繰延税金資産の回収可能性と事業計画|将来課税所得・欠損金・タックスプランニングをどう判断するか

繰延税金資産は、決算書の見た目を大きく左右する項目です。

赤字や評価損が出ている局面でも、繰延税金資産を計上すれば、損益計算書上の税金費用は軽くなり、純資産も厚く見えることがあります。反対に、これまで計上していた繰延税金資産を取り崩せば、法人税等調整額が大きく悪化し、当期純利益や自己資本に無視できない影響が及びます。

ただし、繰延税金資産は「将来税金が安くなるかもしれない金額」を何でも資産計上できるものではありません。あくまで、将来の課税所得によって実際に税負担を軽減できると見込まれる範囲でしか計上できないのです。

ここで問われるのが、繰延税金資産の「回収可能性」です。

回収可能性の判断は、単なる会計処理にとどまりません。会社の将来収益力、事業計画の信頼性、税務上の繰越欠損金の期限、固定資産や有価証券の含み益、そして組織再編・M&A・事業承継の予定まで含めた、経営判断そのものといえます。

本記事では、前回の「6-6. 税効果会計の基本と法人税申告との関係」を前提に、繰延税金資産をどこまで計上できるのかを、法人税申告と事業計画の接点から整理していきます。

なお、企業会計基準委員会(ASBJ)の公表資料一覧を確認すると、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」は2018年2月16日公表・2025年10月16日修正、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」は2025年3月11日公表・2026年1月9日修正とされています。実務では、決算日時点で有効な会計基準・税法・地方税率・税制改正を、その都度確認しておく必要があります。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針

目次

繰延税金資産は「税金の前払い」ではなく、将来の税金軽減効果である

繰延税金資産とは、将来の税金負担を軽減する効果が見込まれる場合に計上される資産です。

たとえば、会計上は貸倒引当金や賞与引当金、減損損失、評価損を計上している一方で、税務上はまだ損金算入できない、という場面があります。この場合、当期の法人税申告では加算調整が行われ、課税所得は会計利益より大きくなります。

しかし、その差異が将来の事業年度で税務上損金に認められるのであれば、その時点で課税所得を減らし、税負担を軽減できる可能性が生まれます。この将来の税金軽減効果を、一定の要件のもとで貸借対照表に資産として表示したものが繰延税金資産です。

ASBJの回収可能性適用指針では、繰延税金資産として計上すべき金額を、将来の会計期間における将来減算一時差異の解消、税務上の繰越欠損金との相殺、繰越外国税額控除の余裕額の発生等に係る減額税金の見積額としています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第26号 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針

ここで注意しておきたいのは、繰延税金資産が「将来課税所得があること」を前提とする資産だという点です。

税金を減らすには、そもそも将来の課税所得がなければなりません。赤字が続き法人税が発生しない会社では、将来損金算入できる差異や繰越欠損金があったとしても、税金軽減効果が十分に発揮されないことがあります。

つまり、繰延税金資産の回収可能性を検討するとは、次の問いに一つずつ答えていく作業にほかなりません。

問い実務上の意味
将来、課税所得は発生するか事業計画・予算・収益力の確認
どの年度に一時差異が解消するかスケジューリングの確認
繰越欠損金は期限内に使えるか別表七(一)・欠損金期限の確認
将来加算一時差異と相殺できるか圧縮積立金・特別償却準備金等の確認
含み益資産を売却する計画はあるかタックスプランニングの実現可能性
その計画は説明できるか取締役会資料・稟議・契約・評価資料の確認

繰延税金資産は、単に「税率を掛けて計算する項目」ではありません。会社の将来計画が、会計上の資産性に耐えられるかどうかを検証する項目なのです。

回収可能性を判断する3つの柱

ASBJの回収可能性適用指針では、将来減算一時差異および税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性、すなわち将来の税金負担額を軽減する効果を有するかどうかを、主に次の3つに基づいて判断します。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第26号 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針

