資金繰りが苦しくなり、毎月の借入返済が重く感じられるようになると、「リスケをすれば何とかなるのではないか」という思いがよぎります。
たしかに、リスケは資金繰りを守るための重要な選択肢です。返済元金を一時的に減額または猶予できれば、手元資金の流出を抑え、事業を立て直すための時間を確保できる場合があります。
ただし、リスケは「借入を返さなくてよくなる手続」ではありません。
正式には、リスケとは返済条件の変更を指します。多くの場合、元金返済を一時的に軽減し、利息の支払いは継続しながら、会社が収益改善や資金繰り改善に取り組むための時間を確保するものです。そして、金融機関との関係、今後の新規融資、保証協会付き融資、経営者保証、さらには事業再生の可能性にまで影響が及びます。
ですから、リスケを検討する前にまず必要なのは、「返済を止められるか」ではなく、「返済を見直している間に、会社をどう改善するのか」を明確にすることなのです。
リスケは資金繰り改善策ではなく「時間を買う手段」である
リスケを行うと、毎月の元金返済額が減り、短期的には資金繰りが楽になります。
たとえば、毎月一定額の元金返済をしていた借入について、一定期間、元金返済をゼロに近づける条件変更を行えば、その分だけ現預金の流出は抑えられます。実務でも、リスケ後は元金返済を止め、利息のみを支払う形に変更される例があります。
しかし、これで資金繰りの「原因」が解消したわけではありません。
本業が赤字であれば、元金返済を止めても資金は減り続けます。売掛金の回収が遅れていれば、資金は回収前の債権に滞留したままです。在庫が過大であれば、現金は棚卸資産に変わったまま戻ってきません。設備投資が過大であれば、投資回収が進むまで返済能力は改善しません。固定費が重すぎれば、売上が戻らない限り資金流出は続きます。
リスケは、こうした問題を解決するための「猶予期間」をつくる手段にすぎません。
その猶予期間中に改善が進まなければ、リスケ後も資金繰りは改善せず、次の資金不足、再リスケ、追加金融支援、事業再生、そして廃業判断へと、問題はかえって深刻化していく可能性があります。
実際、売上計画を楽観的に組み、リスケ後も資金繰りが回らなくなるケースでは、計画上は黒字化するはずだったものの、実績が未達となり、銀行返済を止めても資金が不足する状態に陥ります。リスケは、計画の現実性と一体で考えなければならないものなのです。
リスケを検討すべき局面
リスケは、早すぎても遅すぎても問題が生じます。
早すぎるリスケは、まだ内部改善や借換、資金調達で対応できる段階であるにもかかわらず、金融機関取引に制約をかけてしまう可能性があります。一方、遅すぎるリスケは、税金・社会保険料の滞納、仕入先への支払遅延、給与遅配、手形・電子記録債務の決済不安などが先に発生し、金融機関との協議の余地を狭めてしまいます。
リスケを検討すべき典型的な局面として、次のような状態が挙げられます。
- 営業キャッシュフローで元金返済を賄えない
- 借入返済後の手元資金が継続的に減っている
- 借換や追加融資だけでは資金繰り改善にならない
- 税金、社会保険料、仕入先支払に影響が出始めている
- 既存借入の返済負担が、現在の収益力に対して明らかに重い
- 資金繰り表上、数か月以内に資金ショートが見込まれる
- 改善策を実行する時間を確保すれば再建可能性がある
ここで大切なのは、資金が尽きる直前まで待たないことです。
金融機関は、会社がどれだけ苦しいかだけを見ているわけではありません。今後改善できるかどうかを見ています。手元資金が尽き、税金・社会保険料の滞納や仕入先への支払遅延が広がってしまった後では、金融機関に示せる選択肢はどうしても減ってしまうのです。
リスケ前に確認すべき第1の論点:本当に返済が原因なのか
リスケを検討する前に、まず確認しておきたいのが、資金繰り悪化の原因です。
毎月の返済額が重く感じられても、資金不足の主因が返済とは限りません。
本業の赤字が原因なのか。売掛金の回収遅延が原因なのか。在庫増加が原因なのか。設備投資の回収遅れが原因なのか。税金や社会保険料の見込み不足が原因なのか。役員貸付金や仮払金など、資金流出が原因なのか。それとも、過去の借入返済が現在の収益力に対して過大なのか。
この切り分けをしないままリスケをすると、「返済を止めたのに資金が残らない」という状態に陥ります。
