原価管理を経営判断に使う考え方|コスト削減で終わらせない利益改善の実務

「原価が高い気がする」 「粗利率が下がってきている」 「値上げしたいが、どこまで上げる必要があるのか、うまく説明できない」 「売上はあるのに、利益が手元に残らない」 「設備投資をすれば原価が下がると言われるが、本当に投資すべきか判断できない」

中小・中堅企業の経営の現場で、こうした声をうかがう機会は少なくありません。

ただ、ここで一つ気をつけていただきたいことがあります。原価管理を単なる「コスト削減」と捉えてしまうと、かえって経営判断を誤りやすいのです。材料費を下げることだけを考えれば、品質が落ちてしまうかもしれません。外注費を削れば、納期や対応力に影響が出ることもあります。人件費を抑えれば、現場が疲弊し、離職につながる場合もあります。在庫を減らしすぎれば欠品が起き、せっかくの売上機会を逃すことにもなりかねません。

原価管理は、費用をただ小さくするための管理ではありません。

価格をどう決めるか。どの商品を伸ばすか。どの取引先を見直すか。どの工程を改善するか。設備投資をすべきか。外注するのか、内製するのか。どの事業に経営資源を振り向けるか。

こうした判断のために、利益の構造を「見える化」していく。それが原価管理の本来の役割です。

管理会計は、過去の数字を集計するだけのものではありません。利益を設計し、組織のマネジメントを通じて利益を作り込んでいくための考え方です。原価管理は、まさにその中心に位置づけられます。

目次

原価管理は「原価を下げること」ではない

原価管理という言葉を聞くと、多くの方は「原材料を安く買う」「外注費を下げる」「人件費を抑える」といった削減策を思い浮かべるのではないでしょうか。もちろん、これらも大切な論点です。

ただ、経営判断に使う原価管理では、その前に立てておきたい問いがあります。

今の原価は、何によって決まっているのか。標準的に発生する原価は、いくらなのか。実際には、どこで標準からずれているのか。その差異は、一時的なものなのか、それとも構造的なものなのか。価格に転嫁すべきものか、工程改善で吸収すべきものか。投資によって改善できるものか、取引条件を見直すべきものか。そして、品質・納期・顧客価値を損なわずに改善できるのか。

つまり原価管理の目的は、ただ低い原価を追いかけることではないのです。

必要な品質、納期、顧客価値を保ちながら、会社として必要な利益を確保できる原価構造を作っていく。ここに本質があります。

その意味で、原価管理は利益管理、価格判断、部門別採算、調達戦略、設備投資、在庫管理、資金繰りと、決して切り離せるものではありません。

会計上の売上原価と、経営判断のための原価は分けて考える

まず整理しておきたいのが、「決算書に表示される売上原価」と「経営判断に使う原価」は、そもそも目的が違うという点です。

決算書上の売上原価は、会計・税務上の期間損益を計算するために必要なものです。一方、経営判断に使う原価は、商品、サービス、取引先、部門、プロジェクト、工程ごとの採算を判断するために使います。

たとえば損益計算書では、売上原価が一つの金額として表示されています。しかし経営判断の場面では、次のように分解して見ていく必要があります。

原価の切り口見るべき内容
材料費使用量、単価、歩留まり、廃棄、代替材料
仕入原価仕入単価、仕入条件、仕入先別の依存度
外注費外注範囲、単価、品質、納期、内外製の妥当性
労務費作業時間、稼働率、生産性、手戻り、残業
製造間接費設備費、工場経費、光熱費、保守費、間接人員
物流費配送条件、頻度、積載効率、倉庫費用
不良・手直し費品質不良、返品、再作業、クレーム対応
在庫関連費保管費、滞留在庫、廃棄、評価損、資金固定化
プロジェクト原価見積り、工数、外注、追加対応、検収条件