判断の柱内容実務で確認する資料
収益力に基づく課税所得将来減算一時差異の解消年度や欠損金の繰越期間に、課税所得が十分に発生するか事業計画、予算、過去の課税所得、月次推移、受注残、資金繰り表
タックスプランニング含み益資産の売却などにより、課税所得を発生させる具体的計画があるか売却方針、取締役会決議、稟議書、契約書、不動産鑑定、有価証券時価
将来加算一時差異将来、課税所得を増やす一時差異が解消し、将来減算一時差異や欠損金と相殺できるか圧縮積立金、特別償却準備金、その他将来加算一時差異の明細

この3つは、どれか一つを形式的に確認すれば足りる、というものではありません。

たとえば、将来黒字化する事業計画があったとしても、その計画が過去実績と大きく乖離していれば、回収可能性の根拠としては弱くなります。含み益のある不動産を売却する方針があっても、売却が決定されていない、売却先がない、売却すれば事業継続に支障が出る、評価額の根拠が乏しい、といった事情があれば、タックスプランニングとして織り込めない可能性があります。

実務では、将来減算一時差異や繰越欠損金の解消年度に十分な課税所得が見込まれるかをまず確認し、そのうえで収益力、タックスプランニング、将来加算一時差異を組み合わせて総合的に判断していきます。

「将来課税所得」と「会計上の利益」は同じではない

繰延税金資産の回収可能性を検討するとき、最も誤解されやすいのが、「事業計画上の利益」と「将来課税所得」の違いです。

回収可能性で見るのは、会計上の営業利益や経常利益そのものではありません。あくまで税務上の課税所得です。

事業計画上は黒字であっても、税務上の所得が十分でないことがあります。反対に、会計上は一時的に赤字でも、税務調整後には課税所得が生じることもあります。

会計上の計画に含まれる項目税務上の課税所得への影響
減価償却費税務上の償却限度額との差異を確認
役員報酬・賞与損金算入要件、事前確定届出給与の有無を確認
貸倒引当金税務上の限度額・貸倒損失の要件を確認
評価損・減損損失税務上損金算入できる時期を確認
交際費・寄附金損金不算入額を反映
受取配当等益金不算入額を反映
税額控除税金費用・控除限度への影響を確認
繰越欠損金控除期限・控除限度を確認

ASBJの適用指針では、「一時差異等加減算前課税所得」を、将来の事業年度における課税所得の見積額から、その事業年度に解消することが見込まれる期末時点の将来加算・将来減算一時差異等を除いた額と定義しています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第26号 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針

そのため、事業計画をそのまま税効果計算に持ち込むのではなく、次のように税務ベースへ組み替える必要があります。

手順内容
1会計上の利益計画を作成する
2税務上の加算・減算項目を反映する
3既存の一時差異の解消額を年度別に反映する
4欠損金控除前の課税所得を見積もる
5繰越欠損金の期限・控除限度を反映する
6税額控除、特別償却、圧縮記帳などの影響を反映する
7繰延税金資産の回収可能額を算定する

経営会議で承認された売上・利益計画があるだけでは足りません。それが税務調整後の課税所得にまで落とし込まれているかどうかが重要になります。

税務上の繰越欠損金は「存在する」だけでは足りない

税務上の繰越欠損金は、繰延税金資産の重要な発生原因になります。

とはいえ、欠損金があるからといって、その全額に税率を掛けて繰延税金資産を計上できるわけではありません。欠損金は、将来の課税所得と相殺できて初めて、税金軽減効果を持つからです。

国税庁は、欠損金の繰越控除を行う法人について、欠損金額が生じた事業年度に青色申告書である確定申告書を提出し、その後の各事業年度についても連続して確定申告書を提出している法人であると説明しています。また、繰越控除される欠損金額は、原則として各事業年度開始の日前10年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額とされています。
出典:国税庁|No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除

さらに、中小法人等以外の法人については、平成30年4月1日以後開始事業年度において、損金算入限度額が繰越控除前所得金額の50%とされています。
出典:国税庁|No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除