リスケが有効に働くのは、元金返済負担を軽減することで、改善策を実行する時間と資金を確保できる場合です。本業の赤字が大きく、返済を止めても資金流出が止まらない場合には、リスケだけでなく、固定費削減、事業構造の見直し、不採算取引の整理、資産売却、さらには抜本的な再生判断が必要になります。
資金不足は、収益不足、運転資本増加、設備投資過大、借入返済、資産固定化などに分けて考える必要があります。原因ごとの整理を行わないまま、追加借入やリスケだけで対応しようとすると、問題の先送りになりやすいのです。
リスケ前に確認すべき第2の論点:資金繰り表で不足時期と必要猶予額を把握する
リスケを検討するなら、資金繰り表は欠かせません。
「返済が苦しい」という感覚だけでは、金融機関は判断できないからです。求められるのは、いつ、いくら不足し、どの返済をどの程度見直せば、資金繰りがどのように改善するのか、という具体像です。
資金繰り表では、少なくとも次の項目を確認します。
- 月初現預金
- 売上入金
- その他入金
- 仕入、外注費、人件費、経費支払
- 税金、社会保険料
- 設備投資支出
- 借入元金返済
- 支払利息
- 月末現預金
- リスケ前後の資金残高
リスケの検討では、「元金返済を止めれば資金繰りが改善する」というだけでは不十分です。
元金返済を止めても、月末現預金が増えないのか。最低限必要な手元資金を確保できるのか。仕入先、給与、税金、社会保険料を支払えるのか。改善施策に必要な資金を残せるのか。金融機関への利息支払いは継続できるのか。
ここまで見て、はじめて判断材料がそろいます。
資金繰り表は、単なる提出資料ではありません。リスケの必要性、猶予期間、返済再開時期、改善策の実行可能性を判断するための中心資料です。売上回収、原価支払、経常収支、財務収支を分けて整理することで、資金管理能力そのものを高めることができます。
リスケ前に確認すべき第3の論点:既存借入の全体像を一覧化する
リスケを検討するときは、金融機関ごとの借入一覧表を作成します。
借入一覧表では、次の項目を整理します。
- 金融機関名
- 借入日
- 当初借入額
- 現在残高
- 毎月返済額
- 最終返済期限
- 金利
- 資金使途
- 担保
- 保証
- 信用保証協会の有無
- プロパー融資か保証協会付き融資か
- 返済方法
- 返済条件変更の履歴
これを作成しないままリスケ交渉に入ると、どの金融機関にどれだけ返済しているのか、返済負担の偏りはどこにあるのか、保証協会付き融資とプロパー融資をどう扱うべきか、といった点が整理できません。
特に複数の金融機関から借入をしている場合、一部の金融機関だけ返済を続け、他の金融機関だけに返済猶予を求めると、金融機関間の公平性の問題が生じます。
リスケでは、すべての金融機関に足並みを揃えてもらう必要があります。条件変更契約の締結にあたっても、各行の返済額見直し時期や条件を、できるだけ統一しておくことが実務上重要になります。
リスケ前に確認すべき第4の論点:税金・社会保険料・仕入先支払をどう扱うか
リスケを検討する段階では、借入返済だけでなく、税金、社会保険料、仕入先支払、給与支払も同時に確認しておく必要があります。
金融機関への返済を見直しても、税金や社会保険料の滞納が増えれば、資金繰りの安定にはつながりません。仕入先や外注先への支払遅延が広がれば、事業継続そのものに影響します。給与遅配が起これば、社内の信用と人材維持に直結します。
確認すべき項目は、次のとおりです。
- 法人税、消費税、地方税の未納有無
- 源泉所得税の未納有無
- 社会保険料の未納有無
- 仕入先、外注先への支払遅延
- 手形、電子記録債務の決済予定
- 給与、賞与、退職金の支払予定
- リスケ後にこれらを支払えるか
税金や社会保険料の納付猶予等については、制度・時期・個別事情によって取扱いが変わります。実際に対応する場合は、税理士、社会保険労務士、所轄機関等に確認しながら進めてください。
ただし、財務判断としての軸は明確です。
金融機関返済を優先した結果、税金・社会保険料・商取引債務が滞る状態は避けるべきです。リスケは、金融機関への返済だけを見直す手続ではありません。事業継続に必要な支払全体を守るための、資金繰り設計なのです。
リスケ前に確認すべき第5の論点:金融機関に何を説明するか
リスケの申請では、金融機関に対して、単に「返済が苦しい」と伝えるだけでは足りません。
金融機関が知りたいのは、主に次の点です。
- なぜ資金繰りが悪化したのか
- 一時的な資金不足なのか、構造的な収益不足なのか
- 現在の手元資金はいくらか
