資金繰りが悪化し、返済条件の変更――いわゆるリスケ――を検討する段階になると、金融機関から「経営改善計画を作成してください」と求められることがあります。
このとき、経営改善計画を「銀行に提出するための資料」「返済猶予を受けるための形式的な書類」と捉えてしまうと、本質を見誤ってしまいます。
経営改善計画は、単に将来の売上や利益を並べる資料ではありません。金融機関に対して、次のことを筋道立てて説明するための資料です。
- なぜ資金繰りが悪化したのか
- 現在の財務状態はどこまで悪化しているのか
- どの事業、取引、費用、資産に問題があるのか
- どの改善策を、誰が、いつまでに実行するのか
- 改善によって、利益と資金繰りがどう変わるのか
- どの程度の返済猶予が必要なのか
- いつ、どの程度、返済を再開できるのか
- 計画と実績をどのように管理し、金融機関へ報告するのか
つまり経営改善計画とは、「返済を待ってもらうための資料」ではなく、「返済を見直している間に会社をどう立て直すか」を説明する資料なのです。
資金繰りが厳しい局面では、どうしても追加融資やリスケそのものに目が向きがちです。しかし金融機関が本当に確認したいのは、その会社が改善可能なのか、返済原資を再び生み出せるのか、そして経営者が実行管理できるのか、という点に尽きます。
経営改善計画は「数字合わせ」ではなく「合意形成の土台」である
経営改善計画の失敗例として多いのが、金融機関が納得しそうな数字から逆算して計画を組み立ててしまうことです。
たとえば、借入金を何年で返せるように見せるために、売上高や利益を右肩上がりに置いてしまう。返済可能額を大きく見せるために、固定費削減の効果を過大に見積もる。本来必要な設備更新や人員補充を計画から外し、見かけ上のキャッシュフローを膨らませる。あるいは、実態に合わない在庫圧縮や売掛金回収改善を織り込んでしまう。
こうした計画は、提出した時点では整って見えるかもしれません。しかし、いざ実行段階に入って未達となれば、資金繰りは再び詰まります。
実際、リスケ後の計画が現実と乖離し、売上未達によって資金繰りが回らなくなるケースでは、売上計画が銀行向けの見栄えを意識して作られ、過去の減少トレンドや事業戦略の陳腐化が十分に反映されていないことが少なくありません。
経営改善計画は、金融機関に都合のよい数字を見せるためのものではありません。現実の厳しさを前提に、改善可能な範囲を見極め、金融機関と共通認識を持つための資料です。
金融機関に説明すべきは、「これだけ返せます」という結論だけではありません。「なぜその返済計画が実行可能といえるのか」という根拠こそが問われています。
金融機関が見ているのは「改善可能性」と「返済原資」
通常の融資審査において、金融機関は債務者評価、融資案件事情、資金使途、融資形態、返済原資、保全、他行状況、資金調達余力などを確認します。経営改善計画の局面でも、この見方が大きく変わるわけではありません。
むしろ通常時よりも、「返済原資の現実性」と「改善策の実行可能性」がいっそう厳しく見られると考えてよいでしょう。
金融機関は、おおむね次のような視点で経営改善計画を読み込んでいきます。
- 本業で利益を出せる会社に戻れるのか
- 営業キャッシュフローを再びプラスにできるのか
- 借入返済を再開できる水準まで資金繰りが改善するのか
- 資金繰り悪化の原因を経営者が正確に把握しているのか
- 改善策が抽象論ではなく、実行可能な行動に落ちているのか
- 経営者、社内、専門家、金融機関の間で情報共有できる体制があるのか
- 計画未達時に早期に修正できる管理体制があるのか
したがって、経営改善計画で説明すべき中心は、制度や形式ではありません。「会社がどのように資金を生み、どのように返済を再開するのか」――この一点にあります。
まず説明すべきは「現状分析」である
経営改善計画の出発点は、将来計画ではありません。まず説明すべきは、現在の状態です。
金融機関に対しては、次のような現状を具体的に示していきます。
- 直近の売上、粗利、営業利益、経常利益
- 過去3期から5期程度の業績推移
