会社全体では黒字。売上も大きく落ち込んではいない。それなのに、なぜか手元に資金が残らない――。
「どの事業に力を入れるべきか、いまひとつ判断できない」「現場ごとの肌感覚はあるけれど、数字で説明できない」。中小・中堅企業の経営者の方から、こうしたお話をうかがうことは少なくありません。
その原因の一つが、会社全体の損益しか見ていないことにあります。全社の売上高、全社の粗利、全社の営業利益。確かにこれらは大切な数字ですが、それだけを眺めていると、肝心なことが見えてきません。どの事業が利益を生んでいるのか。どの部門が固定費を重くしているのか。どの取引先や商品、プロジェクトが採算を悪化させているのか。
全社合計の数字をただ追っているだけでは、売上高や利益率、固定費、経常利益が動いたときに、「なぜそうなったのか」「ではどうすべきか」を考える糸口がつかみにくいのです。全社合計を部門、科目、得意先などに分けて比べてみる。そうすることで、はじめて数字の変化の原因を一段深く掘り下げられるようになります。
念のため申し添えておくと、部門別採算は、会社を細かく管理して縛りつけるための仕組みではありません。会社の利益構造を見える化し、伸ばす事業、改善する事業、見直す事業を見極めるための、いわば道具です。
部門別採算とは何を見るものか
部門別採算とは、会社全体の売上・費用・利益を、事業、店舗、支店、部署、商品群、取引先、プロジェクトといった管理単位ごとに分けて把握する考え方です。
たとえば、次のような切り口があります。
| 切り口 | 主な目的 |
|---|---|
| 事業別 | どの事業が利益を生んでいるかを見る |
| 店舗・拠点別 | 店舗、支店、営業所ごとの採算を確認する |
| 部署別 | 営業、製造、開発、管理などの役割別に見る |
| 商品・サービス別 | 高採算商品、低採算商品の構成を確認する |
| 取引先別 | 主要顧客への依存度、採算、伸び方を確認する |
| プロジェクト別 | 案件ごとの利益、原価超過、工数超過を確認する |
| 担当者別 | 営業・案件管理上の参考情報として見る |
ここで気をつけたいのは、最初から細かく分けすぎないことです。部門別採算は、細かければ細かいほどよい、というものではありません。入力の負担が増え、月次の処理が遅れ、部門間で数字の押し付け合いが起きるようでは、かえって経営判断には使えなくなってしまいます。
ですから、まず考えるべきは「自社は何を判断するために部門別採算を見たいのか」という一点です。
不採算事業を見つけたいのか。伸ばすべき事業を見極めたいのか。店舗別の収益性を確認したいのか。取引先別の採算を知りたいのか。商品構成や価格改定を検討したいのか。あるいは、設備投資や人員配置の優先順位を決めたいのか。
目的が曖昧なまま部門コードだけを増やしても、使える管理会計にはなりません。
全社利益だけでは、儲かる事業も不採算事業も見えない
全社で黒字だからといって、すべての事業が儲かっているとは限りません。
実際には、高収益の事業が低収益の事業を支えていることがあります。特定の大型取引先が、会社全体の利益を押し上げているケースもあります。一見すると売上が大きい部門が、ふたを開けてみれば原価や人件費を多く使い、利益をほとんど残していない、ということも珍しくありません。
逆もまた然りです。売上規模は小さくても、限界利益率が高く、固定費の負担が軽い事業が、実は会社の利益を静かに支えていることもあるのです。
部門別に変動損益計算書を分けてみると、売上高から経常利益までを部門ごとにたどることができます。すると、どの部門が売上の増加に貢献しているのか、どの部門が稼ぎ頭で、どの部門が足を引っ張っているのかが、はっきりと見えてきます。
全社利益だけで経営判断を進めてしまうと、次のような誤りが起きやすくなります。
- 売上規模が大きい事業を、利益貢献も大きい事業だと思い込んでしまう
