市場リスク、製造リスク、品質保証リスク、研究開発リスクなどを、誰が負っているかを見ていきます。
無形資産の所在も重要です。技術、ノウハウ、商標、ブランド、顧客基盤、販売網、システム、データなどが、どちらの法人の利益に貢献しているかを確認します。
そのうえで、契約条件、取引数量、取引段階、決済条件、保証条件、返品条件、価格改定ルール、市場環境、事業戦略を確認していきます。
こうした分析を行わずに、単に「海外子会社の営業利益率が同業他社並みだから大丈夫」と考えるのは危険です。利益率が似ていても、負っている機能やリスクが違えば、比較対象としての信頼性は下がってしまいます。
取引単位をどう切り出すか
独立企業間価格の算定は、原則として個別の取引ごとに行います。
ただし、複数の取引が一体として価格設定されている場合や、複数の取引を一の取引としてまとめて算定することが合理的な場合には、まとめて検証することがあります。
国税庁の通達でも、同一の製品グループや同一の事業セグメント等を考慮して価格設定が行われており、その単位で算定することが合理的な場合、あるいは生産用部品の販売取引と製造ノウハウの使用許諾取引等が一体として行われている場合には、一の取引として独立企業間価格を算定できるとされています。
出典:国税庁|第4款 独立企業間価格の算定
この取引単位の判断を誤ると、移転価格分析全体が歪んでしまいます。
たとえば、製品販売とロイヤリティを別々に見るべきか、それとも一体として見るべきか。部品販売と技術支援を別々に検証すべきか、製造モデル全体として検証すべきか。販売子会社への製品販売とマーケティング費用負担を分けて見るべきか、販売機能全体として見るべきか。
これらは、形式上の契約書だけで決まるものではありません。実際の価格設定、事業運営、損益管理、社内意思決定の単位に照らして判断していきます。
検証対象はどちらの法人か
再販売価格基準法、原価基準法、TNMMなどでは、国外関連取引の当事者のうち、どちらを検証対象にするかが重要になります。
検証対象とは、簡単にいえば、利益率やマージンを検証する側の法人のことです。
一般には、より単純な機能を果たす法人を検証対象にすることが多くなります。国税庁の参考事例集でも、RP法、CP法、TNMMについては、国外関連取引の当事者のいずれを検証対象にするかを決めたうえで検討し、複雑な機能を果たしていない者を検証対象とすることが望ましいとされています。
出典:国税庁|移転価格税制の適用に当たっての参考事例集
たとえば、日本親会社が研究開発、製造ノウハウ、ブランド、グローバル営業戦略を担い、海外子会社は限定的な販売機能だけを担っている場合には、海外子会社を検証対象として、一定の販売利益率が残っているかを見ることがあります。
反対に、海外子会社が重要な研究開発や現地ブランド形成を担い、日本法人は限定的な販売機能だけを担っている場合には、日本法人側の機能を検証するほうが合理的なケースもあります。
「日本法人を守りたいから日本法人に利益を残す」という発想だけでは、移転価格分析としては不十分です。誰が価値を生み、誰がリスクを負い、誰が単純な機能を果たしているのかを、あらためて整理する必要があります。
CUP|独立価格比準法
CUP、すなわち独立価格比準法は、国外関連取引の価格と、比較可能な非関連者間取引の価格を直接比較する方法です。
たとえば、日本法人が海外子会社に同じ製品を販売しており、同時に、同じような条件で海外の第三者代理店にも販売しているとします。この場合、その第三者向け価格が比較対象になる可能性があります。
CUPの強みは、価格そのものを直接比較できる点にあります。国税庁の参考事例集でも、CUPは国外関連取引に係る価格と比較対象取引に係る価格を直接比較するため、独立企業間価格を算定する最も直接的な方法と位置づけられています。
出典:国税庁|移転価格税制の適用に当たっての参考事例集
ただし、CUPは決して簡単な方法ではありません。
比較対象となる取引について、製品や役務の同種性、取引段階、取引数量、契約条件、引渡条件、決済条件、保証条件、返品条件、市場、取引時期などが、十分に類似している必要があるからです。