製造業であれば、製造原価予算を直接材料費、直接労務費、製造間接費に分けて考えるのが基本になります。ただ、売上原価の構成は業種・業態によって大きく異なります。ですから、自社の原価構成に合わせて管理単位を設計していくことが欠かせません。

小売・卸売であれば、仕入原価、物流費、在庫ロス、値引きが重要な論点になります。建設業や受託開発なら、案件別の材料費、外注費、労務工数、追加対応がポイントです。サービス業であれば、人件費、稼働率、外注費、案件への対応時間が、実質的な原価として効いてきます。

ですから、原価管理は製造業だけの話ではありません。

どの業種であっても、「売上を得るために、どの資源を、どれだけ使っているか」を見える化すること。それが原価管理なのです。

変動費と固定費に分けると、原価の見え方が変わる

原価管理を経営判断に活かすには、まず費用を変動費と固定費に分けておく必要があります。

変動費とは、売上や販売数量、生産数量に応じて増減しやすい費用です。材料費、商品仕入、外注加工費、販売手数料などが代表的なものです。

固定費とは、売上が増えても減っても、短期的には大きく変わりにくい費用です。人件費、家賃、減価償却費、設備維持費、管理部門費などがこれにあたります。

月次決算で業績を把握する際には、費用を変動費と固定費に分けた変動損益計算書が有効です。これは法律で作成が義務づけられた様式ではありませんが、経営者が業績をつかむための社内管理資料として、実務でよく活用されています。

この分け方をしておかないと、たとえば次のような判断が難しくなります。

売上が増えたとき、利益はいくら増えるのか。値下げした場合、どれだけ数量を増やせば利益を維持できるのか。原材料価格が上がったとき、どれだけ値上げが必要になるのか。固定費を回収するために必要な売上はいくらか。低採算の案件でも受けるべきか、断るべきか。設備投資によって、その費用を固定費化してもよいのか。

原価管理の出発点は、原価の総額を眺めることではありません。

売上に連動する原価と、構造として抱えている固定費を分けること。ここから始まります。

標準原価は「現場を縛る数字」ではなく、判断の基準である

原価管理を実務に落とし込むうえで、重要な手がかりになるのが標準原価です。

標準原価とは、通常の条件で製品・サービス・案件を提供したときに、本来発生するはずの原価のことです。過去実績の平均だけで作るものではありません。標準的な材料使用量、標準的な作業時間、標準的な外注単価、標準的な不良率、標準的な稼働率などを踏まえて設定していきます。

たとえば、製品1個あたりの標準原価は次のように考えます。

項目標準原価の考え方
材料費標準使用量 × 標準単価
外注費標準外注単価 × 標準数量
労務費標準作業時間 × 標準賃率
製造間接費標準配賦率 × 標準操業度
物流費標準配送単価・標準配送条件
不良・手直し標準不良率・標準再作業率

これはサービス業や受託業務でも同じです。標準工数、標準担当者単価、標準外注費、標準対応回数を決めておけば、案件ごとの予定原価を作ることができます。

標準原価は、現場を責めるための数字ではありません。

実際原価と比べてみて、どこで差異が出たのかを確認するための「基準」です。

標準原価を持たない会社では、実際原価が高かったのか低かったのか、その判断ができません。結果として、毎回「今回は大変だった」「仕方がなかった」で終わってしまいがちなのです。

実際原価は「結果」ではなく、改善の材料である

実際原価とは、文字どおり実際に発生した原価のことです。

ただ、実際原価をただ集計しているだけでは、原価管理にはなりません。

大切なのは、標準原価や見積原価と比較することです。原価差異は、次のように考えます。

原価差異 = 実際原価 − 標準原価

実際原価が標準原価を上回っていれば、不利差異です。下回っていれば、有利差異です。

とはいえ、差異の大小だけを見ても、あまり意味はありません。差異は、原因別に分解して初めて、経営判断に使えるものになります。

差異の種類主な原因
価格差異材料単価、仕入単価、外注単価、為替、仕入条件
数量差異使用量増加、歩留まり悪化、廃棄、不良、設計変更
労務差異作業時間超過、残業、習熟不足、手戻り
操業度差異稼働率不足、固定費過多、生産量不足
配合差異材料構成、商品ミックス、顧客ミックスの変化
工程差異段取り、待機時間、設備停止、品質不良
在庫差異滞留、棚卸差異、評価損、廃棄
見積差異受注時の原価見積り不足、追加作業の未請求