- 赤字に見える部門を、共通費配賦後の数字だけを理由に撤退候補にしてしまう
- 高採算の取引先を見落とし、低採算の取引先に経営資源を使い続けてしまう
- 現場の忙しさを、利益への貢献と取り違えてしまう
- 新規事業の赤字が、投資段階のものなのか、構造的なものなのか判断できない
- 部門間の内部取引や共通費の負担を考慮せず、誤った責任評価をしてしまう
部門別採算は、こうした判断ミスを減らすために欠かせないものです。
部門別採算で見るべき利益は一つではない
部門別採算をつくるとき、最初から「部門別営業利益」だけを見ようとすると、かえって判断を誤ることがあります。利益は、段階を追って見ていく必要があるのです。
| 利益段階 | 意味 |
|---|---|
| 売上高 | 部門がどれだけ販売・提供したか |
| 変動費・直接原価 | 売上に連動して発生しやすい費用 |
| 限界利益・粗利 | 固定費を回収する前の利益貢献 |
| 部門固有費 | その部門に直接紐づく固定費 |
| 直接利益・部門貢献利益 | 部門が共通費負担前にどれだけ利益を生んでいるか |
| 共通費配賦額 | 本社費、管理部門費などを部門に割り振った金額 |
| 配賦後利益 | 共通費負担後の部門利益 |
とりわけ大切なのは、直接利益と配賦後利益を分けて見ることです。
直接利益は、その部門が自らの売上と、直接費用・部門固有費だけでどれだけ利益を生んでいるかを示します。一方の配賦後利益は、本社費や共通部門費まで負担したあとの利益です。
部門別損益を分析するときには、全社の組織図を踏まえて部門の設定を理解し、事業部門と共通サービス部門、部門間取引、部門固有費、部門共通費、そして共通費の配賦基準・配賦額を把握しておくことが重要になります。
この区分をしないまま数字を見ると、部門そのものの実力と、全社負担とを混同してしまいます。
共通費配賦は必要だが、万能ではない
部門別採算で最も議論になりやすいのが、この共通費の配賦です。
共通費とは、特定の部門だけでなく、会社全体に関係する費用を指します。本社家賃、管理部門の人件費、経理・人事・総務・経営企画の費用、全社広告宣伝費、社長報酬、共通システム費などがこれにあたります。
共通費を配賦しなければ、各部門は本社機能や管理体制の負担を意識しにくくなります。とはいえ、配賦基準が粗ければ、今度は部門の納得感が損なわれ、数字そのものへの信頼が下がってしまいます。
配賦基準には、売上高、人員数、使用面積、工数、直接費、取引件数、システム利用量などがあります。どれか一つが絶対に正しい、というものではありません。費用の性質に応じて、できるだけ合理的な基準を選んでいくことになります。
たとえば、家賃なら使用面積、人事労務費なら人員数、経理処理費用なら取引件数、全社広告費なら売上高や事業方針に応じた配賦、といった具合です。ただし中小・中堅企業の場合、過度に精密な配賦を追い求めるよりも、継続して使える配賦基準を定め、毎月同じ考え方で比較できることのほうがずっと大切だと、私は考えています。
共通費は、特定の部門がなくなったからといって、比例して減るとは限らない費用です。ですから、配賦後の部門損益が赤字であっても、それだけでその部門が全社損益に貢献していない、とは言い切れません。共通費の回収に貢献している可能性が、十分にあるからです。
ここは実務上、とても重要なところです。
「配賦後が赤字だから撤退する」「配賦前が黒字だから問題ない」――どちらも、いささか短絡的だと言わざるを得ません。
撤退や縮小を判断する場合は、少なくとも次の点を確認しておく必要があります。
- その部門をやめたら、売上はどれだけ減るか
- 変動費はどれだけ減るか
- 部門固有費はどれだけ減るか
- 共通費は、実際にはどれだけ減るのか
- 他部門への売上・仕入・人員・信用への影響はないか
- 顧客基盤、技術、許認可、ノウハウといった将来価値はあるか
- 撤退に伴う一時費用や資金流出はないか
