資本等取引を行う前に整理すべき資料|自己株式・減資・DES・増資・みなし配当の相談前チェック

資本等取引は、日々の売上や仕入、経費の処理とは、そもそも性質が異なる取引です。

自己株式の取得、減資、資本剰余金の配当、DES、債権放棄、オーナー貸付金の整理、低額増資、高額払込み、自己株式の処分。これらは、損益計算書の上ではあまり目立たないことがあります。しかし、法人税申告書の別表五(一)、株主課税、みなし配当、贈与税、株価評価、金融機関への説明、事業承継、M&Aのデューデリジェンスといった場面では、後になって大きな意味を持ってきます。

資本等取引で最も危険なのは、「スキーム」や「仕訳」から検討を始めてしまうことです。

本来、その前に整理しておくべきものがあります。株主構成、資本金等の額、利益積立金額、貸付金・借入金、株価、議事録、過去の申告書、取引の目的、そして資金の流れです。資料が足りないまま実行に移すと、取引をした時点では問題が見えなくても、税務調査、相続、株式譲渡、M&A、金融機関対応といった場面で、後から説明できなくなってしまいます。

本稿では、第11テーマ「資本等取引・みなし配当・自己株式・オーナー貸付金」のまとめとして、資本等取引を行う前に整理しておくべき資料を、実務で判断していく順番に沿って解説します。

目次

資本等取引で資料整理が重要になる理由

資本等取引とは、「会社と株主との間で資本を動かす取引」です。

売上や経費のように、当期の利益へ直接あらわれるとは限りません。だからこそ、会計処理だけを見ていると、税務上の影響を見落としやすくなります。

たとえば、自己株式を取得した場合を考えてみます。会計上は、自己株式を純資産の控除項目として処理します。一方、税務上は純資産の払戻しとしてとらえ、取得資本金額に相当する部分を資本金等の額から控除し、それを超える部分を利益積立金額から控除する、という整理が必要になります。つまり自己株式取得の税務処理では、別表四だけでなく、別表五(一)で資本金等の額と利益積立金額を追いかけていかなければなりません。

自己株式の処分についても同様です。会社法上は新株発行に近い手続となり、会計上は自己株式の帳簿価額と払込金額との差額を、その他資本剰余金で処理する場面があります。ところが税務上は資本金等の額の増加として整理し、別表五(一)で調整する必要が出てきます。

このように、資本等取引では、「会計上の純資産」「税務上の資本金等の額」「税務上の利益積立金額」「株主側の課税関係」が、同時に動きます。

国税庁が公表している法人税申告書別表においても、別表五(一)は「利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書」と位置づけられており、令和8年4月1日以後終了事業年度分の様式も公表されています。資本等取引を行う際には、対象となる事業年度に対応した最新の別表様式・記載要領を、その都度確認しておく必要があります。
出典:国税庁|令和8年4月以降に提供した法人税等各種別表関係

まず作るべきは「取引メモ」である

資本等取引の相談前に、最初に作るべき資料は、専門的な株価評価資料ではありません。

まず必要になるのは、取引の全体像を1枚で説明できる「取引メモ」です。

整理項目記載すべき内容
取引の目的事業承継、株主整理、資金調達、債務超過解消、金融機関対応、M&A準備、少数株主対応など
予定している取引自己株式取得、減資、資本払戻し、増資、自己株式処分、DES、債権放棄など
関係者会社、株主、オーナー、親族、後継者、グループ会社、金融機関、少数株主
金額取引金額、払込額、買取額、債権額、債務免除額、源泉税、納税資金
時期決算日、株価評価日、契約日、決議日、払込日、実行日、申告期限
期待する効果株主構成の整理、貸借対照表の改善、株価引下げ、相続対策、資金繰り改善など
想定リスクみなし配当、譲渡所得、贈与税、受贈益、寄附金、債務免除益、否認リスク
代替案配当、役員退職金、株式譲渡、贈与、組織再編、金融機関借換え、段階的整理など