製造業では、売上原価を一行で管理するのではなく、材料費、労務費、外注費、物流費といった主要な要素に分けて管理することがあります。管理項目の粒度は業種・業態によって変えるべきもので、どこに着目して管理するかが鍵になります。

原価差異は、責任追及の材料ではありません。

次の見積り、価格交渉、工程改善、調達条件、設備投資の判断に活かすための材料です。

原価差異を見たときに確認すべき順番

原価差異が出たとき、いきなり「コスト削減せよ」と動くのは得策ではありません。まずは、その差異の性質を見極めることから始めます。

1. 一時的な差異か、継続的な差異か

突発的な材料高、臨時の対応、特定案件のトラブルであれば、一時的な差異かもしれません。

一方、数か月にわたって続いている差異であれば、標準原価、見積り、価格、工程、調達条件のいずれかに、構造的な問題が潜んでいる可能性があります。

2. 単価の問題か、数量・工数の問題か

同じ原価増でも、材料単価が上がっているのか、使用量が増えているのかで、打つべき手はまるで違ってきます。

単価が原因なら、仕入先との交渉、代替材料、価格転嫁、契約条件の見直しが論点になります。数量や工数が原因なら、歩留まり、品質、作業手順、設計、教育、設備、工程管理が論点になります。

3. 現場で管理できる差異か、経営判断が必要な差異か

現場改善で対応できる差異もあれば、経営判断が求められる差異もあります。

たとえば、原材料市況の上昇、最低賃金や人材確保にともなう労務費の上昇、外注先の値上げ、物流費の上昇、為替変動、設備老朽化による効率低下、低価格で受注し続けている営業方針。こうしたものは、現場だけでは解決できません。価格改定、取引条件、投資、撤退・集中の判断として、経営者自身が扱う必要があります。

4. 標準原価が古くなっていないか

原価差異がいつも大きく出る場合、現場が悪いのではなく、標準原価そのものが現実に合っていない可能性があります。

材料価格、賃率、外注単価、設備能力、製品仕様、作業工程、販売ミックスが変わっているのに、標準原価だけが昔のまま——これでは、差異分析は使い物になりません。

標準原価は、一度作って終わりではありません。定期的に見直していくものです。

原価企画は、売る前・作る前に利益を決める考え方

原価管理には、大きく二つの方向があります。

一つは、販売後・製造後に実際原価を確認して改善していく原価改善です。もう一つは、販売前・設計前・受注前に目標原価を作り込んでいく原価企画です。

原価企画とは、商品やサービスを市場に出す前、あるいは案件を受注する前に、目標利益から逆算して、許容できる原価を決めておく考え方です。

具体的には、次のように考えていきます。

販売価格は、市場や顧客価値から見ていくらが妥当か。会社として必要な粗利率はいくらか。その粗利を確保するために、許容できる原価はいくらか。現在の設計・仕様・工程・外注条件で、その原価に収まるか。収まらないなら、仕様、材料、工程、調達、販売条件をどう見直すか。

原価企画は、製品開発、サービス設計、受注見積り、新規事業、設備投資の前段階で、とりわけ重要になります。原価企画、標準原価管理、原価改善は別々のものではなく、コストマネジメント全体の中で一本につながっているのです。

原価企画を行わない会社では、次のような問題が起こりがちです。

売ってから、赤字だったと分かる。受注後に、外注費が膨らんでいく。開発後に、原価が高すぎて利益が出ない。営業が値引きしても、どこまで許容できるのか分からない。高機能・高品質にしすぎて、顧客が支払う価格と合わない。設備投資の後に固定費が増え、採算ラインが上がってしまう。