部門別採算は、撤退判断の入口にはなります。けれども、配賦後利益だけで撤退の結論まで出してしまうのは、避けるべきです。
部門別採算は「直接利益」を重視して見る
中小・中堅企業で実務的に使いやすいのは、まず直接利益を重視する見方です。
直接利益とは、売上から変動費を差し引き、さらにその部門に直接関係する固定費を差し引いた利益のこと。ここでは、共通費の配賦はいったん脇に置いて考えます。
直接利益が黒字であれば、その部門は少なくとも共通費を回収するための原資を生んでいることになります。反対に、直接利益が赤字であれば、その部門は共通費を負担する前の段階から、すでに全社利益を悪化させている可能性があります。
もちろん、新規事業や研究開発、将来の成長投資の段階にある部門では、一定期間の直接赤字が許容されることもあります。ただしその場合でも、「いつまでに、どの水準まで改善するのか」という管理は欠かせません。
直接利益を見ることで、次のような判断がしやすくなります。
- 売上は大きいが、限界利益率が低い部門はどこか
- 固定費が重く、一定の売上を超えないと利益が出ない部門はどこか
- 売上規模は小さいが、効率よく利益を出している部門はどこか
- 共通費を負担する前から赤字になっている部門はどこか
- 価格改定、原価改善、固定費の見直し――必要なのはどれか
部門別採算の第一歩は、全社利益を分けること。そして次の一歩が、配賦前の利益と配賦後の利益を分けて見ることです。
取引先別・商品別・プロジェクト別に見ると、さらに原因が分かる
部門別採算は、事業部や店舗の単位で終わらせる必要はありません。むしろ、利益改善の具体的な打ち手を考えるなら、取引先別、商品別、プロジェクト別の採算まで見ていくことが有効です。
取引先別採算
取引先別に見ると、売上規模、粗利率、回収条件、値引き、返品、追加対応、物流負担、与信リスクといったものが浮かび上がってきます。
売上高の増減の理由を探るには、得意先別の増減内訳を確認するのが近道です。取引先別に分けてみることで、どの得意先の売上が伸びているのか、どこの売上が減少傾向にあるのかが見えてきます。
取引先別採算で見るべきは、売上の順位だけではありません。
- 売上は大きいが、値引きが多い取引先
- 対応工数がかさみ、実質的な採算が低い取引先
- 回収サイトが長く、資金繰りを圧迫している取引先
- クレームや追加対応が多い取引先
- 将来性があり、重点的に深耕すべき取引先
- 取引依存度が高く、リスク管理が必要な取引先
大口の顧客は、もちろん重要です。しかし、大口であることと、高採算であることは、決してイコールではありません。
商品・サービス別採算
商品別に見ると、商品構成の変化が利益率にどう影響しているかを把握できます。
売上規模の分析を終えたら、次は売上の種類に応じた収益性、つまり製品ごとの粗利率を見ていきます。製品ごとの収益性分析は、全体の粗利率がなぜ変化したのかを理解するうえで、代表的な切り口の一つです。
商品別採算では、次のような点を確認します。
- 高粗利商品と低粗利商品の構成比
- 売上は伸びているが、粗利率が低下している商品
- 販売数量は少ないが、高利益の商品
- 価格改定が必要な商品
- 原価上昇を価格に転嫁できていない商品
- 販売を続けることで、他の商品の販売につながる商品
- 在庫負担や廃棄リスクが高い商品
商品別採算は、価格判断、販売戦略、在庫管理、調達交渉と、そのまま地続きでつながっています。
プロジェクト別採算
建設業、システム開発、広告制作、コンサルティング、受託製造など、案件単位で仕事が動く業種では、プロジェクト別採算が重要になります。
ここで見るのは、受注時の見積り、実行予算、実際原価、追加作業、外注費、工数、納期遅延、手戻り、検収条件といった項目です。
プロジェクト別採算を見ていない会社では、次のような問題が起きやすくなります。
- 受注時は利益が出る予定だったのに、ふたを開けると赤字になっている
