国外関連者と対象取引の判定|移転価格税制の入口で確認すべき相手方・取引・資料

移転価格税制を検討するとき、最初に手をつけるべきなのは、独立企業間価格の算定方法を選ぶことではありません。

その前に確認しておきたいことが、2つあります。

1つは、取引の相手方が「国外関連者」に該当するかどうか。もう1つは、その相手方との取引が「国外関連取引」に当たるかどうかです。

この入口の判定を誤ると、本来は移転価格税制の対象であるにもかかわらず、価格設定、契約、別表、文書化、税務調査への備えといった準備が、そっくり抜け落ちてしまいます。逆に、移転価格ではなく、国内の寄附金課税、グループ法人税制、源泉所得税、外国税額控除、外国子会社合算税制などで検討すべき論点を、移転価格の問題と取り違えてしまうこともあります。

国外関連者について、国税庁は「外国法人で、法人との間に、持株関係、実質的支配関係又はそれらが連鎖する関係の『特殊の関係』のあるもの」と説明しています。国外関連取引については、法人がその国外関連者との間で行う棚卸資産等の資産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引とされています。出典:国税庁|用語の解説

つまり、移転価格税制の入口では、「海外子会社があるかどうか」を見るだけでは足りないということです。

資本関係、実質的な支配関係、取引の流れ、契約、役務提供、無形資産、金融取引、さらには第三者を介した取引まで含めて、自社の海外関係取引を一度きちんと棚卸ししておく必要があります。

目次

国外関連者とは何か

国外関連者とは、ひとことでいえば、日本法人と特殊な関係にある外国法人です。

ここで押さえておきたいのは、対象となる相手方が「外国法人」だという点です。国内の親会社、国内子会社、国内の兄弟会社との取引は、たとえ関係会社間の取引であっても、それだけでは移転価格税制の国外関連取引にはなりません。国内関係会社との取引については、寄附金、受贈益、役員給与、グループ法人税制、同族会社の行為計算否認、税務上の時価など、別の法人税務の論点として整理することになります。

一方で、海外子会社、海外親会社、海外の兄弟会社、海外合弁会社、海外の実質支配先などは、国外関連者に該当する可能性があります。

国外関連者の判定は、大きく分けると、次の3つの関係から確認していきます。

  • 持株関係
  • 実質的支配関係
  • 持株関係と実質的支配関係が連鎖する関係

このうち、持株関係は比較的判定しやすいのですが、実質的支配関係や連鎖関係は、株主名簿を見ただけでは判断できないことがあります。そのため、資本関係図だけに頼らず、役員構成、契約、取引依存、ライセンス関係、資金関係、そして事業運営における意思決定の実態まで確認しておくことが大切です。

持株関係による判定

持株関係による国外関連者の判定では、いわゆる親子関係と兄弟関係を確認します。

国税庁の説明によれば、持株関係とは、二の法人のいずれか一方が他方の発行済株式等の50%以上を直接又は間接に保有する関係、あるいは二の法人が同一の者によってそれぞれ発行済株式等の50%以上を直接又は間接に保有される関係をいいます。出典:国税庁|用語の解説

実務上は、次のような関係がないかを確認していきます。

  • 日本法人が海外法人の株式等を50%以上保有している
  • 海外法人が日本法人の株式等を50%以上保有している
  • 同一の親会社が日本法人と海外法人をそれぞれ50%以上保有している
  • 同一の個人又は法人が、日本法人と海外法人をそれぞれ50%以上保有している
  • 間接保有を通じて50%以上の関係がある
  • 複数の階層を通じて持株関係が連鎖している

ここで注意したいのは、「直接保有」だけでなく「間接保有」まで見る必要がある、という点です。

たとえば、日本法人が海外持株会社を通じて海外事業会社を保有しているケースを考えてみます。このとき、直接の株主ではないから国外関連者ではない、とは限りません。持株関係は、間接保有までたどって確認する必要があります。

また、国税庁の通達では、特殊の関係の有無を判定する際、名義株は実際の権利者が所有するものとして判定する点に留意するとされています。出典:国税庁|第66条の4《国外関連者との取引に係る課税の特例》関係