この取引メモがないと、相談を受ける専門家の側も判断ができません。「何を達成したいのか」「税負担と資金流出のどちらを優先するのか」「株主間の公平性をどこまで考えるのか」。こうした点が見えないまま検討を進めることはできないのです。

資本等取引は、単独の税務処理ではなく、将来の資本政策そのものです。目的があいまいなまま進めてしまうと、後になって「税金は減ったが、株主構成は悪化した」「貸借対照表は改善したが、贈与税が発生した」「その場は処理できたが、M&Aのときに説明できない」といった結果を招きかねません。

株主名簿は「名前の一覧」では足りない

資本等取引において、最も重要な資料の一つが株主名簿です。

ただし、単に「誰が何株持っているか」がわかるだけでは足りません。税務判断に使える株主資料にするためには、次の情報まで整理しておく必要があります。

確認項目なぜ必要か
株主名取引当事者、みなし配当・譲渡所得・贈与税の対象者を確認するため
株式数・議決権数支配関係、同族株主、株価評価、議決権割合を確認するため
株式の種類普通株式、無議決権株式、種類株式、取得条項付株式などで評価・権利内容が変わるため
取得時期株主側の取得費、相続・贈与・譲渡の履歴を確認するため
取得原因設立出資、増資、贈与、相続、譲渡、自己株式処分などで課税関係が異なるため
取得価額譲渡所得計算、法人株主の帳簿価額、M&A時の説明に必要となるため
親族関係同族株主判定、みなし贈与、事業承継上の公平性を確認するため
法人株主の有無グループ法人税制、受取配当、寄附金、受贈益、完全支配関係を確認するため
名義株の有無実質株主、過去の出資者、相続・贈与リスクを確認するため
株主間契約譲渡制限、買取請求、議決権拘束、価格算定条項を確認するため

中小企業では、設立時の名義借り、親族名義、退職役員や元従業員の株主、相続で分散した株式などが残っていることがあります。株主名簿が更新されないまま自己株式取得や増資を行えば、会社法上の手続、株主課税、株価評価、その前提そのものが崩れてしまいます。

事業承継の場面でも、株主構成は単なる所有割合ではありません。親族内承継、親族外承継、第三者承継では、税務課題も法務課題も異なります。たとえば親族外の役員・従業員への承継では、自己株式取得や自己株式処分、持株会社方式、株式買取資金の調達などが検討される一方で、みなし配当、時価、利益供与、株式の有効性といった問題があらわれ得ます。

資本金等の額と利益積立金額を確認する

資本等取引を行う前には、直近の貸借対照表だけでなく、法人税申告書の別表五(一)まで確認します。

資本等取引で問題になるのは、会計上の資本金、資本準備金、その他資本剰余金、利益剰余金だけではありません。税務上の資本金等の額と利益積立金額が、どのように管理されているか。ここが重要になります。

資料確認ポイント
直近3期分の法人税申告書過去の税務調整、別表五(一)の引継ぎ、欠損金を確認する
別表五(一)資本金等の額、利益積立金額、繰越損益金、納税充当金を確認する
別表四留保・社外流出、みなし配当、加算・減算の流れを確認する
株主資本等変動計算書会計上の資本項目の増減を確認する
総勘定元帳資本準備金、その他資本剰余金、自己株式、役員借入金等の動きを確認する
過年度の資本取引資料過去の増資、減資、自己株式取得、組織再編の処理を確認する

とりわけ注意したいのが、別表四を経由しない、資本金等の額と利益積立金額の入り繰りです。組織再編や自己株式取引では、別表五(一)の検算式だけでは直感的につかみにくい調整が生じることがあります。実務上も、別表四を経由しない利益積立金額の調整や、資本金等の額と利益積立金額の入り繰りについては、別表五(一)の検算のうえでも個別に把握しておく必要があります。

資本等取引の資料整理では、会計上の純資産だけでなく、税務上の純資産の履歴まで追うこと。これが大切です。

非上場株式の株価算定資料を準備する

自己株式取得、増資、自己株式処分、株式譲渡、DES、債権放棄、資本払戻し。これらを検討する場合には、非上場株式の価値が問題になります。

非上場株式の評価では、相続税・贈与税の財産評価、法人税法上の時価、所得税法上の時価、会社法上の公正な価格、M&A上の企業価値が、それぞれ一致しないことがあります。そのため資料整理の段階で、「何のための株価なのか」をはっきりさせておく必要があります。