たとえば同じ製品であっても、海外子会社向け取引では親会社が広告宣伝活動を行い、第三者向け取引では買手側が広告宣伝活動を行っている場合には、価格に影響する機能の差異があります。このようなときに価格をそのまま比較してしまうと、誤った結論を導きかねません。
CUPが使いやすいのは、次のような場合です。
- 同じ製品、または極めて類似した製品を第三者にも販売している
- 同じ市場、または類似の市場で取引している
- 取引段階や取引数量が大きく異ならない
- 契約条件、決済条件、保証条件に重要な差異がない
- 差異があっても合理的に調整できる
- 内部比較対象取引がある
一方、CUPが難しいのは、次のような場合です。
- 製品や役務が特殊である
- 無形資産やノウハウが価格に大きく影響している
- 第三者取引が存在しない
- 第三者取引はあるが、条件が大きく異なる
- 価格に影響する差異を定量化できない
- 商流や市場が大きく異なる
CUPは最も直接的な方法である反面、適用できる場面は限られます。「第三者にも売っているからCUPでよい」と即断せず、その第三者取引が本当に比較可能かどうかを、ていねいに確認することが大切です。
再販売価格基準法|販売会社の粗利から考える方法
再販売価格基準法、いわゆるRP法は、国外関連者から購入した商品を第三者に再販売する場合などに、再販売価格から通常の売上総利益を控除して独立企業間価格を算定する方法です。
典型例は、日本法人が海外親会社または海外製造子会社から商品を仕入れ、日本国内の第三者顧客に販売するケースです。この場合、日本法人が販売会社としてどの程度の粗利を得るべきかを検証し、そこから仕入価格の妥当性を確認します。
RP法で鍵になるのは、販売会社がどのような機能を果たしているかです。
単なる販売仲介に近いのか、在庫を持って販売しているのか、信用リスクを負っているのか、広告宣伝や市場開拓を担っているのか、保証対応をしているのか。これらによって、必要な売上総利益率は変わってきます。
RP法が使いやすいのは、次のような場合です。
- 検証対象法人が販売会社である
- 購入した商品に大きな加工を加えず、第三者へ再販売している
- 販売機能が比較的明確である
- 比較可能な販売会社の粗利情報を把握できる
- 売上総利益率を比較することが合理的である
一方、RP法が難しいのは、次のような場合です。
- 販売会社が重要な無形資産を形成している
- 広告宣伝や市場開拓の役割が大きい
- 商品の加工、組立、技術対応が加わっている
- 粗利に影響する機能差異が大きい
- 会計処理や売上原価の範囲が比較対象と異なる
- 信頼できる粗利情報が入手できない
RP法は販売取引に適した方法ですが、販売会社の実態を軽く見ると判断を誤ります。販売会社が単純な販売機能しか持たないのか、それとも現地市場の価値形成に貢献しているのかで、結論は大きく変わってきます。
原価基準法|製造・役務提供の原価に通常利益を加える方法
原価基準法、いわゆるCP法は、国外関連取引に係る原価に通常の利潤を加算して独立企業間価格を算定する方法です。
典型例は、受託製造、部品製造、役務提供、研究開発支援、技術支援などです。製造会社や役務提供会社がどの程度の原価を負担し、そこにどの程度のマークアップを乗せるべきかを検証します。
たとえば、海外子会社が日本親会社のために受託製造を行っている場合、海外子会社が負うリスクが限定的であれば、原価に一定のマークアップを加えた報酬を得るモデルが検討されます。
CP法で重要になるのは、原価の範囲です。
直接材料費、直接労務費、製造間接費、販売費及び一般管理費をどこまで含めるのか。研究開発費、品質管理費、管理部門費、出張費、システム費用をどう扱うのか。比較対象取引と原価の範囲が異なれば、マークアップ率だけを比較しても意味をなしません。
国税庁の通達でも、原価基準法により独立企業間価格を算定する場合において、国外関連取引に係る棚卸資産を売手が特殊関係者から通常の取引価格に満たない価格で購入しているために、その購入価格を算定基礎とすることが相当でないと認められるときは、通常の取引価格に引き直して算定するものとされています。