- 今後の資金繰りはどう推移するか
- 元金返済をどの程度猶予すれば資金繰りが維持できるか
- その間に何を改善するのか
- いつ、どの程度返済を再開できるのか
- 経営者自身がどのように責任を持って改善に取り組むのか
銀行融資の審査・管理では、債務者評価、融資案件事情、資金使途・融資形態・返済原資、保全、他行状況、資金調達余力などが確認されます。リスケ局面でも、金融機関は「この会社は改善可能か」「返済猶予に経済合理性があるか」を見ています。
金融機関への説明資料としては、少なくとも次のものを準備します。
- 直近決算書
- 直近試算表
- 月次推移表
- 資金繰り実績表
- 資金繰り予定表
- 借入一覧表
- 売掛金・買掛金・在庫明細
- 税金・社会保険料の納付状況
- 改善施策の一覧
- 損益計画
- 返済計画
リスケはお願いではなく、説明責任を伴う金融機関調整である、と考えておくとよいでしょう。
リスケ前に確認すべき第6の論点:改善余地があるか
リスケを行う意味があるかどうかは、改善余地の有無によって大きく変わります。
改善余地とは、「元金返済を猶予している間に、何を変えられるか」ということです。
次のような改善余地があるかを確認します。
- 粗利率を改善できるか
- 不採算取引を見直せるか
- 固定費を下げられるか
- 役員報酬、人件費、外注費、賃料などの負担を見直せるか
- 売掛金回収を早められるか
- 在庫を圧縮できるか
- 遊休資産や不要資産を資金化できるか
- 設備投資計画を延期・縮小できるか
- 赤字部門や不採算事業を整理できるか
- 価格改定、取引条件変更、営業戦略の見直しが可能か
改善余地が不明確なままリスケをしても、数か月後には同じ問題に戻ってきます。
リスケ前に作るべき計画は、金融機関に見せるための数字合わせではありません。資金繰りを維持しながら、実際に会社を改善するための行動計画です。
経営計画では、計画と実績の差異を毎月検証し、実績が計画を下回っている場合は対策を検討することが大切です。外部環境や内部環境が変化した場合には、経営計画そのものの修正も必要になります。
リスケ前に確認すべき第7の論点:リスケ後の新規融資への影響
リスケを行うと、新規融資は受けにくくなります。
これは、リスケをした会社が必ず支援を受けられなくなる、という意味ではありません。ただし、通常の融資とは異なり、返済条件変更中の会社に新たな資金を出すには、金融機関側にも相応の説明根拠が必要になります。
特に注意したいのは、リスケ後に追加運転資金が必要になるケースです。
リスケ前の資金繰り表で、元金返済を止めても資金不足が解消しない場合、リスケ後に追加融資が必要になる可能性があります。しかし、返済猶予を受けながら新規融資を求めるとなると、資金使途、返済原資、改善計画、金融機関間の調整が、より厳しく見られることになります。
そのため、リスケ前には次の点を確認しておきます。
- リスケ後に追加資金が必要か
- 追加資金が必要な場合、その資金使途は何か
- 追加資金が本当に改善につながるのか
- 新規融資ではなく、資産売却、在庫圧縮、回収促進で対応できないか
- 保証協会付き融資、政府系金融機関、資本性資金などの選択肢を検討すべきか
- 金融機関に対して一貫した説明ができるか
リスケは、新規融資の前提そのものを変えます。だからこそ、リスケ後の資金繰りまで見通したうえで判断する必要があるのです。
リスケ前に確認すべき第8の論点:経営者保証・担保への影響
リスケは、会社だけでなく経営者個人にも影響が及ぶ可能性があります。
中小企業では、経営者が会社借入の連帯保証人になっていることが少なくありません。事業再生や返済条件変更の局面では、会社の返済可能性だけでなく、担保、保証、経営者保証、そして会社と経営者個人の資金関係についても整理が必要になります。
特に確認しておきたい事項は、次のとおりです。
- 経営者保証が付いている借入はどれか
- 不動産担保、根抵当権、預金担保などはあるか
- 保証協会付き融資の保証人は誰か
- 役員借入金、役員貸付金はあるか
- 会社資金と個人資金が混在していないか
- 経営者個人の資産・負債状況を金融機関から確認される可能性があるか
- 事業承継や廃業判断に影響する保証がないか
中小企業では所有と経営が一致し、社長が株主であり連帯保証人にもなっていることが多いものです。そのため、会社の資金繰り悪化は、経営者個人の生活や資産にも影響します。