実務で確認すべき点を整理すると、次のとおりです。

確認項目判断への影響
欠損金の発生年度繰越期限内に使えるか
青色申告・連続申告の状況欠損金控除の適用要件を満たすか
控除限度将来課税所得の全額と相殺できるとは限らない
組織再編・M&Aの予定欠損金の引継制限・使用制限が生じる可能性
グループ通算制度特定欠損金・非特定欠損金の区分が必要
期限切れ見込み回収可能性を制限する要因になる

特に、赤字会社、債務超過会社、事業撤退を検討している会社、M&Aの対象会社、組織再編を予定している会社では、欠損金の「金額」だけでなく「使える条件」まで確認しなければなりません。

別表七(一)に控除未済欠損金が残っていても、将来課税所得が見込めなければ、繰延税金資産として計上できるとは限らないのです。

スケジューリングとは何をする作業か

スケジューリングとは、将来減算一時差異や繰越欠損金が、いつ、いくら解消・控除されるかを年度別に見積もり、その年度の課税所得と照合する作業です。

たとえば、次のような一時差異がある会社を考えてみます。

項目将来減算一時差異解消見込
賞与引当金否認1,000万円翌期に損金算入見込み
減価償却超過額600万円今後3年間で解消見込み
貸倒引当金否認500万円貸倒時期が不明
減損損失否認2,000万円売却・除却予定なし
繰越欠損金3,000万円繰越期限内の利用可否を検討

この場合、すべてを同じように扱うことはできません。

翌期に支給される賞与引当金は、比較的スケジューリングしやすい項目です。減価償却超過額も、固定資産台帳と税務償却の差異を見れば、解消年度を見積もりやすいことが多いでしょう。

一方、貸倒引当金や減損損失は、いつ税務上損金になるのかが不明確な場合があります。貸倒れの事実、債権放棄、売却、除却、事業撤退といった具体的な事実がなければ、税務上の損金算入時期を見積もれないこともあるのです。

ASBJの適用指針では、スケジューリング不能な将来減算一時差異について、原則として税務上の損金算入時期が明確となった時点で回収可能性を判断し、繰延税金資産を計上するという考え方を示しています。ただし、貸倒引当金等のように損失の発生時期を個別に特定することが実務上困難なものであっても、過去の損金算入実績に将来の合理的な予測を加味した方法等によりスケジューリングが行われている限り、スケジューリング不能な一時差異としては取り扱わないとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第26号 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針

実務上は、スケジューリングを次のように整理していきます。

項目スケジューリングの確認方法
賞与引当金支給予定日、支給対象期間、損金算入年度
未払事業税翌期損金算入見込
減価償却超過額税務償却限度額、耐用年数、償却方法
減損損失売却・除却・用途廃止の予定
棚卸資産評価損廃棄・販売・評価損認容要件
貸倒引当金・貸倒損失回収不能事実、債権管理、法的整理、放棄予定
有価証券評価損売却予定、回復可能性、税務上の損金要件
繰越欠損金控除期限、控除限度、将来課税所得

スケジューリングは、税効果会計の計算表を作るためだけの作業ではありません。会社が将来どの資産を保有し、どの債権を回収し、どの事業を継続し、どの損失をいつ実現させるのかを整理する作業でもあります。

実務でも、解消年度ごとに将来課税所得と将来減算一時差異等の解消額を比較し、回収可能額を計算する方法として、スケジューリングを位置づけています。

企業分類は「会社の収益力のランク付け」ではなく、回収可能性の枠組みである

繰延税金資産の回収可能性では、企業の過去の課税所得、欠損金の発生状況、将来課税所得の見込みなどに応じて、企業を分類します。

これは、会社の良し悪しを単純にランク付けするものではありません。将来課税所得をどの範囲まで見積もり、どこまで繰延税金資産を計上できるかを判断するための枠組みです。