出典:国税庁|第4款 独立企業間価格の算定
CP法が使いやすいのは、次のような場合です。
- 製造または役務提供の原価を把握できる
- 提供者の機能が比較的限定的である
- 受託製造、受託開発、管理支援、技術支援などの取引である
- 原価に対する合理的なマークアップを比較できる
- 原価範囲を比較対象と合わせられる
一方、CP法が難しいのは、次のような場合です。
- 原価計算が不十分である
- 関連者間取引の原価自体が適正でない
- 重要な無形資産や市場リスクを提供者が負っている
- 原価と価値の関係が弱い
- 比較対象の原価構造が分からない
- 複数取引が混在し、原価配賦が曖昧である
とりわけ役務提供取引では、「人件費に何%乗せるか」だけに議論が寄りがちです。しかし実際には、誰が便益を受けているのか、株主活動に近いものではないか、費用配賦基準が合理的か、契約書と実態が一致しているかまで確認しておく必要があります。
TNMM|営業利益率で検証する方法
TNMM、すなわち取引単位営業利益法は、国外関連取引に係る営業利益の水準と、比較対象取引または比較対象企業の営業利益の水準を比較する方法です。
実務では、海外販売子会社や受託製造子会社の利益率検証に使われることの多い方法です。
たとえば、日本親会社が海外販売子会社に製品を販売している場合、海外販売子会社を検証対象として、同種または類似の販売会社の営業利益率と比較し、海外販売子会社に独立企業間として相当な利益が残っているかを確認します。
国税庁の参考事例集では、TNMMは営業利益の水準を比較する方法であり、基本三法よりも間接的である一方で、基本三法よりも差異の影響を受けにくく、公開情報から比較対象取引を見いだせる場合が多い、とされています。
出典:国税庁|移転価格税制の適用に当たっての参考事例集
TNMMでよく使われる利益指標には、次のようなものがあります。
- 売上高営業利益率
- 総費用営業利益率
- 営業費用売上総利益率、いわゆるベリー比
- 営業資産営業利益率
ただし、どの利益指標を使うかは、取引実態によって異なります。
販売会社であれば売上高営業利益率が検討されることがあります。役務提供や受託製造では総費用営業利益率が用いられることがあります。単純な仲介・販売支援機能にとどまり、在庫や重要資産を持たない場合には、ベリー比が検討されることもあります。
TNMMが使いやすいのは、次のような場合です。
- 検証対象法人の機能が比較的単純である
- 公開データベース等から比較対象企業を抽出できる
- 営業利益率で取引実態を説明しやすい
- 基本三法では十分な比較対象取引を見つけにくい
- 販売会社、受託製造会社、役務提供会社などの利益水準を検証する
一方、TNMMが難しいのは、次のような場合です。
- 検証対象法人が重要な無形資産を持っている
- 複数事業が混在し、対象取引だけの損益を切り出せない
- 比較対象企業の機能やリスクが十分に類似していない
- 市場環境や事業戦略の差異が大きい
- 営業損益に一時的要因や特殊要因が含まれている
- 為替、在庫、売掛金、買掛金などの差異調整が必要である
TNMMは実務で利用されやすい方法ですが、使いやすいことと、常に最も適切であることは別問題です。比較対象企業の選定、除外基準、利益指標、検証期間、セグメント情報、特殊要因の調整を説明できなければ、税務調査では弱くなってしまいます。
利益分割法|双方が価値を生んでいる場合の方法
利益分割法は、国外関連取引から生じる利益を、取引当事者の貢献度に応じて配分する方法です。
CUP、RP法、CP法、TNMMは、基本的には一方の当事者を検証対象として、価格や利益率を検証していく発想です。これに対して利益分割法は、取引当事者の双方が重要な機能や無形資産を持ち、単純な一方検証では実態を説明しにくい場合に検討されます。
国税庁の参考事例集では、利益分割法は比較対象取引を見いだせない場合などに有用な方法とされ、比較利益分割法、寄与度利益分割法、残余利益分割法の3類型があると整理されています。