原価は、発生してから管理するだけでは遅い、ということがあります。売る前、作る前、投資する前に管理しておくこと。これが大切です。

原価改善は、現場の努力だけに任せない

原価改善とは、既存の商品・サービス・工程・案件について、実際原価を改善していく活動のことです。

ただ、原価改善を現場の努力だけに委ねてしまうと、どうしても限界があります。

本当に必要なのは、現場改善、調達改善、設計改善、営業条件の見直し、設備投資、人員配置を組み合わせていくことです。

改善対象主な打ち手
材料費代替材料、規格統一、歩留まり改善、発注単位の見直し
仕入・外注費仕入先交渉、相見積り、支給材、内外製の見直し
労務費標準作業、教育、段取り改善、手戻り削減
製造間接費設備稼働率、保守費、光熱費、間接人員の配置
不良・手直し品質改善、検査工程、設計見直し、原因分析
物流費配送頻度、積載率、拠点配置、納品条件
在庫適正在庫、滞留在庫、発注点、廃棄基準
見積り原価見積りの精度、追加作業の請求、契約条件

調達活動は、企業のコスト競争力や収益を生み出す力を考えるうえで、極めて重要な領域です。企業の総コストのうち大きな部分が外部からの調達に関係するため、調達は営業活動と同じように、戦略的な経営機能として扱う必要があります。

さらに、調達部門が管理していない間接材コストも見落とせません。間接材コストは調達コストのかなりの部分を占めることがあり、短期的にも改善の余地を持つ領域です。

原価改善とは、現場に「もっと頑張れ」と言うことではありません。

どこに改善の余地があるのかを数字で特定し、経営として打ち手を選んでいくことです。

原価管理は価格判断と直結する

原価管理ができていない会社では、価格判断がどうしても感覚的になりがちです。

競合がこの価格だから。長年この単価で取引してきたから。大口の顧客だから値上げできない。営業が取ってきた案件だから断れない。値上げすると失注が怖い——。

これらの判断が、すべて誤りというわけではありません。しかし、原価を把握しないまま価格を決めると、売上は増えても利益が残らない、という状態に陥りやすくなります。

価格判断では、少なくとも次の数字を確認しておきたいところです。

現行単価での粗利率。材料費・外注費・労務費の上昇額。値上げしなかった場合の利益減少額。値上げした場合に許容できる販売数量の減少。取引先別・商品別・案件別の採算。値上げできない取引先への代替策。値下げする場合に必要な数量増加。最低限確保すべき限界利益。

原価管理ができている会社は、「原価が上がったので値上げしたい」と言うだけにとどまりません。「この原価構造では、この価格水準でなければ必要な利益を確保できない」と説明できるのです。

これは顧客との交渉だけでなく、金融機関や後継者、買い手といった外部関係者への説明にも関わってきます。

原価管理は設備投資判断にも使う

設備投資は、原価改善の有力な打ち手になることがあります。

新しい機械を入れれば、作業時間が短くなる。検査装置を導入すれば、不良率が下がる。システム化すれば、事務工数が減る。自動化すれば、人手不足にも対応できる。省エネ設備によって、光熱費が下がる——。

ただし、設備投資は購入時の支出だけで判断してはいけません。

投資額、減価償却費、借入返済、保守費、稼働率、教育コスト、故障リスク、必要売上、そして資金繰りへの影響まで、あわせて見ていく必要があります。

設備投資や投融資のように、金額が大きく、影響が長期にわたる投資は、企業にとって重要な意思決定です。資金予算では、売上高予算、販売費予算、製造原価予算などから現金収支に関係するものを取り出し、資金の不足する時期や調達の手段を計画しておくことが大切になります。