ASBJの適用指針では、収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得等に基づいて繰延税金資産の回収可能性を判断する際、要件に基づいて企業を分類し、その分類に応じて回収が見込まれる繰延税金資産の計上額を決定するとしています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第26号 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針

大まかに整理すると、次のようになります。

分類会社の状態繰延税金資産の考え方
分類1過去3年および当期のすべてで、将来減算一時差異を十分上回る課税所得があり、近い将来に著しい環境変化が見込まれない原則として全額について回収可能性あり
分類2課税所得は安定的に生じているが、期末の将来減算一時差異を下回るスケジューリングの結果に基づき回収可能性を判断
分類3課税所得が大きく増減しているが、重要な税務上の欠損金は生じていない原則としておおむね5年以内など合理的見積可能期間で判断
分類4重要な税務上の欠損金が生じている、または期限切れがある、期限切れが見込まれる原則として翌期の課税所得見積りを中心に限定的に判断。ただし一定の場合は分類2または分類3として扱う余地あり
分類5過去3年および当期のすべてで重要な税務上の欠損金が生じ、翌期も重要な欠損金が見込まれる原則として回収可能性なし

分類1から分類5までの要件や取扱いは、ASBJの適用指針に具体的に示されています。たとえば分類1では、過去3年および当期のすべての事業年度において、期末の将来減算一時差異を十分に上回る課税所得が生じていることなどが要件とされ、原則として繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとされています。分類3では、将来の合理的な見積可能期間はおおむね5年とされますが、企業の状況によってはより短い期間となる場合もあります。分類5では、原則として繰延税金資産の回収可能性はないものとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第26号 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針

実務上のポイントは、分類を「結論ありき」で決めないことです。

繰延税金資産を多く計上したいから分類2にする。赤字は一時的だから分類3でよいと考える。翌期に黒字予算があるから分類4でも大きく計上できると判断する。

こうした姿勢では、金融機関、株主、監査人、買い手企業、後継者に対する説明力が弱くなってしまいます。

分類判断では、次の資料をそろえておく必要があります。

確認資料見るポイント
過去3年および当期の法人税申告書課税所得・欠損金の推移
別表四臨時的な加算・減算の有無
別表五(一)一時差異の残高
別表七(一)繰越欠損金の発生年度・期限
月次試算表直近期の業績推移
予算・事業計画将来課税所得の基礎
取締役会資料・稟議計画の承認状況
過去の計画達成状況予算の信頼性
経営環境資料市場、顧客、価格、原価、人員、資金繰り

企業分類は、単に表に当てはめる作業ではありません。会社の過去・現在・将来を、税務上の課税所得という視点から検証する作業です。

事業計画は「希望」ではなく、課税所得を見積もるための根拠資料である

繰延税金資産の回収可能性で最も重要になるのは、将来課税所得の見積りです。

ASBJの適用指針では、企業分類や繰延税金資産の計上額を見積もる際、合理的な仮定に基づく業績予測によって将来の課税所得または税務上の欠損金を見積もることとしています。具体的には、適切な権限を有する機関の承認を得た業績予測の前提数値を、外部環境や内部情報と整合的に修正したうえで、課税所得または税務上の欠損金を見積もるものとされています。なお、この業績予測は、中長期計画、事業計画、予算編成の一部など、呼称を問いません。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第26号 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針

この点は、経営者にとって非常に重要です。

事業計画は、金融機関提出用、補助金申請用、社内目標管理用、M&A用、税効果会計用と、目的によって性格が異なることがあります。しかし、税効果会計で用いる事業計画は、少なくとも次の要件を満たしている必要があります。

要件確認すべき内容
承認されている取締役会、経営会議、代表者承認など、適切な権限者の承認があるか
過去実績と整合している過去の売上成長率、利益率、固定費水準と大きく乖離していないか
外部環境を反映している市場縮小、価格改定、原材料高、人件費増、金利上昇などを反映しているか
内部情報と整合している受注残、顧客別売上、採用計画、設備能力、資金繰りと整合しているか
税務調整が反映されている会計利益ではなく課税所得に変換されているか
過年度の達成状況を踏まえている過去に計画未達が続いていないか
一時的要因を除外している資産売却益、補助金、保険金など一過性利益をどう扱うか整理されているか