出典:国税庁|移転価格税制の適用に当たっての参考事例集
比較利益分割法
比較利益分割法は、類似する非関連者間取引における利益配分割合を参考にして、国外関連取引の利益を配分する方法です。
ただし実務上、類似する非関連者間の利益配分情報を入手することは、決して容易ではありません。したがって、使える場面は限られます。
寄与度利益分割法
寄与度利益分割法は、国外関連取引から生じた利益を、各当事者の貢献度を示す要因に応じて配分する方法です。
比較対象取引を見つける必要がないため、取引が高度に統合されている場合に検討されることがあります。ただし、何を貢献度の基準にするかが難しくなります。人件費、研究開発費、使用資産、販売費、従業員数、機能別コストなど、どの分割要因が利益創出を適切に表すかを、慎重に見極める必要があります。
残余利益分割法
残余利益分割法は、まず各当事者に通常の機能に対する基本的利益を配分し、そのうえで、無形資産など独自の価値ある貢献によって生じた残余利益を、貢献度に応じて配分する方法です。
国税庁の参考事例集でも、残余利益分割法は、両当事者が独自の機能を果たしている場合、たとえば両当事者が無形資産を使用して独自の機能を果たしている場合など、独自の価値ある寄与が認められるときに、基本的利益と残余利益等に分けて二段階で配分する方法とされています。
出典:国税庁|移転価格税制の適用に当たっての参考事例集
利益分割法が検討されるのは、次のような場面です。
- 日本法人と海外法人の双方が重要な無形資産を持つ
- 研究開発、製造、販売が高度に統合されている
- どちらか一方を単純な検証対象にできない
- 比較対象取引が見つかりにくい
- 取引全体の合算利益を見ないと実態を説明できない
- グローバルな事業再編や機能移転がある
一方で利益分割法は、計算が複雑になりやすく、分割対象利益、基本的利益、残余利益、分割要因の設定に高度な判断を要します。社内資料、管理会計、セグメント損益、研究開発資料、無形資産の貢献資料が不足していると、説得力を持たせにくくなります。
DCF法にも注意が必要
本稿の中心はCUP、RP法、CP法、TNMM、利益分割法ですが、無形資産取引や将来収益を基礎とする取引では、DCF法が論点になることがあります。
DCF法は、将来得られると予測される利益やキャッシュフローを現在価値に割り引いて価格を算定する方法です。国税庁の参考事例集でも、DCF法は比較対象取引を見いだすことが困難で、利益分割法を適用できない場合には有用となり得るとされています。その一方で、予測利益という不確実な要素を用いるため、複数の候補方法があるときはDCF法以外の方法から最も適切な方法を選定すること、また検証可能で合理的な情報を入手できない場合には適用できないことが示されています。
出典:国税庁|移転価格税制の適用に当たっての参考事例集
無形資産の譲渡、ライセンス、研究開発成果の移転、事業再編では、将来予測が税務上の争点になりやすくなります。
売上予測、利益率、成長率、割引率、耐用年数、事業リスク、技術リスク、市場リスクなどを、取引時点でどのように見積もったのか。これを記録しておかなければ、後から説明することが難しくなります。
差異調整を軽く見てはいけない
国外関連取引と比較対象取引が、完全に同じであることは多くありません。
そのため、比較対象との間に差異がある場合には、その差異が価格や利益率に影響するかを検討し、必要に応じて調整を行います。
国税庁の事務運営要領では、差異調整は、その差異が対価の額または通常の利益率等の算定に影響を及ぼすことが客観的に明らかな場合に行うものとされています。具体例としては、FOBとCIFの貿易条件に違いがある場合に運賃・保険料相当額を加減算する方法、決済条件に差異がある場合に決済期間差に係る金利相当額を加減算する方法などが挙げられています。
出典:国税庁|第4章 独立企業間価格の算定等における留意点
実務でよく問題になる差異には、次のようなものがあります。
- 取引数量の差異
- 取引段階の差異