したがって、登記簿や株主名簿上の名義だけで判断するのではなく、実際の出資者、議決権、株主間契約、信託、名義保有の有無までさかのぼって確認しておくべきです。

実質的支配関係による判定

国外関連者の判定で実務上やっかいなのは、持株比率が50%未満であっても、実質的支配関係によって国外関連者に該当する場合がある、という点です。

国税庁は、実質的支配関係について、他方の法人の役員の2分の1以上又は代表権を有する社員が一方の法人の役員若しくは使用人を兼務している等の事実により、二の法人のいずれか一方が他方の事業方針の全部又は一部を実質的に決定できる関係と説明しています。出典:国税庁|用語の解説

さらに通達では、実質的支配関係に関する「その他これに類する事実」の例として、一方の法人が他方の法人から提供される著作権、工業所有権、ノウハウ等に依存して事業活動を行っていること、あるいは一方の法人の役員の2分の1以上又は代表権を有する役員が他方の法人によって実質的に決定されていると認められる事実が挙げられています。出典:国税庁|第66条の4《国外関連者との取引に係る課税の特例》関係

実務では、次のような事実がある場合に注意が必要です。

  • 海外法人の役員や代表者を日本法人側が実質的に決めている
  • 海外法人の重要な事業方針を日本法人側が承認している
  • 海外法人が日本法人の技術、商標、ノウハウ、システムに大きく依存している
  • 海外法人の主要な販売先又は仕入先が日本法人グループに偏っている
  • 資金調達、保証、経営管理、人事、価格決定を日本法人側が実質的に支配している
  • 契約上は独立していても、実際には日本法人の指示に従って事業を運営している

実質的支配関係の判定では、「株式を何%持っているか」だけを見るのではなく、「誰が事業上の重要な意思決定をしているか」に目を向けます。

ですから、海外合弁会社、海外販売代理店、海外製造委託先、海外ライセンス先などについても、出資比率だけで対象外と結論づけず、事業運営の実態を確認しておく必要があります。

連鎖関係による判定

国外関連者の判定では、持株関係や実質的支配関係が直接存在する場合だけでなく、それらが連鎖する関係も見ていきます。

たとえば、日本法人と海外法人の間に、複数の中間会社が入っていることがあります。中間に持株会社、地域統括会社、投資会社、個人株主、ファンド、合弁会社などが介在していても、持株関係や実質的支配関係が連鎖していれば、国外関連者に該当する可能性があります。

この判定で誤りが生じやすいのは、次のような場面です。

  • 海外子会社の下に、さらに海外孫会社がある
  • 日本法人と海外法人の間に海外持株会社がある
  • 海外の兄弟会社との取引がある
  • 同族株主、オーナー、親族、資産管理会社を通じて海外法人とつながっている
  • 資本関係は薄くても、契約や人事を通じて実質的に支配している会社が連鎖している

国外関連者の判定は、単体の取引先リストを眺めるだけでは不十分です。グループ全体の資本関係図と支配関係図を作成したうえで確認していくと、見落としを防ぎやすくなります。

特に中小・中堅企業では、海外子会社を設立したあと、現地の事情に合わせて持株関係や役員構成を変更していることがあります。その変更が申告実務に反映されず、過年度のまま「国外関連者なし」と扱われている場合には、注意が必要です。

対象取引は「売上・仕入」だけではない

国外関連者に該当する相手方が確認できたら、次は、その相手方との取引を洗い出していきます。

国外関連取引には、棚卸資産等の資産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引が含まれます。出典:国税庁|用語の解説

ここでいう取引は、商品売買にとどまりません。実務では、次のような取引が対象になり得ます。

  • 製品、商品、原材料、部品、半製品などの販売・購入
  • 固定資産、設備、金型、ソフトウェア、データ等の譲渡・貸付
  • 製造委託、加工委託、研究開発委託、販売支援
  • 経営支援、管理支援、技術支援、品質管理支援、営業支援
  • 商標、特許、ノウハウ、著作権、ソフトウェア等の使用許諾
  • ロイヤリティ、ライセンス料、ブランド使用料
  • 貸付金、借入金、保証、キャッシュ・プーリング
  • 費用配賦、共通費負担、グループ内サービスフィー
  • 海外出向者を通じた役務提供や人件費負担
  • 商流変更、機能移転、事業再編、無形資産移転