- 直近月次の損益推移
- 現預金残高
- 売掛金、在庫、買掛金、未払金の状況
- 借入金残高と毎月返済額
- 税金、社会保険料の未納の有無
- 役員借入金、役員貸付金、仮払金などの有無
- 設備投資や固定資産の状況
- 担保、保証、保証協会付き融資の状況
ここで大切なのは、単に数字を並べることではありません。金融機関が知りたいのは、「その数字の変化が何を意味しているのか」です。
売上が減っているなら、価格競争なのか、主要取引先の減少なのか、商品力の低下なのか、それとも営業体制の問題なのか。粗利率が下がっているなら、仕入価格の上昇なのか、値引き販売なのか、不採算案件の増加なのか。
在庫が増えているなら、販売見込み違いなのか、滞留在庫なのか、受注前の先行仕入なのか。売掛金が増えているなら、売上増加に伴うものなのか、回収遅延なのか、不良債権化の兆候なのか。固定資産が重いなら、その設備投資が収益に結びついているのか、それとも遊休資産化しているのか。
現状分析の目的は、悪い数字を隠すことではありません。悪化の原因を特定し、改善策へとつなげていくことにあります。
資金繰り悪化の原因を「一時的要因」と「構造的要因」に分ける
金融機関は、資金繰りの悪化が一時的なものなのか、それとも構造的なものなのかを重視します。
一時的な要因であれば、短期間の資金繰り支援や返済条件の一時見直しで対応できる可能性があります。大口売掛金の入金遅れ、季節要因、一時的な設備修繕、突発的な材料高などがこれにあたります。
一方、構造的な要因であれば、返済猶予だけでは足りません。収益構造、固定費、商品構成、価格設定、事業領域、資産構成そのものを見直す必要が出てきます。
構造的な要因としては、たとえば次のようなものが挙げられます。
- 主力商品の競争力低下
- 不採算取引の継続
- 粗利率の恒常的な低下
- 固定費の過大化
- 過剰在庫
- 回収サイトと支払サイトのミスマッチ
- 過大な設備投資
- 赤字部門の放置
- 借入過多による返済負担
- 経営者個人と会社資金の混在
経営改善計画では、「資金繰りが苦しい」という結果ではなく、「なぜ苦しくなったのか」という原因を説明する必要があります。原因が曖昧なままでは、金融機関は改善可能性を判断できません。
改善施策は「売上を増やす」「経費を減らす」では足りない
経営改善計画で最も差が出るのは、改善施策の具体性です。
「売上拡大に取り組む」「営業を強化する」「経費削減を徹底する」「在庫管理を改善する」――こうした言葉は、方向性としては間違っていません。しかし、このままでは金融機関への説明として不十分です。
金融機関に説明する改善施策は、少なくとも次の水準まで落とし込む必要があります。
- どの商品、サービス、案件を伸ばすのか
- どの取引先、顧客層、地域に注力するのか
- 価格改定をどの取引から実施するのか
- どの不採算取引を見直すのか
- どの費用を、いつから、いくら削減するのか
- 誰が実行責任者になるのか
- 実行結果をどの指標で確認するのか
- 未達の場合、どのタイミングで見直すのか
たとえば、「新規顧客を開拓する」ではなく、「A業種向けに月20件の訪問、月5件の見積、四半期で2件の受注を目標とする」といった水準です。売上目標を実現するには、商品別・得意先別の計画と行動を具体化し、実績との差異を見ながら改善を重ねていくことが欠かせません。
経営改善計画は、社長の決意表明ではありません。実行可能な業務改善計画でなければ、金融機関にとっても、社内にとっても意味を持たないのです。
損益計画では「利益が出る理由」を説明する
損益計画では、売上高、売上原価、粗利、販管費、営業利益、経常利益を示します。しかし、金融機関が知りたいのは、単なる数値そのものではありません。「なぜその利益になるのか」という理由です。
損益計画では、次の前提を説明していきます。
- 売上計画の根拠
- 既存取引と新規取引の内訳
- 商品別、部門別、取引先別の見通し
- 粗利率改善の根拠
- 原価上昇を価格転嫁できるか
- 人件費、外注費、賃料、広告費など固定費の見直し
- 役員報酬の見直しの有無