- 市場の差異
- 販売地域の差異
- 決済条件の差異
- 貿易条件の差異
- 保証条件の差異
- 広告宣伝機能の差異
- 在庫リスクの差異
- 為替リスクの差異
- 会計処理方法の差異
- 売掛金、買掛金、在庫水準の差異
- 一時的な赤字や設立初期損失
- 事業再編直後の特殊要因
差異調整ができる場合には、調整後の価格や利益率を用いて検証します。差異が重要であり、かつ合理的に調整できない場合には、その比較対象を使うこと自体を見直す必要があります。
独立企業間価格は「一点」か「レンジ」か
実務では、比較対象企業を複数抽出し、営業利益率のレンジを用いて検証することがあります。
ただし、レンジの中に入っていれば常に安全、というわけではありません。比較対象の選定、除外基準、財務データの信頼性、複数年データの使い方、四分位範囲の設定、特殊要因の処理が適切でなければ、レンジそのものの信頼性が問われます。
また、レンジの考え方は、税務調査での説明可能性にも関わってきます。会社側がどのような比較対象を選び、なぜその比較対象が取引実態に合うと考えたのかを説明できなければ、形式的なベンチマーク分析と見られてしまいます。
移転価格分析では、数値結果だけでなく、比較対象を選ぶ判断過程こそが重要なのです。
算定方法別に見る実務上の使い分け
移転価格算定方法は、取引類型ごとに機械的に決まるものではありません。ただし、実務上の出発点としては、次のように整理することができます。
製品や商品を販売する取引では、同種または類似の第三者取引があればCUPを検討します。CUPが難しい場合には、販売会社側の機能に応じてRP法またはTNMMを検討します。
受託製造や役務提供では、原価とマークアップの関係が明確であればCP法を検討します。比較可能な粗利情報が乏しい場合には、総費用営業利益率などを用いたTNMMが候補になります。
販売子会社や限定的リスク販売会社では、検証対象を販売子会社としてTNMMを用いることがあります。ただし、販売会社が重要な市場開拓やブランド形成を担っている場合には、単純なTNMMでは説明しきれないことがあります。
無形資産やロイヤリティ取引では、比較可能なライセンス取引があればCUPと同等の方法を検討します。ただし、無形資産はその独自性が価値の源泉であるため、比較対象の信頼性には慎重な判断が求められます。無形資産は比較に馴染みにくい性質があり、CUPと同等の方法でロイヤリティを決める場合には、細心の注意が必要です。
両当事者が重要な無形資産や独自機能を持つ場合には、利益分割法を検討します。とりわけ日本法人と海外法人の双方が研究開発やブランド形成に貢献している場合には、一方を単純な検証対象にするだけでは実態を説明できないことがあります。
金融取引、保証、キャッシュ・プーリングなどでは、貸付条件、信用力、担保、保証内容、市場金利、グループ信用補完の有無を踏まえて、別途検討が必要になります。金融取引では、単に利率を比較するだけでなく、借手の信用力や保証の法的効果まで確認します。
価格設定と検証は分けて考える
実務では、「移転価格ポリシー」と「移転価格検証」を分けて考えることが大切です。
移転価格ポリシーとは、今後の取引価格をどのように設定するかというルールです。たとえば、海外販売子会社に一定の営業利益率が残るように期中価格を設定し、期末に必要な調整を行う、といった方法がこれにあたります。
一方、移転価格検証とは、実際に行われた取引が独立企業間価格に照らして妥当だったかを、事後的に確認する作業です。
この2つがずれていると、問題が生じます。
たとえば、社内では「海外子会社に営業利益率3%を残す」方針としているのに、契約書には単価表だけが記載され、期末調整ルールもなく、実際には為替や物流費の変動で海外子会社が大幅赤字になっている、といったケースです。この場合、ポリシー、契約、会計処理、実績がそろって整合していません。
また、税務調査の際にベンチマーク分析を作成しても、期中の価格設定ルールや、取締役会・稟議での判断過程が残っていなければ、後付けの説明と見られるおそれがあります。