「来期は黒字化する予定です」というだけでは、繰延税金資産の計上根拠として弱いといわざるを得ません。

なぜ売上が増えるのか。粗利率は改善するのか。人件費・外注費・広告費・減価償却費はどう動くのか。設備投資や借入返済は資金繰りに耐えられるのか。税務上の加算・減算を経てもなお課税所得が残るのか。

ここまで落とし込んで、はじめて回収可能性の判断に使える事業計画になります。

タックスプランニングを織り込むときの注意点

繰延税金資産の回収可能性では、将来の収益力だけでなく、タックスプランニングを考慮することがあります。

ここでいうタックスプランニングとは、単なる節税策のことではありません。含み益のある固定資産や有価証券の売却などによって、将来課税所得を発生させる具体的な計画を指します。

ASBJの適用指針では、タックスプランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額により回収可能性を判断する場合、資産の含み益等の実現可能性を考慮するとしています。具体的には、資産の売却等に係る意思決定の有無、実行可能性、売却される資産の含み益等に係る金額の妥当性を考慮するものとされています。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第26号 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針

実務上は、次のような資料が必要になります。

タックスプランニングの内容必要資料
不動産売却売却方針、取締役会決議、査定書、不動産鑑定評価、売却候補先、売却時期
有価証券売却時価資料、売却方針、流動性、売却制限の有無
事業譲渡基本合意、譲渡対象資産、想定譲渡益、税務処理
遊休資産売却固定資産台帳、現況資料、売却計画、評価資料
グループ内再編事業目的、適格要件、時価評価、欠損金制限、税効果への影響

ここで注意しておきたいのは、税金を減らすために無理に含み益を実現する計画が、経営判断として合理的かどうかを、別途検討すべきだという点です。

含み益のある不動産を売却すれば、たしかに課税所得は発生するかもしれません。しかし、その不動産が本社、工場、物流拠点、担保資産である場合、売却によって事業継続や資金調達に支障が生じることがあります。タックスプランニングは、税効果会計のためだけに作るものではなく、事業計画・資金計画・資本政策と整合していなければならないのです。

繰延税金資産の取崩しは、経営上の重要サインである

繰延税金資産は、毎期の見直しが欠かせません。

ASBJの適用指針では、繰延税金資産から控除すべき金額を毎期見直し、回収可能性を判断した結果、将来の税金負担額を軽減する効果を有さなくなったと判断された場合には、計上していた繰延税金資産のうち回収可能性がない金額を取り崩すこととしています。反対に、過年度に控除した金額を見直し、回収が見込まれることとなった場合には、回収が見込まれる金額を繰延税金資産として計上します。
出典:企業会計基準委員会|企業会計基準適用指針第26号 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針

繰延税金資産の取崩しは、単なる会計上の調整ではありません。将来課税所得の見込みが弱くなったこと、事業計画の達成可能性が低下したこと、欠損金の利用可能性が下がったことを示すサインでもあります。

取崩しが必要になりやすい場面背景
赤字転落将来課税所得の見積りが弱くなる
事業計画の下方修正回収可能期間内の課税所得が不足する
主要取引先の喪失売上・利益計画の前提が崩れる
固定資産の減損将来収益力の低下を示す可能性
事業撤退・店舗閉鎖将来所得と一時差異の解消時期が変わる
欠損金の期限切れ接近欠損金を使い切れない可能性
M&A・再編の予定変更欠損金制限や資産売却計画が変わる
資金繰り悪化タックスプランニングの実行可能性が下がる

特に金融機関対応では、繰延税金資産を含む純資産の質を問われることがあります。

自己資本が厚く見えていても、その一部が繰延税金資産であり、将来課税所得の見込みが不安定であれば、実質的な財務健全性について説明が求められます。M&Aの買収側も、対象会社の繰延税金資産について、将来使える資産なのか、買収後に取り崩しが必要になるのかを確認してきます。