- 不採算部門の整理
- 一時的な費用と継続的な費用の区分
とりわけ、売上計画は慎重に作る必要があります。
過去数年の売上が減少している会社が、計画上だけ急に増収へ転じる場合、金融機関は必ずその根拠を確認します。価格改定、受注済案件、新商品、営業体制、取引先の見込みなど、具体的な裏付けがなければ、計画の信頼性は高まりません。
一方で、過度に保守的すぎる計画も問題です。改善可能性が見えなければ、金融機関は支援の合理性を判断できないからです。
損益計画は、「希望的観測」と「過度な萎縮」のどちらにも偏らないことが肝心です。過去実績、足元の受注状況、改善施策、外部環境を踏まえた現実的な計画に仕上げていきます。
資金繰り計画では「利益が資金になる流れ」を説明する
損益計画で黒字になっていても、資金繰りが回るとは限りません。
売上は立っても入金が遅れれば、現金は増えません。在庫が増えれば、資金は棚卸資産に滞留します。設備投資をすれば、利益計算とは別に資金が出ていきます。借入返済は、損益計算書上の費用ではなくても現金の流出です。税金や社会保険料の支払いも、資金繰りに大きく影響します。
そのため経営改善計画では、損益計画だけでなく、資金繰り計画が不可欠になります。
資金繰り計画では、次の内容を説明します。
- 月初現預金
- 売上入金
- 仕入、外注、人件費、経費の支払い
- 税金、社会保険料の支払い
- 設備投資支出
- 借入返済
- 支払利息
- リスケ前後の資金残高
- 最低限必要な手元資金
- 資金不足が発生する月
- 不足額と対応策
会計上の利益と資金は、一致しません。在庫の増減、支払と回収のズレ、減価償却、設備投資、借入返済などを区分して管理する必要があります。
とりわけ営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローを分けて見ることで、会社が本業で資金を生んでいるのか、投資に資金を使っているのか、借入返済で資金が流出しているのかを説明しやすくなります。
金融機関に対しては、「利益が出る計画です」だけでは足りません。「その利益が、いつ、どのように現金化され、どの範囲で返済に回せるのか」までを示す必要があります。
返済計画では「返したい額」ではなく「返せる額」を説明する
経営改善計画において、返済計画は重要な位置を占めます。
ただし、ここで説明すべきは「金融機関に返したい額」ではありません。本業から生み出されるキャッシュフローの範囲で、無理なく返済できる額です。
返済計画では、次の点を整理します。
- リスケ前の年間返済額
- リスケ後に必要な返済猶予額
- 営業キャッシュフロー
- 設備投資や税金支払いを考慮したフリーキャッシュフロー
- 返済に充てられる金額
- 手元資金として残すべき金額
- 返済再開時期
- 返済再開後の年間返済額
- 金融機関別の返済配分
- 返済条件の見直し時期
複数の金融機関から借入がある場合は、金融機関間の公平性も重要になります。たとえば、返済可能なキャッシュフローを各金融機関の借入残高割合に応じて配分する、いわゆるプロラタ返済の考え方などが用いられることがあります。返済計画は、会社の資金繰りだけでなく、金融機関間の合意形成にも関わってくるのです。
返済計画で避けたいのは、計画上の見栄えをよくするために、返済額を大きくしすぎることです。
返済額を過大に設定すれば、計画開始後すぐに資金繰りが詰まります。逆に、返済額を過度に小さくすると、金融機関側は改善努力や返済意思を確認しにくくなります。
大切なのは、会社の継続に必要な手元資金を確保しながら、返済原資の範囲で返済計画を組むことです。
アクションプランでは「誰が・いつ・何をするか」を示す
経営改善計画では、損益計画や資金繰り計画と同じくらい、アクションプランが重要です。なぜなら、数字は行動の結果だからです。
売上が増えるのは、営業活動、商品改善、価格改定、顧客開拓、既存顧客の深耕といった行動が変わるからです。粗利率が改善するのは、値引き抑制、仕入条件の見直し、不採算案件の整理、原価管理が変わるからです。資金繰りが改善するのは、回収条件、在庫管理、支払条件、投資判断、返済条件が変わるからです。