原価を下げるための投資であっても、資金が回らなければ実行できません。また、投資によって固定費が増えれば、損益分岐点が上がってしまうこともあります。

設備投資の判断では、次のように確認していきます。

投資によって、どの原価がいくら下がるのか。その削減効果は、売上増によるものか、単価改善か、それとも工数削減か。減価償却費や保守費を含めても、利益は増えるのか。借入返済を含めても、資金繰りは回るのか。想定した稼働率を下回った場合、採算はどうなるのか。品質、納期、顧客対応力は改善するのか。既存の設備や人員への影響はどうか。

原価改善の効果を数字で説明できない設備投資は、慎重に検討すべきです。

逆に、原価改善と資金計画が整合している投資は、成長に向けた有力な選択肢になります。

原価管理は在庫管理・資金繰りともつながる

原価管理を損益だけで考えると、在庫と資金の問題を見落としてしまいます。

在庫は、会計上は資産です。

しかし資金繰りの面から見れば、現金が在庫に姿を変えて固定化している状態でもあります。

在庫が増えれば、欠品のリスクは下がるかもしれません。けれども、その分だけ資金は寝てしまいます。保管費もかかります。滞留や廃棄のリスクもあります。やがて値下げ販売が必要になることもあるでしょう。

在庫予算は、欠品を起こさず、かつ無駄な在庫を極力減らすための計画です。生産量が多すぎれば過剰在庫となり、少なすぎれば欠品となる。どちらに振れても、財務には負の影響を与えます。

ですから原価管理では、在庫を単なる「売上原価の計算要素」として見るのではなく、利益と資金の両面から見ていく必要があります。

確認しておきたい項目は、次のとおりです。

在庫回転日数は長くなっていないか。売れ筋と死に筋は分かれているか。滞留在庫や陳腐化在庫はないか。大量仕入による単価低下と、在庫負担とのバランスは取れているか。材料在庫、仕掛品、製品在庫のどこに資金が滞留しているか。棚卸差異や廃棄ロスは原価に反映されているか。欠品による機会損失も見ているか。

なお、製品数が多い場合には、すべてを細かく月次で見ることが現実的でないこともあります。そうしたときは、製品カテゴリーや事業セグメント単位にまとめて金額ベースで管理し、大きな差異が出たときに細かい単位へ分解する。これが実務的なやり方です。

中小・中堅企業では、原価管理を精密にしすぎて続かなくなるよりも、重要な在庫、重要な商品群、重要な案件から管理を始めるほうが、現実に即しています。

原価管理は部門別採算と一緒に見る

原価管理は、全社合計で見るだけでは十分とはいえません。

事業別、部門別、商品別、取引先別、プロジェクト別に見て、初めて改善すべき場所が見えてきます。

全社では粗利率が下がっている。けれども、どの商品が下げているのか分からない。どの取引先が低採算なのか分からない。どの部門で外注費が増えているのか分からない。どの案件で工数超過が起きているのか分からない——。

この状態では、経営判断には使えません。

部門別採算を整え、そこに原価情報を組み込んでいくと、次のような判断ができるようになります。

高粗利の商品に経営資源を集中する。低採算の取引先について、価格や条件を見直す。外注費が増えている部門の内外製を見直す。工数超過が多い案件は、見積りのルールを変える。原価率の高い商品については、設計や仕様を見直す。採算の悪い事業は、縮小・撤退・再設計を検討する。

経営計画を実行していく場面でも、製品・商品・工事の個別採算管理を徹底し、品質・コスト・納期の視点から改善していくことが重要です。

原価管理は、部門別採算の精度を高めるための土台でもあるのです。

原価管理の実務ステップ

原価管理は、最初から完璧な原価計算制度を作る必要はありません。

中小・中堅企業では、次の順番で実務に落とし込んでいくのが現実的です。

1. まず管理対象を絞る

すべての商品、すべての取引先、すべての案件を、はじめから細かく管理しようとすると、実務が回らなくなってしまいます。

まずは、利益へのインパクトが大きい領域から始めます。

売上上位の商品。粗利率が低い商品。主要な取引先。赤字になりやすい案件。材料費の大きい製品。外注費の大きい工程。在庫金額の大きい商品群。値上げ判断が必要な商品・サービス。