国税庁のタックスアンサーNo.4638では、取引相場のない株式について、取得した株主が同族株主等かそれ以外かによって、原則的評価方式または配当還元方式で評価することが説明されています。また、大会社は類似業種比準方式、小会社は純資産価額方式、中会社は両者の併用を原則とする旨も示されています。
出典:国税庁|No.4638 取引相場のない株式の評価

株価算定資料としては、少なくとも次のものを整理しておきます。

資料確認目的
直近3期分の決算書類似業種比準価額、収益力、純資産、利益水準を確認する
税務申告書・別表税務上の利益、欠損金、資本金等の額、利益積立金額を確認する
固定資産台帳土地・建物・機械・ソフトウェア等の帳簿価額と時価を確認する
不動産資料路線価、固定資産税評価額、鑑定評価、賃貸借契約を確認する
有価証券・投資資料子会社株式、関係会社株式、投資有価証券の評価を確認する
借入金明細純資産価額、債務超過、金融機関対応を確認する
保険契約資料解約返戻金、保険積立金、退職金準備資金を確認する
株主構成資料同族株主判定、配当還元方式の適用可能性を確認する
過去の株式取引資料売買実例として使えるかを確認する
事業計画将来価値、M&A価格、金融機関説明との整合性を確認する

「相続税評価額で算定したから、税務上も安全だ」とは言い切れません。相続税評価は重要な基礎資料ですが、法人税、所得税、会社法、M&Aの場面では、また別の評価の視点が必要になることがあるからです。

貸付金・借入金・債権債務資料を整理する

同族会社では、オーナー社長から会社への貸付金、会社からオーナーへの貸付金、親族や関連会社との貸借、役員借入金などが残っているケースがよくあります。

これらは、資本等取引と密接に関係します。債権放棄、DES、擬似DES、役員退職金との相殺、代物弁済、第二会社方式といった手法を検討する場合、貸借の実在性と回収可能性が、結論そのものを左右します。

オーナー社長や同族特殊関係者から会社への貸付金、つまり会社側で役員借入金として計上されているものを解消する手法としては、債権放棄、DES、擬似DES、役員給与減額による精算、役員退職金との相殺、代物弁済などが整理されます。このうち債権放棄を行う場合、会社側では債務免除益が益金として問題になり、株価評価の上昇によるみなし贈与も検討の対象になります。

貸付金・借入金については、次の資料を準備します。

資料確認目的
金銭消費貸借契約書債権債務の発生原因、利率、返済期限を確認する
返済予定表実際に返済されているか、期限到来債務かを確認する
総勘定元帳借入・返済・利息計上の履歴を確認する
残高確認書会社と債権者の双方で残高が一致しているかを確認する
利息計算資料無利息・低利・未収利息の有無を確認する
担保・保証資料債権価値、回収可能性、金融機関対応を確認する
債務超過判定資料債務免除益、期限切れ欠損金、株価上昇を確認する
再建計画債権放棄・DESの経済合理性を説明する
株価算定資料債務整理後の株価上昇、みなし贈与を確認する

DESとは、債権を現物出資する取引であり、債権者と債務者が同一になることで債権が消滅する手法です。擬似DESは、債権者がいったん金銭で増資を引き受け、その金銭で会社が債務を弁済する手法を指します。子会社支援の文脈では、債権放棄やDESについて、合理的な再建計画があるかどうかが重要になります。

法人税基本通達2-3-14では、子会社等に対する債権を有する法人が、合理的な再建計画等にもとづいて債権を現物出資して株式を取得した場合、その取得株式の取得価額は、取得時に給付した債権の価額となることが示されています。
出典:国税庁|第2款 有価証券の取得価額