アクションプランには、次の項目を盛り込みます。
- 改善テーマ
- 具体的な実施内容
- 担当者
- 実施期限
- 数値目標
- 確認資料
- 進捗確認の頻度
- 未達時の対応策
具体的には、たとえば次のような形になります。
- 主要取引先A社との価格改定交渉を、7月末までに実施する
- 滞留在庫のうち半年超の在庫を、9月末までに30%圧縮する
- 外注費率が高い案件について、案件別採算表を毎月作成する
- 営業担当別に見積件数、受注率、粗利率を毎月確認する
- 役員報酬を一定期間見直し、資金繰り改善に充てる
- 遊休設備の売却可能性を8月末までに確認する
「頑張る」「徹底する」「強化する」という言葉だけでは、計画を管理することはできません。実行担当者と期限を明確にし、金融機関に対して、改善が管理可能な状態にあることを示す必要があります。
モニタリングでは「計画どおりか」だけでなく「ズレた理由」を説明する
経営改善計画は、作成して終わりではありません。むしろ、作成後のモニタリングこそが要となります。
金融機関との信頼は、計画を一度提出したことで生まれるものではありません。計画と実績の差異を把握し、未達の原因を説明し、必要な修正策を示し続けることで、はじめて築かれていきます。
モニタリングでは、次の内容を確認します。
- 売上高、粗利、営業利益、経常利益の実績
- 計画との差異
- 差異の原因
- 資金繰り実績
- 現預金残高
- 売掛金、在庫、買掛金の変動
- 借入返済状況
- 改善施策の進捗
- 未達施策の原因
- 次月以降の対応策
財務面では、売上高、限界利益、当期利益などが計画目標と比べてどの水準で推移しているかを確認します。事業面では、行動計画の実施状況や打ち手の有効性を見直します。資金面では、資金繰り実績表・予定表、支払一覧表、入金一覧表をもとに管理していきます。
金融機関に対しては、「未達でした」で終わらせてはいけません。「なぜ未達だったのか」「次に何を変えるのか」までを説明します。
計画の未達そのものよりも、未達を放置することのほうが、信頼を大きく損なうからです。
経営改善計画に含めるべき主な資料
経営改善計画の内容は会社の状況によって変わりますが、金融機関に説明するうえでは、一般に次のような資料が必要になります。
- 会社概要
- ビジネスモデルの説明
- 株主、役員構成
- 役員等との資金貸借
- 沿革
- 現状分析
- 資金繰り実績表
- 資金繰り予定表
- 借入一覧表
- 金融機関別返済予定表
- 資金繰り悪化の原因分析
- 具体的改善施策
- アクションプラン
- モニタリング計画
- 損益計画
- 貸借対照表計画
- キャッシュフロー計画
- 返済計画
- 必要な金融支援の内容
- 担保、保証、保全状況
- その他、金融機関が必要とする資料
経営改善計画策定支援事業の実務では、ビジネスモデル俯瞰図、会社概要表、資金繰り実績表、具体的施策と実施時期、アクションプラン、モニタリング計画、計数計画、金融支援の内容などを含めて整理することが想定されています。
ただし、資料を多く作ればよいというものではありません。金融機関に伝えるべき核心は、次の一文に集約されます。
この会社は、どの改善策によって、いつ、どれだけキャッシュを生み、その範囲でどのように返済を再開するのか。
すべての資料は、この説明を支えるために作るものです。
経営改善計画で金融機関に説明すべき「金融支援の内容」
経営改善計画では、金融機関にどのような支援を求めるのかも明確にします。金融支援の内容が曖昧では、金融機関も判断のしようがありません。
代表的な金融支援には、次のようなものがあります。
- 元金返済の一時猶予
- 毎月返済額の減額
- 返済期間の延長
- 既存借入の借換
- 追加運転資金の融資
- 設備資金の見直し
- 短期借入の長期化
- 保証協会付き融資の条件変更
- 新規融資とリスケの組み合わせ
- 必要に応じた資本性資金や抜本再生手法の検討