重要なところから見える化するだけでも、経営判断の質は大きく変わってきます。

2. 原価の構成を分解する

次に、対象ごとに原価の構成を分けていきます。

材料費、仕入原価、外注費、労務費、製造間接費、物流費、不良費、在庫関連費、販売手数料など、経営判断に影響する項目に分けます。

ここで大切なのは、細かさよりも「意思決定に使えること」です。

材料費を細かく分けるべき会社もあれば、労務工数を重視すべき会社もあります。外注費や物流費を優先すべき会社もあるでしょう。

3. 標準原価・予定原価を設定する

過去実績、見積り、現場の情報、調達条件をもとに、標準原価または予定原価を設定します。

このとき、現場の感覚だけでも、経理の数字だけでも不十分です。営業、製造、購買、経理、そして経営者が、前提を共有しておく必要があります。

4. 実際原価を月次で把握する

標準を作っても、実際原価を把握できなければ意味がありません。

売上、仕入、外注、労務工数、在庫、棚卸、支払条件などを、月次で確認できるようにしておきます。月次決算が遅い会社では、原価差異の発見もそれだけ遅れてしまいます。

5. 差異を原因別に分解する

原価差異が出たら、価格差異、数量差異、工数差異、操業度差異、在庫差異などに分けていきます。

「原価が高い」で止めるのではなく、「なぜ高いのか」まで分解する。ここが分かれ目です。

6. 打ち手を経営判断に変える

最後に、差異分析を具体的な打ち手へと変えていきます。

価格改定。仕入先交渉。外注範囲の見直し。設計変更。工程改善。標準作業の整備。設備投資。在庫圧縮。受注基準の見直し。低採算商品の縮小。高採算商品への集中。

ここまでつながって、初めて原価管理は「経営判断に使える状態」になります。

原価管理でよくある失敗

原価率だけを見て判断する

原価率は重要な指標ですが、それだけでは判断できません。

原価率が低くても、売上規模が小さければ、利益額そのものは小さいかもしれません。逆に、原価率が高くても、限界利益額が大きく、固定費の回収に貢献している場合もあります。

新規事業や新製品では、立ち上げ時の原価率が高くても、将来改善していく前提があることもあります。

原価率だけでなく、利益額、限界利益、固定費、資金、将来性。これらをあわせて見ていく必要があります。

標準原価を更新しない

標準原価が古いままでは、差異分析が意味を失ってしまいます。

材料単価、外注単価、賃率、設備能力、作業工程、品質水準、販売構成が変わったら、標準原価のほうも見直していく必要があります。

原価差異を現場責任にしすぎる

差異の原因が、営業条件、価格設定、設計、調達方針、設備老朽化、経営資源の不足にある場合、現場だけでは解決できません。

原価差異は、責任追及よりも、原因整理のために使うべきものです。

コスト削減で品質・納期を犠牲にする

原価を下げても、品質低下や納期遅延で顧客を失ってしまっては、本末転倒です。

原価管理は、あくまで品質・コスト・納期のバランスの中で考える必要があります。

在庫と資金を見ない

原価率が改善しても、在庫が増えて資金が寝てしまえば、経営は苦しくなります。

原価管理は、損益だけでなく、資金繰りと一体で見ていくものです。

会計処理と管理会計を混同する

税務申告や決算書作成のための原価計算と、経営判断のための原価管理は、そもそも目的が違います。

もちろん、会計処理・税務処理との整合性は必要です。しかし、経営判断に使う管理会計では、商品別・取引先別・案件別・部門別に見える形へと、あらためて設計し直すことが欠かせません。