リスケを検討する段階では、会社と個人の資金関係を曖昧にしたままにせず、金融機関に説明できる形で整理しておくことが大切です。
リスケ前に確認すべき第9の論点:全金融機関の足並みをどう揃えるか
複数の金融機関から借入がある場合、リスケは一行だけの問題では済みません。
ある金融機関には返済を続け、別の金融機関には返済猶予を求めると、金融機関間の公平性が問題になります。特にメインバンク、サブバンク、信用金庫、政府系金融機関、保証協会付き融資が混在している場合には、どの金融機関にどのように説明するかを、慎重に設計する必要があります。
リスケでは、一般に次のような整理が必要になります。
- メインバンクへの事前相談
- 全金融機関の借入一覧の整理
- 各金融機関への返済条件変更案
- 返済猶予期間の統一
- 見直し時期の統一
- 保証協会付き融資の扱い
- 政府系金融機関との調整
- 金融機関ごとの残高、担保、保証の違いの整理
リスケが認められた場合には、銀行と返済額を変更する条件変更契約を締結します。条件変更契約は、半年や1年といった短い期間で繰り返されるのが一般的です。見直し時期を決算後の一定時期に揃えるなど、会社側の実務負担を抑える工夫も重要になります。
リスケ前に確認すべき第10の論点:経営改善計画が必要か
リスケを検討する場合、経営改善計画の作成が必要になることが多くあります。
経営改善計画は、単なる数字の計画ではありません。金融機関に対して、現状認識、原因分析、改善施策、損益計画、資金繰り計画、返済計画を説明するための資料です。
計画に含めるべき主な内容は、次のとおりです。
- 会社概要
- 事業内容
- 資金繰り悪化の原因
- 財務状況の分析
- 実態貸借対照表
- 損益計画
- 資金繰り計画
- 借入返済計画
- 具体的な改善施策
- 実行スケジュール
- モニタリング方法
中小企業庁は、2026年3月26日に、早期経営改善計画策定支援および経営改善計画策定支援に関する手引き・FAQ等の改定を公表しました。相談の早期化、支援メニューの適切な選択、出口の明確化、伴走支援の強化などを、制度改定の背景として示しています。
出典:中小企業庁|早期経営改善計画策定支援(Vアップ事業)及び経営改善計画策定支援(405事業)の手引き・FAQ等を改定等します
また、経営改善計画策定支援事業では、財務上の問題を抱える中小企業が、金融機関から条件変更・リスケジュール等の金融支援を受けようとすると、経営改善計画の策定・提出を求められるのが通常である、とされています。
制度の要件、補助上限、申請様式、対象となる金融支援の範囲は、改定されることがあります。実際に活用する場合は、最新の中小企業庁・中小企業活性化協議会等の公式情報を確認してください。
早期経営改善計画と405事業の違いを理解する
リスケを検討する前の段階では、経営改善計画策定支援制度の位置づけも整理しておくとよいでしょう。
大きく分けると、早期経営改善計画策定支援と、経営改善計画策定支援、いわゆる405事業があります。
早期経営改善計画は、まだ本格的な金融支援を必要としない段階で、資金繰り管理、採算管理、ビジネスモデルの整理、アクションプランの策定などを行うものです。
一方、405事業の経営改善計画は、リスケや新規融資など金融支援を伴う局面で、より本格的な計画として位置づけられます。計画内容としては、ビジネスモデル俯瞰図、資金実績・計画表、計画損益計算書、計画財務三表、アクションプランなどが整理され、金融機関への提出や同意取得、モニタリングが重要になります。
リスケを検討する段階では、自社が「早期改善の段階」なのか、それとも「金融支援を伴う本格改善の段階」なのかを見極めることが大切です。
リスケ前に避けるべきこと
リスケ局面では、焦りから誤った対応をしてしまうことがあります。
特に避けたいのは、次の対応です。
1. 一部の金融機関だけに相談する
メインバンクだけに相談し、他行への説明が遅れると、金融機関間の調整が難しくなります。
もちろん、最初の相談はメインバンクから始めることが多いものです。ただし、最終的には全金融機関に対して、整合した説明が必要になります。
2. 資金繰り表を作らずに相談する
資金繰り表がないまま相談すると、どの程度の返済猶予が必要かを説明できません。
金融機関にとっても、支援の妥当性を判断しにくくなってしまいます。
3. 税金・社会保険料の滞納を隠す
税金や社会保険料の滞納は、資金繰り上の重要な論点です。隠しても、後で発覚すれば、かえって信頼を損ねます。