価格設定は、申告書作成時だけでなく、契約締結時、価格改定時、年度予算作成時、月次損益確認時に管理しておくべきものです。
税務調査で見られるポイント
移転価格調査では、算定方法の名前よりも、なぜその方法を選んだのかが問われます。
国税庁の移転価格事務運営要領は、租税特別措置法66条の4に関して、移転価格税制の適正かつ円滑な執行を図るための事務運営指針として整備されているものです。
出典:国税庁|移転価格事務運営要領の制定について
税務調査では、次のような点が確認されます。
- 国外関連者との取引内容を網羅的に把握しているか
- 別表17(4)や申告書の記載と取引実態が整合しているか
- 価格設定方針が契約書や実績と一致しているか
- 機能リスク分析が実態を反映しているか
- 比較対象取引または比較対象企業の選定理由を説明できるか
- 選定した算定方法が取引実態に合っているか
- 差異調整の要否と方法が合理的か
- 無形資産や事業再編の影響を見落としていないか
- 期末調整や補償調整の処理が適切か
- 海外側での課税関係や二重課税リスクを認識しているか
移転価格調査では、会社が提出する資料の整合性が非常に重要になります。契約書、稟議書、価格表、予算資料、月次損益、現地法人の財務諸表、メール、会議資料の内容に矛盾があると、価格設定の合理性が疑われやすくなります。
ローカルファイル義務の有無と資料化の必要性
一定規模以上の国外関連取引については、ローカルファイルの同時文書化義務があります。
国税庁のFAQでは、同時文書化義務とは、国外関連者との取引を行う際、または確定申告書の提出時に、利用可能な最新情報に基づいてローカルファイルを作成または取得し、保存しなければならないことと説明されています。また、一の国外関連者との取引について、前事業年度の国外関連取引の対価の額の合計額が50億円以上、または無形資産取引の対価の額の合計額が3億円以上である法人は、その国外関連者との取引について、確定申告書の提出期限までにローカルファイルを作成または取得し、原則として7年間保存することとされています。
出典:国税庁|移転価格税制に係る文書化制度(FAQ)
ただし、同時文書化義務の対象外であっても、資料が不要になるわけではありません。
取引規模が小さくても、国外関連者との取引価格が独立企業間価格と異なることによって日本側の所得が過少になっていれば、移転価格税制の問題は生じ得ます。
中小・中堅企業で特に多いのは、ローカルファイル義務の対象外であることを理由に、価格設定資料をほとんど残していないケースです。しかし税務調査で「なぜこの価格にしたのか」と問われたとき、契約書、価格改定資料、利益率検証、出張報告、役務提供記録、現地損益などがなければ、説明は難しくなります。
移転価格対応では、義務があるから作るのではなく、会社を守るために判断過程を残す、という考え方が大切です。
経営判断として見た移転価格
移転価格は、税務調査対応だけの問題ではありません。
価格設定は、日本本社と海外子会社の利益配分を決めます。そしてその利益配分は、法人税負担だけでなく、現地資金繰り、配当可能額、ロイヤリティ回収、関税、為替、金融機関への説明、M&A時の企業価値、海外子会社管理にまで影響します。
たとえば、海外子会社に利益を残しすぎると、日本側で移転価格課税リスクが生じることがあります。反対に、日本側に利益を寄せすぎると、海外子会社の資金繰りが悪化し、現地税務当局から逆方向の指摘を受けることもあります。
また、海外子会社が慢性的に赤字である場合には、その赤字が市場参入期の一時的なものなのか、価格設定が不適切なのか、それとも現地法人の経営管理に問題があるのかを見極める必要があります。
移転価格は、税負担を最小化するためだけの技術ではありません。グループ全体の利益配分、資金回収、事業運営、リスク管理を整えるための、経営管理の領域なのです。
算定方法を検討する前に整理すべき資料
移転価格算定方法を検討する前に、次の資料を整理しておくと、専門家との相談が格段に進めやすくなります。
まず、取引全体を把握するための資料です。