なかでも見落とされやすいのが、請求書が発行されていない取引です。

たとえば、海外子会社の立ち上げを日本本社が支援している、親会社の技術者が海外子会社の不具合対応をしている、海外子会社が日本本社の商標やノウハウを使っている、親会社が海外子会社の借入を保証している。こうしたケースが、これに当たります。

会計上は売上や費用が計上されていなくても、独立した第三者間であれば対価を授受するような役務提供、無形資産の使用、金融取引であれば、移転価格税制上の検討が必要になります。

棚卸資産取引の判定

棚卸資産取引は、移転価格税制で最も典型的な対象取引です。

日本法人が海外子会社へ製品を販売する場合、海外子会社から部品や商品を仕入れる場合、海外関連会社を経由して販売する場合などが、これに該当します。

このとき大切なのは、販売価格や仕入価格を見るだけで終わらせず、取引条件そのものを確認することです。

  • 誰が研究開発を行っているか
  • 誰が製造機能を担っているか
  • 誰が在庫リスクを負っているか
  • 誰が販売リスクを負っているか
  • 誰が保証責任や品質責任を負っているか
  • 誰が市場開拓を行っているか
  • 価格改定のルールはあるか
  • 為替変動や原材料価格の変動を誰が負担するか
  • 返品、値引き、リベート、補償調整はどう扱うか

同じ商品を販売していても、海外子会社が単なる販売代行機能しか持たない場合と、独自に在庫を抱え、顧客を開拓し、信用リスクを負っている場合とでは、適正な利益の水準は変わってきます。

国税庁の移転価格事務運営要領でも、調査に当たっては、形式的な検討に陥ることなく、個々の取引実態に即して検討すること、また法人及び国外関連者が果たす機能や負担するリスク等を勘案し、法人の利益が国外関連者の利益に比べて相対的に過少となっていないかに配意することが示されています。出典:国税庁|移転価格事務運営要領 第3章 調査

棚卸資産取引では、取引価格だけでなく、機能・リスク・資産の組み合わせを確認することが、入口判定の段階から重要になります。

役務提供取引の判定

中小・中堅企業で見落とされやすいのが、海外子会社に対する役務提供です。

たとえば、次のようなものが考えられます。

  • 経営管理支援
  • 会計・税務・人事・法務・総務支援
  • 営業支援、販売促進支援
  • 技術指導、品質管理支援
  • 製造立ち上げ支援
  • ITシステム導入支援
  • 研究開発支援
  • 海外子会社の従業員教育
  • 日本本社の役員や従業員による出張対応
  • 海外出向者を通じた支援

これらについて、実務でよく耳にするのが、「グループ会社を支援しているだけだから対価は不要」という考え方です。

しかし、独立した第三者であれば有償で提供するような役務であれば、国外関連者との間で適切な対価を設定しているかどうかを検討する必要があります。単に費用を日本本社で負担しているだけの場合、国内税務では寄附金、国際税務では移転価格の問題として整理を求められることがあります。

一方で、株主としての地位に基づく活動、いわゆる株主活動に近いものや、海外子会社に具体的な便益が生じていない活動については、必ずしも常に対価を請求すべきとは限りません。

そこで、役務提供取引では、次の順番で確認していくとよいでしょう。

  • 実際にどのような役務を提供したか
  • 海外子会社に具体的な便益があるか
  • 第三者であれば対価を支払う内容か
  • 役務提供者の人件費、外注費、出張費等を把握できるか
  • 契約書、業務報告書、メール、稟議、出張報告で内容を説明できるか
  • 費用配賦やマークアップの考え方があるか

「役務提供をしたかどうか」は、請求書の有無ではなく、実態で判断します。

無形資産取引の判定

無形資産取引は、金額が見えにくい一方で、移転価格税制上は重要性の高い論点です。

対象になり得る無形資産には、次のようなものがあります。

  • 特許権
  • 商標権
  • 意匠権
  • 著作権
  • 製造ノウハウ
  • 技術情報
  • 営業秘密
  • ブランド
  • ソフトウェア
  • 顧客情報
  • 販売網
  • 研究開発成果
  • データ、アルゴリズム、業務プロセス

通達でも、実質的支配関係の例として、一方の法人が他方の法人から提供される著作権、工業所有権、ノウハウ等に依存して事業活動を行っていることが挙げられています。出典:国税庁|第66条の4《国外関連者との取引に係る課税の特例》関係