自己株式取得で整理すべき資料

自己株式取得は、事業承継、少数株主対策、相続発生後の納税資金確保、株主構成の整理といった場面で使われます。

しかし、発行会社、売主株主、他の株主に、それぞれ課税関係が生じます。とくに、みなし配当と譲渡所得の区分、源泉徴収、財源規制、取得価額に関する資料が重要になります。

資料確認目的
売主株主の取得費資料譲渡所得・譲渡損益を計算する
株価算定書買取価額の妥当性を説明する
分配可能額計算資料会社法上の財源規制を確認する
株主総会・取締役会議事録取得条件、取得理由、手続を説明する
売買契約書取得株式数、価額、支払日、表明保証を確認する
支払資料実際の資金移動を確認する
源泉徴収資料みなし配当が生じる場合の源泉対応を確認する
別表五(一)資本金等の額・利益積立金額の減少を確認する
株主名簿更新資料取得後の株主構成を確認する

国税庁のタックスアンサーNo.1536では、自己株式の取得等により交付を受ける金銭等について、みなし配当とされる部分を除き、株式等に係る譲渡所得等の収入金額とみなされる場合が整理されています。
出典:国税庁|No.1536 株式等に係る譲渡所得等の収入金額とみなされる場合-法人の合併等、自己株式の取得等の場合-

なお、自己株式取得によるみなし配当がある場合でも、国税庁の質疑応答事例では、類似業種比準方式における1株当たり配当金額の計算上、みなし配当の金額を剰余金の配当金額に含める必要はないとされています。資本等取引は株価評価にも影響するため、評価明細書上の取扱いまで確認しておく必要があります。
出典:国税庁|1株当たりの配当金額B-自己株式の取得によるみなし配当の金額がある場合

減資・資本払戻し・資本剰余金配当で整理すべき資料

減資や資本払戻しは、「資本金を減らすだけ」の手続ではありません。

資本剰余金を原資とする配当では、資本金等の額の減少部分と、利益積立金額の減少部分を区分する必要があります。株主側では、みなし配当と株式譲渡損益の計算が問題になります。

資料確認目的
株主総会議事録減資・剰余金配当の決議内容を確認する
債権者保護手続資料公告、催告、異議申述への対応を確認する
資本剰余金・利益剰余金の内訳配当原資を確認する
別表五(一)資本金等の額・利益積立金額の減少を計算する
株主別支払明細株主ごとのみなし配当・譲渡収入を確認する
源泉徴収資料個人株主・法人株主への源泉対応を確認する
株主側取得費資料譲渡損益計算に必要となる
資金繰り表払戻しによる資金流出を確認する

資本払戻しでは、会社側だけでなく、株主側の課税関係が重要になります。資本の払戻しにより交付した金銭等のうち、資本金等の額に対応する部分を超える部分は、利益積立金額の減少として整理され、株主側ではみなし配当と譲渡損益の計算が必要になります。

増資・自己株式処分で整理すべき資料

増資や自己株式処分は、資金調達や、後継者への株式付与の手段として使われます。

しかし、払込価額が時価より低い場合には、既存株主から新株引受人へ、価値が移転することがあります。逆に、時価より高い払込みでは、新株引受人から既存株主へ価値が移る場合もあります。

法人税基本通達2-3-7では、有利発行の判定について、払込金額等を決定する日の現況における発行法人株式の価額と比較し、社会通念上相当と認められる価額を下回る価額をいうものとされ、注記では、おおむね10%相当額以上の差額があるかどうかで判定する旨が示されています。
出典:国税庁|第2款 有価証券の取得価額

また同通達2-3-8では、他の株主等に損害を及ぼすおそれがないと認められる場合について、株式の内容・数に応じて平等に与えられ、内容の異なる株式を有する株主との間でも経済的衡平が維持される場合をいうとされています。単に手続上の決議があるだけでなく、経済的衡平まで確認する必要があるということです。
出典:国税庁|第2款 有価証券の取得価額