- 国外関連者一覧
- 資本関係図
- 取引種類別の一覧表
- 国別、法人別、取引別の金額
- 契約書、注文書、請求書、価格表
- 価格改定履歴
- 別表17(4)
- 現地法人の財務諸表
- 現地税務申告書または税務調査履歴
次に、機能リスク分析のための資料です。
- 各法人の事業内容
- 研究開発、製造、販売、物流、品質保証、管理機能の分担
- 在庫リスク、信用リスク、為替リスク、市場リスクの負担者
- 人員配置、役員構成、意思決定権限
- 出張報告書、業務報告書、会議資料
- 現地法人の組織図
- 無形資産の保有・使用・開発に関する資料
さらに、価格検証に関する資料です。
- 取引別損益
- 製品別、事業別、地域別の損益
- 原価計算資料
- 販売費及び一般管理費の内訳
- 第三者取引の価格情報
- 比較対象候補の抽出資料
- 利益率検証資料
- 為替、物流費、関税、保証条件などの差異調整資料
- 期末調整または補償調整の資料
これらの資料がすべて揃っていない場合でも、まずは「何があるか」「何がないか」を可視化しておくことが重要です。資料が不足したまま算定方法だけを決めてしまうと、後から説明できない分析になってしまいます。
独立企業間価格の検討手順
実務上は、次の順番で検討していくと整理しやすくなります。
1. 対象取引を特定する
国外関連者との取引を、棚卸資産、役務提供、無形資産、金融取引、費用配賦、出向、保証などに分けて整理します。
この段階では、請求書がある取引だけでなく、無償または低額の役務提供、無形資産の使用、保証、経営支援も忘れずに確認します。
2. 取引単位を決める
個別取引ごとに見るのか、製品グループや事業セグメント単位で見るのか、それとも複数取引を一体として見るのかを検討します。
ここで契約上の形式と実態がずれている場合には、実態を踏まえて整理します。
3. 機能・リスク・資産を整理する
誰が何をしているか、誰がどのリスクを負っているか、誰が無形資産を持ち、誰がそれを使用しているかを確認します。
この分析が不十分だと、算定方法の選択も比較対象の選定も不安定になってしまいます。
4. 検証対象を選ぶ
RP法、CP法、TNMMを検討する場合には、どちらの法人を検証対象にするかを決めます。
通常は、より単純な機能を果たし、複雑な無形資産やリスクを持たない法人を検証対象とすることが多くなります。
5. 内部比較対象を探す
自社または国外関連者が、第三者と同様の取引を行っていないかを確認します。
内部比較対象は、公開データよりも取引内容を把握しやすい場合があるため、CUPをはじめ他の方法の検討においても重要です。
6. 外部比較対象を検討する
内部比較対象がない場合には、公開情報やデータベースを用いて、同種または類似の取引・企業を探します。
このとき、業種コードだけでなく、機能、リスク、市場、規模、関連者間取引比率、特殊要因まで確認します。
7. 算定方法を選定する
CUP、RP法、CP法、TNMM、利益分割法などの候補について、方法の適合性、情報入手可能性、比較可能性、差異調整の信頼性を比較します。
方法を選んだ理由だけでなく、選ばなかった方法の理由も記録しておくと、後から説明しやすくなります。
8. 価格または利益率を検証する
選定した方法に基づいて、実績価格や利益率が独立企業間価格と整合するかを確認します。
レンジを用いる場合には、比較対象の選定過程、除外基準、四分位範囲、特殊要因調整を整理しておきます。
9. 契約・会計・申告と整合させる
移転価格分析の結果が、契約書、請求書、会計処理、別表、ローカルファイル、現地法人の税務処理と整合しているかを確認します。
分析だけが立派でも、実際の契約や会計処理とずれていれば、実務上の説得力は弱くなってしまいます。
判断を誤った場合のリスク
移転価格算定方法の判断を誤ると、次のようなリスクが生じます。
- 日本法人の所得加算
- 延滞税・加算税の発生
- 海外側で対応的調整が認められないことによる二重課税
- ローカルファイルや調査資料の提出対応の遅れ
- 海外子会社の利益水準に関する現地税務当局からの指摘