原価管理を金融機関・外部関係者への説明に使う

原価管理は、社内の利益改善だけでなく、外部への説明にも力を発揮します。

金融機関は、単に売上が伸びているかだけを見ているわけではありません。利益が残る構造になっているか、返済の原資があるか、原価上昇にきちんと対応できているか。こうした点を見ています。融資審査では、事業内容、業績、今後の見通し、資金使途、返済原資などが、総合的に確認されます。

原価管理ができている会社は、次のような説明がしやすくなります。

粗利率が低下した原因。材料費上昇への対応策。価格改定の進捗。不採算商品の見直し状況。設備投資による原価改善の効果。在庫圧縮による資金改善の効果。今後の利益計画の前提。

これは金融機関への対応だけでなく、事業承継、M&A、外部資本の受け入れ、後継者への説明にもつながっていきます。

会社の価値を説明するうえで、「売上がある」というだけでは足りません。

どの事業・商品・顧客で、どれだけの利益を生み、どのような原価構造によってそれが維持されているのか。ここまで説明できることが、大きな意味を持ちます。

まとめ|原価管理は、利益を守り、成長判断を強くするための仕組みである

原価管理は、経費削減のリストを作ることではありません。

原価の構成を分解し、標準原価と実際原価を比較し、差異の原因を整理する。そして、価格、採算、投資、調達、在庫、資金繰りの判断につなげていく。これが原価管理です。

原価が分からなければ、適正な価格も分かりません。商品別・取引先別・案件別の採算も見えてきません。設備投資による改善効果も説明できません。金融機関や後継者、外部関係者に収益力を説明することも、難しくなってしまいます。

一方で、原価管理を重くしすぎる必要はありません。

中小・中堅企業では、まず利益へのインパクトが大きい商品、取引先、案件、部門から始めるのが現実的です。細かさそのものよりも、毎月確認でき、経営会議で打ち手に変えられること。ここを大事にしていただきたいと思います。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、月次決算、変動損益計算、部門別採算、原価管理、予実管理、資金繰りを、経営判断に使える形へ整える支援を行っています。

「原価が高いと感じているが、原因が分からない」 「商品別・取引先別・案件別の採算を見える化したい」 「値上げ、外注見直し、設備投資の判断を数字で整理したい」 「月次決算の数字を、利益改善の打ち手につなげたい」

こうした課題をお持ちの場合は、お問い合わせページからお気軽にご相談ください。

数字を細かくすること自体を目的にするのではなく、貴社の実務体制の中で続けられる原価管理の設計から、経営判断に使える月次レビューまで、ご一緒に整理してまいります。

振り返り

項目確認すべきポイント
原価管理の目的コスト削減ではなく、価格・採算・投資・調達・資金の判断に使う
会計上の原価との違い決算書作成のための売上原価と、経営判断のための管理原価は目的が異なる
原価構成材料費、仕入、外注費、労務費、製造間接費、物流費、不良費、在庫関連費に分ける
変動費・固定費売上に連動する費用と、構造として抱える固定費を分けて見る
標準原価通常条件で本来発生するはずの原価を設定し、判断基準にする
実際原価実際に発生した原価を月次で把握し、標準との差異を見る
原価差異価格差異、数量差異、工数差異、操業度差異、在庫差異などに分解する
原価企画売る前・作る前・投資する前に、必要利益から許容原価を逆算する
原価改善現場改善、調達改善、設計改善、営業条件の見直しを組み合わせる
価格判断原価上昇、必要粗利、販売数量の変化を踏まえて値上げ・値下げを判断する
設備投資原価改善効果だけでなく、減価償却、借入返済、稼働率、資金繰りを見る
在庫管理原価だけでなく、資金固定化、滞留、廃棄、欠品リスクを確認する
部門別採算原価情報を事業別・商品別・取引先別・案件別に紐づけて見る
よくある失敗原価率だけで判断する、標準原価を更新しない、差異を現場責任にしすぎる
外部説明原価構造、粗利改善、価格改定、投資効果を金融機関や外部関係者に説明できるようにする

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