無形資産取引で押さえておきたいのは、「法的な所有者」と「経済的な価値創造に貢献した者」が必ずしも一致しない、という点です。

たとえば、日本本社が研究開発を行い、商標や技術を管理し、品質保証やブランド構築を担っているにもかかわらず、海外子会社がその技術やブランドを無償で使用している場合には、ロイヤリティや利益配分の検討が必要になることがあります。

反対に、海外子会社が現地市場で独自に顧客基盤や販売網を築いている場合には、その活動によって生じた価値をどの法人に帰属させるかが問題になります。

無形資産取引では、契約書の有無だけでなく、次の点を確認しておくことが重要です。

  • 誰が無形資産を開発したか
  • 誰が開発費用を負担したか
  • 誰が法的権利を保有しているか
  • 誰が維持・管理・保護を行っているか
  • 誰が無形資産を使用して収益を得ているか
  • 使用許諾契約やロイヤリティ契約があるか
  • 無償使用又は低額使用になっていないか
  • 過去からの商流変更や機能移転があるか

無形資産取引は、あとから価格を説明することが難しいものです。だからこそ、取引を開始する時点で契約と実態を整えておく必要があります。

金融取引の判定

国外関連者との貸付、借入、保証、資金管理も、移転価格税制の対象になり得ます。

具体的には、次のような取引です。

  • 日本法人から海外子会社への貸付
  • 海外親会社又は海外兄弟会社からの借入
  • 海外子会社の銀行借入に対する保証
  • グループ内の資金集中管理
  • キャッシュ・プーリング
  • 債務保証料
  • ファクタリング、再保険、リース等に類似する金融取引

金融取引では、「グループ内だから無利息でよい」「海外子会社の支援だから保証料はいらない」と考えてしまいがちです。しかし、独立した第三者間であれば利息や保証料が発生する取引であれば、移転価格税制上の検討が必要です。

国税庁の参考事例集でも、国外関連者の信用力、グループに属していることによる付随的便益、債務保証の対価など、金融取引に関する検討の視点が示されています。出典:国税庁|移転価格税制の適用に当たっての参考事例集

金融取引では、次の点を確認します。

  • 貸付額、通貨、期間、返済条件
  • 利率の設定根拠
  • 借手の信用力
  • 担保の有無
  • 保証の有無
  • 保証料を収受しているか
  • 返済可能性を検討しているか
  • 資金使途
  • 現地金融機関から借りた場合の条件
  • 為替リスクや金利変動リスクを誰が負担するか

金銭貸借や保証は契約書が残りやすい取引ですが、その一方で、保証料や信用補完の対価が検討されていないことがあります。海外子会社の資金繰りを支援する場合には、法人税、源泉所得税、外国税額控除、寄附金、移転価格を、それぞれ分けて整理する必要があります。

第三者を介した取引にも注意する

移転価格税制の入口判定で見落とされやすいのが、第三者を介した取引です。

形式上は日本法人と非関連者との取引であっても、その取引の対象となる資産や役務などが国外関連者へ移転・提供されることがあらかじめ定まっており、かつ、その対価が日本法人と国外関連者との間で実質的に決まっているような場合には、国外関連取引とみなされることがあります。これは、非関連者を通じた輸出入や役務提供などを利用し、第三者を介在させることで移転価格税制の適用を回避しようとする取引に対応する趣旨だと整理できます。

実務では、次のようなケースに注意が必要です。

  • 商社を介して海外子会社へ販売している
  • 代理店を介して海外関連会社へ製品が流れている
  • 非関連者を経由して海外関連会社から仕入れている
  • 第三者を契約当事者に入れているが、実質的な価格はグループ内で決まっている
  • 物流上・商流上は第三者を経由しているが、取引条件を国外関連者が決めている

国税庁の移転価格事務運営要領でも、国外関連取引に係る対価の額が厳しい価格交渉によって決定されたこと、国外関連取引の当事者以外の者が交渉当事者になっていること、契約当事者に法人及び国外関連者以外の者が含まれていることだけでは、非関連者間取引と同様の条件で行われた根拠にはならないとされています。出典:国税庁|移転価格事務運営要領 第3章 調査