増資・自己株式処分では、次の資料を整理します。

資料確認目的
発行条件案発行株式数、払込価額、払込期日、割当先を確認する
株価算定資料払込価額の妥当性を説明する
増資前後の株主構成表価値移転、議決権移動、支配関係を確認する
株主別価値移転表既存株主・新株主の経済的増減を確認する
取締役会・株主総会議事録発行理由、有利発行該当性、説明義務を確認する
払込証明資料資金移動の実在性を確認する
親族関係図みなし贈与リスクを確認する
法人株主資料受贈益・寄附金・グループ法人税制を確認する

同族会社の新株発行では、贈与税にも注意が必要です。相続税法基本通達9-4では、同族会社が新株発行をする場合に、募集株式引受権が株主の親族等に与えられ、その権利にもとづいて新株を取得したときは、原則として、その親族等が募集株式引受権を株主から贈与により取得したものとして取り扱う旨が定められています。
出典:国税庁|第9条《その他の利益の享受》関係

債権放棄・DESで整理すべき資料

債権放棄やDESは、債務超過会社、再生局面、オーナー貸付金の整理、子会社支援といった場面で検討されます。

ただし、会社側では債務免除益、債権者側では貸倒損失・寄附金・株式取得価額、株主側では株価上昇によるみなし贈与が、それぞれ問題になります。

相続税法基本通達9-2では、同族会社の株式価額が、無償の財産提供、時価より著しく低い価額での現物出資、対価を受けない債務免除等、時価より著しく低い価額での財産譲渡によって増加した場合、その株主が増加部分に相当する金額を、一定の者から贈与により取得したものとして取り扱う旨が定められています。
出典:国税庁|第9条《その他の利益の享受》関係

一方、同通達9-3では、会社が資力を喪失した場合において一定の私財提供等が行われたときは、会社が受けた利益のうち債務超過額に相当する部分については、贈与として取り扱わない旨が定められています。ただし、単に一時的に債務超過となっているだけの場合は、これに該当しないとされています。
出典:国税庁|第9条《その他の利益の享受》関係

債権放棄・DESでは、次の資料を整理します。

資料確認目的
債権残高明細債権額、発生日、債権者、債務者を確認する
契約書・借入申込書債権の法的根拠を確認する
返済履歴実在性、回収可能性、利息処理を確認する
債務者の実態貸借対照表債務超過額、含み損益、再建可能性を確認する
再建計画債権放棄・DESの経済合理性を説明する
金融機関協議資料第三者債権者との調整状況を確認する
株価算定資料株価上昇、みなし贈与を確認する
株主名簿誰に経済的利益が移るかを確認する
議事録・稟議書放棄・出資の目的、代替案、リスク説明を残す
申告影響試算債務免除益、欠損金、期限切れ欠損金、別表調整を確認する

債権放棄やDESは、税務処理だけの話にとどまりません。金融機関、他の債権者、少数株主、後継者にも影響が及びます。処理の前提となる資料を残しておかなければ、「なぜそのタイミングで、その金額を放棄したのか」を、後から説明できなくなってしまいます。

議事録・稟議書には何を残すべきか

資本等取引では、契約書や申告書だけでなく、意思決定の資料が重要になります。

議事録や稟議書には、単に「実行することを決議した」と書くだけでは足りません。後から見た人が、取引の目的、金額の根拠、税務リスク、代替案、承認の過程まで理解できる。そこまでの記録が必要です。

記録すべき事項内容
取引目的なぜ資本等取引が必要なのか
経営上の背景承継、資金繰り、株主整理、財務改善、M&A準備など
代替案配当、役員退職金、株式譲渡、贈与、金融支援、再編など
採用理由なぜその方法を選んだのか
金額の根拠株価算定、債権評価、分配可能額、時価資料
税務上の影響みなし配当、譲渡所得、受贈益、寄附金、贈与税、源泉税
会計処理資本金、資本剰余金、利益剰余金、自己株式、債務免除益
申告処理別表四、別表五(一)、源泉税、支払調書等
資金の流れ払込み、買取代金、返済、源泉税、納税資金
今後への影響株主構成、金融機関説明、M&A、相続、承継計画

とくに同族会社では、「親族間のことだから」「株主全員が分かっているから」といった理由で、記録が簡略化されがちです。しかし、後継者、相続人、税務署、金融機関、買い手候補は、当時の事情を知りません。