- 価格改定や期末調整ができない契約上の問題
- 海外子会社の資金繰り悪化
- M&Aや事業承継時の税務DDでの指摘
- 金融機関や株主に対する利益配分の説明困難
- 将来のAPAや相互協議への影響
移転価格税制は、税務調査で一度指摘されると、過年度、将来年度、海外側課税、二重課税対応にまで波及していきます。
だからこそ移転価格算定方法は、申告時に形式的に選ぶものではなく、取引開始時、価格改定時、海外子会社の損益変動時に見直すべき論点なのです。
まとめ:移転価格算定方法は、取引実態を説明するための道具である
独立企業間価格の算定方法は、税務上の計算テクニックではありません。
CUP、再販売価格基準法、原価基準法、TNMM、利益分割法は、それぞれ異なる角度から「独立した第三者ならどのような価格・利益配分になったか」を説明するための道具です。
重要なのは、どの方法が有利かではありません。
自社の国外関連取引について、どの法人が何を行い、どのリスクを負い、どの無形資産を使い、どの市場で、どの条件で取引しているのか。その実態に照らして、最も説明力のある方法を選ぶことです。
そして、その判断を、契約書、価格表、損益資料、機能リスク分析、比較対象選定資料、社内承認記録として残していくことです。
移転価格は、税務調査対応のためだけに行うものではありません。海外子会社との利益配分、資金回収、グループ経営、M&A、事業承継、そして将来の税務リスク管理に直結する、経営判断そのものなのです。
犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について
海外子会社や国外関連者との取引価格について、「どの算定方法を使うべきか」「現地法人の利益率が低すぎないか」「ロイヤリティや役務提供対価をどう設定すべきか」「税務調査で説明できる資料が足りているか」とお感じの場合、まず必要になるのは、取引実態と資料の棚卸しです。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、国外関連者との取引内容、機能リスク、価格設定方針、申告書・別表、文書化資料、税務調査リスクを一体として整理し、専門家との対話に耐えられる判断材料づくりをご支援しています。
移転価格の算定方法は、取引実態を正しく切り出して初めて選定できるものです。海外取引の価格設定や文書化にご不安がある場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。
振り返り:本稿の重要ポイント
| 論点 | 実務で確認すべきこと |
|---|---|
| 独立企業間価格 | 独立した第三者間であれば成立した価格・条件といえるか |
| 算定方法の選定 | 方法名から入らず、取引実態、機能、リスク、情報入手可能性、比較可能性から選ぶ |
| 比較可能性分析 | 資産・役務、機能、リスク、無形資産、契約条件、市場、事業戦略を比較する |
| 取引単位 | 個別取引で見るか、製品グループ・事業セグメント・一体取引として見るかを検討する |
| 検証対象 | RP法、CP法、TNMMでは、より単純な機能を果たす法人を検証対象にすることが多い |
| CUP | 価格を直接比較できるが、同種性・契約条件・市場等の比較可能性が厳しく問われる |
| 再販売価格基準法 | 販売会社の再販売価格から通常の粗利を控除して仕入価格等を検証する |
| 原価基準法 | 製造・役務提供の原価に通常利益を加えて対価を検証する |
| TNMM | 営業利益率で検証する実務上利用頻度の高い方法だが、比較対象選定が重要 |
| 利益分割法 | 双方が無形資産や重要機能を持つ場合など、一方検証では説明しにくい取引で検討する |
| 差異調整 | 取引数量、契約条件、決済条件、市場、機能差異などが価格・利益率に影響するか確認する |
| 文書化 | ローカルファイル義務の有無にかかわらず、価格設定の根拠資料を残す |
| 経営判断への影響 | 税負担だけでなく、資金繰り、利益配分、M&A、承継、税務調査対応に影響する |