- 追加作業を無償で対応し、利益が削られていく
- 外注費が膨らんで、粗利が消えてしまう
- 現場の工数超過が、経営に伝わってこない
- 赤字案件の原因が、見積り・設計・営業条件・現場管理のどこにあるのか分からない
プロジェクト別採算は、単に案件ごとの黒字・赤字を眺めるためのものではありません。次の見積り精度を上げていくための、貴重な情報なのです。
部門別採算を作るには、入力前の設計が重要になる
部門別採算は、試算表ができあがったあとで慌てて分けようとしても、おのずと限界があります。
経営に使う数字は、入力したあとではなく、入力する前の設計で決まります。部門、補助科目、取引先、プロジェクトといった管理単位をどう設定するか。それが、後々の分析の幅を大きく左右するのです。
たとえば、売上をすべて「売上高」一本で処理していると、商品別・サービス別・取引先別の分析は、あとから手をつけても難しくなります。外注費や仕入を部門に紐づけずに処理していれば、部門別の限界利益は正しく見えてきません。人件費や設備費をどの部門に負担させるかを決めていなければ、部門別利益は毎月ぶれてしまいます。
月次決算の実務では、部門業績比較表のように、売上高、変動費、限界利益、人件費、固定費、部門利益、共通固定費配賦後の利益などを部門ごとに確認できる仕組みが役立ちます。
ただ、システムを導入しさえすれば部門別採算ができる、というわけではありません。必要なのは、次のような設計です。
- どの単位を部門として管理するか
- 売上をどの部門に紐づけるか
- 仕入・外注・材料費をどの部門に紐づけるか
- 人件費をどの部門に紐づけるか
- 兼務者の費用をどう扱うか
- 共通費を配賦するか、しないか
- 配賦するなら、どの基準を使うか
- 部門間取引を計上するか
- 取引先別・商品別・プロジェクト別の管理を、どこまで行うか
- 月次で誰が確認し、誰が修正するか
部門別採算は、経理だけの作業ではありません。経営者、現場責任者、経理担当者、そして外部の専門家が、管理の目的を共有したうえで設計していくべきものです。
部門間取引と社内価格を放置しない
複数の部門で一つの取引を担当している会社では、部門間取引や社内価格の扱いが問題になります。
たとえば、製造部門が作った製品を販売部門が売る。本社が一括で仕入れ、各店舗に配分する。開発部門が作ったサービスを営業部門が販売する。親会社やグループ会社との取引がある。共通設備を複数の部門が使っている――こうした場合、どの部門に売上・原価・利益を帰属させるかを、あらかじめ決めておかなければなりません。
部門間売上や仕切価格を曖昧なままにしておくと、部門別採算はあっという間に歪んでしまいます。製造部門が内部売上を高く計上すれば、販売部門の利益は下がります。逆に販売部門が値引きして売れば、製造部門の採算はよく見えても、全社の利益はかえって悪化します。
部門別損益を分析する際には、こうした部門間売上の計上方法や、部門間の内部売上取引をきちんと把握しておくことが重要です。
中小・中堅企業の場合、最初から複雑な社内価格制度をつくる必要はありません。ただ、少なくとも次のルールは決めておきたいところです。
- 部門間取引を計上するかどうか
- 計上する場合、価格は原価ベースか、市場価格ベースか
- 値引きの責任は、どの部門が負うか
- 共通在庫や共通設備の費用は、どの部門が負担するか
- 社内取引の利益を、全社利益と二重に見てしまわないようにするか
部門別採算は、部門間の競争を煽るためのものではありません。部門ごとの責任と貢献を明確にし、全社にとって最適な判断を下すためのものです。
共通費配賦後の赤字部門をどう読むか
部門別採算を導入すると、ほぼ必ずと言ってよいほど、「この部門は赤字なのか」という議論が起こります。
しかし、赤字という言葉が指すものを、いくつかに分けて考える必要があります。
- 限界利益の段階で赤字なのか