ただし、この記事で扱う中心は、個別スキームの詳細ではありません。経営改善計画で重要なのは、求める金融支援と改善施策がしっかりつながっていることです。
たとえば、元金返済を1年間猶予してもらうなら、その1年間で何を改善するのか。返済額を減らしてもらうなら、減った資金流出分を、どの支払い、どの改善投資、どの運転資金に充てるのか。追加融資を求めるなら、その資金が赤字補填で終わらず、どのように収益改善へつながっていくのか。
金融支援は目的ではありません。改善を実行するための時間と資金を確保する手段です。
405事業や早期経営改善計画との関係
経営改善計画を作成する局面では、認定経営革新等支援機関の支援を受ける制度を活用できる場合があります。
中小企業庁は、2026年3月26日に、早期経営改善計画策定支援――いわゆるVアップ事業――および経営改善計画策定支援――いわゆる405事業――の手引き・FAQ等の改定を公表しています。改定では、相談の早期化、支援メニューの適切な選択、出口の明確化、伴走支援の強化などが示されました。経営改善計画策定支援の通常枠については、2026年5月1日からの改定内容として、策定する計画への数値基準の導入や、対象となる金融支援の見直し等が示されています。
出典:中小企業庁|早期経営改善計画策定支援(Vアップ事業)及び経営改善計画策定支援(405事業)の手引き・FAQ等を改定等します
また、中小企業庁の「経営改善計画策定支援」ページでは、2026年5月以降の利用申請分として、2026年5月1日改訂の手引き・マニュアル・FAQ、申請様式等が掲載されています。制度の対象、必要書類、補助内容、申請手続は改定されることがあるため、実際に利用を検討する場合は、必ず最新の公式情報を確認しておく必要があります。
ここで注意したいのは、制度を使うこと自体が目的ではない、という点です。
405事業は、金融支援を伴う本格的な経営改善計画に関係する制度です。一方、早期経営改善計画は、金融支援が必要になる前の段階で、資金繰り管理や経営課題の整理を進めるという意味合いの強い制度です。405事業では、リスケや新規融資などの金融支援を伴う計画、全取引金融機関への計画提出、同意取得、モニタリングなどが重視されます。
自社がどの段階にあるのかを見極めないまま、制度名だけで選んでしまうと、計画の目的そのものがずれてしまいます。
金融機関に伝えるべき「再生の出口」
経営改善計画では、目先の資金繰りだけでなく、出口を説明することも重要です。出口とは、会社がどの状態を目指すのか、ということです。
- 正常返済に戻すのか
- 一定期間は条件変更を継続し、段階的に返済を増やすのか
- 借換によって返済負担を平準化するのか
- 事業の一部撤退や資産売却で借入を圧縮するのか
- スポンサー支援、事業承継、M&Aなどを検討するのか
- 収益改善だけでは難しく、抜本再生を検討するのか
金融庁は、2026年3月16日に「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」及びQ&Aの一部改定について公表しました。足元の事業再生支援ニーズの高まりを踏まえ、地域経済の維持・成長に向けた早期事業再生、事業承継・M&Aの重要性、有事対応の迅速化・円滑化に向けた平時からの中小企業者と金融機関のコミュニケーションの重要性等が示されています。改定版は2026年4月1日から適用されています。
出典:金融庁|「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」及びQ&Aの一部改定について
経営改善計画は、リスケ期間をやり過ごすための資料ではありません。金融機関に対して、「この会社はどこに向かって改善しているのか」を示す資料です。
経営改善計画で避けるべき説明
経営改善計画を作る際には、次のような説明は避けたいところです。
1. 根拠のない売上回復
「来期から営業を強化して売上が戻る」という説明だけでは、不十分です。
売上回復を計画に織り込むなら、受注残、見込案件、顧客別計画、商品別計画、営業活動量、価格改定、販売チャネルなど、具体的な根拠が必要になります。