したがって、「第三者を通しているから移転価格税制の対象外」と即断するのは危険です。

対象判定では、契約当事者だけでなく、最終的な資産・役務の移転先、価格の決定者、商流を設計した目的まで確認する必要があります。

支店・PEが関係する取引は別途注意する

国外関連者の判定では、支店や恒久的施設、いわゆるPEが関係する場合にも注意が必要です。

外国法人の日本支店、日本法人の海外支店、海外関連会社の日本PE、海外PEを通じた取引などでは、通常の「日本法人と海外子会社の取引」とは異なる検討が求められます。

たとえば、外国法人の日本支店が、特殊な関係にある他の外国法人と取引を行う場合には、国外関連取引に該当し得ます。一方で、相手方の外国法人の在日支店との取引が、その外国法人の日本における課税対象所得に係る取引である場合には、国外関連取引から外れることがあります。ただし、租税条約による軽減・免除やPE帰属所得の取扱いが絡む場合には、個別に確認が必要です。

また、国税庁の国際税務資料でも、日本の法人税制では、内国法人と外国法人を区分し、外国法人については国内源泉所得やPE帰属所得を中心に課税関係を整理する考え方が示されています。出典:国税庁|国際税務関係情報

支店・PEが関係する場合には、移転価格税制だけでなく、外国法人課税、PE帰属所得、内部取引、租税条約、源泉所得税を含めて検討する必要があります。

別表17(4)と対象判定の関係

国外関連者との取引がある場合、法人税の申告書上でも確認すべき事項があります。

法人税申告では、「国外関連者に関する明細書」である別表17(4)が重要な位置を占めます。国税庁は、令和7年4月から令和8年3月の間に提供した法人税等各種別表の一覧のなかで、別表17(4)「国外関連者に関する明細書」を掲載しています。出典:国税庁|令和7年4月から令和8年3月の間に提供した法人税等各種別表

また、移転価格事務運営要領では、国外関連取引を行う法人が確定申告書に別表17(4)を添付していない場合、又は記載内容が十分でない場合には、当該別表の提出や補正を求めるとともに、国外関連取引の内容を的確に把握することが示されています。出典:国税庁|移転価格事務運営要領 第3章 調査

別表17(4)は、単なる添付書類ではありません。

国外関連者の名称、所在地、資本関係、取引内容、取引金額、損益情報などを整理することで、税務当局が国外関連取引の概要を把握する入口となる書類です。ですから、対象判定が不十分なまま別表を作成すると、記載漏れ、金額の誤り、取引区分の誤りにつながってしまいます。

実務上は、別表を作成する前に、次の整理をしておく必要があります。

  • 国外関連者の一覧
  • 国・所在地・事業内容
  • 資本関係・実質支配関係
  • 取引種類ごとの金額
  • 棚卸資産、役務、無形資産、金融取引の区分
  • 国外関連者の損益情報
  • 価格設定方法
  • ローカルファイルや社内資料との整合性

対象判定と別表17(4)は、切り離して考えることができません。申告書を作成する段階になって初めて国外関連取引を探すのではなく、月次・決算の段階から海外取引を管理しておくことが求められます。

文書化義務の対象外でも、資料が不要なわけではない

移転価格税制では、一定規模以上の国外関連取引について、ローカルファイルの同時文書化義務があります。

国税庁のFAQでは、この同時文書化義務について、一の国外関連者との国外関連取引について、前事業年度の国外関連取引の対価の額の合計額が50億円未満、かつ、無形資産取引の対価の額の合計額が3億円未満である場合には、その一の国外関連者との国外関連取引について同時文書化義務が免除されると説明されています。出典:国税庁|移転価格税制に係る文書化制度(FAQ)

ここで注意しておきたいのは、同時文書化義務の対象外であっても、移転価格税制の対象外になるわけではない、ということです。

国外関連者との取引がある以上、価格設定の合理性や取引実態の説明は求められます。ローカルファイルの同時文書化義務が免除されるかどうかと、国外関連取引として検討すべきかどうかは、まったく別の問題です。

国税庁の移転価格事務運営要領でも、調査においては、法人及び国外関連者ごとの資本関係、事業内容、取引関係、主要品目、取引金額、販売市場、事業別業績、国外関連取引の内容を記載した書類、独立企業間価格を算定するための書類などから、国外関連取引の実態を把握することが示されています。出典:国税庁|移転価格事務運営要領 第3章 調査