- 部門固有費を引いた直接利益で赤字なのか
- 共通費配賦後に赤字なのか
- 一時的な投資による赤字なのか
- 構造的な赤字なのか
- 撤退すれば、本当に費用が減るのか
たとえば、配賦後は赤字でも、直接利益が黒字であれば、その部門は共通費の回収に貢献している可能性があります。逆に、配賦前の段階から赤字であれば、事業の構造そのものを見直す必要が高くなります。
共通費配賦後の赤字だけを見て撤退を決めてしまうと、残された共通費が他の部門に再配賦され、今度は他部門の利益までもが悪く見えてくることがあります。これを繰り返すうちに、全社として本当に減らすべき固定費には手を付けないまま、売上と限界利益だけを失っていく――そんな事態になりかねません。
撤退の判断では、配賦後の損益だけでなく、撤退後に消える費用、残る費用、失う限界利益、資金への影響、顧客への影響、そして将来価値を、それぞれ分けて確認していく必要があります。
部門別採算は、予算管理・経営会議とつなげて初めて機能する
部門別採算は、つくって終わりではありません。
毎月、予算や前月実績、前年同月と比較し、差異の原因を確認して、次の行動を決めていく。そこまでやって、ようやく意味を持ちます。
そもそも予算管理の目的は、分業化された組織のなかで各部門が足並みをそろえ、全社の目標を達成することにあります。営業、製造、購買、研究開発、マーケティングがそれぞれバラバラに動いていては、企業全体として良いパフォーマンスは発揮できません。
部門別採算は、まさにこの「足並み」を数字で確認するための道具なのです。
- 営業部門は売上を追っているが、低採算の案件が増えていないか
- 製造部門は原価を抑えているが、品質や納期に影響していないか
- 購買部門は仕入単価を下げているが、在庫や品質のリスクを増やしていないか
- 管理部門の費用は、全社の成長や統制に見合った水準か
- 新規事業部門は、当初の投資計画と比べて進捗しているか
部門別採算を経営会議で使うときに大切なのは、これを責任追及の資料にしないことです。「なぜ未達なのか」と責めるのではなく、「どの前提が違っていたのか」「次に何を変えるのか」を議論するために使う。そういう姿勢が欠かせません。
部門別採算は、人事評価と直結させすぎない
部門別採算を導入すると、部門長の評価に使いたくなることがあります。
部門ごとの利益責任を明確にすること自体は、もちろん重要です。ただ、部門別の利益をそのまま人事評価に直結させてしまうと、思わぬ弊害が出ることがあります。
- 採算のよい案件ばかりを取りに行くようになる
- 共通の業務を避けるようになる
- 部門間の協力が弱くなる
- 費用の押し付け合いが起こる
- 将来投資を避け、短期の利益だけを優先するようになる
- 数字の付け替えや、恣意的な処理が起こる
部門別採算は、あくまで経営判断のための情報です。仮に人事評価に使うとしても、利益だけでなく、顧客対応、品質、納期、人材育成、改善活動、将来投資、全社への貢献まで、合わせて見る必要があります。
数字はもちろん重要です。けれども、数字だけで人を評価すると、「数字を悪くしない行動」が優先され、会社全体にとって本当に必要な行動が後回しにされてしまうことがあるのです。
部門別採算は、成長投資・撤退判断・M&Aにもつながる
部門別採算は、日常の管理だけのための資料ではありません。将来の大きな経営判断にも、深く関わってきます。
- どの事業に設備投資をするか
- どの部門に人員を増やすか
- どの事業を縮小するか
- どの取引先への依存を下げるか
- どの商品を値上げするか
- どの事業をM&Aで取得・売却するか
- 後継者に、どの事業構造を引き継ぐか
- 金融機関に、どう成長計画を説明するか
複数の事業で損益構造が異なる場合、事業別の分析は欠かせません。また、M&Aや事業売却の場面では、部門別損益の作成方法、共通費の配賦、内部取引、スタンドアローンで発生するコストなどが、検討の対象になってきます。