2. 費用削減効果の過大見積り
経費削減は重要ですが、すでに削減し尽くしている会社では、大きな効果を見込めない場合もあります。
削減額、開始時期、継続性、事業への影響を、具体的に示す必要があります。
3. 資金繰りを見ない損益計画
黒字化していても、売掛金の回収が遅れ、在庫が増え、借入返済が重ければ、資金繰りは改善しません。
損益計画と資金繰り計画は、必ずつなげて説明する必要があります。
4. 改善施策が社長任せ
中小企業では経営者の役割が大きい一方で、すべてを社長だけで実行する計画は、どうしても現実性に欠けます。
担当者、会議体、管理資料、外部専門家の関与など、実行体制を示しておく必要があります。
5. 不利な情報を隠す
税金・社会保険料の未納、滞留債権、過剰在庫、役員貸付金、不採算取引、保証債務などを隠しても、後で発覚すれば信頼を大きく損ねてしまいます。
経営改善計画では、不利な情報を正確に示したうえで、それにどう対応するのかまでを説明することが重要です。
金融機関への説明は「提出」ではなく「対話」である
経営改善計画は、金融機関に提出して終わるものではありません。提出後には、金融機関からさまざまな質問が寄せられます。
- この売上計画の根拠は何か
- 粗利率はなぜ改善するのか
- 固定費削減は実行済みか、これからか
- 税金や社会保険料の納付計画はどうなっているか
- 在庫圧縮は本当に可能か
- 追加資金は不要なのか
- 返済再開時期は妥当か
- 他行も同じ条件で合意しているのか
- 計画未達時はどうするのか
こうした質問に答えられる状態を作ること――それこそが、経営改善計画の本質です。
経営計画を作成している会社は、月次の目標利益計画や行動計画の実績、試算表、計画を下回った場合の改善策、外部環境の変化による計画変更などを金融機関へ報告することで、金融機関との関係を継続的に整えていくことができます。
金融機関対応は、交渉テクニックではありません。数字と行動をもとに、会社の現状と改善可能性を誠実に説明することです。
経営改善計画を作る前に整えるべき社内管理
経営改善計画を実行するには、社内の管理体制も欠かせません。
計画を作っても、月次決算が遅い、試算表の精度が低い、資金繰り表がない、在庫や売掛金の明細が整っていない――こうした状態では、そもそもモニタリングができません。
最低限、次の体制を整えておく必要があります。
- 月次決算を早期に締める
- 試算表の精度を高める
- 売掛金、買掛金、在庫の明細を整える
- 資金繰り表を毎月更新する
- 借入一覧表を更新する
- 計画と実績を比較する
- 差異の原因を確認する会議を行う
- 改善施策の進捗を管理する
- 金融機関へ定期報告する
月次決算は、経営者が数字から会社の現状を把握し、月次予算との比較によって原因を明確にし、銀行との交渉に必要な直近資料を整えるための基礎になります。融資申込時には、過去の決算書とあわせて直近の月次決算書の提出を求められることもあり、月次決算書を提出できない場合は、信用の低下につながる可能性もあります。
経営改善計画は、月次管理ができて初めて、実行可能なものになります。
専門家に相談すべきタイミング
経営改善計画は、経営者だけで作れないわけではありません。
しかし、資金繰り悪化、リスケ、金融機関調整、税金・社会保険料、担保・保証、役員借入金、資産売却、事業再生などが絡む局面では、会計・税務・金融実務を横断して整理していく必要があります。
特に、次のような場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
- 資金繰り表上、数か月以内に資金不足が見込まれる
- 借入返済が営業キャッシュフローで賄えない
- 複数金融機関との調整が必要
- 税金や社会保険料の未納がある
- 保証協会付き融資とプロパー融資が混在している
- 経営者保証や担保の論点がある
- 役員借入金、役員貸付金、仮払金がある
- 不採算事業の整理が必要
- 金融機関から経営改善計画の提出を求められている
- 405事業や中小企業活性化協議会の活用を検討している