「黒字会社」でも回収可能性の検討は必要

黒字会社であれば繰延税金資産を問題なく計上できる、という理解は危険です。

黒字といっても、その中身にはいくつもの種類があります。

黒字の内容回収可能性判断での注意点
本業の継続的利益回収可能性の根拠になりやすい
一時的な資産売却益継続的課税所得とは区別が必要
補助金・保険金収入再発可能性を慎重に判断
役員報酬を抑えた黒字将来の報酬改定で課税所得が減る可能性
過年度費用の戻入れ将来継続しない利益である可能性
関係会社支援の未反映将来損失や寄附金リスクを考慮すべき場合

回収可能性で重要になるのは、将来減算一時差異や欠損金の解消年度に、十分な課税所得があるかどうかです。過去に黒字であっても、その黒字が一過性のものであれば、将来の回収可能性を支える根拠としては弱くなります。

また、会計上の黒字と税務上の課税所得が大きく異なる会社では、黒字決算だけを見て判断することはできません。別表四、別表五(一)、別表七(一)を確認し、税務上の実力値を把握しておく必要があります。

中小企業・非上場会社でも無関係ではない

中小企業や非上場会社では、税効果会計を正式に適用していないケースもあります。監査対象でない会社では、繰延税金資産を決算書に計上していない場合もあるでしょう。

しかし、回収可能性の考え方そのものは、中小企業にとっても重要です。

なぜなら、回収可能性の検討で扱う論点は、将来の法人税負担そのものだからです。

場面回収可能性の考え方が必要な理由
赤字から黒字化する局面欠損金をいつ使えるかで納税資金が変わる
金融機関に事業計画を提出する場面税引後利益・納税資金・純資産を説明する必要がある
M&Aの売却準備繰越欠損金・税務調整・含み損益が買い手の確認対象になる
事業承継純資産、株価、将来税負担に影響する
組織再編欠損金制限、資産の簿価差異、税効果への影響が生じる
債務超過・再生局面債務免除益、期限切れ欠損金、将来課税所得の見通しが必要
設備投資・特別償却将来の償却費・税額控除・課税所得への影響を確認する必要がある

税効果会計を適用していない会社であっても、「将来課税所得はいくら見込めるか」「欠損金は何年で使えるか」「税務上否認された損失はいつ損金になるか」を把握しておくことは、資金繰り・投資判断・金融機関説明に直結します。

グループ通算制度を適用している場合の注意点

グループ通算制度を適用している会社では、繰延税金資産の回収可能性がさらに複雑になります。

グループ通算制度では、100%資本関係にある企業グループ内で、損益通算や欠損金の通算が行われます。ただし、各法人が個別に申告する制度であり、地方税はグループ通算制度の対象外です。この制度では個別申告方式が採られ、損益通算、欠損金の通算、遮断措置、開始・加入時の時価評価や欠損金取扱いの見直しといった点が特徴とされています。

税効果会計上は、法人税・地方法人税について、通算グループ全体の課税所得を考慮して回収可能性を判断する場面があります。一方で、住民税・事業税については、グループ通算制度の対象外であるため、単体の課税所得を基礎に判断する必要があります。

税目回収可能性の見方
法人税・地方法人税通算グループ全体の課税所得を考慮する場面がある
住民税グループ通算制度の影響を調整しつつ、原則として通算会社ごとに判断
事業税通算会社ごとに判断
特定欠損金自社所得との関係も重要
非特定欠損金通算グループ全体の所得との関係が重要

実務上、グループ通算制度を適用する場合には、通算会社ごとに一時差異等を抽出し、法人税・地方法人税、住民税、事業税を区分して回収可能性を判断する必要があります。

この論点は、7-8「グループ通算制度と税効果会計・事業計画」で詳しく扱いますが、単体法人の感覚のまま繰延税金資産を計算すると、法人税部分と地方税部分の判断を誤る可能性があります。