4. 実現性の低い売上計画を作る
金融機関を安心させようとして、無理な増収計画を作ることは避けるべきです。
計画上は返済できるように見えても、実績が未達になれば、リスケ後にさらに深刻な資金不足に陥ります。過去数年分の損益を横に並べ、会社の平年度収益を把握したうえで、債務償還能力を検討することが大切です。
5. 改善策を抽象論で終わらせる
「売上を増やす」「経費を削減する」「営業を強化する」だけでは、改善策として不十分です。
どの取引を見直すのか。どの費用をいつ削減するのか。どの資産を資金化するのか。どの部門の採算を改善するのか。誰が、いつまでに、何を実行するのか。
ここまで落とし込む必要があります。
リスケ後に起こり得る影響
リスケは、資金繰りを守る一方で、会社に一定の制約をもたらします。
主な影響は、次のとおりです。
- 新規融資を受けにくくなる
- 金融機関への定期報告が必要になる
- 経営改善計画の実行状況を確認される
- 毎年または一定期間ごとに返済条件の見直しが必要になる
- 金融機関間の調整が継続する
- 保証協会や担保・保証の論点が残る
- 改善が進まない場合、追加支援や抜本再生の検討が必要になる
リスケ後は、「返済を止めてもらえたから終わり」ではありません。
むしろ、そこからが金融機関との継続的な対話の始まりです。月次試算表、資金繰り表、予実管理表、改善施策の実行状況を定期的に報告し、計画との差異があれば、その原因と対策を説明していくことになります。経営計画を作成している場合には、月次の目標利益計画や行動計画の実績、前月試算表の内容、外部環境の変化による計画修正などを、金融機関に報告することが重要です。
リスケと事業再生の関係
リスケは、事業再生の入口になることがあります。
資金繰りが厳しい会社が、金融機関への返済を一時的に猶予してもらい、その間に収益改善や事業改善を進める。この意味で、リスケは私的整理・事業再生の一部として機能することがあります。
ただし、リスケだけでは過剰債務を解消できない場合もあります。
収益改善だけでは借入を返済しきれない。債務超過が重く、新規投資や事業承継に支障がある。返済猶予を続けても出口が見えない。事業の一部撤退、資産売却、スポンサー支援、債務減免などが必要になる。
このような場合には、単なるリスケではなく、抜本的な事業再生の検討が必要になります。
金融庁は、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」について、2026年3月16日に一部改定を公表しました。足元における事業再生等の支援ニーズの高まりを踏まえ、早期事業再生や、平時からの中小企業者・金融機関間のコミュニケーションの重要性等を示しています。
出典:金融庁|「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」について
出典:金融庁|「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」及びQ&Aの一部改定について
リスケは、返済条件変更だけで終わる話ではありません。会社の改善可能性、金融機関との合意形成、経営者保証、そして必要に応じた再生手続までを見据えて、判断する必要があります。
リスケを検討する前の実務チェックリスト
リスケを検討する前に、少なくとも次の資料と論点を整理しておきましょう。
- 直近3期分の決算書
- 直近の月次試算表
- 月次損益推移表
- 資金繰り実績表
- 6か月から12か月程度の資金繰り予定表
- 借入一覧表
- 金融機関別返済予定表
- 売掛金明細
- 買掛金・未払金明細
- 在庫明細
- 税金・社会保険料の納付状況
- 役員借入金・役員貸付金・仮払金の内容
- 資金繰り悪化の原因分析
- 改善施策
- 損益計画
- 返済再開の考え方
- 金融機関への説明方針
月次決算は、経営者が会社の現状を把握し、月次予算との比較によって原因を明確にし、銀行との交渉に必要な直近資料を整えるための基礎になります。融資申込時には、過去決算書と直近月次決算書の提出を求められることもあり、月次決算の精度は金融機関対応に影響します。
リスケ局面では、月次決算と資金繰り表の精度が、そのまま説明力になります。
リスケを相談する順番
実務上、リスケを検討する場合の流れは、おおむね次のようになります。
- 資金繰り表を作成し、不足時期と不足額を確認する
- 資金不足の原因を分類する
- 既存借入一覧を整理する