資本等取引においては、記憶ではなく資料で説明できる状態を作っておくこと。それが、会社を守る実務につながります。

取引別に最低限そろえる資料

資本等取引を実行する前に、取引別に最低限そろえておくべき資料を整理すると、次のようになります。

取引最低限必要な資料
自己株式取得株主名簿、売主の取得費資料、株価算定書、分配可能額資料、契約書、議事録、支払資料、源泉資料、別表五(一)
自己株式処分株価算定書、処分条件、割当先資料、増資前後の株主構成表、払込証明、議事録、別表五(一)
増資株価算定書、発行条件、割当先資料、親族関係図、グループ図、払込資料、株主総会議事録、株主別価値移転表
減資定款、登記事項証明書、株主総会議事録、債権者保護手続資料、資本項目内訳、別表五(一)、金融機関説明資料
資本払戻し資本剰余金内訳、株主別支払明細、みなし配当計算、譲渡所得計算資料、源泉資料、別表五(一)
剰余金配当配当原資資料、株主別配当明細、源泉資料、配当決議、利益積立金額資料
DES債権資料、債権評価、再建計画、株価算定書、現物出資資料、議事録、別表五(一)、債務消滅益試算
擬似DES増資資料、払込資料、返済資料、資金移動表、債権残高資料、株価算定書、租税回避リスク検討メモ
債権放棄債権残高明細、放棄通知書、再建計画、実態貸借対照表、欠損金資料、株主別株価上昇試算、議事録
オーナー貸付金整理役員借入金明細、返済履歴、オーナー相続財産資料、株価算定、後継者資料、役員退職金試算、相続税影響試算

この表は、取引の結論を出すためのものではありません。専門家に相談する前に、論点を漏らさないための整理表として使っていただくものです。

相談前に避けたい進め方

資本等取引には、とくに避けておきたい進め方がいくつかあります。

株価を出さずに金額を決める

自己株式取得、増資、自己株式処分、株式譲渡では、株価が中心の論点になります。金額を先に決めてしまい、後から株価資料をそこに合わせていく。この進め方は危険です。

別表五(一)を確認せずに減資・自己株式取得を行う

会計上の資本剰余金や利益剰余金だけを見ていても、税務上の資本金等の額や利益積立金額はわかりません。別表五(一)の引継ぎを確認しないまま進めると、みなし配当や別表処理を誤る可能性があります。

社長借入金だけを見て、株主構成を見ない

オーナー貸付金を債権放棄すると、会社側の債務免除益だけでなく、株価上昇によって他の株主に経済的利益が移る可能性があります。貸付金の消去だけを目的にしてしまうと、贈与税リスクを見落とします。

議事録に結論だけを書く

「自己株式を取得する」「減資する」「債権放棄を受ける」とだけ記載しても、後から金額の相当性や事業目的を説明できません。議事録には、目的、背景、金額の根拠、リスク認識、承認の過程まで残しておく必要があります。

税務だけで会社法・金融機関対応を見ない

自己株式取得や減資では、会社法上の手続や財源規制、債権者保護手続が問題になります。金融機関との契約で、財務制限条項や事前承諾が必要になる場合もあります。

実行後に専門家へ相談する

資本等取引は、実行してしまうと後から修正することが難しい取引です。株主名簿、登記、資金移動、税務申告、源泉徴収、株価評価にまで影響が残るため、実行の前に相談しておくことが重要になります。

専門家に相談する前の整理手順

専門家へ相談する前に、次の順番で整理しておくと、相談の質が大きく上がります。

1. 目的を文章化する

「税金を減らしたい」だけでは不十分です。株主構成を整理したいのか、後継者に株式を移したいのか、金融機関に債務超過を説明したいのか、M&A前にオーナー貸付金を消しておきたいのか、少数株主を整理したいのか。そのねらいを明確にします。

2. 現在の株主構成を確定する

株主名簿、登記事項証明書、定款、過去の株式譲渡契約書、贈与契約書、相続資料を確認し、実質株主も含めて整理します。

3. 税務上の資本項目を確認する

直近3期分の法人税申告書、とくに別表五(一)を確認します。資本金等の額、利益積立金額、過去の自己株式取得、増資、減資、組織再編の処理が、正しく引き継がれているかを見ていきます。