回収可能性を検討する実務手順

繰延税金資産の回収可能性は、次の順序で確認していくと整理しやすくなります。

手順確認内容主な資料
1一時差異等を網羅する別表四、別表五(一)、固定資産台帳、引当金明細
2将来減算一時差異・将来加算一時差異に区分する税務調整表、税効果計算表
3スケジューリング可能か判断する解消予定、売却予定、支給予定、償却予定
4税務上の繰越欠損金を確認する別表七(一)、欠損金期限一覧
5企業分類を検討する過去3年・当期の課税所得、欠損金発生状況
6将来課税所得を見積もる事業計画、予算、月次資料、受注残
7タックスプランニングを検討する売却計画、評価資料、決議・稟議
8回収可能額を算定する税効果計算資料
9取崩し・追加計上を検討する前期税効果資料、当期見直し資料
10経営者・金融機関・株主への説明資料を整える決算説明資料、会計方針メモ、判断記録

この手順の中で最も重要なのは、事業計画と税務調整をつなげることです。

売上・利益の計画だけでなく、次のような項目まで具体化しなければ、将来課税所得の見積りとしては不十分です。

事業計画で確認すべき項目税効果会計への影響
売上計画課税所得の基礎
粗利率収益力の安定性
人件費・役員報酬損金算入、利益水準
賞与・退職給付一時差異の解消
設備投資減価償却、一時差異、税額控除
借入返済・利息資金繰り、支払利息
不採算事業の撤退減損、除却、損失実現
資産売却タックスプランニング
組織再編・M&A欠損金制限、時価評価、税効果の見直し
グループ取引寄附金、移転価格、通算影響

よくある誤り

1. 欠損金に税率を掛けて、そのまま繰延税金資産にする

繰越欠損金は、将来の課税所得と相殺できる範囲でしか税金軽減効果を持ちません。期限内に使えるか、控除限度にかからないか、組織再編やM&Aで制限されないかを確認する必要があります。

2. 事業計画が税務ベースになっていない

会計上の営業利益や経常利益だけでは、将来課税所得の見積りとして不十分です。役員給与、交際費、寄附金、評価損、減価償却、受取配当等、欠損金控除などを反映しなければなりません。

3. スケジューリング不能な差異を安易に計上する

貸倒引当金、減損損失、評価損などは、税務上いつ損金になるのかが明確でないことがあります。過去実績や合理的な予測でスケジューリングできるかどうかを、個別に検討すべきです。

4. 事業計画が希望的観測になっている

過去に予算未達が続いているにもかかわらず、急激な売上増加や利益率改善を前提にする場合には、根拠の説明が欠かせません。金融機関向けの楽観的な計画を、そのまま税効果会計に持ち込むのは危険です。

5. タックスプランニングの実行可能性を確認していない

不動産や有価証券を売却する計画を織り込む場合には、売却の意思決定、実行可能性、評価額の妥当性が必要です。単に「売れば含み益がある」というだけでは足りません。

6. 繰延税金資産の取崩しを先送りする

業績悪化や計画未達が生じているにもかかわらず、前期と同じ前提で繰延税金資産を維持してしまうと、将来まとめて大きな取崩しが必要になる可能性があります。

7. 税効果会計と資金繰りを混同する

繰延税金資産を計上したからといって、現金が入ってくるわけではありません。法人税等調整額が改善しても、納税資金や借入返済資金とは別に管理しておく必要があります。

経営者が確認すべき問い

繰延税金資産の回収可能性について、経営者は次の問いに答えられる状態にしておきたいところです。

問い確認すべき資料
当社の繰延税金資産は、何に基づいて計上されているか税効果計算表、一時差異明細
繰越欠損金はいくらあり、いつ期限切れになるか別表七(一)、欠損金管理表
将来課税所得は、どの事業計画をもとに見積もっているか事業計画、予算、取締役会資料
その計画は過去実績と整合しているか過去の予実比較、月次推移
税務上の加算・減算は計画に反映されているか別表四、税務調整見込表
どの一時差異がいつ解消するかスケジューリング表
回収可能性がないとして控除した金額はいくらか評価性引当額の明細
来期に取崩しリスクはあるか最新予算、受注状況、資金繰り表
金融機関・株主へ説明できるか決算説明資料
M&A・承継・再編への影響はあるか資本政策資料、組織再編計画、株価資料