国外関連取引の内容を記載する書類としては、資産・役務の内容、法人及び国外関連者が果たす機能、負担するリスク、使用した無形資産、契約書、対価の設定方法、交渉内容、損益明細、市場分析などを整理しておくという視点も欠かせません。

取引の規模が小さいからといって、資料を残さなくてよいわけではありません。むしろ中小・中堅企業では、当時の判断資料が残っていないことが、税務調査時の説明を難しくしてしまいます。

対象判定で実務上確認すべき資料

国外関連者と対象取引を判定するためには、次のような資料を整理しておきます。

まず、相手方の判定に関する資料です。

  • グループ組織図
  • 資本関係図
  • 株主名簿
  • 出資比率の推移
  • 議決権割合
  • 名義株、信託、株主間契約の有無
  • 役員構成
  • 代表者、取締役、主要管理者の選任経緯
  • 親会社、オーナー、親族、資産管理会社を含む支配関係
  • 海外法人の定款、登記資料、会社概要

次に、対象取引の判定に関する資料です。

  • 海外取引先一覧
  • 国外関連者との取引一覧
  • 売上・仕入・役務提供・ロイヤリティ・利息・保証料等の勘定科目別明細
  • 契約書、注文書、請求書、納品書、検収書
  • 出張報告書、業務報告書、メール、会議資料
  • 技術支援、経営支援、管理支援の実施記録
  • 商標、特許、ノウハウ、ソフトウェア等の使用状況
  • 貸付契約、保証契約、返済予定表、金利設定資料
  • 費用配賦の計算資料
  • 取引別・法人別の損益
  • 価格改定資料
  • 第三者を介した商流・物流の説明資料

最後に、申告・調査対応に関する資料です。

  • 別表17(4)
  • ローカルファイル又は簡易な移転価格説明資料
  • 価格設定方針書
  • 役員会・稟議・承認記録
  • 過年度からの取引条件の変更履歴
  • 海外税務当局からの照会・調査履歴
  • 相互協議・APAの有無
  • 現地法人の財務諸表
  • 現地の税務申告書又は税務調査結果

これらを一度に完璧にそろえる必要はありません。ただ、少なくとも「どの相手方と、どの取引があり、なぜその価格になっているのか」を説明できる状態にはしておきたいところです。

対象判定の実務手順

国外関連者と対象取引の判定は、次の順番で進めると整理しやすくなります。

1. 海外法人をすべて洗い出す

まず、海外子会社だけでなく、海外親会社、海外の兄弟会社、海外持株会社、海外合弁会社、海外販売会社、海外製造会社、海外ライセンス先など、海外法人を広く洗い出します。

この段階では、取引の有無にかかわらず、関係し得る海外法人を一覧化しておきます。

2. 資本関係を確認する

次に、直接保有・間接保有を含めて、50%以上の持株関係があるかどうかを確認します。

親子関係だけでなく、同一株主による兄弟関係も見ていきます。名義株や株主間契約がある場合には、実際の権利者や議決権の実態まで確認します。

3. 実質的支配関係を確認する

持株比率が50%未満でも、役員、人事、技術、ノウハウ、資金、取引依存、契約上の支配を通じて、事業方針を実質的に決定できる関係がないかを確認します。

ここでは、役員構成、重要契約、ライセンス契約、販売代理店契約、資金契約などが確認の対象になります。

4. 国外関連取引を取引種類ごとに分類する

国外関連者に該当する相手方との取引を、次の区分で分類していきます。

  • 棚卸資産取引
  • 固定資産・設備取引
  • 役務提供取引
  • 無形資産取引
  • 金融取引
  • 費用配賦・共通費負担
  • 出向・人件費負担
  • 事業再編・機能移転
  • 第三者介在取引

この分類が、後続する独立企業間価格の算定方法や文書化の前提になります。

5. 無償・低額・未請求の取引を確認する

請求書がある取引だけを見ていては不十分です。

役務提供、無形資産の使用、保証、経営支援、費用負担などは、取引が存在していても、会計上の収益や費用に表れていないことがあります。未請求の取引ほど、税務調査時の説明が難しくなります。