相談が遅れるほど、選択肢は減っていきます。資金が尽きてからではなく、資金繰り表で危険が見えた段階で動くことが大切です。
まとめ:経営改善計画で説明するのは「返済猶予のお願い」ではなく「改善の道筋」
経営改善計画で金融機関に説明すべきことは、単なる返済猶予のお願いではありません。
現状分析、資金繰り悪化の原因、改善施策、損益計画、資金繰り計画、返済計画、アクションプラン、モニタリング――これらを通じて、「会社がどのように改善し、どのように返済原資を生み出すのか」を示すことです。
経営改善計画の質は、資料の見栄えで決まるものではありません。次のような点が整っているかどうかで決まります。
- 現状を正確に把握しているか
- 資金不足の原因を分類できているか
- 改善施策が具体的か
- 損益計画に根拠があるか
- 資金繰り計画と返済計画がつながっているか
- 金融機関間の公平性を考えているか
- 実行担当者と期限が明確か
- 計画未達時に修正できる体制があるか
経営改善計画は、会社をよく見せるための資料ではありません。会社の現実を直視し、金融機関と共有し、改善に向けた時間を得るための、経営管理資料なのです。
経営改善計画を金融機関に説明できる状態へ整えたい方へ
金融機関から経営改善計画の提出を求められたとき、最も避けたいのは、形式だけの計画を急いで作ってしまうことです。
資金繰り悪化の原因が整理されていない。返済計画が営業キャッシュフローとつながっていない。改善施策が抽象的なままになっている。金融機関にどこまで説明すべきか判断できない。リスケ、借換、追加融資、405事業のどれを検討すべきか分からない――。
こうした状態では、計画を作っても、実行段階で行き詰まってしまう可能性があります。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、月次決算、資金繰り表、借入一覧表、損益計画、返済計画をもとに、金融機関に説明できる経営改善計画の整理を支援しています。
「金融機関に何を説明すべきか整理したい」「経営改善計画を数字合わせで終わらせたくない」「リスケや金融支援を検討する前に、自社の改善可能性を確認したい」とお考えの方は、犬飼公認会計士・税理士事務所HPのお問い合わせページよりご相談ください。
振り返り:経営改善計画で金融機関に説明すべきこと
| 説明すべき項目 | 金融機関が確認したいこと | 準備すべき資料 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 現状分析 | 会社が現在どの状態にあるか | 決算書、試算表、月次推移表、B/S、借入一覧 | 悪い数字を隠さず、原因につなげて説明する |
| 資金繰り悪化の原因 | 一時的要因か、構造的要因か | 資金繰り表、売掛金・在庫・買掛金明細 | 「返済が重い」だけで終わらせない |
| 改善施策 | 何を変えれば収益・資金繰りが改善するか | 改善施策一覧、部門別資料、取引先別資料 | 「売上を増やす」「経費を減らす」では抽象的すぎる |
| 損益計画 | 利益が出る根拠は何か | 計画P/L、売上・粗利・固定費の前提資料 | 銀行向けの数字合わせにしない |
| 資金繰り計画 | 利益がいつ現金化されるか | 資金繰り実績表・予定表 | 借入返済、税金、社会保険料、設備投資を反映する |
| 返済計画 | どの範囲で返済再開できるか | 返済予定表、金融機関別残高表 | 返したい額ではなく、返せる額で設計する |
| 金融支援の内容 | どの支援が必要か | 条件変更案、借換案、追加資金資料 | 金融支援と改善施策を結びつける |
| アクションプラン | 誰が、いつ、何を実行するか | 実行計画表、担当者別進捗表 | 担当者、期限、数値目標を明確にする |
| モニタリング | 計画と実績をどう管理するか | 月次試算表、予実管理表、資金繰り表 | 未達時の原因と修正策まで説明する |
| 出口方針 | どの状態を目指すのか | 中期計画、返済正常化案、再生方針 | リスケ継続か、正常化か、抜本再生かを整理する |