この確認ができていない場合、繰延税金資産は「決算書に載っているが、経営者が説明できない資産」になってしまいます。

専門家に相談すべきタイミング

次のような場面では、繰延税金資産の回収可能性を専門家とともに確認することをお勧めします。

相談すべき場面理由
赤字・欠損金が発生した欠損金の利用可能性と繰延税金資産の計上可否が問題になる
繰延税金資産が純資産に大きく影響している金融機関説明・財務健全性に影響する
事業計画を下方修正した回収可能性の見直しが必要になる可能性
減損損失・評価損・貸倒損失を計上した税務上の損金算入時期とスケジューリングが問題になる
M&A・組織再編を検討している欠損金制限、時価評価、税効果の見直しが必要
グループ通算制度を適用している法人税・地方法人税と住民税・事業税で判断が異なる
債務超過・再生局面にある債務免除益、期限切れ欠損金、将来課税所得の見通しが必要
事業承継を検討している純資産、株価、将来税負担に影響する
金融機関から決算説明を求められている繰延税金資産の性質を説明する必要がある

繰延税金資産の回収可能性は、会計基準、法人税申告書、事業計画、資金繰り、M&A・承継・再編を横断する論点です。

「会計担当者が計算しているから大丈夫」「前年と同じ処理だから問題ない」と受け止めるのではなく、経営判断として確認すべき項目だといえます。

犬飼公認会計士・税理士事務所へのご相談について

繰延税金資産の回収可能性は、会計上の計算結果を確認するだけでは判断できません。

別表四・別表五(一)・別表七(一)に残る税務調整、将来減算一時差異の解消時期、繰越欠損金の期限、事業計画の合理性、金融機関説明、そしてM&A・組織再編・事業承継への影響まで、一つの流れとしてつなげて検討する必要があります。

犬飼公認会計士・税理士事務所では、法人税申告書の作成にとどまらず、繰延税金資産の回収可能性、将来課税所得の見積り、事業計画と税務調整の整合性、欠損金の利用可能性、金融機関・株主への説明資料まで含めて整理いたします。

繰延税金資産の計上額に不安がある、赤字・欠損金が発生している、事業計画を税務上の課税所得に落とし込めていない、あるいはM&A・承継・再編の前に税務上の差異を整理しておきたい。そうした場合は、犬飼公認会計士・税理士事務所のお問い合わせページからお気軽にご相談ください。

重要ポイントの振り返り

項目重要ポイント
繰延税金資産の性質将来の税金負担を軽減する効果が見込まれる場合に計上する資産
回収可能性将来税金を減らせるかどうかを検討する判断
判断の3要素収益力に基づく課税所得、タックスプランニング、将来加算一時差異
将来課税所得会計上の利益ではなく、税務調整後の課税所得を見積もる
繰越欠損金存在するだけでは足りず、期限内・控除限度内で使えるかが重要
スケジューリング一時差異や欠損金が、いつ、いくら解消・控除されるかを年度別に見積もる作業
企業分類過去課税所得、欠損金発生状況、将来見込みに応じて計上可能額を判断する枠組み
事業計画希望的な売上目標ではなく、課税所得を合理的に見積もるための根拠資料
タックスプランニング含み益資産の売却等は、意思決定・実行可能性・金額の妥当性が必要
毎期見直し業績悪化や計画変更があれば、繰延税金資産の取崩しが必要になることがある
経営上の影響利益、純資産、金融機関説明、M&A、承継、組織再編に影響する
相談すべき場面赤字、欠損金、評価損、減損、M&A、再編、承継、グループ通算、金融機関説明

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次