6. 第三者介在取引を確認する

商社、代理店、物流会社、販売会社、個人、別法人を介した取引について、最終的な移転先や価格の決定者を確認します。

形式上の契約相手が非関連者であっても、実質的には国外関連者との取引とみなされる可能性があります。

7. 別表・文書化・申告調整の要否を確認する

対象取引が把握できたら、別表17(4)の記載、ローカルファイル又は説明資料、必要な申告調整、価格改定、契約整備の要否を確認します。

対象判定は、単なるチェック作業ではありません。会社の海外取引を、税務上きちんと説明できる状態にするための、最初の整理なのです。

判定を誤った場合のリスク

国外関連者や対象取引の判定を誤ると、次のようなリスクが生じます。

  • 別表17(4)の記載漏れ
  • 国外関連取引の取引金額の集計漏れ
  • ローカルファイル作成要否の判断誤り
  • 無償役務提供や無形資産使用の見落とし
  • 海外子会社への利益移転の説明不足
  • 税務調査で資料提出を求められた際の対応の遅れ
  • 過年度に遡る所得加算
  • 延滞税・加算税の発生
  • 相手国で対応的調整が認められないことによる二重課税
  • 海外子会社管理、資金回収、M&A、事業承継への影響

移転価格税制は、税務調査で指摘されて初めて問題になるものではありません。

海外子会社との価格設定、契約、役務提供、資金支援を行った時点で、すでに将来の説明責任が生じています。

まとめ:入口判定の精度が、移転価格対応の質を決める

国外関連者と対象取引の判定は、移転価格税制の入口です。

ここで大切なのは、「海外子会社だから対象」「持株比率が低いから対象外」「請求書がないから取引なし」といった単純な判断を避けることです。

確認すべきは、次の3点に集約されます。

第一に、取引相手が外国法人であり、自社との間に持株関係、実質的支配関係、又はそれらの連鎖関係があるかどうか。

第二に、その相手方との間で、棚卸資産、役務提供、無形資産、金融取引、費用配賦、出向、事業再編などの取引があるかどうか。

第三に、契約書、請求書、損益資料、機能・リスク分析、価格設定の根拠を通じて、あとから説明できる状態になっているかどうか。

国外関連者と対象取引を正しく把握できていなければ、独立企業間価格の算定方法を検討する前提そのものが崩れてしまいます。

移転価格税制は、専門的な経済分析に入る前に、まず自社の海外取引を正確に見える化するところから始まります。

犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について

海外子会社や海外関連会社との取引がある場合、移転価格税制の対象になるかどうかは、出資比率や取引金額だけで判断できるものではありません。

資本関係、実質支配、契約、役務提供、無形資産、金融取引、第三者介在取引、別表17(4)、文書化の要否まで含めて整理していく必要があります。

自社の海外取引について、どの相手方が国外関連者に該当し得るのか、どの取引を国外関連取引として管理すべきか、申告前にどの資料を整えておくべきか。こうした点を整理したい場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所のお問い合わせページよりご相談ください。

移転価格の算定方法に進む前に、対象範囲を正しく切り出しておくこと。これが、税務調査にも経営判断にも耐えられる国際税務管理の第一歩です。

振り返り:本稿の重要ポイント

論点確認すべきポイント
国外関連者外国法人であり、自社との間に持株関係、実質的支配関係又は連鎖関係があるか
持株関係直接・間接に50%以上保有する親子関係、又は同一者による50%以上保有の兄弟関係を確認する
実質的支配関係役員、人事、技術、ノウハウ、資金、契約、取引依存により事業方針を実質的に決めていないか
名義株・間接保有名義だけでなく、実際の権利者、議決権、株主間契約、連鎖関係を確認する
対象取引棚卸資産、役務提供、無形資産、金融取引、費用配賦、出向、事業再編などを広く確認する
無償・未請求取引請求書がなくても、第三者なら対価を払う役務・無形資産・保証等は検討対象になり得る
第三者介在取引契約相手が非関連者でも、最終移転先や価格決定が国外関連者と結び付く場合は注意する
支店・PE日本支店、海外支店、PE帰属所得、租税条約が絡む場合は別途慎重に整理する
別表17(4)国外関連者との取引がある場合、申告書添付・記載内容・取引金額の整合性を確認する
文書化同時文書化義務の対象外でも、取引実態と価格設定を説明できる資料は必要
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