4. 株価・債権価値を仮算定する

非上場株式の評価、債権の回収可能性、債務超過額、含み益・含み損を確認します。概算でよい段階であっても、時価の方向感がなければ、取引の設計はできません。

5. 取引前後の状態を比較する

実行の前後で、株主構成、株式価値、資本金等の額、利益積立金額、借入金、純資産、納税額、資金繰りがどう変わるかを比較します。

6. 税目別に影響を分ける

法人税、所得税、源泉所得税、相続税・贈与税、消費税、地方税、登録免許税、そして会社法上の手続を、それぞれ分けて整理します。

7. 実行スケジュールを作る

決算日、評価日、株主総会日、払込日、契約日、登記日、申告期限、納税日を、時系列で並べます。資本等取引では、日付の前後関係が結論を左右することがあります。

まとめ

資本等取引は、会社の「資本」を動かす取引です。

損益計算書に大きくあらわれないからといって、税務上の影響が小さいわけではありません。むしろ、資本金等の額、利益積立金額、みなし配当、株主課税、贈与税、株価評価、承継、M&Aに、長く影響し続けます。

したがって、資本等取引を行う前には、少なくとも次の資料を整えておく必要があります。株主名簿、定款、登記事項証明書、直近3期分の決算書・法人税申告書、別表五(一)、株価算定資料、貸付金・借入金明細、債権債務契約書、議事録、稟議書、資金移動資料、取引前後の株主構成表、そして取引目的メモです。

これらの資料を整理して、はじめて検討ができます。「自己株式取得でよいのか」「減資が適切か」「DESにすべきか」「債権放棄のタイミングは適切か」「増資による株価移転はないか」「みなし配当・贈与税・寄附金リスクを説明できるか」。こうした問いに向き合えるのは、資料がそろってからです。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、自己株式取得、資本払戻し、減資、DES、債権放棄、オーナー貸付金整理、非上場株式評価、事業承継前の資本政策について、法人税・所得税・贈与税・相続税・会計処理・会社法手続を横断して整理します。

資本等取引を検討している場合、あるいは過去の資本取引が将来の承継・M&A・税務調査で問題にならないかを確認したい場合は、株主名簿、直近の申告書、別表五(一)、定款、登記事項証明書、貸付金・借入金明細、検討中の取引メモをご準備のうえ、お問い合わせページからご相談ください。

振り返り

重要事項実務上の確認ポイント
資本等取引の性質損益取引ではなく、資本金等の額・利益積立金額・株主課税に影響する
最初に作る資料取引目的、当事者、金額、時期、リスクを整理した取引メモ
株主名簿株式数だけでなく、取得時期、取得価額、親族関係、法人株主、種類株式を確認する
別表五(一)資本金等の額と利益積立金額の引継ぎを確認する
株価算定相続税評価、法人税上の時価、所得税上の時価、会社法上の価格を混同しない
自己株式取得みなし配当、譲渡所得、源泉税、分配可能額、別表五(一)を確認する
減資・資本払戻し資本剰余金と利益剰余金の区分、株主別課税、債権者保護手続を確認する
増資・自己株式処分払込価額、割当先、株主間価値移転、有利発行、みなし贈与を確認する
債権放棄・DES債務免除益、債権評価、再建計画、株価上昇、みなし贈与を確認する
オーナー貸付金整理貸付金の実在性、残高確認、相続財産、後継者への影響を確認する
議事録・稟議書結論だけでなく、目的、代替案、金額根拠、税務リスクを残す
実行時期評価日、決議日、払込日、登記日、申告期限の前後関係を確認する
税目横断法人税、所得税、源泉所得税、贈与税・相続税、消費税、地方税を分けて確認する
将来影響金融機関、株主、後継者、M&A買い手、税務調査に説明できる資料を残す
相談のタイミング実行後ではなく、株価算定・議事録作成・契約締結・払込の前に相談する
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