これは、何も特別な会社に限った話ではなく、ごく一般的な中小・中堅企業にも関わってきます。外部の買い手、金融機関、後継者、投資家に対して、「この会社はどこで稼いでいるのか」を説明できるかどうか。それが、信用力や選択肢の幅に直結するからです。
部門別採算が整っている会社は、外部への説明がしやすくなります。逆に、全社利益しか把握していない会社は、事業ごとの収益力やリスクを説明しにくくなってしまいます。
部門別ROIC・事業ポートフォリオへ発展させる考え方
部門別採算が整ってくると、次の段階では、利益だけでなく投下資本まで見ていくことができます。
売上と利益だけを見ていると、少ない資産で効率よく稼ぐ事業と、多くの在庫・設備・売掛金を抱えてようやく利益を出している事業との違いが、見えにくくなります。
事業別ROICの考え方では、事業ごとの投下資本と利益を見える化し、どの事業がどれだけの資本を使って、どれだけ稼いでいるのかを確認します。事業別ROICを見える化することは、経営資源の配分や改善施策を検討するうえで有効な手立てとなります。
ただし、この記事の範囲では、ROICの詳細な計算までは扱いません。まずは、部門別の売上、限界利益、直接利益、配賦後利益を見える化することが先決です。
それができて初めて、事業別の資産、運転資金、設備投資、資本効率にまで議論を進められるようになります。
部門別採算を導入するときの実務ステップ
部門別採算を実務に落とし込んでいくには、次の順番で進めると現実的です。
1. 目的を決める
まずは、何を判断したいのかを決めます。事業別に見るのか、店舗別か、商品別か、取引先別か、プロジェクト別か。目的が決まらなければ、管理単位も決まりません。
2. 管理単位を絞る
最初から細かく分けすぎないことが肝心です。まずは、経営判断に必要な大きな単位から始めましょう。たとえば、事業別、店舗別、主要商品群別、主要取引先別、といったところからです。
3. 売上と変動費を紐づける
部門別採算では、売上と変動費の対応関係が重要です。どの売上に、どの仕入・外注・材料費・販売手数料が対応しているのか。これを見えるようにしておきます。ここが曖昧だと、限界利益や粗利率が正しく見えてきません。
4. 部門固有費を整理する
人件費、家賃、設備費、広告費、通信費、車両費などを、部門固有費と共通費に分けていきます。その部門がなくなれば減る費用なのか、それとも会社全体として残る費用なのか。この区分が、直接利益の判断に効いてきます。
5. 共通費の扱いを決める
共通費を配賦するか、しないか。配賦するなら、どの基準にするか。配賦後利益をどこまで重視するか。このルールは、毎月変えないことが大切です。
6. 月次で確認する
部門別採算は、年に1回では遅すぎます。月次で確認し、売上、限界利益率、固定費、直接利益、資金への影響を見ていきます。
7. 経営会議で打ち手に変える
数字を見て終わりにせず、次の行動に変えていきます。価格を見直す。原価を下げる。取引条件を変える。人員配置を変える。広告費を見直す。低採算の案件を絞る。伸ばす部門に投資する。撤退・縮小の条件を整理する――。
部門別採算は、表をつくること自体に意味があるのではありません。打ち手を決めてこそ、意味があるのです。
部門別採算でよくある失敗
細かく分けすぎて続かない
部門、商品、取引先、案件を細かく分けすぎると、入力の負担が大きくなり、経理処理が遅れます。月次決算が遅れれば、当然、経営判断には使えません。管理単位は、判断に使う範囲に絞り込むべきです。
配賦基準を毎月変える
配賦基準を毎月変えていると、比較ができなくなります。部門長からも「数字が恣意的だ」と見られてしまいます。配賦基準は、完璧でなくてもかまいません。それよりも、合理性と継続性を重視すべきです。
配賦後赤字だけで撤退判断をする