- 税金・社会保険料・仕入先支払の状況を確認する
- 改善余地と改善施策を整理する
- リスケ前後の資金繰りを比較する
- メインバンクに事前相談する
- 必要に応じて専門家と経営改善計画を作成する
- 全金融機関への説明方針を整理する
- 条件変更契約後、月次でモニタリングする
ここで重要なのは、資金が尽きてから相談するのではなく、資金繰り表上で危険が見えた段階で動くことです。
金融機関に対しては、早めに、正確に、そして継続的に情報を出すほど、選択肢が残ります。
まとめ:リスケは「返済を止める判断」ではなく「改善に使う時間を設計する判断」
リスケは、資金繰りが苦しい会社にとって、有効な選択肢になり得ます。
しかし、リスケは返済義務を消すものではありません。返済条件を見直し、その間に収益改善、資金繰り改善、財務改善を進めるための時間を確保する手段です。
リスケを検討する前には、少なくとも次のことを整理しておく必要があります。
- 資金不足の原因
- 資金繰り表上の不足時期と不足額
- 既存借入の全体像
- 税金、社会保険料、仕入先支払の状況
- 改善余地
- 金融機関への説明内容
- リスケ後の新規融資への影響
- 経営者保証、担保、保証協会付き融資の論点
- 経営改善計画の必要性
- モニタリング体制
安易なリスケは、問題の先送りになります。
一方で、原因分析、資金繰り表、経営改善計画、金融機関説明を整えたうえで行うリスケは、会社を立て直すための重要な時間を生み出します。
リスケを検討する局面では、「返済をどう止めるか」ではなく、「返済を見直している間に、会社をどう改善するか」を中心に考えていただきたいと思います。
リスケを検討する前に、資金繰りと改善可能性を整理したい方へ
返済が重くなっているときほど、経営者だけで判断するのは難しくなります。
どの借入をどう見直すべきか。リスケをする前に、借換や内部改善で対応できるのか。税金・社会保険料・仕入先支払を、どう守るべきか。金融機関にどの順番で、何を説明すべきか。経営改善計画を作るべき段階なのか。
これらは、会計・税務・資金繰り・金融機関実務をつなげて判断する必要があります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、月次決算、資金繰り表、借入一覧表、経営改善計画をもとに、リスケを検討する前の財務状況の整理、金融機関説明の準備、改善可能性の検討を支援しています。
「返済が苦しいが、リスケすべきか判断できない」「金融機関に相談する前に、自社の状況を整理したい」とお感じの方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。
振り返り:リスケ前に整理すべき主な論点
| 整理すべき論点 | 確認する内容 | 見るべき資料 | 判断のポイント |
|---|---|---|---|
| 資金不足の原因 | 赤字、回収遅延、在庫増加、設備投資、返済負担 | 月次試算表、B/S、資金繰り表 | リスケで改善する原因か、別の打ち手が必要か |
| 資金繰り見通し | いつ、いくら不足するか | 資金繰り実績表・予定表 | 元金返済猶予で手元資金を維持できるか |
| 既存借入 | 金融機関別残高、返済額、保証、担保 | 借入一覧表、返済予定表 | 全金融機関に整合した説明ができるか |
| 税金・社会保険料 | 未納、納付予定、猶予の要否 | 納付書、未払明細、資金繰り表 | 金融機関返済より優先して守るべき支払がないか |
| 仕入先・外注先支払 | 支払遅延、手形・電子記録債務 | 買掛金明細、支払予定表 | 事業継続に必要な商取引信用を守れるか |
| 改善余地 | 粗利改善、固定費削減、在庫圧縮、資産売却 | 損益資料、在庫表、固定資産明細 | 猶予期間中に実行できる具体策があるか |
| 金融機関説明 | 原因、改善策、返済再開見込み | 経営改善計画、資金繰り表 | 「苦しい」ではなく「改善可能性」を説明できるか |
| リスケ後の影響 | 新規融資、条件変更契約、定期報告 | 借入一覧、返済条件変更案 | リスケ後の制約を理解しているか |
| 経営者保証・担保 | 個人保証、担保、保証協会付き融資 | 契約書、保証書、担保資料 | 会社と経営者個人のリスクを把握しているか |
| 経営改善計画 | 損益計画、資金繰り計画、行動計画 | 計画書、月次実績、改善施策一覧 | 数字合わせではなく実行可能な計画になっているか |