配賦後が赤字でも、直接利益が黒字であれば、共通費の回収に貢献している可能性があります。撤退の判断では、撤退後に本当に消える費用と、残る費用とを分けて見る必要があります。
売上だけで部門を評価する
売上が大きい部門が、必ずしも儲かっているとは限りません。限界利益率、固定費、資金回収、在庫負担まで、合わせて見る必要があります。
現場の納得感を無視する
部門別採算は、現場が納得しなければ機能しません。配賦基準や部門費用の考え方について、最低限の説明は欠かせません。
資金への影響を見ない
部門別の利益が黒字でも、売掛金、在庫、設備投資、外注先への支払いが重ければ、資金繰りを圧迫します。部門別採算は、資金管理と切り離して考えてはいけません。
まとめ|部門別採算は、会社の収益源を見える化する経営インフラである
部門別採算は、単なる管理会計の資料ではありません。会社のどこで利益が生まれ、どこで利益が失われ、どこに経営資源を使うべきかを判断するための、いわば経営インフラです。
全社利益だけを見ていては、儲かる事業も、不採算の事業も、伸ばすべき取引先も、改善すべき商品も見えてきません。部門別採算を整えることで、売上、限界利益、固定費、直接利益、共通費、資金への影響を、それぞれ分けて考えられるようになります。
ただし、部門別採算は、精密さだけを追い求めればよいというものではありません。中小・中堅企業では、実務として続けられる単位に絞り、月次で確認でき、経営会議で打ち手に変えられる水準に整えること。そこが何より重要だと、私は考えています。
犬飼公認会計士・税理士事務所では、月次決算、変動損益計算、部門別採算、取引先別・商品別・プロジェクト別管理、予実管理、資金繰り管理を、経営判断に使える形へ整えるお手伝いをしています。
「全社では黒字だが、どこで儲かっているのか分からない」 「部門別損益を作ってはいるが、共通費配賦や直接利益の見方に不安がある」 「取引先別・商品別・プロジェクト別の採算を、経営判断に使いたい」 「不採算事業の見直しや成長投資の判断を、数字で整理したい」
こうした課題をお持ちでしたら、お問い合わせページからお気軽にご相談ください。数字を細かくすること自体を目的にするのではなく、貴社の実務体制で無理なく続けられる形で、利益構造を見える化する方法を、一緒に整理してまいります。
振り返り
| 項目 | 確認すべきポイント |
|---|---|
| 部門別採算の目的 | 儲かる事業、改善すべき事業、伸ばすべき取引先を見える化する |
| 管理単位 | 事業別、店舗別、商品別、取引先別、プロジェクト別など、判断目的に応じて決める |
| 全社利益の限界 | 全社合計だけでは、利益の発生源や悪化要因が分からない |
| 限界利益 | 売上から変動費を差し引き、固定費を回収する原資を見る |
| 部門固有費 | その部門に直接紐づき、部門がなくなれば減る可能性がある費用を把握する |
| 直接利益 | 共通費配賦前に、その部門がどれだけ利益を生んでいるかを見る |
| 共通費配賦 | 本社費・管理部門費などを合理的な基準で割り振るが、配賦後利益だけで判断しない |
| 配賦基準 | 売上、人員数、使用面積、工数、取引件数など、費用の性質に応じて選ぶ |
| 取引先別採算 | 売上規模だけでなく、粗利率、回収条件、対応工数、依存度を見る |
| 商品別採算 | 商品構成、粗利率、原価上昇、価格改定余地を確認する |
| プロジェクト別採算 | 見積り、実行予算、実際原価、追加対応、工数超過を確認する |
| 部門間取引 | 内部売上や社内価格を放置せず、ルールを定める |
| 予算管理との接続 | 部門別採算を月次で予実管理し、経営会議で打ち手に変える |
| 撤退判断 | 配賦後赤字だけで判断せず、消える費用、残る費用、失う限界利益を分けて見る |
| 資金への影響 | 利益だけでなく、売掛金、在庫、設備投資、支払条件も確認する |
| 実務運用 | 細かさよりも、毎月続けられ、経営判断に使える設計を重視する |